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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B60C |
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管理番号 | 1056767 |
異議申立番号 | 異議2000-73614 |
総通号数 | 29 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-09-20 |
確定日 | 2002-03-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3026999号「空気入りタイヤの周方向溝の設計方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3026999号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3026999号(平成2年10月18日出願、平成12年1月28日設定登録)の請求項1〜2に係る発明の特許について、特許異議申立人東洋ゴム工業株式会社より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされその指定期間内である平成13年2月23日に特許異議意見書と訂正請求書が提出され、訂正拒絶理由通知がなされ、これに対して、平成13年5月25日に意見書が提出されたものである。 2.訂正の適否について 2-1.訂正の内容 訂正請求における訂正の内容は、次のとおりである。 a.特許請求の範囲の減縮を目的として 「【請求項1】所定の規格に基づき路面(8)に形成されたレイングルーブ(9)の路面溝間隔Rpと路面溝幅Rwに対し、タイヤ(1)のトレッド部(2)に形成される少なくとも2本の周方向溝(6)のタイヤ溝間隔Tpとタイヤ溝幅Twが、 下記式 Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw 但し、nは0又は整数 を満足するように決定することを特徴とする空気入りタイヤの周方向溝の設計方法。 【請求項2】所定の規格に基づき路面(8)に形成されたレイングルーブ(9)の路面溝間隔Rpと路面溝幅Rwに対し、タイヤ(1)のトレッド部(2)に形成される少なくとも2本の周方向溝(6)のタイヤ溝間隔Tpとタイヤ溝幅Twが、 下記式 Tp+Tw=(n+1)Rp-Rw 但し、nは0又は整数 を満足するように決定することを特徴とする空気入りタイヤの周方向溝の設計方法。」を 「【請求項1】所定の規格に基づき路面(8)に形成されたレイングループ(9)の路面溝間隔Rpと路面溝幅Rwに対し、タイヤ(1)のトレッド部(2)に形成される少なくとも2本の周方向溝(6)のタイヤ溝間隔Tpとタイヤ溝幅Twが、下記式 Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw+2mm 但し、nは0又は整数 を満足するように決定することを特徴とする空気入りタイヤの周方向溝の設計方法。 【請求項2】所定の規格に基づき路面(8)に形成されたレイングルーブ(9)の路面溝間隔Rpと路面溝幅Rwに対し、タイヤ(1)のトレッド部(2)に形成される少なくとも2本の周方向溝(6)のタイヤ溝間隔Tpとタイヤ溝幅Twが、下記式 Tp+Tw=(n+1)Rp-Rw-2mm 但し、nは0又は整数 を満足するように決定することを特徴とする空気入りタイヤの周方向溝の設計方法。」に訂正する。 b.明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書第3頁17行〜第4頁第20行(本件特許公報第3欄第21〜34行)の「本発明では、上記目的を達成するために、次の技術的手段を講じた。 即ち、本発明の特徴とするところは、所定の規格に基づき路面に形成されたレイングルーブの路面溝間隔Rpと路面溝幅Rwに対し、タイヤのトレッド部に形成される少なくとも2本の周方向溝のタイヤ溝間隔Tpとタイヤ溝幅Twが、下記式 Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw または Tp+Tw=(n+1)Rp-Rw 但し、nは0又は整数 を満足するように決定する点にある。 (作用) 本発明によれば、」を 「本発明では、上記目的を達成するために、次の技術的手段を講じた。 即ち、本発明の特徴とするところは、所定の規格に基づき路面に形成されたレイングルーブの路面溝間隔Rpと路面溝幅Rwに対し、タイヤのトレッド部に形成される少なくとも2本の周方向溝のタイヤ溝間隔Tpとタイヤ溝幅Twが、下記式 Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw+2mm または Tp+Tw=(n+1)Rp-Rw-2mm 但し、nは0又は整数 を満足するように決定する点にある。 (作用) 本発明によれば、」に訂正する。 c.明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書第6頁第2〜12行(本件特許公報第4欄4〜14行)の「Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw 式(1) 上式(1)においてnは0又は整数である。 ここで、タイヤ周方向溝幅Twを5mm、路面溝間隔Rpを19mm、路面溝幅Rwを3.2mmとすると、タイヤ周方向溝間隔Tpは、 Tp-5=(n+1)19+3.2=19n+22.2 Tp=19n+22.2+5=19n+27.2 n=0とすると、Tp=27.2mmとなる。 なお、タイヤ1は弾性製品であるため、2mm程度以下のアローアンスをもって周方向溝間隔Tpを決定するのが好ましい。」を 「Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw+2mm 式(1) 上式(1)においてnは0又は整数である。 ここで、タイヤ周方向溝幅Twを5mm、路面溝間隔Rpを19mm、路面溝幅Rwを3.2mmとすると、タイヤ周方向溝間隔Tpは、 Tp-5=(n+1)19+3.2+2=19n+24.2 Tp=19n+24.2+5=19n+29.2 n=0とすると、Tp=29.2mmとなる。 なお、タイヤ1は弾性製品であるため、2mm程度以下のアローアンスをもって周方向溝間隔Tpを決定するのが好ましいからである。」に訂正する。 d.明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書第7頁第4〜14行(本件特許公報第4欄25〜35行)の「Tp+Tw=(n+1)Rp-Rw 式(2) 上式(2)においてnは0又は整数である。 ここで、タイヤ周方向溝幅Twを5mm、路面溝間隔Rpを19mm、路面溝幅Rwを3.2mmとすると、タイヤ周方向溝間隔Tpは、 Tp+5=(n+1)19-3.2=19n+15.2 Tp=19n+15.2-5=19n+10.2 n=1とすると、Tp=29.2mmとなる。 なお、タイヤ1は弾性製品であるため、2mm程度以下のアローアンスをもって周方向溝間隔Tpを決定するのが好ましい。」を 「Tp+Tw=(n+1)Rp-Rw-2mm 式(2) 上式(2)においてnは0又は整数である。 ここで、タイヤ周方向溝幅Twを5mm、路面溝間隔Rpを19mm、路面溝幅Rwを3.2mmとすると、タイヤ周方向溝間隔Tpは、 Tp+5=(n+1)19-3.2-2=19n+13.2 Tp=19n+13.2-5=19n+8.2 n=1とすると、Tp=27.2mmとなる。 なお、タイヤ1は弾性製品であるため、2mm程度以下のアローアンスをもって周方向溝間隔Tpを決定するのが好ましいからである。」に訂正する。 e.明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書第8頁第2〜9行(本件特許公報第4欄43〜49行)の「本発明は、上述のように、トレッド部2の周方向溝6の任意の2つの溝間隔Tpが、前記式(1) Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw又は、式(2) Tp+Tw=(n+1)Rp-Rwを満足する寸法に規定されているので、タイヤ溝6のエッジ6aが一定の規則性に従って配設され、排水性及び操縦安定性を損なうこおなく、横力振幅値が減少してレイングルーブワンダーを防止することができる。」を 「本発明は、上述のように、トレッド部2の周方向溝6の任意の2つの溝間隔Tpが、前記式(1)又は、式(2)を満足する寸法に規定されているので、タイヤ溝6のエッジ6aが一定の規則性に従って配設され、排水性及び操縦安定性を損なうこおなく、横力振幅値が減少してレイングルーブワンダーを防止することができる。」に訂正する。 2-2.訂正の適否についての判断 上記訂正事項aは、請求項1及び請求項2に記載する数式「Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw」及び「Tp+Tw=(n+1)Rp-Rw」の右辺に、+2mmまたは-2mmを付加して、数式「Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw+2mm」及び「Tp+Tw=(n+1)Rp-Rw-2mm」にそれぞれ訂正するものである。 特許権者は、当該限定事項は、式(1)及び式(2)(本件特許公報第4欄4、25行)のTpに関する記述である、訂正前の特許明細書第6頁第10〜12行(本件特許公報第4欄12〜14行)及び7頁12〜14行(本件特許公報第4欄33〜35行)の「なお、タイヤ1は弾性製品であるため、2mm程度以下のアローアンスをもって周方向溝間隔Tpを決定するのが好ましい。」との記載に基づき、請求項の記載事項を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである旨主張している。 そこで、該訂正事項の適否について検討する。 本件発明は、「路面に形成されたレイングルーブの路面溝間隔Rpと路面溝幅Rwに対し、タイヤのトレッド部に形成される少なくとも2本の周方向溝のタイヤ溝間隔Tpとタイヤ溝幅Tw」を一定の関係に規定することにより、「タイヤ1の周方向溝6の任意の2つのエッジが、路面溝9のエッジに同時に合致するので、第3図及び第5図に示すように、路面溝9をガイドレールとし、このレール内にタイヤ1の周方向溝6の2つエッジが嵌入するため、横力振幅が減少して、車両のふらつきが防止され、車両の直進走行安定性が向上する。」(本件特許公報第3欄34〜39行参照)という作用効果を奏するものであると認められる。 それゆえ、特許権者が訂正の根拠として引用する「タイヤ1は弾性製品であるため、2mm程度以下のアローアンスをもって周方向溝間隔Tpを決定するのが好ましい。」という記載は、タイヤ1は弾性製品であるため、2mm以下の弾性変形をするから、この変形の程度に応じて、タイヤ1の周方向溝6の任意の2つのエッジが、路面溝9のエッジに同時に合致するように、数式(1)又は数式(2)で算出されるTpを±2mm程度以下の許容範囲内で調整し、最終的にTpを決定するのが好ましい、旨の技術的意味であると解され、これを訂正前の該式(1)及び式(2)をTpに関する式に変形して表現すると、 (n+1)Rp+Rw+Tw-2mm≦Tp≦(n+1)Rp+Rw+Tw+2mm・・・ 式(1’) あるいは (n+1)Rp-Rw-Tw-2mm≦Tp≦(n+1)Rp-Rw-Tw+2mm・・・ 式(2’) の2式を意味するものと認められる。 したがって、特許権者が訂正の根拠とする「タイヤ1は弾性製品であるため、2mm程度以下のアローアンスをもって周方向溝間隔Tpを決定するのが好ましい。」という記載からは、上記式(1’)及び式(2’)が記載されているに等しいものと認められ、この式のTpの範囲内で、タイヤの弾性度に応じて、タイヤ周方向溝の任意のエッジと路面溝のエッジが同時に合致するようにTpが決定されるものと認められる。そして、訂正事項aに係る式「Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw+2mm」及び「Tp+Tw=(n+1)Rp-Rw-2mm」は、上記式(1’)におけるTpの最大値及び式(2’)におけるTpの最小値のみを規定したものと認められる。 しかしながら、該訂正の根拠である「タイヤ1は弾性製品であるため、2mm程度以下のアローアンスをもって周方向溝間隔Tpを決定するのが好ましい。」という記載からは、Tpを式(1’)の最大値及び式(2’)の最小値のみに限定する根拠が不明であり、該事項は、直接的かつ一義的に導き出すことができる事項とは認められない。また、式「Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw」と式「Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw+2mm」、及び式「Tp+Tw=(n+1)Rp-Rw」と式「Tp+Tw=(n+1)Rp-Rw-2mm」とは、「Tp-Tw」、「Tp+Tw」の数値がそれぞれ異なり、全く異なる式である。 してみると、訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてした訂正とは認められないし、実質的に特許請求の範囲を変更するものと認められる。 なお、特許権者は、意見書(平成13年5月25日付け)において、「Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw」を「Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw+2mm」に訂正することは、元の溝間隔Tpからタイヤ溝幅Twを減算した値に2mmを加算した値とするのであるから、構成要件の付加であり、構成要件の付加は特許請求の範囲の減縮であると主張しているが、前述のとおり、元の式に+2mmを付加するのは、式そのものが別の式になり、構成要件の付加ではなく、構成要件の変更であるから、かかる特許権者の主張は認められない。 訂正事項b〜dについては、いずれも、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとは認められないし、また、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてした訂正とは認められない。 2-3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例とされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。 3.特許異議の申立てについて 3-1.本件発明 上記訂正は認められないから、本件請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1及び2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】所定の規格に基づき路面(8)に形成されたレイングルーブ(9)の路面溝間隔Rpと路面溝幅Rwに対し、タイヤ(1)のトレッド部(2)に形成される少なくとも2本の周方向溝(6)のタイヤ溝間隔Tpとタイヤ溝幅Twが、 下記式 Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw 但し、nは0又は整数 を満足するように決定することを特徴とする空気入りタイヤの周方向溝の設計方法。 【請求項2】所定の規格に基づき路面(8)に形成されたレイングルーブ(9)の路面溝間隔Rpと路面溝幅Rwに対し、タイヤ(1)のトレッド部(2)に形成される少なくとも2本の周方向溝(6)のタイヤ溝間隔Tpとタイヤ溝幅Twが、 下記式 Tp+Tw=(n+1)Rp-Rw 但し、nは0又は整数 を満足するように決定することを特徴とする空気入りタイヤの周方向溝の設計方法。」 3-2.刊行物記載の発明 当審が取消理由で通知した刊行物1(特開昭62-39306号公報、特許異議申立人東洋ゴム工業株式会社の提出した甲第1号証)には、次の事項が記載されている。 ア.「特許請求の範囲 溝間隔a、溝幅bの走行方向縦溝を有する路面の走行に適するタイヤ周方向直線溝をタイヤ接地面に少なくとも1本有する空気入りタイヤのトレッドパターンにおいて、前記路面の溝幅bより大きい溝幅の主溝をタイヤ接地面にタイヤ周方向に環状に設け、該主溝の位置を下記式を満足するAi,Bjで規定したことを特徴とするトレッドパターン。 am+(b+2)≦Ai≦a(m+1)-(b+2) an-b≦Bj≦an+b Ai>0,Bj>0 m,nは0又は自然数 iは1,2,3,・・・・ jは1,2,3,・・・・ Aiは同方向リブエッジ間寸法 Bjは逆方向リブエッジ間寸法」(特許請求の範囲第1項) イ.「〔発明の技術的分野〕 本発明は、走行方向に縦溝を有する路面の走行に際して、安定性に優れる乗用車用空気入りタイヤのトレッドパターンに関する 〔従来技術〕 高速道路や一般道路において、濡れた路面での走行安定性を阻害しないようにするために、走行方向にほぼ平行に路面に一定間隔(例えば、19mm)に亘って縦溝が設けられている場合がある。」(第1頁右下欄下から16〜7行) ウ.「本発明は、トレッドパターンのエッジと路面の縦溝のエッジとがぶつかる位置(引掛ける位置)以外でも横力が変化していることを確認し、これに着目して、路面溝ピッチとその溝幅を考慮してトレッドパターンにおける溝の位置、溝幅を決定することによってなされたものであり、ウエットスキッド性能に優れ、グルーブワンダーの発生を抑えて車両の直進走行性を保持し、ドライバーに不快感を与えないようにした空気入りタイヤのトレッドパターンを提供することを目的とする。」(第2頁左上欄12〜右上欄2行) エ.「第1図(A)〜(G)は、本発明のトレッドパターンのAi、Bj寸法規定図である。 第1図(A)は、トレッド1の表面、すなわちタイヤ接地面2に2本の溝3がタイヤ周方向に環状に設けられた2本溝左右対称パターンの場合を示す。・・・Aiが満足しない場合には、横力振幅値が増大して、直進走行安定性が悪化してしまう。また、Bjが満足しない場合には、横力振幅値が減少しないので、直進走行安定性が向上しない。」(第2頁左下欄3〜右下欄1行) オ.「第2図において、路面4には縦溝5が設けられている。aは溝間隔を、bは溝幅を表わす。第3図(A)、(B)は、それぞれ、第2図の溝間隔aを19mm、溝幅bを3mmとした場合の205/60R15サイズの空気入りタイヤにおける本発明のトレッドパターンの実施例を示す。第3図(A),(B)において、lはタイヤ周方向中心線を、3は溝を表わす。」(第2頁右下欄8〜15行) カ.「従来のトレッドパターンを有するタイヤに比してウエットスキッド性能を変えることなくグルーブワンダー性能を向上させたタイヤを提供することが可能となる。」(第3頁左下欄17〜右下欄1行) 3-3.対比・判断 (1)本件発明1について 本件発明1の設計方法で得られるタイヤトレッドパターンと刊行物1に記載の発明とを対比すると、刊行物1は、上記イのとおり、走行方向に縦溝を有する路面の走行安定性に優れるタイヤのトレッドパターンに関し、上記ウのとおり、路面溝ピッチとその溝幅を考慮して、トレッドパターンにおける溝位置、溝幅を決定することによりグルーブワンダーの発生を抑えることを目的とするものである。そして、該刊行物1には、上記エのとおり、横力振幅値を減少させるため、上記アのとおり、溝間隔a、溝幅bの走行方向縦溝を有する路面の走行に適するタイヤ周方向直線溝をタイヤ接地面に少なくとも1本有する空気入りタイヤのトレッドパターンにおいて、逆方向リブエッジ間寸法「Bj」を特定の関係式を保つように規定することにより、上記カのとおり、グルーブワンダー性能を向上させたタイヤを提供することが可能となることが記載されている。 ところで、刊行物1に記載の発明は、空気入りタイヤのトレッドパターンに関する発明であるが、上記アのとおり、トレッドパターンのタイヤ周方向直線溝を特定の関係式を満たすように決定するものであり、トレッドパターンのタイヤ周方向直線溝の決定方法が開示されているに等しいものと認められるから、刊行物1の「トレッドパターン」の発明は、タイヤトレッド部の周方向溝を特定の関係式を満足するように決定する本件発明1の「タイヤの周方向溝の設計方法」に実質上相当するものと認められる。そして、刊行物1における、路面の溝間隔「a」、溝幅「b」は、本件発明1の路面溝間隔「Rp」、溝幅「Rw」に相当し、刊行物1における、タイヤ周方向主溝の逆方向リブエッジ間寸法「Bj」は、上記エのとおり、2本の主溝間における内側同士のエッジ間と外側同士のエッジ間を意味する場合があるが(第1図(A)参照)、内側同士のエッジ間とすると、本件発明1のタイヤ溝間隔「Tp」とタイヤ溝幅「Tw」の差「Tp-Tw」に相当するから、これらの関係式は、「a=Rp」、「b=Rw」、「Bj=Tp-Tw」となる。 以上のことから、上記アの「Bj」に関する式は、 nRp-Rw≦Tp-Tw≦nRp+Rw 式(3) と表現することができ、式(3)の右側の不等式、Tp-Tw≦nRp+Rwは、等号の部分で本件発明1の式、Tp-Tw=(n+1)Rp+Rwと一致する。 したがって、本件発明1と刊行物1に記載の発明とは「所定の規格に基づき路面に形成されたレイングルーブの路面溝間隔Rpと路面溝幅Rwに対し、タイヤのトレッド部に形成される少なくとも2本の周方向溝のタイヤ溝間隔Tpとタイヤ溝幅Twが、下記式 Tp-Tw=(n+1)Rp+Rw 但し、nは0又は整数 を満足するように決定することを特徴とする空気入りタイヤの周方向溝の設計方法。」である点において同一である。また、刊行物1に実例として記載する上記オの第3図(A)の数値を本件発明1の式、Tp-Tw=(n+1)Rp+Rwのn=0の場合に代入すると、Tp-Twが第3図(A)より22mm、Rp=19mm、Rw=3mmであるからTp-Tw=Rp+Rwとなり、本件発明1の式を満たす。 よって、本件発明1は、刊行物1に記載の発明である。 (2)本件発明2について 本件発明2の設計方法で得られるタイヤトレッドパターンと刊行物1に記載の発明とを対比すると、前記本件発明1についてと同様、刊行物1の上記アにおいて、「Bj」を外側同士のエッジ間寸法とすると、「Bj=Tp+Tw」となり、本件発明1についてと同様上記アの「Bj」に関する式は、 nRp-Rw≦Tp+Tw≦nRp+Rw 式(4) となり、式(4)の左側の不等式、nRp-Rw≦Tp+Twは、等号の部分で本件発明2の式、Tp+Tw=(n+1)Rp-Rwと一致する。 したがって、本件発明1についてと同様に、本件発明2と刊行物1に記載の発明とは、「所定の規格に基づき路面に形成されたレイングルーブの路面溝間隔Rpと路面溝幅Rwに対し、タイヤのトレッド部に形成される少なくとも2本の周方向溝のタイヤ溝間隔Tpとタイヤ溝幅Twが、 下記式 Tp+Tw=(n+1)Rp-Rw 但し、nは0又は整数を満足するように決定することを特徴とする空気入りタイヤの周方向溝の設計方法。」である点において同一である。また、上記オの第3図(B)の場合に、本件発明2の式をn=1として当てはめてみると、Tp+Tw=20+7+7=34mmとなり、2a-b=2Rp-Rw=19×2-3=35mmとなるが、本件特許公報に記載するように、2mm以下のアローアンスをもってTpを決定することを勘案すると、 「Tp+Tw」と「2Rp-Rw」とは実質的に同一であり、本件発明2の式を実質的に満たすといえる。 よって、本件発明2は刊行物1に記載の発明である。 3-4.むすび 以上のとおりであるから、本件請求項1及び2に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物1に記載された発明であり、本件請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであるから、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-01-16 |
出願番号 | 特願平2-281308 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
ZB
(B60C)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 加藤 志麻子 |
特許庁審判長 |
小林 正巳 |
特許庁審判官 |
鴨野 研一 喜納 稔 |
登録日 | 2000-01-28 |
登録番号 | 特許第3026999号(P3026999) |
権利者 | オーツタイヤ株式会社 |
発明の名称 | 空気入りタイヤの周方向溝の設計方法 |
代理人 | 蔦田 正人 |
代理人 | 蔦田 璋子 |
代理人 | 安田 敏雄 |