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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07H
管理番号 1058159
異議申立番号 異議2000-71346  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-08-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-04-04 
確定日 2002-02-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2956504号「蔗糖脂肪酸エステルの製造方法」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2956504号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2956504号発明は、平成6年12月16日の出願であって、平成11年7月23日にその特許権の設定登録がなされ、その後、第一工業製薬株式会社より特許異議の申し立てがなされ、当審により取り消し理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年9月26日に訂正請求(後日取下げ)がなされた後、再度の取り消し理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年1月24日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
訂正事項a
特許請求の範囲における請求項1を、「アルカリ触媒の存在下、ジメチルスルホキシドを反応溶媒として蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとを反応させて得た反応混合物から蔗糖脂肪酸エステルを取得する方法において、反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を超えている場合には、含有率が40重量%以下になるように調整したのち、(1)反応混合物を炭素数4以上のアルコールまたはケトンからなる水難混和性有機溶媒と水を抽剤として用い、水相pH3〜7.5の条件下で第一の液液抽出を行なうことにより、反応混合物中のジメチルスルホキシドを水相に、蔗糖脂肪酸エステルを有機溶媒相に抽出し、(2)次に第一の液液抽出工程で得られた蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を水で連続向流式抽出する第二の液液抽出を行うことにより、有機溶媒溶液中に残留するジメチルスルホキシドを水相に抽出し、ジメチルスルホキシドを殆ど含まない有機溶媒溶液を取得し、(3)この有機溶媒溶液から蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。」から、「アルカリ触媒の存在下、ジメチルスルホキシドを反応溶媒として蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとを反応させて得た反応混合物から蔗糖脂肪酸エステルを取得する方法において、反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を超えている場合には、含有率が40重量%以下になるように調整したのち、(1)反応混合物を炭素数4以上のアルコールまたはケトンからなる水難混和性有機溶媒と水を抽剤として用い、水相pH3〜7.5の条件下で第一の液液抽出を行なうことにより、反応混合物中のジメチルスルホキシドを水相に、蔗糖脂肪酸エステルを有機溶媒相に抽出し、(2)次に第一の液液抽出工程で得られた蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を、回転円板式抽出塔で回転数5〜50r.p.mにて、水で連続向流式抽出する第二の液液抽出を行うことにより、有機溶媒溶液中に残留するジメチルスルホキシドを水相に抽出し、ジメチルスルホキシドを殆ど含まない有機溶媒溶液を取得し、(3)この有機溶媒溶液から、蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。」に訂正する。
訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2を、「アルカリ触媒の存在下、ジメチルスルホキシドを反応溶媒として蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとを反応させて得た反応混合物から蔗糖脂肪酸エステルを取得する方法において、反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を超えている場合には、含有率が40重量%以下になるように調整したのち、(1)反応混合物を炭素数4以上のアルコールまたはケトンからなる水難混和性有機溶媒と水を抽剤として用い、水相pH3〜7.5の条件下で第一の液液抽出を行なうことにより、反応混合物中のジメチルスルホキシドを水相に、蔗糖脂肪酸エステルを有機溶媒相に抽出し、(2)次に第一の液液抽出工程で得られた蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を水で連続向流式抽出する第二の液液抽出を行うことにより、有機溶媒溶液中に残留するジメチルスルホキシドを水相に抽出し、ジメチルスルホキシドを殆ど含まない有機溶媒溶液を取得し、(3)水溶液は第一の液液抽出の工程に循環して抽剤の水として用い、有機溶媒溶液からは蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。」から、「アルカリ触媒の存在下、ジメチルスルホキシドを反応溶媒として蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとを反応させて得た反応混合物から蔗糖脂肪酸エステルを取得する方法において、反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を超えている場合には、含有率が40重量%以下になるように調整したのち、(1)反応混合物を炭素数4以上のアルコールまたはケトンからなる水難混和性有機溶媒と水を抽剤として用い、水相pH3〜7.5の条件下で第一の液液抽出を行なうことにより、反応混合物中のジメチルスルホキシドを水相に、蔗糖脂肪酸エステルを有機溶媒相に抽出し、(2)次に第一の液液抽出工程で得られた蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を、回転円板式抽出塔で回転数5〜50r.p.mにて、水で連続向流式抽出する第二の液液抽出を行うことにより、有機溶媒溶液中に残留するジメチルスルホキシドを水相に抽出し、ジメチルスルホキシドを殆ど含まない有機溶媒溶液を取得し、(3)水溶液は第一の液液抽出の工程に循環して抽剤の水として用い、有機溶媒溶液からは、蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。」に訂正する。
訂正事項c
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
訂正事項d
特許請求の範囲の請求項6を請求項5とし、「第二の液液抽出で得られた有機溶媒溶液から、蒸留により有機溶媒を除いて蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。」から、「第二の液液抽出で得られた有機溶媒溶液から、蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下であり、蔗糖含有率が0.1重量%以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。」に訂正する。
訂正事項e
特許請求の範囲の請求項7を削除し、以降の請求項を順次繰り上げ、請求項8、9、10、11及び12を、それぞれ請求項6、7、8、9及び10と訂正する。
イ.訂正の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記の訂正事項a及びbは、請求項1及び2における「蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を水で連続向流式抽出する」という記載を「蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を、回転円板式抽出塔で回転数5〜50r.p.m.にて、水で連続向流式抽出する」と訂正し、かつ「この有機溶媒溶液から蔗糖脂肪酸エステルを取得する」という記載を「この有機溶媒溶液から、蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得する」と訂正するものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項cは請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項dは請求項6を請求項5とし、訂正前の請求項6における「蒸留により有機溶媒を除いて蔗糖脂肪酸エステルを取得する」という記載を「蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下であり、蔗糖含有率が0.1重量%以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得する」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項eは、請求項7を削除する点は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項8〜12を繰り上げて、それぞれ請求項6〜10と訂正することは、訂正前の請求項5及び7を削除したことに伴うものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記の訂正事項は、特許明細書に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
ウ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立てについて
ア.本件発明
特許第2956504号の請求項1〜10に係る発明は、訂正明細書の請求項1〜10に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】アルカリ触媒の存在下、ジメチルスルホキシドを反応溶媒として蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとを反応させて得た反応混合物から蔗糖脂肪酸エステルを取得する方法において、反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を超えている場合には、含有率が40重量%以下になるように調整したのち、(1)反応混合物を炭素数4以上のアルコールまたはケトンからなる水難混和性有機溶媒と水を抽剤として用い、水相pH3〜7.5の条件下で第一の液液抽出を行なうことにより、反応混合物中のジメチルスルホキシドを水相に、蔗糖脂肪酸エステルを有機溶媒相に抽出し、(2)次に第一の液液抽出工程で得られた蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を、回転円板式抽出塔で回転数5〜50r.p.mにて、水で連続向流式抽出する第二の液液抽出を行うことにより、有機溶媒溶液中に残留するジメチルスルホキシドを水相に抽出し、ジメチルスルホキシドを殆ど含まない有機溶媒溶液を取得し、(3)この有機溶媒溶液から、蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】アルカリ触媒の存在下、ジメチルスルホキシドを反応溶媒として蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとを反応させて得た反応混合物から蔗糖脂肪酸エステルを取得する方法において、反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を超えている場合には、含有率が40重量%以下になるように調整したのち、(1)反応混合物を炭素数4以上のアルコールまたはケトンからなる水難混和性有機溶媒と水を抽剤として用い、水相pH3〜7.5の条件下で第一の液液抽出を行なうことにより、反応混合物中のジメチルスルホキシドを水相に、蔗糖脂肪酸エステルを有機溶媒相に抽出し、(2)次に第一の液液抽出工程で得られた蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を、回転円板式抽出塔で回転数5〜50r.p.mにて、水で連続向流式抽出する第二の液液抽出を行うことにより、有機溶媒溶液中に残留するジメチルスルホキシドを水相に抽出し、ジメチルスルホキシドを殆ど含まない有機溶媒溶液を取得し、(3)水溶液は第一の液液抽出の工程に循環して抽剤の水として用い、有機溶媒溶液からは、蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項3】反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を越えている場合に、含有率を12〜40重量%に調節することを特徴とする請求項1又は2に記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項4】第二の液液抽出を、得られる有機溶媒溶液中のジメチルスルホキシドの濃度が5ppm以下となるように行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項5】第二の液液抽出で得られた有機溶媒溶液から、蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下であり、蔗糖含有率が0.1重量%以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項6】水難混和性有機溶媒がn-ブタノール及び/又はイソブタノールであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項7】第二の液液抽出をpH3〜6.5の水を用いて行うことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項8】液液抽出を塩析剤の存在下に行うことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項9】第一の液液抽出を、有機溶媒1重量部に対して0.5〜2重量部の水を用いて行うことを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項10】原料の脂肪酸アルキルエステルが、炭素数6〜30の飽和又は不飽和脂肪酸の炭素数1〜4のアルキルエステルであることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。」
イ.申立の理由の概要
特許異議申立人第一工業製薬株式会社(以下、単に「申立人」という。)は、証拠として甲第1号証(特開昭51-29417号公報)、甲第2号証(特開昭50-130712号公報)、甲第3号証(特開平4-243890号公報)、甲第4号証(特開平1-290690号公報)、甲第5号証(藤田重文ら監修「化学工学シリーズ別冊 単位操作演習」、科学技術社、昭和42年5月15日第8刷発行)、甲第6号証(石油学会編「石油化学プロセス 4 成分分離」、朝倉書店、昭和39年6月1日初版発行)及び甲第7号証(別冊化学工業 Vol.10 No.1 化学装置設計要覧」、株式会社化学工業社、昭和41年5月15日発行)を提出し、本件請求項1〜12に係る発明は、甲第1号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたのであり、特許を取り消すべき旨主張する。
ウ.申立人が提出した甲号証記載の発明
ウー1.申立人が提出した甲第1号証には、以下の記載がある。
(ウ-1-1)「アルカリの存在下、ジメチルスルホキシドおよび/またはN,N-ジメチルホルムアミドを反応溶媒として、蔗糖と脂肪酸エステルを反応させて蔗糖脂肪酸エステルを製造する方法において、上記溶媒を含んだ反応混合液をリン酸または蟻酸を用いて中和した後、水および水と2液層を形成する有機溶媒と接触させて、反応混合液中の未反応蔗糖を水相中に、蔗糖脂肪酸エステルを有機溶媒相中にそれぞれ液-液抽出し、水相中の未反応蔗糖を反応系に循環することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステルの製造法。」(特許請求の範囲)
(ウ-1-2)「SEは・・・従来その製造法としてN,N-ジメチルホルムアミド(以下DMFと略記する)、ジメチルスルホキシド(以下DMSOと略記する)等の溶媒中で蔗糖と脂肪酸メチルのような脂肪酸エステルとのエステル交換反応による方法(特公昭35-13102)が知られているが、かかる方法でSEを製造する場合には、触媒として用いたアルカリを中和(不活性化)する必要がある。
この中和処理を省略すると、その後の濃縮、抽出等の工程で蔗糖モノ脂肪酸エステル(以下モノエステルと略記する)が減少したり、SEの加水分解を助長する等の好ましくない結果を招く。」(公報第1頁右下欄2〜17行)
(ウ-1-3)「本発明の反応方法としては、一般にDMSOもしくはDMFを反応溶媒とする公知の各種の態様を場合に応じて選択すればよい。例えば触媒のアルカリとしては、炭酸力リ、苛性力リ等が最も一般的に使用されているが、特にこれに限らず、場合に応じて他のアルカリを採用しても良く、また原料の脂肪酸エステルは、製品として所望するSEの種類によって通常炭素数が6〜22程度の飽和もしくは不飽和の高級脂肪酸とメタノール等の低級アルコールとのエステルの広い範囲から具体的な種類を選択することができ」(公報第2頁左下欄14行〜右下欄5行)
(ウ-1-4)「反応混合液中のアルカリは中和する必要がある。この中和を省略すると以後の分離循環工程でSEの分解が促進される等不都合が生じる。」(公報第2頁右下欄15〜17行)
(ウ-1-5)「反応後の中和剤としてのリン酸または蟻酸の使用量は、一般に触媒として用いたアルカリの中和当量付近を用いればよい」
(公報第3頁左上欄19行〜右上欄1行)
(ウー1-6)「中和処理を施した反応混合物は必要に応じて反応溶媒の1部を留去した後、下記の溶媒を用いて液-液抽出によって未反応蔗糖とSEを分別抽出し、有機溶媒相からはSEを取得し」(公報第3頁右上欄5〜8行)
(ウー1-7)「液ー液抽出の溶媒としては、水および水と2液相を形成する有機溶媒が用いれる。水と2液相を形成する有機溶媒としては例えば、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール等の脂肪族アルコール・・・用いられる。・・・抽出剤としての水および有機溶剤の使用量は、反応物の組成によって適宜選定されるが、通常、反応混合液中に含まれるSEに対して水3〜20倍量、有機溶媒3〜10倍量が好適である。」(公報第3頁右上欄18行〜左下欄11行)
(ウ-1-8)液ー液抽出時に分液剤を添加することは反応液の中和により、既にリン酸もしくは蟻酸塩が存在するので本発明では必ずしも必要ではないが、なお一層分液性を良好ならしめることが必要な場合とか、連続的に抽出操作を行う場合に、分液剤の添加によって抽出操作が容易になるので効果的である。
本発明に用いられる分液剤としては、反応溶媒としてのDMSOまたはDMFに難溶性であればよく、特にリン酸カリ類・・・蟻酸力リ、等が有効であり、これらを単独で使用してもよいし、2種以上の混合物の形で用いても差支えない。」(公報第3頁左下欄16行〜右下欄10行)
(ウー1-9)「抽出方法としては、回分方式による抽出、多段抽出塔による連続抽出等何れも容易に実施できるが、工業的規模での大量処理には後者の方式が有利であり、さらには抽出帯域を2以上に分割して複数段階の抽出操作を行ってもよい。
本発明では、特にこの複数段階の抽出を行い、その際、第2段以降で有機溶相と接触する水相のいずれの部分にも分液剤を添加しておくことにより、所期の目的を一層効果的に達成することができるので最も好ましい。
この抽出操作によって、SEは有機溶媒相に、未反応蔗糖および反応溶媒は水相に分離され、有機溶媒相からは必要に応じて採用される各種の精製操作により製品のSEが取得される。」(公報第4頁左上欄2〜15行)
(ウ-1-10)
「実施例1
蔗糖82.2g、ステアリン酸メチル23.9g、炭酸力リ1.0gおよびDMSO250gを撹拌器、分留器を備えた500 ccの反応フラスコに仕込み、圧力22mmHg、温度90℃で副生するメタノールを留去しつつ90分間反応させ、反応終了後リン酸の50%水溶液1.7gを加え、次いでDMSOの1部を留去して液状の反応混合物170gを得た。この生成物としてのDMSO溶液中の未反応蔗糖とステアリン酸メチルはそれぞれ60.0gと0.24gであり、転化率はそれぞれ27.0%、99.0%であった。この反応混合液を1Lの分液ロートに仕込み、イソブタノール200gおよび水300gを加えて、60℃の温度で振盪して液-液抽出を行った後分液し、イソブタノール相からイソブタノールを留去して粗SE49.5gを得た。この粗SE中にはSEが41.9gと未反応蔗糖およびDMSOが少量づつ含まれていた。得られたSEの分布はモノエステル76%、ジエステル18%、トリエステル6%であった。」(公報第4頁右上欄20行〜左下欄20行)
ウー2.申立人が提出した甲第2号証には、以下の記載がある。
(ウ-2-1)「アルカリの存在下、ジメチルスルホキシドおよび/またはN,N-ジメチルホルムアミドを反応溶媒として蔗糖と脂肪酸エステルを反応させて蔗糖エステルを製造する方法において、反応生成物を乳酸もしくは蟻酸のアルカリ塩を添加した水とブタノールに接触させて、反応生成物中の未反応蔗糖を水相に、蔗糖エステルをブタノール相にそれぞれ液々抽出し、水相の未反応蔗糖を反応系に循環することを特徴とする蔗糖エステルの製造法。」(特許請求の範囲)
(ウ-2-2)
「本発明の反応方法としては、一般にDMFもしくはDMSOを反応溶媒とする公知の各種の態様を場合に応じて選択すれば良い。例えば触媒のアルカリとしては、炭酸カリ、苛性カリ等が最も一般的に使用されているが、特にこれに限らず、場合に応じて他のアルカリを採用しても良く、また原料の脂肪酸エステルは、製品として所望するSEの種類によって通常炭素数が6〜22程度の飽和もしくは不飽和の高級脂肪酸とメタノール等の低級アルコールとのエステルの広い範囲から具体的な種類を選択することができ」(公報第2頁右上欄15行〜左下欄6行)
(ウ-2-3)「反応生成物は次に水とブタノールにより液々抽出されるが、その前に副生した低級アルコールを可及的に除去したり、また反応において触媒として使用されたアルカリを中和しておく等の方法が好適に採用される。」(公報第2頁左下欄16行〜20行)
(ウ-2-4)「ブタノールは、n-ブタノールおよび/またはイソブタノールを用いることが出来る。
本発明ではもう一方の液々抽出溶媒である水に予じめ乳酸もしくは蟻酸のアルカリ塩を添加しておくことが重要であって、これにより、蔗糖とSEの分離性、水-ブタノール相の分液性等が改善されると共に、反応溶媒の水相への分配率が極めて高いという予想外の著しい利益が得られる。」(公報第2頁右下欄7〜15行)
(ウ-2-5)「抽出剤としての水及びブタノールの使用量は反応物の組成によって適宜選定されるが、通常反応物中に含まれるSEに対してブタノール3〜10倍量、水3〜20倍量の範囲が好適である。」(公報第3頁右上欄16〜20行)
(ウ-2-6)「抽出方法としては、回分方式による抽出、多段抽出塔による連続抽出等何れも容易に実施できるが、工業的規模での大量処理には後者の方式が有利であり、さらには抽出帯域を2以上に分割して複数段階の抽出操作を行ってもよい。本発明では、特にこの複数段階の抽出を行い、その際、第2段以降でブタノール相と接触する水相のいずれの部分にも蟻酸もしくは乳酸のアルカリ塩を添加しておくことにより、所期の目的を一層効果的に達成することができるので最も好ましい。
この抽出操作によって、SEはブタノール相に、未反応蔗糖および反応溶媒は水相に分離され、ブタノール相からは必要に応じて採用される各種の精製操作により製品のSEが取得される。」(公報第3頁左下欄5〜20行)
(ウ-2-7)
「実施例-1
蔗糖1325g、ステアリン酸メチル597g、炭酸カリ11.1gおよびDMS03800gを精留器を有する10Lの容器に入れ、圧力22mmHg、温度90℃で副生するメタノールを留去しつつ120分間反応させ、反応終了後乳酸の50%水溶液26gを加え、次いでDMSOの一部を留去して反応生成物3070gを得た。この生成物としてのDMSO溶液中には、SEが33.6%(モノステル61.0%、ジエステル27.1%、トリエステル11.9%)、未反応蔗糖22.5%およびステアリン酸メチル0.3%が含まれていた。この反応混合液307gを2Lの分液ロートに仕込み、イソブタノール400g及び0.3%乳酸カリ水溶液800gを加えて、60℃の温度で振盪して液々抽出を行った後分液し、得られたイソブタノール相にイソブタノールを飽和させた0.3%乳酸カリ水溶液を夫々800g加えて60℃で2回抽出を繰り返した。」(公報第3頁右下欄17行〜3頁左上欄15行)
ウー3.申立人が提出した甲第3号証には、以下の記載がある。
(ウ-3-1)「アルカリの存在下、ジメチルスルホキシドを反応溶媒として、ショ糖と脂肪酸低級アルコールエステルを反応させてショ糖脂肪酸エステルを製造する方法において、(1)反応混合物からジメチルスルホキシドを除去した濃縮反応混合物を、ケトン及び水と混合し、次いでショ糖脂肪酸エステルと塩を含む液相と、未反応ショ糖と塩を含む固相とに分離し、(2)(1)で得た液相からケトン及びジメチルスルホキシドを除去してショ糖脂肪酸エステルを回収し、(3)(1)で得た固相を次の反応系に再使用することを特徴とするショ糖脂肪酸エステルの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(ウ-3-2)「[0012]本発明におけるSE製造反応混合物から未反応ショ糖を回収する工程において、まず最初に反応溶媒として使用したDMSOの除去を行う。これはショ糖回収率の点およびケトンの使用量削減の点から必要である。DMSOの除去量はできるだけ多いほうが好ましいが、反応混合物の粘度が上昇するなど取り扱いに不便をきたすので、通常は反応混合物中のDMSO濃度として5〜60重量%、好ましくは15〜40重量%まで濃縮・除去する。」(公報第4欄21〜29行)
(ウ-3-3)「[0015]かくして得られたSEはそのまま一般的使用に供される。しかし、食品添加物としての用途向けには更に高度に精製することが好ましく、上述SEは更に精製される。すなわち、水および水と2液相を形成する有機溶媒と混合して、微量に含有される未反応ショ糖、DMS0、塩等を水相に、SEを有機溶媒中にそれぞれ液-液抽出する。[0016]本発明における液-液抽出は二相の比重差を利用する塔式向流接触装置、あるいはこれに機械的攪拌とか脈動を与える方式などのほかに、遠心力を利用して混合と分離を行うポトビルニヤク遠心式抽出機などの向流方式、オリフィス塔、エゼクターなどの並流式から選択される。通常、向流方式が採用され、分配効率および水の使用量の点からして向流多段抽出法が工業的精製方法として好ましい。抽出に使用する有機溶媒としては、未反応ショ糖の析出工程に使用したケトンと同一のケトンを使用することが好ましい。液-液抽出は塩析剤を添加しなくてもよいが、安定操業上添加することが好ましい。添加する塩析剤は触媒の中和失活時に生成するものと同種が好ましく、食品添加物としての安定性および抽出時の界面形成の点からクエン酸塩または乳酸塩が好ましい。」(公報第5欄14〜35行)
ウー4.申立人が提出した甲第4号証には、以下の記載がある。
(ウ-4-1)「未反応の糖、未反応の脂肪酸メチルエステル、触媒、石鹸、脂肪酸及び揮発分を含む蔗糖脂肪酸エステル生成反応混合物に酸を加えて中性領域のpHに調整し、水、中性塩及び蔗糖を加え、加熱して揮発分を水相側に移行させると共に、蔗糖脂肪酸エステル、未反応の脂肪酸メチルエステル、石鹸及び脂肪酸を含む沈殿を析出させ、これを水相から分別することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステル生成反応混合物中の揮発分の除去法。」(特許請求の範囲第1項)
(ウ-4-2)「今日、有用なイオン性界面活性として広く利用されている蔗糖脂肪酸エステル(以下 ”SE”と略記することがある)は、現在(a)・・・(b)蔗糖と高級脂肪酸メチルエステルをジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシドなどの溶媒を用いて反応させる方法(溶媒法:特公昭35-13102)のいずれかにより合成される。 これら両方法の中、前者の(a)法では溶媒の問題は起こらないが、食添用として要求される高純度のSE製造の場合(b)法では、反応混合物中に残留している揮発分、つまり残存反応溶媒の除去が問題となる。近来、この揮発分(以下、”反応溶媒”と呼ぶ)の規制が厳しくなり、例えば米国FDAの規制によると、SE中の残存反応溶媒(ジメチルスルホキシド)は2ppm以下とされている(Fed.Regist. 、51(214)、40160-1)。」(公報第2頁右上欄13行〜左下欄11行)
(ウー4-3)「(SE反応混合物)
上記溶媒法によるSEの合成においては、通常、蔗糖と脂肪酸メチルエステルとの混合物に対し数倍量の反応溶媒、例えばジメチルスルホキシドを添加溶解させ、炭酸カリウム等のアルカリ性触媒の存在下に真空20〜30Torr近辺で数時間80〜90℃に保持する。これにより、反応率90%以上(脂肪酸メチルエステル基準)でSE反応混合物が得られる。次いで、本反応混合物中のアルカリ性触媒の活性を消失させるため、これに中和当量の乳酸、酢酸等の有機酸・・・を添加する。・・・最後に、反応溶媒、例えばジメチルスルホキシドを真空下に留去すると、大略下記組成のSE反応混合物となる。」(公報第3頁右下欄4〜20行)
(ウ-4-4)「本発明では、先ず上記反応混合物に水を添加すると共に、そのpHが6.2〜8.2の範囲内にないときは、該範囲内に、好ましくはpH7.5に調整する。」(公報第4頁左上欄15〜18行)
(ウー4-5)「記述の通り、対象水溶液のpH値は、6.2〜8.2の中性領域内に維持されるのが好ましい。pH値が8.2を越えるとアルカリによる定量的なSEの分解が懸念され、また6.2未満でも、例えば90℃以上の高温に晒されれば酸分解を起こす危険がある。」(公報第4頁右上欄11〜16行)
ウー5.申立人が提出した甲第5号証には、以下の記載がある。
(ウ-5-1)「向流多段抽出というのは11・10b図上方に示すように抽出槽(十分離槽)をいくつかならべ、第1槽に抽料Fを入れ、第n槽に抽剤Bを入れ第1槽から抽剤に富む抽出液E1を抜き出し、第n槽からは抽残液Rnを抜き出す方法である。」(第229頁13行〜末行)
ウー6.申立人が提出した甲第6号証には、以下の記載がある。
(ウ-6-1)「抽剤回収装置:抽出装置よりのエクストラクト(抽出液相)は当然抽剤の大部分を含むので、この抽剤は回収し、抽出装置へ循環使用する。」(第106頁1〜2行)
(ウ-6-2)
回転円板抽出塔について記載されている。(第146頁下から5行〜147頁9行および図4.25)
ウー7.申立人が提出した甲第7号証には、以下の記載がある。
(ウ-7-1)「液‐液抽出は二種以上の成分からなる混合液体を抽剤により溶解度の差を利用して分離する操作で、原料と抽剤の接触、分離、抽剤回収の三工程からなる。その操作方法は、回分抽出、多回抽出、連続向流抽出の3つに大別される。第1.1図に各方式の説明図を示す。」(第40頁左欄下から14〜9行)
(ウ-7-2)「(3)連続向流抽出・・・塔式装置(スプレー塔、充填塔、多孔板塔、回転円板塔、脈動塔等)を利用して、一般に塔頂より重い液、塔底より軽い液を供給し、両液の比重差により向流接触を行なわせしめる。装置が簡単で大量の処理に適するので最近いちじるしく発達した。分離度を高めるため、蒸留塔のように抽出液または(および)抽残液の一部を塔に還流させる方式もある。」(第40頁右欄5〜12行)
(ウ-7-3)
回転円板塔が記載されている。(第41頁第1.1表および42頁図d)
エ.判断
本件請求項1に係る発明と、申立人の提出した甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、アルカリ触媒の存在下、ジメチルスルホキシドを反応溶媒として蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとを反応させて得た反応混合物から蔗糖脂肪酸エステルを取得する方法において、反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を超えている場合には、含有率が40重量%以下になるように調整したのち、(1)反応混合物を炭素数4以上のアルコールまたはケトンからなる水難混和性有機溶媒と水を抽剤として用い、水相pH3〜7.5の条件下で第一の液液抽出を行なうことにより、反応混合物中のジメチルスルホキシドを水相に、蔗糖脂肪酸エステルを有機溶媒相に抽出し、(2)次に第一の液液抽出工程で得られた蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を水で連続抽出する第二の液液抽出を行うことにより、有機溶媒溶液中に残留するジメチルスルホキシドを水相に抽出して有機溶媒溶液を取得し、(3)この有機溶媒溶液から、蒸留により有機溶媒を除いて、蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステルの製造方法である点で一致し(上記ウー1-1、ウー1-2、ウー1-3、ウー1-5、ウー1-6、ウー1-9、ウー1-10)、一方、前者においては第二の液液抽出を「回転円板式抽出塔で回転数5〜50r.p.mにて、水で連続向流式」で行うのに対して、後者においては、第二の液液抽出を含めて、多段抽出塔による連続抽出が有利であると記載されている(ウー1-9)に止まる点(相違点1)及び前者においてはこうして得られたジメチルスルホキシドを殆ど含まない有機溶媒溶液から、蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得するのに対して、後者においては、得られる蔗糖脂肪酸エステル中のジメチルスルホキシドの含有率についてとくに言及するところがない点(相違点2)で相違する。
そこで、これらの相違点について検討する。 相違点2は相違点1による結果という側面もあるので、両相違点を併せて検討すると、甲第3号証には、反応混合物から取り出した蔗糖脂肪酸エステル(SE)について、「かくして得られたSEはそのまま一般的使用に供される。しかし、食品添加物としての用途向けには更に高度に精製することが好ましく、上述SEは更に精製される。すなわち、水および水と2液相を形成する有機溶媒と混合して、微量に含有される未反応ショ糖、DMS0、塩等を水相に、SEを有機溶媒中にそれぞれ液-液抽出する。[0016]本発明における液-液抽出は二相の比重差を利用する塔式向流接触装置、あるいはこれに機械的攪拌とか脈動を与える方式などのほかに、遠心力を利用して混合と分離を行うポトビルニヤク遠心式抽出機などの向流方式、オリフィス塔、エゼクターなどの並流式から選択される。通常、向流方式が採用され、分配効率および水の使用量の点からして向流多段抽出法が工業的精製方法として好ましい。」(ウ-3-3)と記載されており、甲第5号証には、向流多段抽出法について記載(ウ-5-1)され、さらに甲第7号証には連続向流抽出法について記載され、連続向流抽出を行う装置のひとつとして「回転円板塔」についても記載(ウ-7-2)されている。
しかしながら、連続向流抽出を行う装置は、甲第7号証にも記載されているようにスプレー塔、充填塔、多孔板塔、回転円板塔、脈動塔など多数のものがあり、しかも、これまでは、高純度のものを得るには、甲第4号証に記載されているような析出法(ウー4-1)など、連続向流抽出とは異なる精製手段によっていたところ、第二の液液抽出を行うにあたり、各種の連続向流抽出装置の中でも、回転円板式抽出塔を用い、回転数5〜50r.p.m.で行った場合に限って、その後単に蒸留するだけでジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下という高純度の蔗糖脂肪酸エステルを得ることができることが本件明細書の詳細な説明及び被請求人から提出された平成14年12月27日付のファックスに記載された内容から理解できる。
甲第2号証及び甲第6号証には、このような点について記載するところはなく、甲第2号証の記載内容は、請求項1に係る発明との関連では、ほぼ甲第1号証と同様のものであり、甲第6号証は各種の抽出装置を記載するもので、甲第7号証と同様な内容のものである。
したがって、これら相違点を当業者が、甲第1号証〜甲第7号証に記載された発明から容易に想到し得たものということはできない。
そして、請求項1に係る発明は、このような構成を採用することにより、高度に精製された蔗糖脂肪酸エステルを得ることができるなど、明細書に記載されたとおりの顕著な効果を奏するものである。
したがって、請求項1に係る発明は、当業者が甲1〜7号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、第二の抽出工程で得られた水溶液を第一の液液抽出の工程に循環するという限定を付加したものであるから、請求項1に係る発明についてと同様の理由により、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をし得たものではない。
さらに、請求項3〜10は、いずれも請求項1又は2に係る発明をさらに技術的に限定したものであるから、同様の理由により、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をし得たものではない。
したがって、本件請求項1〜10に係る発明は、申立人が提出した甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではなく、本件特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことができない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
蔗糖脂肪酸エステルの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルカリ触媒の存在下、ジメチルスルホキシドを反応溶媒として蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとを反応させて得た反応混合物から蔗糖脂肪酸エステルを取得する方法において、反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を超えている場合には、含有率が40重量%以下になるように調整したのち、▲1▼反応混合物を炭素数4以上のアルコールまたはケトンからなる水難混和性有機溶媒と水を抽剤として用い、水相pH3〜7.5の条件下で第一の液液抽出を行なうことにより、反応混合物中のジメチルスルホキシドを水相に、蔗糖脂肪酸エステルを有機溶媒相に抽出し、▲2▼次に第一の液液抽出工程で得られた蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を、回転円板式抽出塔で回転数5〜50r.p.mにて、水で連続向流式抽出する第二の液液抽出を行なうことにより、有機溶媒溶液中に残留するジメチルスルホキシドを水相に抽出し、ジメチルスルホキシドを殆んど含まない有機溶媒溶液を取得し、▲3▼この有機溶媒溶液から、蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】 アルカリ触媒の存在下、ジメチルスルホキシドを反応溶媒として蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとを反応させて得た反応混合物から蔗糖脂肪酸エステルを取得する方法において、反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を超えている場合には、含有率が40重量%以下になるように調整したのち、▲1▼反応混合物を炭素数4以上のアルコールまたはケトンからなる水難混和性有機溶媒と水を抽剤として用い、水相pH3〜7.5の条件下で第一の液液抽出を行なうことにより、反応混合物中のジメチルスルホキシドを水相に、蔗糖脂肪酸エステルを有機溶媒相に抽出し、▲2▼次に第一の液液抽出工程で得られた蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を、回転円板式抽出塔で回転数5〜50r.p.mにて、水で連続向流式抽出する第二の液液抽出を行なうことにより、有機溶媒溶液中に残留していたジメチルスルホキシドを含む水溶液とジメチルスルホキシドを殆んど含まない有機溶媒溶液とを取得し、▲3▼水溶液は第一の液液抽出の工程に循環して抽剤の水として用い、有機溶媒溶液からは蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項3】 反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を超えている場合に、含有率を12〜40重量%に調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項4】 第二の液液抽出を、得られる有機溶媒溶液中のジメチルスルホキシドの濃度が5ppm以下となるように行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項5】 第二の液液抽出で得られた有機溶媒溶液から、蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下であり、蔗糖含有率が0.1重量%以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項6】 水難混和性有機溶媒がn-ブタノール及び/又はイソブタノールであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項7】 第二の液液抽出をpH3〜6.5の水を用いて行うことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項8】 液液抽出を塩析剤の存在下に行うことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項9】 第一の液液抽出を、有機溶媒1重量部に対して0.5〜2重量部の水を用いて行うことを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項10】 原料の脂肪酸アルキルエステルが、炭素数6〜30の飽和又は不飽和脂肪酸の炭素数1〜4のアルキルエステルであることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。
【特許請求の範囲】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、蔗糖脂肪酸エステル(以下、SEと略記する。)の製造方法に存する。更に詳しくは、本発明は溶媒法によって製造したSEを含む反応混合物から、高純度のSEを工業的有利に、且つ安定的に取得するための工業的な精製方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
SEは優れた界面活性能、良好な生分解性および安全性を兼備しているので、従来、食品、化粧品、医薬品、台所用洗剤、飼料、樹脂などの添加剤として、また化学工業においては、例えば重合反応、酸化反応などの、反応助剤として用いられており、極めて有用な化合物である。
【0003】
SEの製造方法としては、N,N-ジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記する。)等の反応溶媒中で、アルカリ触媒の存在下、蔗糖と脂肪酸メチルのような脂肪酸エステルとのエステル交換反応による方法(特公昭35-13102)等が知られている。
上記方法によって得られた反応混合物は、SEの他に反応溶媒、未反応蔗糖およびアルカリ触媒などを含有している。この混合物からSEを分離するには、通常、ヘキサン、ブチルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、のような有機溶媒および水を用いて液液抽出し、主としてSEを有機溶媒相に、未反応蔗糖、反応溶媒を水相にそれぞれ移行させる。次いで有機溶媒相と水相を分液し、SEを含有する有機溶媒相から有機溶媒を蒸留等により除去し、SEを回収する方法が提案されている。(特公昭48-21927、特公昭48-35049、特開昭50-29417、50-130712等)
上記方法は、液液抽出時のSEの加水分解、および水相への混入、更には抽出時の界面形成不良など解決すべき幾多の問題がある上、高純度SEを得ることも難しく、工業的製法としては極めて難しい方法である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、DMSO溶媒中でSEを製造し、得られた反応混合物から、未反応蔗糖とDMSOを効率よく分離・回収し、高純度SEを工業的有利に、安定的に製造するための工業的精製方法を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記実情に鑑み、蔗糖と脂肪酸エステルとのエステル化反応をアルカリ触媒の存在下、DMSO溶媒中で実施した場合の反応混合物からSEを効率的に回収する方法について検討した結果、抽出時の水相のpHを特定範囲に調節することにより、SEの分解を抑制しながらSEとDMSO及び蔗糖との分離が良好にできること、また、特定の抽出工程を組み合せることにより、DMSO含有量1ppm以下の高純度SEが容易に回収できることを見い出し本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとをアルカリ触媒の存在下、DMSO溶媒中で反応させて得た反応混合物からSEを分離取得するに際し、先ず反応混合物を炭素数4以上のアルコール又はケトンからなる有機溶媒及び水を抽剤として用い、水相のpHを3〜7.5に維持しながら、第一液液抽出処理を行う。この液液抽出で、SEは有機溶媒相に、DMSOや未反応蔗糖等は水相に抽出される。
【0007】
次いで、第一の液液抽出で取得したSEを含む有機溶媒溶液を、水を抽剤として連続向流式で第二の液液抽出処理を行ない、有機溶媒溶液中に混入しているDMSOや未反応蔗糖を水相に抽出する。第二の液液抽出で取得したDMSOを実質的に含まない有機溶媒溶液から有機溶媒を除去すると純度の高いSEが取得できる。
【0008】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明において蔗糖との反応に用いる脂肪酸アルキルエステルとしては、通常、炭素数6〜30、好ましくは8〜22の飽和または不飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などの飽和脂肪酸;リノール酸、オレイン酸、リノレイン酸、エルカ酸、リシノール酸などの不飽和脂肪酸など)と炭素数1〜4の低級脂肪酸アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど)とのエステルが挙げられる。脂肪酸アルキルエステルは、1種又は任意の割合からなる2種以上の混合物を用いてもよい。脂肪酸アルキルエステルは通常、蔗糖1モルに対して0.1〜20モル使用するが0.2〜8モル使用するのがより好ましい。
【0009】
反応溶媒としては、熱的安定性、蔗糖に対する溶解性および安全性の点からして、DMSOを用いる。反応溶媒の使用量は、蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとの合計量に対して、通常20〜150重量%、好ましくは30〜80重量%である。
反応はアルカリ触媒の存在下に行なうが、反応系は実質的に非水系であるためアルカリ触媒は反応系内に懸濁状態で存在する。アルカリ触媒としては例えば、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属水酸化物、弱酸のアルカリ金属塩等が有効であり、特に炭酸アルカリ金属塩(例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなど)、アルカリ金属の水酸化物が好ましい。これらアルカリ触媒の使用量は通常、脂肪酸アルキルエステルに対して、0.001〜0.1当量である。
【0010】
反応温度は通常、40〜170℃の範囲の中から採用されるが、特に60〜150℃の範囲が好ましい。反応圧力は通常0.2〜43KPa、好ましくは0.7〜32KPaである。蔗糖と脂肪酸アルキルエステルの反応は反応溶媒の還流下に実施することが望ましい。これにより反応中に副生するアルコールを容易に反応系外に除去することができる。また、反応時間は原料の仕込量や、目的とするSEにより異なるが、通常、1〜10時間程度である。
【0011】
蔗糖は水酸基を8個有しているので、生成した蔗糖脂肪酸エステルはモノエステルからオクタエステルまでの混合物であり、原料の使用割合により生成エステルの組成を調製することができる。
かくして得られた蔗糖と脂肪酸エステルとの反応混合物は、SEの他、反応溶媒のDMSO、未反応原料、アルカリ触媒等を含有している。本発明はこの混合物からSEを高純度で、しかも、高収率で回収しようとするものである。
【0012】
本発明では先ず、反応混合物につき、抽剤として水難混和性有機溶媒と水を用いて、特定のpH条件下で第一の液液抽出を行なう。これにより反応混合物中のSEが有機溶媒相に抽出され、DMSOや未反応蔗糖等は水相に抽出される。この液液抽出において、反応混合物中のDMSO濃度が高すぎると、DMSOの水相への移行が不十分となりやすい。
【0013】
従って、反応混合物中のDMSO濃度が高い場合には、予め、その一部を留去して濃度を調整しておくのが好ましい。DMSOの留去は例えば薄膜蒸発機を用いて減圧下、60〜150℃の温度で実施する。
また、蔗糖と脂肪酸アルキルエステルの反応の末期にDMSOの還流量を低減させることにより、反応混合物中のDMSOの濃度を、先述の範囲に調整してもよい。抽出に供する反応混合物中のDMSOの濃度は、10〜80重量%、特に20〜50重量%の範囲にあるのが好ましい。
【0014】
抽出に際しては水相のpHを3〜7.5にすることが必要である。反応混合物中にはアルカリ触媒が残留しているので、これを中和せずに液液抽出を行なった場合には、水相のpHは8以上となる。本発明ではこのpHを一定範囲に調整することにより、抽出時のSEの加水分解を抑制し、SEの有機溶媒相への効率的な抽出及び有機溶媒相と水相との分液性を向上させることができる。前記pHが高い場合には、SEが加水分解され易い上、有機溶媒相へのSEの分配が高くならず、一方、低すぎる場合には、未反応蔗糖及びDMSOの安定性が不良となる。
【0015】
抽出に際しての好適なpHは3〜7.0、特に4〜6.5である。抽出に際してのpHの調整は予じめ反応混合物に酸を添加して行なっておいてもよく、また反応混合物に酸水溶液と有機溶媒とを一緒に混合することによって行なってもよい。
【0016】
抽出に用いるアルコール又はケトンからなる有機溶媒としては、炭素数4以上、好ましくは炭素数4〜10の水難混和性のものであり、通常、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルエチルケトン、ジエチルケトンまたはメチルイソブチルケトン等が用いられ、なかでもn-ブタノール、イソブタノールが好ましい。反応混合物に対する有機溶媒の使用量は、反応混合物中のSE1重量部に対して、通常、0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部である。一方、水の使用割合は、通常、有機溶媒1重量部に対して、水0.05〜10重量部、好ましくは0.5〜2重量部である。例えば、水量が反応混合物中の蔗糖脂肪酸エステルに対し1〜10wt倍であり、有機溶媒量が前記水に対して0.5〜2wt倍にして、第1の抽出を行なうのが好ましい。また、ここで用いる水としては、後述する第二の液液抽出工程で水相として取得されたDMSOを含むものを使用するのが工業プロセス上好ましい。
【0017】
pH調整剤として用いる酸としては、通常、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、安息香酸、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸および乳酸から選ばれる有機酸であり、好ましくは乳酸およびクエン酸が用いられる。pH調節剤の使用量は、上述した水相pHが所定の値となる量が必要であり、通常、蔗糖と脂肪酸アルカリエステルの反応に用いたアルカリ触媒量に対して、0.1〜3.0当量、好ましくは0.5〜1.5当量の範囲である。
【0018】
本発明における反応混合物の抽出においては安定操業上、塩析剤の存在下で行なわれることが好ましい。本発明では、反応に用いたアルカリ触媒をpH調節剤で中和するため、少量の中和塩が存在することになるが、更に塩析剤を添加するのが好ましい。塩析剤の種類は任意であるが、pH調整に用いた有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土金属塩等が好ましい。SEの食品、医薬品、台所用洗剤、飼料等の添加物としての安全性、安定性および抽出時の界面形成性の点からクエン酸アルカリ塩または乳酸アルカリ塩が好ましい。抽出は通常、塩析剤の濃度が50ppm以上の条件下で行なわれるが、安定操業性および経済性の点等から500〜3000ppmの範囲が好ましい。
【0019】
本発明における第一の液液抽出で使用する装置は、通常、ミキサーセトラー抽出器、向流微分型抽出塔、非撹拌式段型抽出塔、撹拌式段型抽出塔等であるが、ミキサーセトラー型抽出器が経済性、抽出効率等の点から好ましい。このミキサーセトラー型抽出装置は、多段で使用することができ、水の使用量および経済性の点から1〜3段が好ましい。また、抽出操作温度は通常、大気圧下における有機溶媒の沸点以下、例えば、20〜80℃である。
【0020】
上述の第一の液液抽出の終了後、SEを含む有機溶媒溶液とDMSOを含む水溶液とを分液回収する。なお、反応混合物中の未反応蔗糖や中性塩の大部分も水相に抽出されている。
本発明では該有機溶媒溶液を更に水と接触させる、第二の液液抽出を行ない、該有機溶媒溶液中に残留するDMSOなどを除去する。なお、この抽出で用いる水のpHは通常、3〜6.5であり、上記のpH調整剤を加えておくのが好ましい。
【0021】
この第二の抽出は塔型抽出装置を用いて、第一の抽出により得られたSE含有有機溶媒溶液を軽液とし、一方、水を重液として連続向流式の抽出を行なう。ここで用いる塔型抽出装置としては、通常、シャイベル塔、回転円板式抽出塔(RDC)、オルドシューラシュトン塔(ミクスコ塔)、グラエッサー抽出器(RTL抽出器)、ARD塔(ルーワ抽出器)、クーニ塔、脈動多孔版塔、振動版塔、交互脈動流型抽出器等に代表される撹拌式段型抽出塔が使用できるが、回転円板式抽出塔(RDC)がDMSOの抽出、界面の形成、および工業的操業安定性等の点から好ましい。この回転円板抽出装置の段数は、通常、10段以上が採用され、SE含有有機溶媒溶液に残留するDMSOの除去効率、および工業的経済性から50〜200段が好ましい。また、回転円板の回転数は通常、5〜50r.p.m程度である。抽出操業温度は第一液液抽出のときの温度と同程度でよい。第二の液液抽出における有機溶媒相に対する水相の割合は、通常、0.2〜5重量倍である。水相中には第1の抽出と同様、塩析剤を500〜3000ppm存在させるのが好ましい。
【0022】
第二の液液抽出は、この工程から取得するSEを含む有機溶媒溶液中の残留DMSO濃度が5ppm以下、特に1ppm以下となるように操作するのが好ましい。この有機溶媒溶液から有機溶媒を留去することにより目的とするSEを回収することができる。例えば有機溶媒溶液を蒸留塔で蒸留し有機溶媒を塔頂より留去しショ糖脂肪酸エステルを塔底より回収する。この際の蒸留条件は、例えば塔頂温度70〜80℃であり、圧力は52〜55KPaである。また、第二の液液抽出で回収されたDMSOなどを含む水溶液は第一の液液抽出処理に用いる抽剤の一部として利用するのが工業上有利であり好ましい。回収されたSEはそのまま製品として各種の用途に供することができるが、食品、化粧品、医薬品、飼料等の添加剤としての用途向けには、更に高度に精製することが好ましいことがある。例えば、微量の有機溶媒が問題となる場合には、水蒸気蒸留等により微量の有機溶媒を除去することができる。そして、水蒸気蒸留後の水を含むSEは、SE水溶液品として食品、化粧品、医薬品などの添加剤として使用することができる。また、SE水溶液品の濃縮・乾固そして粉砕することにより、DMSO含有量1ppm以下、蔗糖含有量0.1wt%下の高度に精製された粉末状の高純度のSEが製造できる。
【0023】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて詳述するが、本発明はその要旨を超えない限りこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において部及び%は重量基準である。
【0024】
実施例1
SEの合成
反応器に蔗糖100部とDMSO321部を仕込み、加熱して2.67KPaの圧力下でDMSOを沸騰させた。20分間全還流させたのち蒸気の一部を系外に留出させて系内の水を除去した。約40部のDMSOが系外に留出した時点で系外への蒸気の留出を中止した。この時点での系内の液の含水量は約0.06重量%であった。次いで反応器に20部のパルミチン酸メチルと約0.31部の無水炭酸カリウムを加え、2.67KPaの圧力下、約90℃でDMSOを沸騰させながら3時間反応させた。パルミチン酸メチルの反応率は99%以上に達していた。
【0025】
反応終了後、乳酸の50%水溶液約0.68部(触媒に対して1.72当量倍)を添加して触媒を中和した。得られた反応混合物の組成は、DMSO70%、未反応蔗糖19.6%、SE9.5%、その他0.9%であった。SEの組成をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分析したところ、モノエステル81.0%、ジエステル16.9%、トリエステル2.1%であった。また、ガスクロマトグラフィーで分析したパルミチン酸メチルの残存量から算出したパルミチン酸メチルの反応率は99.7%であった。この反応混合液を、蒸発器に供給し、1.73KPaの圧力下、90℃でDMSOを蒸発させ、DMSO30%、未反応蔗糖46%、SE22%、その他2%、の組成物とした。
【0026】
第一の液液抽出
上記の組成物とイソブタノール及び水(乳酸カリウム1200ppmを含有)をミキサーセトラー型の抽出装置に供給し、60℃、常圧下で抽出を行なった。液組成は、DMSO7.7%、イソブタノール29%、水46%、SE5.6%、未反応蔗糖11.7%であった。なお、このときの水相pHは6.3であった。
【0027】
また、途中で水の代りに後記する回転円板型抽出塔から回収した水溶液(組成はDMSO10%、イソブタノール8%、水79%、蔗糖2%、SE0.7%、その他0.3%)を用いたが、このときの液組成はDMSO10.8%、蔗糖9.6%、SE4.4%、イソブタノール28.8%、水45.8%、その他0.6%であった。
【0028】
ミキサーセトラーから回収されたイソブタノール溶液の組成は、DMSO9.9%、イソブタノール41.8%、水37.5%、蔗糖2.0%、SE8.6%、その他0.2%であった。このイソブタノール溶液中へのSEの抽出率を計算すると99.5%となる。また、水溶液の組成は、水55.1%、DMSO11.8%、イソブチルアルコール14.3%、蔗糖17.9%、その他0.9%であり、pHは6.4であった。
【0029】
第二液液抽出
回転円板型抽出塔(抽出段数120段、回転数20r.p.m)にその下部から前記で得たイソブタノール溶液を入れ、上部から1200ppmの乳酸カリウムを含む水を供給して、60℃、常圧下で向流抽出を行なった。塔への供給比率は水1部に対しイソブタノール溶液1.81部とした。
塔上部から流出したイソブタノール溶液の組成は、イソブチルアルコール60%、水26%、SE14%であり、蔗糖は0.1%以下、DMSOは1ppm以下であった。
上記イソブタノール溶液を塔頂温度80℃、圧力55.3KPqで蒸留することにより、塔頂よりイソブタノールを除去し、塔底より、高純度SEを回収した。このSE中の蔗糖は0.1%以下、DMSOは1ppm以下であった。
【0030】
比較例1
実施例1の方法において、反応後の混合物に50%乳酸水溶液を加えることなく、同様に第一の抽出を行なったところ、水相のpHは10.2であり、また、ミキサーセトラーから回収されたイソブタノール溶液の組成はDMSO9.9%、イソブタノール41.9%、水37.6%、蔗糖2.0%、SE8.4%であり、SEの抽出率(98.1%)は低かった。
【0031】
実施例2
実施例1において、第一の液液抽出に供する反応混合物のDMSO濃度を表-1に示す濃度となるようにDMSOの留去量を調節し、実施例1と同様の条件下で第一の液液抽出を1段だけ行なった場合のイソブチルアルコール相(上相)と水相(下相)との各成分の分配率を求めた。結果を表-1に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
この結果より、第一の液液抽出処理に供する反応混合物中のDMSO濃度が高いと、イソブタノール相へのDMSO及び未反応蔗糖の分配が多くなった一方で、水相へのSE分配率が上昇した。
【0034】
比較例2
実施例1で第一の液液抽出に供したDMSO溶液(DMSO30%、SE22%を含有)60g、イソブタノール113g及び水113gを混合して60℃で15分間撹拌し、次いで30分間静置して成層分離させた。上相のイソブタノール溶液を減圧下に濃縮してイソブタノール及び水を除去し、粗SEを得た。このもののDMSO含有量は12.8%であった。
【0035】
次いで上記で得た粗SEにイソブタノール100g及び1500ppmの乳酸カリウムを含む水100gを加えて、上記と同様にして撹拌、静置及び上相の濃縮を行ない、得られたSE中のDMSO濃度を測定した結果、DMSO含有量は5.1%であった。同様の操作を10回反復したがSE中のDMSO濃度は5ppm以下とはならなかった。結果を表-2に示す。
【0036】
【表2】

 
訂正の要旨 訂正の要旨
訂正事項a
特許請求の範囲における請求項1を、「アルカリ触媒の存在下、ジメチルスルホキシドを反応溶媒として蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとを反応させて得た反応混合物から蔗糖脂肪酸エステルを取得する方法において、反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を超えている場合には、含有率が40重量%以下になるように調整したのち、(1)反応混合物を炭素数4以上のアルコールまたはケトンからなる水難混和性有機溶媒と水を抽剤として用い、水相pH3〜7.5の条件下で第一の液液抽出を行なうことにより、反応混合物中のジメチルスルホキシドを水相に、蔗糖脂肪酸エステルを有機溶媒相に抽出し、(2)次に第一の液液抽出工程で得られた蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を水で連続向流式抽出する第二の液液抽出を行うことにより、有機溶媒溶液中に残留するジメチルスルホキシドを水相に抽出し、ジメチルスルホキシドを殆ど含まない有機溶媒溶液を取得し、(3)この有機溶媒溶液から蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。」から、「アルカリ触媒の存在下、ジメチルスルホキシドを反応溶媒として蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとを反応させて得た反応混合物から蔗糖脂肪酸エステルを取得する方法において、反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を超えている場合には、含有率が40重量%以下になるように調整したのち、(1)反応混合物を炭素数4以上のアルコールまたはケトンからなる水難混和性有機溶媒と水を抽剤として用い、水相pH3〜7.5の条件下で第一の液液抽出を行なうことにより、反応混合物中のジメチルスルホキシドを水相に、蔗糖脂肪酸エステルを有機溶媒相に抽出し、(2)次に第一の液液抽出工程で得られた蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を、回転円板式抽出塔で回転数5〜50r.p.mにて、水で連続向流式抽出する第二の液液抽出を行うことにより、有機溶媒溶液中に残留するジメチルスルホキシドを水相に抽出し、ジメチルスルホキシドを殆ど含まない有機溶媒溶液を取得し、(3)この有機溶媒溶液から、蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。」に訂正する。
訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2を、「アルカリ触媒の存在下、ジメチルスルホキシドを反応溶媒として蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとを反応させて得た反応混合物から蔗糖脂肪酸エステルを取得する方法において、反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を超えている場合には、含有率が40重量%以下になるように調整したのち、(1)反応混合物を炭素数4以上のアルコールまたはケトンからなる水難混和性有機溶媒と水を抽剤として用い、水相pH3〜7.5の条件下で第一の液液抽出を行なうことにより、反応混合物中のジメチルスルホキシドを水相に、蔗糖脂肪酸エステルを有機溶媒相に抽出し、(2)次に第一の液液抽出工程で得られた蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を水で連続向流式抽出する第二の液液抽出を行うことにより、有機溶媒溶液中に残留するジメチルスルホキシドを水相に抽出し、ジメチルスルホキシドを殆ど含まない有機溶媒溶液を
取得し、(3)水溶液は第一の液液抽出の工程に循環して抽剤の水として用い、有機溶媒溶液からは蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。」から、「アルカリ触媒の存在下、ジメチルスルホキシドを反応溶媒として蔗糖と脂肪酸アルキルエステルとを反応させて得た反応混合物から蔗糖脂肪酸エステルを取得する方法において、反応混合物のジメチルスルホキシド含有率が40重量%を超えている場合には、含有率が40重量%以下になるように調整したのち、(1)反応混合物を炭素数4以上のアルコールまたはケトンからなる水難混和性有機溶媒と水を抽剤として用い、水相pH3〜7.5の条件下で第一の液液抽出を行なうことにより、反応混合物中のジメチルスルホキシドを水相に、薦糖脂肪酸エステルを有機溶媒相に抽出し、(2)次に第一の液液抽出工程で得られた蔗糖脂肪酸エステルを含む有機溶媒溶液を、回転円板式抽出塔で回転数5〜50r.p.mにて、水で連続向流式抽出する第二の液液抽出を行うことにより、有機溶媒溶液中に残留するジメチルスルホキシドを水相に抽出し、ジメチルスルホキシドを殆ど含まない有機溶媒溶液を取得し、(3)水溶液は第一の液液抽出の工程に循環して抽剤の水として用い、有機溶媒溶液からは、蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。」に訂正する。
訂正事項c
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
訂正事項d
特許請求の範囲の請求項6を請求項5とし、「第二の液液抽出で得られた有機溶媒溶液から、蒸留により有機溶媒を除いて蕨糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。」から、「第二の液液抽出で得られた有機溶媒溶液から、蒸留により有機溶媒を除いて、ジメチルスルホキシドの含有率が1ppm以下であり、蔗糖含有率が0.1重量%以下である蔗糖脂肪酸エステルを取得することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の蔗糖脂肪酸エステルの製造方法。」に訂正する。
訂正事項e
特許請求の範囲の請求項7を削除し、以降の請求項を順次繰り上げ、請求項8、9、10、11及び12を、それぞれ請求項6、7、8、9及び10と訂正する。
異議決定日 2002-02-06 
出願番号 特願平6-313760
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C07H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中木 亜希  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 深津 弘
大宅 郁治
登録日 1999-07-23 
登録番号 特許第2956504号(P2956504)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 蔗糖脂肪酸エステルの製造方法  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 長谷川 曉司  
代理人 長谷川 曉司  
代理人 佐木 啓二  

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