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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1056722
異議申立番号 異議2001-72236  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-04-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-08-13 
確定日 2002-03-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第3133961号「耐蝕性部材、その使用方法およびその製造方法」の請求項1〜11に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3133961号の請求項1〜11に係る発明の特許を維持する。 
理由 1.本件の手続の経緯
本件特許第3133961号は、平成3年5月28日に出願された特願平3-150932号に基づいて国内優先権を主張して、平成4年2月13日に出願された特願平4-58727号の一部を特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願として平成9年6月2日に出願されたものであって、その後、平成12年11月24日に設定登録され、これに対し、平成13年8月13日に高柳馨から特許異議の申立がなされたものである。
2.本件発明
本件発明は、設定登録時の本件明細書の特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された次のものである。
[請求項1]241℃以上、1100℃以下の温度領域で、解離したハロゲン系腐蝕性ガスに対して暴露される耐蝕性部材であって、
窒化アルミニウム焼結体からなる基材と、この基材の表面に生成しているアルミニウムフッ化物膜とを備えていることを特徴とする、耐蝕性部材。
[請求項2]前記アルミニウムフッ化物が三フッ化アルミニウムであることを特徴とする、請求項1記載の耐蝕性部材。
[請求項3]前記耐蝕性部材が、300℃以上の温度領域で、解離したハロゲン系腐蝕性ガスに対して暴露される耐蝕性部材であることを特徴とする、請求項1または2記載の耐蝕性部材。
[請求項4]前記耐蝕性部材が、241℃以上、591℃以下の温度領域で、解離したハロゲン系腐蝕性ガスに対して暴露される耐蝕性部材であることを特徴とする、請求項1または2記載の耐蝕性部材。
[請求項5]前記ハロゲン系腐蝕性ガスがフッ素含有腐蝕性ガスのプラズマであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の耐蝕性部材。
[請求項6]前記フッ素含有腐蝕性ガスが、ClF3、NF3およびWF6からなる群より選ばれる一種以上のフッ素含有腐蝕性ガスであることを特徴とする、請求項5記載の耐蝕性部材。
[請求項7]前記ハロゲン系腐蝕性ガスが、塩素含有腐蝕性ガスを含有する成膜用ガスであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の耐蝕性部材。
[請求項8]半導体製造装置内で前記ハロゲン系腐蝕性ガスに暴露される、半導体製造装置用の請求項1〜7のいずれか一つの請求項に記載の耐蝕性部材。
[請求項9]請求項8記載の耐蝕性部材を、前記半導体製造装置内で、前記ハロゲン系腐蝕性ガスに241℃以上、1100℃以下の温度で曝露させることを特徴とする、耐蝕性部材の使用方法。
[請求項10]前記半導体製造装置が半導体膜を成膜するための化学的気相成長装置であり、前記耐蝕性部材が半導体ウエハーを保持するための耐蝕性部材であり、前記耐蝕性部材および前記半導体ウエハーを前記化学的気相成長装置内で成膜用ガスに241℃以上、1100℃以下の温度で曝露させることによって前記半導体ウエハーに成膜を行った後、前記耐蝕性部材および前記半導体ウエハーを前記ハロゲン系腐蝕性ガスからなるクリーニングガスに対して241℃以上、1100℃以下の温度で曝露することを特徴とする、請求項9記載の耐蝕性部材の使用方法。
[請求項11]解離したハロゲン系腐蝕性ガスに対して暴露される耐蝕性部材を製造する方法であって、
窒化アルミニウム焼結体からなる基材を、241℃以上、1100℃以下で、解離したフッ素ラジカルを含むフッ素系腐蝕性ガスに対して暴露することによって、前記基材の表面にアルミニウムフッ化物膜を生成させることによって前記耐蝕性部材を得ることを特徴とする、解離したハロゲン系腐蝕性ガスに対する耐蝕性部材の製造方法。
3.特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人高柳馨は、甲第1〜5号証を提出して、次のような主旨の主張をしている。
「本件請求項1〜11に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。」
4.甲第1号証および甲第2号証の記載
甲第1号証(特開平2-70066号公報)には、次の記載がある。
(イ-1)「接地基板電極を構成する金属製均熱板を有し、この金属製均熱板を加熱するための加熱手段を有するサセプタと、このサセプタ上の接地基板電極に対峙する高周波電極とを有するプラズマCVD装置において、前記サセプタ上の金属製均熱板の周囲は非金属系絶縁材のカバーで包囲されていることを特徴とするプラズマCVD装置。」(特許請求の範囲第1項)
(イ-2)「非金属系絶縁材のカバーは炭化ケイ素から構成されていることを特徴とする請求項1記載のプラズマCVD装置。」(特許請求の範囲第2項)
(イ-3)「前記のように、本発明のプラズマCVD装置においては、均熱板の周囲に配設される絶縁カバーが炭化ケイ素のような非金属絶縁材から構成されている。
従来のサセプタの絶縁カバーで膜が剥離する原因は未だ正確に解明されていないので推測の域を出ないが、絶縁カバーの表面にフッ化アルミニウム(AlF3)が出来ているためと思われる。
プラズマエッチングクリーニングに使用されるフロン-14(CF4)と絶縁カバーの材質のアルミナ(Al2O3)とが反応し、AlF3が生成され、絶縁カバー全体を薄く覆ってしまうものと思われる。AlF3は表面エネルギーが小さいために、この上にプラズマシリコン酸化膜またはプラズマシリコン窒化膜が堆積して膜厚が厚くなっていくと膜剥離が起こるものと考えられる。」(第2頁左下欄第9行〜同頁右下欄第4行)
(イ-4)「従来の金属のアルミナに代えて、非金属の炭化ケイ素(SiC)を使用すれば前記のような問題は起こらない。SiCとCF4とが反応するとSiF4が生成するが、この物質は常温で気体であり、しかも、反応室内は高真空状態なので絶縁カバー表面に付着していることは不可能である。従って、SiC絶縁カバー表面に、表面エネルギーの小さな物質が生成されることはない。
かくして、従来のような膜剥離による異物増加や膜質の低下は効果的に防止される。その結果、半導体デバイス製造上の歩留り低下を防止することができる。」(第2頁右下欄第5〜16行)
(イ-5)「サセプタの中心には金属製の均熱板34があり、その周囲に炭化ケイ素の絶縁カバー36が配設されている。」(第3頁右上欄第2〜4行)
(イ-6)「絶縁カバーの材質としては、CF4によるプラズマエッチングクリーニングの際にカバー表面に低表面エネルギーの膜が形成されないものであれば全て使用できる。」(第3頁右上欄第12〜15行)
甲第2号証(特開昭63-140085号公報)には、以下の記載がある。
(ロ-1)「半導体ウエハー、単結晶サファイアなどの板状体を載置し、該板状体表面に膜を被着する装置であって、上記板状体を載置する台座が20W/m・K以上の熱伝導係数をもったセラミック材から成ることを特徴とする成膜装置。」(特許請求の範囲第1項)
(ロ-2)「上記セラミック材がアルミナ、炭化珪素系焼結体、窒化アルミ焼結体である特許請求の範囲第1項記載の成膜装置。」(特許請求の範囲第2項)
(ロ-3)「ところで、載置台1は、第1図に示した載置台Dと同様の回転テーブル型式の基板電極S上に載せられた状態にて回転(公転)し、また必要に応じて自転するようにして使用されるが、この際基板電極SはヒータHによって加熱され、載置台1を介して板状体Pを加熱する必要があるため、まず、熱伝導率が大きく、耐熱、耐蝕性の大きいことが要求される。」(第2頁右上欄第17行〜同頁左下欄第4行)
(ロ-4)「さらに成膜した板状体を載置台1に乗せたまま弗酸による洗浄をくり返したが本発明実施例による窒化アルミニウム、炭化珪素、アルミナの各セラミック材製の載置台1は比較的浸蝕されたり、変色することなくくり返し使用可能であった。」(第2頁右下欄第13〜17行)
5.当審の判断
上記(イ-1)〜(イ-6)の記載を総合する、甲第1号証には、
プラズマCVD装置のサセプタ上の金属製均熱板の周囲を包囲する非金属系の絶縁カバーが、フロン14(CF4)を使用するプラズマエッチングクリーニング処理を受けること、また、非金属系の絶縁カバーは、具体的には、炭化ケイ素で構成されていることが記載されており、そして、CF4を使用するプラズマエッチングクリーニング処理においては、ハロゲン系腐蝕性ガスの1種であるCF4は、プラズマ状態で解離しており、また、具体的に挙げられている炭化ケイ素の絶縁カバーは、プラズマ状態で解離したハロゲン系腐蝕性ガスの1種であるCF4に対し、実際に使用できるのであるから、実用上耐蝕性のある部材であるといえる。
そこで、本件請求項1に係る発明の耐蝕性部材と、甲第1号証に記載された炭化ケイ素の絶縁材カバーを比較すると、両者は、解離したハロゲン系腐蝕性ガスに対して暴露される耐蝕性部材である点で一致しているものの、両者は、次の点で相違している。
(1)前者は、241℃以上、1100℃以下の温度領域で、解離したハロゲン系腐食性ガスに対して暴露される耐腐蝕性部材であるのに対し、後者は、ハロゲン系腐食性ガスに対して暴露される際の温度領域が不明である点。
(2)前者は、基材が窒化アルミニウム焼結体であるのに対し、後者は、炭化ケイ素である点。
(3)前者は、基材の表面に生成しているアルミニウムフッ化物膜を備えているのに対し、後者は、上記(イ-4)の「SiCとCF4とが反応するとSiF4が生成するが、この物質は常温で気体であり、しかも、反応室内は高真空状態なので絶縁カバー表面に付着していることは不可能である。」という記載から分かるように、SiF4と反応しても膜は形成されない点。
そこで、まず、上記(3)の相違点につき検討する。
本件明細書(表3の記載等)の記載によれば、本件発明は、耐蝕性部材において、「基材の表面に生成しているアルミニウムフッ化物膜を備えている」ことにより、その余の構成と相俟って、エッチング処理に際しても、耐蝕性に優れ、半導体不良の原因となるパーテクル発生を抑制することができたものである。
これに対して、甲第2号証には、板状体を載置する台座である載置台1を、窒化アルミ焼結体で構成すること、および、その部材は、耐蝕性が大きいことが要求されることが記載されているから、甲第2号証には、窒化アルミニウム焼結体からなる耐蝕性部材が記載されており、また、そこには、成膜した板状体を載置台1に乗せたまま弗酸による洗浄をくり返した(上記(ロ-4)を参照)ことが記載されているものの、その耐蝕性部材(載置台1)の窒化アルミ焼結体の表面にアルミニウムフッ化物膜が生成することまでは示されない。
そして、甲第3号証(特開昭61-198628号公報)、甲第4号証(特開平1-307763号公報)および甲第5号証(特開平2-240267号公報)には、それぞれ、タングステン膜の選択成長方法、支持体ホルダーの処理方法、および、CVD装置の残留ガス除去方法に関する発明が記載されているものの、それらには、耐蝕性部材として、窒化アルミニウム焼結体を使用すること、ひいては、窒化アルミニウム焼結体の表面にアルミニウムフッ化物膜を備えることが記載されないし、また、窒化アルミニウム焼結体の表面にアルミニウムフッ化物膜を備えることにより、エッチング処理に際しても、耐蝕性に優れ、半導体不良の原因となるパーテクル発生を抑制できることにつきにつき教示するものはない。
そうすると、甲第2〜5号証では、上記(3)の相違点に関する構成を甲第1号証に記載のものに適用する根拠が示されないことになる。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書第13頁4〜25行で、甲第1号証には、「プラズマCVD装置」の「絶縁カバー」の材質に、アルミナ(Al2O3)を用いること、及び、このような材質の「絶縁カバー」がプラズマ化した(解離した)CF4に晒されるとAlF3が生成され、「絶縁カバー」全体を薄く覆うことが示されており、甲第1号証におけるAlF3膜は、「アルミニウムフッ化物膜」に相当するものであり、また、甲第2号証には、成膜装置に関する発明が開示されており、載置台1の材質として、アルミナと窒化アルミニウムの各セラミック材料をともに用いることができる点が開示されているから、甲第1号証に開示された「絶縁カバー」の材質として、アルミナに代えて窒化アルミニウムのセラミック材料(窒化アルミニウム焼結体)を用いることは当業者の適宜なし得ることであるというような趣旨のことを主張している。しかし、上記(イ-3)の「前記のように、本発明のプラズマCVD装置においては、均熱板の周囲に配設される絶縁カバーが炭化ケイ素のような非金属絶縁材から構成されている。従来のサセプタの絶縁カバーで膜が剥離する原因は未だ正確に解明されていないので推測の域を出ないが、絶縁カバーの表面にフッ化アルミニウム(AlF3)が出来ているためと思われる。プラズマエッチングクリーニングに使用されるフロン-14(CF4)と絶縁カバーの材質のアルミナ(Al2O3)とが反応し、AlF3が生成され、絶縁カバー全体を薄く覆ってしまうものと思われる。AlF3は表面エネルギーが小さいために、この上にプラズマシリコン酸化膜またはプラズマシリコン窒化膜が堆積して膜厚が厚くなっていくと膜剥離が起こるものと考えられる。」という記載から分かるように、甲第1号証においては、プラズマエッチングクリーニングに使用されるフロン-14(CF4)と従来の絶縁カバーの材質のアルミナ(Al2O3)とが反応して生成し、絶縁カバー全体を薄く覆ってしまうAlF3は、表面エネルギーが小さいために、この上にプラズマシリコン酸化膜またはプラズマシリコン窒化膜が堆積して膜厚が厚くなっていくと膜剥離が起こるものと考えられており、このように、そのAlF4は生成すると障害になると認識されているものである。したがって、甲第1号証のこのような記載から、甲第1号証の従来技術として記載されたアルミナ(Al2O3)を、甲第2号証に記載された窒化アルミニウム焼結体に代えて、その、窒化アルミニウムからなる基材の表面に、障害となるところのアルミニウムフッ化物膜を、敢えて備えようとすることは、当業者であれば、とても想到することができないものである。

以上のとおり、上記(3)の相違点に関する構成を適用することが当業者の容易になしうることではない。
してみると、上記(1)及び(2)の相違点については判断するまでもなく、本件請求項1に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
また、本件請求項2〜10に係る発明は、直接または間接的に、本件請求項1を全て引用するものであり、したがって、本件請求項2〜10に係る発明も、本件請求項1に係る発明で記載した上記理由と同じ理由により、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
更に、本件請求項11に係る発明では、耐腐蝕性部材が241℃以上、1100℃以下の温度領域で、解離したハロゲン系腐食性ガスに対して暴露され、かつ、窒化アルミニウム焼結体からなる基材の表面にアルミニウムフッ化物膜を生成させて耐蝕性部材とするというものであって、上記(3)の相違点に関する構成を含む本件請求項1に係る発明の構成を、実質上、具備するものであり、したがって、上記する理由と同じ理由により、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

6.結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由および証拠によっては、本件請求項1〜11に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件請求項1〜11に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-02-13 
出願番号 特願平9-157336
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加藤 浩一米田 健志  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 唐戸 光雄
野田 直人
登録日 2000-11-24 
登録番号 特許第3133961号(P3133961)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 耐蝕性部材、その使用方法およびその製造方法  
代理人 杉村 暁秀  
代理人 徳永 博  
代理人 高見 和明  
代理人 梅本 政夫  
代理人 中谷 光夫  
代理人 青木 純雄  
代理人 杉村 純子  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 冨田 典  
代理人 杉村 興作  

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