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審決分類 審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1057711
審判番号 審判1999-11607  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-11-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-07-21 
確定日 2002-05-01 
事件の表示 平成 4年特許願第112418号「多次元連続写像における不動点の算出装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年11月 5日出願公開、特開平 5-290078]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成4年4月6日の出願であって、その請求項2に係る発明(以下、本願発明という。)は、平成11年8月20日付けの手続補正書によって補正された明細書(以下、本願明細書という。)及び図面の記載からみて、その構成要件を符号(A)乃至(E)を付して分節し、さらに構成要件(C)の手順を符号(C-1)乃至(C-4)を付して示せば、次のとおりのものと認める。
「(A) 多次元連続写像における不動点を計算機により数値的に算出する不動点の算出装置において、
(B)m次元(m:任意の正の整数)線形空間Rm上の連続写像Tと、任意のm組の2点の差ベクトルが互いに線形独立なm+1個の試行点Xk(o)∈Rm(k=1,2,‥‥,m+1)とを入力して第1の記憶手段に格納する入力手段と、
(C)
(C-1)前記第1の記憶手段から読み出した前記試行点の写像Xk(1)=TXk(0)を求めて第2の記憶手段に格納し、
(C-2)前記第2の記憶手段から前記写像Xk(1)を読み出して、前記第1の記憶手段から読み出した前記連続写像Tの不動点Xf=TXfの近似値X(f)を求める非線形代数方程式を解き、求めた前記近似値X(f)を第3の記憶手段に格納し、
(C-3)前記第3の記憶手段から読み出した近似値X(f)と前記第2の記憶手段から読み出した写像TX(f)とで許容誤差Eに対して‖X(f)-TX(f)‖<Eを満足するか否かを判断し、満足しない場合には、前記第3の記憶手段から読み出した該近似値X(f)を前記第1の記憶手段から読み出した前記試行点Xk(o)の1個と置換して、このプロセスを反復して、前記不動点Xfに対する改良された近似値X(f)を逐次求めて第4の記憶手段に格納し、
(C-4)前記第3の記憶手段から読み出した近似値X(f)と前記第2の記憶手段から読み出した写像TX(f)とで最終的に許容誤差Eに対して‖X(f)-TX(f)‖<Eを満足する場合には前記近似値X(f)を求めて前記第4の記憶手段に格納する
計算手段と、
(D)前記多次元連続写像における不動点として前記近似値X(f)を前記第4の記憶手段から読み出して出力する出力手段と、
(E)を備えることを特徴とする多次元連続写像における不動点の算出装置。」

なお、本願明細書の請求項2には、上記手順(C-2)は、「前記第2の記憶手段から前記連続写像Tの不動点Xf=TXfの近似値X(f)を求める非線形代数方程式を解き、求めた前記近似値X(f)を第3の記憶手段に格納し、」と記載されているが、これは、本願明細書の請求項1の記載等からみて、「前記写像Xk(1)を読み出して、前記第1の記憶手段から読み出した」の部分を欠落させたものと認められるから、本願発明を上記のとおり認定した。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概容は、「本願発明は、多次元連続写像における不動点を算出する装置であって、本願発明の課題解決手段はコンピュータを用いて計算処理を行うものであり、コンピュータを用いて処理をする点においては自然法則を利用した手段を採用したものではあるが、請求項には数学的な計算手順が記載されているのみで、コンピュータのハードウエア資源がどのように用いられて処理されるかを直接的又は間接的に示す具体的事項が記載されていない。
したがって、自然法則を利用した解決手段は「コンピュータを用いて処理すること」のみであるから、本願発明は特許法第2条でいう「発明」に該当せず、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない。」というものである。

3.請求人の主張
請求人は、平成11年8月20日付け手続補正書により請求項の記載を補正するとともに、審判請求の理由において、「本願発明の計算手段は、コンピュータのハードウエア資源である第1乃至第4の記憶手段を書き込み読み出し更に逐次書き換えて所定の方程式を解き、第3の記憶手段のデータから第2の記憶手段のデータとの差異をとって基準許容誤差と比較するという計算処理を実行したことを明確に記載しており、自然法則を利用した解決手段は「コンピュータを用いて処理すること」のみではないから、本願発明は、特許法第2条でいう「発明」に該当する。」旨主張している。

4.当審の判断
本願発明は、 多次元連続写像における不動点を計算機により数値的に算出する不動点の算出装置(A,E)であって、数学的解法の創作に基礎を置くものであり、第1乃至第4の記憶手段を一次的記憶手段として用いた、入力手段(B)、計算手段(C)及び出力手段(D)から構成されるものである。
そして、本願発明は、計算機を用いたという限りにおいては自然法則を利用したものともいえるが、計算機を用いたというのみで、その計算処理が計算機のハードウエアをどのように利用しているか明確でなく、当該計算処理に係るソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されていなければ、すなわち、計算処理に係るソフトウェアのアルゴリズムを、請求項の記載に基づいて当業者が把握できる程度に具体的に記載されていなければ、実質的には数学的解法であって、自然法則を利用していないものに等しいので、特許法第2条で規定する発明に該当しないものとなる。
そこで、本願発明の計算手段(C)における手順(C-1)乃至(C-4)について、その記載が、その記載に基づいて、計算処理に係るソフトウェアのアルゴリズムを当業者が把握できる程度に具体的なものか検討する。
すると、手順(C-1)はともかく、手順(C-2)は「前記第2の記憶手段から前記写像Xk(1)を読み出して、前記第1の記憶手段から読み出した前記連続写像Tの不動点Xf=TXfの近似値X(f)を求める非線形代数方程式を解き、求めた前記近似値X(f)を第3の記憶手段に格納し、」というものであり、就中、「前記第1の記憶手段から読み出した前記連続写像Tの不動点Xf=TXfの近似値X(f)を求める非線形代数方程式を解き」は、連続写像Tに対して具体的にどのような非線形代数方程式をどのように解くのか明確でなく、この手順(C-2)を実施するソフトウェアのアルゴリズムを当業者が把握できる程度に手順(C-2)が具体的に記載されているとは認めることができない。
また、手順(C-3)も、「前記第3の記憶手段から読み出した近似値X(f)と前記第2の記憶手段から読み出した写像TX(f)とで許容誤差Eに対して‖X(f)-TX(f)‖<Eを満足するか否かを判断し、満足しない場合には、前記第3の記憶手段から読み出した該近似値X(f)を前記第1の記憶手段から読み出した前記試行点Xk(o)の1個と置換して、このプロセスを反復して、前記不動点Xfに対する改良された近似値X(f)を逐次求めて第4の記憶手段に格納し、」というものであり、「このプロセスを反復して、前記不動点Xfに対する改良された近似値X(f)を逐次求め」とはいうものの、常に改良された近似値X(f)を逐次求めるための手順が明らかでなく、もし常に改良された近似値X(f)を逐次求めることが保証されているわけではないのであれば、手順(C-1)乃至(C-3)からなると認められるプロセスをいつまで反復するのかの終了条件も規定されていないので、手順(C-3)も、この手順を実施するソフトウェアのアルゴリズムを当業者が把握できる程度に具体的に記載したものではない。
手順(C-4)は、「前記第3の記憶手段から読み出した近似値X(f)と前記第2の記憶手段から読み出した写像TX(f)とで最終的に許容誤差Eに対して‖X(f)-TX(f)‖<Eを満足する場合には前記近似値X(f)を求めて前記第4の記憶手段に格納する」というものであり、計算手段(C)における終了時の処理と認められるが、前段の処理が明確であるという前提においてのみ明確なものである。
以上のとおりであるから、本願発明の計算手段(C)の手順全体は、それを実施するためのソフトウェアのアルゴリズム全体を当業者が把握できる程度に具体的に記載したものではない。
そして、本願発明は、多次元連続写像における不動点を計算機により数値的に算出する不動点の算出装置であって、その不動点を算出する計算手段が上述のとおりであり、入力手段と出力手段も、それぞれ計算手段での計算処理の対象の入力と計算処理の結果の出力を単に規定しているだけであるから、結局、本願発明は全体としてみても、コンピュータシステムを単に利用したのみであって、実質的には数学的解法に該当し、自然法則を利用した技術思想であると認めることはできない。

なお、請求人は、上記のごとく、「本願発明の計算手段は、コンピュータのハードウエア資源である第1乃至第4の記憶手段を書き込み読み出して計算処理を実行したことを明確に記載しており、自然法則を利用した解決手段は「コンピュータを用いて処理すること」のみではない」旨主張しているが、コンピュータのハードウェア資源がどのように用いられて処理されるかを直接的又は間接的に示す具体的事項が記載されているといえるためには、コンピュータによる処理において、単にあるハードウェア資源を用いることに言及していればよしとするものではなく、当該処理を実施するためのソフトウェアのアルゴリズムを当業者が把握できる程度に処理内容を具体的に記載することが必要であるから、請求人の上記主張を認めることはできない。
また、さらに付言すれば、本願発明は、入力手段(B)により、初期条件の1つとして、任意のm組の2点の差ベクトルが互いに線形独立なm+1個の試行点を入力するものであり、本願発明の不動点の算出装置が不動点を算出できるためには、不動点を求めようとする多次元連続写像に応じて適切な試行点を選択する必要があると認められるが、本願明細書には、この適切な試行点を選択する手法に関して何ら記載されておらず、また、当業者が、本願明細書の記載に基づいて、当該手法を想到可能であるとも認めることはできない。
どのように初期条件を設定するかは別として、適切な初期条件が設定されることを前提とした問題解決アルゴリズムは、数学的アイデアとしては価値のあるものだとしても、当該問題解決アルゴリズムを実際に問題解決に利用するときには、適切な初期条件を設定できることが必須であり、その適切な初期条件の設定を行うために、当業者に発明力を要するとすれば、特許法上の発明としてみた場合には、未完成のものであり、産業上利用できるものとは認められないものである。
したがって、この点からも、本願発明は、特許法第2条で規定する発明に該当するとは認めることができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第1項の柱書きに規定する要件を満たしていないので、本願は、原査定の理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-02-15 
結審通知日 2002-02-26 
審決日 2002-03-11 
出願番号 特願平4-112418
審決分類 P 1 8・ 14- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲吉▼田 耕一  
特許庁審判長 徳永 民雄
特許庁審判官 村上 友幸
鳥居 稔
発明の名称 多次元連続写像における不動点の算出装置  
代理人 山下 穣平  
代理人 山下 穣平  

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