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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1056615 |
異議申立番号 | 異議1998-71987 |
総通号数 | 29 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1993-08-03 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-04-27 |
確定日 | 2002-01-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2668762号「寒冷沈降物を用いて製造した改良組織接着剤」の請求項1〜7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2668762号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第2668762号の請求項1〜7に係る発明は、平成4年9月28日(平成3年9月27日の国際特許出願に基づく優先権主張)に特許出願され、平成9年7月4日に特許権の設定の登録がされた。その後、特許異議申立人イムノ・アクチエンゲゼルシャフトにより特許異議の申立てがされ、特許取消し理由が通知された後、平成12年8月4日に明細書の訂正の請求がされた。 2.訂正請求について (1)訂正の内容 訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の 「【請求項1】全血の濃縮された寒冷沈降物と、3000〜5000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する多量のプロテアーゼ阻害因子とからなるA成分、及びA成分中に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断してフィブリンポリマーの形成を起こしうるタンパク分解酵素からなるB成分、から構成される組織接着剤。」 を 「【請求項1】全血寒冷沈降物の2〜5倍の濃縮物と、3000〜5000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する多量のプロテアーゼ阻害因子とからなるA成分、及びA成分中に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断してフィブリンポリマーの形成を起こしうるタンパク分解酵素からなるB成分、から構成される血液凝固疾患患者用の組織接着剤。」 に訂正する。 訂正事項b 特許請求の範囲の請求項5の 「【請求項5】寒冷沈降物から濃縮された寒冷溶液を調製する工程からなるA成分の製造、ウイルスの不活性化、殺ウイルス薬の除去、プロテアーゼ阻害因子の添加、およびB成分として適当なプロテアーゼの好適な溶液の調製、の工程を有する請求項1乃至4のいずれかの項に従うフィブリン接着剤の製造法。」 を 「【請求項5】寒冷沈降物から濃縮された寒冷溶液を調製する工程からなるA成分の製造、ウイルスの不活性化、殺ウイルス薬の除去、プロテアーゼ阻害因子の添加、およびB成分として適当なプロテアーゼの好適な溶液の調製、の工程を有する請求項1乃至4のいずれかの項に従う組織接着剤の製造法。」 に訂正する。 訂正事項c 発明の詳細な説明【0008】欄の 「【0008】 【課題を解決するための手段】 本発明に係る組織グルーは、全血の濃縮された寒冷沈降物と、3000〜5000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する多量のプロテアーゼ阻害因子、好ましくはアプロチニン、とからなるA成分、およびA成分中に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断して、フィブリンポリマーの形成を起こしうるタンパク分解酵素からなるB成分、から構成されるものである。」 を 「【0008】 【課題を解決するための手段】 本発明に係る血液凝固疾患患者用の組織接着剤は、全血の寒冷沈降物を2〜5倍に濃縮したものと、3000〜5000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する多量のプロテアーゼ阻害因子、好ましくはアプロチニン、とからなるA成分、およびA成分中に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断して、フィブリンポリマーの形成を起こしうるタンパク分解酵素からなるB成分、から構成されるものであって、血友病AやBのような重い血液凝固疾患を伴う患者、ウシのトロンビンに対する抗体が既に発生している患者、あるいはヘパリンのような抗凝固因子で処理された患者に適用されるものです。」 に訂正する。 (2)訂正の適否について 訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1において、「全血の濃縮された寒冷沈降物」を「全血寒冷沈降物の2〜5倍の濃縮物」と訂正して濃縮倍率を特定範囲に限定し、さらに「血液凝固疾患患者用」という要件を付加することによって、適用対象を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。この訂正は、明細書の[0009]欄及び[0007]欄の記載からみて、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内であることが明らかである。 訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項5において、請求項1〜4の「組織接着剤」を引用していたにも拘わらず末尾が「フィブリン接着剤」と記載されていたものを、「組織接着剤」に訂正するものであって、誤記の訂正を目的とする訂正である。この訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内であることが明らかである。 訂正事項cは、特許請求の範囲の請求項1が減縮されたことに伴って、発明の詳細な説明の対応する記載を整合させるとともに、訂正後の組織接着剤の適用対象を明らかにしたものであるのから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正である。この訂正は、明細書の[0009]欄及び[0007]欄の記載からみて、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内であることが明らかである。 そして、上記訂正はいずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正後において特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明は、下記3.に示すとおり特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 したがって、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び3項の規定に適合するので、訂正を認める。 3.特許異議の申立てについての判断 (1)申立ての理由の概要 特許異議申立人は、甲第1〜5号証を提出して、本件特許の請求項1〜7に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明であり、また甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許は取り消すべきものである旨を主張している。 (2)本件発明 訂正後において特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜7に係る次のとおりのものである。 【請求項1】全血寒冷沈降物の2〜5倍の濃縮物と、3000〜5000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する多量のプロテアーゼ阻害因子とからなるA成分、及びA成分中に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断してフィブリンポリマーの形成を起こしうるタンパク分解酵素からなるB成分、から構成される血液凝固疾患患者用の組織接着剤。 【請求項2】プロテアーゼ阻害因子が3000〜5000KIU/ml単位の量のアプロチニンである請求項1に記載の組織接着剤。 【請求項3】タンパク分解酵素が、ほ乳動物もしくはヒトから得られたトロンビンである請求項1に記載の組織接着剤。 【請求項4】寒冷沈降物がウイルス不活性化されている請求項1乃至3のいずれかの項に記載の組織接着剤。 【請求項5】寒冷沈降物から濃縮された寒冷溶液を調製する工程からなるA成分の製造、ウイルスの不活性化、殺ウイルス薬の除去、プロテアーゼ阻害因子の添加、およびB成分として適当なプロテアーゼの好適な溶液の調製、の工程を有する請求項1乃至4のいずれかの項に従う組織接着剤の製造法。 【請求項6】A成分が、フィブリノーゲン、フィブロネクチンおよび第XIII因子、および3000〜5000KIU/mlのアプロチニン量に相当するプロテアーゼ阻害因子から構成される請求項1に記載の組織接着剤。 【請求項7】A成分が、フィブリノーゲン、フィブロネクチン及び第XIII因子、そして3000〜5000KIU/mlのアプロチニン量に相当するプロテアーゼ阻害因子から構成され、かつB成分が、ほ乳動物もしくはヒトから得られたトロンビンである請求項1に記載の組織接着剤。 (2)刊行物に記載された発明 当審で通知した特許取消し理由に引用した刊行物には、それぞれ以下の事項が記載されている。 刊行物1:特開平2-114号公報(甲第1号証) ・「70%以上の凝固性フィブリノゲンを含有し、内在性ファクターXIIIを含有し、大気温度にて約150g/l蛋白濃度まで水性溶媒に急速に溶解することを特徴とするトロンビン凝固性蛋白質濃縮物」(請求項1) ・「生物学的膠質に関する限りでは、石灰性トロンビンと接触して置かれた後、該膠質が高度な接着性及び高度な弾性を有することが更に必要である。」(第2頁右下欄11行〜14行) ・「生物学的膠質としての用途のためには、該全蛋白質含量を約100-120g/lとする。」(第3頁右下欄12行〜13行) ・「本発明の濃縮物を生物学的膠質として用いる場合、製品の使用前の膠質の再構成は、10000IU/mlアプロチニン水溶液によって実施され、得られた溶液を500IU/mlの石灰性トロンビンと混合する。」(第5頁右上欄5行〜9行) 刊行物2:米国特許第4362567号明細書(甲第2号証)及び刊行物6:特開昭55-110556号公報 (甲第2号証の対応日本出願の公開公報) ・「本発明はフィブリノーゲン及び第XIII因子を含有する人または動物の蛋白をベースとする組織接着剤に関する。」(刊行物2第1欄4行〜6行、刊行物6第2頁右下欄12行〜14行) ・「本発明は下記の構成要件の組み合わせからなる: (a)少なくとも33重量%のフィブリノーゲンを含有すること、 (b)第XIII因子とフィブリノーゲンの割合(1gのフィブリノーゲン当たりの第XIII因子の単位数で表わす)が少なくとも80であること、 (c)蛋白全体中にフィブリノーゲンとアルブミンとが33〜90:5〜40の割合で含有されていること、 (d)プラスミノーゲン活性剤ー抑制剤またはプラスミン-抑制剤、特にアプロチニンを1gのフィブリノーゲン当たり250〜25000KIUの量で含有していること、 (e)調剤がリオフィール化されていること。」(刊行物2第1欄51行〜65行、刊行物6第3頁左上欄最下行〜右上欄15行) ・「使用可能な溶液が1ml当たり少なくとも70mgのフィブリノーゲンを含有するよう注意するべきである。」(刊行物2第2欄61〜62行、刊行物6第4頁右上欄5行〜7行) ・「接合すべき組織に本発明の組織接着剤を適用する以前に、トロンビンと塩化カルシウムとの混合物を該接着剤に添加するか組織上に塗布することが有利である。」(刊行物2第3欄8〜11行、刊行物6第4頁右上欄18行〜同左下欄1行) 刊行物3:特開昭63-24951号公報(甲第3号証) ・「溶液1ml中に、65〜115mgのヒト・フィブリノゲン、40〜80Uの第XIII因子、1〜50IUのプロトロンビン因子、 ・・・・・適切な場合には1〜10000KIUのアプロチニンを含む・・・組織接着剤」(請求項7) 刊行物4:国際公開WO91/01762号パンフレット(甲第4号証) ・「本発明はまた、2成分:(a)フィブリノーゲン及び第XIII因子を主として含むヒト結晶の蛋白抽出物および(b)カルシウムトロンビンを含み、接着時にその場で混合するタイプのヒトまたは動物組織接着剤であって、フィブリノーゲン及び第XIII因子を主として含む該蛋白質の混合物を・・・・低温殺菌することを特徴とする接着剤。」(第3頁1行〜8行) ・「得られた生成物は、蛋白質110g/lに対して、凝固性フィブリノーゲン77g/l、フィブロネクチン12g/l、およびアプロチニン2000KIU/mlを示した。」(第5頁20行〜23行) 刊行物5:Wiener klinische Wochenschrift 88(4) (1976)、Supplementum 49, 第1〜18頁 (甲5第号証) ・「SALKプレート上で、それぞれ0.2mlのフィブリノゲン溶液にトロンビン液0.1mlを添加してフィブリン凝固物を生成し、その溶解性を尿素溶液、トリプシン、プラスミンあるいはストレプトキナーゼそれぞれ0.3mlを用いて試験した。一連の試験は、第XIII因子を含む一連のフィブリン凝固物を用いて繰り返された(第XIII因子溶液0.1ml)。第三の試験では、天然あるいは合成のプロテアーゼ抑制物質それぞれ0.3mlを添加した場合の繊維素溶解阻止能を調べた。」(第6頁左欄7行〜16行) (3)対比・判断 a.特許法第29条第1項第3号について 本件の請求項1に係る発明の組織接着剤におけるA成分中の「全血の寒冷沈降物の2〜5倍の濃縮液」がフィブリノーゲンと第XIII因子を主要な成分として含有することは、請求項6の記載からみても明らかである。そして、刊行物1〜3及び6には、同様にフィブリノーゲン及び第XIII因子を含有する成分とトロンビンを含有する成分を含む組織接着剤が記載されている。 しかし、刊行物1には、使用前の膠質の再構成は、10000IU/mlのアプロチニン水溶液によって実施される旨の記載はあるが、その使用量については何ら記載がないので、組織接着剤中でのアプロチニンの濃度は明らかでないうえ、血液凝固疾患患者に適用することについても何ら記載がない。 刊行物2及び6に記載された組織接着剤のアプロチニンの含有量であるフィブリノーゲン1g当たり250〜25000KIUは、フィブリノーゲンを70mg/ml含有するもので約17.5〜1750KIU/ml(100mg/ml含有するとしても25〜2500KIU/ml)であって、本件第1発明で規定した範囲外の濃度であるうえ、血液凝固疾患患者に適用することのについても何ら記載がない。 刊行物3に記載された組織接着剤は、プロトロンビンを含有する一液型の接着剤である点で、本件の請求項1に係る発明とは異なり、血液凝固疾患患者に適用することについても何ら記載がない。 したがって、本件の請求項1に係る発明は、刊行物1〜3及び6のいずれにも記載された発明ではない。本件の請求項2〜4、6及び7に係る発明は、本件の請求項1に係る発明に構成要件を更に特定するものであり、請求項5に係る発明は、請求項1〜4の組織接着剤の製法であるので、請求項1に係る発明と同様、刊行物1〜3及び6のいずれにも記載された発明ではない。 b.特許法第29条第2項について 刊行物1、2、4及び6に記載された組織接着剤は、本件の請求項1に係る発明と同様にフィブリノーゲン及び第XIII因子と共にプロテアーゼ阻害因子であるアプロチニンを含有するものである。しかし、刊行物1ではその含有量が明らかでないし、刊行物2及び6ではフィブリノーゲンを70mg/ml含有するもので約17.5〜1750KIU/ml(100mg/ml含有するとしても25〜2500KIU/ml)であり、刊行物4では2000KIU/mlであって、本件の請求項1に係る発明の必須の構成要件である「3000〜5000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する多量のプロテアーゼ阻害因子」を含有するものではない。(なお、刊行物5においては、フィブリノーゲン、第XIII因子及びプロアテーゼ抑制物質は別々に添加されているので、本件の請求項1に係る発明とは明らかに相違している。) 一方、刊行物3には、「溶液1mlに、・・・適切な場合には1〜10000KIUのアプロチニンを含む」との記載があるが、具体的な配合例は開示されておらず、高濃度のアプロチンが望ましいと示唆する記載もない上、そもそも刊行物3の組織接着剤は、予めフィブリノーゲン溶液にプロトロンビンを含有させた一液性の組織接着剤であって、刊行物1、2、4及び6や本件の請求項1に係る発明の2液性のものとは異なっている。 そうすると、刊行物3の記載を参酌しても本件の請求項1に係る発明のような2液性の組織接着剤のフィブリノーゲンを含む成分に、本件で規定したような高濃度のアプロチニンを含有させることを、当業者が容易に想到し得るものではない。 そして、本件の請求項1に係る発明は、A成分とB成分からなる2液性の組織接着剤において、フィブリノーゲン及び第XIII因子を含有する全血寒冷沈降物の2〜5倍の濃縮物に3000〜5000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する多量のプロテアーゼ阻害因子を含有させたことによって、従来の組織接着剤では有効ではなかった血液凝固疾患患者への適用を可能としたものである。 したがって、本件の請求項1に係る発明は、刊行物1〜6に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。本件の請求項2〜4,6〜7に係る発明は、本件の請求項1に係る発明に構成要件を更に特定するものであり、請求項5に係る発明は、請求項1〜4の組織接着剤の製法であるので、請求項1に係る発明と同様、刊行物1〜6に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 4.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1〜4に係る特許を取り消すことができない。 また、他に本件の請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 寒冷沈降物を用いて製造した改良組織接着剤 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 全血寒冷沈降物の2〜5倍の濃縮物と、3000〜5000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する多量のプロテアーゼ阻害因子となるA成分、およびA成分中に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断してフィブリンポリマーの形成を起こしうるタンパク分解酵素からなるB成分、から構成される血液凝固疾患患者用の組織接着剤。 【請求項2】 プロテアーゼ阻害因子が3000〜5000KIU/ml単位の量のアプロチニンである請求項1に記載の組織接着剤。 【請求項3】 タンパク分解酵素が、ほ乳動物もしくはヒトから得られたトロンビンである請求項1に記載の組織接着剤。 【請求項4】 寒冷沈降物がウイルス不活性化されている請求項1乃至3のいずれかの項に記載の組織接着剤。 【請求項5】 寒冷沈降物から濃縮された寒冷溶液を調製する工程からなるA成分の製造、ウイルスの不活性化、殺ウイルス薬の除去、プロテアーゼ阻害因子の添加、およびB成分として適当なプロテアーゼの好適な溶液の調製、の工程を有する請求項1乃至4のいずれかの項に従う組織接着剤の製造法。 【請求項6】 A成分が、フィブリノーゲン、フィブロネクチンおよび第XIII因子、および3000〜5000KIU/mlのアプロチニン量に相当するプロテアーゼ阻害因子から構成される請求項1に記載の組織接着剤。 【請求項7】 A成分が、フィブリノーゲン、フィブロネクチン及び第XIII因子、および3000〜5000KIU/mlのアプロチニン量に相当するプロテアーゼ阻害因子から構成され、かつB成分が、ほ乳動物もしくはヒトから得られたトロンビンである請求項1に記載の組織接着剤。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、二つの成分AおよびBから構成される組織接着剤(本明細書では、グルーとも云う)、組織グルーの製造法および組織グルーを製造するための多量のアプロチニンの使用に関する。 【0002】 【従来の技術】 血漿タンパクの適用による外科手術の創傷部位における局所止血の改良は、よく知られた概念である。よって、大脳手術では止血にヘブリンパッチが使用されている。血漿およびトロンビンは手術創上にヘブリンフィルムを作るために使用されていた。過去20年間には、殆どの外科手術の訓練のための、『フィブリングルー』または『フィブリン接着剤』または『フィブリン密封剤』の適用を論じる刊行物が多数ある。過去10年間、『グルー』の市販製品はヨーロッパで広く使用されている。『グルー』は二つの成分からなるが、これらの成分の混合物は凝塊を生じる。第一の成分はフィブリノーゲン濃縮物である。この濃縮物もまた、凝塊の安定性および強度に重要なフィブロネクチンと第XIII因子を含有する。第二の成分は、通常の凝固システムの最後の成分、フィブリノーゲンをフィブリン凝塊に変える活性酵素、トロンビンである。この方法は、通常の凝固行程の殆どを飛び越してその最終段階に似せるものである。何人かの製造者は、しばらくして凝塊溶解を誘発する酵素であるプラスミノゲンを加えるが、他の者は凝塊溶解を防ぐためにプロテアーゼの阻害因子であるアプロチニンを加える。 【0003】 しかしながら、これらの製品は軽い出血障害を伴うものの患者に満足できる結果をもたらすが、血友病Aまたはのような重い出血疾患を患っている患者はまだなお、術後の出血の極めて高い危険を有している。時折、手術から平均的な日数の経過後に遅い出血合併症が生じる。抗凝固因子を処置された患者もまた、先行技術の組織グルーで処置することができない。市販の濃縮物の別の重大な欠点は高い製造コストにある。 【0004】 WO86/01814は、フィブリングルー生成の前駆体として有用なフィブリノーゲンと第VIII因子を含む、寒冷沈降反応した懸濁液の調製法を開示しており、それには(a)血液伝染性疾患のために選別されたヒトまたは他の動物などの単一提供者からの新鮮凍結血漿を、約-80℃で少なくとも約6時間凍結する;(b)凍結血漿の温度を例えば約0℃と室温の間にまで上げて、それにより上澄みおよびフィブリノーゲンと第VIII因子を含む寒冷沈降懸濁液を形成する;そして(c)寒冷沈降懸濁液を回収する、ことが含まれている。手術操作上有益なフィブリングルーを生成する方法も開示されており、それは、(a)上述したように寒冷沈降懸濁液を調製する;(b)所望の部位に規定量の懸濁液をつける;そして(c)その部位に十分な量のトロンビンを含む組成物をつけて、懸濁液中のフィブリノーゲンをフィブリングルーに変化させ、次いでフィブリングルーが凝固する、ことからなる。 【0005】 EP-A-0341007には、水性組成物中で患者の自原性血漿、コラーゲン、トロンビン、および任意の抗フィブリン溶解薬からなる手術接着剤が開示されている。この接着剤は、フィブリノーゲンの濃縮または単離のために何ら添加試薬を使用することなく、患者の血漿から作られる。便宜上、接着剤は二液型組成物として処方され、そしてそれは使用直前に一緒に混合される。 【0006】 EP-A-0253198には、フィブリノーゲン、第VIII因子、トロンビン阻害因子、プロトロンビン因子、カルシウムイオンおよび任意のプラスミン阻害因子の水溶液を有する一成分組織グルーが開示されている。組織グルーは、水を加えることにより凍結乾燥した試料から再構成することができる。組織グルーは、肝炎やHTLVIII転移をさけるために、全ての活性物質を低温殺菌した形で含有していてもよい。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、血友病AやBのような重い血液凝固疾患を伴う患者にも好適な組織グルーを提供することである。本発明の別の目的は、B成分の活性因子であるウシのトロンビンに対する抗体が、すでに発生している患者にも使用できる組織グルーを提供することである。本発明の他の目的は、ヘパリンのような抗凝固因子を処置された患者のための組織グルーを提供することである。組織グルーの成分に伴う伝染性のウイルス性疾患の危険のために、組織グルーの分画はウイルス不活性化されていることが保証されなければならない。 【0008】 【課題を解決するための手段】 本発明に係る血液凝固疾患患者用の組織接着剤は、全血の寒冷沈降物を2〜5倍に濃縮したものと、3000〜5000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する多量のプロテアーゼ阻害因子、好ましくはアプロチニン、とからなるA成分、およびA成分中に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断して、フィブリンポリマーの形成を起こしうるタンパク分解酵素からなるB成分、から構成されるものであって、血友病AやBのような重い血液凝固疾患を伴う患者、ウシのトロンビンに対する抗体が既に発生している患者、あるいはヘパリンのような抗凝固因子で処置された患者に適用されるものです。 【0009】 市販の寒冷沈降物は、本発明の組織グルーの製造に用いることができる。しかしながら、この寒冷沈降物は濃縮して使用される。2〜5の間の倍率、好ましくは3の倍率で濃縮することが有利であるといえる。3000〜5000KIU/ml単位のアプロチニン量に相当する十分な濃度のプロテアーゼ阻害因子を寒冷沈降物に加えることは、本発明の組織グルーを重い出血疾患を患っている患者に使用するのに好適にする。好ましいプロテアーゼ阻害因子はアプロチニンであり、トラジロール(TrasylolR)またはアンタゴサン(AntagosanR)の商標で市販されている。 【0010】 寒冷沈降物は、手術の前に自原性血液単位を供与することにより患者自身から得ることができる。この試みは血液派生物によるウイルス感染の伝染の危険を防ぐ。しかしながら、適切な市販品を得るためには、寒冷沈降物はウイルス不活性でなければならない。ウイルス不活性化の手順は、PCT/EP91/00503に記載されている。基本原理は、寒冷沈降物の特別な洗浄剤での処理および後ほど寒冷沈降物からの洗浄剤の除去である。 【0011】 本発明の組織グルーの第二成分であるB成分は、フィブリノーゲンを特異的に切断しうるタンパク分解酵素の溶液により調製する。通常、ヒトまたはウシなどのほ乳類の血漿から単離されたトロンビンを使用している。このトロンビンは低温殺菌した形で供給することができる。トロンビンの再構成は塩化カルシウムの40mmol溶液で生じる。トロンビンの好ましい濃度は50〜200u/mlである。 【0012】 速い組織グルーを製造するためには、塩化カルシウムのおおよそ100u/mlのトロンビン溶液を調製する。例えば空隙、すなわち抜歯の充填あるいは経蝶形骨の下垂体切除の腔の密封により遅いグルーを製造するためには、トロンビンを適当な塩化カルシウム溶液で25u/mlの濃度まで更に溶解する。 【0013】 アプロチニンを本発明の量で使用するならば、精製したフィブリノーゲン、フィブロネクチンおよび第XIII因子からなる組織グルーもA成分として用いることができる。後出血の危険がそれにより著しく減少する。本発明に係る多量のアプロチニンの使用は好ましいものである。 【0014】 本発明のフィブリングルーの製造法は、寒冷沈降物から濃縮された寒冷溶液を調製する行程からなるA成分の製造、 -ウイルスの不活性化 -殺ウイルス剤の除去 -プロテアーゼ阻害因子の添加、および -好適なプロテアーゼ溶液の調製、 の行程から構成される。 【0015】 好ましくは寒冷ペーストを4〜10℃で一晩予備解凍する。その寒冷ペーストを塩化ナトリウム、クエン酸三ナトリウムおよびグリシンを含みかつpH7.0〜7.2である緩衝液に溶解した後、30〜35℃に加熱する。寒冷パスタは手早く溶解すべきである。さもないと調製に適さなくなる。解凍後寒冷パスタを小片に分けることにより溶解を早めることができる。溶液をほぼ室温にまで冷却してpHを7.0〜7.2の値に調製した後、水酸化アルミニウムを攪拌しながら加える。沈殿物を遠心分離して捨てる。任意に濾過行程を行う。次いで、塩化カルシウムを加えて塩化カルシウムを所望の最終濃度にする。 【0016】 ウイルスの不活性化のためには、溶液を30℃まで加熱する。次に、洗浄剤を加える。しばらく攪拌した後、溶液をウイルスの存在しない容器に移し、若干高い温度で数時間攪拌しないで放置する。 【0017】 ある量のリシン油を加えて数分間緩やかに攪拌することにより、殺ウイルス薬を取り除く。油/水相が分離したならば溶液を室温まで冷却する。水層をウイルス無害な容器に取り出して油層をを捨てる。水層を濾過により透明にする。pHが7.0〜7.2になるようにチェックしなければならない。次に、タンパク溶液を室温でポンプにより逆相カラムに通す。タンパク含量(10〜60mg/mlの範囲)を測定した後、溶離液をダイアフィルトレーションにより60〜100mg/mlのタンパク含量まで濃縮し、上記緩衝液と同じであるが更に相当高濃度の塩化カルシウムを含む緩衝液で透析する。次いで、プロテアーゼ阻害因子を加える。滅菌濾過を行い、そして試料を適当な容器に入れて深冷凍結する。 【0018】 B成分は、好ましくは凍結乾燥したプロテアーゼである。特に好ましいのは凍結乾燥したトロンビンである。タンパク分解酵素を塩化カルシウム緩衝液に溶解する。 【0019】 二つの成分AおよびBの適用は、二重注射器法を用いて例えばプラスチチック連結子を介して行う。二つの成分を混ぜ合わせると、凝塊が形成される。適用はカニューレにより生じることもできるし、あるいは三管腔カテーテルに噴霧してもよい。二成分の各々を別個の管腔に注入し、そして混合物を噴霧するために数気圧の範囲の圧縮空気源を三つ目の管腔に接続する。 【0020】 本発明の組織グルーは、重い血液凝固疾患にかかっている患者に使用することができ、また公知の組織グルーよりももっと安価であるので、都合がよい。重い血友病の患者はこれ以後、例えば第VIII因子濃縮物の予防的輸血なしに80%以上の成功率で抜歯をすることができる。このことは、患者の約五分の一しか抜歯後の止血のために輸血を必要としないことを意味する。さらに、ヘパリンで予備処置されたそのような患者は、本発明の組織グルーで処置することができる。別の利点は、組織グルーの第二成分のトロンビンに対する抗体が生じた人々が本発明に係る組織グルーで処置できることである。 【0021】 本発明をさらに、限定しない以下の実施例で明らかにする。ヒトフィブリノーゲン(グレードL)はカビ(Kabi)(ストックホルム)のもので、ウシトロンビンはメルツ-ダーデ(Merz-Dade)のものであった。色素原基質N-a-ベンゾイル-DL-アルギニン-p-ニトロアニリド(BAPNA)および分析用試薬は、シグマ(Sigma)(セントルイス、MO)のものであった。試薬および塩を0.015Mのトリス、0.15MのNaClで希釈してpH7.4とした。フィブリノーゲンをトリス緩衝液で、E1%280=15の変換係数を用いてAbs280から決定した濃度で透析した。 【0022】 ウシトロンビンは市販筋(メルツーダーデまたはパルケ・デービス(Parke Davis))のもので、製造者による評価活性度を有していた。 【0023】 フィブリングルーは基本的に、二重注射器法により一つの注射器に純粋のまたは寒冷沈降物のフィブリノーゲン基質を、もう一つにレプリラーゼ(20U/ml)またはトロンビンをCaCl2(20mM)と一緒に入れて発生させた。 【0024】 凝塊時間(CT)は、リサーチモデル300-RACL凝固分析器(IL、ミラノ)を用いて決定した。粘弾性(TEG)は、37℃で3チャンネルのへイリガー・トロンボエラストグラフで決定した。グルー(数グラム)の破壊強度(BS)は、二斤の荒織の合成繊維(0.5×1cm)の間でグルー成分を混合して、この二斤の荒いメッシュの間にすっかり織り込まれたゲルを形成させ、そして2時間後24℃でメッシュ-グルー-メッシュのアンサンブルを、アキュフォース・カデット引張計(AMATEK、マンスフィールド・アンド・グリーン、米国)を用いて引き剥がすことにより決定した。 【0025】 無菌寒冷沈降物(cryo)は、ヒトの凍結血漿(-30℃)から、4℃で溶かして上澄み血漿を取り除いて調製した。5個のそのような単位体をタンパクを決定するために貯留し、フィブリノーゲンの濃度をビレット法により2U/mLのトロンビンを用いて、寒冷沈降物(1:5に希釈)を凝塊させる前後で決定した。第XIII因子は、試料を4U/mlのウシトロンビンで10分間、22℃で活性化した後、ジメチル化カゼイン〔3H〕-プトレシンの取り込みを測定することにより決定した。 【0026】 CT-フィブリノーゲン曲線の注目すべき特徴は、固定レベルのトロンビンまたはレプチラーゼ(すなわち1U/ml)について、曲線が二段階的であり、1〜8mMのフィブリノーゲン範囲で最小に達することである。このことは、20〜40mMのフィブリノーゲン範囲でピークとなる最大混濁度(10分後)と幾分異なっている。反対実験は、CTがトロンビンレベルにもレプチラーゼレベルにも依存することを示している。この曲線は、低い酵素レベル(2U/mL未満)でゲル化速度のほぼ直線的逆依存性を示し、より高いレベルでは上部でプラトーになる。 【0027】 純粋なフィブリンの粘弾性の発達は、その混濁度より若干遅い。Ca(II)は、第XIIIa因子に誘発されたタンパク鎖の共有結合による連結によるゲル強化において主要な補因子である。そのようなゲル架橋は、ゲルの機械的強度の主原因であり、20分後にプラトーになる。 【0028】 貯留した寒冷沈降物のタンパクレベル:5個の単位体から調製した貯留寒冷沈降物は、次のような平均値を示した: タンパク :75mg/mL フィブリノーゲン:30mg/mL 第XIIIa因子: 4.10U/mL 【0029】 凝固速度:寒冷沈降物の凝塊時間(CT)は、トロンビンのレベルに直線的に依存する。しかしながら、3U/mLより上では酵素レベルの増加はCTに少ししか影響を与えない。固定レベルの酵素では、寒冷沈降物の連続的希釈は、純粋なフィブリン系で注目されるフィブリノーゲン依存性と同等の二段階的CTを示す。 【0030】 寒冷沈降物グルーの粘弾性(TEG)および破壊強度(BS)。 寒冷沈降物グルーの粘弾性の発達は、トロンビンで研究した。このパラメーターは発達するのに混濁度よりずっと長くかかる。しかしながら、過剰のCaCl2とトロンビンを用いて生成した寒冷沈降物グルーは、おおよそ同時間枠で同等のTEG値を達成する。ゲル化の初期の始まり後、第XIIIa因子に誘発された架橋がゲル繊維構造を強化するために、両方のグルーのTEG値は1時間以内に収束するようにみえる。過剰のCaCl2を用いて形成した両寒冷沈降物グルーの最終BSでも同様である。両寒冷沈降物グルーは50〜60gで壊れる。これらの実験は、グルー内のゲル繊維が第XIIIa因子に誘発された共有結合による架橋により、強化されるようになることを示している。 【0031】 寒冷溶液の調製。 市販の寒冷パスタを4〜10℃で一晩予備解凍する。1キロの寒冷沈降物を、2リットルの緩衝液A(120mM/lのNaCl、10mM/lのクエン酸三ナトリウム、120mM/lのグリシン、そしてpH7.0〜7.2)に溶解し、30〜35℃に予備加熱する。寒冷パスタは速やかに溶解すべきである。さもないと調製に適さなくなる。溶解を早めるために、解凍後寒冷パスタを小片に切り分ける。次に、溶液を20〜22℃に冷却してpHをチェックする。任意に、希水酸化ナトリウムまたは酸を加えてpH7.0〜7.2に調節しなければならない。100mlの水酸化アルミニウムを加えてもう30分間攪拌する。沈殿物を遠心分離して捨てる。上澄みを1μmのフィルターを用いて濾過する。0.1M/lのCaCl2を加えてCa2+の最終濃度を1mM/lにする。再度pHをチェックしなければならない。 【0032】 ウイルスの不活性化。 この溶液を30℃まで加熱する。1%w/vのTNBPと1%w/vのトリトンX100を加える。混合物を0.5時間緩やかに攪拌する。溶液を次いでウイルスの存在しない容器に移して、30℃で3.5時間攪拌しないで放置する。 【0033】 殺ウイルス薬の除去。 上記のように調製した混合物に150mlのリシン油を加えて30分間緩やかに攪拌する。油/水分離を待つ間(30〜45分)、溶液を20℃に冷却する。水層をウイルス無害の容器に取り出し、一方では油層を捨てる。水層を1μm/0.45μmのフィルターカスケードで濾過して透明にする。次に、タンパク溶液をポンプにより逆相カラム(C-18-カラム)に、3リットル/時の速度で室温で通す。通過物をUVでモニターして、吸光度が50%に回復するまで集める。分画はタンパク分析で測定しておおよそ40mg/ml含有する。 【0034】 溶離液を、ダイアフィルトレーションにより70〜80mg/mlのタンパク含量まで濃縮し、十分な量の緩衝液B(緩衝液Aと同じ成分であるが、追加の1mM/lの塩化カルシウム)で透析する。次に、溶液リットル当たり4×106KIUのアプロチニンを加える。その後、0.45μm+0.2μmのカスケードを用いて減菌濾過を行う。溶液を次いでプラスチックの袋に入れて深冷凍結し、任意に凍結乾燥する。 【0035】 トロンビン溶液の調製。 凍結乾燥したトロンビンを40mM/lの塩化カルシウム溶液に溶解する。トロンビンの量をグルー100U/mlにする。例えば、創傷部分へのグルーの噴霧のための作用の速いグルーでは、塩化カルシウムの100U/mlのトロンビン溶液で十分であろう。例えば抜歯による空隙の充填あるいは経蝶形骨の下垂体切除の腔の密封のための遅いグルーでは、多量のCaCl2を加えることにより、トロンビンを更に25U/mlの最終濃度まで溶解することになる。 【0036】 臨床例の報告 21歳の患者、MY(21歳の男性)は、トロンビンに対する後天性の阻害因子のために重い出血素質で悩んでいた。背景となる疾患(すなわち、腫瘍または自己免疫疾患)は、何もこの問題を説明できなかった。二つの外部研究所により確認された実験室試験は、MYが高レベルの抗トロンビンIgG抗体を有することを示した。昨年、彼は左の腎臓骨盤にある大きな結石のために、腎せん痛の繰り返しの発作に苦しんだ。超音波による選択的砕石術が計画された。IgGがタンパクAのアフィニティカラムに結合するとの方法に基づいて、患者を体外の免疫吸着と組み合わせた免疫抑制療法にかけた。8回の治療後、それにより60Lの患者の血漿がタンパクAカラムを通過して処理されたのであるが、阻害因子価は98%に減少した。これは、正常な貯留された血漿のトロンビン時間(TT)を、アフィニティの前後に精製したMJ血漿とともに測定することにより決定した。それにもかかわらず、PTやAPTTと同様にTTも延びた。この時点で、腎結石は尿道に移動して、水腎症によってなされた腎臓の完全な遮断を引き起こした。患者は、もう10回の免疫吸着療法(おおよそ80リットルの血漿)を受けた後、徹底的な血漿しゃ血(おおよそ50リットル)および多量の免疫グロブリン注入(2g/kg)を受けた。この時点で、トロンビン阻害因子のレベルは0.5%まで減少した。PTTは47”(治療前85〜90”に対して)に、TTは35”(治療前90”および正常な対照27”に対して)に減少した。寒冷沈降物と高レベル(200U/mL)のトロンビンから作った生物学的接着剤(寒冷沈降物グルー)を用いて、外科手術により結石を取り除くことを決断した。この混合物では、寒冷沈降物は噴霧すると直ちにゲル化した。しかしながら、この患者ではゲル化は起こらず、局所止血は縫合により達成せれた。手術の終わりに、創傷は『乾燥している』ように見えた。それにもかかわらず、6時間後患者は手術のドレーンから出血していた。10リットルの血漿の免疫吸着を行ったが、現に増加している出血には効果がなかった。 【0037】 患者に再手術をして出血の原因を見つけた。けれども手術的出血を見つからなかった。広汎性の出血が創傷表面域全体から観察された。この時、寒冷沈降物とレプチラーゼ(2U/mL;デフィブラーゼ)の混合物を創傷上に噴霧した。噴霧は直ちに凝塊して、創傷表面は混濁したようにみえ、そして出血が止まった。患者はもう5日間、毎日免疫吸着療法を受け続けた。出血はなかった。 【0038】 【発明の効果】 本発明の組織グルーは、重い血液凝固疾患にかかっている患者に使用することができ、また公知の組織グルーよりももっと安価であるので、都合がよい。重い血友病患者はこれ以後、例えば第VIII因子濃縮物の予防的輸液なしに80%以上の成功率で抜歯をすることができる。このことは、患者の約5分の一しか抜歯後の出血のために輸液を必要としないことを意味する。さらに、ハペリンで予備処置されたそのような患者は、本発明の組織グルーで処置することができる。別の利点は、組織グルーの第二成分のトロンビンに対する抗体が生じた人々が本発明に係る組織グルーで処置できることである。 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 訂正事項a 特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1の 「【請求項1】全血の濃縮された寒冷沈降物と、3000・5000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する多量のプロテアーゼ阻害因子とからなるA成分、及びA成分中に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断してフィブリンポリマーの形成を起こしうるタンパク分解酵素からなるB成分、から構成される組織接着剤。」 を 「【請求項1】全血寒冷沈降物の2・5倍の濃縮物と、3000・5000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する多量のプロテアーゼ阻害因子とからなるA成分、及びA成分中に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断してフィブリンポリマーの形成を起こしうるタンパク分解酵素からなるB成分、から構成される血液凝固疾患患者用の組織接着剤。」 に訂正する。 訂正事項b 誤記の訂正を目的として、特許請求の範囲の請求項5の 「【請求項5】寒冷沈降物から濃縮された寒冷溶液を調製する工程からなるA成分の製造、ウイルスの不活性化、殺ウイルス薬の除去、プロテアーゼ阻害因子の添加、およびB成分として適当なプロテアーゼの好適な溶液の調製、の工程を有する請求項1乃至4のいずれかの項に従うフィブリン接着剤の製造法。」 を 「【請求項5】寒冷沈降物から濃縮された寒冷溶液を調製する工程からなるA成分の製造、ウイルスの不活性化、殺ウイルス薬の除去、プロテアーゼ阻害因子の添加、およびB成分として適当なプロテアーゼの好適な溶液の調製、の工程を有する請求項1乃至4のいずれかの項に従う組織接着剤の製造法。」 に訂正する。 訂正事項c 明りょうでない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明【0008】欄の 「【0008】 課題を解決するための手段】 本発明に係る組織グルーは、全血の濃縮された寒冷沈降物と、3000・5000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する多量のプロテアーゼ阻害因子、好ましくはアプロチニン、とからなるA成分、およびA成分中に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断して、フィブリンポリマーの形成を起こしうるタンパク分解酵素からなるB成分、から構成されるものである。」 を 「【0008】 【課題を解決するための手段】 本発明に係る血液凝固疾患患者用の組織接着剤は、全血の寒冷沈降物を2・5倍に濃縮したものと、3000・5000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する多量のプロテアーゼ阻害因子、好ましくはアプロチニン、とからなるA成分、およびA成分中に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断して、フィブリンポリマーの形成を起こしうるタンパク分解酵素からなるB成分、から構成されるものであって、血友病AやBのような重い血液凝固疾患を伴う患者、ウシのトロンビンに対する抗体が既に発生している患者、あるいはヘパリンのような抗凝固因子で処理された患者に適用されるものです。」 に訂正する。 |
異議決定日 | 2001-12-20 |
出願番号 | 特願平4-281125 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(A61K)
P 1 651・ 121- YA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 松浦 新司、田村 聖子 |
特許庁審判長 |
竹林 則幸 |
特許庁審判官 |
深津 弘 宮本 和子 |
登録日 | 1997-07-04 |
登録番号 | 特許第2668762号(P2668762) |
権利者 | オムリックス・バイオファーマシューティカルズ・エス.アー. |
発明の名称 | 寒冷沈降物を用いて製造した改良組織接着剤 |
代理人 | 柳川 泰男 |
代理人 | 青山 葆 |
代理人 | 田村 恭生 |
代理人 | 柳川 泰男 |