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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47K
管理番号 1057541
審判番号 審判1999-6696  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-04-23 
確定日 2002-03-27 
事件の表示 平成 7年特許願第174816号「シャッター式浴槽蓋」拒絶査定に対する審判事件[平成 9年 1月28日出願公開、特開平 9- 23990]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 本願発明
本願は、平成7年7月11日の出願であって、その請求項1及び2に係る発明は、平成10年8月10日付け、平成10年8月28日付け及び平成11年5月24日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである。

「【請求項1】硬質の細長状の中空部材(2)を軟質の細長状の連結部材(3)により多数本並列に浴槽の上面を覆い得る大きさに連結して成る、巻き込みが可能なシャッター式浴槽蓋(1)において、上記中空部材(2)が99〜75重量部のプロピレンの単独重合体またはプロピレンとプロピレン以外のα-オレフィン一種類以上の共重合体、又はこれらの混合物からなるポリプロピレン樹脂と、1〜25重量部のタルクとから成り、上記連結部材(3)が水素添加スチレン・ブタジエン・ラバー、又はスチレン・ブタジエン/ブチレン・スチレンブロック共重合体からなる熱可塑性エラストマー100〜70重量部とポリプロピレン樹脂0〜30重量部から成る組成物より成ることを特徴とする上記のシャッター式浴槽蓋(1)。」

2 引用刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平7-111953号公報(以下「引用例1」という。)には、「硬質の細長状の中空部材(2)を軟質の細長状の連結部材(3)により多数本並列に浴槽の上面を覆い得る大きさに連結して成る、巻き込みが可能なシャッター式浴槽蓋(1)において、上記中空部材(2)がポリプロピレン樹脂より成り、上記連結部材(3)が熱可塑性エラストマーより成ることを特徴とする上記のシャッター式浴槽蓋(1)。」(特許請求の範囲1)、「ポリプロピレン樹脂が、プロピレン系重合体である請求項1に記載のシャッター式浴槽蓋。」(同2)、「熱可塑性エラストマーが、水素添加スチレン・共役ジエン系ラバーとポリプロピレン樹脂の混合物、水素添加スチレン・共役ジエン・スチレンブロック共重合体、又はこれとポリプロピレン樹脂の混合物を主体とする熱可塑性エラストマーである請求項1に記載のシャッター式浴槽蓋。」(同4)、「プロピレン系重合体が、プロピレンの単独重合体またはプロピレンとプロピレン以外のα-オレフィン一種類以上との共重合体、又はこれらの混合物である請求項2又は3に記載のシャッター式浴槽蓋。」(同5)が記載され、「上記したポリプロピレン樹脂には必要に応じて、例えば、タルク・・・を添加することができる。これらの充填材を添加することにより、剛性、耐熱性が向上し、・・・浴槽蓋のたわみ量は少なくなる。これらの充填材の添加量は、通常ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、100重量部以下程度が好ましく、これ以上添加すると耐衝撃性が低下し、好ましくない。」(2欄43行〜3欄1行)、「上記細長状の軟質の連結部材の材質となる熱可塑性エラストマーとしては、例えば、水素添加スチレン・共役ジエン系ラバー、・・・が挙げられ、具体的には水素添加スチレン・ブタジエン・ラバー(以下、HSBRと略記する。)・・・が挙げられる。これらの樹脂を単独で使用することもできるが、・・・ポリプロピレン樹脂を混合することもできる。」(3欄7〜16行)、「得られたシャッター式浴槽蓋は、ポリプロピレン樹脂の比重が小さいため・・・格段に軽量であり、また軟質の熱可塑性エラストマー連結部材中に多くの可塑剤等を含まないため長期使用による劣化や亀裂の発生、すべり抵抗値の低下もなく、かびの発生も防止できる。」(3欄45〜50行)と記載されている。実施例1〜3には、ポリプロピレン樹脂とタルク等を用いて作製した「硬質の中空部材」と、HSBR等を用いて作製した「軟質の連結部材」とから構成した浴槽蓋の製造について記載され、「表1」には、「曲げたわみ(mm)」が「実施例1」は47,「実施例2」は44、「実施例3」は54であることが示されてる。
以上の記載によると、引用例1には、硬質の細長状の中空部材を軟質の細長状の連結部材により多数本並列に浴槽の上面を覆い得る大きさに連結して成る、巻き込みが可能なシャッター式浴槽蓋において、上記中空部材がプロピレンの単独重合体またはプロピレンとプロピレン以外のα-オレフィン一種類以上の共重合体、又はこれらの混合物からなるポリプロピレン樹脂と、タルクとから成り、タルクの添加量はポリプロピレン樹脂100重量部に対して100重量部以下であり、上記連結部材が水素添加スチレン・ブタジエン・ラバーからなる熱可塑性エラストマーより成ることを特徴とする上記のシャッター式浴槽蓋が開示されていると認められる。

3 対比・検討
(a)本願の請求項1に係る発明について
本願の請求項1に係る発明と上記引用例1に記載された発明を対比すると、両者は、硬質の細長状の中空部材を軟質の細長状の連結部材により多数本並列に浴槽の上面を覆い得る大きさに連結して成る、巻き込みが可能なシャッター式浴槽蓋において、上記中空部材がプロピレンの単独重合体またはプロピレンとプロピレン以外のα-オレフィン一種類以上の共重合体、又はこれらの混合物からなるポリプロピレン樹脂(これら重合体からなる樹脂を以下「特定ポリプロピレン樹脂」と略記する。)と、タルクとから成り、上記連結部材が水素添加スチレン・ブタジエン・ラバーからなる熱可塑性エラストマーより成ることを特徴とする上記のシャッター式浴槽蓋である点で一致しているが、タルクの添加割合が、請求項1に係る発明では、「特定ポリプロピレン樹脂」99〜75重量部であるときにタルクが1〜25重量部であるのに対し、引用例1に記載の発明ではそのような数値限定について記載がない点で相違している。
以下上記相違点について検討する。
引用例1には、浴槽蓋を構成する「硬質の中空部材」の材料であるポリプロピレン樹脂について「上記したポリプロピレン樹脂には必要に応じて、例えば、タルク・・・を添加することができる。これらの充填材を添加することにより、剛性、耐熱性が向上し、・・・浴槽蓋のたわみ量は少なくなる。」(2欄43〜48行)と記載され、タルクの添加はなくてもよいが、添加されるときはタルクの充填材としての機能がもたらされることが示されている。又、「表1」には中空部材の材料について、混合するタルクが30重量部の例(実施例2)では、「曲げたわみ」は44mmであり、混合するタルクが0重量部の例(実施例1,3)よりも「曲げたわみ」の性質において幾らか改善されることが具体的に示されている。
ところで、ポリプロピレン樹脂の曲げ剛性が、タルクの添加割合に応じて改善されることは周知(例えば、高木謙行 外1名編「プラスチック材料講座7 ポリプロピレン樹脂」昭和56年1月30日、日刊工業新聞社、75〜76頁参照。)であり、又、プラスチックに添加される充填材はその特性を改善するが、量が多いと製品の品質低下をもたらすことはよく知られていることである。
又、浴槽蓋を構成するプラスチックのうち「硬質の中空部材」の材料において、その力学的特性は、力学的特性以外の耐熱性等の浴槽蓋に当然求められる特性(例えばJIS規格、A5708参照。)が許容されるレベル以上であれば増大したほうが良いということは自明のことである。
そうすると、引用例1にはタルクは0重量部でも浴槽蓋の特性が一応良好であることが示され(2欄43〜48行と「表1」参照。)、タルクの添加は「曲げたわみ」の性質を更に改善するということが記載され(2欄43〜48行)、タルクを30重量部(ポリプロピレン樹脂とタルクの合計に対すタルクの割合:30重量%)まで増やしたときの「曲げたわみ」の値(「表1」の実施例2参照。)も明示されているのであるから、浴槽蓋を構成する「硬質の中空部材」の「曲げたわみ」等の力学的特性の向上とタルク添加量の増大に伴う製品の品質低下との兼ね合いにおいて、タルクの添加割合を調節し、ポリプロピレン樹脂とタルクの合計に対するその添加割合を25重量%(即ち、「特定ポリプロピレン樹脂」75重量部であるときタルクが25重量部)以下であって、1重量%(即ち、「特定ポリプロピレン樹脂」99重量部であるときタルクが1重量部)よりも多い割合、にまで減らすことは当業者が必要に応じて容易になし得る程度のことと認める。
そして、本願明細書には、「硬質の中空部材」の材料へのタルクの添加割合(ポリプロピレン樹脂とタルクの合計に対して)が1重量%付近と25重量%付近の例について「すべり抵抗」、「曲げたわみ」、「落下衝撃」、「復元性」の試験結果は示されておらず、5重量%,5.5重量%,20重量%(いずれも本願明細書記載の実施例)と40重量%(同じく比較例2)の例について結果を示すのみであるから(同じく本願明細書段落【0029】の表1参照。)、「復元性」を含む浴槽蓋の性質が、1重量%付近と25重量%付近(タルクの割合)において急に変化するものであるとすることはできず、浴槽蓋を構成する中空部材の材料についてのタルク添加割合の限定、即ち99〜75重量部の「特定ポリプロピレン樹脂」と1〜25重量部の「タルク」とから成るという限定に臨界的な意義は認められない。
なお、「復元性」は、中空部材へのタルクの添加割合が前記の5重量%,5.5重量%,20重量%の例において良好であるとするが(本願明細書の「表1」に記載の実施例1〜3参照。)、ポリプロピレン樹脂の成分組成の違いによる差があるとしても、成型可能に調製したポリプロピレン樹脂が一定レベルの復元性を有することは普通に知られていることであり(復元性に関して例えば特開昭52-13537号公報参照。)、タルクの添加割合が1〜25重量%の範囲を少し外れた領域で「復元性」の性質が大きく変化するとは常識からは考えられない。又、浴槽蓋の「重量」は、中空部材の材料に添加されるタルク量(なおタルクの比重は約2.7。)の増大に応じて連続的に増えるものであり、ある添加量を境に急激に増えるというものではない。

4 むすび
以上のとおりであり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-01-17 
結審通知日 2002-01-29 
審決日 2002-02-13 
出願番号 特願平7-174816
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A47K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 恭藤原 伸二  
特許庁審判長 嶋矢 督
特許庁審判官 蔵野 いづみ
鈴木 公子
発明の名称 シャッター式浴槽蓋  
代理人 最上 正太郎  
代理人 最上 正太郎  
代理人 最上 正太郎  

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