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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1056491
異議申立番号 異議2001-70479  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-02-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-02-14 
確定日 2002-01-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3076202号「EG用ポリシリコン膜の被着方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3076202号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3076202号の請求項1〜3に係る発明は、平成6年7月12日に特許出願され、平成12年6月9日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人渡辺尚吾(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、取り消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年8月21日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
ア.訂正事項a
明細書の段落【0005】の記載について、「フッ酸処理後、ポリシリコン膜は粒界の大きな多結晶となってしまい、ゲッタリング能力が低下する」とあるのを、「フッ酸処理後、ゲッタリング能力が低下する」と訂正する。
イ.訂正事項b
明細書の段落【0006】の記載について、「金属不純物レベルが低く、かつ、粒界の小さなポリシリコン膜」とあるのを、「金属不純物レベルが低いポリシリコン膜」と訂正する。
ウ.訂正事項c
明細書の段落【0008】の記載について、「かつ、粒界が小さくてゲッタリング」とあるのを、「かつ、ゲッタリング」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項a〜cは、「粒界」に関する明りょうでない記載を削除するもので、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し何れも、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについて
(1)特許異議申立ての理由の概要
申立人は、特許第3076202号の請求項1〜3に係る発明は、甲第1〜6号証で示す各刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、その特許は取り消されるべきものであり、また、本件明細書には不備があり、よって特許法第36条第4項、5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである旨主張している。

(2)本件の請求項1〜3に係る発明
特許第3076202号(平成6年7月12日出願、平成12年6月9日設定登録)の請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
請求項1「シリコンウェーハを表面酸化還元処理を施した後、フッ酸処理を施し、続いて、オゾン溶液またはオゾンガスを使用して酸化処理を施し、さらに、このシリコンウェーハの裏面にポリシリコン膜を被着するEG用ポリシリコン膜の被着方法」(以下、「本件発明1」という)
請求項2「上記オゾン溶液またはオゾンガスのオゾン濃度は0.5ppm以上である請求項1に記載のEG用ポリシリコン膜の被着方法。」(以下、「本件発明2」という)
請求項3「上記ポリシリコン膜の被着はCVD法による請求項1または請求項2に記載のEG用ポリシリコン膜の被着方法。」(以下、「本件発明3」という)

(2)刊行物に記載された発明
特許異議申立人が証拠として提示した刊行物1〜6には、それぞれ次のとおりの発明が記載されている。
ア.刊行物1:特開平1-315144号公報
第2頁左上欄第3行〜第12行の記載「ところで、多結晶シリコン層によるゲッタリングは、単結晶シリコン中の不純物が多結晶シリコンの結晶粒界にトラップされることにより行われる。そこで、ゲッタリング能力を高めるためには、単結晶シリコン基体に多結晶シリコン層が密着して形成され、しかも結晶粒界の面積が大きな多結晶シリコン層であることが要求される。この結晶粒界の面積を大きくするためには、個々の結晶粒を小さくし、しかも粒子の大きさを均一化することが望まれる。」と記載され、第3頁左下欄第1行〜第5行には、「さらに、単結晶シリコン基体を酸化性薬品中に浸漬するか陽極酸化しても酸化シリコン膜は形成され得る。酸化性薬品としては、例えば硝酸、重クロム酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、過塩素酸またはその塩、過酸化水素水等がある。」と記載され、第4頁右下欄第5行〜第16行には、「厚さ600ミクロンの単結晶シリコン基板を1%弗酸に浸漬して表面に付着していた自然酸化物膜を除去、ついで、脱イオン水でリンスし、・・・空気雰囲気の電気炉中に7分、22分、36分および43分間置いてそれぞれ1Å、3Å、5Åおよび6Åの酸化シリコン膜を形成させた。次いで、減圧CVD法により、シリコン(SiH4)ガスを窒素ガスをキャリヤーとして650℃で熱分解させて、酸化シリコン膜の上に多結晶シリコン層を約1ミクロン堆積させた。」と記載され、第4頁右下欄第17行〜第5頁第16行に、「このように、多結晶シリコン層を堆積したウェーハは両面に多結晶シリコン層および酸化シリコン膜が堆積しているので、その一面を研磨して多結晶シリコン層とその下の酸化シリコン膜を除去して単結晶シリコン基板を露出させ、さらにこれを鏡面に仕上げた。このようにして製作したシリコンウェーハの鏡面側に、前記のごときMOSキャパシターを形成させて、小数キャリヤーのライフタイムの値によってゲッタリング能力の評価を行なった。その結果を第1表に示す。」と記載され、第5頁右下欄第1表には、「酸化シリコン膜厚に対するゲッタリング能力値」が記載されており、第6頁右上欄第16行〜左下欄第5行には、「本発明によれば、特定された厚みを持つ酸化シリコン膜を介して単結晶シリコン基体上に多結晶シリコン層を形成してなるものであるから、多結晶シリコン層の密着性および均一性が優れたものとなっており、しかも、多結晶シリコン層の結晶粒の大きさが均一なため、従来の単に多結晶シリコン層を形成したものに比較して結晶粒界の面積が大きく、ゲッタリング能力が優れている。したがって、高密度集積回路のデバイスとしての歩留まりが高い材料として使用され得る。」と記載されている。
これらの記載事項によれば、刊行物1には、以下のとおりの発明が記載されていると認められる。「単結晶シリコン基板を弗酸に浸漬して表面処理を施し、酸化性薬品中に浸漬して、酸化処理し、次いで、減圧CVD法により、酸化処理した基板裏面上に多結晶シリコン層を被着したゲッタリング用ポリシリコン膜の被着方法」(甲第1号証)
刊行物2:半導体シリコン結晶工学 (丸善株式会社、平成5年9月30日発行)
第125頁第29行〜第126頁第10行には、「RCA法の基本は、過酸化水素(hydrogen peroxide;H2O2)をベースにした、(1)高pHのアルカリ混合液と、(2)低pHの酸混合液による2段階洗浄である。第1段階のアルカリ混合液の成分はH2O-H2O2-NH4OH(この混合液は一般的にSC-1とよばれる)で、H2O2の強い酸化作用とNH4OHの溶解作用により有機汚染物を除去することを目的とする。また、Au,Ag,Cu,Ni,Cd,Zn,Co.CrなどのIb族、IIb族やその他の金属不純物がNH4OHとの化合物生成反応により除去される。たとえば、CuはCu(NH3)42+を形成する。第2段階の酸混合液の成分はH2O-H2O2-HCl(この混合液は一般的にSC-2と呼ばれる)で、SC-1に不溶のアルカリイオンやAl3+,Fe3+,Mg2+などの陽イオン(cation)の除去を目的とする。また、SC-1で除去しきれなかったAuなどの金属不純物も除去される。金属不純物はSC-2に溶解し、ウェーハ表面への再吸着が防止される。上記の基本プロセスを含んだRCA洗浄法の具体的プロセスを表3.7に示す。これは一般的な(generic)プロセスで、現実的には、ウエーハメーカ、デバイスメーカでは各々独自の改良を加えた”修正RCA法”を使用しているのが実情であろう」と記載され、第127頁、表3.7 標準的RCA法によるシリコンウェーハの洗浄プロセスには、「H2O:HF(49%)=50:1混合液による、表面自然酸化膜除去工程の前に、SC-1洗浄工程(そして、各工程の後には超純水によるリンスを行う事例」が記載され、第355頁の7.2ゲッタリングの項の第3行〜4行には、「デバイス特性を劣化させるのは、金属(特に遷移金属)不純物によるウェーハ表面汚染である。」と記載され、第356頁第15行〜19行には、「不純物あるいは2次欠陥による悪影響を除去するには、(1)汚染源の除去、汚染濃度の低減、(2)不純物を吸着、・・・(3)ウェーハのデバイス領域からの汚染不純物の除去、が必要である。この(2)および(3)、狭義には(3)のプロセスをゲッタリング(gettering))という。いずれにせよ、(1)に最大の努力をすべきことを強調しておきたい。」と記載されている。
これらの記載事項によれば、刊行物2には、以下のとおりの発明が記載されていると認められる。「SC-1洗浄をし、その後フッ酸による自然酸化膜除去工程を行う基板処理方法」(甲第2号証)
刊行物3:ULSI生産技術緊急レポートNo.1、半導体メーカのウエハ洗浄仕様と問題点、1993年12月20日第1版第1刷発行、発行所:株式会社サイエンスフォーラム
第35頁には、「アンモニア過水-水洗-HF洗浄-水洗」の洗浄工程が記載されている。(甲第3号証)
刊行物4:特開平3-228328号公報
第2頁右上欄第1行目から第10行目には、「・・・バブラー4によりオゾンを純水中でバブリングさせ10ppmのオゾンの溶解した純水を生成させる。そしてオゾンの溶解した純水をオゾン溶解水貯槽3に貯め、ポンプ7により、オゾン溶解水供給配管2を通して水洗槽1にオゾンの溶解した純水を・・・供給する。この水洗槽1内に弗酸で処理したシリコン基板を浸漬させると、弗酸の純水置換と共に弗酸処理によって露出したSiがオゾンによって数十Å酸化される。・・・」と記載され、第2頁右下欄第2行、第3行には、「半導体基板の薬液処理工程における半導体基板に付着するパーティクルを減少させる効果がある。」と記載されている。
これらの記載事項によれば、刊行物4には、以下のとおりの発明が記載されていると認められる。「フッ酸処理によって露出したシリコン基板をオゾン溶液に浸漬する事により酸化処理を行う基板処理」(甲第4号証)
刊行物5:特開昭62-198127号公報
第2頁右上欄第3行〜左下欄第3行には、「本発明に依る半導体ウェハの洗浄方法は第1図に示す如く、酸化膜除去工程とオゾンをバブリングした水洗工程で構成される。酸化膜除去工程は弗酸(HF/H2O)液内に半導体ウェハを浸漬してシリコン基板表面の酸化膜を・・・除去している。・・・本発明の特徴は次の洗浄工程にある。・・・オゾン(O3)ガスをバブリングした水槽内に半導体ウェハを浸漬して行う。そしてオゾンガスより発生する活性期の酸素イオンで露出したシリコン基板表面を酸化して親水性処理を行うのである。この結果露出したシリコン基板表面にパーティクル等が付着するおそれがなくなる。」と記載され、第2頁右下欄12行〜第14行には、「・・・オゾンは気体であるので注入しても洗浄液がゴミ等で汚染されるおそれがなくなり、パーティクル等を大巾に減少できる利点を有する。」と記載され、第3頁左欄第1行から第4行には、「・・・パーティクル等の減少に伴い酸化膜に発生する欠陥を低減でき、汚染されない酸化膜の生成により素子の電気的特性の変動を防止できる利点を有する。」と記載されている。これらの記載事項によれば、刊行物5には、以下のとおりの発明が記載されていると認められる。「フッ酸処理によって酸化膜を除去したシリコン基板をオゾンをバブリングした溶液に浸漬する事により酸化処理を行う基板処理」(甲第5号証)。
刊行物6:特開平6-120192号公報
第2頁左欄第50行〜右欄2行には、「ジェット洗浄における洗浄するとしてオゾン水またはH2O2水が使用されているので、有機物系のパーティクルをも充分に除去できる。」と記載されている。これらの記載事項によれば、刊行物6には、以下のとおりの発明が記載されていると認められる。「オゾン水と、H2O2両者が有機物除去に有効であること」(甲第6号証)。

(3)対比及び判断
[本件発明1について]
本件発明1と刊行物1に記載の発明を対比すると、引用発明1のゲッタリング用というのは、本件発明1のExtrinsic Gettering(EG)に相当するから、両者は、「フッ酸処理を施し、続いて、酸化処理を施し、更に、このシリコンウェーハの裏面にポリシリコン膜を被着するEG用ポリシリコン膜の被着方法」の点で一致し、
ア)本件発明がシリコンウェーハを表面酸化還元処理した後、フッ酸処理しているのに対し、引用発明1には、この点がない点
イ)本件発明では酸化処理がオゾン溶液またはオゾンガスを使用してなされているのに対して、刊行物1に記載の発明では、酸化性薬品への浸漬を使用している点において相違する。
次に、相違点について検討する。
相違点ア)については、刊行物2には、フッ酸処理の前にSC-1洗浄(本願発明の酸化還元処理に相当する)を行うとともに、SC-1洗浄、フッ酸処理の後に超純水でリンスすることも記載されれており、刊行物3に記載されているようにフッ酸処理の前にSC-1洗浄と水洗、フッ酸処理の後に水洗工程を行うことは当該技術分野では一般的に行われている事項である。
相違点イ)については、引用発明1においても、その酸化処理方法として、酸化性溶液につけることが記載されており、その酸化性溶液として過酸化水素等が例示されている。一方、刊行物4,5には、オゾンをバブリングすることによって、オゾン溶液をつくりそれによりシリコン基板を酸化することが記載されているが、刊行物6には、洗浄液としてオゾン水、過酸化水素水が同様の効果を有することは記載されているが、刊行物1に記載の酸化性溶液としての過酸化水素水をオゾン水に代替可能かどうかは、必ずしも自明ではない。そして、本件発明1は、酸化性溶液として、過酸化水素水でなく、オゾン溶液を用いることにより、その適切な酸化力により、もっとも不純物の少ない清浄な酸化をおこなうことができるという特段の効果を有するものである。
してみると、本件発明1は、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
[本件発明2〜3について]
また、本件発明2、3は、本件発明1を引用して、さらにこれを限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2,3は、刊行物1〜6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

(4)明細書の記載不備について
申立人の「有機物等の汚染による汚れ、突起等がなく、金属不純物レベル向上させるための解決方法が不明である」旨の主張は、詳細な説明の第0006段落にも記載されているように、オゾンの有機物分解特性により残留有機成分を分解除去して、清浄な酸化膜を形成するためであることが明記されており、申立人の主張は採用できない。
また、「粒界の大きな多結晶となってゲッタリング能力自体が低下する等の記載は、結晶粒界が大きい方が不純物をトラップしやすいという甲第1号証の記載と矛盾する」旨の主張は、平成13年8月21日付けの訂正請求により当該記載は削除されたため、不備は解消された。
「図2のエリプソメータによる測定のグラフより、オゾン濃度が0.5ppm以上でないと清浄な酸化膜が形成できない」旨の主張は、従来例との比較において、オゾンの有機物分解特性により清浄な酸化膜が形成できるものであって、オゾン濃度は、請求項1に係る発明の構成に欠くことができない事項には当たらない。
また、「ポリシリコン膜をどうやって裏面のみに行うのか不明である」旨の主張については、本件発明の実施例でCVD法を用いており、CVD法では一般的に基板をプレート上に載置して、片面のみに結晶成長させるので、当然裏面を上面としてプレート上に載置することにより裏面のみにポリシリコンを成長させるようにしたことは当業者にとって自明の事項である。
したがって、特許法第36条第4項、5項に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであるとすることができない。
(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申し立ての理由および証拠によっては、本件請求項1〜3に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜3に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
EG用ポリシリコン膜の被着方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 シリコンウェーハを表面酸化還元処理を施した後、フッ酸処理を施し、
続いて、オゾン溶液またはオゾンガスを使用して酸化処理を施し、
さらに、このシリコンウェーハの裏面にポリシリコン膜を被着するEG用ポリシリコン膜の被着方法。
【請求項2】 上記オゾン溶液またはオゾンガスのオゾン濃度は0.5ppm以上である請求項1に記載のEG用ポリシリコン膜の被着方法。
【請求項3】 上記ポリシリコン膜の被着はCVD法による請求項1または請求項2に記載のEG用ポリシリコン膜の被着方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、EG(Extrinsic Gettering)用のポリシリコン膜の被着方法、詳しくはポリバックシール法におけるEG層としてシリコンウェーハ裏面に被着されるポリシリコン膜堆積の前処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
デバイス製造工程中に、金属不純物等の汚染が生じると、デバイス特性の劣化や歩留まりの低下を引き起こす。工程中で不純物をシリコンウェーハ表面の活性領域から取り除くためのゲッタリング技術の一つとして、EG法が知られている。このEG法にあっても、バックサイドダメージ法、リンゲッタ法等ともに、ポリバックシール法が知られている。ポリバックシール法は、エッチング処理後のシリコンウェーハの裏面にポリシリコン膜を被着、形成し、このポリシリコン膜により汚染不純物、点欠陥等を捕獲する方法である。
【0003】
これまでのシリコンウェーハ裏面へのポリシリコン膜の被着は、以下のように行われていた。まず、混酸エッチングによりウェーハの加工ダメージを完全に除去する。その後、SC-2(Standard Cleaning-2)洗浄や、界面活性剤を含んだ弱アルカリ性のエッチング液による洗浄を施す。さらにこの後、シリコンウェーハの裏面にCVDによりポリシリコン膜を堆積していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来技術にあっては、ポリシリコン膜堆積前のシリコンウェーハは、その表裏面に、界面活性剤や環境からの有機物が付着していた。この結果、ポリシリコン膜の堆積中に、その堆積膜にごみ等の異物が含まれて汚れ、突起等の不良を引き起こしていた。
【0005】
また、ポリシリコン膜とウェーハ裏面との界面の金属不純物レベルを改善するため、ポリシリコン膜の堆積前にウェーハ裏面に塩酸処理またはフッ酸処理を施すことも考えられる。しかし、この処理後、ゲッタリング能力自体が低下するという課題が生じていた。
【0006】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、上記ポリシリコン膜堆積前の酸化還元処理(SC-1洗浄または無機アルカリ/H2O2洗浄)の後、ウェーハにフッ酸処理を施し、さらに、このウェーハ裏面に清浄な酸化膜を形成するようにした。この結果、金属不純物レベルが低いポリシリコン膜を収率良く形成することができることを知見した。また、この清浄な酸化膜の形成には、オゾン溶液またはオゾンガスを使用することが、有効である。さらに、オゾン溶液の液中濃度を、0.5ppm以上とすると、数オングストロームの厚さの清浄な酸化膜を形成することができることを知見した(図3参照)。清浄な酸化膜を形成することができる理由は、上記前処理洗浄においてウェーハ表面に付着した残留有機成分や、環境から付着した比較的分子量の小さな有機物が、オゾンの有機物分解特性により、分解除去されるからであると、推定される。
【0007】
よって、ポリシリコン膜堆積前のウェーハ裏面は、有機物、金属不純物のきわめて少ない清浄面を保持することができ、同時に数オングストローム程度の酸化膜を形成した結果、上記ウェーハ裏面の清浄さを保持したままポリシリコン膜を被着することができる。
【0008】
そこで、本発明は、有機物等の汚染による汚れ、突起等がなく、金属不純物レベルが向上し、かつ、ゲッタリング能力が低下することもない、EG用ポリシリコン膜を形成することができるポリシリコン膜の被着方法を提供することを、その目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載した発明は、シリコンウェーハを表面酸化還元処理を施した後、フッ酸処理を施し、続いてオゾン溶液またはオゾンガスを使用して酸化処理を施し、さらにこのシリコンウェーハの裏面にポリシリコン膜を被着するEG用ポリシリコン膜の被着方法である。
ここで、シリコンウェーハに施される表面酸化還元処理とは、酸化剤と還元剤との両方を持ち合わせた混合液による処理をいう。例えばSC-1洗浄、フッ酸/硝酸洗浄などを意味している。
また、フッ酸処理後、上記オゾン溶液またはオゾンガスを使用して酸化膜を形成する。これは、シリコンウェーハの表面を親水化することが必要だからである。例えば3オングストローム程度の厚さの酸化膜を形成する。
【0010】
請求項2に記載した発明は、上記オゾン溶液またはオゾンガスのオゾン濃度は0.5ppm以上である請求項1に記載のEC用ポリシリコン膜の被着方法である。
【0011】
請求項3に記載した発明は、上記ポリシリコン膜の被着はCVD法による請求項1または請求項2に記載のEG用ポリシリコン膜の被着方法である。具体的には減圧CVD法による。酸化膜厚とオゾン濃度との関係から酸化作用が安定するためである。
【0012】
【0013】
【作用】
請求項1に記載した発明では、シリコンウェーハの裏面を例えばSC-1液で洗浄した後、裏面をフッ酸処理し、さらに、この裏面をオゾン液またはオゾンガスで処理して酸化膜を形成する。
SC-1洗浄(表面酸化還元処理)により、シリコンウェーハの表裏面に付着した有機物、カーボンなどを除去する。
そして、フッ酸洗浄によりシリコンウェーハの裏面を清浄化する。フッ酸は、SC-1洗浄により生成されたシリコン酸化物と反応し、このシリコン酸化物と共に不純物を除去することとなる。シリコンウェーハの表裏面は、酸化膜、不純物などが存在しない清浄な面となる。
この後、シリコンウェーハをオゾン溶液またはオゾンガスで処理して酸化膜を形成する。酸化膜により、清浄化した裏面をその状態に保持するものである。このオゾン処理により、より清浄な酸化膜を形成することができる。過酸化水素中における酸化処理、気相中での酸化処理などに比較して、オゾン溶液処理は、適切な酸化力により、最も不純物の少ない清浄な酸化を行うことができる。オゾン溶液は、溶媒である超純水にオゾンを溶かしこんでいるからである。
そして、この酸化膜上にポリシリコン膜を被着する。シリコンウェーハの裏面とこのポリシリコン膜との界面を清浄に保持しているため、ポリシリコン膜が汚染されることがない。
【0014】
また、請求項2に記載の発明においては、オゾン溶液またはオゾンガスを使用して酸化膜を形成する。この場合のオゾン濃度は0.5ppm以上である。このため、清浄さの維持に好適な厚さの酸化膜(3オングストローム程度の酸化膜)を容易に形成することができる。
【0015】
請求項3に記載した発明では、ポリシリコン膜の被着をCVD法で行う。例えば減圧CVD法により清浄な環境を維持しつつ、ポリシリコン膜を被着することができることとなる。
【0016】
【0017】
【実施例】
以下、図面を参照して本発明方法の実施例について説明する。図1に示すように、CZ、P型、(100)、6インチウェーハについて、前洗浄としてSC-洗浄を行う。SC-1洗浄は、85℃のNH4OH/H2O2/H2O=1:1:5の混合溶液中に10分間浸漬して行う。次いで、室温での超純水(DIW)リンス後、室温で体積濃度5%のフッ酸(HF)洗浄を施す。さらに、室温での超純水リンス後、室温でのオゾン溶液(0.5ppm)による洗浄、超純水リンスを施し、裏面に清浄な酸化膜を形成する。なお、オゾン溶液は、通常の超純水にオゾンガスを溶かし込んだもので、室温で保持している。そして、この後、減圧CVD法によりポリシリコン膜を被着する。減圧CVD法の条件は、例えば東京ハイテック(株)の縦型LP-CVDシステムを使用し、堆積ガスはモノシラン、堆積温度は640〜660℃、成長レートは150オングストローム/分、堆積する膜厚は1.5μmとする。
【0018】
図2は、オゾン溶液の濃度と酸化膜の厚さとの関係を示すグラフである。HF処理品では酸化膜がほとんど除去されるのに対し、上記したようにオゾン濃度を0.5ppm以上に高めた処理(室温、4分間浸漬)では、その酸化膜の膜厚は5オングストローム以上となる。膜厚はESCA、エリプソメータで測定した。このエリプソメータでの測定値は酸化膜(SiO2)表面の有機物を含んでいる。このグラフからオゾン溶液の濃度が0.5ppm以上では清浄な酸化膜が形成されることがわかる。
【0019】
表1は従来方法と本発明方法との比較を示す。これはポリシリコン膜中の不純物濃度を示すものである。表面分析は、フレームレス原子吸光法によった。表1に示すように、不純物レベルは1桁改善された。従来方法は、SC-1洗浄、純水リンス、SC-2洗浄、純水リンス後にポリシリコン膜を被着したものである。これに対して本発明方法ではSC-1洗浄、HF洗浄、オゾン溶液ディップ、CVDによるポリシリコン膜を被着している。
【0020】
【表1】

【0021】
【発明の効果】
本発明によれば、汚れ、突起等のないポリシリコン膜を形成することができる。また、このポリシリコン膜を被着する際の生産性が向上する。このポリシリコン膜はその不純物グレードが向上している。よって、ゲッタリング能力を高めたポリシリコン膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例に係るEG用ポリシリコン膜の被着方法を示す工程図である。
【図2】
本発明の一実施例に係るオゾン濃度と酸化膜厚さとの関係を示すグラフである。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
訂正事項a
明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書の段落【0005】の記載について、「フッ酸処理後、ポリシリコン膜は粒界の大きな多結晶となってしまい、ゲッタリング能力が低下する」とあるのを、「フッ酸処理後、ゲッタリング能力が低下する」と訂正する。
訂正事項b
明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書の段落【0006】の記載について、「金属不純物レベルが低く、かつ、粒界の小さなポリシリコン膜」とあるのを、「金属不純物レベルが低いポリシリコン膜」と訂正する。
訂正事項c
明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書の段落【0008】の記載について、「かつ、粒界が小さくてゲッタリング」とあるのを、「かつ、ゲッタリング」と訂正する。
異議決定日 2001-12-10 
出願番号 特願平6-184044
審決分類 P 1 651・ 534- YA (H01L)
P 1 651・ 531- YA (H01L)
P 1 651・ 121- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 岡 和久
西脇 博志
登録日 2000-06-09 
登録番号 特許第3076202号(P3076202)
権利者 三菱マテリアル株式会社 三菱マテリアルシリコン株式会社
発明の名称 EG用ポリシリコン膜の被着方法  
代理人 安倍 逸郎  
代理人 安倍 逸郎  
代理人 安倍 逸郎  

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