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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04F
管理番号 1057751
審判番号 審判1999-20643  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-11-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-12-28 
確定日 2002-04-22 
事件の表示 平成 7年特許願第 98715号「建築物用壁装材及び建築物の吹き付け塗装方法」拒絶査定に対する審判事件[平成 8年11月 5日出願公開、特開平 8-291607]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 本願発明
本願は、平成7年4月24日の出願であって、その請求項1〜12に係る発明は、平成11年1月19日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1及び4に係る発明は次のとおりである。
「【請求項1】上面が平面形状に成形された凸模様部分と凹部とからなる吹き付け面と、前記凹部の表面上に形成された膜厚500〜5000μmの第1のコーティング層と、少なくとも前記凸模様部分の上面に形成された膜厚50〜450μmの第2のコーティング層とを備えた建築物用壁装材。
【請求項4】合成樹脂エマルジョンと、無機質の固体からなる主骨材と、セメント成分と、水と、粒状発泡材とからなる吹き付け材を所定の割合に混合し、前記混合した吹き付け材を圧縮空気によってノズルから噴射させて、建築物の表面に凹凸状の吹き付け面を形成し、前記吹き付け面に膜厚500〜5000μmの第1のコーティング層を塗布し、前記第1のコーティング層を塗布した吹き付け面の凸部分を研磨して平面形状部分を形成し、少なくとも前記平面形状部分の表面に膜厚50〜450μmの第2のコーティング層を塗布する建築物の吹き付け塗装方法。」
(なお、出願人により、本願の願書に添付した明細書について、特許法第17条の2第1項第5号の規定に基づいて平成12年1月27日付け手続補正書が提出されたが、これは補正の却下の決定により却下された。)

2 引用刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平7-100991号公報(以下「引用例1」という。)には、図面と共に「基材の表面に、合成樹脂エマルジョンと2色以上の骨材とを含有する高粘度の吹付材を塗布して段差の大きい凹凸模様を形成したのち、異色の骨材により調色された合成樹脂エマルジョンよりなる低粘度の吹付材を全体的に薄く塗布し、前記塗布した低粘度の吹付材の乾燥前に前記塗布面がほぼ上方を向いた状態でさらにその表面に1色或いは2色以上のマイカ薄片を散布固着せしめ、乾燥後凸部の頂部を平坦にカットし、前記高粘度吹付材層断面および着色骨材断面を露出させ、次いで全面を透明なトップコートで仕上げることを特徴とする天然石模様を有する装飾材の製造方法。」(特許請求の範囲、請求項2)が記載され、「前記低粘度の吹付材を全体的に薄く塗布しているので、前記凹凸模様が保たれた状態で前記高粘度吹付材層と前記低粘度吹付材層の2層構造になり、」(3欄49行〜4欄1行)、「平坦にカットされた部分は・・・露出した部分の周囲縁部が前記低粘度吹付材層の着色骨材断面が露出した部分で囲まれた種々の色層の天然石風の多彩色複合模様となり、カットされずに残された凹部には・・・両者の複合模様により、前記第1の発明とはやや異なった特有のパターンの天然石模様が発現し」(4欄3〜11行)、「骨材としては大理石粉や御影石粉その他の天然石粉・・・などの無機材料が好ましく用いられる。」(5欄30行〜33行)、「高粘度の吹付材は、例えばこれらの2色以上の骨材の合計100重量部に対して、固形分40〜60重量%程度の合成樹脂エマルジョン15〜25重量部、必要に応じて造膜助剤、増粘材、消泡剤などを加えて、・・・高粘度に調整することにより得ることができる。」(5欄36〜41行)、「低粘度の吹付材は、添加する水などの媒体の量などを調整して低粘度に調整するとか、骨材の種類を変えるなどの点が高粘度の吹付材と主として異なる程度でその他の点では高粘度の吹付材と実質的にほぼ同種類の原料が用いられる。・・・低粘度の吹付材の場合には1色の骨材でもよい。」(6欄4〜12行)、「かくしてこの上に透明なトップコートがさらに施されるが、・・・この種の建築物表面仕上げ用シートの製造の際に用いられている透明なトップコート樹脂などの通常のものを用いればよい。」(7欄24〜29行)、「図2は本発明の他の製造方法を示す工程断面図である。・・・高粘度の吹付材2を吹付ガン3により基材1の表面に・・・吹付けて、・・・低粘度の吹付材11を吹付けガン12で全体的に薄く吹付け塗布して上塗り塗膜13を形成する。・・・塗料ガン6により・・・トップコート9を全面に形成して」(8欄35行〜9欄5行)と記載されている。「実施例2」(10欄)には「4.0〜5.0kg/m2の所要量で段差の大きい凹凸模様の塗膜を形成させる。」、「低粘度の吹付材を・・・1回塗布により1.0〜1.5kg/m2となるように全面にわたって均一に塗布する。」、「マイカ薄片を、1.0〜0.3kg/m2程全体に均一に吹付け散布し、前記低粘度の吹付材の塗膜面に付着させる。」と記載され、図2の(e)には、基材1の表面に形成される凹凸模様の凹部に上塗り塗膜13(低粘度の吹付材の層)を形成し、平坦にカットされた凸部には直接トップコート9の層を形成することが示されている。
以上の記載によると、引用例1には、基材の表面に、高粘度の吹付材を塗布し、凹凸模様を形成した後、該吹付材の表面に低粘度の吹付材を全体的に薄く塗布し、その表面にマイカ薄片を固着させ、凸部の頂部を平坦にカットし、次いで全面に透明なトップコートを塗布して得られる建築物用の壁装材であって、前記高粘度の吹付材の吹き付けにより形成される凹凸模様の凹部には低粘度の吹付材の層が形成され、カットされた高粘度の吹付材の凸部には直接トップコートの層が形成された建築物用の装飾材(以下、「引用例1記載の発明1」という。)が開示されていると認められる。
又、基材の表面に、合成樹脂エマルジョン、無機質の固体からなる骨材、慣用の成分を含有する高粘度の吹付材を吹付ガンにより吹き付けて基材表面に凹凸模様の塗膜を形成した後、該吹付材の表面に無機質の固体からなる骨材を含む合成樹脂エマルジョンよりなる低粘度の吹付材を吹付ガンを用い全体的に薄く吹き付け、その表面にマイカ薄片を散布し固着させ、凸部の頂部を平坦にカットし、次いで塗料ガンを用い全面に透明なトップコートを塗布する、建築物の装飾材製造のための基材(例:合成繊維性織物、セメント板、石膏ボード等)への吹き付け塗装方法(以下、「引用例1記載の発明2」という。)が開示されていると認められる。

3 対比・検討
(a)本願の請求項1に係る発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願第1発明」という。)と上記「引用例1記載の発明1」を対比すると、「引用例1記載の発明1」における「高粘度の吹付材の吹き付けにより形成される凹凸模様」、「トップコートの層」、「建築物用の装飾材」が、本願第1発明における「凸模様部分と凹部とからなる吹き付け面」、「第2のコーティング層」、「建築物用壁装材」にそれぞれ相当すること、「引用例1記載の発明1」において「マイカ薄片」が固着した「低粘度の吹付材の層」は、「トップコートの層」と区別できるからこれと別のコーティング層であるといえること、又引用例1において合成樹脂エマルジョンと骨材は吹付材の主材であることが自明であることから、結局、両者は、上面が平面形状に成形された凸模様部分と凹部とからなる吹き付け面と、前記凹部の表面上に形成された第1のコーティング層と、少なくとも前記凸模様部分の上面に形成された第2のコーティング層とを備えた建築物用壁装材である点で一致しているが、前者では、「第1のコーティング層」と「第2のコーティング層」の膜厚が限定されているのに対し、後者ではそのような限定がない点(相違点1)で相違している。
以下相違点1について検討する。
引用例1には、「低粘度の吹付材」の膜厚について「薄く塗布」(1欄、請求項2等)という記載があるが、「低粘度の吹付材を全体的に薄く塗布しているので、前記凹凸模様が保たれた状態で前記高粘度吹付材層と前記低粘度吹付材層の2層構造になり、」(3欄49行〜4欄1行)という記載、色彩、模様等の発現に関する記載(4欄3〜11行)、それを説明する図2の記載からみて、厚さが特に狭い範囲に限定されることを意味しているとは解されない。
又、壁等建築物の表面に積層する塗布層において異なる単一層の厚さとして数百μm及び数mmという厚さは普通にみられるものであり、トップコート(仕上げ層)の厚さを主要な層のそれより薄くすることも常識である。
更に、建築物表面に塗膜を形成するにあたり、膜厚は、吹き付け後の外観、塗布材の物性等を考慮し、良好な結果がもたらされる範囲に設定することは通常行うことであるから、「引用例1記載の発明1」において「第1のコーティング層」(低粘度の吹付材の層)の厚さを500〜5000μmに、又「第2のコーティング層」(トップコートの層)の膜厚を50〜450μmに設定することは当業者が容易になし得る程度のことであると認められる。そして、このように膜厚を限定したことによる効果も当業者の予測を越えるものではない。
したがって、本願第1発明は、上記「引用例1に記載の発明1」に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(b)本願の請求項4に係る発明について
本願の請求項4に係る発明(以下「本願第4発明という。)(前者)と「引用例1記載の発明2」(後者)を対比すると、後者における「高粘度の吹付材」、「基材」、「凹凸模様の塗膜」、「トップコート」が、前者における「吹き付け材」、「建築物の表面」、「凹凸状の吹き付け面」、「第2のコーティング層」にそれぞれ相当すること、後者において「マイカ薄片」が固着した「低粘度の吹付材の層」は、「トップコート」と区別できるからこれと別のコーティング層であるといえること、又後者における吹付ガン及び塗料ガンが、吹き付け材を圧縮空気によってノズルから噴射させることは自明であること、更に前者における「建築物」は本件特許明細書の段落【0002】での「建築物」の定義によると、ブロック、ボード等を含むので石膏ボード等の基材はこれに含まれることから、結局、両者は、合成樹脂エマルジョンと、無機質の固体からなる骨材を含有する吹き付け材を圧縮空気によってノズルから噴射させ、建築物の表面に凹凸状の吹き付け面を形成し、前記吹き付け面に第1のコーティング層を塗布し、前記第1のコーティング層を塗布した吹き付け面の凸部分を研磨して平面形状部分を形成し、少なくとも前記平面形状部分の表面に第2のコーティング層を塗布する建築物の吹き付け塗装方法である点で一致しているが、前者では吹き付け材にセメント成分、水、粒状発泡プラスチックが含まれているのに対し、後者ではこのことについて記載がない点(相違点1)、前者では、「第1のコーティング層」と「第2のコーティング層」の膜厚がそれぞれ「500〜5000μm」、「50〜450μm」に限定されているのに対し、後者ではこのような限定がない点(相違点2)で相違している。
そこで以下上記相違点について検討する。
相違点1について、
合成樹脂エマルジョンと骨材を用いた建物壁に適用する吹き付け材においてセメントを併用すること、又粒状発泡プラスチックを併用することは周知技術(セメント併用については、例えば特開昭58-199759号公報、特公昭53-20563号公報参照。粒状発泡プラスチック併用については、例えば特開昭58-199759号公報、特開昭62-23480号公報参照。)である。又、塗布材においてセメント成分と粒状発泡プラスチックの併用は周知であり、主材がセメントの塗布材において水の使用はごく普通のことであるので、「引用例1記載の発明2」において、凹凸模様の塗膜を形成する吹き付け材に更にセメント成分と水を主材として加え、かつ粒状発泡プラスチックを加えることは当業者が容易に想到し得ることと認められる。
相違点2については、上記(a)において検討したとおりである。
したがって、補正第4発明は、上記「引用例1記載の発明2」及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1及び4に係る発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-02-14 
結審通知日 2002-02-26 
審決日 2002-03-11 
出願番号 特願平7-98715
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 忠夫長島 和子井上 博之  
特許庁審判長 嶋矢 督
特許庁審判官 鈴木 憲子
蔵野 いづみ
発明の名称 建築物用壁装材及び建築物の吹き付け塗装方法  
代理人 池内 寛幸  

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