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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C11D
審判 全部申し立て 発明同一  C11D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C11D
管理番号 1056666
異議申立番号 異議1999-72824  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-07-26 
確定日 2002-02-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2850533号「洗浄剤組成物」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2850533号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2850533号の発明は、平成2年11月28日に特許出願(優先権主張平成1年12月7日 日本)され、平成10年11月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、三井・デュポンフロロケミカル株式会社より特許異議の申立てがされ、取消理由通知がされ、その指定期間内である平成12年3月6日に訂正請求がされたものである。
II.訂正の適否
1.訂正の内容
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の記載について、「C4F6H4、C4F8H2、C5F7H5、C5F8H4、C5F9H3、C5F10H2、C6F9H5及びC6F12H2」とあるのを「1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタン、C4F8H2、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロペンタン、C5F8H4、1,1,2,2,3,3,4,4,5-ノナフルオロペンタン、1,1,1,2,3,3,4,4,5,5-デカフルオロペンタン、C6F9H5、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン及び2-トリフルオロメチル-1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタン」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、訂正前の請求項1記載の「C4F6H4、C5F7H5、C5F9H3、C5F10H2、C6F12H2」を特定の化合物である「1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,4,5-ノナフルオロペンタン、1,1,1,2,3,3,4,4,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン及び2-トリフルオロメチル-1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタン」に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、これらの限定された化合物は、訂正前の請求項2に記載されていた化合物であるから、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、かつ実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
3.独立特許要件の判断
(1)取消理由の概要
訂正前の本件請求項1ないし3に係る洗浄剤組成物の発明のうち、優先権主張の基礎となる特願平1-318642号、特願平1-318643号、特願平1-318644号の願書に最初に添付した明細書に記載された発明については、優先権主張の効果が享受されるが、それを除いた部分の発明については、現実の出願日となる。
訂正前の本件請求項1に係る発明は、刊行物1(特開平2-235982号公報、甲第1号証)、刊行物2(「洗剤・洗浄の辞典」、株式会社朝倉書店、1990年11月25日発行、第635〜636頁、第657〜658頁)及び刊行物3(特開平1-132693号公報)に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
また、訂正前の本件請求項1、3に係る発明は、先願明細書1(特願平3-517939号(甲第3号証、特表平5-517939号公報、優先権主張1990年10月11日 米国))の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない、というにある。
(2)本件発明
訂正後の本件請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1ないし3」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタン、C4F8H2、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロペンタン、C5F8H4、1,1,2,2,3,3,4,4,5-ノナフルオロペンタン、1,1,1,2,3,3,4,4,5,5-デカフルオロペンタン、C6F9H5 、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン及び2-トリフルオロメチル-1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタンから選ばれた少なくとも1種のフッ化脂肪族炭化水素を有効成分として含有するIC部品又は精密機械部品用洗浄剤組成物。
【請求項2】 フッ化脂肪族炭化水素が1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,3,4-オクタフルオロブタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロペンタン、1,1,2,3,3,4,5,5-オクタフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,4,5-ノナフルオロペンタン、1,1,1,2,3,3,4,4,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン及び2-トリフルオロメチル-1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタンから選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項1に記載のIC部品又は精密機械部品用洗浄剤組成物。
【請求項3】炭化水素類、アルコール類、エステル類及びケトン類から選ばれた少なくとも1種の有機溶剤を含む請求項1に記載のIC部品又は精密機械部品用洗浄剤組成物。」
(3)引用刊行物等の記載事項
刊行物1(特開平2-235982号公報、甲第1号証)の記載事項
イ.「3.式、CX3-CY2-R 式中、X基の各々は独立に水素又はフッ素を表し、Y基の各々は独立に水素、フッ素又はCF3を表し、RはCH2F、・・・CF2-CH3、CF2CH2F、・・・を表し、上記式のポリフルオロアルカンは少なくとも2個のフッ素原子を含む、のポリフルオロアルカン少なくとも1種、又は前記ポリフルオロアルカン少なくとも1種と慣用の噴射剤又は脱油剤及び洗浄剤との混合物を含んでなる電気工業に有用な脱油剤又は洗浄剤」(請求項 3)、
ロ.「式(I)のポリフルオロアルカン類は、更に電気工業での脱グリース剤及び洗浄剤として使用することができる。好ましいものとして前記したポリフルオロアルカンと同じポリフルオロアルカンがこの目的にとって好ましい。」(第5頁右上欄第16〜20行)、
刊行物2(「洗剤・洗浄の辞典」株式会社朝倉書店1990年11月25日発行、第635〜636頁、第657〜658頁)の記載事項
ハ.「プリント基板で洗浄の対象となるよごれは、・・・フラックスの除去が主である。・・・(1)ロジン系フラックスの洗浄・・・民生用機器などでは、フレオン・・・などの溶剤洗浄が行われる。」(第635〜636頁)、
ニ.「光学レンズ・めがねの洗浄について、「ピッチの洗浄は・・トリクロロエチレン・・・などの不燃性溶剤を用い、・・・乾燥はトリクロロトリフルオロエタン・・・などの不燃性のフッ素系溶剤で上記洗浄するのが一般的である。」(第657頁)、
ホ.「通常前項(光学レンズ・めがねの洗浄の項)で取り上げた不燃性の溶剤で洗浄される。」(第658頁)、
刊行物3(特開平1-132693号公報)の記載事項
ヘ.IC部品又は精密機器のフラックス洗浄剤としてフッ素系炭化水素が用いられている旨(第1頁左下欄〜右下欄)、
刊行物4(米国特許第3,729,567号明細書、甲第2号証)の記載事項
ト.新規化合物「CHF2(CF2)3CH2F」について、「この発明の化合物は、・・・脱脂剤として使用することができる。」(第1欄第34〜37行)、
先願明細書1(特願平3-517939号[優先権主張、1990年10月11日米国、特表平5-508418号(甲第3号証)]の記載事項
チ.「CF3CHFCHFCF2CF3、CF3CH2CHFCF2CF3、CF3CHFCH2CF2CF3、CF3CHFCHCF2CF2CF3、・・・からなる群より選ばれる化合物。」(請求の範囲第1項)、
リ.「本発明の線状ジヒドロポリフルオロペンタン、線状トリヒドロポリフルオロベンタン、線状ジヒドロポリフルオロベキサンは、溶媒(略)として有用である。・・・これらは、オゾンを消耗する能力を持たず、また難燃性である。これらポリフルオロアルカンは、・・・洗浄剤または固体表面、例えばプリント配線基板の脱フラックス剤として使用されうる。」(第9頁右上欄)、
ヌ.「本発明の1以上のジヒドロポリフルオロアルカン、トリヒドロポリフルオロアルカン有効量とアルコール類、・・・エステル類、ケトン類・・・からなる群より選ばれる1以上の溶媒との混合物からなり、・・・混合物を形成する組成物は、特に有用であると考えられている。」(第9頁左下欄)。
なお、先願明細書1の記載事項は、優先権主張の基礎となる第1国出願の明細書に記載されているものである。
(4)対比・判断
イ.本件発明1ないし3に係る新規性進歩性判断の基準日
本件発明1ないし3に係る洗浄剤組成物のうち、国内優先権主張の基礎となった特願平1-318642号、 特願平1-318643号及び特願平1-318644号の願書に最初に添付した明細書に記載されている発明は、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,5,5-オクタフルオロペンタン、2-トリフルオロメチル-1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタンを有効成分とする洗浄剤組成物及びそれらとアルコール類、エステル類及びケトン類から選ばれる少なくとの一種を含む洗浄剤組成物である。
したがって、上記の洗浄剤組成物については優先権主張が認められ新規性進歩性判断の基準日は平成1年12月7日となる。上記以外の「フッ素化脂肪族炭化水素」を有効成分として含有する洗浄剤組成物については優先権主張が認められず、新規性進歩性判断の基準日は現実の出願日である平成2年11月28日である。
ロ.特許法第29条第1項または第2項違反について
[本件発明1について]
本件発明1と刊行物1ないし4に記載の発明(ただし、刊行物1、2に対しては、その頒布日以前の優先権主張が認められるものを除く。)とを比較すると、刊行物1には式(I)で表されるフッ素化脂肪族炭化水素を有効成分として含有する電気工業に有用な脱油剤又は洗浄剤組成物が記載されている。式(I)の化合物は、炭素原子数が4ないし7、フッ素原子数6ないし12のフッ素化脂肪族炭化水素を含む概念であるが、本件発明1に記載の「1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタン、C4F8H2、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロペンタン、C5F8H4、1,1,2,2,3,3,4,4,5-ノナフルオロペンタン、1,1,1,2,3,3,4,4,5,5-デカフルオロペンタン、C6F9H5 、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン及び2-トリフルオロメチル-1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタン」については具体的に記載されていない。さらに、式(I)の化合物を特にIC部品又は精密機械部品の洗浄剤として用いることも示されていないから、刊行物1には、本件発明1に記載の上記特定のフッ素化脂肪族炭化水素を含有する組成物をIC部品又は精密機械部品の洗浄剤として用いることは記載も示唆もされていない。
刊行物2には、プリント基板、IC部品又は精密機器の洗浄剤としてフッ素系炭化水素が用いられることが記載されているが、本件発明1に記載の特定のフッ素化脂肪族炭化水素化合物を用いることは記載も示唆もない。
刊行物3には、プリント基板、IC部品又は精密機器の洗浄剤としてフッ素系炭化水素が用いられることが記載されているが、本件発明1に記載の特定のフッ素化脂肪族炭化水素化合物を用いることは記載も示唆もない。
刊行物4には「CHF2(CF2)3CH2F」(1,1,2,2,3,3,4,4,5-ノナフルオロペンタン)が脱脂剤として使用できることが示されているが、IC部品又は精密機械部品の洗浄剤として用いることは記載されていないし示唆もない。
それ故、刊行物1ないし4には、本件発明1に記載の上記特定のフッ素化脂肪族炭化水素を含有する組成物をIC部品又は精密機械部品用洗浄剤とすることは示されていないから、これらの技術を組み合わせても、本件発明1が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
そして、本件発明1は、フラックス洗浄効果に優れ、金属、プラスチック、エラストマーなどからなる複合部品を浸すことがないIC部品又は精密機械部品用洗浄剤を提供できるという明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、刊行物1ないし4に記載された発明であるとも刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
[本件発明2について]
本件発明2は、本件発明1におけるフッ素化脂肪族炭化水素C4F8H2、C5F8H4、C6F9H5を更に限定して、1,1,1,2,2,3,3,4-オクタフルオロブタン、1,1,2,3,3,4,5,5-オクタフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,4,5-ノナフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,-ノナフルオロヘキサンとしているが、上記本件発明1の判断で述べたのと同様の理由により、刊行物1ないし4には、本件発明2に記載の上記特定のフッ素化脂肪族炭化水素を含有する組成物をIC部品又は精密機械部品用洗浄剤とすることは記載も示唆もされていないし、また、これらの技術を組み合わせても、本件発明2が当業者に容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
したがって、本件発明2は、刊行物1ないし4に記載された発明であるとも刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
ハ.特許法第29条の2違反について
[本件発明1について]
本件発明1(ただし、前述の優先権主張が認められるものを除く)と先願明細書1に記載の発明を比較すると、先願明細書1には、その請求の範囲に記載の特定のジヒドロポリフルオロアルカン、トリヒドロポリフルオロアルカンを有効成分とし、オゾンを消耗する能力を持たない、固体表面、例えばプリント配線基板の脱フラックス剤として使用される組成物が記載されているが、本件発明1のフッ化脂肪族炭化水素については記載されていない。
したがって、本件発明1は、先願明細書1に記載された発明と同一であるとすることはできない。
[本件発明3について]
本件発明3は、本件発明1において、更に特定の有機溶剤を含有させたものであるから、本件発明3は、先願明細書1に記載された発明と同一であるとすることができない。
よって、本件発明1、3は、先願明細書1に記載された発明と同一であるとすることもできない。
ニ.まとめ
したがって、本件発明1ないし3は、特許法第29条第1項、第2項及び第29条の2の規定に違反せず、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。
(5)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するものである。
よって、本件訂正請求のとおり訂正を認める。
III.異議申立てについての判断
1.本件発明
訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものである。
2.特許異議申立ての理由の概要
訂正前の本件請求項1ないし3に係る洗浄剤組成物の発明のうち、優先権主張の基礎となる特願平1-318642号、特願平1-318643号、特願平1-318644号の願書に最初に添付した明細書に記載された発明については、優先権主張の効果が享受されるが、それを除いた部分の発明については、現実の出願日となる。
訂正前の本件請求項1ないし2に係る発明は、甲第1号証(特開平2-235982号公報)あるいは甲第2号証(米国特許第3729567号明細書)に記載された発明であるか、又は甲第1号証あるいは甲第2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項あるいは第2項の規定により、特許を受けることができない。
また、訂正前の本件請求項3に係る発明は、甲第3号証(特願平3-517939号(特表平5-517939号公報、優先権主張1990年10月11日 米国))の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、訂正前の本件請求項1ないし3に記載の発明に係る特許を取り消すべき旨主張している。
3.対比・判断
異議申立人の主張が採用できないことは、上記II.3.(4)の記載から明らかである。
IV.むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び証拠方法並びに取消理由によっては本件発明1ないし3に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
洗浄剤組成物
(57)【特許請求の範囲】
▲1▼ 1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタン、C4F8H2、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロペンタン、C5F8H4、1,1,2,2,3,3,4,4,5-ノナフルオロペンタン、1,1,1,2,3,3,4,4,5,5-デカフルオロペンタン、C6F9H5、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン及び2-トリフルオロメチル-1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタンから選ばれた少なくとも1種のフッ化脂肪族炭化水素を有効成分として含有するIC部品又は精密機械部品用洗浄剤組成物。
▲2▼ フッ化脂肪族炭化水素が、1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,3,4-オクタフルオロブタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロペンタン、1,1,2,3,3,4,5,5-オクタフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,4,5-ノナフルオロペンタン、1,1,1,2,3,3,4,4,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン及び2-トリフルオロメチル-1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタンから選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項1に記載のIC部品又は精密機械部品用洗浄剤組成物。
▲3▼ 炭化水素類、アルコール類、エステル類及びケトン類から選ばれた少なくとも1種の有機溶剤を含む請求項1に記載のIC部品又は精密機械部品用洗浄剤組成物。
【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野
本発明は、洗浄剤組成物に関し、さらに詳しくは、IC部品、精密機械部品などに付着したフラックス、油脂類、塵埃などの除去に適した洗浄剤組成物に関する。
従来の技術とその課題
従来から、IC部品、精密機械部品などを製造する際、組み立て行程で付着したフラックス、塵埃などを除去するために、通常有機溶剤を用いる洗浄が行なわれている。有機溶剤としては、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(R-113という)が広く使われている。R-113は、不燃性で毒性が低く、安定性に優れている。しかも適度な溶解性を有しているので、各種の汚れのみを選択的に溶解し、金属、プラスチック、エラストマーなどを侵すことはない。プリント基板上のフラックス洗浄を行なう場合、被洗物類は、一般に、金属、プラスチック、エラストマーなどからなる複合部品が多い。従って、この点からもR-113が有利である。
しかるに、最近、R-113が成層圏のオゾンを破壊し、ひいては皮膚癌の発生をひき起こす原因となる疑いがあることから、その使用が規制されつつある。
課題を解決するための手段
本発明者は、上記従来技術の現状に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定のフッ化脂肪族炭化水素が、1)分子中に塩素を含有しないので、オゾンを破壊する恐れがまったく無く、2)フラックス、油脂類、塵埃などの洗浄効果に優れ、3)従来使用されていたR-113と同様の適度な溶解力を持つので、各種の汚れのみを選択的に溶解除去し、金属、プラスチック、エラストマーなどからなる複合部品を侵さないことを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、C4F6H4、C4F8H2、C5F7H5、C5F8H4、C5F9H3、C5F10H2、C6F9H5及びC6F12H2で表される化合物から選ばれた少なくとも1種のフッ化脂肪族炭化水素を有効成分として含有するIC部品又は精密機械部品用洗浄剤組成物を提供するものである。
本発明の洗浄剤組成物は、有効成分として、一般式CnFmH2n+2-m(式中、4≦n≦6及び6≦m≦12である)で表わされるフッ化脂肪族炭化水素を含有するものである。この様な化合物がフラックス、油脂類などの洗浄剤として用いられた例は全くなく、また知られていない。
上記フッ化脂肪族炭化水素としては、具体的には、C4F6H4、C4F8H2、C5F7H5、C5F8H4、C5F9H3、C5F10H2、C6F9H5、C6F12H2等で表わされる化合物を例示することができ、好ましい具体例としては、1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタン(HCF2CFHCFHCF2H)、1,1,1,2,2,3,3,4-オクタフルオロブタン(CF3CF2CF2CH2F)、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロペンタン(HCF2(CF2)2CFHCH3)、1,1,2,3,3,4,5,5-オクタフルオロペンタン(HCF2CFHCF2CFHCF2H)、1,1,2,2,3,3,4,4,5-ノナフルオロペンタン(HCF2(CF2)3CH2F)、1,1,1,2,3,3,4,4,5,5-デカフルオロペンタン(CF3CF(CHF2)CF2CF2H)、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン(CF3(CF2)3CH2CH3)、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン(HCF2(CF2)4CF2H)、2-トリフルオロメチル-1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタン(CF3)2CHCFHCF2CF3)等を挙げることができる。
本発明の洗浄剤組成物では、上記したフッ化脂肪族炭化水素の含有量は、特に限定的ではないが、通常70重量%程度以上、好ましくは80重量%程度以上とすればよい。
本発明の組成物には、フラックスの溶解力を向上させるために、炭化水素類、アルコール類、エステル類、ケトン類などの有機溶剤から選ばれる少なくとも一種を併用しても良い。有機溶剤の配合量は、特に制限されないが、通常洗浄剤組成物全量の30重量%程度を越えない範囲、好ましくは2〜10重量%程度、さらに好ましくは3〜8重量%程度とすれば良い。フッ化脂肪族炭化水素と有機溶剤との混合物に共沸組成が存在する場合には、その共沸組成での使用が好ましい。
炭化水素類としては、特に制限されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン、オクタン、イソオクタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエンなどが好ましい。
アルコール類としては、特に制限されないが、炭素数1〜5程度の鎖状飽和アルコール類が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンチルアルコール、sec-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、2-エチル-1-ブタノールなどを挙げることができる。その中でも、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノールなどが特に好ましい。
エステル類としては、特に制限されないが、炭素数1〜5程度の脂肪酸と炭素数1〜6程度の低級アルコールのエステルが好ましく、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、吉草酸メチルなどを挙げることができる。その中でも、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどが特に好ましい。
ケトン類としては、特に制限されないが、一般式R-CO-R′(式中、RおよびR′は炭素数1〜4程度の飽和炭化水素基を示す)で表わされるものが好ましく、例えば、アセトン、2-ブタノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、4-メチル-2-ペンタノンなどを挙げることができる。その中でも、アセトン、2-ブタノン、4-メチル-2-ペンタノンなどが特に好ましい。
さらに本発明組成物には、各種の目的に応じて、従来からこの種の洗浄剤に用いられている成分が含まれていても良い。該成分としては、例えば、界面活性剤などの各種洗浄助剤や安定剤、オゾンを破壊する恐れの少ない水素含有塩素化フッ素化炭化水素類、オゾンを破壊する恐れが全くない水素含有フッ素化炭化水素類、炭化水素類などを挙げることができる。
本発明組成物を用いてフラックス、油脂類などの洗浄、塵埃除去などを行なうに際しては、通常の洗浄方法が採用できる。具体的には、手拭き、浸漬、スプレー、揺動、超音波洗浄、蒸気洗浄などの方法を挙げることができる。
発明の効果
本発明の洗浄組成物は、オゾンを破壊する恐れがまったく無く、しかもフラックス洗浄効果に優れている。また、従来使用されていたR-113と同様の適度な溶解力を持つので、各種の汚れ(フラックス、油脂類、塵埃など)のみを選択的に溶解除去し、金属、プラスチック、エラストマーなどからなる複合部品を侵すことがない。
実 施 例
以下に実施例を挙げ、本発明を一層明瞭にする。
実施例1
1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロペンタン(7Fペンタン)、1,1,2,3,3,4,5,5-オクタフルオロペンタン(8Fペンタン)又は2-トリフルオロメチル-1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタン(6FDH2)を有効成分として含有する下記第1表に示す本発明の洗浄剤組成物No.1〜27を用いてフラックスの洗浄試験を行なった。
プリント基板(銅張り積層板)全面にフラックス(タムラF-Al-4、(株)タムラ製作所製)を塗布し、110℃で20秒間予備加熱後、250℃で5秒間ハンダ付けを行なった。ハンダ付け後のプリント基板を本発明の洗浄剤組成物に浸漬し、超音波洗浄を1分間行なった。フラックスの除去の度合を以下の基準で評価した。結果を第1表に示す。
◎…フラックスを良好に除去できる。
○…ごく僅かにフラックスが残存する。
×…かなりフラックスが残存する。



実施例2
実施例1で使用した洗浄剤組成物No.1〜18のプラスチックに対する影響をみるために、第2表に示す各種プラスチックを、50℃にて1時間各組成物に浸漬し、取り出した直後にプラスチックの重量変化率(%)を測定し、以下の基準で影響度を評価した。結果を第2表に示す。
0…影響がほとんどみられない
(重量変化率0〜1%)
1…やや膨潤するが、実質的に問題ない。
(重量変化率1〜5%)
2…膨潤し、プラスチックが侵される。
(重量変化率5〜10%)


第1表および第2表から、本発明組成物が、フラックス洗浄効果に優れ、かつ各種プラスチックを侵さないことが判る。
実施例3
10×10cmのプリント基板に(株)タムラ製作所製のフラックス(F-AL-4)を塗布し、110℃で予備加熱を行い、250℃で5秒間ハンダづけを行った。
この基板に対して、下記第3表に示す本発明の洗浄剤を用いて、超音波洗浄を60秒間及び蒸気洗浄を60秒間行うことによって、洗浄試験を行った。
洗浄後のプリント基板につき、フラックスの除去性を目視により観察する一方、イオン性残渣量をオメガメータ-500(KENCO社製)を用いて測定し、以下の基準で評価した。結果を第3表に示す。
○目視評価
○:良好に除去されている。
△:わずかに残渣が認められる。
×:かなり残存する。
○イオン性残渣評価:2μgNaCl/cm2以下は良好な洗浄性を示す。

実施例4
スピンドル油の付着した100メッシュの円筒状金網(25φ×15Hmm)を60℃に加温した本発明の洗浄剤に浸漬し、超音波洗浄を60秒間行った。
更に40〜50℃に加温した本発明の洗浄剤中で浸漬或いは超音波洗浄を60秒間行った後、蒸気洗浄を60秒間行うことにより脱脂洗浄試験を行った。
その後金網に残留している油分量を油分濃度計((株)堀場製作所製)にて測定し、油分の除去された割合を洗浄度(%)として求めた。
使用した洗浄剤の組成及び洗浄度を下記第4表に示す。


上述のように本発明の洗浄剤組成物は脱脂洗浄性に優れたものである。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の記載において、「C4F6H4、C4F8H2、C5F7H5、C5F8H4、C5F9H3、C5F10H2、C6F9H5及びC6F12H2」とあるのを「1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタン、C4F8H2、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロペンタン、C5F8H4、1,1,2,2,3,3,4,4,5-ノナフルオロペンタン、1,1,1,2,3,3,4,4,5,5-デカフルオロペンタン、C6F9H5、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロペンタン及び2-トリフルオロメチル-1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタン」と訂正する。
異議決定日 2002-01-07 
出願番号 特願平2-331976
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C11D)
P 1 651・ 121- YA (C11D)
P 1 651・ 161- YA (C11D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 佐藤 修
鈴木 紀子
登録日 1998-11-13 
登録番号 特許第2850533号(P2850533)
権利者 ダイキン工業株式会社
発明の名称 洗浄剤組成物  
代理人 中川 博司  
代理人 小田島 平吉  
代理人 齋藤 健治  
代理人 三枝 英二  
代理人 三枝 英二  
代理人 舘 泰光  
代理人 舘 泰光  
代理人 藤井 淳  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 小原 健志  
代理人 深浦 秀夫  
代理人 藤井 淳  
代理人 中野 睦子  
代理人 関 仁士  
代理人 関 仁士  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 斉藤 健治  
代理人 中野 睦子  
代理人 小原 健志  
代理人 中川 博司  

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