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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1056652
異議申立番号 異議2000-72738  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-01-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-07-13 
確定日 2002-02-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2999395号「塩基性耐火物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2999395号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 〔一〕 本件特許は、平成7年7月6日の出願(特願平7-171024号)であって、平成11年11月5日に特許権の設定の登録(特許第2999395号、請求項数 1)がされ、平成12年1月17日にその特許掲載公報が発行されたものである。
これに対して、平成12年7月13日付けで、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許を取り消すべきであるとの特許異議の申立てがされた。
当審は、平成12年11月30日付け及び平成13年8月28日付けで、取消理由を通知し、本件特許権者は、平成13年3月6日付けで特許異議意見書及び訂正請求書を提出し、平成13年9月13日付けで訂正請求書及び平成13年3月6日付けの訂正請求の取下書を提出した。

〔二〕 訂正の可否
以下では、本件特許の願書に添付した明細書を本件特許明細書という。
(1) 訂正事項
(イ) 訂正事項a
特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の「少なくともマグネシア質原料、マグネシア-カルシア質原料、チタニア質原料及び/またはカルシア質原料」を「マグネシア質原料、マグネシア-カルシア質原料、チタニア質原料及びカルシア質原料からなる群から選択された原料」と訂正する。
(ロ) 訂正事項a1
明りょうでない記載の釈明を目的として、(α)本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】の「少なくともマグネシア質原料、マグネシア-カルシア質原料、チタニア質原料及び/またはカルシア質原料」を「マグネシア質原料、マグネシア-カルシア質原料、チタニア質原料及びカルシア質原料からなる群から選択された原料」と訂正し、(β)本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0031】の「また、その他の原料として配合可能な原料は例えば仮焼アルミナのようなアルミナ質原料、シリカ微粉のようなシリカ質原料、ジルコニア質原料、スピネル質原料等を使用することができる。」の記載を削除する。
(ハ) 訂正事項b
特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1中の「その他の成分10重量%以下」を「不可避不純物10重量%以下、ただし、Al2O30.2重量%以下」と訂正する。
(ニ) 訂正事項b1
明りょうでない記載の釈明を目的として、(α)本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】中の「その他の成分10重量%以下」を「不可避不純物10重量%以下、ただし、Al2O30.2重量%以下」と、(β)同段落【0014】中の「他の成分10重量%以下」を「不可避不純物10重量%以下、ただし、Al2O30.2重量%以下」と、また、(γ)同段落【0028】中の「その他の成分として、不可避不純物や、気孔率、気孔径、強度などの特性を制御するための添加成分の合量は10重量%以下であることが必要である。その他の成分の量が10重量%を超えると、特にTiO2、CaO含有量が少ない場合には、本来のCaO・TiO2結晶による効果が不明瞭になる傾向にあるために好ましくない。なお、CaO・TiO2結晶の効果、特に耐スポーリング性の向上の面からは、更に好ましくは、その他の成分の量は8重量%以下であることが好ましい。」を「不可避不純物の合量は10重量%以下、ただし、Al2O30.2重量%以下であることが必要である。不可避不純物の量が10重量%を超えると、特にTiO2、CaO含有量が少ない場合には、本来のCaO・TiO2結晶による効果が不明瞭になる傾向があるために好ましくない。なお、CaO・TiO2結晶の効果、特に耐スポーリング性の向上の面からは、更に好ましくは、不可避不純物の量は8重量%以下であることが好ましい。」と訂正し、(δ)本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0029】及び段落【0033】中の「その他の成分」を「不可避不純物」と、(ε)同段落【0037】の表1中の「その他成分合計」を「不可避不純物合計」と訂正し、(ζ)同段落【0037】、表1中の本発明例5及び6を削除する。
(ホ) 訂正事項c
特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許明細書の特許請求の範囲1中の「TiO2/CaO重量比が1.8以上」を「TiO2/CaO重量比が1.8以上10以下」と訂正する。
(ヘ) 訂正事項c1
明りょうでない記載の釈明を目的として、(α)本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】及び【0014】中の「TiO2/CaO重量比が1.8以上」を「TiO2/CaO重量比が1.8以上10以下」と訂正し、(β)同段落【0022】中の「従って、TiO2/CaO重量比の上限は20以下程度が好ましい。」を削除する。
(ト) 訂正事項d
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】の「カースラグ」を「スラグ」と訂正する。

(2) 訂正の要件の検討
(イ) 訂正事項aの点
(a) 本件訂正請求による訂正後の「マグネシア質原料、マグネシア-カルシア質原料、チタニア質原料及びカルシア質原料からなる群から選択された原料」の記載は、訂正前の「少なくともマグネシア質原料、マグネシア-カルシア質原料、チタニア質原料及び/またはカルシア質原料」の記載が包含しているマグネシア質原料、マグネシア-カルシア質原料、チタニア質原料及びカルシア質原料からなる群から選択された原料以外の原料を許容していないから、本件訂正請求は、訂正事項aの点で、特許請求の範囲を減縮することを目的としている。
(b) 本件訂正請求は、訂正事項aの点で、本件特許明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張するものでもなく、変更するものでもない。
(ロ) 訂正事項a1の点
本件訂正請求は、訂正事項a1の点で、訂正事項aと実質的に同趣旨の訂正を本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載について請求するものであるから、明りょうでない記載を釈明することを目的にしており、本件特許明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張するものでもなく、変更するものでもない。
(ハ) 訂正事項bの点
(a) (α)本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】には、「本発明の塩基性耐火物」は、「その他の成分10重量%以下を含有」することが記載され、同段落【0028】には、「その他の成分として、不可避不純物や、気孔率、気孔径、強度などの特性を制御するための添加成分の合量は10重量%以下であることが必要である」と記載されているから、本件訂正請求は、訂正事項bの点で、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載の「その他の成分10重量%以下」の記載を「不可避不純物10重量%以下」である場合と訂正する点、及び(β)本件特許明細書の発明の詳細な説明の表1には、実施例として、Al2O3が0.1重量%及び0.2重量%の場合が例示されているから、「ただし、Al2O30.2重量%」を特許請求の範囲に加入する点の二点で、本件訂正請求は、特許請求の範囲を減縮することを目的としている。
(b) 本件特許明細書の段落【0028】に「その他の成分としては、不可避不純物や、気孔率、気孔径、強度などの特性を制御するための添加成分の合量は10重量%以下であることが必要である」と記載され、かつ、同段落【0031】には、「その他の原料として配合可能な原料は例えば仮焼アルミナのようなアルミナ質原料、シリカ微粉のようなシリカ質原料、ジルコニア質原料、スピネル質原料を使用することができる」と記載されているから、「その他の成分」が不可避不純物である場合には、不可避不純物がアルミナ質原料である場合が記載されていたことになる。
また、本件訂正は、訂正事項bの点で、本件特許明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであり、また、特許請求の範囲を実質上拡張するものでもなく、変更するものでもない。
(ニ) 訂正事項b1の点
本件訂正請求は、訂正事項b1の点で、訂正事項bに対応して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載を釈明することを目的としており、また、本件特許明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであり、また、特許請求の範囲を実質上拡張するものでもなく、変更するものでもない。
(ホ) 訂正事項cの点
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】中には、「TiO2/CaO重量比は10以下程度であることが更に好ましい。」と記載されていたのであるから、本件訂正請求は、訂正事項cの点で、特許請求の範囲を減縮することを目的としており、また、本件特許明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであり、また、特許請求の範囲を実質上拡張するものでもなく、変更するものでもない。
(ヘ) 訂正事項c1の点
本件訂正請求は、訂正事項c1の点で、訂正事項cに対応して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載を釈明することを目的としており、また、本件特許明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであり、また、特許請求の範囲を実質上拡張するものでもなく、変更するものでもない。
(ト) 訂正事項dの点
本件訂正請求は、訂正事項dの点で、誤記を訂正することを目的にしており、本件特許明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであり、また、特許請求の範囲を実質上拡張するものでもなく、変更するものでもない。

(3) したがって、本件訂正請求は、本件特許明細書の適法な訂正を請求するものであるから、認めるべきものである。

〔三〕 本件特許明細書(本件訂正請求によって訂正された本件特許明細書をいう。以下、同様。)の記載の摘示
(イ) 特許請求の範囲
「【請求項1】 マグネシア質原料、マグネシア-カルシア質原料、チタニア質原料及びカルシア質原料からなる群から選択された原料から構成され、化学成分としてMgO70〜98重量%、TiO20.4〜20重量%、CaO0.2〜10重量%及び不可避不純物10重量%以下、ただし、Al2O30.2重量%以下を含有してなり、TiO2/CaO重量比が1.8以上10以下であり、且つ少なくとも耐火物の結合組織中にCaO・TiO2結晶を含んでなることを特徴とする塩基性耐火物。」
以下では、上記構成の発明を本件特許発明という。
(ロ) 【0001】、【発明の属する技術分野】
「本発明は、溶融金属、溶融スラグ等を保持あるいは精錬する容器の内張りや、セメントや石灰等の焼成キルン内張り、ガラス窯炉等に使用する塩基性耐火物に関するものである。」
(ハ) 【0012】、【発明が解決しようとする課題】
「従って、本発明の目的は、耐食性に優れるマグネシアを主成分として、スラグ浸潤を抑制し、耐食性を低下させることなく耐スポーリング性に優れる塩基性耐火物を提供することにある。」
(ニ) 【0015】【課題を解決するための手段】の一部
「本発明の塩基性耐火物では主に微粉部にチタニア質原料とカルシア質原料を使用することにより、加熱の際にCaO・TiO2結晶を生成させるものである。なお、CaO・TiO2結晶は1980℃との高融点をもつ化合物である。」
(ホ) 【0016】【課題を解決するための手段】の一部
「本発明の塩基性耐火物は、このCaO・TiO2結晶が結合組織中に存在するため、通常の使用条件では十分な高温まで結合が保たれ、マグネシア自体の耐食性を十分に発揮させることができる。しかも、本発明の塩基性耐火物では、マグネシア単味の耐火物と比較し、耐スポーリング性が大幅に向上することが判明した。上記CaO・TiO2結晶自体の熱膨張率は低いとは言えないにも拘わらず、耐スポーリング性が向上する原因としては、恐らくCaOの基本的性質に基づくものと思われるが、CaO・TiO2結晶が柔らかい性質を有するため、マグネシア粒界の結合組織中に存在することによって、熱衝撃や構造的な応力を受けたときに適度なクッション作用をなすものと考えられる。また、CaO・TiO2結晶が結合組織中に存在することで、結合組織中へのスラグ浸潤を抑制する効果があることが判った。なお、CaO・TiO2と他の成分との多成分系の相平衡状態図はほとんど明らかにされていないので、スラグ浸潤抑制効果の原理は今のところ明確ではないが、マトリックス組織中になんらかの化合物を生成し、浸潤を抑制するものと考えられる。」
(ヘ) 【0018】【課題を解決するための手段】の一部
「CaOは従来から広く使用されているマグネシア-ドロマイト質耐火物等にも多く含まれており、加熱・焼成時にマグネシアの焼結性を補助する性質が知られている。従って、CaOが多量に存在していても耐食性や耐スポーリング性への大きな影響はなく、且つ焼結性も改善されるのであるが、過剰にCaOが含まれると、加熱・焼成後も遊離CaOとして存在してしまう。遊離CaOは水和性が強く、空気中の水分と反応して水和物を生成するが、このときの体積膨脹によって耐火物を崩壊させてしまう重大な欠点がある。」
(ト) 【0019】【課題を解決するための手段】の一部
「本発明の塩基性耐火物は、このような遊離CaOの欠点を除くために、TiO2/CaO重量比を1.8以上とする。ここで、TiO2/CaO重量比が0.8以上であれば、実用配合の耐火物中では、CaO・TiO2結晶と4CaO・3TiO2結晶とが生成され、遊離のCaOは実質上存在しなくなる。しかしながら、本発明の組成範囲であっても、CaOの絶対量が多くなると、加熱・焼成の条件によっては遊離CaOが認められる場合もあるので、CaO成分の含有量が5重量%を超える場合には、TiO2/CaOの重量比は1.8以上であることが好ましい。」
(チ) 【0020】【課題を解決するための手段】の一部
「なお、TiO2/CaOの重量比がCaO・TiO2結晶の理論組成である1.43より大きい1.8以上であると、CaO・TiO2結晶の組成に対してTiO2が過剰となるが、このTiO2はMgOと反応して2MgO・TiO2を生成し、耐スポーリング性の改善に貢献することが可能である。この場合でも、勿論、CaO・TiO2結晶が生成され、結合組織に寄与しているから、やや融点の低い2MgO・TiO2が溶融するような温度域でも、耐火物の結合は維持され、マグネシアの耐蝕性を損ねることはほとんどない。」
(リ) 【0021】【課題を解決するための手段】の一部
「しかも、CaO・TiO2結晶の生成と同時にやや融点の低い2MgO・TiO2が生成するほうが、耐火物の焼結性の点では有効であり、かつCaO成分を含むスラグに曝される場合、過剰なTiO2がスラグ中のCaOと反応してCaO・TiO2結晶を生成することにより、スラグ浸潤抑制効果を高めることができる。」
(ヌ) 【0024】【課題を解決するための手段】の一部
「CaO成分の含有量は0.2〜10重量%の範囲内である。ここで、該含有量が0.2重量%未満であると、TiO2と共に形成されるCaO・TiO2結晶の絶対量が不足し、耐スポーリング性の向上並びにスラグ浸潤抑制の効果が十分ではない。一方、該含有量が10重量%を超えるえと、当然のことながらTiO2も増加しなければならず、MgO量が相対的に低下して耐火物全体としては耐食性に問題を生ずる。」
(ル) 【0033】の一部、【実施例】の一部
「表1に示す原料配合で原料配合物を作製し、・・・混練後、圧力2000kg/cm2で・・・プレス成形し、次に、・・・乾燥した後、最高温度1700℃で5時間にわたりトンネルキルンで焼成することにより本発明品及び比較品の供試体を得た。」
(ヲ) 【0039】【発明の効果】
「本発明の塩基性耐火物は、耐蝕性に優れるマグネシア質原料を主成分とし、これにチタニア質原料とカルシア質原料とを併用して耐火物中にCaO・TiO2結晶を生成させることにより、スラグ浸潤を抑制し、耐食性を低下させることなく耐スポーリング性に優れる特性を有するものである。」

〔四〕 取消理由の検討
〔四〕A. 引例の記載の摘示
(1) 国際公開パンフレットWO95/15932〔本件特許異議の申立人が提示した甲第1号証。以下では、引例1という。〕
(イ) 2頁、5〜11行
「 本発明者らは、実験検討を重ねた結果、マグネシア質原料および/またはマグネシア・アルミナ系スピネル質原料を主原料とする配合組成にチタニア成分とアルミナ成分とを適量存在させ、ポアの径などを後述する反応を利用してコントロールすることによりれんがの緻密性をあまりあげることなくスラグおよび溶鋼の浸透を防止することができ、耐食性とともに耐構造的スポーリング性を向上させ得ることを確認し、本発明をするに至ったものである。」
(ロ) 3頁、下から6行〜4頁、4行
「 本発明の特徴は、これら反応に基づいて生成される主反応生成物である〔MgO・Al2O3-2MgO・TiO2〕ssに関係しており、この主反応生成物が主に骨材粒子としての主原料であるマグネシア質原料またはマグネシア・アルミナ系スピネル質原料の粒子の表面に、あるいはマトリックス部に生成される。
これらの主反応生成物と骨材粒子との境界部には膨張収縮によるヘアクラックが発生したり、この主反応生成物が骨材粒子の間隙部に移動してその間隙部に充填するためにクロムフリーれんがの緻密性をあまり上げることなくポアの径が小さくかつ複雑な形状を呈するようになる。」
(ハ) 5頁、15〜20行
「 本発明で使用できるマグネシア質原料、マグネシア・アルミナ系スピネル質原料、アルミナの具体例は、天然原料または人工原料による焼結品または電融品から選ばれる一種または二種以上が使用できる。特に純度は本発明の効果に影響するものではないが、95%以上の高純度のもの、要するに不純物の少ないものを使用するのが望ましい。」
(ニ) 5頁、下から4行〜6頁、4行
「 チタニアTiO2はルチル型またはアナターゼ型あるいはそれらルチル型およびアナターゼ型が併せて用いられるが、このチタニアTiO2の含有量は1〜10wt%であることが好ましく、1wt%より少なくなると〔MgO・Al2O3-2MgO・TiO2〕ssの生成量が少なく、ポア径を小さくしたり、ポア形状を複雑にする効果があまり得られなくなる。また、10wt%を超えると、より低融物である2MgO・TiO2(融点1732℃)の生成量が増し、液相焼結性が著しくなり構造安定性が低下する傾向がある。」
(ホ) 8頁(実施例1〜7)、11頁、表1の記載の概要
(α)マグネシア原料(電融及び/又は焼結)、アルミナ、チタニア及びリグニンスルフォン酸カルシウムを配合し、混練、加圧成形、乾燥後、1800℃で5時間焼成して、クロムフリーれんがを製造したことが記載されている。
(β)表1には、上記(α)の方法で製造したれんがの耐熱スポーリング性、耐食性指数及びスラグ浸透厚さの値が示されている。
(ヘ) 9頁、1〜8行
「 なお、実施例、・・・において使用される配合剤において、マグネシア質原料の電融品は・・・純度99.44%のもの、焼結品は・・・純度99.00%のもの、・・・である。」
(ただし、上記中、「・・・」の部分は、転記を省略した部分である。以下でも、同様とする。)
(ト) 19頁、表5
れんが製造の配合組成及び焼成れんがの耐熱スポーリング性、耐食性指数が示されている。
(チ) 22頁、請求の範囲の第1項
「1. マグネシア質原料および/またはマグネシア・アルミナ系スピネル質原料を主原料とし、チタニアを1〜10wt%、アルミナを1〜15wt%含有することを特徴とするクロムフリーれんが。」
以下では、上記構成の発明を引例1発明という。

(2)(α) タテホ化学工業株式会社の「窯業用電融マグネシア」と題するカタログ(本件特許異議の申立人が提示した甲第2号証。以下では、引例2という。引例2は、一応、1989年11月に発行されたものと推定される。)
(β) 「新日本化学 マグネシア クリンカー品位一覧表」と題する印刷物(本件特許異議の申立人が提示した甲第3号証。ただし、甲第3号証の発行時期は不明である。)
引例2及び上記(β)の印刷物には、電融マグネシアのCaO、Al2O3を含めた組成が示されている。

(3) 特公平7-35295号公報(本件特許異議の申立人が提示した甲第4号証。以下では、引例3という。)、4欄22〜25行
「本発明に使用するマグネシアクリンカーは電融マグネシアクリンカーまたは焼結マグネシアクリンカーの一般市販品であり、MgO97重量%以上、SiO20.5重量%未満、Fe2O30.5重量%未満、CaO1重量%未満のものが好ましい。」

(4) 竹内清和編「耐火物とその応用」(昭和54年5月15日、耐火物技術協会発行)(本件特許異議の申立人が提示した甲第5号証。以下では、引例4という。)
(イ) 49頁、14〜15行
「このように得られる天然マグネシアクリンカーも、近年は国内で海水マグネシアクリンカーが大量に生産されるようになり、その使用量は著しく減少している。」
(ロ) 49頁、下から10行
「マグネシウムクリンカー中の不純物は主にペリクレースの粒間に存在する。」
(ハ) 51頁、表2-29 マグネシウムクリンカーの品質
海水MgOクリンカーのCaO及びAl2O3を含む組成が示されている。

(5)Journal of the Ceramic Society of Japan 100[7]918-923(1992)(本件特許異議の申立人が提示した甲第6号証。以下では、引例5という。)
(イ) 表2には、骨材である焼結MgO粒子並びにマトリクッス添加物であるTiO2及びAl2O3の組成が示されている。
(ロ) 表3及び表4には、MgO-TiO2-Al2O3系及びMgO-TiO2系の化学成分が示されている。これらの表には、1473K〜2003Kで焼成した場合には、Perovskite CaO・TiO2のX線回折ピークが観察されることが示されている。

〔四〕B. 判断
(1) 比較
(イ) 本件特許発明の塩基性耐火物及び引例1発明{上記〔四〕A.(チ)参照}のれんがは、どちらもクロムフリーれんがである点では、一致している。
しかしながら、下記の点では、相違している。
(ロ) 本件特許発明は、アルミナ(Al2O3)0.2重量%以下を含有しているのに対して、引例1発明は、アルミナを1〜15wt%含有している点。
以下では、上記相違点を相違点1という。
(ハ) 本件特許発明は、酸化カルシウム(CaO)0.2〜10重量%を含有し、かつ、酸化チタン/酸化カルシウム重量比(TiO2/CaO重量比)が1.8以上10以下であり、且つ少なくとも耐火物の結合組織中にチタン酸カルシウム(CaO・TiO2)結晶を含んでいるのに対して、引例1発明は、その構成として、酸化カルシウムについて特に規定していない点。
以下では、上記相違点を相違点2という。

(2) 相違点の検討
(2-1) 相違点1について
(イ) 本件特許発明は、チタン酸カルシウムを結合組織中に生成させることによって、スラグ浸潤を抑制し、耐食性を低下させることなく耐スポーリング性に優れる特性を有する塩基性耐火物の発明である。
(ロ) 引例1発明のクロムフリーれんがのち密性、耐食性及び耐スポーリング性は、〔MgO・Al2O3-2MgO・TiO2〕ssによるものとされている{上記〔四〕A.(1)(イ)、(ロ)及び(ニ)参照}。
本件特許発明では、引例1発明とちがって、アルミナの含有量が0.2重量%以下であるから、少なくとも、本件特許発明の塩基性耐火物の性質を決定するに足る量の〔MgO・Al2O3-2MgO・TiO2〕ssが生成しているとは認められない。
(ハ) 酸化カルシウムがマグネシア質原料中に存在すること{引例2〜4の記載参照}及び引例5の記載{上記〔四〕A.(5)(ロ)参照}を考慮すると、引例1発明のクロムフリーれんがでも、チタン酸カルシウムが生成している可能性があるが、引例1には、チタン酸カルシウムについてはなんら記載されていないから、たとえチタン酸カルシウムが生成していたとしても、引例1発明のクロムフリーれんがの特徴を決定するほどには生成していないと考えるのが妥当である(これに反する証拠はない。)。
(2-2) 相違点2について
本件特許発明は、酸化チタン/酸化カルシウム(TiO2/CaO)重量比を1.8以上10以下とすることによって、2MgO・TiO2とのかねあいをはかって、塩基性耐火物の全体の性質を適正化している{上記〔三〕(チ)、(リ)参照}のに対して、引例1発明では、酸化チタン/酸化カルシウム重量比を工夫するという技術思想はないし、また、引例1には、「2MgO・TiO2(融点1732℃)の生成量が増し、液相焼結性が著しくなり構造安定性が低下する傾向がある」とされているものの、この短所をCaOによっておぎなうという技術思想もない{上記〔四〕A.(1)(ニ)参照}。

(2-3) 以上によれば、本件特許発明は、引例2から引例5までの各引例の記載を参酌しても、引例1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとは認められない。

〔五〕 当審は、他に、本件特許発明を取り消すべき理由を発見しない。
よって、平成7年政令第205号第4条第2項の規定にしたがい、結論のとおりに決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
塩基性耐火物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 マグネシア質原料、マグネシア-カルシア質原料、チタニア質原料及びカルシア質原料からなる群から選択された原料から構成され、化学成分としてMgO70〜98重量%、TiO20.4〜20重量%、CaO0.2〜10重量%及び不可避不純物10重量%以下、ただし、Al2O30.2重量%以下を含有してなり、TiO2/CaO重量比が1.8以上10以下であり、且つ少なくとも耐火物の結合組織中にCaO・TiO2結晶を含んでなることを特徴とする塩基性耐火物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融金属、溶融スラグ等を保持あるいは精錬する容器の内張りや、セメントや石灰等の焼成キルン内張り、ガラス窯炉等に使用する塩基性耐火物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
マグネシアはスラグに対する耐食性が高く、各種耐火物の主要材料として使用されている。しかしながら、マグネシアの唯一の結晶であるペリクレーズの熱膨張率が高く、且つスラグ浸潤が著しいため、熱変化やスラグ浸潤に伴う構造変化によって亀裂や割れを生じ易く、いわゆる耐スポーリング性に欠点があった。
【0003】
これを解決する画期的な手段として、マグネシア-カーボンれんがが開発され、現在では広く生産、使用されている。しかしながら、マグネシア-カーボンれんがも万能ではなく、酸化性の強い雰囲気下や長期に亙る使用においては、カーボンの酸化による劣化が損傷の主因をなすこととなり、マグネシアの耐食性を十分に発揮できない。
【0004】
このような使用条件に対して、カーボンを使用せずに耐スポーリング性を向上させるために、各種の提案がなされている。古くから生産されているマグネシア-クロム質耐火物やマグネシア-ドロマイト質耐火物も、耐スポーリング性改善に効果はあるが、現在のような使用環境が苛酷な状況では満足できるものではない。
【0005】
また、マグネシア-スピネル質耐火物は、スピネルを添加、もしくは熱間でマグネシアと反応してスピネルを生成するアルミナを添加した耐火物で、耐スポーリング性を大幅に改善しており、セメントキルン等で広く使用されている。
【0006】
最近、同様の考えのもとに、特開平4-6149号公報、特開平4-55360号公報、特開平5-294714号公報、特開平6-227856号公報、特開平6-345521号公報、特開平6-345539号公報において、マグネシアを主構成物とし、微粉部にスピネル、アルミナ、アルミナ-ジルコニア、アルミナ-シリカ等を添加する技術や、特開平4-187560号公報、特開平7-48167号公報のように、マグネシア-アルミナ-シリカ系クリンカーやマグネシア-アルミナ-シリカ-ジルコニア系クリンカーを使用する耐火物が提案されている。これらは、いずれもマグネシア-スピネル質耐火物の範疇で、スピネル量またはスピネル生成量を調整し、また、他の添加物を使用する等の方法で、耐食性の向上を図ったものである。
【0007】
一方、特開平6-107451号公報では、マグネシアとカルシウムジルコネート(CaO・ZrO2)からなる耐火物の提案がなされており、特開平6-128023号公報では、マグネシアクリンカー、フォルステライトクリンカーとジルコニアからなる塩基性れんがが、特開平6-128024号公報では、マグネシアとマンガン酸化物とからなる耐火物が、特開平6-191927号公報では、マグネシアとチタニアからなる耐火物が、特開平6-227857号公報では、マグネシアと酸化亜鉛よりなる耐火物が、それぞれ提案されており、更に、特開平6-293556号及び6-293580号公報には酸化マグネシウムを主成分にTiO2、NbO2、NdO2、La2O3、MnO2、NiO、CoO等の酸化物と共に複合酸化物を形成する成分を含有する耐塩基性耐火材が、また、特開平7-33518号及び7-61856号公報には、ZrO2-CaO-MgO系クリンカーとマグネシアとからなる耐火物が提案されている。これらは、従来のマグネシア-アルミナからなるスピネル系ではなく、マグネシアに新たに添加物を使用したり、または新たな配合構成を提案するものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従来の技術において、マグネシアにスピネルまたはアルミナを含有させる手法は、セメントキルン用マグネシア-スピネル質耐火物と同様に、スピネル自体がマグネシアより低膨脹性であることによって、耐スボーリング性向上の効果は顕著であるが、Al2O3成分を含有するため、CaO成分に富むスラグに対しては、耐食性の低下が避けられず、十分満足できるものではない。また、Al2O3成分は溶融金属中の介在物となり易く、耐火物のユーザーにおいては歓迎される成分ではない。
【0009】
マグネシアとカルシウムジルコネートを配合してなる耐火物(特開平6-107451号公報)においては、マグネシアとカルシアを主成分とするマグネシア-ドロマイト質耐火物と同様に、カルシアによる焼結性の向上、スラグ浸潤抑制効果が認められ、更に、ジルコニアの難溶融性によっては耐食性向上の効果はあるが、耐スポーリング性は全く改善されない。
【0010】
また、マグネシアとチタニアからなる耐火物は、特開平6-191927号公報を待つまでもなく、従来から耐スポーリング性向上に効果があることが知られている。しかしながら、マグネシアとチタニアとの化合物は比較的融点が低く、最も高融点の2MgO・TiO2でも1740℃足らずであり、MgO・TiO2及びMgO・2TiO2はそれぞれ1630℃、1652℃の融点であるため、1650℃程度以上で使用されている場合には、結合組織に関与しているマグネシア-チタニア化合物の溶融軟化のため、マグネシア自体には耐食性があるにも拘らず、結合の分断により損傷が著しく大きくなるという欠点がある。
【0011】
その他のMnO2やZnO2等を使用する耐火物では、耐食性も耐スポーリング性も、その改善効果は顕著なものではなく、満足できるものではない。
【0012】
従って、本発明の目的は、耐食性に優れるマグネシアを主成分として、スラグ浸潤を抑制し、耐食性を低下させることなく耐スポーリング性に優れる塩基性耐火物を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明の塩基性耐火物は、マグネシア質原料、マグネシア-カルシア質原料、チタニア質原料及びカルシア質原料からなる群から選択された原料から構成され、化学成分としてMgO70〜98重量%、TiO20.4〜20重量%、CaO0.2〜10重量%及び不可避不純物10重量%以下、ただし、Al2O30.2重量%以下を含有してなり、TiO2/CaO重量比が1.8以上10以下であり、且つ少なくとも耐火物の結合組織中にCaO・TiO2結晶を含んでなることを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の塩基性耐火物の特徴は、マグネシア質原料、チタニア質原料及びカルシア質原料から構成され、化学成分としてMgO70〜98重量%、TiO20.4〜20重量%、CaO0.2〜10重量%及び不可避不純物10重量%以下、ただし、Al2O30.2重量%以下を有し、且つTiO2/CaOの重量比が1.8以上10以下であることにある。
【0015】
本発明の塩基性耐火物では主に微粉部にチタニア質原料とカルシア質原料を使用することにより、加熱の際にCaO・TiO2結晶を生成させるものである。なお、CaO・TiO2結晶は1980℃との高融点をもつ化合物である。
【0016】
本発明の塩基性耐火物は、このCaO・TiO2結晶が結合組織中に存在するため、通常の使用条件では十分な高温まで結合が保たれ、マグネシア自体の耐食性を十分に発揮させることができる。しかも、本発明の塩基性耐火物では、マグネシア単味の耐火物と比較し、耐スポーリング性が大幅に向上することが判明した。上記CaO・TiO2結晶自体の熱膨脹率は低いとは言えないにも拘わらず、耐スポーリング性が向上する原因としては、恐らくCaOの基本的性質に基づくものと思われるが、CaO・TiO2結晶が柔らかい性質を有するため、マグネシア粒界の結合組織中に存在することによって、熱衝撃や構造的な応力を受けたときに適度なクッション作用をなすものと考えられる。また、CaO・TiO2結晶が結合組織中に存在することで、結合組織中へのスラグ浸潤を抑制する効果があることが判った。なお、CaO・TiO2と他の成分との多成分系の相平衡状態図はほとんど明らかにされていないので、スラグ浸潤抑制効果の原理は今のところ明確ではないが、マトリックス組織中に何らかの化合物を生成し、浸潤を抑制するものと考えられる。
【0017】
即ち、本発明の塩基性耐火物の最大の特徴は、加熱によって生成したCaO・TiO2結合が結合組織中に存在していることである。なお、本発明の塩基性耐火物においては、加熱によってCaO・TiO2結晶の他に、4CaO・3TiO2結晶が生成されることもあるが、4CaO・3TiO2結晶の融点は1870℃であり、十分に高融点である。なお、CaO・TiO2結晶におけるTiO2/CaO重量比は理論組成で1.43であり、4CaO・3TiO2結晶のTiO2/CaO重量比は理論組成で1.07である。
【0018】
CaOは従来から広く使用されているマグネシア-ドロマイト質耐火物等にも多く含まれており、加熱・焼成時にマグネシアの焼結性を補助する性質が知られている。従って、CaOが多量に存在していても耐食性や耐スポーリング性への大きな影響はなく、且つ焼結性も改善されるのであるが、過剰にCaOが含まれると、加熱・焼成後も遊離CaOとして存在してしまう。遊離CaOは水和性が強く、空気中の水分と反応して水和物を生成するが、このときの体積膨脹によって耐火物を崩壊させてしまう重大な欠点がある。
【0019】
本発明の塩基性耐火物は、このような遊離CaOの欠点を除くために、TiO2/CaO重量比を1.8以上とする。ここで、TiO2/CaO重量比が0.8以上であれば、実用配合の耐火物中では、CaO・TiO2結晶と4CaO・3TiO2結晶とが生成され、遊離のCaOは実質上存在しなくなる。しかしながら、本発明の組成範囲であっても、CaOの絶対量が多くなると、加熱・焼成の条件によっては遊離CaOが認められる場合もあるので、CaO成分の含有量が5重量%を超える場合には、TiO2/CaOの重量比は1.8以上であることが好ましい。
【0020】
なお、TiO2/CaOの重量比がCaO・TiO2結晶の理論組成である1.43より大きい1.8以上であると、CaO・TiO2結晶の組成に対してTiO2が過剰となるが、このTiO2はMgOと反応して2MgO・TiO2を生成し、耐スポーリング性の改善に貢献することが可能である。この場合でも、勿論、CaO・TiO2結晶が生成され、結合組織に寄与しているから、やや融点の低い2MgO・TiO2が溶融するような温度域でも、耐火物の結合は維持され、マグネシアの耐食性を損ねることはほとんどない。
【0021】
しかも、CaO・TiO2結晶の生成と同時にやや融点の低い2MgO・TiO2が生成するほうが、耐火物の焼結性の点では有効であり、かつCaO成分を含むスラグに曝される場合、過剰なTiO2がスラグ中のCaOと反応してCaO・TiO2結晶を生成することにより、スラグ浸潤抑制効果を高めることができる。
【0022】
TiO2/CaO重量比の上限は、本発明のTiO2、CaO量の範囲では特に限定する必要はない。しかし、本質的にCaO・TiO2が結合組織中に存在することが重要であり、余り過剰にTiO2が含まれると、相対的にCaO・TiO2結晶が少なくなり、耐スポーリング性やスラグ浸潤抑制の面では何の問題もないが、高温での耐食性は徐々に低下する傾向となる。特に、高温での使用が予測され、耐食性を重視する場合には、耐食性を低下させないために、TiO2/CaO重量比は10以下であることが更に好ましい。
【0023】
TiO2成分の含有量は0.4〜20重量%の範囲内である。ここで、該含有量が0.4重量%未満であると、CaOと共に形成されるべきCaO・TiO2結晶の絶対量が不足して耐スポーリング性の向上並びにスラグ浸潤抑制の効果が十分ではない。一方、該含有量が20重量%を超えると、MgO量が相対的に不足して耐火物全体としての耐食性に問題を生じる。
【0024】
CaO成分の含有量は0.2〜10重量%の範囲内である。ここで、該含有量が0.2重量%未満であると、TiO2と共に形成されるCaO・TiO2結晶の絶対量が不足し、耐スポーリング性の向上並びにスラグ浸潤抑制の効果が十分ではない。一方、該含有量が10重量%を超えると、当然のことながらTiO2量も増加しなければならず、MgO量が相対的に低下して耐火物全体として耐食性に問題を生ずる。
【0025】
本発明の塩基性耐火物においては、結合組織中にCaO・TiO2結晶が存在していることが重要であり、CaO・TiO2の存在が本発明の効果を生み出すのであるから、TiO2及びCaOが少量のとき、例えばTiO2が0.4〜10重量%、CaOが0.2〜5重量%程度のときには、TiO2源となるチタニア質原料及びCaO源となるマグネシア-カルシア質原料及びカルシア質原料はできるだけ微粉として使用することが好ましい。
【0026】
本発明の塩基性耐火物において、耐食性を維持しつつ、耐スポーリング性の向上、スラグ浸潤の抑制効果を顕著なものとするためには、TiO21〜12重量%、CaO0.3〜8重量%の成分含有量とすることが更に好ましい。
【0027】
また、MgO成分の含有量は、70〜98重量%の範囲内である。該含有量が70重量%未満の場合には、マグネシア本来の高い耐食性が生かせなくなり、一方、該含有量が98重量%を超えると相対的にTiO2及びCaO量が少なく、耐食性は高いが、耐スボーリング性の改善効果は十分ではない。耐食性、耐スポーリング性、スラグ浸潤抑制効果のバランスを考慮すると、MgOの含有量は80〜95重量%の範囲内が好ましい。
【0028】
不可避不純物の合量は10重量%以下、ただし、Al2O30.2重量%以下であることが必要である。不可避不純物の量が10重量%を超えると、特にTiO2、CaO含有量が少ない場合には、本来のCaO・TiO2結晶による効果が不明瞭になる傾向があるために好ましくない。なお、CaO・TiO2結晶の効果、特に耐スボーリング性の向上の面からは、更に好ましくは、不可避不純物の量は8重量%以下であることが好ましい。
【0029】
不可避不純物の中でも、SiO2量は加熱時にガラス化し易く、CaO・TiO2結晶の生成を阻害することがあり、TiO2の多い領域では低融点物を生成するので、特に好ましくない成分である。従って、本発明の塩基性耐火物におけるSiO2成分の含有量は3重量%以下であることが好ましく、可能であれば2重量%以下が良い。
【0030】
本発明の塩基性耐火物を製造するために使用される原料は一般に市販されているものが使用できる。マグネシア質原料としては、各種製法により製造されるマグネシアクリンカーや電融マグネシアが使用できる。また、マグネシア-カルシア質原料としては、焼成ドロマイト、合成マグネシア-カルシアクリンカー等を使用することができる。また、マグネシアとして市販されている原料の中で、CaO成分を適度に含有するものを有効に利用することもできる。更に、チタニア質原料としては塗料やインク、プラスチック、ゴム等に用いられるルチルやアナターゼ型のチタン粉末を使用できるほか、金属チタンや高純度酸化チタン製造用のチタンスラグや合成ルチル等を使用しても良い。また、カルシア質原料としては、焼成カルシア、電融カルシア等の耐火物原料の他、Ca(OH)2やCaCO3等の微粉を使用することもできる。
【0031】
【0032】
本発明の塩基性耐火物は、加熱によって高温下でCaO・TiO2結晶を生成して効果を発揮する。従って、加熱される条件が予測可能な用途で、かつ1600℃以上に曝される場合には、不焼成れんがや不定形耐火物の形態で製品として使用することもできる。しかしながら、加熱条件を制御し、安定してCaO・TiO2結晶を生成させるためには、焼成れんがとする方が好ましい。この場合、焼成はCaO・TiO2結晶の生成を確実なものとするため、1600℃以上の最高温度で3時間以上保持するのがよい。好ましくは1650℃以上の最高温度がよい。昇温及び降温の速度は通常の塩基性れんがの焼成と同様に30〜100℃/時間程度であればよい。なお、原料配合物の混練、成形は、通常の耐火れんがの製造手順に準ずるものである。なお、耐火れんがの製造に際しては、バインダーとしてリグニン類、糖類、デンプン類、メチルセルロース類、リン酸塩等の水溶液やフェノール樹脂、酢酸ビニルエマルジョン等を原料配合物に対して外掛で1.5〜3.5重量%程度の量で使用することができる。
【0033】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明の塩基性耐火物を更に説明する。
実施例
表1に示す原料配合で原料配合物を作製し、バインダーとして糖蜜水溶液を外掛で2.5重量%添加、混練後、圧力2000kg/cm2で23cm×13cm×11.5cmの形状にプレス成形し、次に、120℃で24時間乾燥した後、最高温度1700℃で5時間にわたりトンネルキルンで焼成することにより本発明品及び比較品の供試体を得た。なお、表中の化学成分値は、各原料の化学成分分析値から計算により求めた値である。また、不可避不純物の合計は、SiO2、Al2O3、Fe2O3含有量とそれ以外の成分との合量で表したもので、各原料の分析時のイグニッション・ロスもこの値に含まれている。
【0034】
また、CaO・TiO2結晶の生成の有無は、供試体をX線回折試験することにより同定したものである。
【0035】
更に、耐スラグ性は回転ドラム式侵食試験炉を用いてCaO/SiO2比が4.5のスラグを使用し、1750℃-4時間の試験を行った結果を示すものである。侵食指数はマグネシア単味れんがである比較品1の溶損深さを100として指数で表示したものである。数値は大きい方がスラグによる侵食が大きいことを示す。同様に、湿潤深さは、比較品1の湿潤深さを100として指数で表示したものである。数値が大きい方がスラグ湿潤が大きいことを示す。
【0036】
耐スポーリング性は、40mm角に切り出した試料を、1000℃に加熱した電気炉中に投入し、15分間加熱した後、電気炉から取り出し、3分間水冷することを1サイクルとしたスポーリング試験を実施した結果である。表1には、割れによる破壊に至るまでの回数を4個の試料についての平均値で表示した。回数の多い方が割れにくく、耐スポーリング性に優れることを示す。
【0037】
【表1】

【0038】
上記表1に示す結果から、本発明品はいずれも比較品1のマグネシア単味れんがと比べ、耐食性は幾分低下するが、スラグ湿潤は少なく、特に耐スポーリング性は大幅に改善されることが判る。一方、比較品2及び3はそれぞれCaO及びTiO2含有量が本発明の範囲外のものであり、比較品2は耐食性の低下が大きく、比較品3は耐スポーリング性に劣る。また、比較品4は、MgO、CaO、及びその他の成分がいずれも本発明の範囲外であり、また、SiO2含有量も多い。なお、CaO・TiO2結晶の生成が確認されており、耐スポーリング性はかなり良好であるが、耐食性は非常に低下しており、マグネシア単味れんがの2倍以上損傷していた。
【0039】
【発明の効果】
本発明の塩基性耐火物は、耐食性に優れるマグネシア質原料を主成分とし、これにチタニア質原料とカルシア質原料とを併用して耐火物中にCaO・TiO2結晶を生成させることにより、スラグ浸潤を抑制し、耐食性を低下させることなく耐スポーリング性に優れる特性を有するものである。
 
訂正の要旨 (訂正の要旨)
(イ) 訂正事項a
特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の「少なくともマグネシア質原料、マグネシア-カルシア質原料、チタニア質原料及び/またはカルシア質原料」を「マグネシア質原料、マグネシア-カルシア質原料、チタニア質原料及びカルシア質原料からなる群から選択された原料」と訂正する。
(ロ) 訂正事項a1
明りょうでない記載の釈明を目的として、(α)本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】の「少なくともマグネシア質原料、マグネシア-カルシア質原料、チタニア質原料及び/またはカルシア質原料」を「マグネシア質原料、マグネシア-カルシア質原料、チタニア質原料及びカルシア質原料からなる群から選択された原料」と訂正し、(β)本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0031】の「また、その他の原料として配合可能な原料は例えば仮焼アルミナのようなアルミナ質原料、シリカ微粉のようなシリカ質原料、ジルコニア質原料、スピネル質原料等を使用することができる。」の記載を削除する。
(ハ) 訂正事項b
特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1中の「その他の成分10重量%以下」を「不可避不純物10重量%以下、ただし、Al2O30.2重量%以下」と訂正する。
(ニ) 訂正事項b1
明りょうでない記載の釈明を目的として、(α)本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】中の「その他の成分10重量%以下」を「不可避不純物10重量%以下、ただし、Al2O30.2重量%以下」と、(β)同段落【0014】中の「他の成分10重量%以下」を「不可避不純物10重量%以下、ただし、Al2O30.2重量%以下」と、また、(γ)同段落【0028】中の「その他の成分として、不可避不純物や、気孔率、気孔径、強度などの特性を制御するための添加成分の合量は10重量%以下であることが必要である。その他の成分の量が10重量%を超えると、特にTiO2、CaO含有量が少ない場合には、本来のCaO・TiO2結晶による効果が不明瞭になる傾向にあるために好ましくない。なお、CaO・TiO2結晶の効果、特に耐スポーリング性の向上の面からは、更に好ましくは、その他の成分の量は8重量%以下であることが好ましい。」を「不可避不純物の合量は10重量%以下、ただし、Al2O30.2重量%以下であることが必要である。不可避不純物の量が10重量%を超えると、特にTiO2、CaO含有量が少ない場合には、本来のCaO・TiO2結晶による効果が不明瞭になる傾向があるために好ましくない。なお、CaO・TiO2結晶の効果、特に耐スポーリング性の向上の面からは、更に好ましくは、不可避不純物の量は8重量%以下であることが好ましい。」と訂正し、(δ)本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0029】及び段落【0037】中の「その他の成分」を「不可避不純物」と、(ε)同段落【0037】の表1中の「その他成分合計」を「不可避不純物合計」と訂正し、(ζ)同段落【0037】、表1中の本発明例5及び6を削除する。
(ホ) 訂正事項c
特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許明細書の特許請求の範囲1中の「TiO2/CaO重量比が1.8以上」を「TiO2/CaO重量比が1.8以上10以下」と訂正する。
(へ) 訂正事項c1
明りょうでない記載の釈明を目的として、(α)本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】及び【0014】中の「TiO2/CaO重量比が1.8以上」を「TiO2/CaO重量比が1.8以上10以下」と訂正し、(β)同段落【0022】中の「従って、TiO2/CaO重量比は10以下程度であることが好ましい。」を削除する。
(ト) 訂正事項d
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】の「カースラグ」を「スラグ」と訂正する。
異議決定日 2002-01-17 
出願番号 特願平7-171024
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深草 祐一  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 唐戸 光雄
西村 和美
登録日 1999-11-05 
登録番号 特許第2999395号(P2999395)
権利者 品川白煉瓦株式会社
発明の名称 塩基性耐火物  
代理人 白石 泰三  
代理人 曾我 道照  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道治  
代理人 望月 孜郎  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 古川 秀利  
代理人 梶並 順  
代理人 白石 泰三  
代理人 曾我 道治  
代理人 曾我 道照  
代理人 望月 孜郎  
代理人 池谷 豊  
代理人 小堀 益  
代理人 池谷 豊  
代理人 堤 隆人  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 古川 秀利  

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