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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1056705
異議申立番号 異議2001-71764  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-11-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-06-22 
確定日 2002-03-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第3119661号「2層チューブ」の請求項1〜3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3119661号の請求項1〜3に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第3119661号は、平成2年11月22日に出願された特願平2-319714号の特許出願に係り、平成12年10月13日にその特許権の設定登録がなされたものであって、その請求項1〜3に係る発明(以下、請求項mに係る発明を「発明m」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】熱流動性を有するフッ素系樹脂を含有する高分子材料と熱流動性を有するフッ素系樹脂を含有する高分子材料とを共押出して得られた2層チューブであって、少なくとも一方の前記高分子材料中に導電性フィラーが添加された構成を有し、定着部材に用いられることを特徴とする2層チューブ。
【請求項2】熱流動性を有するフッ素系樹脂を含有する高分子材料と熱流動性を有するフッ素系樹脂を含有する高分子材料とを共押出して得られた2層チューブであって、該2層チューブの内層に導電性フィラーが添加された構成を有し、定着部材に用いられることを特徴とする2層チューブ。
【請求項3】導電性フィラーがカーボンブラックであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の2層チューブ。」

2.申立ての理由の概要
これに対して、特許異議申立人・株式会社 ディスク(以下、「申立人」という。)は、甲第1号証(特開昭57-150869号公報)、甲第2号証(特開昭64(=特開平1)-82079号公報)、甲第3号証(特開平2-138587号公報)(以下、甲第n号証を「甲n」、該甲号証記載の発明を「甲n発明」という。)を提出し、
発明1〜3は、甲1〜3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、
と主張する。

3.甲各号証の記載内容
a.甲1
ア.「導電性芯材上にプライマー層を介して弗素樹脂層を積層して成る加熱ローラと、該加熱ローラに圧接する、導電性芯材上に絶縁層を形成して成る圧接ローラとからなり、正帯電トナー像を保持する複写紙を前記両ローラ間を通過させることにより前記トナー像を該複写紙上に定着させる熱ローラ定着装置において、前記プライマー層がカーボンブラックを含有する弗素樹脂からなることを特徴とする熱ローラ定着装置。」(特許請求の範囲第1項)、
イ.「加熱ローラ……の導電性芯材の材料としては、アルミニウム……、その他の金属が使用される。」(2頁左下欄3〜6行)、
ウ.「弗素樹脂層は……四フッ化エチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(PFA樹脂)など耐熱性に優れたものを使用するのが好適である。」(2頁左下欄7〜10行)、
エ.「プライマリー層は、……前記金属材料の接着性下塗り剤として市販されている、弗素樹脂を主体とするプライマーによって形成されるが、具体的には、……三井フロロケミカル製MPG-RD……などが使用される。また、このプライマー層中に含有させるカーボンブラックは、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラックのいずれでもよく」(2頁左下欄14行〜同頁右下欄2行。ただし、前後の記載より、上記下線付与部の「プライマリー層」は、明らかに「プライマー層」の誤記と解される。)、
オ.「実施例1 導電性芯材としてアルミニウム製ローラを用い、プライマー塗料(三井フロロケミカル製MPG-RD)にカーボンブラック……を添加し、常法により1.5重量%のカーボンブラックを含む6μm厚のプライマー層をローラ表面に形成し、さらにその上にPFA樹脂を用いて30〜40μm厚の弗素樹脂層を積層して加熱ローラを製造する」(3頁右上欄1〜9行)、
カ.「本発明によれば、弗素樹脂からなるプライマー層中にカーボンブラックを含有させることにより、正帯電トナー像のオフセットを防止でき、従って、オフセット防止剤による複写紙の汚れが防止でき、定着装置の簡略化及びコストダウンを計ることができるなど優れた効果が得られる。」(4頁左下欄1〜7行)。
b.甲2
キ.「未定着トナー像の形成されたシートを互いに圧接回転する加熱ローラと加圧ローラとによって挟持させて未定着トナー像の定着を行う定着装置において、前記加熱ローラ並びに加圧ローラの周面に20μm〜100μmの厚さを有するテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)チューブを被覆させたことを特徴とする定着装置。」(特許請求の範囲)、
ク.「本発明は、……加熱ローラ表面および加圧ローラ表面にトナーが付着しにくくなるように、これらローラ自体の離型性を高めてオフセット現象の発生を防止して、定着時の記録紙の画像品質を高めることが可能な定着装置の提供を目的とするものである。」(2頁右上欄16行〜同頁左下欄2行)、
ケ.「本発明により、いわゆるオフセット現象を防止する等して、加熱ローラおよび加圧ローラの両面を常に清浄な状態に保つようにしたので、定着時にトナー画像の画質を損なうことのない定着装置が提供されることとなった。」(3頁右下欄20行〜4頁左上欄4行)。
c.甲3
コ.「内層をポリフッ化ビニリデン……等のフッ素樹脂で構成し、外層をフッ素ゴム-ポリフッ化ビニリデングラフト重合体又はこの材料に四フッ化エチレン-フッ化ビニリデン共重合体……をブレンドして構成し、内層と外層を共押出成形することにより形成したことを特徴とする飲料用フレキシブルチューブ。」(特許請求の範囲の請求項1)。
サ.「本発明は、……フレキシブル性に富み、チューブ材料成分が溶出せず、且つシロップ等の移り香がなく、飲料用機器に好適な飲料用フレキシブルチューブを提供することを目的とする。」(3頁左上欄2〜6行)。

4.対比・判断
4の1.発明1について
発明1(前者)と甲1発明(後者)とを対比すると、
後者の「熱ローラ定着装置」(前記ア参照)における「加熱ローラ」を構成する、1)導電性芯材上の、カーボンブラックを含有する弗素樹脂からなるプライマー層、2)該プライマー層上に積層された弗素樹脂層、の2層に着目した場合、
1)中のカーボンブラックは明らかに導電性フィラーに相当し、また、前者(=発明1)で「熱流動性を有するフッ素系樹脂」の具体例としてPFAが挙げられている(本件特許公報3欄25行)ところ、後者(=甲1発明)の上記1)、2)の弗素樹脂としてもPFAが用いられる(前記ウ参照)から、後者でも「熱流動性を有するフッ素系樹脂」が使用されている。
以上をまとめると、両者は、
「熱流動性を有するフッ素系樹脂を含有する高分子材料と熱流動性を有するフッ素系樹脂を含有する高分子材料との2層構造物からなり、一方の前記高分子材料中に導電性フィラーが添加された構成を有し、定着部材に用いられる2層構造物」
に係る点で一致するものの、
甲1には、前者の必須の構成である、
「熱流動性を有するフッ素系樹脂を含有する高分子材料と熱流動性を有するフッ素系樹脂を含有する高分子材料とを共押出して得られた2層チューブであって、少なくとも一方の前記高分子材料中に導電性フィラーが添加された構成を有し、定着部材に用いられる2層チューブ」
について、記載されていない。
すなわち、後者は、導電性芯材上に塗布形成される特定のプライマー層の使用を必須とする(前記ア〜カ参照)ことから、後者に係る上記前者と後者の一致点中の「2層構造物」は、完成した加熱ローラ中に結果的に存在するだけで、それ自体、該芯材から分離することができず、その意味で、該芯材被覆前には独立・分離して取り扱われる、前者の「共押出して得られた2層チューブ」とは全く別異のものというほかはない。
ここで、申立人は、上記相違点、すなわち、甲1に記載のない「共押出して得られた2層チューブ」という構成について甲2〜3を引用し、「発明1は、甲1記載の導電性フィラーを含有したフッ素樹脂層と導電性フィラーを含有しないフッ素樹脂層からなる2層構造の定着ロールを形成する甲2に記載のようなチューブとして、成形方法の一種である甲3記載の押出成形を適用したものにすぎず、甲1〜3発明から当業者に想到容易」(特許異議申立書7頁6〜11行)、と主張する。
しかしながら、先ず、甲2は、オフセット現象の発生防止という固有の目的達成のため、加熱ローラ及び加圧ローラの周面被覆材、すなわち、定着部材として、PFA、すなわち、熱流動性を有するフッ素系樹脂を含有する高分子材料単層チューブの使用が有効であることを示すにとどまり(前記キ〜ケ参照)、何ら発明1の必須の構成である、請求項1記載の「特定高分子材料を共押出して得られた、定着部材に用いられる2層チューブ」を教示するものとはいえない。
また、甲3発明も、甲1発明の客体である「定着部材」とは全く使用分野の異なる「飲料用フレキシブルチューブ」として、特定組成のフッ素樹脂内外層からなる共押出チューブが用いられることを開示するにすぎない(前記コ〜サ参照)から、該発明を甲1発明と組み合わせるべき技術的必然性はなく、結局、甲2同様、発明1の前記必須の構成を教示するものとはいえない。
そうすると、甲1〜3発明からは発明1の前記必須の構成を導き出すことはできない。
一方、発明1は、該必須の構成を具備することにより、「従来の如く用途に応じて各種フィラーを添加しその性質を改良する際に、フッ素系樹脂の単膜チューブに生じる問題点を一挙に解決するものであり、フッ素系樹脂の本来の特性を維持する上に、用途に応じて必要な特性も備わった極めて有用な」(同公報6欄47行〜7欄1行)2層チューブを提供するという、特許明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、発明1は、甲1〜3発明に基づき当業者に想到容易であったということはできない。
4の2.発明2について
発明2(前者)は、独立形式で記載されているものの、「2層チューブであって、少なくとも一方……に導電性フィラーが添加された」(前記請求項1参照)構成の発明1(後者)に対し、「該2層チューブの内層に導電性フィラーが添加された」(同請求項2参照)ものである点で、実質的に後者をさらに技術的に限定する関係にあるところ、前記のとおり、前提となる後者の進歩性が甲1〜3発明によっては否定できないのであるから、それと同じ理由により、甲1〜3発明によっては前者の進歩性を否定することはできない。
4の3.発明3について
発明3(前者)は、請求項1又は2を引用し、発明1〜2(後者)をさらに技術的に限定する関係にあるところ、前提となる後者の進歩性が甲1〜3発明によって否定できない以上、それと同じ理由により、甲1〜3発明によっては前者の進歩性を否定することはできない。

5.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-02-14 
出願番号 特願平2-319714
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 芦原 ゆりか  
特許庁審判長 小林 正巳
特許庁審判官 鴨野 研一
石井 克彦
登録日 2000-10-13 
登録番号 特許第3119661号(P3119661)
権利者 グンゼ株式会社
発明の名称 2層チューブ  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 白井 博樹  
代理人 青木 健二  
代理人 韮澤 弘  
代理人 菅井 英雄  
代理人 内田 亘彦  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 米澤 明  

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