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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01B |
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管理番号 | 1058031 |
異議申立番号 | 異議2001-72037 |
総通号数 | 30 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-04-16 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-07-27 |
確定日 | 2002-01-21 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3129110号「透明導電膜およびその形成方法」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3129110号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
[1]手続の経緯 本件特許第3129110号の手続の経緯は、次のとおりである。 出願日 平成 6年 9月30日 設定登録 平成12年11月17日 公報発行 平成13年 1月29日 特許異議申立 平成13年 7月27日 取消理由通知 平成13年10月 3日付 訂正請求 平成13年12月17日 特許異議意見書 平成13年12月17日 [2]訂正の適否についての判断 ア.訂正の内容 特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。 訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1中の「組成物」の記載を、「組成物(ただし、導電性微粉末を分散させる界面活性剤を含有する場合を除く)」と訂正する。 訂正事項b 明細書【0042】中の「界面活性剤(カチオン系、アニオン系、ノニオン系)、pH調整剤」の記載を、「pH調整剤」と訂正する。 イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項aは、当初明細書及び特許時の明細書【0042】に、任意添加成分として界面活性剤が記載されていたものを、「除くクレーム」の記載にすることにより、組成物中に界面活性剤を含有する場合を包含しないことを明確にしたにすぎないから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ新規事項を追加するものでも実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。 上記訂正事項bは、上記訂正事項aに整合させて、発明の詳細な説明の記載を訂正するものにすぎないから、明りようでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ上記訂正事項aの場合と同様に新規事項を追加するものでも実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。 ウ.訂正の適否についての結論 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する第126条第2-3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 [3]特許異議申立についての判断 ア.本件発明 本件発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜8(以下、「本件発明1〜8」という)に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 導電性微粉末、溶媒、および非ポリマー系膜形成剤を含有し、ポリマー系バインダーを含まない透明導電膜形成用組成物(ただし、導電性微粉末を分散させる界面活性剤を含有する場合を除く)を基体に塗布する第1工程、および第1工程で得られた塗膜に、ポリマー系バインダーを含有する粘度25cps以下の液体を含浸させ、塗膜を乾燥または硬化させる第2工程、からなることを特徴とする、透明導電膜の形成方法。 (ただし、ポリマー系バインダーとは、ポリマーならびに重合性のモノマーおよびオリゴマーを包含する意味である。) 【請求項2】 前記導電性微粉末が、Snを含有する酸化インジウム、Sbを含有する酸化錫、ならびにAl、Co、Fe、In、SnおよびTiから選ばれた1種もしくは2種以上を含有する酸化亜鉛、よりなる群から選ばれた1種もしくは2種以上の導電性材料の微粉末である、請求項1記載の透明導電膜の形成方法。 【請求項3】 前記非ポリマー系膜形成剤が2-アルコキシエタノール、β-ジケトン、およびアルキルアセテートよりなる群から選ばれ、前記透明導電膜形成用組成物のpHが2.0〜7.0の範囲内である、請求項1または2記載の透明導電膜の形成方法。 【請求項4】 前記透明導電膜形成用組成物が、アセトアルコキシ基を含有するアルミネート系カップリング剤、ならびにジアルキルパイロホスフエート基もしくはジアルキルホスファイト基を含有するチタネート系カップリング剤、よりなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物を低へーズ化・膜補強剤としてさらに含有する、請求項1ないし3のいずれか1項記載の透明導電膜の形成方法。 【請求項5】 前記透明導電膜形成用組成物が、Co、Fe、In、Ni、Pb、Sn、TiおよびZnの鉱酸塩および有機酸塩よりなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物を低抵抗化剤としてさらに含有する、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の透明導電膜の形成方法。 【請求項6】 前記第2工程で使用するポリマー系バインダーが、テトラアルコキシシランの加水分解・縮合生成物である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の透明導電膜の形成方法。 【請求項7】 前記第2工程で使用するポリマー系バインダーが、Si、Ti、Zr、Al、Sn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pb、Ag、In、Sb、Pt、およびAuの鉱酸塩、有機酸塩、アルコキシド、および錯体、ならびにそれらの部分加水分解物よりなる群から選ばれる、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の透明導電膜の形成方法。 【請求項8】 請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法により形成された、表面抵抗が105Ω/□台以下、へーズが1%以下の透明導電膜。」 イ.特許異議申立理由の概要 本件発明1〜8に対して、特許異議申立人大湯佳子は、甲第1号証〜甲第5号証(以下、「甲1」〜「甲5」という)を挙示し、本件発明1〜3及び6〜7は、甲1:特開平5-290634号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件発明1〜8は、上記甲1、甲2:味の素社製のカップリング剤である商品名「プレンアクト」のカタログ(1986年3月発行)、甲3:特開平4-255768号公報、甲4:特開平6-234552号公報及び甲5:特開昭59-223229号公報に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定に違反しているので、特許を受けることができないものであり、特許を取り消すべきであると主張している。 ウ.各甲号証に記載の事項 甲1には、「導電性・高屈折率膜形成用塗料及び導電性・高屈折率膜付き透明材料積層体」について記載されていて、 (1-1)「本発明の目的は、・・・帯電防止性にすぐれ、超微粒子の凝集が少なく、かつ低屈折膜層に対する密着性が良好な膜層を容易、かつ安価に形成することができる帯電防止・高屈折率形成用塗料、およびそれを用いて得られる帯電防止・高屈折率膜付き透明材料積層体、特に帯電防止・高屈折率膜層と、その上に形成された低屈折率膜層とを有する透明材料積層体を提供することにある。」(【0005】)、 (1-2)「【請求項5】 透明基材と、この透明基材の表面上にアンチモンドープ酸化錫の微粉末と界面活性剤との混合物を含むアルコール分散液からなる塗料を塗布し、乾燥して形成された導電性・高屈折率膜層と、この導電性・高屈折率膜層の上に形成され、かつその屈折率よりも0.1以上低い屈折率を有する低屈折率膜層とを含んでなることを特徴とする帯電防止・反射防止膜付き透明材料積層体。」(特許請求の範囲の【請求項5】)、 (1-3)「【0010】しかし、本発明においては、界面活性剤を用いることによって、生成膜中のアンチモンドープ酸化錫微粉末の凝集を無くすことが可能になった。このため、本発明の塗料を用いて得られる帯電防止・高屈折率膜層は極めて優れた帯電防止効果および電磁波遮蔽効果を示すばかりでなく、n=1.55〜2.0という高い屈折率を具有することが可能になったのである。従って、その上に形成される低屈折率膜層の屈折率(一般的にn=1.45以下)と、この帯電防止・高屈折率膜層の屈折率との差を0.1以上、好ましくは0.15以上にすることが可能になり、このため、本発明により得られる帯電防止・高屈折率膜層と低屈折率膜層との組合せは、すぐれた反射防止性を示すのである。」(【0010】)、 (1-4)「【0022】・・・実施例1 (1)帯電防止・高屈折率膜層形成用塗料(A)を、下記のように調整した。すなわち、アンチモンドープ酸化錫微粉末5g…と、陽イオン界面活性剤1.12g…とを、水17.73gに混合し、この混合物を撹拌して均一なアンチモンドープ酸化錫ゲルを得た。…得られたゲルを、メタノール214.28gとメチルセロソルブ142.86gとの混合溶液に、混入し、均一な分散液とした。 【0023】(2)低屈折率膜層形成用塗料(a)を下記の操作によって調整した。すなわち、テトラエトキシシラン0.8g、0.01N硝酸0.08g、エチルセロソルブ30gおよびエチルアルコール68.4gを混合して、均一な溶液とした。 【0024】(3)積層体の製造 ガラス基体の一面上に30℃の温度において、前記塗料(A)をスピンコート法により塗布し、1分間の風乾をした。これにより、0.1μmの厚さを有する帯電防止・高屈折率膜層が形成された。次に、このガラス基体の帯電防止・高屈折率膜層上に、30℃の温度において、塗料(a)をスピンコート法により塗布し、3分間の風乾を行い、160℃、30分間の焼き付け処理を施すことにより、厚さ0.1μmの低屈折率膜層を形成した。」(【0022】〜【0024】)、 (1-5)「本発明の塗料から形成される膜は帯電防止性および電磁波遮蔽性に優るとともに高い屈折率(通常n=1.55〜2.0)を有し、また、その上に形成する低屈折膜層に対する密着性がよい。さらに、膜の形成も容易である。この帯電防止・高屈折率膜層と低屈折率層との組合せによって、優れた反射防止効果が得られる。また、本発明の塗料から形成される膜は、200℃以下の低温焼き付けで実用上十分な強度を付与することができる。」(【0028】)、という記載がある。 甲2には、味の素社製のカップリング剤である商品名「プレンアクト」について記載されていて、 (2-1)カップリング剤である「プレンアクト」の作用及び「プレンアクト」を加えることによる効果として、「AL-Mはチタネート系カップリング剤プレンアクトと同様に、無機物の表面に化学的に結合し、有機質の被膜をつくる性質があります。AL-Mは色相の鮮明度の向上にすばらしい効果をもっています。カーボンブラックや顔料などの有機媒体中への分散が飛躍的に向上し、着色力の増大・色相・鮮明度の向上、塗膜の接着力の向上が得られます。」(第5頁左欄1〜右欄2行)と記載されている。また、カップリング剤である「プレンアクト」の具体例として、第4頁にチタネート系カップリング剤が、第5頁上欄にアルミニウム系カップリング剤が記載されている。 甲3には、「透明な導電性膜形成用塗布液」について開示されていて、 (3-1)「【請求項1】(a)硝酸インジンム、(b)有機錫化合物、(c)ヘキシレングリコール並びに(d)酢酸および/または無水酢酸を含有することを特徴とする透明な導電性膜形成用塗布液。」(特許請求の範囲)、 (3-2)「【発明の効果】…導電性が良好で、機械的強度、光透過性に優れ、面内ばらつきが小さい、タッチパネルや表示装置の帯電防止膜等に好適な導電膜を形成することができる。」(【0053】)、という記載がある。 甲4には、「電界シールド用透明導電膜」について開示されていて、 (4-1)【0033】には、実施例2としてITO超微粉B(=導電性微粉末)、溶媒、エチルシリケートおよび塩酸を含む溶液を塗布して1層目を形成した後、2層目にシリケート膜を形成することが記載されており、形成された透明導電膜の表面抵抗が7.22×104Ω/□であり、ヘーズ値が0.6%であること(【0051】の表3の実施例2の欄参照)が記載されている。 甲5には、「インジウム・スズ・オキサイドゾル組成物及びその製造方法」について開示されていて、その【請求項3】には、透明導電膜を形成するインジウム・スズ・オキサイドゾル組成物に、インジウム・スズ・オキサイド、分散剤および1価の有機酸を含有することが記載され、また第3頁左欄8〜13行には、「本発明のゾル組成物の分散剤としては、…メチルセロソルブ、エチルセロソルブ…が好適に用いられる。」という記載がある。 エ.対比・判断 (特許法第29条第1項第3号について) 本件発明1と甲1発明とを対比する。 本件発明1は、溶媒、導電性微粉末、およびバインダーからなる従来型の透明導電性塗料では、導電性の改善に限界があり、帯電防止用には使用できても、電磁波シールドや透明電極に要求されるレベルまで低抵抗化した導電膜を得ることは困難であったことに鑑みて、電磁波シールド用に要求されるレベルの高い導電性を有し、ヘーズが小さく、基体への密着性および膜強度が高い透明導電膜の形成方法を提供することを目的として、上記請求項1の構成を採用するものである。 一方、甲1の上記(1-1)〜(1-5)の記載内容を含む全記載から明らかなように、甲1の実施例1における「アンチモンドープ酸化錫微粉末」、「メタノールとメチルセロソルブ」、「テトラエトキシシラン」は、その材質および作用・機能からみて本件発明1における「導電性微粉末」、「溶媒」、「ポリマー系バインダー」と等価であり、甲1における「透明材料積層体」は、その構成及び帯電防止性及び電磁遮蔽性に優れるという機能・効果からみて、本件発明1における「透明導電膜」と等価であり、また、甲1の実施例1における塗料(a)の塗布、及びその後に行っている風乾と焼き付け処理は、その処理操作及び機能からみてそれぞれ本件発明1の第2工程における含浸(本件特許公報の【0058】参照)、及びその後に行っている乾燥または硬化(本件特許公報の【0059】参照)と、それぞれ等価である。 ところで、甲1の記載中のどこにも「非ポリマー系膜形成剤」という記載がないことからも解るように、甲1発明の実施例1におけるメチルセロソルブ(=メトキシエタノール)は、あくまでも溶媒として使用されており、非ポリマー系膜形成剤としての機能を意図して使用されたものでないことは明らかであるが、甲1の実施例1において、溶媒の一つとして使用されているメチルセロソルブ(=メトキシエタノール)が、本件発明1における「非ポリマー系膜形成剤」の範疇に包含されている2-アルコキシエタノールに該当しているところから、非ポリマー系膜形成剤としての認識があるか否かに拘わらず、メトキシエタノールは溶媒としての機能を有すると共に、非ポリマー系膜形成剤としての機能を潜在的に有していると認められるところから、結局、甲1には「アンチモンドープ酸化錫微粉末(=導電性微粉末)と界面活性剤とメチルセロソルブ(=メトキシエタノール)の混合物を含むメタノールとメチルセロソルブからなるアルコール(=溶媒)分散液を基体に塗布する第1工程、および第1工程で得られた塗膜に、テトラエトキシシラン(=ポリマー系バインダー)を含有する液体を塗布(=含浸)して、塗膜を風乾と焼き付け処理(=乾燥または硬化)する第2工程からなる帯電防止・電磁波遮蔽性に優れた反射防止膜付き透明材料積層体(=透明導電膜)の形成方法。」に係る発明が実施の態様として記載されていると認める。 そうすると、本件発明1と甲1発明は「導電性微粉末、溶媒、およびメトキシエタノールを含有し、ポリマー系バインダーを含まない透明導電膜形成用組成物を基体に塗布する第1工程、および第1工程で得られた塗膜に、ポリマー系バインダーを含有する液体を塗布(=含浸)して、塗膜を風乾と焼き付け処理(=乾燥または硬化)する第2工程からなる透明導電膜の形成方法。」である点で一致しており、下記の点で相違していると認められる。 1)透明導電膜形成用組成物が、本件発明1においては、「導電性微粉末を分散させる界面活性剤を含有する場合を除く」ものであるのに対して、甲1発明では、「界面活性剤を含有する」ものである点。 2)第2工程で塗布・含浸させる塗布液が、本件発明1においては、「粘度25cps以下の液体」であるのに対して、甲1発明では、そのような記載がない点。 上記相違点1)について検討すると、 本件発明1では、透明導電膜形成用組成物中に界面活性剤を含有しないため、メトキシエタノールが非ポリマー系膜形成剤として十分に機能して、粒子間及び基材との接着を強め、かつ粒子間に電子移動の障害材料がないものとなる。次いで第2工程でバインダーを含む液を塗布含浸させると、この粒子間接着構造を保ったままその隙間に第2工程の液が入り込む構造となって、粒子間の電子移動に障害を与えない。これを乾燥または硬化させると、内部応力が加わり、粒子間接触圧力がより高まって、1.8×101Ω/□〜2.5×105Ω/□という導電性が良好なものとなっている。 これに対して、甲1発明では、上記(1-1)の記載から明らかなように、透明導電膜形成用組成物中に界面活性剤を含有させることにより、導電性微粉末の粒子表面全体が界面活性剤で被覆されて、粒子は凝集せずに均一に分散される結果、メトキシエタノールは非ポリマー系膜形成剤としては十分に機能しない。次いで第2工程でバインダーを含む液を塗布して、均一分散した導電性微粒子を膜として固定すると、各粉末粒子表面はこのバインダーで覆われて孤立して存在することになり、バインダーによる一種の絶縁効果が発揮されて、得られる被膜の表面抵抗は、8×107Ω/□という大きなものになってしまっている。 したがって、界面活性剤の存否により、本件発明1と甲1発明とでは、透明導電膜の形成機構及び形成された透明導電膜の物性値が、実質的に相違しており、同一ということはできない。(本件明細書【0013】の記載内容についても参照のこと。) 上記相違点2)について検討すると、 本件発明1において、含浸用液体の粘度が25cps以下でないと、塗膜含浸時に、基体に達するように塗膜内部に液体が浸透せず、目的とする密着性および膜強度の向上効果を得ることができない。また液体が高粘度であると、過剰の液体が第1工程で形成された塗膜の上に堆積して、導電性微粉末を含有しない絶縁性の層を形成するので、導電性が著しく低下すると記載している(本件明細書【0052】の記載内容参照)。 これに対して、甲1発明では、第2工程で使用する低屈折率膜層形成用塗料(a)の粘度については記載がないが、甲1の実施例1の低屈折率膜層形成用塗料(a)を構成している成分の全てが1.85cps以下の粘度である(この点については、異議申立書第10頁の表を参照のこと。)ところから、甲1発明の低屈折率膜層形成用塗料(a)が全体として25cps以下であることは明らかと認められるし(被申立人もこの点については反論していない。)、本件発明1において、含浸用液体の粘度を25cps以下とする技術的な意義をみても、塗布液としての技術常識的な意義を超えるものではないと認められるから、この点に実質的な相違があるとは認めない。 したがって、本件発明1は、上記相違点1)により、甲1に記載された発明と同一とすることはできない。 また、本件発明2〜3及び6〜7は、本件発明1を引用した発明であるから、本件発明1と同様に判断される結果、甲1に記載された発明と同一ではない。 (同法第29条第2項について) 本件発明1と甲1発明との上記相違点1)が、甲2〜5から容易に想到し得るか否かにつき検討する。 上記(2-1)の記載を含む全記載から解るように、甲2には、チタネート系カップリング剤やアルミニウム系カップリング剤が記載されているにすぎないし、甲3には、上記(3-1)〜(3-2)の記載を含む全記載から明らかなように、硝酸インジウム、有機錫化合物を含有する透明導電性薄膜形成用塗布液について記載されているにすぎず、甲4には、本件明細書【0014】にも記載があるように、ITO超微粉B、溶媒、バインダ及び塩酸水溶液を用いて形成された透明導電膜の表面抵抗値が7.22×104Ω/□であり、ヘーズ値が0.6%であることが記載され、また、導電膜形成溶液のpHについての明確な記載はないが、塩酸水溶液を用いているところから、溶液のpHは技術常識的にみて7.0以下と認められるとしても、前記透明導電膜のみでは劣化し易く、硬度も不足するため、オーバーコート層が必須であり、該オーバーコート層を形成すると、表面抵抗値は7×104〜107Ω/□にまで増大してしまうものである。また、甲5には、インジウム・スズ・オキサイドゾル組成物の分散剤としてメチルセロソルブ、エチルセロソルブ等々が記載されているにすぎないので、結局、甲2〜5には、本件発明2〜8における構成要件を断片的に示すものにすぎず、 本件発明1と甲1発明との上記相違点1)について、記載も示唆もするものではない。 そうすると、甲1発明に甲2〜5発明をいかに寄せ集めて総合的に判断したとしても、本件発明1で特徴としている上記相違点1)については、甲1〜5に記載も示唆もない以上、これらに基づいて当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。 そして、本件発明1では上記相違点1)を特徴とすることにより、塗布法という簡便かつ効率的な方法を利用して、従来の塗布法では得ることのできなかった、低ヘーズかつ105Ω/□台以下という低抵抗で、しかも密着性にも優れた透明導電膜を形成することができるという明細書に記載の顕著な効果を奏し得たものである。 また、本件発明2〜8は、本件発明1を引用した発明であるか、もしくは本件発明1を引用した発明2〜5及び7をさらに引用した発明であるから、本件発明1と同様に判断される結果、本件発明2〜8についても、本件発明1で特徴としている上記相違点1)については、甲1〜5に記載も示唆もない以上、これらに基づいて当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。 オ.むすび 以上のとおりであるから、本件特許異議の申立の理由及び証拠方法によっては、本件請求項1〜8の発明に係わる特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜8の発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 透明導電膜およびその形成方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 導電性微粉末、溶媒、および非ポリマー系膜形成剤を含有し、ポリマー系バインダーを含まない透明導電膜形成用組成物(ただし、導電性微粉末を分散させる界面活性剤を含有する場合を除く)を基体に塗布する第1工程、および 第1工程で得られた塗膜に、ポリマー系バインダーを含有する粘度25cps以下の液体を含浸させ、塗膜を乾燥または硬化させる第2工程、 からなることを特徴とする、透明導電膜の形成方法。 (ただし、ポリマー系バインダーとは、ポリマーならびに重合性のモノマーおよびオリゴマーを包含する意味である。) 【請求項2】 前記導電性微粉末が、Snを含有する酸化インジウム、Sbを含有する酸化錫、ならびにAl、Co、Fe、In、SnおよびTiから選ばれた1種もしくは2種以上を含有する酸化亜鉛、よりなる群から選ばれた1種もしくは2種以上の導電性材料の微粉末である、請求項1記載の透明導電膜の形成方法。 【請求項3】 前記非ポリマー系膜形成剤が2-アルコキシエタノール、β-ジケトン、およびアルキルアセテートよりなる群から選ばれ、前記透明導電膜形成用組成物のpHが2.0〜7.0の範囲内である、請求項1または2記載の透明導電膜の形成方法。 【請求項4】 前記透明導電膜形成用組成物が、アセトアルコキシ基を含有するアルミネート系カップリング剤、ならびにジアルキルパイロホスフェート基もしくはジアルキルホスファイト基を含有するチタネート系カップリング剤、よりなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物を低へーズ化・膜補強剤としてさらに含有する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の透明導電膜の形成方法。 【請求項5】 前記透明導電膜形成用組成物が、Co、Fe、In、Ni、Pb、Sn、Ti、およびZnの鉱酸塩および有機酸塩よりなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物を低抵抗化剤としてをさらに含有する、請求項1ないし4のいずれか1項に記透明導電膜の形成方法。 【請求項6】 前記第2工程で使用するポリマー系バインダーが、テトラアルコキシシランの加水分解・縮合生成物である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の透明導電膜の形成方法。 【請求項7】 前記第2工程で使用するポリマー系バインダーが、Si、Ti、Zr、Al、Sn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pb、Ag、In、Sb、Pt、およびAuの鉱酸塩、有機酸塩、アルコキシド、および錯体、ならびにそれらの部分加水分解物よりなる群から選ばれる、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の透明導電膜の形成方法。 【請求項8】 請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法により形成された、表面抵抗が105Ω/□台以下、ヘーズが1%以下の透明導電膜。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、導電性および電磁界シールド性に優れた塗布型の透明導電膜の形成方法と、この方法で得られた透明導電膜に関する。本発明の方法で形成された透明導電膜は、極めて低抵抗かつ低ヘーズで、しかも基体との密着性および膜強度が高いため、OA機器等のディスプレイやTVブラウン管の画像表面の帯電防止用および電磁界シールド用の透明導電膜の形成に特に好適であり、またタッチパネルや液晶ディスプレイ等のディスプレイ装置の透明電極にも利用できる。 【0002】 【従来の技術】 TVブラウン管やコンピュータ等のOA機器のCRT(陰極線管)の画像表面に、ホコリの付着や電撃ショックを防ぐための帯電防止膜として透明導電膜を形成することは以前より行われている。近年、これらの透明導電膜に、帯電防止性のみならず、電磁波シールド性も要求されるようになってきた。 【0003】 即ち、ブラウン管やCRTでは、電子銃と偏向ヨーク付近から発生した電磁波が周囲に漏洩して、人体に悪影響を及ぼすことが懸念されている。TVについてはブラウン管の大型化に伴って漏洩電磁波が増大し、CRTではOA機器の高性能化に伴って、漏洩電磁波が周囲コンピュータの誤動作を起こす危険性が高くなっている。従って、安全基準をクリヤーするようにブラウン管やCRTからの漏洩電磁波を遮断する必要があり、そのために透明導電膜が電磁波シールド性を示すことが望まれているのである。 【0004】 透明導電膜に要求される導電性は、帯電防止のみを目的とする場合には表面抵抗で108Ω/□台で十分とされてきたが、電磁波シールドを達成するには105Ω/□台以下、好ましくは104Ω/□台以下、さらに好ましくは103Ω/□台以下への一層の低抵抗化が必要である。また、画像を妨害しないようにヘーズ(直接透過光に対する拡散透過光の%)が極力低い値であることが望ましく(例、5%以下、特に1%以下)、基体への密着性も当然要求される。 【0005】 透明導電膜は、より最近開発されたタッチパネルや液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、蛍光表示用ディスプレイなどの各種ディスプレイの透明電極としても利用されている。この用途に用いる透明導電膜にも、電磁波シールド用と同等以上の導電性が要求される。 【0006】 透明導電膜の形成法は、CVD、スパッタリング法などを含む気相法と、塗布法とに大別される。気相法は高性能の透明導電膜を形成することができるが、大量生産には向かず、実用的ではない。 【0007】 塗布法は導電膜を形成する基体(基板)の寸法や形状の制限が少なく、特殊な装置を必要とせずに大量、簡便、かつ安価に透明導電膜を形成することができる。塗布法による透明導電膜の形成は、ガラス、プラスチックなどの基体に塗布、印刷、スプレーなどの手段で透明導電性塗料を塗布し、必要により加熱または紫外線照射により塗膜を乾燥ないし硬化することにより行われる。 【0008】 透明導電性塗料としては、例えば特開昭62-232466号、同63-54473号、特開平2-77473号、同4-26768号各公報に記載されるような、溶媒に透明導電性微粉末と膜形成に必要なポリマー(樹脂)系バインダーとを含有させた組成物がある。このような塗料の塗布による透明導電膜の形成は、同じ塗布法に属するゾル-ゲル法による透明導電膜の形成とは異なり、導電性微粉末の種類を選ばず、高温での焼成工程が必要ないので、プラスチックのような焼成できない基体に対しても透明導電膜を形成することができる。従って、透明導電膜の形成方法として、最も安価かつ簡便で、適用範囲の広い方法である。 【0009】 この透明導電性塗料に用いる透明導電性微粉末としては、Snを含有する酸化インジウム、Sbを含有する酸化錫、ならびにAlその他の金属を含有する酸化亜鉛等の導電性材料の微粉末があり、粒径は一般に0.2μm以下、特に0.1μm以下である。 【0010】 バインダーとしては、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステルなどの有機ポリマーまたは重合により有機ポリマーを形成しうる重合性の有機モノマーもしくはオリゴマー、ならびにテトラアルコキシシランの加水分解・縮合により生成するシリカ(シロキサン系ポリマー)などの、有機および無機のポリマー系バインダーが一般に使用される。なお、本明細書においては、「ポリマー系バインダー」とは、▲1▼無機および有機ポリマーと、▲2▼重合によりこのようなポリマーを生成する重合性モノマーおよびオリゴマー、の両者を包含する意味である。即ち、ポリマーに限らず、モノマーやオリゴマーもポリマー系バインダーに含める。なお、ポリマー系バインダーを、単にバインダーということもある。 【0011】 また、導電性微粉末とバインダーとの密着性を改善するために、適当なカップリング剤(例、ビニルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタアクロキシプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤)を塗料中に少量配合することも知られている。 【0012】 【発明が解決しようとする課題】 しかし、このような透明導電性塗料から形成された透明導電膜は、絶縁性のマトリックス(バインダー)中に導電性微粉末が分散した構造をとるため、導電性が低く、帯電防止用には使用できても、電磁波シールドや透明電極に要求されるレベルまで低抵抗化することは困難であった。 【0013】 ごく最近になって、電磁波シールド性を備えた透明導電膜を形成できる透明導電性塗料がいくつか提案された。例えば、特開平5-290634号公報には、Sbを含有する酸化錫(ATO)微粉末と界面活性剤との混合物を含むアルコール分散液を基体に塗布し、乾燥して高屈折率の透明導電膜を形成した後、その上にアルコキシシラン溶液を塗布し、焼付けて低屈折率膜を形成して得た、2層型の透明導電膜が開示されている。この透明導電膜は実用上十分な電磁波遮蔽性を示すと説明されているが、実施例で達成された表面抵抗は107Ω/□台であり、不十分である。 【0014】 特開平6-234552号には、第1層がSnを含有する酸化インジウム(ITO)の超微粒子が分散したシリケート膜、第2層(オーバーコート)がITOを含有しないシリケート膜という2層構造の電界シールド用透明導電膜が開示されている。第1層が、超微粒子のITOを含有し、かつインク型の[即ち、バインダーであるシリケート(=テトラアルコキシシラン)の割合が低い]塗料から形成するため、第1層単独では表面抵抗で103〜104Ω/□台の低抵抗化が実現できる。しかし、第1層のみでは劣化し易く、硬度も不足するため、第2層が必須であり、第2層を形成すると、表面抵抗は7×104〜107Ω/□まで低下する。 【0015】 これらはいずれも2層型の透明導電膜であり、上層が絶縁性であるため、2層全体としての導電性が低下し、電磁波シールド用に十分な導電性を必ずしも得ることができない。 本発明の目的は、電磁波シールド用に要求されるレベルの高い導電性を有し、ヘーズが小さく、基体への密着性および膜強度が高い透明導電膜の形成方法を提供することである。 【0016】 【課題を解決するための手段】 本発明者等は、上記目的を達成すべく検討を重ねた結果、溶媒、導電性微粉末、およびバインダーからなる従来型の透明導電性塗料では、導電性の改善に限界があり、目的とするレベルまで低抵抗化した透明導電膜を得ることは困難であるとの結論に達した。 【0017】 なぜなら、透明導電性塗料では、ヘーズの小さい塗膜を得るために、塗料中の導電性微粉末を一次粒子に近い状態にまで分散させる必要がある。しかし、バインダーが共存する従来型の塗料では、導電性微粉末をこのように分散させると、各粉末粒子の表面にバインダー成分が吸着し、粒子を被覆するため、絶縁性のバインダーからなる被覆層が形成される。その結果、導電性微粉末の粒子間の直接接触が被覆層によって阻止され、粒子の直接接触を通じて起こる電子移動が阻害され、導電性が必然的に低下することになる。基体との密着性を高めるには十分な量のバインダーが必要であるので、密着性と低ヘーズを確保しながら、透明導電膜の導電性を高める(低抵抗化する)ことは困難である。 【0018】 そこで、本発明者等は、ポリマー系バインダーを使用しない透明導電膜の形成方法について探究し、ある種の非ポリマー系の有機化合物(例、2-アルコキシアルコール、β-ジケトン、アルキルアセテート)が結合力を発揮することを見出し、この有機化合物を膜形成剤として使用した透明導電膜形成用組成物を先に提案した。具体的には、この透明導電膜形成用組成物は、導電性微粉末、溶媒、および上記の非ポリマー系膜形成剤を含有し、さらには任意成分として低抵抗化剤と低ヘーズ化剤の一方または両方を添加した、ポリマー系バインダーを含有しない組成物である。 【0019】 この組成物を基体に塗布し、塗膜を焼付けると、ヘーズが1%以下で、表面抵抗が101〜105Ω/□の範囲内という、低ヘーズかつ低抵抗の透明導電膜を得ることができる。この低いヘーズ値は、上記の非ポリマー系膜形成剤でも、導電性微粉末を一次粒子に近い状態に十分に分散できることを意味している。一方、上記の低い抵抗値は、分散した導電性微粉末の各粒子がバインダーで被覆されていないため、塗膜内で粒子同士が直接接触していることを意味している。しかし、バインダーの不存在は、一方で、粉末の基体との密着性や粉末相互間の密着性(膜強度)の低下を生じ、膜の耐擦傷性が不十分になるという問題点があることが判明した。 【0020】 そこでさらに研究を続けた結果、上記組成物から形成された塗膜は、バインダーを含有しないため、導電性微粉末の粒子間に空隙があり、この空隙に浸透するようにポリマー系バインダーを塗膜に含浸させると、この塗膜の低ヘーズ、低抵抗という利点を著しく損なわずに、粉末相互間および粉末と基体との密着性を高めることができ、低ヘーズ、低抵抗、かつ高密着性の塗膜を形成できることを見出し、本発明に到達した。 【0021】 本発明によれば、導電性微粉末、溶媒、および非ポリマー系膜形成剤を含有し、ポリマー系バインダーを含まない透明導電膜形成用組成物を基体に塗布する第1工程、および第1工程で得られた塗膜に、ポリマー系バインダーを含有する粘度25cps以下の液体を含浸させ、塗膜を乾燥または硬化させる第2工程、からなることを特徴とする、透明導電膜の形成方法が提供される。 【0022】 但し、前述した通り、ポリマー系バインダー(単にバインダーともいう)とは、有機系および無機系のポリマーのみならず、このようなポリマーを重合(架橋を含む)により生成する重合性のモノマーおよびオリゴマーをも包含する意味である。また、非ポリマー系膜形成剤とは、この膜形成剤が重合体ではなく、また重合または架橋反応性を有していないことを意味する。 【0023】 好適態様においては、下記▲1▼〜▲5▼の1または2以上の構成を採用できる。 ▲1▼導電性微粉末が、Snを含有する酸化インジウム(以下、ITOと略記)、Sbを含有する酸化錫(以下、ATOと略記)、またはAl、Co、Fe、In、SnおよびTiから選ばれた1種もしくは2種以上を含有する酸化亜鉛からなる導電性材料の微粉末からなる。 ▲2▼非ポリマー系膜形成剤が2-アルコキシエタノール、β-ジケトン、およびアルキルアセテートよりなる群から選ばれ、透明導電膜形成用組成物のpHが2.0〜7.0の範囲内である。 【0024】 ▲3▼透明導電膜形成用組成物が、低ヘーズ化・膜補強剤として、アセトアルコキシ基を含有するアルミネート系カップリング剤またはジアルキルパイロホスフェート基もしくはジアルキルホスファイト基を含有するチタネート系カップリング剤をさらに含有する。 ▲4▼透明導電膜形成用組成物が、低抵抗化剤として、Co、Fe、In、Ni、Pb、Sn、Ti、およびZnの鉱酸塩または有機酸塩をさらに含有する。 【0025】 ▲5▼第2工程で使用するポリマー系バインダーが、テトラアルコキシシランの加水分解・縮合生成物であるか、或いはSi、Ti、Zr、Al、Sn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pb、Ag、In、Sb、Pt、およびAuの鉱酸塩、有機酸塩、アルコキシド、および錯体、ならびにそれらの部分加水分解物から選ばれる。 【0026】 本発明の方法により、表面抵抗が105Ω/□台以下、好ましくは101〜104Ω/□台、ヘーズが1%以下、好ましくは0.5%以下の透明導電膜を確実に形成することができる。 【0027】 以下、本発明について、各構成要素ごとに詳しく説明する。 【0028】 第1工程の使用材料 第1工程では、導電性微粉末、溶媒、および非ポリマー系膜形成剤を含有し、ポリマー系バインダーを含まない透明導電膜形成用組成物を使用して基体を塗布する。 【0029】 [導電性微粉末] 導電性微粉末の種類は特に制限されず、従来より透明導電性塗料に用いられてきたものを使用すればよい。このような導電性微粉末の例には、ITO微粉末、ATO微粉末、ならびにAl、Co、Fe、In、SnおよびTiから選ばれた1種もしくは2種以上の金属を含有する酸化亜鉛微粉末がある。各導電性微粉末中に含有させる他金属(ドープ金属)の含有量は、金属元素の合計量に対して、ITO微粉末(ドープ金属はSn)では1〜15原子%、ATO微粉末(ドープ金属はSb)では1〜20原子%、酸化亜鉛微粉末では1〜25原子%の範囲が好ましい。 【0030】 導電性微粉末は、形成された膜の透明性を阻害しないように、平均一次粒子径(以下、平均粒径という)が0.5μm以下、より好ましくは0.2μm以下、特に0.1μm以下のものが好ましい。特に好ましい導電性微粉末は、平均粒径が0.2μm以下のITO微粉末である。 【0031】 [非ポリマー系膜形成剤] 一般に、バインダーを使用せずに粉末を塗料化しても、粉末間および粉末と基体間の付着力がほとんどないため、膜を形成することはできない。しかし、本発明者等は、或る種の非ポリマー系有機化合物が、導電性微粉末間およびこれと基体間を結合させ、膜形成剤として有効に機能することを見出した。 【0032】 現在までに膜形成剤として機能することが見出されている非ポリマー系有機化合物は、2-アルコキシエタノール、β-ジケトン、およびアルキルアセテート(即ち、酢酸アルキルエステル)である。しかし、本発明の方法で使用する膜形成剤はこれらに限定されるものではなく、導電性微粉末を結合することのできるものであれば、あらゆる非ポリマー系有機化合物を膜形成剤として使用することができる。 【0033】 本発明で膜形成剤として使用できる化合物の具体例を次に例示する。2-アルコキシエタノールとしては、2-エトキシエタノール、2-(メトキシエトキシ)エタノール、2-(n,iso-)プロポキシエタノール、2-(n,iso-,tert-)ブトキシエタノール、2-ペンチルオキシエタノール、2-ヘキシルオキシエタノール等が挙げられる。β-ジケトンの例には、2,4-ペンタンジオン、3-メチル-2,4-ペンタンジオン、3-イソプロピル-2,4-ペンタンジオン、2,2-ジメチル-3,5-ヘキサンジオン等がある。アルキルアセテートの例には、メチルアセテート、エチルアセテート、(n,iso-)プロピルアセテート、(n,iso-,tert-)ブチルアセテート、ペンチルアセテート、ヘキシルアセテート等がある。 【0034】 [低ヘーズ化・膜補強剤] 第1工程で使用する透明導電膜形成用組成物は、任意成分として、アセトアルコキシ基を含有するアルミネート系カップリング剤、ならびにジアルキルパイロホスフェート基もしくはジアルキルホスファイト基を含有するチタネート系カップリング剤から選ばれた低ヘーズ化・膜補強剤をさらに含有してもよい。この種のカップリング剤は、膜のヘーズと膜強度を改善するので、特に低ヘーズ化および/または膜強度の増大を図りたい場合に、少量を添加することができる。 【0035】 アセトアルコキシ基を含有するアルミネート系カップリング剤の例としては、下記(1)式で示される化合物がある。また、ジアルキルパイロホスフェート基を有するチタネート系カップリング剤の例には、下記(2)〜(4)式で示される化合物があり、ジアルキルホスファイト基を有するチタネート系カップリング剤の例には、下記(5)〜(7)式で示される化合物がある。 【0036】 【化1】 ![]() 【0037】 [低抵抗化剤] 第1工程で使用する透明導電膜形成用組成物には、別の任意成分として、Co、Fe、In、Ni、Pb、Sn、Ti、およびZnの鉱酸塩および有機酸塩から選ばれた金属塩を低抵抗化剤として添加することができる。鉱酸塩の例は、塩酸塩、硫酸塩、硝塩などであり、有機酸塩の例は、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、オクチル酸塩、アセチル酢酸塩、ナフテン酸塩、安息香酸塩などである。これらはイオン性化合物であり、膜の導電性向上に寄与する。 【0038】 [溶媒] 溶媒としては、上記導電性微粉末以外の成分を溶解することのできる(あるいは、液体成分については、これと相溶性を有する)任意の有機溶媒を使用できる。但し、本発明において膜形成剤として使用する成分は、有機溶媒から除外される。 【0039】 使用可能な有機溶媒の例には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン等のケトン類、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類などが挙げられ、使用する成分に応じて、それらを溶解するよう1種もしくは2種以上の溶媒を選択する。 【0040】 [透明導電膜形成用組成物の調製] 第1工程で用いる透明導電膜形成組成物は、導電性微粉末がそれ以外の成分からなる溶液中に分散した分散液を生ずるように、上記各成分を混合することにより調製する。各成分はいずれも1種または2種以上を使用することができる。得られた組成物は、pHが2.0〜7.0の範囲内であることが好ましい。各成分の配合量は、導電性微粉末に対する重量%で、膜形成剤の2-アルコキシエタノールが10〜900%、β-ジケトンが0.2〜500%、アルキルアセテートが0.2〜500%、低ヘーズ化・膜補強剤が5%以下、低抵抗化剤が0.2〜15%である。組成物のpHおよび各成分の添加量がこの範囲外であると、目的とする低ヘーズおよび低抵抗化を確保できないことがある。 【0041】 好ましくは、組成物のpHが6.5〜3.0の範囲内であり、各成分の添加量は、2-アルコキシエタノールが15〜200%、β-ジケトンが0.4〜100%、アルキルアセテートが0.4〜100%、低ヘーズ化・膜補強剤が3.5%以下、低抵抗化剤が0.5〜10%である。 溶媒の量は、塗布に適した粘度の組成物が得られるような量であればよく、特に制限されない。 【0042】 本発明で用いる透明導電膜形成用組成物には、所望により、上記以外の添加成分(ただし、バインダーを除く)をさらに添加することもできる。このような添加成分の例には、pH調整剤(有機酸または無機酸、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、オクチル酸、塩酸、硝酸、過塩素酸等)がある。 【0043】 第2工程の使用材料 [ポリマー系バインダー] 第2工程では、ポリマー系バインダーを含有する粘度25cps以下の液体を含浸に用いる。 ポリマー系バインダーとしては、従来より透明導電性塗料にバインダーとして用いられてきた各種の有機および無機ポリマーならびに重合性の反応型モノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種もしくは2種以上の材料を使用することができる。後述するように、バインダーの種類によって膜特性(電気、光学、機械特性)が変化するので、用途に応じて適当なバインダーの種類を選択する。例えば、有機ポリマー、特に熱可塑性ポリマーは、可撓性の高い膜を生ずる。一方、熱または紫外線硬化性の有機ポリマー、ならびに無機ポリマーは、硬い膜を生成する。 【0044】 バインダーとして用いる有機ポリマーは、炭素骨格に結合した極性官能基を有するものが好ましい。極性官能基としては、カルボキシル基、エステル基、ケトン基、ニトリル基、アミノ基、燐酸基、スルホニル基、スルホン酸基、ポリアルキレングリコール基、およびアルコール性水酸基などが例示される。バインダーとして有用なポリマーの例には、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリウレタン、アクリルウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、およびセルロースなどがある。また、無機ポリマーの例には、テトラアルコキシシラン(=アルキルシリケート)の加水分解・縮合により生成するシリカゾル(=シロキサン系ポリマー)がある。 【0045】 重合性の有機モノマーもしくはオリゴマーの例には、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、グリシジルアクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸アタリレート、ウレタンアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリブタジエンアクリレート、ポリエステルアクリレートなどで代表されるアクリレートおよびメタクリレート型のモノマーおよびオリゴマー;モノ(2-メタクロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、ビニルトルエンなどの他のビニルモノマー;ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのエポキシド化合物、などがある。 【0046】 重合性の無機モノマーの例は、Si、Ti、Zr、Al、Sn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pb、Ag、In、Sb、Pt、Auなどの金属の鉱酸塩、有機酸塩、アルコキシド、および錯体(キレート)である。これらは加水分解または熱分解を経て重合し、最終的に無機物(金属酸化物、水酸化物、炭化物、金属など)になるので、本発明では無機モノマーとして扱う。これらの無機モノマーは、その部分加水分解物の状態で使用することもできる。次に各金属化合物の具体例を例示するが、これらに限定されるものではない。 【0047】 使用可能なケイ素化合物としては、テトラエトキシシラン、メチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン;メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、フェニルトリクロロシランなどのクロロシラン;さらにはtert-ブチルジメチルクロロシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)ウレア、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-クリシドキシメチルジエトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどの他の有機ケイ素化合物がある。 【0048】 チタン化合物しては、チタニウムテトライソプロポキシド、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタン、テトラステアロキシチタン、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、ジ-n-ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジヒドロキシ・ビス(ラクタト)チタン、チタン-i-プロポキシオクチレングリコレート、チタニウムステアレートなどが使用できる。 【0049】 ジルコニウム化合物の例には、ジルコニウムテトライソブトキシドなどのアルコキシドがある。アルミニウム化合物の例には、アルミニウムイソプロポキシド、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなどがある。錫化合物の例は、ジ-n-ブトキシ錫、テトライソアミロキシ錫などである。 【0050】 その他の金属(Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pb、Ag、In、Sb、Pt、Au)についても、硝酸塩(例、硝酸インジウム)、塩化物(例、塩化亜鉛)などの鉱酸塩、カルボン酸塩(例、オクチル酸インジウム)などの有機酸塩、さらにはアセチルアセトネート、エチレンジアミンなどのキレート化剤との錯体などの形態で、無機モノマーとして使用できる。 【0051】 好ましいポリマー系バインダーは無機系のものである。即ち、無機ポリマーであるテトラアルコキシシランの加水分解・縮合生成物か、或いは無機モノマーであるSi、Ti、Zr、Al、Sn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pb、Ag、In、Sb、Pt、およびAuの鉱酸塩、有機酸塩、アルコキシド、もしくは錯体、またはそれらの部分加水分解物が好ましい。中でも、無機モノマー、特にIn、Zn、Co、Sb、Ag、Pbの各金属の化合物をポリマー系バインダーとして使用した時に、非常に低抵抗の透明導電膜を形成することができる。 【0052】 [含浸用液体] 上記のポリマー系バインダー(ポリマー、モノマーまたはオリゴマー)の1種または2種以上を必要により有機溶媒で溶解または希釈して、粘度が25cps以下、好ましくは10cps以下の液体を調製し、第1工程で形成された塗膜の含浸に使用する。この液体の粘度が25cpsより高いと、塗膜含浸時に、基体に達するように塗膜内部に十分に液体が浸透せず、目的とする密着性および膜強度の向上効果を得ることができない。また、液体が高粘度であると、過剰の液体が第1工程で形成された塗膜の上に堆積して、導電性微粉末を含有しない絶縁性の層を形成するので、導電性が著しく低下する。 【0053】 溶解または希釈に用いる有機溶媒は特に制限されず、第1工程に関して例示したような各種の有機溶媒のほかに、第1工程で膜形成剤として使用する液状有機化合物、および水も溶媒として使用可能である。 【0054】 この含浸用液体には、必要により、硬化触媒(熱硬化の場合)、光重合開始剤(紫外線硬化の場合)、架橋剤、加水分解触媒(例、酸)、界面活性剤、pH調整剤などを添加することができる。 【0055】 透明導電膜の形成方法 本発明の方法によれば、上記のポリマー系バインダーを含まない透明導電膜形成用組成物を基体に塗布する第1工程と、この工程で得られた塗膜にポリマー系バインダーを含有する粘度25cps以下の液体を含浸させ、塗膜を乾燥または硬化させる第2工程を実施することにより、基体上に透明導電膜を形成する。 【0056】 第1工程における透明導電膜形成用組成物の塗布は、スプレー、浸漬、バーコート、ロールコート、フローコート、スピンコートなどの一般的に行われる任意の塗布法を採用して行うことができる。この塗布により形成する塗膜の厚みは、乾燥膜厚で好ましくは0.02〜1μm、より好ましくは0.05〜0.5μmである。膜厚が1μm以上になると、第2工程でバインダー含有液体が基体まで浸透しにくくなり、密着性が不十分となることがある。 【0057】 塗布後、必要により放置あるいは加熱・焼付けにより溶媒を除去し、塗膜を乾燥させる。それにより、導電性微粉末が膜形成剤で結合した塗膜が得られる。焼付けを行う場合、加熱温度は80〜500℃の範囲内が好ましく、雰囲気は特に制限されず、大気中、不活性雰囲気、還元性雰囲気のいずれでもよい。また、塗布後の焼付けに代えて、または焼付けに併用して、塗膜に紫外線を照射してもよい。紫外線照射により、塗膜中の導電性微粉末間の接触界面に見られる残留物が分解され、膜特性が一層向上する。 【0058】 第2工程におけるポリマー系バインダー含有液体の含浸も、やはり上記のような塗布法によって行うことができる。含浸用の液体が低粘度で、膜厚が薄いので、スピンコートのような接触時間の短い塗布法で含浸を行っても、含浸用液体を基体に達するように塗膜中に浸透させることができる。含浸用液体は、塗膜全体が含浸されるように過剰に使用する。含浸用液体が低粘度であるため、含浸されなかった余分な液体は塗膜から容易に除去され、塗膜上部に残留する含浸用液体は、あってもごく薄膜である。従って、塗布作業を2回行うが、最終的に得られる塗膜は実質的に1層である。 【0059】 第2工程における塗膜の乾燥または硬化は、使用したポリマー系バインダーの種類に応じて、放置(風乾)、焼付け、紫外線照射のいずれか、またはこれらの併用によって行うことができる。焼付け条件(温度および雰囲気)はバインダーの種類に応じて適当に選択する。一般に焼付け温度は700℃以下、好ましくは80〜500℃である。基体がプラスチックのように耐熱性が比較的低い材料である場合には、必要な焼付け温度を考慮して、第2工程で用いるバインダーの種類を選択する必要がある。焼付け雰囲気は、大気、不活性雰囲気、還元性雰囲気のいずれでもよい。 【0060】 本発明の方法により得られる透明導電膜は、一般に1%未満、好ましくは0.5%未満のヘーズ、105Ω/□台以下、好ましくは101〜104Ω/□台の表面抵抗を有し、導電性微粉末間およびこの微粉末と基体との密着性が向上したため、膜の密着性および強度が高く、耐擦傷性に優れている。なお、透明導電膜の導電性は焼付け雰囲気によって変動し、雰囲気が不活性または還元性雰囲気、特に水素または一酸化炭素を含有する還元性雰囲気であると、導電性が一層向上する。 【0061】 本発明の方法で形成された透明導電膜は、基体との密着性および膜強度が十分に高いので、オーバーコートを施さずにそのままで各種用途に使用できるが、所望により、オーバーコートでさらに被覆してもよい。ただし、オーバーコートが絶縁性の膜である場合には、導電性の低下を防ぐために、オーバーコートは可及的に薄膜とすることが好ましい。適当なオーバーコートは、アルコキシシランなどの加水分解により形成したシリカ膜である。 【0062】 【作用】 従来の透明導電性塗料では、前述したように、導電性微粉末の分散により各粉末粒子が絶縁体であるバインダーで被覆される結果、導電性が低下し、低ヘーズと密着性を確保したまま低抵抗化することが困難であった。 【0063】 これに対し、本発明の方法によれば、第1工程で導電性微粉末を非ポリマー系膜形成剤を用いて塗料化し、基体に塗布する。こうして形成された塗膜は、バインダーが存在しないため、絶縁体が介在せずに導電性微粉末の各粒子が直接接触した塗膜構造を有している。膜形成剤が導電性微粉末の表面に多少は吸着されるにしても、その吸着は強くなく、粉末粒子の直接接触を妨げるほどではない。そして、第2工程で導電性微粉末間の隙間にバインダーが含浸される。このバインダーを非常に低粘度の液体状で使用するため、バインダーは容易に基体に到達し、導電性微粉末を基体と一体化して、密着性のある膜が得られる。バインダーが硬化すると、そのバインダーの体積収縮(内部応力)により、導電性微粉末間の接触圧力が一層高くなり、理想的な電子移動が発現するため、優れた導電性を発揮することができるものと推定される。 【0064】 [用途例] 本発明の方法で形成された透明導電膜は、OA機器のディスプレー(CRT、液晶ディスプレーなど)やTVブラウン管の画像表面の帯電防止および電磁波シールド用に好適である。この場合、第1工程で使用する透明導電膜形成用組成物は、必須成分である導電性微粉末、溶媒、および非ポリマー系膜形成剤に加えて、低ヘーズ化・膜補強剤を含有するものが好ましい。この組成物をスプレー、スピンコート、浸漬などの方法で塗布した後、第2工程において、例えば、テトラエトキシシランを加水分解・縮合させて得た、10cps以下の低粘度のシリカ(シロキサン系ポリマー)含有アルコール溶液を同様の方法で塗布して、この液体を塗膜中に含浸させ、次いで80〜250℃程度の比較的低温で焼付けを行うと、ヘーズが0.5%以下、表面抵抗が103Ω/□台の密着性に優れた透明導電膜がディスプレーまたはブラウン管表面に形成される。焼付けは大気中で十分であるが、還元性雰囲気で焼付けを行うと、0.1μm程度の薄膜でも安定して103Ω/□台の低抵抗化を実現することができる。 【0065】 また、この透明導電膜形成用組成物を基体に塗布した後、In、Zn、Co、Sb、Ag、Pbなどの金属化合物(無機モノマー)の低粘度溶液を含浸させ、300℃以上の高温で焼付けを行うと、101Ω/□台の非常に低抵抗で、かつ密着性に優れた透明導電膜が得られる。 【0066】 本発明の方法で形成された透明導電膜は、タッチパネルや各種ディスプレイ装置の透明電極、透明面発熱体としても使用できる。可撓性が要求されるような用途(例、タッチパネル)では、含浸に用いるバインダーとして有機バインダーを使用することが好ましい。 【0067】 本発明の方法で形成された透明導電膜は、その導電性を生かした用途以外に、導電性微粉末が有する他の特性を生かした用途にも使用できる。例えば、使用する導電性微粉末が近赤外線をカットオフする機能を有するITO微粉末または近紫外線をカットオフする機能を有する酸化亜鉛系微粉末である場合には、それぞれ可視光に対して低ヘーズで高透明性を保持し、密着性にも優れた近赤外線カットオフ膜または近赤外線カットオフ膜として有用である。この場合も、従来の塗料から形成した膜に比べて、カットオフ効果の高い透明膜が得られる。 【0068】 【実施例】 [透明導電膜形成用組成物の調製] 表1に組成をまとめて示すように、下記の成分(表1には< >内の番号または記号で記載)を使用して、透明導電膜形成組成物を調製した。これらの成分を表1に示す配合比となるように、合計量を60gとして100ccガラス瓶中に入れ、直径0.3mmのジルコニアビーズ(ミクロハイカ、昭和シェル石油製)100gを用いてペイントシェーカーで6時間分散することにより、各透明導電膜形成用組成物を得た。 【0069】 溶媒 (1)イソプロパノール<IPA> (2)イソプロパノール/エタノール/N,N-ジメチルホルムアミドの混合溶媒 (重量比10:10:1)<混合1> (3)イソホロン/キシレンの混合溶媒(重量比4:1)<混合2> (4)トルエン<T> 導電性微粉末(いずれも平均粒径0.02μm) (1)Sn:5原子%を含有する酸化インジウム微粉末<ITO> (2)Sb:10原子%を含有する酸化錫微粉末<ATO> (3)Al:5原子%を含有する酸化亜鉛微粉末<AZO> (4)Fe:2原子%とAl:1原子%とを含有する酸化亜鉛微粉末<F-AZO> (5)In:4原子%を含有する酸化亜鉛微粉末<IZO> (6)Sn:3原子%を含有する酸化亜鉛微粉末<TZO> 非ポリマー系膜形成剤 (1)2-エトキシエタノール/2,4-ペンタンジオン混合液(重量比6:1)<a> (2)2-イソプロポキシエタノール/2,4-ペンタンジオン/エチルアセテート混合液(重量比6:1:2)<b> (3)2,4-ペンタンジオン<c> 低ヘーズ化・膜補強剤 前記の式(1)〜(7)で示されるアルミニウム系またはチタネート系カップリング剤 <(1)〜(7)> [バインダー含有含浸用液体の調製] 下記のポリマー系バインダー成分と上記の溶媒(表1にはいずれも< >内の番号または記号で記載)の1種づつを表1に示す配合比で混合して、バインダーを含有する含浸用液体を調製した。この液体のE型粘度計(形式ELD:トキメック製)により測定した室温での粘度を表1に示す。 【0070】 ポリマー型バインダー (1)テトラエトキシシランの加水分解・縮合により得たシロキサン系ポリマー (SiO2換算固形分20重量%)<P-1> 調製方法:500mLの4ツ口フラスコに水冷コンデンサー、攪拌プロペラ、およびマントルヒーターを取付け、テトラエトキシシラン(コルコート製)385gとエタノール/イソプロパノール混合溶媒(重量比2:1)105gとを加え、180rpmでの攪拌下、濃塩酸1gを含有するイオン交換水650gを滴下し、60℃で1時間反応させた。 【0071】 (2)アクリル樹脂溶液(固形分38重量%:LR980、三菱レーヨン製)<P-2> モノマー型バインダー (1)テトラエトキシシラン<M-1> (2)テトラエトキシシラン/アルミニウムイソプロポキシドとジルコニウムイソブトキシドの混合物(重量比10:2:1)くM-2> (3)モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート/2-エチルヘキシルメタアクリレート/グリセリンジグリシジルエーテル/メチルエチルケトンパーオキサイドの混合物(重量比4:20:6:1)<M-3> (4)モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート/2-エチルヘキシルメタアクリレート/ベンジルジメチルケタールの混合物 (重量比8:40:1)<M-4> (5)酢酸鉛<M-5> (6)硝酸インジウム<M-6> (7)オクチル酸亜鉛<M-7> (8)ナフテン酸コバルト<M-8> [従来の透明導電塗料] (1)<透明導電性塗料A> 導電性微粉末として前記<ITO>7g、溶媒として前記<混合2>49.75g、およびバインダーとして前記<P-2>3.25g(合計量60g)を100ccのガラス瓶中に入れ、直径0.3mmのジルコニアビーズ100gを用いてペイントシェーカーで4時間分散させた。 【0072】 (2)<透明導電塗料B> 導電性微粉末として前記<ATO>7g、溶媒として前記 <IPA>49.75g、およびバインダーとして前記<P-1>5g(合計量48g)を100ccのガラス瓶中に入れ、直径0.3mmのジルコニアビーズ100gを用いてペイントシェーカーで6時間分散した。 【0073】 [透明導電膜の作製] ガラス板(長さ75mm×幅55mm×厚さ2mm、可視光透過率91%、ヘーズ0.0%)に、透明導電膜形成用組成物▲1▼および含浸用バインダー含有液体▲2▼を、下記のいずれかの成膜方法を使用して室温で順に塗布した後、下記のいずれかの硬化条件で焼付けまたは紫外線照射により膜を硬化させ、透明導電膜を形成した。 【0074】 成膜条件 (1)▲1▼をスピンコート/▲2▼をスピンコート/硬化<成膜1> (2)▲1▼をスピンコート/10%H2+N2の還元性雰囲気中200℃、5分間の焼付け/▲2▼をスピンコート/硬化<成膜2> (3)▲1▼を浸漬塗布/▲2▼を浸漬塗布/硬化<成膜3> (4)▲1▼をスピンコート/硬化<成膜4> (5)▲1▼をバーコート/硬化<成膜5> なお、(2)以外は、▲1▼の塗布後に塗膜の乾燥のために放置(例、1〜3分間)してから、▲2▼を塗布した。 【0075】 硬化条件 (1)大気中100℃、30分の焼付け<硬化1> (2)大気中160℃、30分の焼付け<硬化2> (3)大気中350℃、30分の焼付け<硬化3> (4)大気中550℃、30分の焼付け<硬化4> (5)10%H2+N2の還元性ガス雰囲気中160℃、30分の焼付け<硬化5> (6)不活性(N2)ガス雰囲気中250℃、30分の焼付け<硬化6> (7)不活性(N2)ガス雰囲気中650℃、30分の焼付け<硬化7> (8)大気中室温で高圧水銀灯にて600mJ/cm2の紫外線照射<硬化8> (9)5%H2+N2の還元性ガス雰囲気中450℃、30分の焼付け<硬化9> 得られた各透明導電膜の膜厚をSEM(断面)により、表面抵抗値を四探針法(ロレスタAP:三菱油化製)により、ヘーズをヘーズメーター(HGM-3D:スガ試験機製)により、密着性を基盤目クロスカット試験(1mm×1mm、テープ剥離後に残留した枡目(総数100)の数で示す)により測定した。測定結果も表1に併せて示す。 【0076】 なお、参考のために、図1(イ)に最初の透明導電膜形成用組成物の塗布後の乾燥塗膜のSEM写真を、図1(ロ)に2回目のバインダー液塗布後の塗膜のSEM写真をそれぞれ示す。図1(イ)から、最初の塗布後に、導電性微粉末が高密度に充填され、微粉末どうしが互いに直接接触した塗膜が形成されることがわかる。また、図1(ロ)から、2回目の塗布によって、最初の塗布で形成された塗膜の空隙中にバインダーが浸透し、基板にまで到達していることがわかる。しかも、表面にバインダーのみからなる層が生成せず、実質的に1層の透明導電膜になっている。 【0077】 【表1】 ![]() 【0078】 【発明の効果】 本発明の方法により、バインダーを含有する従来の透明導電性塗料の塗布・硬化によって得られる膜に比べて、低ヘーズかつ低抵抗で、しかも密着性にも優れた透明導電膜を形成することができる。具体的には、ヘーズが1%以下、好ましくは0.5%以下、表面抵抗が105Ω/□台以下、好ましくは101〜104Ω/□台、密着性(碁盤目試験結果)が50/100以上、好ましくは100/100の透明導電膜が形成された。また、低ヘーズ化・膜補強剤の配合の有無や硬化条件の調整により、同じ基本組成の組成物を利用して特に表面抵抗値を大きく変化させることができ、このような調整により、用途に応じた要求特性を満たす透明導電膜を提供できる。 【0079】 特に、第1工程で使用する透明導電膜形成用組成物に低ヘーズ化・膜補強剤を添加し、第2工程での含浸に用いるバインダーとしてテトラアルコキシシランを加水分解縮合して得たシロキサン系ポリマーを用い、焼付けを比較的低温(250℃以下)で行うか、或いはIn、Zn、Co、Sb、Ag、Pbなどの金属の化合物を用いて高温で焼付けを行うと、101〜103Ω/□台の非常に低抵抗で、OA機器ディスプレイおよびTVブラウン管の電磁波シールド膜に要求される性能を満たした透明導電膜を得ることができる。 【0080】 本発明によれば、塗布法という簡便かつ効率的な方法を利用して、従来の塗布法では得ることのできなかった、ブラウン管等の電磁波シールド用に使用可能な高性能の透明導電膜を安価に形成することが可能となる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 図1(イ)は、本発明の方法により、ポリマー系バインダーを含有しない透明導電膜形成用組成物を基板に塗布した後の乾燥塗膜の走査式電子顕微鏡(SEM)写真、図1(ロ)は、さらに2回目の塗布によりバインダーを含浸させ、膜を硬化させた後のSEM写真である。 |
訂正の要旨 |
訂正事項 (i)請求項1に「組成物」とあるのを「組成物(ただし、導電性微粉末を分散させる界面活性剤を含有する場合を除く)」と訂正する。 (ii)段落0042に「界面活性剤(カチオン系、アニオン系、ノニオン系)、pH調整剤」とあるのを「pH調整剤」と訂正する。 |
異議決定日 | 2001-12-26 |
出願番号 | 特願平6-237311 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(H01B)
P 1 651・ 121- YA (H01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 高木 正博 |
特許庁審判長 |
小野 秀幸 |
特許庁審判官 |
綿谷 晶廣 柿澤 惠子 |
登録日 | 2000-11-17 |
登録番号 | 特許第3129110号(P3129110) |
権利者 | 三菱マテリアル株式会社 |
発明の名称 | 透明導電膜およびその形成方法 |
代理人 | 広瀬 章一 |
代理人 | 広瀬 章一 |
代理人 | 大滝 均 |