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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F04B
管理番号 1056470
異議申立番号 異議2001-70933  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-11-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-21 
確定日 2001-11-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3094732号「往復動型圧縮機」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3094732号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由
I.手続の経緯
特許第3094732号の請求項1に係る発明は、平成5年4月30日に特許出願され、平成12年8月4日にその特許権の設定登録がなされ、その後、カルソニックカンセイ株式会社(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年8月10日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否についての判断

1.訂正の内容
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の記載について、
「【請求項1】複数のボアを並設したシリンダブロックと、該各ボアに対応した吸入口及び吐出口を有する弁板を挟んで、上記シリンダブロックの外端を閉塞するシリンダヘッドとを備え、上記各ボアに挿嵌されたピストンが所定の位相差をもって往復動する形式の圧縮機において、上記シリンダヘッド内の中央域には吐出室、その外周域には吸入室が画設され、冷凍回路に接続される吸入フランジはその吸入孔が吸入室内の径方向に懸隔する少なくとも二つの領域に延在されており、該吸入孔は導孔を介して上記吸入室内の複数領域と直接連通せしめられていることを特徴とする往復動型圧縮機。」
とあるのを、
「【請求項1】複数のボアを並設したシリンダブロックと、該各ボアに対応した吸入口及び吐出口を有する弁板を挟んで、上記シリンダブロックの外端を閉塞するシリンダヘッドとを備え、上記各ボアに挿嵌されたピストンが所定の位相差をもって往復動する形式の圧縮機において、上記シリンダヘッド内の中央域には吐出室、その外周域には吸入室が画設され、冷凍回路に接続される吸入フランジはその吸入孔が吸入室内の径方向に懸隔する少なくとも二つの領域に直状に延在されており、該吸入孔は導孔を介して上記吸入室内の複数領域と直接連通せしめられていることを特徴とする往復動型圧縮機。」
と訂正する。
(2)訂正事項b
明細書の段落【0003】の記載について、
「【0003】
したがって、圧縮機が駆動されると、蒸発器に接続された回路配管から吸入孔13を通って吸入室9に導かれた冷媒ガスは、各吸入口3を経て順次吸入過程にあるボア2に吸入され、圧縮された冷媒ガスは各吐出口4から順次吐出室8に吐出されて、吐出孔11を経由凝縮器に接続された回路配管へと送出される。」
とあるのを、
「【0003】
したがって、圧縮機が駆動されると、蒸発器に接続された回路配管から吸入孔13を通って吸入室9に導かれた冷媒ガスは、各吸入口3を経て順次吸入過程にあるボア2に吸入され、圧縮された冷媒ガスは各吐出口4から順次吐出室8に吐出されて、吐出孔11を経由して凝縮器に接続された回路配管へと送出される。」
と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書の段落【0004】の記載について、
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、図4に明示されているごとく、一般に吸入室の形状は設計上の制約などから複雑なものとなることが多く、吸入室に開口する吸入孔の近傍位置と、同開口から最も離隔した位置とでは、ガス流れに伴う圧力損失により意外に大きな圧力差が生じ、例えば3000r.p.mの回転数において、その値は0.5〜1kg/cm2にも達する。このため、吸入孔開口部から遠隔した吸入口と対応するボアほど常に希薄な冷媒ガスを吸入することとなり、体積効率の低下ばかりでなく、これら不均一な吸入が吸入脈動に起因する関連機器の振動や騒音を増幅させる。」
とあるのを、
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、図4に明示されているごとく、一般に吸入室の形状は設計上の制約などから複雑なものとなることが多く、吸入室に開口する吸入孔の近傍位置と、同開口から最も離隔した位置とでは、ガス流れに伴う圧力損失により意外に大きな圧力差が生じ、例えば3000r.p.m.の回転数において、その値は0.5〜1kg/cm2にも達する。このため、吸入孔開口部から遠隔した吸入口と対応するボアほど常に希薄な冷媒ガスを吸入することとなり、体積効率の低下ばかりでなく、これら不均一な吸入が吸入脈動に起因する関連機器の振動や騒音を増幅させる。」
と訂正する。
(4)訂正事項d
明細書の段落【0006】の記載について、
「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題解決のため、複数のボアを並設したシリンダブロックと、該各ボアに対応した吸入口及び吐出口を有する弁板を挟んで、上記シリンダブロックの外端を閉塞するシリンダヘッドとを備え、上記各ボアに挿嵌されたピストンが所定の位相差をもって往復動する形式の圧縮機おいて、上記シリンダヘッド内の中央域には吐出室、その外周域には吸入室が画設され、冷凍回路に接続される吸入フランジはその吸入孔が吸入室内の径方向に懸隔する少なくとも二つの領域に延在されており、該吸入孔は導孔を介して上記吸入室内の複数領域と直接連通されてなる新規な構成を採用している。」
とあるのを、
「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題解決のため、複数のボアを並設したシリンダブロックと、該各ボアに対応した吸入口及び吐出口を有する弁板を挟んで、上記シリンダブロックの外端を閉塞するシリンダヘッドとを備え、上記各ボアに挿嵌されたピストンが所定の位相差をもって往復動する形式の圧縮機において、上記シリンダヘッド内の中央域には吐出室、その外周域には吸入室が画設され、冷凍回路に接続される吸入フランジはその吸入孔が吸入室内の径方向に懸隔する少なくとも二つの領域に直状に延在されており、該吸入孔は導孔を介して上記吸入室内の複数領域と直接連通されてなる新規な構成を採用している。」
と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書の段落【0008】の記載について、
「【0008】
【作用】圧縮機が駆動されると、順次吸入行程へと移行する各ボアには、対応する吸入口及び該吸入口からから至近位置に開口されている導孔を介して冷媒ガスが円滑に吸入され、吸入室内の流路抵抗に基づく圧力損失は合理的に低減されるので、各ボア間に生じていた吸入冷媒ガスの圧力格差は良好に均斉化される。」
とあるのを、
「【0008】
【作用】圧縮機が駆動されると、順次吸入行程へと移行する各ボアには、対応する吸入口及び該吸入口から至近位置に開口されている導孔を介して冷媒ガスが円滑に吸入され、吸入室内の流路抵抗に基づく圧力損失は合理的に低減されるので、各ボア間に生じていた吸入冷媒ガスの圧力格差は良好に均斉化される。」
と訂正する。
(6)訂正事項f
明細書の【図1】の記載について、
「【図1】本発明の実施例に係る圧縮機のリヤハウジングを示す断面側面図。」
とあるのを、
「【図1】本発明の実施例に係る圧縮機のシリンダヘッドを示す断面側面図。」
と訂正する。
(7)訂正事項g
明細書の【図4】の記載について、
「【図4】従来圧縮機のリヤハウジングを示す断面側面図。」
とあるのを、
「【図4】従来圧縮機のシリンダヘッドを示す断面側面図。」
と訂正する。
(8)訂正事項h
明細書の【図5】の記載について、
「【図5】従来圧縮機のリヤハウジングを示す断面正面図。」
とあるのを、
「【図5】従来圧縮機のシリンダヘッドを示す断面正面図。」
と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、吸入孔の形状を限定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、上記訂正事項b、c、e〜hは明細書の誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当し、また、上記訂正事項dは上記訂正事項aと整合を図るためのもの及び明細書の誤記を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正及び明細書の誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当するものと認める。
そして、願書に添付した明細書の段落【0009】には「【0009】【実施例】以下、図1〜図3に基づいて本発明の実施例を具体的に説明する。なお、従来装置と同等の構成要素には同一の符号を付して詳しい説明は省略する。すなわち、弁板5を挟んでシリンダブロック1の外端を閉塞するシリンダヘッド20には、その側壁に沿って吸入フランジ21が一体的に形成され、該吸入フランジ21に穿設された直状の吸入孔22は、圧縮機のほぼ軸心を通って径方向に延在されており、該吸入孔22は吸入室9の底壁を貫通する導孔23、23を介して、該吸入室9内の互いに懸隔する二つの領域と直接連通せしめられている。」との記載があるから、上記訂正事項a及びdは、いずれも、上記段落【0009】の記載の範囲内の事項と認められる。
そして、上記訂正事項a〜hは、願書に添付した明細書の請求項1に係る発明の目的の範囲を逸脱するものではないので、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものとは認められない。

3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議の申立てについての判断

1.本件発明
上記II.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認める。(II.1.(1)訂正事項aを参照。以下、「本件発明」という。)

2.刊行物に記載された発明
当審で通知した取消しの理由で引用した刊行物1、2には、以下のような事項が記載されている。

(1)刊行物1(実願昭60-29246号(実開昭61-145884号)のマイクロフィルム(申立人の提出した甲第1号証))には、
(イ)実用新案登録請求の範囲に、
「複数のシリンダボアが形成されたシリンダブロツクと、前記シリンダボアにそれぞれ嵌挿された複数のピストンと、前記シリンダブロツクの一端に設けられ、吸入孔と吐出孔とが前記シリンダボアに対応してそれぞれ複数形成されたバルブプレートと、前記吸入孔を開閉する吸入弁と、前記吐出孔を開閉する吐出弁と、前記バルブプレートを挟んでシリンダブロツクの一端に設けられたシリンダヘツドとを具備し、前記複数のピストンが所定の位相差をもつて往復動する形式の圧縮機にあつて、前記シリンダヘツド内を、前記シリンダヘツドに形成された吸入口と連通する第1の低圧室と、前記吸入孔と連通する第2の低圧室と、前記吐出孔及び前記シリンダヘツドに形成された吐出口と連通する高圧室とに仕切手段を介して仕切り、且つこの仕切手段に前記第1の低圧室と第2の低圧室とを連通する吸入連通孔を形成し、該吸入連通孔は少なくも2つの吸入孔から等距離にあることを特徴とする圧縮機の脈動低減機構。」
と記載され、
(ロ)明細書第2頁第9行乃至第3頁第7行に、
「シリンダブロツクに複数のシリンダボアを形成し、このシリンダボアのそれぞれにピストンを嵌挿し、このピストンを斜板等を介してそれぞれ所定の位相差をもつて往復動させる形式の圧縮機は・・・・・周知である。この種の圧縮機にあつては、従来から吸入圧力の脈動が問題となつている。この脈動は、例えば自動車用冷房装置にあつては、配管を介して車室内のエバポレータに伝達され、異音を発生する原因となる。そのため、この吸入圧力の脈動を低減する考案が従来においてもいくつか提案されている。その一つとして、・・・・・吸入ガスをシリンダヘッド内の低圧室に導入する吸入口から各シリンダボアに対応してバルブプレートに形成された吸入孔までの距離が長くなるのに従つて通路抵抗を小さくし、各シリンダ毎の吸入ガス量を等しくし、脈動の平均化を計るようにしている。」
と記載され、
(ハ)明細書第6頁第18行乃至第19行に、
「周縁側の低圧空間15と中側の高圧室16とに仕切つている。」
と記載され、
(ニ)明細書第7頁第15行乃至第17行に、
「この吸入連通孔20は、隣合う吸入孔8,8から等距離にあるよう周方向に一定間隔あけて合計5個形成されている。」
と記載され、
(ホ)明細書第8頁第8行乃至第12行に、
「吸入ガスは、吸入口19から第1の低圧室15aに入つてこの第1の低圧室15a内で一時貯えられ、吸入連通孔20を介して分配された形で第2の低圧室15bに至り、この第2の低圧室15bから吸入孔8を介して圧縮室7に至る。」
と記載されている。
これらの記載及び第1図ないし第5図の記載等からすると、上記刊行物1には、
(a)「複数のシリンダボアを並設したシリンダブロックと、該各シリンダボアに対応した吸入孔及び吐出孔を有するバルブプレートを挟んで、上記シリンダブロックの外端を閉塞するシリンダヘッドとを備え、上記各シリンダボアに挿嵌されたピストンが所定の位相差をもって往復動する形式の圧縮機において、上記シリンダヘッド内の中央域には高圧室、その外周域には第2の低圧室が画設され、冷凍回路に接続される吸入フランジの吸入口と連通する第1の低圧室が第2の低圧室内の径方向に懸隔する少なくとも二つの領域に延在されており、該第1の低圧室は吸入連通孔を介して上記第2の低圧室内の複数領域と直接連通せしめられていることを特徴とする往復動型圧縮機。」
の発明が記載されているものと認められる。

(2)また、刊行物2(特開昭58-98674号公報)には、
(ヘ)第1頁右下欄第15行乃至第2頁左上欄第9行に、
「吸入通路と吸入孔との距離がシリンダ毎に異なっており、それが原因となって各シリンダの吸入冷媒量が異なり、それにより吸入圧力が脈動することがつきとめられた。即ち、従来の圧縮機は各シリンダの吸入弁形状,吸入弁ピッチ,吸入孔径,吸入弁リストは全て同一となっており、その為、第1図に模式的に示すように、吸入通路に近い第1シリンダ43は流通抵抗が相対的に低く、多くの冷媒が吸入され、一方吸入通路44より遠い第3シリンダ41は流通抵抗が高く冷媒吸入量が小さくなる。その結果、第1シリンダ43と第3シリンダ41では吸入冷媒密度が異なり、それが圧力脈動の原因となる。この場合、吸入通路から各吸入孔46,47,48までの距離を等しくすれば問題はない」
と記載され、
(ト)第2頁左上欄第19行乃至右上欄第1行に、
「冷媒の全体としての流れ損失が各吸入孔(吐出孔)でほぼ同一となるようにする。」
と記載されている。
これらの記載及び第1図の記載等からすると、上記刊行物2には、
(b)「吸入通路から遠隔した吸入孔と対応するシリンダほど常に希薄な冷媒ガスを吸入することとなるので、各シリンダ間に生じていた吸入冷媒ガスの圧力格差を良好に均斉化する往復動型圧縮機」
の技術的事項が記載されているものと認められる。

3.対比・判断
本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「シリンダボア」、「吸入孔」、「吐出孔」、「バルブプレート」、「高圧室」、「第2の低圧室」、「吸入口と連通する第1の低圧室」及び「吸入連通孔」は、その機能からして、それぞれ本件発明の「ボア」、「吸入口」、「吐出口」、「弁板」、「吐出室」、「吸入室」、「吸入孔」及び「導孔」に相当するから、両者は、
「複数のボアを並設したシリンダブロックと、該各ボアに対応した吸入口及び吐出口を有する弁板を挟んで、上記シリンダブロックの外端を閉塞するシリンダヘッドとを備え、上記各ボアに挿嵌されたピストンが所定の位相差をもって往復動する形式の圧縮機において、上記シリンダヘッド内の中央域には吐出室、その外周域には吸入室が画設され、冷凍回路に接続される吸入フランジを有し、導孔を介して上記吸入室内の複数領域と直接連通せしめられている往復動型圧縮機」
で一致し、
【相違点】吸入フランジに関し、本件発明は吸入フランジの吸入孔が吸入室内の径方向に懸隔する少なくとも二つの領域に直状に延在されているのに対し、刊行物1に記載された発明は吸入フランジの吸入口と連通する第1の低圧室が吸入室内の径方向に懸隔する少なくとも二つの領域に延在されている点、
で相違する。
以下、【相違点】について検討する。
まず、刊行物1の上記摘記事項の(ロ)の記載から、又は刊行物2の上記III.2.(2)(b)の技術的事項の記載からすると、本件発明の「吸入孔開口部から遠隔した吸入口と対応するボアほど常に希薄な冷媒ガスを吸入することとな」(本件特許公報第3欄第16行乃至第17行)るので「吸入室内の圧力の均斉化を図る」(本件特許公報第3欄第20行)との課題は、本件発明の出願時において、当業者にとって自明な課題であったものと認められる。
また、本件発明の往復動型圧縮機のような流体機械の技術分野において、圧力損失をできるだけ少なくすることは、効率を良くする観点からすれば、本件発明の出願時において、当業者にとって自明の課題に過ぎず、また、流体の流路をできるだけ短くし、またできるだけ直状にすることにより、圧力損失がより抑えられることも、本件発明の出願時において、斯界における技術常識に過ぎない。
そして、複数箇所に流体を供給する場合、その流路を直状にするか曲状にするかは、機器のスペース等を考慮し、適宜選択される事項に過ぎない。
したがって、先に指摘した本件発明の出願時における、斯界の技術水準からすれば、できるだけ流体流路を直状として流路による流体の圧力損失を抑えるとの技術常識から、刊行物1に記載された発明の「吸入フランジの吸入口と連通する第1の低圧室」の形状を本件発明の【相違点】に係る形状とすることに、当業者にとって格別な困難性があるものとは認められず、該適用を妨げる特段の事情も認められない。また、本件発明が奏する作用効果は、刊行物1に記載された発明が奏する作用効果に比較し、格別なものとも認められない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
往復動型圧縮機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のボアを並設したシリンダブロックと、該各ボアに対応した吸入口及び吐出口を有する弁板を挟んで、上記シリンダブロックの外端を閉塞するシリンダヘッドとを備え、上記各ボアに挿嵌されたピストンが所定の位相差をもって往復動する形式の圧縮機において、上記シリンダヘッド内の中央域には吐出室、その外周域には吸入室が画設され、冷凍回路に接続される吸入フランジはその吸入孔が吸入室内の径方向に懸隔する少なくとも二つの領域に直状に延在されており、該吸入孔は導孔を介して上記吸入室内の複数領域と直接連通せしめられていることを特徴とする往復動型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、車両空調用に供して好適な圧縮機に係り、主として単頭形のピストンを内装した多気筒往復動型圧縮機に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来この主の圧縮機として、固定斜板を備えた定容量型圧縮機や傾角変位可能な回転斜板を備えた可変容量型圧縮機が知られている。これらの圧縮機は、図4及び図5に例示するように、複数のボア2を並設したシリンダブロック1と、各ボア2に対応した吸入口3及び吐出口4を有する弁板5と、同弁板5を挟んでシリンダブロック1の外端を閉塞するシリンダヘッド6とを備えており、各ボア2に挿嵌されたピストン7が所定の位相差をもって往復動するように構成されている。そしてシリンダヘッド6の内部には、中央域に吐出室8、同外周域には吸入室9が画設されており、吐出室8は吐出フランジ10の吐出孔11に連通され、吸入室9は吸入フランジ12の吸入孔13と連通されている。
【0003】
したがって、圧縮機が駆動されると、蒸発器に接続された回路配管から吸入孔13を通って吸入室9に導かれた冷媒ガスは、各吸入口3を経て順次吸入過程にあるボア2に吸入され、圧縮された冷媒ガスは各吐出口4から順次吐出室8に吐出されて、吐出孔11を経由して凝縮器に接続された回路配管へと送出される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、図4に明示されているごとく、一般に吸入室の形状は設計上の制約などから複雑なものとなることが多く、吸入室に開口する吸入孔の近傍位置と、同開口から最も離隔した位置とでは、ガス流れに伴う圧力損失により意外に大きな圧力差が生じ、例えば3000r.p.m.の回転数において、その値は0.5〜1kg/cm2にも達する。このため、吸入孔開口部から遠隔した吸入口と対応するボアほど常に希薄な冷媒ガスを吸入することとなり、体積効率の低下ばかりでなく、これら不均一な吸入が吸入脈動に起因する関連機器の振動や騒音を増幅させる。
【0005】
本発明は、吸入室内の圧力の均斉化を図ることを解決すべき技術課題とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題解決のため、複数のボアを並設したシリンダブロックと、該各ボアに対応した吸入口及び吐出口を有する弁板を挟んで、上記シリンダブロックの外端を閉塞するシリンダヘッドとを備え、上記各ボアに挿嵌されたピストンが所定の位相差をもって往復動する形式の圧縮機において、上記シリンダヘッド内の中央域には吐出室、その外周域には吸入室が画設され、冷凍回路に接続される吸入フランジはその吸入孔が吸入室内の径方向に懸隔する少なくとも二つの領域に直状に延在されており、該吸入孔は導孔を介して上記吸入室内の複数領域と直接連通されてなる新規な構成を採用している。
【0007】
【0008】
【作用】
圧縮機が駆動されると、順次吸入行程へと移行する各ボアには、対応する吸入口及び該吸入口から至近位置に開口されている導孔を介して冷媒ガスが円滑に吸入され、吸入室内の流路抵抗に基づく圧力損失は合理的に低減されるので、各ボア間に生じていた吸入冷媒ガスの圧力格差は良好に均斉化される。
【0009】
【実施例】
以下、図1〜図3に基づいて本発明の実施例を具体的に説明する。なお、従来装置と同等の構成要素には同一の符号を付して詳しい説明は省略する。すなわち、弁板5を挟んでシリンダブロック1の外端を閉塞するシリンダヘッド20には、その側壁に沿って吸入フランジ21が一体的に形成され、該吸入フランジ21に穿設された直状の吸入孔22は、圧縮機のほぼ軸心を通って径方向に延在されており、該吸入孔22は吸入室9の底壁を貫通する導孔23、23を介して、該吸入室9内の互いに懸隔する二つの領域と直接連通せしめられている。
【0010】
したがって、圧縮機が駆動されて順次吸入行程へと移行する各ボア2には、対応する吸入口3及び該吸入口3から至近位置に開口されている各導孔23、23を介して冷媒ガスが円滑に吸入され、吸入室9内の流路抵抗に基づく圧力損失は合理的に低減されるので、各ボア2間に生じていた吸入冷媒ガスの圧力格差は良好に均斉化される。
【0011】
なお、上述の実施例では、冷媒ガスが吸入室9内の互いに懸隔する二つの領域と連通する導孔23、23を介して吸入される構成について説明したが、図3に鎖線で表したように、吸入フランジ21の胴部と共に吸入孔22をT字状に形成して、これに導孔23′を増設すれば、各ボアに吸入される冷媒ガスの圧力格差をより一層均斉化させることができる。この場合、吸入フランジ21は必ずしもシリンダヘッド20との一体化構造を強いられるものではなく、吸入フランジ21の形状如何によってはこれを独立部品として製作し、シリンダヘッド20に固着させる形態で実施することも可能である。
【0012】
【発明の効果】
以上、詳述したように本発明は、冷凍回路に接続される吸入フランジが、吸入孔及び導孔を介して吸入室内の複数領域と直接連通せしめられているものであるから、吸入室内の流路抵抗に基づく圧力損失が低減されて、各ボアには均斉化された圧力の濃密な冷媒ガスが吸入されるので、体積効率の低下を封じて圧縮機の性能向上に大きく寄与しうるとともに、不均一吸入がもたらす吸入脈動の抑制により、関連機器に派生する振動や騒音を効果的に鎮静化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係る圧縮機のシリンダヘッドを示す断面側面図。
【図2】本発明の実施例に係る圧縮機の吸入フランジを示す断面正面図。
【図3】本発明の実施例に係る圧縮機の吸入フランジを示す側面図。
【図4】従来圧縮機のシリンダヘッドを示す断面側面図。
【図5】従来圧縮機のシリンダヘッドを示す断面正面図。
【符号の説明】
1はシリンダブロック、2はボア、3は吸入口、5は弁板、8は吐出室、9は吸入室、20はシリンダヘッド、21は吸入フランジ、22は吸入孔、23・23′は導孔
 
訂正の要旨 A.特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1記載の
「【請求項1】複数のボアを並設したシリンダブロックと、該各ボアに対応した吸入口及び吐出口を有する弁板を挟んで、上記シリンダブロックの外端を閉塞するシリンダヘッドとを備え、上記各ボアに挿嵌されたピストンが所定の位相差をもって往復動する形式の圧縮機において、上記シリンダヘッド内の中央域には吐出室、その外周域には吸入室が画設され、冷凍回路に接続される吸入フランジはその吸入孔が吸入室内の径方向に懸隔する少なくとも二つの領域に延在されており、該吸入孔は導孔を介して上記吸入室内の複数領域と直接連通せしめられていることを特徴とする往復動型圧縮機。」
を、
「【請求項1】複数のボアを並設したシリンダブロックと、該各ボアに対応した吸入口及び吐出口を有する弁板を挟んで、上記シリンダブロックの外端を閉塞するシリンダヘッドとを備え、上記各ボアに挿嵌されたピストンが所定の位相差をもって往復動する形式の圧縮機において、上記シリンダヘッド内の中央域には吐出室、その外周域には吸入室が画設され、冷凍回路に接続される吸入フランジはその吸入孔が吸入室内の径方向に懸隔する少なくとも二つの領域に直状に延在されており、該吸入孔は導孔を介して上記吸入室内の複数領域と直接連通せしめられていることを特徴とする往復動型圧縮機。」
と訂正する。
B.明細書の誤記の訂正を目的として、願書に添付した明細書の段落【0003】の
「【0003】
したがって、圧縮機が駆動されると、蒸発器に接続された回路配管から吸入孔13を通って吸入室9に導かれた冷媒ガスは、各吸入口3を経て順次吸入過程にあるボア2に吸入され、圧縮された冷媒ガスは各吐出口4から順次吐出室8に吐出されて、吐出孔11を経由凝縮器に接続された回路配管へと送出される。」
を、
「【0003】
したがって、圧縮機が駆動されると、蒸発器に接続された回路配管から吸入孔13を通って吸入室9に導かれた冷媒ガスは、各吸入口3を経て順次吸入過程にあるボア2に吸入され、圧縮された冷媒ガスは各吐出口4から順次吐出室8に吐出されて、吐出孔11を経由して凝縮器に接続された回路配管へと送出される。」
と訂正する。
C.明細書の誤記の訂正を目的として、願書に添付した明細書の段落【0004】の
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、図4に明示されているごとく、一般に吸入室の形状は設計上の制約などから複雑なものとなることが多く、吸入室に開口する吸入孔の近傍位置と、同開口から最も離隔した位置とでは、ガス流れに伴う圧力損失により意外に大きな圧力差が生じ、例えば3000r.p.mの回転数において、その値は0.5〜1kg/cm2にも達する。このため、吸入孔開口部から遠隔した吸入口と対応するボアほど常に希薄な冷媒ガスを吸入することとなり、体積効率の低下ばかりでなく、これら不均一な吸入が吸入脈動に起因する関連機器の振動や騒音を増幅させる。」
を、
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、図4に明示されているごとく、一般に吸入室の形状は設計上の制約などから複雑なものとなることが多く、吸入室に開口する吸入孔の近傍位置と、同開口から最も離隔した位置とでは、ガス流れに伴う圧力損失により意外に大きな圧力差が生じ、例えば3000r.p.m.の回転数において、その値は0.5〜1kg/cm2にも達する。このため、吸入孔開口部から遠隔した吸入口と対応するボアほど常に希薄な冷媒ガスを吸入することとなり、体積効率の低下ばかりでなく、これら不均一な吸入が吸入脈動に起因する関連機器の振動や騒音を増幅させる。」
と訂正する。
D.明細書の明りょうでない記載の釈明及び明細書の誤記の訂正を目的として、願書に添付した明細書の段落【0006】の
「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題解決のため、複数のボアを並設したシリンダブロックと、該各ボアに対応した吸入口及び吐出口を有する弁板を挟んで、上記シリンダブロックの外端を閉塞するシリンダヘッドとを備え、上記各ボアに挿嵌されたピストンが所定の位相差をもって往復動する形式の圧縮機おいて、上記シリンダヘッド内の中央域には吐出室、その外周域には吸入室が画設され、冷凍回路に接続される吸入フランジはその吸入孔が吸入室内の径方向に懸隔する少なくとも二つの領域に延在されており、該吸入孔は導孔を介して上記吸入室内の複数領域と直接連通されてなる新規な構成を採用している。」
を、
「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題解決のため、複数のボアを並設したシリンダブロックと、該各ボアに対応した吸入口及び吐出口を有する弁板を挟んで、上記シリンダブロックの外端を閉塞するシリンダヘッドとを備え、上記各ボアに挿嵌されたピストンが所定の位相差をもって往復動する形式の圧縮機において、上記シリンダヘッド内の中央域には吐出室、その外周域には吸入室が画設され、冷凍回路に接続される吸入フランジはその吸入孔が吸入室内の径方向に懸隔する少なくとも二つの領域に直状に延在されており、該吸入孔は導孔を介して上記吸入室内の複数領域と直接連通されてなる新規な構成を採用している。」
と訂正する。
E.明細書の誤記の訂正を目的として、願書に添付した明細書の段落【0008】の
「【0008】
【作用】圧縮機が駆動されると、順次吸入行程へと移行する各ボアには、対応する吸入口及び該吸入口からから至近位置に開口されている導孔を介して冷媒ガスが円滑に吸入され、吸入室内の流路抵抗に基づく圧力損失は合理的に低減されるので、各ボア間に生じていた吸入冷媒ガスの圧力格差は良好に均斉化される。」
を、
「【0008】
【作用】圧縮機が駆動されると、順次吸入行程へと移行する各ボアには、対応する吸入口及び該吸入口から至近位置に開口されている導孔を介して冷媒ガスが円滑に吸入され、吸入室内の流路抵抗に基づく圧力損失は合理的に低減されるので、各ボア間に生じていた吸入冷媒ガスの圧力格差は良好に均斉化される。」
と訂正する。
F.明細書の誤記の訂正を目的として、願書に添付した明細書の【図1】の
「【図1】本発明の実施例に係る圧縮機のリヤハウジングを示す断面側面図。」
を、
「【図1】本発明の実施例に係る圧縮機のシリンダヘッドを示す断面側面図。」
と訂正する。
G.明細書の誤記の訂正を目的として、願書に添付した明細書の【図4】の
「【図4】従来圧縮機のリヤハウジングを示す断面側面図。」
を、
「【図4】従来圧縮機のシリンダヘッドを示す断面側面図。」
と訂正する。
H.明細書の誤記の訂正を目的として、願書に添付した明細書の【図5】の
「【図5】従来圧縮機のリヤハウジングを示す断面正面図。」
を、
「【図5】従来圧縮機のシリンダヘッドを示す断面正面図。」
と訂正する。
異議決定日 2001-10-15 
出願番号 特願平5-103902
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (F04B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 尾崎 和寛  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 栗田 雅弘
田村 嘉章
登録日 2000-08-04 
登録番号 特許第3094732号(P3094732)
権利者 株式会社豊田自動織機
発明の名称 往復動型圧縮機  
代理人 中村 友之  
代理人 中村 敬  
代理人 岩崎 幸邦  
代理人 三好 秀和  
代理人 中村 敬  

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