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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1056278
審判番号 不服2000-3472  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-01-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-03-13 
確定日 2002-04-04 
事件の表示 平成 9年特許願第156984号「生体内部活動部位推定装置」拒絶査定に対する審判事件[平成11年 1月 6日出願公開、特開平11- 319]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成9年6月13日に出願されたものであって、その請求項1に係る発明は(以下、本願発明という)、明細書及び図面の記載から次にあるものと認める。
なお、本願については、平成12年3月13日付けの手続補正がされたが、平成14年1月29日付けの補正の却下の決定により却下された。
また、請求項1には、「闘値」と記載されているが、段落56,85、符号の説明32,202、321に「閾値」と記載されているので、「闘値」は「閾値」の誤記と認め、本願の請求項1に係る発明を下記のように認定した。
「【請求項1】生体表面上で観測された電磁場分布に基づいて、生体内部の活動源を推定する生体内部活動部位推定装置において、生体モデルデータと分布型双極子位置方向データと観測位置データとが入力され、入力されたデータに基づいて順問題マトリクスを計算し出力する順問題マトリクス変換手段と、電磁場分布測定データと前記順問題マトリクスと入力され、前記電磁場分布測定データと前記順問題マトリクスとに基づいて、結合係数と閾値とを計算する結合係数・閾値計算手段と、複数のユニット間の結合状態を示す結合係数とユニットの閾値とを具備するニューラルネットワークを用いて分布型双極子の大きさを推定するニューラルネットワーク手段と、該ニューラルネットワーク手段から出力されたユニット出力値を推定結果に変換しその結果を出力する推定結果出力手段とを有し、前記ニューラルネットワーク手段は、各ユニット間の結合状態を示す結合係数を記憶する結合係数記憶手段と、各ユニットの閾値を記憶する閾値記憶手段と、各ユニットの出力値を記憶するユニット出力記憶手段と、変更対象となるユニットを選択し、前記結合係数記憶部から出力される結合係数と前記ユニット出力記憶部から出力される各ユニットの出力値とが入力され、ユニット出力値を計算して出力値を更新し、前記結合係数と前記ユニット出力値とからネットワークエネルギーを計算するユニット出力更新手段とを有し、前記ネットワークエネルギーの減少率が予め設定された値よりも小さくなった時点で、ユニットの出力値を推定結果とすることを特徴とする生体内部活動部位推定装置。」

2.刊行物記載の発明
原査定の拒絶理由に引用された特開平3-280934号公報(以下、刊行物Aという。)には、以下の点が記載されている。
(a)
「本発明によれば、例えば脳磁場分布から簡単に計算される結合係数をホップフィールド型の神経回路網のニューロンに設定することにより、神経回路網の自発的なエネルギー関数の短期間の変化から、ニューロンの状態と磁場発生源の分布推定とを対応付けることが可能となる。」(第2頁左下欄第20行-右下欄第5行)
(b)
「ホップフィールド回路においては、相互結合型神経回路網の計算原理が最適化問題を解くための1手法となることが知られており、本発明の基本原理もこれに基づいている。
すなわち、神経回路網の回路系全体の特性を表わすエネルギー関数に着目すると、各ニューロンは、上記エネルギー関数を常に最小化するようにそれぞれの状態を自発的に変化させるという性質を備えている。」(第2頁右下欄第16行-第3頁左上欄第4行)
(c)
「 脳内の電流双極子n個の分布をベクトルQ、測定点m個の磁場分布をベクトルBで表すと、ビオーサヴァールの式を離散化することにより、
WQ=B ・・・(1)
と表される。ここで、Wは測定点と電流双極子の位置とで決まる定数(関数の配列)である。電流双極子分布の推定をQ’とすると、Q’から得られる推定磁場分布B’はWQ’となる。従って、測定磁場と推定磁場の差の自乗を目的関数Eに選ぶと、Eは、
E=1/2・‖B-B’ ‖2=1/2・‖B-WQ‖2 ・・・(2)
=1/2・WWTQQT-BWQ+1/2・BBT ・・・(3)
となる。ここで、BBTは推定の方法と無関係な値となるため、これを省略すると、
E=1/2・WWTQQT-BWQ ・・・(4)
となる。尚、Tは転置行列を示す。
神経回路網のエネルギー形式は、ニューロンの状態をVi、シナプス荷重をTij、ニューロンのバイアス信号をIiとすると、
E=-1/2・ΣTijViVj-ΣIiVi ・・・(5)
で表される。
上記式(4)と式(5)とを比較すると、電流双極子分布をニューロン分布に対応させれば良いことがわかる。つまり、電流双極子が存在する可能性のある空間の各座標点に電流双極子を位置付け、ニューロンの発火の有無を電流双極子の有無に対応させ、電流双極子の方向を表すために各次元成分にそれぞれニューロンを割り当てる。また、電流双極子の大きさは興奮しているニューロンの数で表す。
ニューロンの状態変数Viが興奮の度合いに応じて0〜1の値をとるものとし、時刻tにおけるi番目のニューロンへの入力をUi(t)とすると、次の関係が成り立つ。
dUi(t)/dt=ΣTijVj+Ii ・・・(6)
また、上記入力に対応してi番目のニューロンがとる状態Vi(t)は、
Vi(t)=g[Ui(t)] ・・・(7)
となる。ここで、gはシグモイド関数である。」(第3頁左上欄第11行-右下欄第1行)
(d)
「以上のことから、次の関係式が得られる。
Tij=-ΣWkiWkj ・・・(9)
Tii=-ΣWki2+4Aa ・・・(10)
Ii =ΣBkWki-2Aa ・・・(11)
従って、式(9)〜式(11)によってニューロンの結合係数を設定し、式(6)、(7)によってニューロンの状態を変化させ、式(8)のエネルギー関数が極小となるニューロン状態を求めることにより、電流双極子分布が推定できる。」(第3頁右下欄第11行-第4頁左上欄第6行)
(e)
「第1図は本発明方法を実施するためのシステムの一例を示す。40はダイポールの存在可能空間の格子点と対応する複数のニューロン41からなるニューロン回路部であり、各ニューロン41は式(7)で示すシグモイド特性を備えた増幅器で作られる。上記ニューロン41の結合係数は、結合マトリックス42で生成される。磁界計測装置43の出力B1〜Bnはデータ保持装置44に読み込まれ、これらの入力データをバイアス信号決定回路45で処理することによってニューロンバイアス信号Iの値が決定される。
上記装置の各部はタイミング制御器46から出力されるタイミング信号Tおよびリセット信号Riによって制御される。先ず、リセット信号Riによってn個のニューロン41の状態を特定の値にリセットする。次にタイミング信号T1でデータ保持装置44に磁界計測装置43からの観測信号をセットする。これによって各ニューロンのバイアス信号I1〜Inと結合係数が確定し、ニューロンは自発的にエネルギーを最小化していく。各ニューロンの出力V1〜Vnは、結合マトリクス42と出力装置47に導かれている。各ニューロンのエネルギーが充分に減小した時点でタイミング信号T2を出力し、各ニューロンの出力を出力装置47へ取り出す。これにより、磁界計測パターンに対応する発生源の分布が得られる。
第2図は結合マトリックス42の構成の1例を示す。V1〜Vnはニューロン41の出力フィードバックであり、信号I1〜Inはバイアス信号決定回路の出力である。これらの信号(ViとIi)はマトリックスを形成し、各格子点は抵抗で結合されている。例えば、IiとVjの格子点は、抵抗値Tijをもった抵抗で結合されている。各格子点の結合抵抗値は式(9)、(10)に対応する。」(第4頁右上欄第2行-左下欄第15行)
(f)
「次に、第4図〜第7図を参照して、前述のホップフィールド型神経回路網を用いた本発明による磁場推定の効果を、簡単な例題に対する計算機シミュレーション結果により説明する。・・・(中略)・・・
第6図は、神経回路網にトラップされるエネルギーの値Eと、該エネルギーを最小化するために繰り返される計算(学習)回数Nとの関係を示す。この例では、N=4でエネルギーがほぼ最小値に達し、その後は繰り返し回数が増えてもエネルギーの変化は少ないことが判る。」(第4頁右下欄第6行-第5頁左上欄第18行)

3.対比・判断
刊行物Aに記載された発明は、
上記(a)の「脳磁場分布から・・・磁場発生源の分布推定とを対応付ける」という記載から、本願発明の「生体表面上で観測された電磁場分布に基づいて、生体内部の活動源を推定する生体内部活動部位推定装置」に相当する。

上記(c)の「ビオーサヴァールの式」は、透磁率を含む式であるので、本願発明の「生体モデルデータ」を含んでいる(本願明細書段落番号32参照)。

上記(c)の「脳内の電流双極子n個の分布をベクトルQ」は、本願発明の、脳内に仮定した双極子において固定する位置や方向を表している「分布型双極子位置方向データ」に相当する(本願明細書段落番号33参照)。

上記(c)の「測定点m個の磁場分布をベクトルBで表す」の記載から、磁場分布ベクトルBは、本願発明の「観測位置データ」を含んでいる。

上記(c)の「脳内の電流双極子n個の分布をベクトルQ、測定点m個の磁場分布をベクトルBで表すと、ビオーサヴァールの式を離散化することにより、WQ=B ・・・(1)と表される」の「W」は、関数の配列であるので、本願発明の「順問題マトリクス」に相当する。

上記(c)のシナプス荷重Tijと、ニューロンのバイアス信号Iiは、上記(d)に記載されているように、Wと測定磁場B等のデータから導かれており、本願発明の結合係数と閾値に相当する。

上記(c)のニューロンの状態Viは、電流双極子と対応したニューロンがとる状態変数であり、本願発明のユニット出力値に相当する。

よって、本願発明と、刊行物Aに記載された発明は、以下の構成で一致している。
「生体表面上で観測された電磁場分布に基づいて、生体内部の活動源を推定する生体内部活動部位推定装置において、

生体モデルデータと分布型双極子位置方向データと観測位置データとが入力され、入力されたデータに基づいて順問題マトリクスを求める順問題マトリクス変換手段と、

電磁場分布測定データと前記順問題マトリクス変換手段と入力され、前記電磁場分布測定データと前記順問題マトリクスとに基づいて結合係数と閾値とを求める結合係数・閾値計算手段と、

複数のユニット間の結合状態を示す結合係数とユニットの閾値とを具備するニューラルネットワークを用いて分布型双極子の大きさを推定手段するニューラルネットワーク手段と、
該ニューラルネットワーク手段から出力されたユニット出力値を推定結果に変換しその結果を出力する推定結果出力手段とを有し、

前記ネットワークエネルギーが小さくなった時点で、ユニットの出力値を推定結果とすることを特徴とする生体内部活動部位推定装置。」

一方、本願発明の、ニューラルネットワーク手段は、
「各ユニット間の結合状態を示す結合係数を記憶する結合係数記憶手段と、各ユニットの閾値を記憶する閾値記憶手段と、各ユニットの出力値を記憶するユニット出力記憶手段と、変更対象となるユニットを選択し、前記結合係数記憶部から出力される結合係数と前記ユニット出力記憶部から出力される各ユニットの出力値とが入力され、ユニット出力値を計算して出力値を更新し、前記結合係数と前記ユニット出力値とからネットワークエネルギーを計算するユニット出力更新手段とを有し」ており、
「ネットワークエネルギーの減少率が予め設定された値よりも小さくなった時点でユニットの出力値を推定結果と」しているのに対し、

刊行物Aに記載された発明のニューラルネットワーク手段は、上記(e)のとおりであり、抵抗や増幅器等からなる回路により構成され、ニューロンの出力V1〜Vnは結合マトリクスに導かれフィードバックされ、そして、この回路構成により、ニューロンは自発的にエネルギーを最小化しており、エネルギーが充分に減小した時点で各ニューロンの出力を出力装置に取り出している。
つまり、以下の点で本願発明と刊行物Aに記載された発明は相違している。
(相違点1)
ニューラルネットワークを、
本願発明では、記憶手段と計算手段からなる計算処理手段で構成しているのに対し、
刊行物A記載の発明では、抵抗や増幅器等からなるフィードバック回路で構成している点。
(相違点2)
結果出力時点を、
本願発明は、エネルギーの減少率が予め設定された値よりも小さくなった時点で認識し、
刊行物A記載の発明では、エネルギーが充分に減小する時間(タイミング)で認識している点。

以下、相違点1,2について検討する。
刊行物Aには、ニューラルネットワークの信号処理を計算機上で行った場合についても上記(f)のように言及されており、抵抗や増幅器等の回路による信号処理を、計算機上での計算処理手段で行うことは、周知の技術事項である。
そして、相違点2に係る構成についても「第6図は、神経回路網にトラップされるエネルギーの値Eと、該エネルギーを最小化するために繰り返される計算(学習)回数Nとの関係を示す。この例では、N=4でエネルギーがほぼ最小値に達し、その後は繰り返し回数が増えてもエネルギーの変化は少ないことが判る。」(上記f参照)と記載されているように、エネルギーの変化の少ないことがエネルギーが最小化したことの判断に関わることも示唆されている。
よって、刊行物Aに記載された発明の、ニューラルネットワークを構成する回路を計算処理手段に置き換え、結果出力時点をエネルギーの減少率で決めるようにし、本願発明と同じ構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

4.むすび
したがって、本願発明は、刊行物Aに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項について検討するまでもなく、この出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-01-29 
結審通知日 2002-02-05 
審決日 2002-02-18 
出願番号 特願平9-156984
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 服部 秀男米澤 英彦  
特許庁審判長 渡部 利行
特許庁審判官 森 竜介
関根 洋之
発明の名称 生体内部活動部位推定装置  
代理人 京本 直樹  
代理人 福田 修一  
代理人 河合 信明  

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