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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23G
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A23G
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A23G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23G
管理番号 1056759
異議申立番号 異議2001-70827  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-03-01 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-16 
確定日 2002-03-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第3089514号「噛み心地の改善された無糖チューインガム及びその製法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3089514号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
特許第3089514号(平成4年8月6日出願、平成12年7月21日設定登録、以下、本件特許という)の明細書(以下、本件明細書という)の請求項1〜3に係る各発明(以下、各本件発明という)は、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載されている次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】無水結晶マルチトールを50重量%以上含有し、マルチトー ル純度が95〜100重量%で、粒径20〜60ミクロンの結晶性マルチ トール粉末を、製品のチューインガム重量に対して40〜80重量%含有 することを特徴とする、噛み心地の改善された無糖チューインガム。
【請求項2】無水結晶マルチトールを70重量%以上含有し、マルチトー ル純度が95〜100重量%で、粒径30〜50ミクロンの結晶性マルチ トール粉末を、製品のチューインガム重量に対して50〜70重量%含有 することを特徴とする、噛み心地の改善された無糖チューインガム。
【請求項3】無水結晶マルチトールを50重量%以上含有し、マルチトー ル純度が95〜100重量%で、粒径20〜60ミクロンの結晶性マルチ トール粉末を、製品のチューインガム重量に対して40〜80重量%用い ることを特徴とする、噛み心地の改善された無糖チューインガムの製法。 」

2.申立ての理由の概要
特許異議申立人 稲川満智子(以下,Aという)は、平成13年3月16日付け特許異議申立書において、
(A-1)請求項1〜3に係る各本件発明に対し、 甲第1号証:米国特許第5,133,977号明細書
(以下、刊行物1-1という)
甲第1号証の2:特開平3-210150号公報
(以下、刊行物1-2という)
甲第2号証:赤尾剛外2名著,「食品工学基礎講座 3 固 体・粉体処理」,63年12月25日株式会社 光琳発行,第13頁
(以下、刊行物2という)
甲第3号証:松原秀樹外1名,「製菓材料の新傾向 製菓材 料としての粉末還元麦芽糖水飴の利用」, New Food Industry,31(3),第28-32頁( 1989)
(以下、刊行物3という)
甲第4号証:「SPECIFICATIONS FOR AMALTY MR-100」 ,TOWA CHEMICAL INDUSTRY CO.,LTD
(以下、刊行物4という))
甲第5号証:南部正一,「粉末マルチ(粉末還元麦芽糖水
飴)の特長と食品への利用」,ジャパンフー
ドサイエンス 1985-8,第55-64頁 (以下、刊行物5という)
甲第6号証:金子由公,「甘味料 マルチトールの特性と
効果的利用」,食品と科学 1991増刊号, 第91-95頁
(以下、刊行物6という)
を引用し、刊行物2及び刊行物4における記載も参酌すると、 (イ)本件特許出願前に頒布された刊行物1(以下、刊行物1 -1及び刊行物1-2の両者を指す)又は刊行物3に記載され た発明であるから特許法第29条第1項第3号に規定された発 明に該当するので、さもなくば、(ロ)本件特許出願前に頒布 された刊行物3若しくは刊行物5などに記載された発明に刊行 物1に記載された発明を適用して、又は刊行物5に記載された 発明に本件特許出願前に頒布された刊行物6に記載された発明 を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであ るから特許法第29条第2項の規定により、特許を受けること できず、
(A-2)本件明細書において、「実施例」で用いている「レシス」の「 無水結晶マルチトールの含量、マルチトールの純度及び粒径範 囲」について記載されていないので、「実施例」は本件発明の 構成及び効果を裏付けるものではなく、本件発明を追試するこ とも不能であり、また、特許請求の範囲について、「無水結晶 マルチトール」の「含有」量と「マルチトール純度」とは両立 せず、「無水結晶マルチトール」の下限限定の意味も本件明細 書に記載されていないので、本件明細書は特許法第36条第4 項及び5項(特許異議申立人Aは、第5項とせず、「第6項」 と記載しているが、特許異議申立人Aの主張の趣旨、特許第3 089514号が出願された時点における特許法第36条の規 定及び特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116 号)附則第9条第7項の規定に基づく、特許法等の一部を改正 する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第 205号)第3条第2項の規定からみて、「第6項」は第5項 の誤記であると判断した)に規定する要件を満たしていない
旨主張し、特許異議申立人 椙田 慈(以下,Bという)は平成13年3月19日付け特許異議申立書において、
(B-1)請求項1〜3に係る各本件発明に対し、
甲第1号証:鈴木義久外1名,「チューインガムの科学」, 食品工業,30(2),第57-69,104 頁(1987.1.30)
(以下、刊行物7という)
甲第2号証:特公昭64-3468号公報
(以下、刊行物8という)
甲第3号証:特開平3-210150号公報
(以下、刊行物1-2という)
甲第4号証:小泉袈裟勝監修,「単位の辞典 改訂4版」, 昭和56年7月31日株式会社ラテイス発行, 第299,300頁
(以下、刊行物9という)
甲第5号証:松原秀樹外1名,「製菓材料の新傾向 製菓材 料としての粉末還元麦芽糖水飴の利用」,New Food Industry,31(3),第28-32頁
(平成1年3月1日)
(以下、刊行物3という)
甲第6号証:金子由公,「甘味料 マルチトールの特性と効 果的利用」,食品と科学 1991臨時増刊号 (通巻第436号)「調味料読本 調味料・甘 味料・香辛料の効果的利用」,第91-95頁 (平成3年8月8日)
(以下、刊行物6という)
甲第7号証:特開昭60-102147号公報
(以下、刊行物10という)
を引用し、刊行物9における記載も参酌すると、刊行物7記載 の発明に刊行物1-2、刊行物6、刊行物8及び刊行物10、 場合により、更に刊行物3に記載の発明を適用して、又は刊行 物10記載の発明に刊行物1-2、刊行物3及び刊行物6〜刊 行物8に記載の発明を適用して、当業者が容易になし得た程度 の発明に過ぎないので、各本件発明は、本件特許出願前に頒布 された刊行物1-2、刊行物3及び刊行物6〜刊行物10に記 載されている発明に基いて、当業者が容易になし得た程度の発 明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受け ることができず、
( B-2)本件特許の特許権者が平成12年5月8日付で提出した意見書 によれば、「本願発明は、マルチトール純度を98%以上とす ることにより、ガムに対する好ましい効果を付与することを見 出し、完成するに至ったもの」であるが、本件明細書の請求項 1〜3において、マルチトール純度が95重量%以上とされて いるので、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしてい ない
旨主張し、両特許異議申立人はともに、請求項1〜3に係る各本件特許は、特許法第113条第2号又は同法同条第4号の規定に該当することを理由として、同法第114条第2項の規定により取り消されるべきであると主張している。

3.本件明細書と特許法第36条における規定との関係
(3-1)本件明細書の発明の詳細な説明において、「実施例」で用いている「レシス」の「無水結晶マルチトールの含量、マルチトールの純度及び粒径範囲」について記載されていないことは、発明の詳細な説明における記載として好ましくはないが、前記「レシス」は、例えば刊行物6において記載されていることなどからみて、当業者が入手することが可能であり、また、その粒径は、本件発明の「実施例」で用いていることから、特許請求の範囲に記載されている「粒径20〜60ミクロン」の範囲内にあることは明らかであり、かつ、かかる範囲内の粒径のものを選択(分級)することは、当業者にとって困難であったとも認められないので、発明の詳細な説明において、当業者が容易に本件発明の実施をすることができない程度の記載となっているとも認められず、
(3-2)本件明細書の特許請求の範囲における記載について、「結晶性マルチトール粉末」において「マルチトール純度が95〜100重量%」であることは、「マルチトール」ではない物質(不純物)が5重量%未満であると解され、「結晶性マルチトール粉末」において、例えば、「無水結晶性マルチトールが50重量%以上」であることは、「50重量%」未満である残部が、「無水結晶性マルチトール」を除いた「マルチトール」と、5重量%未満の、「マルチトール」ではない物質(不純物)とからなると解されるので、本件発明が不明瞭になっているとも認められず、
(3-3)本件発明の特許権者が提出した平成12年5月8日付け意見書における「本願発明は、マルチトール純度を98%以上とすることにより、ガムに対する好ましい効果を付与することを見出し、完成するに至ったものであり、引用文献に記載されたガムとは明らかに異なるものです。」という主張については、「マルチトール純度を98%以上とすることにより」が、「ガムに対する好ましい効果を付与すること」を「見出し」た時点についてであり、「完成するに至った」時点では、本件明細書の特許請求の範囲において記載されているとおりの「マルチトール純度が95〜100重量%」である場合を対象とすると解するのが相当であるから、本件明細書における記載が、前記意見書における、本件発明の特許権者の主張と相容れないものである、或いは適格でない記載であるとも認められず、
(3-4)各本件発明で、本件明細書の特許請求の範囲に記載されている数値範囲とする意義に関して、本件明細書の【0018】〜【0022】に記載されており、また、本件明細書における記載、本件特許出願前に頒布された刊行物における記載並びに特許異議申立人A及び特許異議申立人Bが主張する理由からは、本件明細書の特許請求の範囲に記載されている範囲内の数値でありながら、本件発明の目的に合致しない場合があるとする根拠も見出せない。
しかして、前述の(3-1)〜(3-4)から、前記2の(A-2)に係る、特許異議申立人Aが主張する理由及び前記2の(B-2)に係る、特許異議申立人Bが主張する理由を以て、請求項1〜3の各本件発明の特許を取り消す程に本件明細書が特許法第36条に規定された要件を満たしていない、と迄は認められない。
4.甲各号証の刊行物及び該刊行物における記載についての検討
刊行物4は、頒布された時点について不明であるが、刊行物1〜刊行物3及び刊行物5〜刊行物10は、本件特許出願前に頒布されたものである。そして、これら刊行物における記載について検討すると、
<刊行物1-1,刊行物1-2>
「a)約5%〜約50%のガムベースと、b)約0.5%〜約3%の香味料と、c)約40%〜約90%の粉砕塊状甘味料とを含むチューイングガム組成物であって、該粉砕塊状甘味料は、その少なくとも約60%が米国標準♯325篩を通過するような粒度分布を有し、かつ該塊状甘味料が本質的に澱粉を含まないことを特徴とする上記チューイングガム組成物。」( 特許請求の範囲第1項)に関する発明が記載され、「今や、微粉砕粉末状の塊状甘味料からチューイングガムを作製することにより、改良された甘味プロフィールをもつチューイングガムが作製し得ることが見出された。例えば、少なくとも約60%が米国標準♯325篩を通過するような粒度分布をもつスクロースの使用により、初期甘味知覚における減少のないあるいは僅かな減少のみ示す、長い持続性のあるガムが得られる。」(刊行物1-1の第1欄第55〜62行、刊行物1-2の第3頁右上欄第3〜10行)、「好ましくは該粉末化塊状甘味料の少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも90%が該米国標準♯325篩を通過する。」(刊行物1-1の第2欄第26〜28行、刊行物1-2の第3頁左下欄第15〜18行)、「本明細書で使用する“塊状甘味料”なる用語は、スクロースと同程度の範囲の甘味をもつ塊状甘味料を意味するものとする。」(刊行物1-1の第2欄第29〜31行、刊行物1-2の第3頁左下欄第19行〜同頁右下欄第1行)、「本発明で使用する好ましい塊状甘味料はスクロースである。他の同様な甘味のある塊状甘味料(例えば、フルクトースおよびキシリトール)並びにこのような甘味料の混合物も本発明で使用するのに好ましい。」(刊行物1-1の第2欄第35〜39行、刊行物1-2の第3頁右下欄第5〜9行)、「幾分かの微粉砕塊状甘味料が標準的な粉砕甘味料よりも一層十分にガム中に配合され、一方ガムベースにそれ程十分には配合されていない該甘味料の部分がその大きな表面対重量比のために咀嚼中により迅速に可溶化されるものと考えられる。」(刊行物1-1の第5欄第53〜58行、刊行物1-2の第6頁左下欄第16〜20行)及び「咀嚼中、迅速に可溶化される微粉化塊状甘味料は迅速な甘味の放出をもたらす。比較的高い、口内での最大甘味料濃度は従来のガムにおけるよりも低い。しかし、感覚上の“飽和(saturation)”点またはその近傍での甘味の知覚は、甘味レベルとの関係で漸近的であるから、甘味料濃度における絶対的差異は知覚された甘味における最少の差異しか与えない。後になって、ガムベースに取込まれていた塊状甘味料が放出されると、甘味剤濃度は標準的粉砕甘味料を用いた場合よりも高くなる。」(刊行物1-1の第5欄第62行〜第6欄第5行、刊行物1-2の第6頁右下欄第5〜15行)、と記載されている。
ここで、刊行物1-1及び刊行物1-2における記載について検討すると、「甘味料」の「粒度」と「チューイングガム」の「甘味」との関係に関して記載されているが、本件発明に関わる、「粒度」の上限及び下限、マルチトールそのものと「チューイングガム」との関係並びに「甘味料」の「粒度」と「チューイングガム」の噛み心地との関係に関しては記載されていない。
<刊行物2>
「アメリカASTM」における「呼びNo.」の「325」は、「JIS Z8801-1982」における「目開き」が「45」「μm」であるこ とが記載されているに過ぎない。
<刊行物3>
「表1」において、「粉末」である「アマルティ MR‐20」、「アマルティ MR‐50」及び「アマルティ MR‐100」の「マルチトール純度」が「93〜96%」であることが記載され、「アマルティ」について「甘味質は,刺激のない温和な甘味で,切れが良く,砂糖に大変良く似ており(図2),砂糖の約8割の甘味度をもつ」(第29頁左欄下から第7〜5行)と記載され、「アマルティの非う触性が裏づけられており,キャンディやゼリー,チョコレート,チューインガム等に使用することにより,歯に安心でおいしい菓子を作ることができる。」(第29頁左欄下から第23〜20行)及び「lll-lll 糖衣菓子への利用 アマルティを使用したシュガーレスキャンディやチューインガムは,既に各社から発売され好評を得ているが,アマルティによる糖衣は,‥‥。特にチューインガムについては‥‥,以下にその製造法等を紹介する。」(第31頁左欄下から第6行〜同頁右欄第6行)と記載されている。
ここで、引用例3における記載について検討すると、「マルチトール純度」が「93〜96%」の「粉末」である「アマルティ」を「チューインガム」に用いることは記載されているが、具体的に記載されているのは「チューインガム」の「アマルティによる糖衣」であって、本件発明に関わる、マルチトール粉末の粒径及びマルチトール粉末の使用割合と「チューインガム」の噛み心地との関係に関しては記載されていない。
<刊行物4>
「SPECIFICATIONS FOR AMALTY MR-100」として、「Description:White
crystalline powder, powder or granules.」及び「 Particle size:100 mesh on Less than 10 % 」と記載されているに過ぎない。
<刊行物5>
「表1」において、「粉末マルチ」中及び「粉末マルチMR」中の「マルチトール」がそれぞれ「88〜92」「%」及び「93〜96」「%」であること、「表5」において、「粉末マルチ」、「粉末マルチMR」及び「結晶マルチトール」の「mp(℃)」がそれぞれ「130〜136」、「138〜142」及び「149」であることが記載され、「表10」において、「シュガーレスチューインガムの例」として「粉末マルチ」の「配合量(%)」が「65」である場合が記載され、「粉末マルチを,チューインガム,チョコレート,キャンデー等に使用することにより,歯に安心な菓子となる。」(第57頁右欄下から第17、16行)、「図4は粉末マルチの吸湿曲線である。‥‥,粉末マルチは吸湿性が低く,相対湿度75%,温度35℃の条件下では,約6%の吸湿で平衡に達する。粉末マルチMRは,さらに吸湿性を改良した新製品であり,同条件下で3〜4%の吸湿となっている。粉末マルチの主成分であるマルチトール結晶は,全く吸湿性がなく,従ってマルチトールの純度をさらに高めることにより,吸湿性はさらに改良されるものと思われる。」(第58頁左欄「図4」の下第1〜9行)及び「表10,11は,シュガーレスチューインガムとシュガーレスチョコレイトの配合例である。チューインガムやチョコレートは,いずれも砂糖が40〜65%ほど使用されており,その上,口腔内に比較的長時間留まるので虫歯の原因となることが指摘されている。粉末マルチは非う触性の糖質であるから,粉末マルチを使用したチューインガム,チョコレートは「歯に安全な製品」となる。」(第62頁右欄下から第5行〜第63頁左欄「写真9」の下第2行)と記載されいる。
ここで、刊行物5における記載について検討すると、「マルチトール」が「88〜92」「%」である「粉末マルチ」の「配合量(%)」が「65」である「シュガーレスガム」、「マルチトール」が「93〜96」「%」である「粉末マルチMR」、「mp(℃)」が「149」である「結晶マルチトール」に関して記載されているが、本件発明に関わる、「シュガーレスチューインガム」の噛み心地を改善するために、「表10」における「粉末マルチ」ではなく、「表1」、「図4」、「表5」に記載されている「粉末マルチMR」又は「図4」、「表5」に記載されている「結晶マルチトール」そのものの「粉末」を用いた「シュガーレスガム」が認識されていたことを窺わせる記載及び「粉末マルチ」の粒径についての記載は見当たらない。
<刊行物6>
「表1」において、「粉体」である「アマルティ(R) MR-20」、「アマルティ(R) MR-50」及び「アマルティ(R) MR-100」は、「マルチトール純度」が「93.5%以上」で「融点」が「140〜142」であり、「粉体」である「レシス」は、「マルチトール純度」が「98.0%以上」で「融点」が「142〜145」であることが記載され<但し、(R)のRは、原文では丸囲い>、「マルチトールは、ショ糖以外の数多くの糖質の中で、味質・物性・加工特性ともに最もショ糖に近い甘味料である。即ち、“おいしさ”も機能も要求される食品の甘味料として最適な素材である。」(第95頁第2段左から第14〜3行)と記載されている。
しかし、本件発明に関わる、「レシス」などの「マルチトール」とチューインガムそのものとの関係に関して記載されていない。
<刊行物7>
「糖はそれぞれ個有の甘味度,溶解度,融点,粘度,粘着性,耐酸性,吸放湿性,消化性,口内細菌による発酵性等の物理恒数や,糖類の中で実用範囲のもっとも広い砂糖を基準に相対的に表わされる特性値を有する。さらに,それぞれの糖を選択するに際し,純度,粒度,水分含量等の変動ファクターがその決定に関与してくる。まず香味面においては,甘味度はもちろんのこと香味発現の早さと持続性に対し,溶解度,粒度,糖純度等が影響を与える。感触面においては,かみ口やかみごこちの硬軟,なめらかさ,ボリューム感に対し,溶解度,粘度,粒度等が影響する。また,チューインガムの加工面においては粘度,融点,粒度等が,経時安定面には耐酸性,吸湿性等がそれぞれ関与してくる。」(第57頁右欄下から第10行〜第58頁左欄下から第18行)、「糖の一般性状を表3に,また,これらの糖で構成されたチューインガムの物性を表4に記す。」(第58頁左欄下から第6〜4行)、「砂糖は高融点で結晶が安定しているため,粉砕時の粒度を任意に変えることができるが,平均粒径が50μを超えると多少ザラ付き傾向を示し,かつ甘味の溶出が早まるので甘くどさが増長されるようになる。一方,30μ以下の細粉砕品はなめらかなテクスチャーを与える反面,図4に示されるようにかみ口が硬化する傾向があり,甘味の溶出が緩慢になる。‥‥,総合的にみた場合,平均粒度は40〜50μ程度が最良と考えられる。」(第61頁右欄末行〜第62頁左欄下から第18行)、及び「2-4-3 マルチトール(Maltitol,Maltit) 性状:‥‥ 。マルチトールは実用化されている糖質の中では甘味度,甘味質,溶解性等が砂糖にもっとも近く,代用糖質としてすぐれた性質をもっている。‥‥。 製法:‥‥を経て結晶化されるが,食品グレードのマルチトールは原料である麦芽糖と同じく純度90〜95%のものであり,‥‥。 利用特性:‥‥。表10にソルビトール系とマルチトール系の2種のシュガーレスガムの一般処方を記すが,‥‥,マルチトール系は香味面で刺激性のない温和な甘味を有しフレーバーの持続にまさること,感触面ではかみ口が幾分硬いが,かみごこちはなめらかでソルビトール系にみられる皮をかんだような感触を呈さない等の利点があり,シュガーレスガムとしてすぐれた性質を有している。」(第68頁左欄第34行〜第69頁左欄下から第17行)と記載され、「表3」の「チューインガムに使用される結晶性糖質の特性比較」において、「マルチトール」は、「甘味度(10%溶液)」が「85」、「溶解度(40℃の飽和溶液)」が「66」、「融点(℃)」が「147」、「吸湿性」が「小」、消化性(エネルギー資化)」が「-」、「口内細菌による醗酵性(酸産生)」が「-」、「耐酸性(二糖類の酸分解されにくさ)」が「強」であることが記載され、「表10」において、「マルチトール粉末」が「56」「%」である「マルチトール系シュガーレスガム」について記載されている。
ここで、刊行物7における記載について検討すると、「糖」の「粒度」と「チューインガム」の「甘味度」、「かみごこち」との関係に関して記載され、「砂糖」の「平均粒度」の上限及び下限に関しても記載されているが、本件発明に関わる、「マルチトール系シュガーレスガム」の「かみごこち」、特に「感触面ではかみ口が幾分硬い」点、を改善するために、「表10」における、「食品グレードのマルチトール」であると判断される「マルチトール粉末」ではなく、「表3」に記載されている「結晶性糖質」としての「マルチトール」そのものを「粉末」として用いた「シュガーレスガム」が認識されていたことを窺わせる記載及び「マルチトール粉末」の「粒度」と「チューインガム」の「かみごこち」との関係に関する記載は見当たらない。
<刊行物8>
「無水結晶マルチトールまたはそれを含有する含蜜結晶を含有せしめることを特徴とする飲食物の製造方法」(特許請求の範囲第1項)に関する発明が記載され、「従来全く知られていない非吸湿性の無水結晶マルチトールであることを見いだし、本発明を完全した。」(第4欄第30〜32行)、「高純度無水結晶マルチトールおよび無水結晶マルチトール含有含蜜結晶は、そのマルチトールの純度によってその非吸湿性は多少変動するが、実質的に非吸湿性があり、流動性であり、粘着、固着の懸念もなく砂糖と同様に取り扱えるので、例えば飲食物、化粧品、医療品、成形物、その他化学原料など各種用途に自由に利用できる。」(第8欄第14〜21行)、「本発明の無水結晶マルチトールおよびそれを含有する含蜜結晶粉末は、水に対して溶解度、溶解速度が大きいにもかかわらず、実質的に非吸湿性粉末であるので、後に述べる粉末状即席飲食物などへの甘味付に特に好都合である。従って、無水結晶マルチトールおよびそれを含有する含蜜結晶を使用することにより、従来マルチトールを使用しては製造不可能、またはきわめて困難であるとされていた例えば、‥‥、チューインガム、‥‥などの製造がきわめて容易に工業的に製造できることとなったのである。」(第8欄第36行〜第9欄第4行)、「実施例 1 フオンダントの製造 ‥‥ソルビトール1.4%、マルチトール77.3%、マルトトリイトール12.3%、マルトテトライトール以上のデキストリンアルコール9.0%からなるマルチトール溶液を‥‥、次いで参考例2の方法で得た無水結晶マルチトールを混合攪拌してフオンダントを得た。」(第16欄第1〜19行)及び「実施例 8 チューインガムの製造 ガムベース25重量部および実施例1の方法で得たフオンダント40重量部とを、60℃でミキサーにより混練し、次いで、、参考例2の方法で得た無水結晶マルチトール30重量部、リン酸カルシウム1.5重量部および1-メントールβ-シクロデキストリン包接化合物0.1重量部を混合し、最後に調味料少量を混合して充分に混練し、ロール加工、裁断して製品を得た。本品は、非う蝕性チューインガムとして好適である。」<但し、「非う蝕性」における「う」は、原文では漢字>(第18欄第15〜26行)と記載されてる。
ここで、刊行物8における記載について検討すると、「実施例8」としての「無水結晶マルチトール30重量部」及び「実施例1の方法で得たフオンダント40重量部」を用いた約97「重量部」の「チューインガムの製造」に関して記載されているが、「実施例1の方法で得たフオンダント」中の「マルチトール」の割合及び「無水結晶マルチトール」の割合について明確になるように記載されておらず、また、本件発明に関わる、「結晶性マルチトール」の粒径範囲と「チューインガム」の噛み心地との関係に関して記載されていない。
<刊行物9>
「ASTM」の「呼び番号」が「No.325」のものは、「ふるいの目の開き(mm)」が「0.044」であり、「Tyler」の「呼び(メッシュ)」が「325」及び「270」のものは、「ふるいの目の開き(mm)」がそれぞれ「0.043」及び「0.053」であることが記載されているに過ぎない。
<刊行物10>
「L-アスパルチル-L-フエニルアラニンメチルエステル;還元澱粉分解物及び/または還元麦芽糖粉末;及びパラチノース;を甘味料として用いることを特徴とする低うしょく性または難うしょく性ノーシュガーチューインガム組成物。」(特許請求の範囲第1項)、「還元澱粉分解物及び/または還元麦芽糖粉末で予じめ微粉カプセル化されたL-アスパルチル-L-フエニルアラニンメチルエステルを使用することを特徴とする特許請求の範囲第1項または第2項記載のノーシュガーチューインガム組成物。」(特許請求の範囲第3項)及び「パラチノースをジエツトミル粉砕機で5〜10μの粒径に微粉砕し、同量以上の還元澱粉分解物および/または還元麦芽糖水あめ粉末と共にチューインガムベースに添加することを特徴とする、特許請求の範囲第4項記載のノーシュガーチューインガムの製造方法。」(特許請求の範囲第5項)に関する発明が記載され、「L-アスパルチル-L-フエニルアラニンメチルエステル(以下、APMという)」(第1頁右下欄第16〜18行)、「APMのカプセル化は、APMと還元澱粉分解物および/または還元麦芽糖水あめ粉末とを重量比で0.1〜95:99.9〜5,好しくは10〜60:90〜40の比率で水、好ましくは28〜40℃の温水に溶解し、必要に応じて均質化し、乾燥微粉砕することによって製造される。」(第2頁右下欄第4〜9行)、「得られるチューインガムは咀シャク時の口あたりが滑らかであり、柔軟性、展延性等の物理的特性も優れている。」(第3頁左上欄第9〜11行)及び「実施例2 工程I:カプセル化APMの調製 APM粉末1kgと還元澱粉分解物99kgを良く混合し、‥‥、約320メッシュのカプセル化APM微粉末を得た。 工程II:チューインガムの製造 成分 配合量(重量%) チューインガムベース 25 パラチノース(10μ以下微粉末) 17 カプセル化1%APM粉末(工程I・製造のもの) 47 還元麦芽糖水あめ粉末 8.0 ‥‥ 合計 100.0 チューインガムベースに微粉末パラチノース(10μ以下の粒径)、還元麦芽糖水あめ粉末およびレシチンを添加混合し、‥‥工程Iで調製したカプセル化APMおよびフレーバーを添加し約8分間錬成した。‥‥パラチノース入り、シュガーレスチューインガム製品を得た。得られた製品は上品で良質の甘味を持ち、滑らかな歯ごたえであった。また、フレーバーおよび甘味が咀しやく中長く口腔内で持続した。」(第3頁右下欄第2行〜第4頁左上欄第12行)と記載されている。
ここで、刊行物10における記載について検討すると、「得られるチューインガム」の噛み心地に関して記載され、それに用いる「甘味料」に関して、「パラチノース」の粒径について「5〜10μの粒径」など、及び「還元麦芽糖粉末で予じめ微粉カプセル化されたL-アスパルチル-L-フエニルアラニンメチルエステル」の粒径について「約320メツシユ」と記載されているが、「還元麦芽糖粉末」に関して、本件発明に関わる、無水結晶マルチトールの含有割合及びマルチトール純度並びに「還元麦芽糖粉末」をそのままで「チューインガムベース」に混合する場合の該「粉末」の「粒径」と「ノーシュガーチューインガム」の噛み心地との関係について記載されていない。

5.本件発明と特許法第29条における規定との関係
(5-1)本件発明と特許法第29条第1項第3号に規定されている発明との関係に関しては、特許異議申立人Aの、前記2の(A-1)の(イ)に係る主張に対して述べれば、刊行物2及び刊行物4に記載されている事項を参酌しても、刊行物1及び刊行物3において、各本件発明におけるように、
(い)「無水結晶マルチトール」を「50重量%以上含有し」或いは「7 0重量%以上含有し」、
(ろ)「マルチトール純度が95〜100重量%で」、
(は)「粒径」が「20〜60ミクロン」或いは「30〜50ミクロン」である「結晶性マルチトール粉末」を、
(に)「製品のチューインガム重量に対して」、「40〜80重量%」或 いは「50〜70重量%」
「含有」せしめて「無糖チューインガム」とすることについて記載されていない。
すなわち、刊行物1において、マルチトールそのものと「チューイングガム」との関係に関して記載されていないし、刊行物3において、マルチトール粉末の粒径範囲及びそれを「チューインガム」中に混合する場合の使用割合に関して記載されていない。
したがって、特許異議申立人Aが主張するように、請求項1〜3に係る各本件発明が、刊行物1又は刊行物3に記載されている発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号に規定されている発明に該当するとは認められない。
(5-2)本件発明と特許法第29条第2項における規定との関係に関しては、刊行物1、刊行物3、刊行物5〜刊行物8及び刊行物10において記載されている各発明に対し、各本件発明におけるように、「噛み心地の改善された無糖チューインガム」、特に「噛みはじめが適度に柔らか」(本件明細書の【0048】)いもの、とするため、前記(い)〜(は)である「結晶性マルチトール粉末」を、前記(に)の割合で「含有」せしめればよいことを示唆する記載が、刊行物1〜刊行物10の何れにおいてもないと認められ、また、斯様に「含有」せしめればよいことが、刊行物1〜刊行物10における記載を組み合わせて当業者が容易に想到し得たことであったとも認められないから、刊行物4が本件特許出願前に頒布されていたとしても、各本件発明が、刊行物1〜10に記載されている発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。
すなわち、「無糖チューインガム」の「噛み心地」を「改善」する、特に「噛みはじめが適度に柔らか」くなるようにするため、刊行物3に記載されている発明に対し、「アマルティ」を「チューインガム」中に混合するのみならず、「アマルティ」などの「マルチトール」粉末の粒径の上限及び下限を定め前記(は)の粒径範囲とすること、刊行物5に記載されている発明に対し、「粉末マルチ」に替え、前記(い)及び(ろ)の「結晶性マルチト-ル粉末」を用いるのみならず、その粒径の上限及び下限を定め前記(は)の粒径とするること、刊行物7に記載されている発明に対し、「食品グレードのマルチトール」であると判断される「マルチトール粉末」に替え、前記(い)及び(ろ)である「結晶性マルチトール粉末」を用いるのみならず、前記(は)の粒径範囲のものを選択すること、又は刊行物10に記載されている発明に対し、「甘味料」として前記(い)及び(ろ)である「結晶性マルチトール粉末」を用いるのみならず、該「結晶性マルチトール粉末」をそのまま「チューインガム」に混合する場合に、前記(は)の粒径範囲とすることが当業者にとって容易であったとは認められないし、また、刊行物1に記載されている発明に対し、「甘味料」としてマルチトールを用いるのみならず、マルチトールとして、前記(い)及び(ろ)である「結晶性マルチトール粉末」を選び、その「粒度」の上限及び下限を定め前記(は)の粒径範囲とするること、刊行物6に記載されている発明に対し、「レシス」をチューインガムに用いるのみならず、前記(は)の粒径範囲のものを選択すること、又は刊行物8に記載されている発明に対して、「チューインガム」中の「マルチトール」として、前記(い)及び(ろ)である「結晶性マルチトール粉末」を用いるのみならず、その「粒度」の上限及び下限を定め前記(は)の粒径範囲とするることも当業者にとって容易であったとは認められない。
したがって、特許異議申立人A又は特許異議申立人Bが主張するように、各本件発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。
6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項1〜3に係る各本件特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜3に係る各本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-03-13 
出願番号 特願平4-229398
審決分類 P 1 651・ 531- Y (A23G)
P 1 651・ 113- Y (A23G)
P 1 651・ 534- Y (A23G)
P 1 651・ 121- Y (A23G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 引地 進  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 近 東明
大高 とし子
登録日 2000-07-21 
登録番号 特許第3089514号(P3089514)
権利者 東和化成工業株式会社
発明の名称 噛み心地の改善された無糖チューインガム及びその製法  
代理人 太田 恵一  

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