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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1056527
異議申立番号 異議1999-71480  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-05-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-04-22 
確定日 2002-01-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2814076号「露光装置」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2814076号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第2814076号の発明は、特願昭63-328832号(昭和63年12月28日出願)の分割出願(平成9年10月21日分割出願)であって、平成10年8月14日に設定登録され、その後、異議申立人株式会社ニコンから特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年11月2日に訂正請求(後日取り下げ)がなされ、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年8月1日に意見書が提出され、再度の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年12月17日に訂正請求がなされたものである。
1.1 異議申立ての概要
異議申立人株式会社ニコンは、甲第1号証(特開昭62-69577号公報)、甲第2号証(「実用電子回路ハンドブック」2 昭和51年 第3版発行 CQ出版第469頁〜第475頁)、甲第3号証(特開昭58-149036号公報)及び参考文献としての甲第4号証(特開昭60-162258号公報)を提出し、本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1〜3号証に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本件請求項1〜3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべき旨主張している。
1.2 異議申立人株式会社ニコンが提出した甲第1〜甲第4号証の記載内容
1.2.1 甲第1号証の記載内容
甲第1号証の第2頁左上欄第1行から第15行には、「このように、エキシマレーザ等のパルス放電型レーザを用いて、半導体プロセスにおける光リソグラフィを実行しようとする場合、光リソグラフィプロセスにおけるステッパーを考えた場合、各ステップアンドリピートサイクルで同一パルス数のレーザを照射しても、1パルス毎のレーザ出力の再現性が悪いために、総露光量が各ステップアンドリピートサイクルで一定でなくなる。従って、均一度がよく、バラツキの少ない工程を得ることは困難である。
この発明は、こうした問題点に鑑みて、総露光量が各ステップアンドリピートサイクル毎に一定となるようなレーザ出力が得られるパルス放電型レーザの出力制御装置を提供することを目的とするものである。」と記載されている。
甲第1号証の第2頁右上欄第11行から左下欄第19行には、「第1図は、この発明によるパルス放電型レーザの出力制御系の一実施例を示すブロック回路図である。第2図は、第1図の回路の動作を示すタイムチャートである。
レーザ2の出力は、レーザ本体内でハーフミラー3により一部反射され、拡散板4を介して光電変換素子5に入力される。光電変換素子5で電気信号に変換され、この出力信号はサンプル・ホールド回路6で一定期間、保持される。サンプル・ホールド回路6の出力信号Eiは、時間間隔が一定のパルスで、その波高値は、レーザ出力のピーク値Piに対応して、パルス毎に異なった値となる(第2 図(b)、(c)参照)。
サンプル・ホールド回路6の出力信号は、積分器7に入力され、その出力Esは、レーザ出力エネルギーの総和に比例したものである。この積分器7の出力を、基準電圧発生器9にあらかじめ設定した基準レベルと、コンパレータ8で比較する。Esが基準レベルと一致したとき、コンパレータの出力は0となり、ナンドゲート10が開かれ、トリガ回路11、電源12を介して、レーザ発振は停止される。(第2図(e)、(f)、(g)参照)。
次に、外部リセット端子14に信号が与えられると、積分器7の出力は0となり、以下、同様にして、総照射エネルギー制御が一定のサイクルで繰り返し実行される(第2図(h)、(e)参照)。
なお、遅延回路13は、サンプル・ホールド回路6をリセットするためのものである(第2図(d)、(c)参照)。」と記載されている。
1.2.2 甲第2号証の記載内容
甲第2号証の図5-63(b)には、LED駆動回路からの同期パルスを入力するゲート回路を具備した回路が示され、図5-65(b)には、図5-63(b)の回路における各部波形が図示されている。図5-65(b)には、パルス状の発光光に対して、受光信号には、パルス光とパルス光との間にノイズが混入している様子が示されており、この受光信号がゲート回路(LED駆動回路からの同期パルスを入力するゲート)を通過することによって、ゲート回路からは、ノイズが低減された出力が得られる様子が示されている。
1.2.3 甲第3号証の記載内容
甲第3号証の第5頁左上欄第7行から第19行には「上述の発光制御回路(9)の第2及び第3の入力端子には、制御回路(CC)の出力端子(b),(c)が各々接続され、さらに、発光制御回路(9)の第4の入力端子には、後述する発光量検出回路(10)の出力端子が接続され、発光制御回路(9)の出力端子がキセノン管(1)に接続される。この発光制御回路(9)は、制御回路(CC)から発光開始信号が入力されると、キセノン管(1)の発光を開始するための信号を出力し、キセノン管(1)の発光量を検出する発光量検出回路(10)の出力か設定装置(6)の設定発光量(Ft)に応じた記億装置(8)の発光量データに等しくなると、キセノン管(1)の発光を停止するための信号を出力する。」と記載されている。
甲第3号証の第7頁左下欄第10行から第8頁右下欄第7行には、「上述のキセノン管(1)の発光制御を行なう発光制御回路(9)および発光量検出回路(10)は第3図に示すような具体的な回路で構成される。…制御回路(CC)のコントロールスイッチ(CS)が閉じられることにより出力端子(C)から発光開始信号が入力されると、フリップフロップ(51)がセットされてアンド回路(54)のゲートが開かれるとともにアンド回路(53)のゲートが閉じられる。また、この発光開始信号はタイミング回路(49)にも与えられて、その出力端子(CI)から“High”の信号が出力されて、遅延回路(DL)によって端子(CI)から ”High信号が出力されてから一定時間後、キセノン管トリガー用の周知のトリガー回路(46)が動作を開始してキセノン管(1)が発光を開始する。”High信号の出力と同時にアナログスイッチ(44)が端子(CI)からインバ-夕(201)を介して与えられる ”Low”の信号で不導通となり、積分用コンデンサ(45)はキセノン管(1)の発光による受光素子(PDI)の出力電流の積分を開始する。…発光開始信号が出力されてからキセノン管(1)の全発光が終了するのに十分な一定時間後にタイミング回路(49)の出力端子(C3)からパルスが出力されて A‐D変換器(50)において積分コンデンサ(45)から出力される発光量検出信号のA‐D変換が行われる。…上記発光開始信号は、上記A‐D変換が終了するまで ”High”となって、この間アナログスイッチ(44)が遮断して積分コンデンサ(45)のデータは保持され、A‐D変換の終了後に ”Low”となってアナログスイッチ(44)が導通して積分コンデンサ(45)のデータはリセットされる。上述のA‐D変換の完了から一定時間後、再びタイミング回路(49)の出力端子(CI)から発光開始信号が出力され、以下、同様の動作を繰り返して、」と記載されている。
1.2.4 甲第4号証の記載内容
甲第4号証の第2頁左下欄第4行から第17行には、エキシマレーザを使った露光装置内に設けられたフォトセンサの出力を、光量積分回路に入力し、この回路によって演算される光量に基いて、露光量制御を行う旨記載されている。
2.訂正の適否について
本件訂正請求は、本件特許第2814076号の明細書(以下、「特許明細書」という。)を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに、訂正しようとするものである。
2.1 訂正事項
訂正事項a
特許明細書の請求項1「パルス発光する光源と、該光源の発光パルスの露光量を測定する露光量計測手段とを備えた露光装置であって、該露光量計測手段は、ノイズもしくはオフセット分の加入を規制する手段を具備することを特徴とする露光装置。」を「発光同期信号に基づいてパルス光を発するエキシマレーザ光源と、前記エキシマレーザ光源からの複数の前記パルス光を用いてマスク上の所定のパターンをウエハ上に投影露光する露光手段と、前記エキシマレーザ光源から発せられる各パルス光のパワーを1パルス毎に積分し、前記複数のパルス光による該積分値を積算した値に基づいて前記ウエハに対する露光量を所定の値に制御する露光量計測制御手段を備えた露光装置において、
前記露光量計測制御手段は、前記発光同期信号の発生から遅延させて前記積分を開始することによりノイズもしくはオフセット分の前記積分値への加入を規制する手段と、前記遅延させる時間を可変する手段を有することを特徴とする露光装置。」と訂正し、特許明細書の請求項3「前記遅延手段は、前記遅延時間が可変であることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。」を「前記露光量計測制御手段は、前記発光同期信号が発生してから前記パルス光が発するまでの時間の経時変化分を計測する手段を有し、前記遅延手段は、計測された経時変化分に応じて前記遅延させる時間を可変することを特徴とする請求項1に記載の露光装置。」と訂正する。
訂正事項b
特許明細書の請求項2を削除する。
2.2 訂正後の請求項
請求項1
発光同期信号に基づいてパルス光を発するエキシマレーザ光源と、前記エキシマレーザ光源からの複数の前記パルス光を用いてマスク上の所定のパターンをウエハ上に投影露光する露光手段と、前記エキシマレーザ光源から発せられる各パルス光のパワーを1パルス毎に積分し、前記複数のパルス光による該積分値を積算した値に基づいて前記ウエハに対する露光量を所定の値に制御する露光量計測制御手段を備えた露光装置において、
前記露光量計測制御手段は、前記発光同期信号の発生から遅延させて前記積分を開始することによりノイズもしくはオフセット分の前記積分値への加入を規制する手段と、前記遅延させる時間を可変する手段を有することを特徴とする露光装置。
請求項2
前記露光量計測制御手段は、前記発光同期信号が発生してから前記パルス光が発するまでの時間の経時変化分を計測する手段を有し、前記遅延手段は、計測された経時変化分に応じて前記遅延させる時間を可変することを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
3. 訂正の適否
3.1 目的該当性等について
訂正事項aについては、請求項記載の「パルス発光する光源」を、下位概念である「発光同期信号に基づいてパルス光を発するエキシマレーザ光源」と訂正し、「露光装置」を、下位概念である「前記エキシマレーザ光源からの複数の前記パルス光を用いてマスク上の所定のパターンをウエハ上に2投影露光する露光手段を備えた露光装置」と訂正し、請求項記載の「露光量計測手段」を、下位概念である「前記エキシマレーザ光源から発せられる各パルス光のパワーを1パルス毎に積分し、前記複数のパルス光による該積分値を積算した値に基づいて前記ウエハに対する露光量を所定の値に制御する露光量計測制御手段」と訂正し、請求項記載の「ノイズもしくはオフセット分の加入を規制する手段」を、下位概念である「前記発光同期信号の発生から遅延させて前記積分を開始することによりノイズもしくはオフセット分の前記積分値への加入を規制する手段」と訂正し、かつ露光量計測制御手段が、前記遅延させる時間を可変する手段を有することを明りょうにしたものである。
従って、上記訂正事項aについては、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明にあたる。
また、上記訂正事項aは、願書に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。
上記訂正事項bについては、特許請求の範囲を減縮にあたる。
また、上記訂正事項bは、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。
3.2 独立特許要件について
本件発明は、各パルス光のパワーを1パルス毎に積分し、該積分値を積算した値に基づいてウエハに対する露光量を制御するものであるのに対し、甲第1号証は、パルス光の各々のピーク値を求め、そのピーク値を積算した値に基づいてウエハに対する露光量を制御するものであり、この点で両者は異なる。
また、甲第1号証は、パルス光のピーク値が同じであればパルスの幅や形状が異なっても検出値は同じになり、本件発明が目指す高精度は必ずしも達成し得ない。
そして、甲第1号証の遅延回路13は、サンプル・ホールド回路6をリセットするためのものであるから、サンプル・ホールド回路6をリセットしないとすれば、あるピーク値を保持した後は、それより小さいピーク値は検出できないことになる。遅延回路13は、前に検出したピーク値より小さいピーク値であっても検出できるようにするために設けられた回路である。したがって、遅延回路13は、本件請求項の遅延手段とは機能または用途が異なり、ノイズ成分を排除するためのものではない。
甲第2号証は、LEDに関するものであり、LEDと本件発明のエキシマレーザとは光源としての特性が全く異なる。エキシマレーザは、発光同期パルス(トリガ信号)から遅延してパルス発光するが、LEDは駆動信号に対する発光の遅れは実質的に無く、LEDは駆動信号に従って時間的に忠実に発光し、駆動信号が連続信号であれば連続発光し、駆動信号がパルス信号であればパルス発光するとともに、駆動信号に対する発光の遅延もない。また、受光量を精度良く検出するものではない。
甲第3号証は、発光開始時にタイミング回路(49)の出力端子(CI)から出力される”High”の信号によりコンデンサ(45)が積分を開始し、これより一定時間遅れてキセノン管(1)をトリガする。すなわち、甲第3号証では、積分を開始してからトリガを発生しており、本件発明と比べると発光同期信号(トリガ)と積分開始のタイミングが逆転している。なお、甲第3号証の遅延回路DLは、A-D変換器の動作開始を積分コンデンサにキセノン管の発光パワーの蓄積が終了するまで遅延させるものであり、積分開始を遅延させるものではない。
そうすると、甲第1〜3号証のいずれにも、「エキシマレーザ光源から発せられる各パルス光のパワーを1パルス毎に積分」する構成が記載されておらず、また、甲第1〜3号証には、本件請求項に係る発明が解決しようとする課題が記載も示唆もされていない。
そうすると、訂正後の本件請求項1及び2に係る発明は、甲第4号証に記載された発明を参照しても、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとすることができない。
3.3 訂正の適否の判断
上記訂正事項a及びbは、上記3.1及び3.2のとおりであるから、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、改正前の特許法第126条第1項ただし書、同条第2項及び同条第3項の規定に適合する。
従って、当該請求を認める。
4.特許異議申立てについての判断
4.1 本件請求項1及び2に係る発明
上記2.2に記載のとおり。
4.2 異議申立ての理由の概要
上記1.1に記載のとおり。
4.2.1 本件請求項1に係る発明と甲各号証との対比、判断
独立特許要件を判断した上記3.2のとおりであるから、本件請求項1及び2に係る発明は、上記甲第1号証〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとすることができない。
5.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1及び2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
従って、本件請求項1及び2に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
露光装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 発光同期信号に基づいてパルス光を発するエキシマレーザ光源と、前記エキシマレーザ光源からの複数の前記パルス光を用いてマスク上の所定のパターンをウエハ上に投影露光する露光手段と、前記エキシマレーザ光源から発せられる各パルス光のパワーを1パルス毎に積分し、前記複数のパルス光による該積分値を積算した値に基づいて前記ウエハに対する露光量を所定の値に制御する露光量計測制御手段を備えた露光装置において、
前記露光量計測制御手段は、前記発光同期信号の発生から遅延させて前記積分を開始することによりノイズもしくはオフセット分の前記積分値への加入を規制する手段と、前記遅延させる時間を可変する手段を有することを特徴とする露光装置。
【請求項2】 前記露光量計測制御手段は、前記発光同期信号が発生してから前記パルス光が発するまでの時間の経時変化分を計測する手段を有し、前記遅延手段は、計測された経時変化分に応じて前記遅延させる時間を可変することを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はパルス光を露光光とする露光装置に関し、特に、積算露光量の計測に際して検出値に含まれるノイズやオフセット分の加入を規制することにより正確な積算露光量を計測して適正で精度の高い積算露光を行なえるようにした露光装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近の光リソグラフィ技術では、素子の微細化に伴って、より短い波長で露光する装置が開発されている。例えば、KrFエキシマレーザは波長248nmでパルス状に発光し、これを光源とした装置では、0.3μm程度までのパターンの焼付が期待されている。
【0003】
図9はこのような短波長の光源としてエキシマレーザを使用した露光装置の全体構成を示すものである。同図において6-1は露光光源であるエキシマレーザ、6-2はビームを整形するためのビーム整形光学系、6-3は全反射ミラー、6-4はコヒーレンシーをなくす為のインコヒーレント光学系、6-5は第1コンデンサーレンズ、6-6は露光量積算の為のディテクタ6-17へ光を導く為のハーフミラー、6-7は第2コンデンサーレンズ、6-8は全反射ミラー、6-9はコリメータレンズ、6-10は回路素子パターンの原版であるところのレチクル、6-11は投影レンズ、6-12はパターンが焼き付けられるウエハ、6-13はθZステージ、6-14はXステージ、6-15はYステージ、6-16は前記3つのステージ6-13〜6-15を制御するステージ制御部、6-20は装置全体のシーケンスを制御するシーケンス制御部、6-21は種々のパラメータを入力するための入力装置である。ディテクタ6-17は信号処理部6-18へ接続され、更に信号処理部6-18の出力は露光制御部6-19へ接続されている。
【0004】
この種の装置では、適正露光を得る為に、通常、積算露光を用いる。この手法は、ウエハに到達する露光エネルギーを積算して、その積算値が適正露光を得る為に必要な値となるように露光を終了するというものである。図9においては、ディテクタ6-17、信号処理部6-18および露光制御部6-19が主としてその機能を提供している。
【0005】
図10はそのような露光量積算に関わるディテクタおよび信号処理部等の詳細を示したものである。同図において、7-1はエキシマレーザであり、図9のハーフミラー6-6で反射した光束がディテクタ7-2に入射する。7-3はディテクタ7-2の出力を積分する為の積分回路、7-4は積分回路7-3の出力を保持する為のホールド回路、7-5はホールド回路7-4の出力をA-D変換する為のA-D変換回路、7-6はA-D変換回路7-5の出力を積算する為の計測制御部、7-7はエキシマレーザ7-1から発光同期信号を取り込んで前記各回路7-3〜7-5に所望のタイミング信号を供給するタイミング制御部である。
【0006】
図11は、露光パルス1パルス当りの積分動作におけるタイムチャートであり、図10と共にその動作を説明すれば、計測制御部7-6がエキシマレーザ7-1に発光命令を出力すると、エキシマレーザ7-1は、発光同期信号Lとそれに続く発光パルスPを出力する。発光同期信号Lはタイミング制御部7-7に、発光パルスPはディテクタ7-2にそれぞれ入力される。時刻t00に発光同期信号Lがタイミング制御部7-7に入力されると、タイミング制御部7-7は時刻t01から時間幅T01の積分ゲート信号Gを生成して積分回路7-3に供給する。したがって、発光パルスPの受光信号であるディテクタ7-2の出力Dがこの時間幅T01の区間で積分されることになる。時刻t02においてタイミング制御部7-7はホールド信号Hを生成し、ホールド回路7-4に供給する。この際、ホールド回路7-4のホールド出力すなわちホールド回路7-4が保持している値は、時刻t02における積分回路7-3の出力である。したがって、後段のA-D変換回路7-5の入力は、時刻t01から時刻t02までの間すなわち区間T02におけるディテクタ出力Dの積分値である。時刻t03においてタイミング制御部7-7はA-Dスタート信号Sを生成してA-D変換回路7-5に供給すると、A-D変換回路7-5は変換動作を開始してA-D状態信号Cを高レベルにし、時刻t05において変換動作が終了するとA-D状態信号Cを低レベルに戻すと同時に変換データを計測制御部7-6へ送出する。
【0007】
以上のように発光パルス1パルス当りのエネルギーを計測し、更にこれを積算してゆくことで積算露光を実現しているのである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述従来例においては、ディテクタ7-2としては通常、光電変換素子あるいは熱電気変換素子等が使用されており、これらの素子には種々の理由でノイズや暗電流やオフセット電圧が存在し、またそれらは、温度等の影響で時間の経過と共に変動するいわゆるドリフトを伴っている。このため、そのノイズやオフセット電圧は区間T02において信号成分と共に積分され、またオフセット電圧のドリフトも感知し得ないので、発光パルス1パルス当りの計測に誤差が生じることになる。
【0009】
ところで、発光同期信号Lが出力されてから、発光パルスPが出力されるまでの時間には、通常、数百〜数千ナノ秒のばらつきあるいは変化が存在する。このため、区間T02は、それらのばらつきを充分カバーするために少くとも数千ナノ秒の時間幅が必要となる。これに対して発光パルスの時間幅は、通常、10〜数十ナノ秒程度であり、両者の時間幅の比は、数百対1である。このことは、区間T02において、信号電圧の数百分の一のノイズやオフセット電圧があったとき、計測値が真値の約2倍となることを意味している。実際の露光精度は、通常、1〜2%が要求されることを考慮すれば、前記信号電圧の数万分の一のノイズもしくはオフセットの存在が、非常に大きな問題となるのである。したがって、上述従来例においては、前記計測誤差は、積算露光における露光精度の著しい低下を生じせしめ、適正な露光ができないという重大な欠点がある。
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑み、パルス光を用いた露光装置において、積算露光量をより高い精度で計測できるようにして適正で精度の高い露光が行なえるようにすることにある。
【0011】
【課題を解決するための手段および作用】
上記目的を達成するため本発明では、パルス発光する光源と、該光源の発光パルスの露光量を測定する露光量計測手段とを備えた露光装置において、該露光量計測手段はノイズもしくはオフセット分の加入を規制する手段を備えるようにしている。
【0012】
発光パルスのエネルギーは、光電変換してパルス部分を積分することにより計測されるが、光電変換に用いる素子には経時変化を伴うノイズや暗電流やオフセット電圧が存在するので計測値にはこれらのノイズやオフセット分が含まれることになる。本発明ではこのノイズやオフセット分が加入されないように規制された値すなわち発光パルス1パルス当りのエネルギーの積分値そのものが、真の計測値として採用される。したがって、正確な積算露光量に基づく適正な露光が行なわれる。
【0013】
【実施例】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
図1は、本発明の一実施例に係る露光装置の構成図である。同図において、エキシマレーザ光源1は例えばKrFやXeClが封入され、パルス化されたレーザ光を発光する光源である。エキシマレーザ光源1で発生したレーザ光は照明系2に入射する。照明系2は、入射したレーザ光を所望のビーム形状に整形し、光束の配光特性を均一にして出射させるものである。照明系2の出射光路には集積回路パターンが形成されたマスクMが配置され、投影光学系3によりこの集積回路パターンはウエハW上に投影露光される。
【0014】
一方、照明系2から出射した光束の一部は、ミラー4によってセンサ5の光電変換面に入射される。エキシマレーザ1の出射パルス光の時間的な幅は数10ns程度と極めて短いため、センサ5としてはPINフォトダイオードやバイプラナ光電管のような応答性が数ns以下の光電変換素子を用いるのがよい。また、照明系2の出射ビームは配光特性が均一であるため、センサ5に入射する光のパワーとウエハWに到達する光のパワーは比例関係にある。したがって、センサ5の電気的出力信号を計測することによってウエハWでの光のパワーをモニタすることができる。
【0015】
センサ5の出力信号は積分器6に入力され、レーザ光の1パルス毎に電気的にアナログ積分される。そして、その積分値はA/D変換器7によってディジタル値に変換されマイクロコンピュータ8に読み込まれる。マイクロコンピュータ8はこの1パルス毎のディジタル化された積分値を積算する。そして、その積算値とあらかじめ設定されたウエハWへの露光量と比較して、設定露光量よりも大きくなったら、レーザ制御部9に指令を出してエキシマレーザ1の発光を停止させる。これによって露光量制御を行なうことができる。
積分制御信号発生部10は、積分器6に積分開始および終了を規定する積分制御信号を発生させる部分である。
【0016】
図2は、積分器6に関する処理タイミングを示すタイミングチャートである。同図において、発振同期信号aは実発光のタイミングの数μs前にエキシマレーザ1から出力される同期信号である。この発振同期信号aとしては、通常、レーザ発光のトリガーとなるサイラトロンのトリガー信号を使用する。そのため、この同期タイミングからレーザの実発光タイミングまでのディレイ時間(遅延時間)tXは固定ではなく、経時変化する。また、数10nsのジッタ成分を含んでいることが知られている。
そこで本実施例では、この発振同期信号aを基準とし、これから
【0017】
【数1】
発光ディレイ時間tX-ジッタ分=積分開始時間t1
の後に積分を開始し、さらに発光時間tWに対してマージンを見込んだt2時間の後に積分器出力をホールドすることとした。このようにすることより積分器6の積分区間にレーザの実発光エネルギーを収めることができる。
【0018】
積分実行時間t2は積分値の精度を上げるためには極力短い方が有効である。その理由は、レーザ1の発光を電気信号に変換するセンサ5の出力信号にはノイズが混入することがあり、またそのオフセットレベルが微小に変動(ドリフト)するため、これらを考慮して数10nSのパルスを積分するために敏感になっている積分器6への影響を少なくするためである。
【0019】
積分制御信号発生部10は、積分開始時間t1と積分開始からホールドまでの積分実行時間t2とをマイクロコンピュータ8の指令により可変できるような積分制御信号、すなわち積分開始信号cとホールド信号dとをエキシマレーザ1の発振に同期して出力する。
【0020】
図3は積分開始時間t1が発光ディレイ時間tXに比べて長くなった時のタイミングを、図4は短くなった時のタイミングを示している。これらの図から明らかなように、発光ディレイ時間tXに対し適切な積分開始時間t1を設定していないと、積分値は適切な積分開始時間を与えた時に比べ小さな値となる。
【0021】
次に、図6および図8のフローチャートを参照して、積分開始時間t1および積分実行時間t2の決定の手順を説明する。なお、これらのフローチャートにおいて用いる記号t1,t2,Δt,i,n,Lなどはマイクロコンピュータ8内のレジスタあるいは不図示のメモリ上に確保された記憶領域を示すものとする。例えば、t1は積分タイミングの値を記憶するために確保されたレジスタなどを表わし、t2は積分実行時間の値を記憶するために確保されたレジスタなどを表わすものとする。
【0022】
図6のステップS1でマイクロコンピュータ8はレジスタなどの初期設定を行なう。ここではt2を100、iを0、nを50、Δtを10ns、L(0)〜L(n)を0と設定する。Lは配列である。
なお、ここで初期設定を行なう際にt2はパルス光の発光幅+ジッタ成分+マージン分を見込んだ値を設定しておく。またt1は発光ディレイ時間が最も短い時を考慮して設定されている。
【0023】
次にステップS2で、記憶保持しているt1およびt2の値を積分制御信号発生部10に指定する。そして、ステップS3でマイクロコンピュータ8は1パルス発光命令を出力し、ステップS4で積分値Aを読み込む。ステップS5で、t1をΔtだけ増加させ、iをインクリメントし、L(i)に積分値Aをセットする。次に、ステップS6でiがn以上となったか否か判別し、そうでなければステップS2に戻り再びステップS2〜S6を繰返す。iがn以上の場合はステップS6からステップS7へと進む。ステップS7でL(0)〜L(n)の最大値を求め、それをMとする。そして、ステップS8で
【0024】
【数2】
L(j)<0.8M<L(j+1)
L(k)>0.8M>L(k+1)
となるj,kを求め、ステップS9でT1を
【0025】
【数3】

と算出する。そして、この値はマイクロコンピュータに保持記憶される。
【0026】
上記のシーケンスは、積分開始時間t1を変化させて積分値をマイクロコンピュータで読み込み、その積分値の中で最大のものを探し、最大値の80%と交差する時間jとkを求め、その中間値をT1とするものである。図5はiと積分値との関係を示すグラフである。
【0027】
次に、図8のフローチャートに示す手順でt1,t2を求める。まず、ステップS11でt2を0、iを0、nを50、Δtを1ns、L(0)〜L(n)を0と初期設定する。次にステップS12で、記憶保持しているT1およびt2よりt1を
【0028】
【数4】

とし、ここでPは、ステップS1で初期設定されるt2の設定値を示す。次に、ステップS13でこのt1,t2の値を積分制御信号発生部10に指定する。そして、ステップS14でマイクロコンピュータ8は1パルス発光命令を出力し、ステップS15で積分値Aを読み込む。ステップS16で、t2をΔtだけ増加させ、iをインクリメントし、L(i)に積分値Aをセットする。次に、ステップS17でiがn以上となったか否か判別し、そうでなければステップS12に戻り再びステップS12〜S17を繰返す。iがn以上の場合はステップS17からステップS18へと進む。ステップS18でL(0)〜L(n)の最大値を求め、それをMとする。そして、ステップS19で
【0029】
【数5】
L(j)<0.9M<L(j+1)
となるjで最小のjを求め、ステップS20でt1,t2を
【0030】
【数6】

と算出する。
【0031】
上記のシーケンスは、積分実行時間t2を変化させて積分値をマイクロコンピュータで読み込み、その積分値の中で最大のものを探し、最大値の90%と交差する時間のうち最小のものを求め、それを1.5倍してt2としたものである。t1は式(a)より求める。このようにして最適なt1とt2を求めることができる。図7はt2と積分値との関係を示すグラフである。
【0032】
なお、上記実施例ではステップS1の初期設定でt2=100nS、Δt=10nsとし、さらにステップS8で80%、ステップS19で90%、ステップS20で1.5倍といった定数値を用いたが、これに限られるものではなく、適宜変更して実行することができる。
【0033】
上述したように、レーザ1の発光を電気信号に変換するセンサ5の出力信号にはノイズが混入することがあり、またそのオフセットレベルが微小に変動する。本実施例にしたがって、上記のように求めた積分開始時間t1および積分実行時間t2の最適値を積分制御信号発生部に設定すれば、これらのノイズやオフセットの加入が規制され、精度の高い積分が実現できることとなる。この最適値設定を例えばウエハ1枚ごとに行なえば、エキシマレーザの経時変化やノイズ混入やオフセット変動の影響を受けない露光量制御を行なうことができる。
【0034】
【他の実施例】
上記実施例では積分器6としてアナログ回路を用いたが、ディジタルサンプリングと加算回路で実施することもできる。また、積分実行時間t2の経時変化は積分開始時間t1に比べ小さいため、t2を一定値とすることも可能である。
【0035】
さらに、上記実施例ではレーザ光源1の側から発振同期信号を受け取っているが、レーザを外部同期発光させる場合は、レーザ側に与える同期信号を発振同期信号として用いても同様の効果が得られる。また、積分開始時間とホールドのタイミングを一つの信号の立上りと立下りにした積分ウインドウ信号で積分器6をコントロールしてもよい。さらに、最適タイミングの決定手段は実施例ではマイクロコンピュータ8が計算により行なっているが、計算方法は上記実施例に限らず、アナログ回路により実現することも可能である。
【0036】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、光源の発光パルス受光信号中のノイズもしくはオフセットの加入を規制することで、露光量測定におけるノイズの混入もしくはオフセットのドリフトによる誤差を抑制することができ、正確な積算露光が実施できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例に係る露光量監視装置の構成図である。
【図2】 本実施例の装置の信号タイミングを説明するためのタイミングチャートである。
【図3】 本実施例の装置の信号タイミングを説明するためのタイミングチャートである。
【図4】 本実施例の装置の信号タイミングを説明するためのタイミングチャートである。
【図5】 T1 の決定の際のiと積分値との関係を示すグラフである。
【図6】 本実施例におけるマイクロコンピュータの処理の一部を説明するためのフローチャートである。
【図7】 t1,t2の決定の際のt2と積分値との関係を示すグラフである。
【図8】 本実施例におけるマイクロコンピュータの処理の一部を説明するためのフローチャートである。
【図9】 露光装置全体の構成図である。
【図10】 従来例のブロック図である。
【図11】 図10の構成における動作を示したタイムチャートである。
【符号の説明】 1:エキシマレーザ、2:照明系、3:投影光学系、4:ハーフミラー、5:光電変換素子、6:積分器、7:A/D変換器、8:マイクロコンピュータ、9:レーザ制御部、10:積分制御信号発生部、M:マスク、W:ウエハ。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とし、訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項a
特許明細書の請求項1「パルス発光する光源と、該光源の発光パルスの露光量を測定する露光量計測手段とを備えた露光装置であって、該露光量計測手段は、ノイズもしくはオフセット分の加入を規制する手段を具備することを特徴とする露光装置。」を「発光同期信号に基づいてパルス光を発するエキシマレーザ光源と、前記エキシマレーザ光源からの複数の前記パルス光を用いてマスク上の所定のパターンをウエハ上に投影露光する露光手段と、前記エキシマレーザ光源から発せられる各パルス光のパワーを1パルス毎に積分し、前記複数のパルス光による該積分値を積算した値に基づいて前記ウエハに対する露光量を所定の値に制御する露光量計測制御手段を備えた露光装置において、
前記露光量計測制御手段は、前記発光同期信号の発生から遅延させて前記積分を開始することによりノイズもしくはオフセット分の前記積分値への加入を規制する手段と、前記遅延させる時間を可変する手段を有することを特徴とする露光装置。」と訂正し、特許明細書の請求項3「前記遅延手段は、前記遅延時間が可変であることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。」を「前記露光量計測制御手段は、前記発光同期信号が発生してから前記パルス光が発するまでの時間の経時変化分を計測する手段を有し、前記遅延手段は、計測された経時変化分に応じて前記遅延させる時間を可変することを特徴とする請求項1に記載の露光装置。」と訂正する。
訂正事項b
特許明細書の請求項2を削除する。
異議決定日 2001-12-25 
出願番号 特願平9-305041
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西脇 博志國島 明弘  
特許庁審判長 高橋 美実
特許庁審判官 綿貫 章
辻 徹二
登録日 1998-08-14 
登録番号 特許第2814076号(P2814076)
権利者 キヤノン株式会社
発明の名称 露光装置  
代理人 伊東 辰雄  
代理人 伊東 哲也  
代理人 伊東 辰雄  
代理人 関口 鶴彦  
代理人 渡辺 隆男  
代理人 関口 鶴彦  
代理人 伊東 哲也  

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