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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1056716
異議申立番号 異議2000-74401  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-10-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-12-11 
確定日 2002-03-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第3052291号「成形同時加飾成形品の製造方法」の請求項1〜4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3052291号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第3052291号は、平成11年3月31日に出願された特願平11-90349号の特許出願に係り、平成12年4月7日にその特許権の設定登録がなされたものであって、その請求項1〜4に係る発明(以下、請求項mに係る発明を「発明m」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 キャビティ面が立体形状に形成されたキャビティ型上に加飾シート搬送部材によって加飾シートを配置し、次いで加飾シートの先端を端面クランプ部材で固定し、次いで加飾シート搬送部材を退避させ、次いで加飾シートの送り出しを固定するとともに端面クランプ部材による加飾シートの固定を解除し、次いでキャビティ型のキャビティ面に沿った立体枠状クランプ部材によって加飾シートをキャビティ型に固定し、次いでコア型を閉じて金型内へ成形樹脂を射出し加飾シートと成形樹脂とを一体化させて成形同時加飾成形品を得ることを特徴とする成形同時加飾成形品の製造方法。
【請求項2】 加飾シートがキャビティ面に沿うように真空成形または圧空成形する請求項1に記載の成形同時加飾成形品の製造方法。
【請求項3】 加飾シートがインサート材である請求項1〜2のいずれかに記載の成形同時加飾成形品の製造方法。
【請求項4】 加飾シートが転写材である請求項1〜2のいずれかに記載の成形同時加飾成形品の製造方法。」

2.申立ての理由の概要
これに対して、特許異議申立人・大日本印刷株式会社(以下、「申立人」という。)は、甲第1号証(特開平7-227877号公報)及び甲第2号証(特開平10-278071号公報)(以下、甲第n号証を「甲n」、該甲号証記載の発明を「甲n発明」という。)を提出し、
発明1〜4は、甲1〜2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、
と主張する。

3.甲各号証の記載内容
a.甲1
ア.「絵付シートを雌型の成形キャビティ表面の凹凸量より凹凸が浅く、かつ曲率が同じか又は小さな形状に変形させて保持する工程と、前記保持された絵付シートの表面形状と略同一形状の発熱面を有する熱盤によって前記保持された絵付シートを加熱軟化させる工程と、前記雌型の成形キャビティ表面に前記軟化した絵付シートを密着させる工程と、前記雌型と雄型とを合体させて型締めを行う工程と、雌型と雄型との間に形成される成形キャビティ内に熔融樹脂を注入充填して射出成形を行い射出成形品と絵付シートとを接着一体化させる工程とを含むことを特徴とする射出成形同時絵付方法。」(特許請求の範囲の請求項1)、
イ.「本発明は、射出成形と同時に成形体の表面に絵付を行う射出成形同時絵付方法……に係り、特に、表面の曲率や凹凸段差が比較的大きな成形体の表面に適切に絵付を行うのに好適な方法……に関する。」(段落【0001】)、
ウ.「雌型30と雄型40との間には、シートクランプ50と曲面型熱盤60が進退可能に配置されており、絵付シート15は、雌型30とシートクランプ50の間を通される。シートクランプ50は、……雌型の成形キャビティ31の外周縁に当接する周囲押さえ枠52と、この周囲押さえ枠に固定されていて使用時成形キャビティ内に突出する曲面状押さえ枠54とを有する。曲面状押さえ枠54は、キャビティ31の内面の凹凸量より小さい凹凸で、かつキャビティ31の内面と同じか、それより小さな曲率を有し、……絵付シート15をキャビティ31内に押し込んだ状態で保持する。」(段落【0025】)、
エ.「図3に示すように、絵付シート15は巻出しロール71から送りロール72によって繰り出されて雌型30の前方を走行する。絵付きシート15が弛まないように、シート他端は図示しない手段によって矢印方向に引張駆動されている。」(段落【0029】)、
オ.「図15に示すように、絵付シート15は雌型30bとシートクランプ100の間を走行する。摺動ロッドは、絵付シートをクランプしているときは雌型内部に収納されており、クランプを解除するときは雌型から突出するように……駆動される。雌型の成形キャビティ31b面が図14に示すように凹状である場合、シートクランプ100は絵付シート15を成形キャビティ周縁部に押さえつけ、所望の形状・曲率にシートを保持した状態で雌型の一部、すなわち成形キャビティ周縁部となる。」(段落【0051】)、
カ.「加熱軟化されたシートは、次に真空ポンプに接続されたライン状の吸引溝104から成形キャビティ内を真空排気することによって成形キャビティ内周面へ吸引され密着される。その後、曲面型熱盤を退避し、雌型と雄型とを型締めし、雄型40bに設けられた射出装置の注湯孔47から成形キャビティ内に熔融樹脂を注入充填して射出成形を行う。」(段落【0052】)、
キ.「本発明の射出形成同時絵付方法……によると、絵付シートをムラなく均一に加熱軟化することができる。また、熱軟化した絵付シートを雌型成形キャビティ面に予備成形する際の変位量を少なくできるため、シートの歪み、シワの発生や破れ、装飾層と成形品凹凸との位置ズレ、装飾層の歪み等が少なくなり、表面の凹凸段差や湾曲曲率の大きな成形品に対しても高品質の絵付を行うことができる。」(段落【0063】)、
ク.上記発明による射出成形同時絵付装置の一例を示す概略図に相当する図1、図1の装置を用いて射出成形と同時に絵付を行う工程を説明する図に相当する図3、シートクランプの他の実施例の概略図に相当する図14、及び、図14のシートクランプの作用を説明する図に相当する図15。
b.甲2
ケ.「連続帯状の絵付シートを、型開き状態にある一対の型の間に供給した後、絵付シートを1ショット分の大きさに切断し、次いで、両型を型締めし、両型で形成されるキャビティに樹脂を射出して、成形と同時に絵付シートにより成形品表面を絵付けする射出成形同時絵付け方法において、連続帯状の絵付シートの先端部を搬送手段で把持して型開き状態にある両型の間に導き、次いで、搬送手段で把持されている絵付シートの先端部を、把持手段で把持し、その後、搬送手段の絵付シートの把持を解除し、次いで、固定手段により、絵付シートが型のシート固定面との間隙を通して逆送可能で且つ絵付シート逆送時に絵付シートの形状が崩れない様に形状規制された半固定状態で、把持手段の絵付シートの把持を解放し、その後、絵付シートを逆送手段により固定手段と型のシート固定面との間隙を通して上流側に逆送して、固定手段の下流側端部から下流側に延びている絵付シートの先端部の長さを短くし、次いで、固定手段で絵付シートを型のシート固定面に固持して固定し、絵付シートの固定と同時又は固定の後に、絵付シートを固定手段よりも上流側で1ショット分の大きさに切断することで、絵付シートの無駄を少なくして射出成形する、射出成形同時絵付け方法。」(特許請求の範囲の請求項3)、
コ.「本発明は、射出成形同時絵付け……方法に関する。特に、連続帯状の絵付シートを、無駄無く1ショット分の大きさに切断して射出成形できる……方法に関する。」(段落【0001】)、
サ.「先ず、図1は、連続帯状の絵付シート供給前の状態である。……絵付シートはロールRとして、型Bの上方に配置されている……。そして、ロールRから巻きだされた絵付シートSは、その先端部は搬送手段1として、搬送チャックによって把持されて、鉛直方向下方に向かって……型開き状態にある型間に導かれようとしているところである。そして、図2は、搬送手段1が絵付シートの先端部を把持して、下方に搬送しているところである。一方、型Bの下端には把持手段2として受取チャックが取り付けてある。」(段落【0009】)、
シ.「そして、図1の状態から、図2に示す如く、型開き状態にある型A及びBの間を、搬送手段1が絵付シートSの先端部を把持したまま下方に移動する様にして、両型間に導いていく。……そして、次に、図3に示す如く、搬送手段1は、その把持した絵付シートの先端部を、型Bの下面に設置された把持手段2に渡す。把持手段2は、絵付シートの先端部の少し上流部が搬送手段で把持されている状態で、該先端部を把持する。」(段落【0011】)、
ス.「そして、次は図4に如く、把持手段2が絵付シートS先端部の把持を完了すると、搬送手段1は絵付シートの把持を解放して、型外部の上方に移動する。この際、絵付シートSは、把持手段に把持されたままである。」(段落【0013】)、
セ.「そして、図5に示す如く、固定手段3を解放状態(a)から前進……させて半固定状態(b)にした後、把持手段2は絵付シートSの先端部を解放する。次いで、逆送手段5で、絵付シートSを逆送し上流側に搬送する。絵付シートの逆送により、固定手段のシート搬送方向下流側端部から下流側に延びている絵付シートの先端部の長さを短くする。好ましくは、この長さを零とする。これにより、図9で説明した先端部のロス分Lは、零乃至は零に近い値にできる。」(段落【0016】)、
ソ.「なお、シート固定面4は、この例では、型Bのパーティング面であるが、パーティング面以外の面もあり得る。例えば、雌型において絵付シートの絞りが深い場合に、雌型をパーティング面に平行な面で上側と下側とに2型に分割して、2型の間に絵付シートを供給して、絞りを浅くする場合である。この場合には、固定手段3は、分割された雌型のうちの雄型側の上側の型となり、搬送手段はこの2型の間を移動する。従って、固定手段3は型の一部であり、その一部がキャビティ形成面を成す。また、シート固定面4(従って、固定手段3のシート固定面も)は、平面に限定されない。特開平7-227877号公報等に開示される様に、固定された絵付シートの断面が曲線や折れ線等の二次曲面形状の場合でも、本発明は適用できる。絵付シートの搬送方向又は直交する方向に沿った断面が、円弧等の曲線や折れ線等からなる曲面である。この場合は、固定手段のシート固定面も絵付シートの固定形状に概ね沿った曲面形状とする。」(段落【0018】)、
タ.「そして、次は、図6に示す如く、固定手段3を固定状態(c)まで前進させて、絵付シートSをシート固定面4に対して押圧して固持し、固定する。この結果、絵付シートの型間への供給が完了する。」(段落【0021】)、
チ.「次いで、切断手段6で、絵付シートを1ショット分の大きさに切断する。……図7は、絵付シートSの切断が終了した後である。そして次は、絵付シートSの加熱軟化である。……絵付シートSの加熱軟化後、または加熱軟化と同時に、型Bに設けた通気孔……から吸気して、絵付シートを真空成形して型Bのキャビティ面に密着させて、絵付シートの予備成形を行う。……予備成形後に、加熱手段7は両型間から型外部の退避位置に移動・退避させる。その後、両型A、Bを型締めする。」(段落【0022】〜【0025】)、
ツ.上記射出成形同時絵付け方法の一形態による手順の概念的説明図(絵付シート搬送前)に相当する図1、同説明図(絵付シート搬送中)に相当する図2、同説明図(絵付シート搬送後で先端固定後)に相当する図3、同説明図(絵付シート搬送手段退避中)に相当する図4、同説明図(絵付シート半固定・逆送中)に相当する図5、同説明図(絵付シート固定後)に相当する図6、同説明図(絵付シート切断後加熱中)に相当する図7、及び、従来技術による、絵付シート先端部の無駄を示す説明図に相当する図9。

4.対比・判断
4の1.発明1について
発明1(前者)と甲1発明(後者)とを対比すると、後者の「雌型30b」(前記オ参照)、「絵付シート」(同オ参照)、「シートクランプ100」(同オ参照)、「雄型40b」(同カ参照)は、それぞれ、前者の「キャビティ型」、「加飾シート」、「立体枠状クランプ部材」、「コア型」に相当するから、
両者は、
「キャビティ面が立体形状に形成されたキャビティ型上に加飾シート搬送部材によって加飾シートを配置する工程及びキャビティ型のキャビティ面に沿った立体枠状クランプ部材によって加飾シートをキャビティ型に固定し、次いでコア型を閉じて金型内へ成形樹脂を射出し加飾シートと成形樹脂とを一体化させて成形同時加飾成形品を得る工程を含む成形同時加飾成形品の製造方法」
に係る点で一致するものの、
甲1には、前者の必須の構成である、前記請求項1の記載中の
「端面クランプ部材による加飾シートの固定を解除し、次いでキャビティ型のキャビティ面に沿った立体枠状クランプ部材によって加飾シートをキャビティ型に固定」
する構成について、記載されていない。
申立人は、上記相違点について甲2を引用し、「前者(=発明1)と後者(=甲1発明)とは、絵付シートのキャビティ面への供給方法において相違するところ、前者の供給方法は甲2に記載されているから、後者の成形同時加飾成形品の製造方法に甲2記載の絵付シートの供給方法を適用して前者に至ることは当業者に想到容易」と主張する。
そこで検討すると、先ず、発明1にあっては、上記「加飾シートの固定を解除し、次いでキャビティ型のキャビティ面に沿った立体枠状クランプ部材によって加飾シートをキャビティ型に固定」することにより、「このとき、加飾シート1は下方が自由端となっているため無理に伸ばされたり無理な張力が加わることがなく、キャビティ面6の立体形状に無理なく沿う」(本件特許明細書段落【0041】)結果、同明細書図6に示すとおり、「加飾シートにしわが生じない成形同時加飾成形品を容易に得ることができる。」(同段落【0058】)という、顕著な効果を奏するものと認められる。
このように、発明1でいう「キャビティ型に固定」とは、自由端を有する状態下の加飾シートをキャビティ面の立体形状に沿わせることを意味するものと解するのが相当である。、
一方、甲2発明の「搬送手段1」(前記シ参照)、「絵付シートS」(同シ参照)、「把持手段」(同シ参照)、「固定手段」(同セ)は、順次、発明1の「加飾シート搬送部材」、「加飾シート」、「端面クランプ部材」、「立体枠状クランプ部材」に相当するから、発明1同様、甲2発明でも「キャビティ面が立体形状に形成されたキャビティ型上に加飾シート搬送部材によって加飾シートを配置し、次いで加飾シートの先端を端面クランプ部材で固定し、次いで加飾シート搬送部材を退避させ、次いで加飾シートの送り出しを固定するとともに端面クランプ部材による加飾シートの固定を解除」することが行われている。
しかしながら、甲2発明における該「加飾(=絵付)シートの固定解除」は、該発明固有の目的である、「連続帯状の絵付(=加飾)シートを、無駄無く1ショット分の大きさに切断して射出成形できる」(前記コ参照)ようにするため、その特徴的構成とする「逆送手段5で、絵付シートSを逆送し上流側に搬送する」(前記セ参照)ための前提として行われているだけにすぎない。
そして、甲2発明にあっては、発明1でいう意味での(=自由端を有する状態下の加飾シートをキャビティ面の立体形状に沿わせるための)「キャビティ型に固定」する工程に対応する工程は、「図6に示す如く、固定手段3を固定状態(c)まで前進させて、絵付シートSをシート固定面4に対して押圧して固持し、固定」(前記タ参照。該図から明らかなとおり、下線付与部の「固定」時、絵付(=加飾)シートには自由端は存在せず、該シートは、未だキャビティ面の立体形状に沿ってはいない。)した後、自由端を有さない状態下の絵付(=加飾)シートの切断、加熱軟化、予備成形を経て初めて達成される(前記チ参照)のであるから、結局、甲2発明は、発明1の必須の構成である、前記「端面クランプ部材による加飾シートの固定を解除し、次いでキャビティ型のキャビティ面に沿った立体枠状クランプ部材によって加飾シートをキャビティ型に固定」する旨の構成について、記載も示唆もするものとはいえない。
以上のとおりであるから、発明1は、甲1〜2発明に基づき当業者に想到容易であったということはできない。
4の2.発明2〜4について
発明2〜4(前者)は、前記のとおり、直接あるいは間接的に請求項1を引用し、発明1を直接あるいは間接的に限定する関係にあるところ、前提となる発明1の進歩性が甲1〜2発明によって否定できないことは上述のとおりであるから、それと同じ理由により、甲1〜2発明によっては発明2〜4の進歩性を否定することはできない。

5.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-03-04 
出願番号 特願平11-90349
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 浩  
特許庁審判長 小林 正巳
特許庁審判官 石井 克彦
喜納 稔
登録日 2000-04-07 
登録番号 特許第3052291号(P3052291)
権利者 日本写真印刷株式会社
発明の名称 成形同時加飾成形品の製造方法  
代理人 土井 育郎  

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