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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 E04F |
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管理番号 | 1056776 |
異議申立番号 | 異議2000-72215 |
総通号数 | 29 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-07-09 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-05-25 |
確定日 | 2002-03-20 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2988293号「タイルパネルおよびその製造方法」の請求項1乃至6、10乃至14に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2988293号の請求項1乃至6、10乃至14に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.本件発明 本件特許第2988293号は、平成6年12月26日に特許出願され、平成11年10月8日に設定の登録がなされ、その後、その請求項1乃至6、10乃至14に係る発明の特許に対して、特許異議申立人 杉崎筆雄より特許異議の申立てがなされたものである。 本件特許の請求項1乃至6、10乃至14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」乃至「本件発明6」、「本件発明10」乃至「本件発明14」という。)は、特許明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至6、10乃至14に記載された次の事項により特定されるものである。 「【請求項1】ケイ酸カルシウム基板の上に、所望のパターンに配列された複数個のタイルが、無機質粒子を40〜90重量%の範囲で含み、かつ、引張破断伸度が15〜200%の範囲にある合成樹脂系接着剤によって接着されているタイルパネル。 【請求項2】基板は、少なくとも対向する2辺に相決り部を有している、請求項1のタイルパネル。 【請求項3】相決り部に水切り溝が設けられている、請求項2のタイルパネル。 【請求項4】タイルは、裏足の高さが0.1〜0.8mmの範囲にある、請求項1〜3のいずれかのタイルパネル。 【請求項5】タイル面に垂直な方向からみた裏足の面積の総和が、タイル裏面の面積の5〜50%の範囲にある、請求項4のタイルパネル。 【請求項6】無機質粒子は、平均粒子径が1〜200μmの範囲にある、請求項1〜5のいずれかのタイルパネル。 【請求項10】接着剤の平均厚みが0.2〜1mmの範囲にある、請求項1〜9のいずれかのタイルパネル。 【請求項11】請求項1〜10のいずれかのタイルパネルを用いて施工されたタイル壁。 【請求項12】請求項11のタイル壁を有する建造物。 【請求項13】プライマー処理を施したケイ酸カルシウム基板に、無機質粒子を40〜90重量%の範囲で含み、かつ、固化後の引張破断伸度が15〜200%の範囲にある接着剤を塗布した後、塗布面上に複数個のタイルを所望のパターンを形成するように置き、圧着することを特徴とする、タイルパネルの製造方法。 【請求項14】複数個のタイルを、塗布面上に置く前に所望のパターンに配列しておく、請求項13のタイルパネルの製造方法。」 2.引用刊行物記載の発明 (1)これに対して、当審において平成12年10月12日付けで通知した取消の理由に引用した刊行物1「特開平6-101319号公報(異議申立人が提出した甲第1号証)」の【請求項2】には、「建材パネル基板の表面に耐候性湿気硬化型接着剤を一定の厚さに塗布して表面化粧板を接着し、そのまま目地を打たずに外壁として使用されることを特徴とする建材パネルの製造方法」が記載され、また、【0011】段落及び【0012】段落にはそれぞれ、建材パネルとして硅酸カルシウム板、表面化粧板としてタイルが例示されている。さらに、実施例として、【表2】には変成シリコーン化合物100、重質炭酸カルシウム100、その他の成分9からなる接着剤組成物E、さらに、【0033】段落には、接着剤を「約500μmの厚さに塗付し、磁器タイルを接着」する点が記載されている。 (2)同じく刊行物2「特開平3-84159号公報(異議申立人が提出した甲第2号証)」の特許請求の範囲第1項には、「硬化後の伸びが20〜400%である弾性接着剤を介してタイルを所定の下地材に直接接着することを特徴とするタイルの施工方法」が記載されている。また、施工においては「必要ならばプライマーを塗布し、接着剤を下地材に塗布する」(第2頁左下欄下4〜3行)点が記載されている。 (3)同じく刊行物3「実願昭60-152203号(実開昭62-61835号)のマイクロフィルム(異議申立人が提出した甲第3号証)」の明細書第5頁、第1図、第2図には、側辺面に棚段状の凸部、段状に切り欠かれた凹部を有するパネル基板を用いたタイルパネルが記載されている。 (4)同じく刊行物4「実願平3-105206号(実開平5-47110号)のCD-ROM(異議申立人が提出した甲第4号証)」の【0006】段落、【図1】、【図2】には、4周に合いじゃくり接合用の受け片部、押さえ片部を有し、受け片部には防水溝を形成した壁材が記載されている。 (5)同じく刊行物5「丸一俊雄ら著”タイル工事”株式会社井上書院、1984年7月20日発行、第57〜58頁(異議申立人が提出した甲第5号証)」には、有機質接着剤を使って圧着によりタイルを接着すること(第57頁右欄下3〜2行)、下地としてけい酸カルシウム板(第58頁4行)、タイルとして高さ1mm以下の裏足を有するもの(第58頁、表4-10)がそれぞれ記載されている。 (6)同じく刊行物6「実願昭61-123252号(実開昭63-28733号)のマイクロフィルム(異議申立人が提出した甲第6号証)」には、裏足凸部の大きさが相対する凹部よりも小さい(明細書第1頁下2行)タイルが記載されており、実施例として幅4mm、8列の裏足を有する100mm角のタイルが記載されている。 (7)同じく刊行物7「石膏石灰学会編”石膏ハンドブック”技法堂出版株式会社、1980年9月30日発行、第283頁(異議申立人が提出した甲第7号証)」(第283頁、表-3.8.3)には、重質炭酸カルシウムの粒子径が3〜5μである旨記載されている。 (8)同じく刊行物9「特開平5-52019号公報(異議申立人が提出した甲第9号証)」の【0011】段落には、タイルを段積み配列した箱から順次取り出して整列した後、珪酸カルシウム板等のパネル基板に貼着するタイルパネルの製造方法が記載されている。 3.対比、判断 (1)本件発明1について 刊行物1には、約48重量%の無機質粒子を含有する合成樹脂系接着剤により複数個のタイルを基板に接着したタイルパネル及びその製造方法が記載されており、基板としてケイ酸カルシウム板が示されている。また、同刊行物は特定材質の基板と特定の接着剤組成物の組み合わせの選択を示唆するものではない。 さらに、複数個のタイルをパネルに配置する際には、通常、何らかのパターンを形成するようにタイルが配列されるものと認められる。 そこで、本件発明1と刊行物1に記載の発明を対比すると、両者は、「ケイ酸カルシウム基板の上に、所望のパターンに配列された複数個のタイルが、無機粒子を40〜90%の範囲で含む合成樹脂系接着剤により接着されているタイルパネル」である点で一致し、(a)前者においては接着剤の引張破断伸度を15〜200%の範囲としている点でのみ、相違している。 しかしながら、刊行物2においては、タイルの剥離を防止するために、合成樹脂系接着剤の硬化後の伸び(本件発明1の引張破断伸度に相当)に着目し、特に20〜400%のものが用いられる点が記載されており、また、母材の種類や無機質粒子の配合量を選択することによって接着剤組成物の引張破断伸度を調節することは、当業者が通常行う創作能力の発揮にすぎないことを考慮すれば、刊行物1に記載の発明において、引張破断伸度を15〜200%の範囲に特定することに格別の困難性は認められない。 したがって、本件発明1は刊行物1及び刊行物2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)本件発明2について 本件発明2と刊行物1に記載の発明とを対比すると、(1)で検討した相違点(a)に加えて、(b)前者は基板の少なくとも対向する2辺に相決り部を有する点で、両発明は相違している。 しかしながら、施工を容易化し、或いは、水密性を向上させるために、建材パネルの対向する辺に相決り部を設ける点は刊行物3(凸部及び凹部が、本件発明2の相決り部に相当)、又は刊行物4(受け片部及び押さえ片部が、本件発明2の相決り部に相当)に記載されており、かかる構造を刊行物1に記載のタイルパネルの基板に施すことことは当業者が容易に想到するところである。 したがって、本件発明2は、(1)で検討した理由に加えて、上記理由により、刊行物1、刊行物2及び刊行物3又は刊行物4の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)本件発明3について 本件発明3と刊行物1に記載の発明とを対比すると、(1)及び(2)で検討した相違点(a)、(b)に加えて、(c)前者は相決り部に水切り溝を有する点で、両発明は相違している。 しかしながら、パネルの防水性を高めるために、水切り溝を備えた相決り部を設ける点(相違点(b)及び相違点(c))は刊行物4に記載されており、かかる構造を刊行物1に記載のタイルパネルの基板に施すことことは当業者が容易に想到するところである。 したがって、本件発明3は、(1)で検討した理由に加えて、上記理由により、刊行物1、刊行物2及び刊行物4の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)本件発明4について 本件発明4と刊行物1に記載の発明とを対比すると、(1)乃至(3)で検討した相違点(a)乃至(c)に加えて、(d)前者は裏足の高さを0.1〜0.8mmとしている点で、両発明は相違している。 しかしながら、上記範囲内の高さの裏足を備えたタイルは、刊行物5に記載のとおり公知のものであり、また、適切な裏足の形状については接着性等を考慮して当業者が適宜決定する事項と認められることころ、刊行物1に記載のタイルパネルにおいて上記特定の高さの裏足を有するタイルを用いることは当業者が容易になし得るところである。 したがって、本件発明4は、(1)乃至(3)で検討した理由に加えて、上記理由により、刊行物1、刊行物2、及び刊行物3又は刊行物4、並びに刊行物5の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)本件発明5について 本件発明5と刊行物1に記載の発明とを対比すると、(1)乃至(4)で検討した相違点(a)乃至(d)に加えて、(e)前者は裏足の面積の総和がタイル裏面の面積を5〜50%としている点で、両発明は相違している。 しかしながら、面積の総和が上記範囲にある裏足を備えたタイルは、刊行物6に記載されており、また、適切な裏足の形状については接着性等を考慮して当業者が適宜決定する事項と認められることころ、本件発明4に係るタイルパネルの裏足を上記特定の面積を有するものとすることは当業者が容易になし得るところである。 したがって、本件発明5は、(1)乃至(4)で検討した理由に加えて、上記理由により、刊行物1、刊行物2、及び刊行物3又は刊行物4、並びに刊行物5、刊行物6の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (6)本件発明6について 本件発明6と刊行物1に記載の発明とを対比すると、(1)乃至(5)で検討した相違点(a)乃至(e)に加えて、(f)前者は無機質粒子の平均粒子径を1〜200μmとしている点で、両発明は相違している。 しかしながら、上記粒径を有する無機質粒子は、刊行物7に記載されているとおり公知であり、接着剤に添加する無機質粒子は当業者が接着性等を考慮して選択するものである点を考慮すれば、刊行物1に記載の発明において、無機質粒子として上記平均粒子径を有するものを添加することは当業者が容易になし得るところである。また、かかる粒径の特定によって格別の効果を奏するものとも認められない。 したがって、本件発明6は、(1)乃至(5)で検討した理由に加え、上記理由により、刊行物1、刊行物2、刊行物3又は刊行物4、並びに刊行物5、刊行物6、刊行物7の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (7)本件発明10について 刊行物1には(1)で検討した事項に加えて、接着剤層の厚みを約500μmとする点が記載されているところ、本件発明10と刊行物1に記載の発明とを対比すると、両者の相違点、対比判断は(1)乃至(6)で検討したとおりである。 なお、当該接着剤層の厚みについても、当業者が基材の材質や接着性等を考慮して適宜決定する事項である。 (8)本件発明11、12について 刊行物1には、外壁に用いる建材パネルに係る発明が記載されているところ、かかる建材パネルを用いたタイル壁及びかかるタイル壁を有する建造物についても実質的に記載されていると認められる。そこで、本件発明11又は本件発明12と刊行物1に記載の発明とを対比すると、両者の相違点、対比判断は(1)乃至(6)で検討したとおりである。 (9)本件発明13について (1)で検討した事項、及び、下地材に圧着することはタイルの通常の施工方法であることを考慮すれば、本件発明13と刊行物1に記載の発明は「ケイ酸カルシウム基板の上に、複数個のタイルが、無機粒子を40〜90%の範囲で含む接着剤を塗布した後、塗布面上に複数個のタイルを所望のパターンを形成するように置き、圧着するタイルパネルの製造方法」である点で一致し、(1)で検討した相違点(a)、及び、(g)前者においてはケイ酸カルシウム基板にプライマー処理を施している点で、相違している。 しかしながら、タイルパネルの製造に際して、必要に応じて下地材にプライマーを塗布する点は刊行物2に記載されており、かかるプライマー処理は基板の材質や接着剤の組成に応じて広く採用されるものであることも考慮すれば、刊行物1に記載のタイルパネルの製造方法において、接着剤塗布前の基材にプライマー処理を施すことに格別の困難性は認められない。 したがって、本件発明13は、(1)で検討した理由に加え、上記の理由により、刊行物1及び刊行物2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (10)本件発明14について 本件発明14と刊行物1に記載の発明とを対比すると、上記相違点(a)、(g)に加えて、(h)前者においてはタイルを塗布面上に置く前に所望のパターンに配列している点で、両発明は相違している。 しかしながら、タイルパネルの製造効率を高めるためにタイルを予め所望のパターンに配列することは刊行物9に記載されているところ、刊行物1に記載の発明において、かかる製造手法を採用する点に格別の困難性は認められない。 したがって、本件発明14は、(9)で検討した理由に加えて、上記理由により刊行物1、刊行物2、及び刊行物9の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上により、本件発明1乃至6、10乃至14はそれぞれ刊行物1乃至7、及び刊行物9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、上記発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-01-29 |
出願番号 | 特願平6-322977 |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Z
(E04F)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 七字 ひろみ |
特許庁審判長 |
石井 良夫 |
特許庁審判官 |
野田 直人 服部 智 |
登録日 | 1999-10-08 |
登録番号 | 特許第2988293号(P2988293) |
権利者 | 東レ株式会社 |
発明の名称 | タイルパネルおよびその製造方法 |