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審決分類 審判 一部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 一部申し立て 5項3号及び6項 請求の範囲の記載形式不備  C08G
管理番号 1056603
異議申立番号 異議2001-70969  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-11-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-30 
確定日 2002-02-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3093315号「ポリカーボネート組成物の製造方法」の請求項1、3〜8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3093315号の請求項2〜7に係る特許を維持する。 
理由 [1] 手続きの経緯
本件特許第3093315号発明は、平成3年4月30日に出願され、平成12年7月28日にその特許の設定登録がなされ、その後、三菱化学株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年10月30日に特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。
[2] 訂正の適否についての判断
1.訂正事項
特許権者の提出した訂正明細書と訂正前の明細書を対比すると、訂正事項は次のようなものにまとめられる。
訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1を削除する。
訂正事項2:特許請求の範囲の請求項2を請求項1と訂正する。
訂正事項3:特許請求の範囲の請求項3〜12をそれぞれ請求項2〜11と訂正するとともに特許請求の範囲の請求項3〜12の各請求項で引用されていた請求項を次のように訂正する。
(1)〔本件特許の設定登録時の請求項3の引用請求項1または2〕を〔訂正後の請求項2の引用請求項1〕と訂正。
(2)〔本件特許の設定登録時の請求項4の引用請求項1〜3〕を〔訂正後の請求項3の引用請求項1または2〕と訂正。
(3)〔本件特許の設定登録時の請求項5の引用請求項1〜4〕を〔訂正後の請求項4の引用請求項1〜3〕と訂正。
(4)〔本件特許の設定登録時の請求項6の引用請求項1〜5〕を〔訂正後の請求項5の引用請求項1〜4〕と訂正。
(5)〔本件特許の設定登録時の請求項7の引用請求項1〜6〕を〔訂正後の請求項6の引用請求項1〜5〕と訂正。
(6)〔本件特許の設定登録時の請求項8の引用請求項1〜7〕を〔訂正後の請求項7の引用請求項1〜6〕と訂正。
(7)〔本件特許の設定登録時の請求項9の引用請求項1〜8〕を〔訂正後の請求項8の引用請求項1〜7〕と訂正。
(8)〔本件特許の設定登録時の請求項10の引用請求項2〜9〕を〔訂正後の請求項9の引用請求項1〜8〕と訂正。
(9)〔本件特許の設定登録時の請求項11の引用請求項2〜10〕を〔訂正後の請求項10の引用請求項1〜9〕と訂正。
(10)〔本件特許の設定登録時の請求項12の引用請求項2〜11〕を〔訂正後の請求項11の引用請求項1〜10〕と訂正。
訂正事項4:発明の詳細な説明の段落【0010】における「……[A]……、[B]……と、[C]リン化合物とを添加し、かつ……」を「……[A]……、[B]……と、[C]リン化合物と、[D]エポキシ化合物とを添加し、かつ……」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許の設定登録時の請求項1そのものの削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的したものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1により本件特許の設定登録時の請求項1が削除されたことにより、本件特許の設定登録時の請求項2の請求項の番号を繰り上げるものであり、請求項の欠番という不自然さを解消させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、本件の願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内におけるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1により請求項1が削除されたことにより、本件特許の設定登録時の請求項3〜12の請求項の番号を繰り上げるとともに、本件特許の設定登録時の請求項3〜12における引用請求項の番号を繰り上げるものであり、本件特許の設定登録時の請求項3〜12に係る発明における本件特許の設定登録時の請求項1を引用する部分が削除されたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件の願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内におけるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1及び訂正事項2により特許請求の範囲の記載が訂正されたのに伴って、その訂正された特許請求の範囲の記載と整合するように発明の詳細な説明を訂正するものであるから、明りょうでない記載を釈明することを目的とするものであって、本件の願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内におけるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3.訂正後の請求項8〜請求項11に係る発明の独立特許要件について
訂正後の請求項8〜請求項11に係る発明は、訂正によって本件特許の設定登録時の請求項1が削除されたことに伴って、特許異議申立て対象請求項になっていない本件特許の設定登録時の請求項9〜請求項12の請求項番号が繰り上がったものであるから、特許異議申立ての対象請求項ではないが、本件特許の設定登録時の請求項9〜請求項12に係る発明における本件特許の設定登録時の請求項1を引用する部分が削除されたものであるから、本件特許の設定登録時の請求項9〜請求項12を訂正後の請求項8〜請求項11にした訂正は特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
そして、訂正後の請求項8〜請求項11に係る発明は、訂正後の請求項1に係る発明、即ち、本件特許の設定登録時の請求項2に係る発明を直接的又は間接的に引用するものである。
そこで、訂正後の請求項1に係る発明、即ち、本件特許の設定登録時の請求項2に係る発明について検討すると、訂正後の請求項1に係る発明は、本件特許の設定登録時の請求項1に係る発明に比べて更に添加物質としてエポキシ化合物を使用することを必須とする点で相違しているが、この点について特許異議申立人三菱化学株式会社が特許異議申立証拠として提出した甲第1号証〜甲第12号証〔甲第1号証(特公昭46-20503号公報)、甲第2号証(特開平1-272631号公報)、甲第3号証(特開昭63-51429号公報)、甲第4号証(特開平2-175723号公報)、甲第5号証(特開昭53-64262号公報)、甲第6号証(HERMANN SCHNELL,“CHEMISTRY AND PHYSICS OF POLYCARBONATES”1964年,第49頁)、甲第7号証(KUNSTSTOFF-HANDBUCH,1973年,第15頁〜第16頁)、甲第8号証(特開昭62-158719号公報)、甲第9号証(特開昭61-151236号公報)、甲第10号証(特開昭54-36363号公報)、甲第11号証(特開平1-146950号公報)、甲第12号証(特開昭51-67394号公報)〕の記載を検討すると、甲第2号証、甲第3号証及び甲第10号証には任意の添加剤の一例としてエポキシ化合物が例示され、また、甲第11号証には(a)亜リン酸エステル及び(c)脂肪族エステル化合物とともに必須の成分として(b)脂環式エポキシ化合物を併用する発明が記載されている。
しかし、甲第2号証、甲第3号証及び甲第10号証の記載は単に任意添加剤成分の一つとしてエポキシ化合物を例示しているに過ぎないものであり、この記載から訂正後の請求項1に係る発明のように特定の製造方法で得られた特定の粘度のポリカーボネートが溶融状態にある間に、必須成分としてエポキシ化合物を他の2成分と共に添加することまでを示唆しているとはいえない。また、甲第11号証に記載された発明は、リン化合物とエポキシ化合物と脂肪族エステル化合物の組み合わせは示唆しているものの、イオウ含有酸性化合物の添加については何の示唆もない点で少なくとも訂正後の請求項1の発明と相違しており、ポリカーボネートにイオウ含有酸性化合物を添加する甲第3号証、甲第5号証〜甲第8号証に記載された発明と組み合わせてみても、エポキシ化合物が反応性に富んでいることを考慮すると、ポリカーボネートとイオウ含有酸性化合物とリン化合物とエポキシ化合物を配合することが容易であると言うことはできない。
それ故、訂正後の請求項1に係る発明は、上記甲第1号証〜甲第12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができないものである。
してみると、訂正後の請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項8〜請求項11に係る発明も上記甲第1号証〜甲第12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができないものである。
したがって、訂正後の請求項8〜請求項11に係る発明は本件特許の出願の際独立して特許を受けることができるものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成六年法律第百十六号。以下「平成六年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第百二十条の四第三項において準用する平成六年改正法による改正前の特許法第百二十6条第1項ただし書、第二項及び第三項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
[3] 特許異議申立てについての判断
1.本件発明
訂正後の本件請求項1〜請求項11に係る発明は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載の次のものである。
「【請求項1】芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、1×10-8〜2×10-6モルの量の(a)アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を含有する触媒の存在下に溶融重縮合させた後、反応生成物である[A]ポリカーボネートの20℃塩化メチレン中で測定した極限粘度が0.10〜1.0dl/gの範囲にあり、かつ[A]ポリカーボネートが溶融状態にある間に、
[B]pKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体と、
[C]リン化合物と、
[D]エポキシ化合物と
を添加し、かつ添加される[B]イオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体の量を、反応生成物である[A]ポリカーボネートに対して、0.1〜10ppmとすることを特徴とするポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項2】(a)アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、1×10-7〜2×10-6モルの量で用いることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項3】添加される[B]イオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体の量を、反応生成物である[A]ポリカーボネートに対して、0.1〜5ppmとすることを特徴とする請求項1または2に記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項4】[B]イオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体として、下記一般式[III]で表される化合物を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【化1】

式中、R7は炭素数1〜50の炭化水素基(水素はハロゲンで置換されていてもよい)であり、R8は水素または炭素数1〜50の炭化水素基(水素はハロゲンで置換されていてもよい)であり、nは0〜3の整数である。
【請求項5】[B]イオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体として、p-トルエンスルホン酸ブチルを用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項6】添加される[C]リン化合物の量を、反応生成物である[A]ポリカーボネートに対して、10〜1000ppmとすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項7】[C]リン化合物として、芳香族亜リン酸エステル化合物を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項8】[C]リン化合物として、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトを用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項9】添加される[D]エポキシ化合物の量を、反応生成物である[A]ポリカーボネートに対して、1〜2000ppmとすることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項10】[D]エポキシ化合物として、脂環族エポキシ化合物を用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項11】[D]エポキシ化合物として、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレートを用いることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。」
2.特許異議申立理由の概要
特許異議申立人三菱化学株式会社は特許異議申立証拠として、
甲第1号証(特公昭46-20503号公報)、甲第2号証(特開平1-272631号公報)、甲第3号証(特開昭63-51429号公報)、甲第4号証(特開平2-175723号公報)、甲第5号証(特開昭53-64262号公報)、甲第6号証(HERMANN SCHNELL,“CHEMISTRY AND PHYSICS OF POLYCARBONATES”1964年,第49頁)、甲第7号証(KUNSTSTOFF-HANDBUCH,1973年,第15頁〜第16頁)、甲第8号証(特開昭62-158719号公報)、甲第9号証(特開昭61-151236号公報)、甲第10号証(特開昭54-36363号公報)、甲第11号証(特開平1-146950号公報)、甲第12号証(特開昭51-67394号公報)を提出して、
(イ)本件特許の設定登録時の請求項1、3〜8に係る発明は、これらの挙証に記載された公知あるいは周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
それ故、本件特許の設定登録時の請求項1、3〜8に係る発明の特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものであるから取り消されるべきものである
(ロ)本件特許の設定登録時の請求項1に係る発明は、リン化合物の量が規定されておらず、また、「PKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体」と「リン化合物」の併用の組み合わせは膨大な数になるにもかかわらず、実施例には僅か1点の組み合わせの例があるに過ぎず、そのすべてについて効果が成立するとは考えられないから、本件特許明細書における特許請求の範囲の請求項1の記載は不備である。
それ故、本件特許の設定登録時の請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから取り消されるべきものである
と主張している。
3.特許異議申立てについての判断
(1)特許異議申立理由(イ)について
特許異議申立理由(イ)は専ら本件特許の設定登録時の請求項1に係る発明について論じられており、本件特許の設定登録時の請求項1を引用する本件特許の設定登録時の請求項3〜8に係る発明においてもその点は同様である。
また、本件特許の設定登録時の請求項2に係る発明及び本件特許の設定登録時の請求項9〜12に係る発明、即ち、訂正後の請求項1に係る発明及び訂正後の請求項8〜11に係る発明は元々特許異議申立ての対象となっていなかった発明である。
そして、本件特許の設定登録時の請求項3〜8に係る発明、即ち、訂正後の請求項2〜7に係る発明はすべて本件特許の設定登録時の請求項1または2を直接的又は間接的に引用しており、訂正の結果、本件特許の設定登録時の請求項3〜8の各請求項のうち、本件特許の設定登録時の請求項2を引用する部分の発明については特許異議申立ての対象がなくなった訳であるが、本件特許の設定登録時の請求項1を引用する部分の発明については依然として特許異議申立ての対象となっているという他はない。
しかし、本件特許の設定登録時の請求項3〜8の各請求項のうちの本件特許の設定登録時の請求項1を引用する部分の発明については特許異議申立人は単に「上記の各特許発明は、請求項1に記載の特許発明について前述した理由により、何れも当業者にとっては容易であり、特許法第29条第2項の規定に該当する。」(特許異議申立書第16頁第10行〜第12行)というだけであって、何等具体的な特許異議申立理由を述べていない。
ところで、特許異議申立人が主張する本件特許の設定登録時の請求項1に係る発明についての特許法第29条第2項違反の特許異議申立理由はおおよそ次のようなものである。
本件特許の設定登録時の請求項1に係る発明の構成要件を分節すると次のようになる。
「A:芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を含有する触媒の存在下に溶融重合させてポリカーボネートを得る。
B:触媒の量は芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対し1×10-8〜2×10-6モルである。
C:反応生成物であるポリカーボネートの20℃塩化メチレン中で測定した極限粘度が0.1〜1.0dl/gの範囲にあり、かつポリカーボネートが溶融状態にある間に添加物質を添加して組成物とする。
D:添加物質の(1)はPKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体である。
E:添加物質の(2)はリン化合物である。
F:イオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体の量は反応生成物であるポリカーボネートに対し0.1〜10ppmである。」
そして、構成要件Aは当業者にとって周知の技術であり、構成要件Bは本出願前から当業者にとって当たり前とされている事項であり、構成要件Cは第5号証及び甲第12号証に記載されていることであり、構成要件D及びEは本出願前に数多くの公知文献に記載され事項であり、構成要件Fは甲第5号証に記載されていることである。したがって、このような諸構成要件を採用することには特別の困難性はなく、その効果も格別顕著なものでないから、本件特許の設定登録時の請求項1に係る発明は進歩性を欠くというものである。
そして、訂正後の請求項1に係る発明について検討すると、訂正後の請求項1に係る発明は、本件特許の設定登録時の請求項1に係る発明に比べて更に添加物質としてエポキシ化合物を使用することを必須とする点で相違しているが、この点について上記甲第1号証〜甲第12号証の記載を検討すると、甲第2号証、甲第3号証及び甲第10号証には任意の添加剤の一例としてエポキシ化合物が例示され、また、甲第11号証には(a)亜リン酸エステル及び(c)脂肪族エステル化合物とともに必須の成分として(b)脂環式エポキシ化合物を併用する発明が記載されている。
しかし、甲第2号証、甲第3号証及び甲第10号証の記載は単に任意添加剤成分の一つとしてエポキシ化合物を例示しているに過ぎないものであり、この記載から訂正後の請求項1に係る発明のように特定の製造方法で得られた特定の粘度のポリカーボネートが溶融状態にある間に、必須成分としてエポキシ化合物を他の2成分と共に添加することまでを示唆しているとはいえない。また、甲第11号証に記載された発明は、リン化合物とエポキシ化合物と脂肪族エステル化合物の組み合わせは示唆しているものの、イオウ含有酸性化合物の添加については何の示唆もない点で少なくとも本件訂正後の請求項1の発明と相違しており、ポリカーボネートにイオウ含有酸性化合物を添加する甲第3号証、甲第5号証〜甲第8号証に記載された発明と組み合わせてみても、エポキシ化合物が反応性に富んでいることを考慮すると、ポリカーボネートとイオウ含有酸性化合物とリン化合物とエポキシ化合物を配合することが容易であると言うことはできない。
してみれば、特許異議の対象となっていない本件特許の設定登録時の請求項2に係る発明、即ち、訂正後の請求項1に係る発明は、上記甲第1号証〜甲第12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができないものであるから、本件の訂正後の請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由は見い出せない。ましてや、特許異議の対象となっている本件特許の設定登録時の請求項3〜8、即ち、訂正後の請求項2〜7に係る発明は、本件特許の設定登録時の請求項2に係る発明、即ち、訂正後の請求項1に係る発明を、更にその添加物の種類や量で限定するもの(訂正後の請求項2に係る発明は訂正後の請求項1に係る発明のアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の使用量の数値範囲を更に狭くするものであり、訂正後の請求項3に係る発明は訂正後の請求項1に係る発明のイオウ含有酸性化合物の使用量の数値範囲を更に狭くするものであり、訂正後の請求項4は訂正後の請求項1に係る発明で使用するイオウ含有酸性化合物を更に化学式をもって具体的に特定するものであり、訂正後の請求項5に係る発明は訂正後の請求項1に係る発明のイオウ含有酸性化合物をp-トルエンスルホン酸のみにするものであり、訂正後の請求項6に係る発明は訂正後の請求項1に係る発明で使用するリン化合物についてその使用量を規定するものであり、更に、訂正後の請求項7に係る発明は訂正後の請求項1に係る発明のリン化合物を芳香族亜リン酸エステルに特定するものである。)であるから、これらの発明が上記甲第1号証〜甲第12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできないので、本件の訂正後の請求項2〜7に係る発明の特許も取り消すべき理由は見い出せない。
(2)特許異議申立理由(ロ)について
特許異議申立人は本件明細書の記載が不備であるとして次の2つの理由を挙げている。
『(a)本件特許の設定登録時の請求項1に係る発明においては、イオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体の量は規定されているが、リン化合物についての量は何ら規定されていない。しかしながら、如何なる量のリン化合物であっても良い筈はなく、この点で本件特許の設定登録時の請求項1の記載は不備である。
(b)本件特許公報の実施例には、「p-トルエンスルホン酸ブチル」と「トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト」の1点の組み合わせの例しかない。しかしながら、本件特許の設定登録時の請求項1に係る発明においては、「PKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体」と「リン化合物」の併用の組み合わせは膨大の数であり、これらの全てに本件特許発明の効果が成立するとは到底考えられず、この点で本件特許の設定登録時の請求項1の記載は不備である。』
しかし、リン化合物が実質的に含まれていれば微量使用される触媒を中和失活させるものと考えられるのであるから、その量を厳格に規定しなければならないとは考え難いし、また本件特許明細書の段落番号【0069】に、リン化合物の適当量も開示されていることから、上記理由(a)は採用し難いものであり、また、「p-トルエンスルホン酸ブチル」と「トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト」の1点の組み合わせ以外では、どのような化合物の組み合わせで、また、どのような理由で本件発明が実施し得ないのかも明らかでないし、また、特に実施が危ぶまれるケースも思い当たらないので、理由(b)も採用し難いものである。
よって、本件明細書に特許法第36条第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない記載不備があるとすることはできない。
4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、訂正後の本件請求項2〜7に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項2〜7に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正後の本件請求項2〜7に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認められない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成六年法律第百十六号)附則第十4条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成七年政令第二百五号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリカーボネート組成物の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、
芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、1×10-8〜2×10-6モルの量の(a)アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を含有する触媒の存在下に溶融重縮合させた後、
反応生成物である[A]ポリカーボネートの20℃塩化メチレン中で測定した極限粘度が0.10〜1.0dl/gの範囲にあり、かつ[A]ポリカーボネートが溶融状態にある間に、
[B]pKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体と、
[C]リン化合物と、
[D]エポキシ化合物と
を添加し、かつ
添加される[B]イオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体の量を、反応生成物である[A]ポリカーボネートに対して、0.1〜10ppmとすることを特徴とするポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項2】
(a)アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を
芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、1×10-7〜2×10-6モルの量で用いることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項3】
添加される[B]イオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体の量を、
反応生成物である[A]ポリカーボネートに対して、0.1〜5ppmとすることを特徴とする請求項1または2に記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項4】
[B]イオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体として、下記一般式[III]で表される化合物を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【化1】

式中、R7は炭素数1〜50の炭化水素基(水素はハロゲンで置換されていてもよい)であり、R8は水素または炭素数1〜50の炭化水素基(水素はハロゲンで置換されていてもよい)であり、nは0〜3の整数である。
【請求項5】
[B]イオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体として、p-トルエンスルホン酸ブチルを用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項6】
添加される[C]リン化合物の量を、反応生成物である[A]ポリカーボネートに対して、10〜1000PP血とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項7】
[C]リン化合物として、芳香族亜リン酸エステル化合物を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項8】
[C]リン化合物として、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトを用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項9】
添加される[D]エポキシ化合物の量を、反応生成物である[A]ポリカーボネートに対して、1〜2000ppmとすることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項10】
[D]エポキシ化合物として、脂環族エポキシ化合物を用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項11】
[D]エポキシ化合物として、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレートを用いることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の技術分野】
本発明は、ポリカーボネート組成物の製造方法に関し、さらに詳しくは、成形時の熱安定性、色相安定性などの滞留安定性に優れるとともに、耐水性にも優れたポリカーボネート組成物を製造しうるポリカーボネート組成物の製造方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
ポリカーボネートは、耐衝撃性などの機械的特性に優れ、しかも耐熱性、透明性などにも優れており、各種機械部品、光学用ディスク、自動車部品などの用途に広く用いられている。
【0003】
このようなポリカーボネートは、従来、ビスフェノールなどの芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとを直接反応させる方法(界面法)、あるいは、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応させる方法(溶融法)によって製造されている。
【0004】
これらのうち、後者は、前者界面法と比較して安価にポリカーボネートを製造することができるという利点を有するとともに、ホスゲンなどの毒性物質を用いないので、環境衛生上好ましい。
【0005】
ところで、従来のポリカーボネートでは、溶融時に、その一部が熱分解して、分子量が低下したり、着色したりすることがあり、滞留安定性に欠けることがあった。
【0006】
このため、通常、製造後ペレットなどに成形されたポリカーボネートを再溶融し、耐熱安定剤などを添加して、熱安定性を向上させている。しかしながら、この方法では、熱安定性が低い状態でポリカーボネートに加熱処理を施すことになり、また、ポリカーボネートが受ける熱履歴回数を増加させることになる。
【0007】
また、上記耐熱安定剤の添加によって、ポリカーボネートの耐水性が低下することがあり、このようなポリカーボネートから得られる成形体では、使用中に透明性が低下してしまうことがあった。
【0008】
このため、溶融時の熱安定性、色相安定性などの滞留安定性に優れるとともに、耐水性、透明性にも優れた成形体を形成しうるポリカーボネートを効率よく製造することができるポリカーボネートの製造方法の出現が望まれている。
【0009】
【発明の目的】
本発明は、上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、成形時の熱安定性、色相安定性などの滞留安定性に優れるとともに、耐水性、透明性にも優れたポリカーボネート組成物を効率よく製造することができるポリカーボネート組成物の製造方法を提供することを目的としている。
【0010】
【発明の概要】
本発明に係るポリカーボネート組成物の製造方法は、 芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、
芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、1×10-8〜2×10-6モルの量の(a)アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を含有する触媒の存在下に溶融重縮合させた後、
反応生成物である[A]ポリカーボネートの20℃塩化メチレン中で測定した極限粘度が0.10〜1.0dl/gの範囲にあり、かつ[A]ポリカーボネートが溶融状態にある間に、
[B]pKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体と、
[C]リン化合物と、
[D]エポキシ化合物と
を添加し、かつ
添加される[B]イオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体の量を、反応生成物である[A]ポリカーボネートに対して、0.1〜10ppmとすることを特徴としている。
【0011】
本発明に係るポリカーボネート組成物の製造方法によれば、溶融重縮合により得られた反応生成物であるポリカーボネートが溶融状態にある間に、上記[B]、[C]化合物を添加して、耐熱安定性が向上されたポリカーボネート組成物が得られる。したがって、製造工程においてポリカーボネートが受ける熱履歴回数が低減されとともに、その後の加熱処理においても、ポリカーボネート組成物が熱分解するのを抑制することができる。
【0012】
さらに好ましくは[B]、[C]化合物とともに[D]エポキシ化合物を添加しており、耐水性も向上されたポリカーボネート組成物が得られる。本発明で得られるポリカーボネート組成物は、成形時の着色が少なく、透明性、耐水性に優れた成形体を形成しうる。
【0013】
【発明の具体的説明】
以下、本発明に係るポリカーボネート組成物の製造方法について具体的に説明する。
【0014】
まず、本発明では、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、触媒の存在下に溶融重縮合させてポリカーボネートを製造する。
このような芳香族ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、下記式[I]で示される化合物を挙げることができる。
【0015】
【化2】

【0016】
R1およびR2は水素原子または1価の炭化水素基であり、R3は2価の炭化水素基である。またR4、R5は、ハロゲンまたは1価の炭化水素基であり、これらは、同一であっても異なっていてもよい。p、qは0〜4の整数を表す。)
上記芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、以下に示す化合物を挙げることができるビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-1-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルフェニルエーテルなどのジヒドロキシアリールエーテル類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィドなどのジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシドなどのジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホンなどのジヒドロキシジアリールスルホン類。
【0017】
これらのうちでは、特に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましく用いられる。また、芳香族ジヒドロキシ化合物として、下記一般式[II]で表される化合物を用いることもできる。
【0018】
【化3】

【0019】
式中、R6は、それぞれ炭素数1〜10の炭化水素基またはそのハロゲン化物、またはハロゲンであり、同一であっても異なっていてもよい。nは0〜4の整数である。
【0020】
上記一般式[II]で表される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的に、レゾルシンおよび3-メチルレゾルシン、3-エチルレゾルシン、3-プロピルレゾルシン、3-ブチルレゾルシン、3-t-ブチルレゾルシン、3-フェニルレゾルシン、3-クミルレゾルシン、2,3,4,6-テトラフルオロレゾルシン、2,3,4,6-テトラブロムレゾルシンなどの置換レゾルシン、カテコール、ハイドロキノンおよび3-メチルハイドロキノン、3-エチルハイドロキノン、3-プロピルハイドロキノン、3-ブチルハイドロキノン、3-t-ブチルハイドロキノン、3-フェニルハイドロキノン、3-クミルハイドロキノン、2,3,5,6-テトラメチルハイドロキノン、2,3,5,6-テトラ-t-ブチルハイドロキノン、2,3,5,6-テトラフルオロハイドロキノン、2,3,5,6-テトラブロムハイドロキノンなどの置換ハイドロキノンを挙げることができる。
【0021】
また、本発明では芳香族ジヒドロキシ化合物として、下記一般式で表される2,2,2’,2’-テトラヒドロ-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビ-[IH-インデン]-6,6’-ジオールを用いることもできる。
【0022】
【化4】

【0023】
これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独であるいは組み合わせて用いることができる。また炭酸ジエステルとしては、具体的には、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどを挙げることができる。
【0024】
これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。これらの炭酸ジエステルは、単独であるいは組み合わせて用いることができる。
【0025】
また上記のような炭酸ジエステルは、好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量で、ジカルボン酸あるいはジカルボン酸エステルを含有していてもよい。
【0026】
このようなジカルボン酸あるいはジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニルなどの芳香族ジカルボン酸類、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、セバシン酸ジフェニル、デカン二酸ジフェニル、ドデカン二酸ジフェニルなどの脂肪族ジカルボン酸類、シクロプロパンジカルボン酸、1,2-シクロブタンジカルボン酸、1,3-シクロブタンジカルボン酸、1,2-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロプロパンジカルボン酸ジフェニル、1,2-シクロブタンジカルボン酸ジフェニル、1,3-シクロブタンジカルボン酸ジフェニル、1,2-シクロペンタンジカルボン酸ジフェニル、1,3-シクロペンタンジカルボン酸ジフェニル、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジフェニル、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸ジフェニル、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジフェニルなどの脂環族ジカルボン酸類を挙げることができる。
【0027】
このようなジカルボン酸あるいはジカルボン酸エステルは、単独であるいは組み合わせて含有されていていてよい。上記のような炭酸ジエステルは、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、通常、1.0〜1.30モル、好ましくは1.01〜1.20モルの量で用いられることが望ましい。
【0028】
また本発明では、ポリカーボネートを製造するに際して、上記のような芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとともに、1分子中に3個以上の官能基を有する多官能化合物とを用いることもできる。
【0029】
このような多官能化合物としては、フェノール性水酸基またはカルボキシル基を有する化合物が好ましく、特にフェノール性水酸基を3個含有する化合物が好ましい。具体的には、たとえば、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2’,2”-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン、α-メチル-α,α’,α’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジエチルベンゼン、α,α’,α”-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン-2、1,3,5-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、2,2-ビス-[4,4-(4,4’-ジヒドロキシフェニル)-シクロヘキシル]-プロパン、トリメリット酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸などが挙げられる。
【0030】
これらのうち、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α”-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリイソプロピルベンゼンなどが好ましく用いられる。
【0031】
多官能化合物は、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、通常は0.03モル以下好ましくは0.001〜0.02モルさらに好ましくは0.001〜0.01モルの量で用いられる。
【0032】
本発明で用いられるポリカーボネートは、上記のような芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、触媒の存在下に溶融重縮合させて得られる。このような触媒として、(a)アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。
【0033】
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物としては、具体的には、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の有機酸塩、無機酸塩、酸化物、水酸化物、水素化物あるいはアルコラートなどが好ましく挙げられる。
【0034】
より具体的に、アルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二リチウム、ビスフェノールAの二ナトリウム塩、二カリウム塩、二リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などを挙げることができる。
【0035】
またアルカリ土類金属化合物としては、具体的に、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウムなどを挙げることができる。
【0036】
これら化合物は単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。このような(a)アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物は、上記芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して1×10-8〜2×10-6モル、好ましくは1×10-7〜2×10-6モルの量で用いられる。
【0037】
上記のように、触媒として、(a)アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物を、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して10-8〜10-3モルの量で使用すると、高い重合活性でポリカーボネートを製造できるとともに、得られるポリカーボネートに悪影響を及ぼさない量で後述する酸性化合物を添加して、これら化合物が示す塩基性を充分に中和するかあるいは弱めることができる。
【0038】
本発明では、触媒として、上記のような(a)アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物とともに、(b)塩基性化合物および/または(c)ホウ酸化合物を用いることもできる。
【0039】
このような(b)塩基性化合物としては、たとえば高温で易分解性あるいは揮発性の含窒素塩基性化合物が挙げられ、具体的には、以下のような化合物を挙げることができる。
【0040】
テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(Me4NOH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(Et4NOH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(Bu4NOH)、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド(φ-CH2(Me)3NOH)などのアルキル、アリール、アルアリール基などを有するアンモニウムヒドロオキシド類、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミンなどの三級アミン類、R2NH(式中Rはメチル、エチルなどのアルキル、フェニル、トルイルなどのアリール基などである)で示される二級アミン類、RNH2(式中Rは上記と同じである)で示される一級アミン類、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類、あるいはアンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド(Me4NBH4)、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド(Bu4NBH4)、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート(Bu4NBPh4)、テトラメチルアンモニウムテトラフェニルボレート(Me4NBPh4)などの塩基性塩。
【0041】
これらのうち、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド類、特に金属不純物の少ない電子用テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド類が好ましく用いられる。
【0042】
触媒として(b)含窒素塩基性化合物が用いられるときは、(b)含窒素塩基性化合物は、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、10-6〜10-1モル以下、好ましくは10-5〜10-2モルの量で用いられる。
【0043】
また、(c)ホウ酸化合物としては、ホウ酸およびホウ酸エステルなどを挙げることができる。ホウ酸エステルとしては、下記一般式で示されるホウ酸エステルを挙げることができる。
【0044】
B(OR)n(OH)3-n
式中、Rはメチル、エチルなどのアルキル、フェニルなどのアリールなどであり、nは1,2または3である。
【0045】
このようなホウ酸エステルとしては、具体的には、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリヘキシル、ホウ酸トリヘプチル、ホウ酸トリフェニル、ホウ酸トリトリル、ホウ酸トリナフチルなどが挙げられる。
【0046】
触媒として、(c)ホウ酸またはホウ酸エステルが用いられるときは、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、10-8〜10-1モル、好ましくは10-7〜10-2モル、さらに好ましくは10-6〜10-4モルの量で用いられる。
【0047】
これらは、たとえば、(a)アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物および(b)含窒素塩基性化合物を組合せて、さらに、(a)アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物、(b)含窒素塩基性化合物および(c)ホウ酸またはホウ酸エステルの三者を組合せて、好ましく用いることができる。
【0048】
このように上記のような使用量で、(a)アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物と、(b)含窒素塩基性化合物とを組合せた触媒は、重縮合反応を十分な速度で進行させ、高分子量のポリカーボネートを、高い重合活性で生成させることができて好ましい。
【0049】
さらに、上記のような使用量で、三者を組合せた触媒は、熱老化後に分子量低下を起こしにくいポリカーボネートを製造することができ、好ましい。このような触媒の存在下、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの重縮合反応は、従来知られている重縮合反応条件と同様な条件下で行なうことができる。
【0050】
具体的には、第一段目の反応を80〜250℃、好ましくは100〜230℃、さらに好ましくは120〜190℃の温度で、0〜5時間、好ましくは0〜4時間、さらに好ましくは0〜3時間、常圧下、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを反応させる。次いで反応系を減圧にしながら反応温度を高めて、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの反応を行ない、最終的には5mmHg以下、好ましくは1mmHg以下の減圧下で、240〜320℃で芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの重縮合反応を行なう。
【0051】
上記のような重縮合反応は、連続式で行なってもよく、バッチ式で行なってもよい。また上記の反応を行なうに際して用いられる反応装置は、槽型であっても管型であっても塔型であってもよい。
【0052】
上記のようにして得られる反応生成物であるポリカーボネートでは、通常、20℃塩化メチレン中で測定した極限粘度が、0.10〜1.0dl/g、好ましくは0.30〜0.65dl/gである。
【0053】
上記のように本発明に係る製造方法は、溶融重縮合に際して、毒性物質であるホスゲンや塩化メチレンなどを用いないので、環境衛生上好ましい。本発明では、上記のようにして得られる反応生成物である[A]ポリカーボネートを冷却することなく重縮合反応後ただちに、下記[B]および[C]化合物を添加する。すなわち、重縮合反応が終了して得られる溶融状態にある反応器内または押出機内の反応生成物である[A]ポリカーボネートが溶融状態にある間に、直接、[B]pKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体と、[C]リン化合物とを添加する。
【0054】
これらは、別々に添加してもよいし、あるいは同時に添加してもよい。このような[B]pKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体について説明する。
【0055】
本発明では、[B]イオウ含有酸性化合物および該酸性化合物から形成される誘導体としては、亜硫酸、硫酸スルフィン酸系化合物、スルホン酸系化合物およびこれらの誘導体を挙げることができる。具体的に、亜硫酸誘導体としては、ジメチル亜硫酸、ジエチル亜硫酸、ジプロピル亜硫酸、ジブチル亜硫酸、ジフェニル亜硫酸などを挙げることができる。
【0056】
硫酸誘導体としては、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、ジプロピル硫酸ジブチル硫酸、ジフェニル硫酸などを挙げることができる。スルフィン酸系化合物としては、ベンゼンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸、ナフテレンスルフィン酸などを挙げることができる。
【0057】
また、スルホン酸系化合物およびこの誘導体としては、下記一般式[III]で表わされる化合物やそれらのアンモニウム塩を挙げることができる。
【0058】
【化5】

【0059】
式中、R7は炭素数1〜50の炭化水素基(水素はハロゲンで置換されていてもよい)であり、R8は水素または炭素数1〜50の炭化水素基(水素はハロゲンで置換されていてもよい)であり、nは0〜3の整数である。
【0060】
このようなスルホン酸系化合物およびこの誘導体としては、以下のような化合物を挙げることができる。ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのスルホン酸、ベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、ベンゼンスルホン酸オクチル、ベンゼンスルホン酸フェニル、p-トルエンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸エチル、p-トルエンスルホン酸ブチル、p-トルエンスルホン酸オクチル、p-トルエンスルホン酸フェニルなどのスルホン酸エステル、p-トルエンスルホン酸アンモニウムなどのスルホン酸アンモニウム塩。
【0061】
さらに上記一般式[III]で表されるスルホン酸化合物以外にも、トリフルオロメタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、スルホン化ポリスチレン、アクリル酸メチル-スルホン化スチレン共重合体などのスルホン酸化合物を挙げることができる。
【0062】
これらの化合物は、単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。本発明では、[B]イオウ含有酸性化合物および該酸性化合物から形成される誘導体として、上記一般式[III]で表されるスルホン酸系化合物およびこの誘導体が好ましく用いられる。さらに、上記一般式[III]において、R7、R8は炭素数1〜10の置換脂肪族炭化水素基、nは0〜1の整数で表される化合物が好ましく用いられる。具体的には、ベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸ブチル、p-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸エチル、p-トルエンスルホン酸ブチルが好ましく用いられる。
【0063】
特に、本発明では、p-トルエンスルホン酸ブチルが好ましく用いられる。本発明では、上記のような[B]pKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体を、上記[A]ポリカーボネートに対して、0.1〜10pmm、好ましくは0.1〜8ppm、特に好ましくは0,1〜5ppmの量で添加する。
【0064】
次に、本発明で用いられる[C]リン化合物について説明する。[C]リン化合物としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、リン酸エステルおよび亜リン酸エステルを用いることができる。
【0065】
このようなリン酸エステルとしては、具体的に、たとえば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、ジステアリルペンタエリスリチルジホスフェート、トリス(2-クロロエチル)ホスフェート、トリス(2,3-ジクロロプロピル)ホスフェートなどのトリアルキルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェートなどのトリシクロアルキルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2-エチルフェニルジフェニルホスフェートなどのトリアリールホスフェートなどを挙げることができる。
【0066】
また、亜リン酸エステルとしては、下記一般式で表される化合物を挙げることができる。
P(OR)3
(式中、Rは脂環族炭化水素基、脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を表す。これらは同一であっても異なっていてもよい。)このような式で表される化合物として、たとえば、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリス(2-クロロエチル)ホスファイト、トリス(2,3-ジクロロプロピル)ホスファイトなどのトリアルキルホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイトなどのトリシクロアルキルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(エチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ヒドロキシフェニル)ホスファイトなどのトリアリールホスファイト、フェニルジデシルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、フェニルイソオクチルホスファイト、2-エチルヘキシルジフェニルホスファイトなどのアリールアルキルホスファイトなどを挙げることができる。
【0067】さらに亜リン酸エステルとして、ジステアリルペンタエリスリチルジホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリチルジホスファイトなどを挙げることができる。
【0068】これらの化合物は、単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。これらのうち、[C]リン化合物として、上記一般式で表される亜リン酸エステルが好ましく、さらに芳香族亜リン酸エステルが好ましく、特にトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトが好ましく用いられる。
【0069】
本発明では、上記のような[C]リン化合物を、[A]ポリカーボネートに対して、10〜1000ppm、好ましくは50〜500ppmの量で添加する。本発明では、上述したように、反応生成物である[A]ポリカーボネートが溶融状態にある間に、上記[B]、[C]化合物を添加してポリカーボネート組成物とする。
そして、このポリカーボネート組成物は、通常、ペレタイズされて得られる。具体的には、たとえば、反応器内にある重縮合反応で得られた[A]ポリカーボネートに、[B]、[C]化合物を添加してポリカーボネート組成物を形成した後、押出機を通してペレタイズしてもよいし、また、重縮合反応で得られた[A]ポリカーボネートが反応器から押出機を通ってペレタイズされる間に、[B]、[C]化合物を添加して、これらを混練してポリカーボネート組成物とすることができる。
【0070】
本発明で得られるポリカーボネート組成物では、[B]pKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体と、[C]リン化合物とを、上記の量で含有しており、ポリカーボネート中に残存するアルカリ性触媒が中性化あるいは弱められており、[A]ポリカーボネートに比べて、溶融時の滞留安定性が向上されている。
【0071】
通常、ポリカーボネートは、製造後に一旦ペレタイズされる。そして、使用時に、このペレットを再溶融して耐熱安定剤などの種々添加剤を配合して使用している。本発明で得られるポリカーボネート組成物では、上記のように溶融時の熱安定性が向上されているので、各種添加剤を配合したり、成形するに際して、該ポリカーボネート組成物からなるペレットを再溶融しても、特に熱分解が抑制され、分子量が低下しにくい。また、ポリカーボネート組成物は、溶融しても着色しにくい。
【0072】
本発明では、ポリカーボネート組成物を製造するに際して、上記[B]、[C]化合物とともに[D]エポキシ化合物を添加することが好ましい。このような[D]エポキシ化合物として、1分子中にエポキシ基を1個以上有する化合物が用いられる。具体的には、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、t-ブチルフェニルグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシ-6’-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、2,3-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4-(3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキシル)ブチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチレンオキシド、シクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-6’-メチルシロヘキシルカルボキシレート、ビスフェノール-Aジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノール-Aグリシジルエーテル、フタル酸のジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸のジグリシジルエステル、ビス-エポキシジシクロペンタジエニルエーテル、ビス-エポキシエチレングリコール、ビス-エポキシシクロヘキシルアジペート、ブタジエンジエポキシド、テトラフェニルエチレンエポキシド、オクチルエポキシタレート、エポキシ化ポリブタジエン、3,4-ジメチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、3,5-ジメチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、3-メチル-5-t-ブチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、オクタデシル-2,2-ジメチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N-ブチル-2,2-ジメチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカボルキシレート、シクロヘキシル-2-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N-ブチル-2-イソプロピル-3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、オクタデシル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2-エチルヘキシル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,6-ジメチル-2,3-エポキシシクロヘキシル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,5-エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、3-t-ブチル-4,5-エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、ジエチル4,5-エポキシ-シス-1,2-シクロヘキシルジカルボキシレート、ジ-n-ブチル-3-t-ブチル-4,5-エポキシ-シス-1,2-シクロヘキシルジカルボキシレートなどを挙げることができる。
【0073】
これらのうち、脂環族エポキシ化合物が好ましく用いられ、特に3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレートが好ましく用いられる。
【0074】
これらは単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。本発明では、このような[D]エポキシ化合物を、上記[A]ポリカーボネートに対して、1〜2000ppmの量で、好ましくは10〜1000ppmの量で添加することが好ましい。
【0075】
このように[D]エポキシ化合物を添加すると、組成物中に、上記[B]、[C]化合物が過剰に残存しても、これらが[D]エポキシ化合物と反応して中性化され、耐水性および透明性に優れたポリカーボネート組成物が得られる。
【0076】
このような[D]エポキシ化合物は、上記のようなポリカーボネート組成物を調製する際に、[B]、[C]化合物とともに[A]ポリカーボネートに添加する。さらに、必要に応じて一旦ポリカーボネート組成物をペレタイズした後、ペレットを一軸または二軸押出機などに供給して再溶融混練する際に添加してもよい。
【0077】
[A]ポリカーボネートに、[B]、[C]および[D]エポキシ化合物を添加する順序は問わない。また、本発明では、上記のようにして得られるポリカーボネート組成物に、本発明の目的を損なわない範囲で、以下に示すような通常の耐熱安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、滑剤、防曇剤、天然油、合成油、ワックス、有機系充填剤、無機系充填剤などを添加してもよい。このような、添加剤は、[B]、[C]および[D]化合物と同様に、溶融状態にある[A]ポリカーボネートに添加することもできるし、また一旦ペレタイズされたポリカーボネート組成物を再溶融して添加することもできる。本発明では、前者の方法が好ましい。
【0078】
上記のような耐熱安定剤としては、具体的には、たとえば、フェノール系安定剤、有機チオエーテル系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤などを挙げることができる。
【0079】
フェノール系安定剤としては、たとえば、n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、ジステアリル(4-ヒドロキシ-3-メチル-5-t-ブチル)ベンジルマロネート、4-ヒドロキシメチル-2,6-ジ-t-ブチルフェノール等が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。
【0080】
チオエーテル系安定剤としては、たとえば、ジラウリル・チオジプロピオネート、ジステアリル・チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート、ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラキス-(β-ラウリル-チオプロピオネート)などを挙げることができる。
【0081】
これらは単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。またヒンダードアミン系安定剤としては、たとえば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、1-[2-{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]-4-{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、8-ベンジル-7,7,9,9-テトラメチル-3-オクチル-1,2,3-トリアザスピロ[4,5]ウンデカン-2,4-ジオン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレートなどを挙げることができる。
【0082】
これらは単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。これらの耐熱安定剤は、ポリカーボネート100重量部に対して、0.001〜5重量部、好ましくは0.005〜0.5重量部、さらに好ましくは0.01〜0.3重量部の量で用いられることが望ましい。
【0083】
このような耐熱安定剤は、固体状で添加してもよく、液体状で添加してもよい。このような耐熱安定剤は、[A]ポリカーボネートが最終重合器から冷却されてペレタイズされる間の溶融状態にある間に添加することが好ましく、このようにするとポリカーボネートが受ける熱履歴回数が少ない。また、押出成形やペレタイズなど再び加熱処理をする際には、ポリカーボネートは耐熱安定剤を含有しているので、熱分解を抑制することができる。
【0084】
また紫外線吸収剤としては、一般的な紫外線吸収剤でよく、特に限定されないが、たとえば、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤などを挙げることができる。
【0085】
サリチル酸系紫外線吸収剤としては、具体的には、フェニルサリシレート、p-t-ブチルフェニルサリシレートが挙げられる。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホベンゾフェノントリヒドレート、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、4-ドデシロキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸などが挙げられる。
【0086】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチル-フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル-フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチル-フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル-フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’-(3”,4”,5”,6”-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5’-メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]などを挙げることができる。
【0087】
シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレートなどを挙げることができる。これらを単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0088】
これらの紫外線吸収剤は、[A]ポリカーボネート100重量部に対して、通常0.001〜5重量部、好ましくは0.005〜1.0重量部、さらに好ましくは0.01〜0.5重量部の量で用いることができる。
【0089】
さらに、離型剤としては、一般的な離型剤でよく、特に限定されない。たとえば、炭化水素系離型剤としては、天然、合成パラフィン類、ポリエチレンワックス類、フルオロカーボン類などを挙げることができる。
【0090】
脂肪酸系離型剤としては、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸などの高級脂肪酸、オキシ脂肪酸類などを挙げることができる。脂肪酸アミド系離型剤としては、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアロアミドなどの脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド類などを挙げることができる。
【0091】
アルコール系離型剤としては、ステアリルアルコール、セチルアルコールなどの脂肪族アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール類などを挙げることができる。
【0092】
脂肪酸エステル系離型剤としては、ブチルステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレートなどの脂肪族酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル類などを挙げることができる。
【0093】
シリコーン系離型剤としては、シリコーンオイル類などを挙げることができる。これらは単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0094】
これらの離型剤は、[A]ポリカーボネート100重量部に対して、通常、0.001〜5重量部、好ましくは0.005〜1重量部、さらに好ましくは0.01〜0.5重量部の量で用いることができる。
【0095】
さらに、着色剤としては、顔料であってもよく、染料であってもよい。着色剤には、無機系と有機系の着色剤があるが、どちらを使用してもよく、また、組み合わせて用いてもよい。
【0096】
無機系着色剤として、具体的には、二酸化チタン、ベンガラなどの酸化物、アルミナホワイトなどの水酸化物、硫化亜鉛などの硫化物、セレン化物、紺青などのフェロシアン化物、ジンククロメート、モリブデンレッドなどのクロム酸塩、硫酸バリウムなどの硫酸塩、炭酸カルシウムなどの炭酸塩、群青などの硅酸塩、マンガンバイオレットなどのリン酸塩、カーボンブラックなどの炭素、ブロンズ粉やアルミニウム粉などの金属粉着色剤などが挙げられる。
【0097】
有機系着色剤としては、具体的には、ナフトールグリーンBなどのニトロソ系、ナフトールイエロ-Sなどのニトロ系、リソールレッドやボルドー10B、ナフトールレッド、クロモフタールイエローなどのアゾ系、フタロシアニンブルーやファストスカイブルーなどのフタロシアニン系、インダントロンブルーやキナクソドンバイオレット、ジオクサジンバイオレットなどの縮合多環系着色剤などが挙げられる。
【0098】
これらの着色剤は、単独で用いても組み合わせて用いてもよい。これらの着色剤は、[A]ポリカーボネート100重量部に対して、通常1×10-6〜5重量部、好ましくは1×10-5〜3重量部、さらに好ましくは1×10-5〜1重量部の量で用いることができる。
【0099】
上記のように、本発明では、重縮合反応後、ペレタイズされる前に、耐熱安定性が向上されたポリカーボネート組成物が得られる。したがって、本発明では、ペレタイズ後に再溶融して耐熱安定剤を添加する従来の方法に比べて、製造工程においてポリカーボネート組成物が受ける熱履歴回数が少なく、かつ製造効率がよい。
【0100】
また、得られるポリカーボネート組成物では、成形時に、熱分解が起こりにくく、分子量が低下しにくいとともに黄色化しにくく、色相安定性にも優れている。
【0101】
さらに、エポキシ化合物を含有するポリカーボネート組成物では、特に耐水性が向上されており、透明性も低下しにくい。本発明で得られるポリカーボネート組成物は、成形時の熱安定性に優れるとともに、使用時においても長時間に亘って色相安定性に優れるとともに、耐水性および透明性に優れた成形体を形成しうる。
【0102】
【発明の効果】
本発明によれば、溶融時の熱安定性、色相安定性などの滞留安定性に優れたポリカーボネート組成物を、効率よく製造することができる。
【0103】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0104】
【実施例】
本明細書において、ポリカーボネート組成物の極限粘度〔IV〕、MFR、色相〔YI〕、光線透過率、ヘイズ、滞留安定性、耐水性は、以下のようにして測定される。
【0105】
[極限粘度〔IV〕]塩化メチレン中、20℃でウベローデ粘度計を用いて測定した。
[MFR]JIS K-7210の方法に準拠し、温度300℃、荷重1.2Kgで測定した。
【0106】
[色相]3mm厚の射出成形板をシリンダー温度290℃、射出圧力1000Kg/cm、1サイクル45秒、金型温度100℃で成形し、X、Y、Z値を日本電色工業(株)製のColorand Color Defference Meter ND-1001 DP を用いて透過法で測定し、黄色度〔YI〕を測定した。
【0107】
YI=100(1.277X-1.060Z)/Y[光線透過率]ASTM D1003の方法に従い、色相測定用の射出成形板を用いて測定した。
【0108】
[ヘイズ]日本電色工業(株)製のNDH-200を用い、色相測定用の射出成形板のヘイズを測定した。
【0109】
[滞留安定性]320℃の温度で15分間射出成形機のシリンダー内に樹脂を滞留させた後、その温度で射出成形を行い、その成形板のMFR、色相(YI)、光線透過率を測定した。
【0110】
[耐水性]色相測定用の射出成形板をオートクレーブ中の水に浸漬し、125℃のオーブン中に5日間保持する。この試験片を用いてヘイズを測定した。
【0111】
【実施例1】
ビスフェノールA(日本ジーイープラスチックス(株)製)0.44キロモルと、ジフェニルカーボネート(エニィ社製)0.46キロモルとを250リットル槽型攪拌槽に仕込み、窒素置換をした後に、140℃で溶解した。
【0112】
次にこれを180℃の温度まで昇温し、触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを0.11モルおよび水酸化ナトリウムを0.00044モル(1×10-6モル/モル-ビスフェノールA)添加し30分間攪拌する。
【0113】
次に、温度を210℃まで昇温させると同時に除々に200mmHgまで下げて30分後、温度を240℃まで昇温させると同時に徐々に15mmHgまで下げて温度圧力を一定に保ち留出するフェノールの量を測定し、留出するフェノールがなくなった時点で窒素にて大気圧に戻した。反応に要した時間は1時間であった。得られた反応物の極限粘度[η]は0.15dl/gであった。
【0114】
次にこの反応物をギヤポンプで昇圧し、遠心式薄膜蒸発機に送入し、反応を進めた。薄膜蒸発機の温度、圧力はそれぞれ270℃、2mmHgにコントロールした。蒸発機下部よりギヤポンプにて290℃、0.2mmHgにコントロールされた二軸横型攪拌重合槽(L/D=3、攪拌翼回転直径220mm、内容積80リットル)に40kg/時間で送り込み滞留時間30分にて重合させた。
【0115】
次に、溶融状態のままで、このポリマーをギヤポンプにて2軸押出機(L/D=17.5、バレル温度285℃)に送入し、樹脂に対して、p-トルエンスルホン酸ブチル1.8ppm、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(マーク 2112 :アデカアーガス社製)300ppm、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート(セロキサイド 2021P:ダイセル化学社製)300ppmを混練し、ダイを通してストランド状とし、カッターで切断してペレットとした。
【0116】
得られたポリマーの極限粘度〔IV〕は0.49dl/gであった。結果を表1に示す。
【0117】
【実施例2】
実施例1において、重合温度を280℃にした以外は実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0118】
結果を表1に示す。
【0119】
【実施例3,4】
実施例1において、p-トルエンスルホン酸ブチルの代わりに、表1に記載した化合物を表1に記載した量で用いた他は実施例1と同様の方法によってペレットを得た。
【0120】
結果を表1に示す。
【0121】
【実施例5】
実施例1において、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレートを添加しなかった以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。
【0122】
結果を表1に示す。
【0123】
【実施例6,参考例】
実施例1において、p-トルエンスルホン酸ブチルを表1に記載した量で用いた他は実施例1と同様の方法によってペレットを得た。
【0124】結果を表1に示す。
【0125】
【比較例1】
実施例1において、二軸横型攪拌重合槽より直接、ポリマーをストランド状として抜き出し、カッターで切断してペレットとした。
【0126】
【実施例5】
次に、このペレットに対して、実施例1と同様にp-トルエンスルホン酸ブチル1.8ppm、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(マーク 2112:アデカアーガス社製)300ppm、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート(セロキサイド 2021P:ダイセル化学社製)300ppmを添加して、通常の2軸押出機で285℃で混練してペレットを得た。
【0127】
結果を表1に示す。
【0128】
【比較例2】
比較例1において、重合温度を280℃にした以外は比較例1と同様の方法でペレットを得た。
【0129】
結果を表1に示す。
【0130】
【比較例3】
比較例1において、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレートを添加しなかった以外は実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0131】
結果を表1に示す。
【0132】
【比較例4】
実施例1において、p-トルエンスルホン酸ブチルを添加しなかった以外は実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0133】
結果を表1に示す。
【0134】
【比較例5】
実施例1において、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトを添加しなかった以外は実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0135】
結果を表1に示す。
【0136】
【比較例6】
実施例1において、p-トルエンスルホン酸ブチルとトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトを添加しなかった以外は実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0137】
結果を表1に示す。
【0138】
【表1】

【0139】
【表2】

【0140】
【表3】

【0141】
【表4】

 
訂正の要旨 本件特許第3093315号発明の明細書を本件訂正明細書に添付された訂正明細書のとおりにすなわち、
a.特許請求の範囲の減縮を目的として特許請求の範囲の請求項1を削除する。
b.明りょうでない記載の釈明を目的として、特許請求の範囲の請求項2を請求項1と訂正する。
c.明りょうでない記載の釈明を目的として、特許請求の範囲の請求項3〜12をそれぞれ請求項2〜11と訂正するとともに特許請求の範囲の請求項3〜12の各請求項で引用されていた請求項を次のように訂正する。
(1)〔訂正前の請求項3の引用請求項1または2〕を〔訂正後の請求項2の引用請求項1〕と訂正。
(2)〔訂正前の請求項4の引用請求項1〜3〕を〔訂正後の請求項3の引用請求項1または2〕と訂正。
(3)〔訂正前の請求項5の引用請求項1〜4〕を〔訂正後の請求項4の引用請求項1〜3〕と訂正。
(4)〔訂正前の請求項6の引用請求項1〜5〕を〔訂正後の請求項5の引用請求項1〜4〕と訂正。
(5)〔訂正前の請求項7の引用請求項1〜6〕を〔訂正後の請求項6の引用請求項1〜5〕と訂正。
(6)〔訂正前の請求項8の引用請求項1〜7〕を〔訂正後の請求項7の引用請求項1〜6〕と訂正。
(7)〔訂正前の請求項9の引用請求項1〜8〕を〔訂正後の請求項8の引用請求項1〜7〕と訂正。
(8)〔訂正前の請求項10の引用請求項2〜9〕を〔訂正後の請求項9の引用請求項1〜8〕と訂正。
(9)〔訂正前の請求項11の引用請求項2〜10〕を〔訂正後の請求項10の引用請求項1〜9〕と訂正。
(10)〔訂正前の請求項12の引用請求項2〜11〕を〔訂正後の請求項11の引用請求項1〜10〕と訂正。
d.明りょうでない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明の段落【0010】における5……[A]……、[B]……と、[C]リン化合物とを添加し、かつ……」を「……[A]……、[B]……と、[C]リン化合と、[D]エポキシ化合物とを添加し、かつ……」と訂正する。
異議決定日 2002-01-17 
出願番号 特願平3-99341
審決分類 P 1 652・ 121- YA (C08G)
P 1 652・ 535- YA (C08G)
P 1 652・ 534- YA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 木村 順子  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 船岡 嘉彦
中島 次一
登録日 2000-07-28 
登録番号 特許第3093315号(P3093315)
権利者 日本ジーイープラスチックス株式会社
発明の名称 ポリカーボネート組成物の製造方法  
代理人 鈴木 亨  
代理人 高畑 ちより  
代理人 高畑 ちより  
代理人 牧村 浩次  
代理人 鈴木 亨  
代理人 牧村 浩次  
代理人 岡田 数彦  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 鈴木 俊一郎  

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