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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01B 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B |
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管理番号 | 1058177 |
異議申立番号 | 異議1999-74569 |
総通号数 | 30 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-04-12 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-12-06 |
確定日 | 2002-03-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2901212号「有機ハロゲン化合物除去用活性炭」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2901212号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 特許第2901212号の請求項1及び2に係る発明は、平成3年11月15日の出願であって、平成11年3月19日にその特許権の設定登録(公報発行日平成11年6月7日)がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人 三菱化学株式会社により特許異議の申立がなされ、平成12年3月3日に取消の理由が通知され、その指定期間内である平成12年5月2日に訂正請求がなされ、さらに平成14年1月8日に再度、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成14年1月21日に先の訂正請求を取り下げると共に、新たな訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否 2-1.訂正の内容 (1) 訂正事項a 特許請求の範囲中、請求項1の「炭素質原料を炭化し、水蒸気含有率15%(容量)以下の雰囲気でBET比表面積300〜1500m2/gとなる迄賦活した後、そのままの雰囲気またはそれより酸素、水蒸気の含有率が低い組成のガス中で300℃以下まで冷却して得られる、水中の有機ハロゲン化合物除去用活性炭」とあるのを、「炭素質原料を炭化し、水蒸気含有率15%(容量)以下の雰囲気でBET比表面積500〜1500m2/gとなる迄賦活した後、そのままの雰囲気またはそれより酸素、水蒸気の含有率が低い組成のガス中で300℃以下まで冷却して得られる、水中のハロゲン化炭化水素除去用活性炭」と訂正する。 (2) 訂正事項b 特許請求の範囲中、請求項2を削除する。 (3) 訂正事項c 発明の詳細な説明の段落【0007】の全文を削除する。 (4) 訂正事項d 発明の詳細な説明の段落【0017】の全文を削除する。 (5) 訂正事項e 発明の詳細な説明の段落【0018】の全文を削除する。 (6) 訂正事項f 発明の詳細な説明の段落【0019】の全文を削除する。 (7) 訂正事項g 発明の詳細な説明の段落【0001】の第2行及び第3行(公報第1頁2欄2行及び3〜4行)における、「有機ハロゲン化合物」を「ハロゲン化炭化水素」と訂正する。 (8) 訂正事項h 発明の詳細な説明の段落【0006】の第4行(公報第2頁3欄29行)における、「有機ハロゲン化合物」を「ハロゲン化炭化水素」と訂正する。 (9) 訂正事項i 発明の詳細な説明の段落【0013】の第6行(公報第2頁4欄25行)における、「有機ハロゲン化合物」を「ハロゲン化炭化水素」と訂正する。 (10) 訂正事項j 発明の詳細な説明の段落【0006】の第2行(公報第2頁3欄26行)における、「BET比表面積300〜1500m2/g」を「BET比表面積500〜1500m2/g」と訂正する。 (11) 訂正事項k 発明の詳細な説明の段落【0012】の第1行(公報第2頁4欄11〜12行)における、「その比表面積が300m2/g以上」を「その比表面積が500m2/g以上」と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否、独立特許要件 (1) 訂正事項aは、 a-1.「BET比表面積300〜1500m2/g」を、「BET比表面積500〜1500m2/g」とする訂正 a-2.「水中の有機ハロゲン化合物除去用活性炭」を「水中のハロゲン化炭化水素除去用活性炭」とする訂正 に細分することができる。 訂正事項a-1は、炭素質原料を炭化し賦活する条件として、BET比表面積300〜1500m2/gという範囲を、BET比表面積500〜1500m2/gという範囲に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項a-2は、本件発明にかかる活性炭の除去物質を、有機ハロゲン化合物のうちハロゲン化炭化水素に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、炭素質原料を炭化し賦活する条件として、BET比表面積500m2/gとすることは、本件特許明細書段落【0022】(公報第3頁6欄2行)に、及びBET比表面積500m2/g以上とすることは、表1(公報第4頁)の実施例1ないし3に記載されており、本件発明に係る活性炭が除去する物質が「ハロゲン化炭化水素」であることは、本件発明に係る活性炭が除去する物質として、本件特許明細書段落【0001】、【0004】、に「トリハロメタン」、段落【0005】、【0025】、【0029】、【0033】に「トリクロロメタン、クロロブロモ(ム)メタン」、段落【0016】に「クロロホルムやブロムホルム」と記載されていることから明らかである。 したがって、訂正事項a-1、及びa-2は本件特許明細書に記載された事項であり、新規事項の追加に該当しない。 また、上記の訂正は実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。 (2) 訂正事項bは、請求項2の削除であるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (3) 訂正事項cないし訂正事項fは、請求項2の削除に伴い、発明の詳細な説明の欄から請求項2に関連する事項を削除し、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 (4) 訂正事項gないし訂正事項kは、請求項1の訂正に伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、これらの訂正事項b〜kが新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものにも該当しないことは明らかである。 (5) また、後述するように訂正後の特許請求の範囲は、本件特許出願の際、独立して特許を受けることができるものである。 2-3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第第1項但し書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議申立の概要 3-1.特許異議申立人は、下記の甲第1〜3号証を提出し、 (1) 本件請求項1に係る発明は、甲第1号証記載された発明であるか、少なくとも、甲第1号証及び甲第2号証の記載から容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号ないし同法第2項の規定により特許を受けることができないものであり、 (2) 本件請求項2に係る発明は、甲第2号証記載された発明であるか、少なくとも、甲第2号証の記載から容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号ないし同法第2項の規定により特許を受けることができないものであり、 (3) 本件請求項1ないし2においては、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が不明瞭であり、又、発明の詳細な説明においては、当業者が容易にその実施をすることができる程度にその構成が記載されていないので、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないので、 特許法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものであると主張している。 甲第1号証:「Fuel」64[3],p.291〜296(1985) 甲第2号証:Amer.Chem.Soc.Natl.Meet.Div.Environ.Chem.,Vol.21,(1),P45〜48(1981) 甲第3号証:「有機化合物辞典」(株)講談社,1985年11月1日,910頁 4.特許異議申立についての判断 4-1.特許法第36条違反について 異議申立人は、以下の点で本件特許発明は特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない旨主張する。 (1) 請求項1の発明において、「そのままの雰囲気またはそれより酸素、水蒸気の含有率が低い組成のガス中」と規定しているが、「酸素、水蒸気の含有率が低い」とは、酸素及び水蒸気のいずれの含有率が低いのか、酸素又は水蒸気のいずれかの含有率が低ければよいのか、が不明確である。 (2) 請求項2の発明において、「酸素及び/または水蒸気の含有率が2%(容量)以下である、窒素ガス及び/または炭酸ガス中」と規定されているが、「酸素及び/または水蒸気の含有率が2%(容量)以下」とは、酸素及び水蒸気の含有量が両者の合計量で2%以下なのか、酸素及び水蒸気の含有量がそれぞれ2%以下なのか、それとも酸素または水蒸気の含有率の一方だけが2%以下であるのかが不明確であり、発明の詳細な説明にも、明確となるような説明がされていない。 しかしながら、(1)の点は、文言のとおり理解して、酸素および水蒸気の両方の含有率が低いと解釈するのが自然であり、しかも係る解釈は、本件特許明細書の段落【0013】における「本発明で賦活された活性炭を高温のまま系外へ取り出し、水蒸気、水素ガス、あるいは酸素ガスを多量に含むガスと接触させると吸着能力は急激に低下する。本発明において、賦活後の活性炭はそのままの雰囲気、またはそれより酸素、水蒸気の含有率が低い組成のガス中で」(公報第4欄17〜22行)との記載とも整合するので、本件明細書の記載が不明確とはいえない。 また、(2)の点は、請求項2が削除されたので、解消された。 したがって、訂正された本件特許明細書には、特許異議申立人が主張する記載不備は存在せず、本件特許明細書は特許法第36条各項の規定を満たしている。 4-2.特許法第29条、特許法第29条の2違反について 4-2-1.本件発明 訂正明細書の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】炭素質原料を炭化し、水蒸気含有率15%(容量)以下の雰囲気でBET比表面積500〜1500m2/gとなる迄賦活した後、そのままの雰囲気またはそれより酸素、水蒸気の含有率が低い組成のガス中で300℃以下まで冷却して得られる、水中のハロゲン化炭化水素除去用活性炭」 4-1-2.引用刊行物記載の発明 (1) 甲第1号証には、以下の記載がある。 ア-1.「5種のルイジアナ褐炭が大気圧下、750〜900℃の温度範囲で最大8時間まで水蒸気で賦活処理された。その活性炭について比表面積、細孔容積、細孔径分布等の構造特性が解析された。」(第291頁抄録1〜3行) ア-2.「試料が入れられ反応器が組み立てられた後、装置内のすべての空気が乾燥窒素ガスで置換された。その間、乾燥が始まり、その後200℃まで昇温されて、恒量となるまで保持された。(中略)賦活処理プロセスにおける各工程の典型的な挙動が図2に示されている。ある試験においては、乾燥と賦活化の間に区別された炭化工程か持たれた。図2には450℃で1時間の炭化が示されている。炭化工程が終了する前に恒量に達した。炭化が終了してから.又は、炭化工程を経ない場合には乾燥が終了してから、水蒸気が導入され、所望の賦活化温度までできるだけ早く昇温された。」(第291頁右欄22〜38行) ア-3.「図2には800℃で2時間の賦活化が示されている。(中略)賦活化の終わりでは、水蒸気の流入が止められ、更なる反応を最小限にすべくできるだけ素早く低温とされ、賦活化物はその特性評価の前にサンプル瓶に移された。」(第292頁左欄1〜8行) ア-4.「すべての試験において、恒温槽の温度は、(中略)0.081atmの水蒸気分圧を生じる45℃とされた。炭化は450〜750℃の温度で5分〜1時間の条件とされ、賦活化は750〜900℃の温度で1分〜8時間の条件とされた。」(第292頁右欄1〜8行) ア-5.「単位重量当たりの比表面積は、各試験の終わりで測定された。図2に示される反応工程を経た褐炭Cの試験結果が図5にプロットされた。」(第293頁右欄下から9〜6行) ア-6.「7種の活性炭の吸着性がメチレンブルーかメタニルイエローのいずれかの染料を用いて試験された。(中略)表3に試験条件と結果が明らかにされている。」(第296頁左欄10〜19行) ア-7.第296頁のTable3には、試験5として、褐炭Cを550℃で1時間熱処理し、800℃で5時間賦活化した活性炭の比表面積が420m2/gであったことが示されている。 (2) 甲第2号証には、以下の記載がある。 イ-1.「この研究は、最大関心事のクロロホルムの水中における吸着性について、活性炭の表面特性の影響を評価することである。」(第45頁16〜18行) イ-2.「用いた活性炭は、石炭を高温水蒸気で賦活することにより製造された粒子状活性炭『Filtrasorb 200』(Calgon社製)である。そのオリジナルの活性炭(F200)の表面特性を次の方法で改質し評価した。F200を窒素雰囲気下で1000℃に加熱した後、同雰囲気下で室温まで冷却させる方法(OG)。一方、F200の表面を過硫化アンモニウムの0.1N水溶液で酸化し(CHOX)、又、前述のOG活性炭を400℃で酸素ガスで酸化し、その際の冷却は、1000℃から400℃まで、及び400℃から室温まで、窒素雰囲気下で行った(OGOX)。」(第45頁19〜28行) イ-3.「BET法による比表面積の測定は、Monosorb Surface Area Analyzerを用いて行った。」(第45頁33〜34行) イ-4.「クロロホルムの平衡濃度は、飲料水中のクロロホルムの平衡濃度の範囲である300〜30ppbであった。」(第45頁38〜40行) イ-5.「Fi1trasorb 200の表面酸化物の構造が詳細に研究され、主にラクトン、半キノン、キノン、フェノール、及びハイドロキノン構造の存在が確認された。一部の証拠が表1に示されている。各活性炭における中和容量(表1)及びIRスペクトル(示さず)から、加熱処理活性炭(OG)においては表面の全酸性基が減少し、カルボキシル基は、皆無となっていることが観察された。他方、酸化処理活性炭(OGOX及びCHOX)においてはカルボキシル基の増加が観察された。」(第46頁1〜10行) イ-6.「各活性炭におけるクロロホルムの吸着特性及び平衡等温線が図1及び図2に示されている。Langmuirパラメーターが表2に示されている。結果は、クロロホルムの吸着に対する酸性基の影響が強いことを示している。」(第46頁TABLE1の下1〜5行) イ-7.「水中でのクロロホルムは、 CHCl3 + OH- ←-→ CCl3- + H2O のように加水分解している。この反応は非常に早く、従って、吸着種は負の荷電を持っている。水溶液中で、活性炭表面のカルボキシル基も又、負の荷電を生じている。 -COOH ←-→ COO- + H+定性的方法におけるカルボキシル基の阻害効果が、一連の動力学的データ(図1)から計算される、F200活性炭とOG活性炭との内部拡散係数、それぞれ1.1及び1.6×10-7cm2/sec、によって明らかとなる。この結果は、又、各活性炭において観察される平衡定数(図2)とも一致している。」(第47頁7〜18行) イ-8.「図2は、クロロホルムの液相中の平衡濃度0.72mg/l以下における固相中の平衡濃度が、F200活性炭におけるよりOG活性炭における方が高いことを示しており、このことは、特に低溶質濃度におけるカルボキシル基の阻害効果を現している。」(第47頁19〜23行) (3) 甲第3号証には、以下の記載がある。 ウ-1.「ベーシックブルー9 C.I.Basic Blue9;・・・;Methylene BlueB・・・C16H18ClN3S=319.85.・・・水に易溶,エタノールに可溶,木綿のタンニン媒染,羊毛,絹の染色用青色塩基性染料.」(第910頁右欄「ベーシックブルー9」の項) 4-1-3.対比・判断 (1) 甲第1号証記載の発明との対比 記載ア-1における「ルイジアナ褐炭」は、本件発明1における「炭素質原料」に相当するから、記載ア-1、記載ア-2、記載ア-3、記載ア-5を総合すれば、甲第1号証には、炭素質原料を炭化し、炭化終了後、水蒸気含有雰囲気下で賦活化し、図5に示される比表面積を有する活性炭を得ることが記載されていることになる。そして、記載ア-3の「賦活化の終わりでは、水蒸気の流入が止められ」によれば、賦活後の冷却は水蒸気流入が行われていた賦活化時よりも水蒸気含有量が低いガス中で行われること、同記載の「素早く低温とされ、賦活化物はその特性評価の前にサンプル瓶に移された」によれば、「低温」とは、「サンプル瓶に移す」ことができる程度の温度であるから、賦活化物は少なくとも300℃以下に冷却されていることは明らかであり、記載ア-4によれば、賦活化は、0.081分圧の水蒸気雰囲気下、すなわち水蒸気含有率8.1容量%で行うこと、記載ア-6によれば、係る活性炭がメチレンブルーの吸着能を有することが記載されているといえ、甲第3号証の記載によれば、「メチレンブルー」は有機ハロゲン化合物の一種であり、記載ア-7によれば、本件発明と同様に熱処理された試験5の活性炭の比表面積は420m2/gである。 本件発明と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者は「炭素質原料を炭化し、水蒸気含有率8.1%(容量)の雰囲気でBET比表面積420m2/gとなる迄賦活した後、そのままの雰囲気またはそれより水蒸気の含有率が低い組成のガス中で300℃以下まで冷却して得られる、水中の有機ハロゲン化合物除去用活性炭」である点で一致し、以下の点で相違する。 a.賦活化により炭化された原料のBET比表面積を、本件発明では500〜1500m2/gとしているのに対し、甲第1号証に記載される活性炭では500m2/g未満である点 b.活性炭の除去目的物質である有機ハロゲン化合物が、本件発明ではハロゲン化炭化水素であるのに対し、甲第1号証記載の発明では、エチレンブルーである点 (2) 上記相違点について検討する 甲第2号証の記載イ-2における「石炭」は、本件発明における「炭素質原料」に相当し、「クロロホルム」はハロゲン化炭化水素の一種であり、甲第2号証第46頁のTABLE1.によれば、高温水蒸気で賦活化された活性炭(Filtrasoeb 200)の比表面積は、655m2/gであるから、甲第2号証には、炭素質材料を高温水蒸気で賦活することにより製造された活性炭(Filtrasoeb 200)を、窒素雰囲気下で1000℃に加熱した後、同雰囲気下で室温まで冷却して得られた改質活性炭(OG)で、水中のハロゲン化炭化水素を吸着除去することが記載されている。 しかしながら、甲第2号証で使用される活性炭は市販品であり、高温水蒸気の賦活条件やそれに引き続く冷却条件について、甲第2号証には記載も示唆もなく、また、水中のハロゲン化炭化水素であるクロロホルムの吸着能を有するのは係る市販の活性炭を更に特定の条件下で改質させたものであるから、甲第1号証記載の活性炭と甲第2号証記載の活性炭とは、構成が異なる活性炭というべきである。 そして、甲第2号証に上記相違点a、bについての断片的な記載があるからといって、「褐炭」を原料とする甲第1号証記載の発明では、賦活処理により同原料のBET比表面積を500m2/g以上とすることは、同号証の5図の実験結果からみて不可能であり、甲第2号証記載の活性炭にクロロホルムの吸着能があるからといって、それとは構成を異にする甲第1号証記載の活性炭にもクロロホルムの吸着能があるとは直ちにはいえない。 したがって、本件発明は、甲第1号証に記載された発明といえないばかりか、同号証及び甲第2号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 なお、異議申立人は、異議申立書第6頁3〜14行において、甲第2号証の記載イ-3ないし記載イ-6の、活性炭熱処理条件-表面特性-水中のクロロホルムの吸着性との関係を考慮すれば、甲第1号証に記載される活性炭では、その表面のカルボキシル基等の酸性基が減少していることが容易に推定し得るから、そのような活性炭を水中のクロロホルムの吸着に用いることを想到することに格別な困難性はない旨主張している。 しかしながら、例え甲第1号証に記載される活性炭の酸性基が減少していることが容易に推定できるとしても、先に述べたように甲第1号証記載の活性炭と甲第2号証記載の活性炭とは構成が異なっているのであるから、甲第2号証に記載される吸着能が甲第1号証記載の活性炭の直ちに結びつくものではなく、上記異議申立人の主張は採用できない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本件発明の特許は、特許異議申立の理由及び証拠によっては取り消すことはできない。 また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 有機ハロゲン化合物除去用活性炭 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 炭素質原料を炭化し、水蒸気含有率15%(容量)以下の雰囲気でBET比表面積500〜1500m2/gとなる迄賦活した後、そのままの雰囲気またはそれより酸素、水蒸気の含有率が低い組成のガス中で300℃以下まで冷却して得られる、水中のハロゲン化炭化水素除去用活性炭。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明はトリハロメタン等水中に含まれるハロゲン化炭化水素除去用活性炭に関するもので、更に詳しく述べると、特定の条件下でハロゲン化炭化水素特にトリハロメタンの吸着性を高める様に調製した活性炭である。 【0002】 【従来の技術】 従来から水道水中に存在する種々の有害物質特に、トリクロロメタン、クロロブロモメタン等の有機塩素化合物を除去する方法の一つとして、活性炭が注目されていた。 【0003】 しかし、水道水中のトリクロロメタン、クロロブロモメタン等は分子量が小さく、且つ比較的沸点が低い他、その濃度が極めて希薄であるため、従来の活性炭はこれらの化合物を充分に除去出来る程の高い吸着性は持っていない。僅かに低賦活度で比較的比表面積の小さい活性炭が、濃度が極めて低いこれらの化合物に対して、相対的に高い吸着性を示す傾向が知られていたのみである。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 近年水道水の水質悪化に伴い、有害性が大きいトリハロメタン等、有機塩素化合物等の除去が強く要請されている。この様な状況に鑑み、これらの化合物を常温で容易に吸着除去出来る様な高い吸着性を有する活性炭を開発、提供しようとするものである。 【0005】 【課題を解決するための手段】 通常の活性炭には水道水中に含まれている極めて希薄なトリクロロメタン、クロロブロモメタン等の有機塩素化合物を充分に除去できる程の吸着性はない。しかし、本発明者等は低賦活度で比較的比表面積が小さい活性炭が、濃度が希薄なこれらの化合物に対して、相対的に高い吸着性を示す性質を有する点に注目して、低賦活度の範囲内における賦活条件とこれらの物質に対する吸着性との関係を検討した。その結果特定の条件下で賦活し、更にそのままの雰囲気中で一定温度以下迄冷却することにより、希薄な濃度の有機塩素化合物に対して高い吸着性を有する活性炭が得られることを見出し、これに基づいて本発明に到達した。 【0006】 すなわち、炭素質原料を炭化し、水蒸気含有率15%(容量)以下の雰囲気でBET比表面積500〜1500m2/gとなる迄賦活した後、そのままの雰囲気またはそれより酸素、水蒸気の含有率が低い組成のガス中で300℃以下まで冷却して得られる、水中のハロゲン化炭化水素除去用活性炭である。 【0007】 【0008】 ここでBET比表面積とはBrunauer、Emmett及びTellerによって提案された、多孔性物質の表面積測定法による測定値である。この方法は等温吸着線によって単分子層吸着量を求め、吸着分子の断面積を乗じてその表面積を算出するもので、活性炭の場合通常低温の窒素ガスを使用して測定される。 【0009】 以下、本発明について詳しく説明する。 【0010】 本発明に使用出来る炭素質原料は、ヤシ殻またはその他木材の炭化物及び、石炭等の炭素材が広く使用出来る。或いは更にこれらの炭素材をフェノール樹脂、タール、ピッチなどのバインダーを用いて成型した後、炭化して使用することも出来る。またその形態は、粒状、粉末状の他に繊維状、ハニカム状等任意の形状としてもよい。 【0011】 炭素質原料を賦活する際その雰囲気は、水蒸気の他、二酸化炭素ガスを含むが、水蒸気含有率は15%以下にする必要がある。実施例17及び比較例15〜17に示すように水蒸気含有率が高い条件で賦活された場合は、明らかにトリハロメタン吸着性が低下することが認められる。この様な水蒸気含有率が低い賦活ガスの組成が活性炭の吸着性に及ぼす影響は明らかでないが、かかる条件下で得られた活性炭は、表面に結合した酸素原子を保持しない状態であることがその一要因として指摘出来る。 【0012】 また活性炭の賦活度はその比表面積が500m2/g以上、1500m2/g以下の範囲に止める必要がある。賦活度はより好ましくは700m2/g以上、1200m2/g以下である。比表面積が1500m2/g以上になると、トリハロメタン吸着性が低下することが認められる。また平均細孔径がやや大きくなる傾向を示す。 【0013】 本発明で賦活された活性炭を高温のまま系外へ取り出し、水蒸気、水素ガス、あるいは酸素ガスを多量に含むガスと接触させると吸着能力は急激に低下する。本発明において、賦活後の活性炭はそのままの雰囲気、またはそれより酸素、水蒸気の含有率が低いガス中で、温度300℃以下に冷却した後、系外へ取り出すことが必要である。賦活用ガスと冷却用ガスの組成は必ずしも同一でなくてもよい。300℃以上で空気中に取り出すと低濃度のハロゲン化炭化水素に対する活性炭の吸着能力が著しく低下することは、実施例1、比較例1及び表1に示す通りである。 【0014】 また前記の様な条件で得られた活性炭は賦活度が低いことも相まって、通常の条件で得られた活性炭に比べて賦活収率はかなり高い。 【0015】 通常の活性炭は炭素質原料を水蒸気、燃焼ガス等の混合ガスを使用して、水蒸気含有率が40〜50%の雰囲気中で、比表面積1400〜2000m2/g迄賦活される。しかし、この様な活性炭を本発明に使用してもトリハロメタン等有機塩素化合物に対する吸着性はあまり高くない。 【0016】 本発明は前記の様に特定の組成のガスで賦活され、且つ特定の組成のガス中で冷却された活性炭を用いることが特徴であり、かかる活性炭は水中に希薄な濃度で存在する、クロロホルムやブロムホルムなど低沸点の有機塩素化合物に対して高い吸着性を示す。 【0017】 【0018】 【0019】 【0020】 以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。 【0021】 【実施例】 (実施例1〜3、比較例1〜3) 10〜20メッシュに粉砕した石炭を乾留した後、プロパン燃焼ガス(ガス組成:窒素80%、酸素0.2%、炭酸ガス9.8%、水蒸気10%)を用いて、900℃で比表面積500m2/gになるまで賦活した後、窒素で置換した容器内に活性炭を取り出し、窒素ガス中で300℃以下になる迄冷却して活性炭を調製した(実施例1)。 【0022】 次に、実施例1において、比表面積500m2/gになるまで賦活した活性炭を窒素中に取り出し、500℃になるまで冷却した後、空気中に取り出して、放置冷却した(比較例1)。 【0023】 更に、比較例1で得られた活性炭を700℃において、窒素ガス50%、炭酸ガス50%、の気流中で10分間処理した後、窒素ガス中に取り出し、室温まで冷却した(実施例2)。 【0024】 また比較例1で得られた活性炭を900℃の窒素ガス中で5分間処理した後、窒素中で室温まで冷却した(実施例3)。 【0025】 これらの活性炭及び賦活後の活性炭を、空気中で冷却する通常の方法で得られた比表面積がそれぞれ1000m2/g(比較例2)及び1500m2/g(比較例3)の活性炭について、トリクロルメタン、トリブロムメタン等の有機ハロゲン化合物の吸着量を測定した。濃度10ppbのハロゲン化合物の水溶液中における、30℃の吸着量を表1に示す。 【0026】 【表1】 【0027】 表1より、比表面積が小さく(500m2/g)、且つ賦活後窒素ガス中で冷却した活性炭に比べて、比表面積が大きく且つ空気中で冷却した活性炭(比較例2、3)は、有機ハロゲン化合物の吸着性が低いことが認められる。 【0028】 (実施例4〜10、比較例4〜10) 種々の原料炭素材を使用して、比表面積が異なる活性炭を調製し、賦活後窒素ガス中で冷却した活性炭(実施例4〜10)と、空気中で冷却した活性炭(比較例4〜10)を調製した。 【0029】 これらの活性炭について、前記と同様に、濃度10ppbのハロゲン化合物の水溶液中における、トリクロルメタン、トリブロムメタン等の有機ハロゲン化合物の吸着量を測定した(30℃)。その結果を表2に示す。 【0030】 【表2】 【0031】 表2より、賦活後空気中で冷却した活性炭(比較例4〜10)は、窒素ガス中で冷却した活性炭に比べて(実施例4〜10)、有機ハロゲン化合物の吸着性が低いことが認められる。 【0032】 (実施例11〜16、比較例11〜14) 炭素材の原料として椰子がら及び竹を使用して活性炭を調製する際、炭化、賦活後、窒素ガス中で冷却した後、空気中に取り出すときの温度を種々に変化させた活性炭(実施例11〜16、比較例11〜14)を調製した。 【0033】 これらの活性炭について、前記と同様に、濃度10ppbハロゲン化合物の水溶液中における、トリクロルメタン、トリブロムメタン等の有機ハロゲン化合物の吸着量を測定した(30℃)。その結果を表3に示す。 【0034】 【表3】 【0035】 表3より、活性炭の有機ハロゲン化合物に対する吸着性は、冷却後初めて空気に接触する温度に依存し、300℃以上になると吸着性は大幅に低下することが認められる。 【0036】 (実施例17、比較例15〜17) 炭素材の原料として椰子がらを使用して活性炭を調製する際、賦活ガスの水蒸気分圧が異なる種々の賦活ガスを使用して、900℃で比表面積750m2/gになるまで賦活した後、窒素ガスで置換した容器内に活性炭を取り出し300℃以下になる迄冷却して活性炭を調製した(実施例17、比較例15、16、17)。 【0037】 これらの活性炭について、前記と同様に、濃度10ppbのハロゲン化合物の水溶液中における、トリクロルメタン、トリブロムメタン等の有機ハロゲン化合物の吸着量を測定した(30℃)。その結果を表4に示す。 【0038】 【表4】 【0039】 表4より、賦活時の水蒸気濃度が15%以下になると、有機ハロゲン化合物の吸着量が高く、水蒸気分圧が15%以上になると吸着量が低下することが認められる。 【0040】 【発明の効果】 本発明により得られた活性炭は通常の活性炭に比べ、常温において有機ハロゲン化合物に対して相当高い吸着性を示す。従って、本発明の活性炭を使用することにより、最近発ガン性物質として問題となっている、水道水中のトリハロメタン等有機ハロゲン化合物を容易に除去することが出来る。 【表1】 【表2】 【表3】 【表4】 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 1.特許第2901212号の明細書中特許請求の範囲請求項1の「炭素質原料を炭化し、水蒸気含有率15%(容量)以下の雰囲気でBET比表面積300〜1500m2/gとなる迄賦活した後、そのままの雰囲気またはそれより酸素、水蒸気の含有率が低い組成のガス中で300℃以下まで冷却して得られる、水中の有機ハロゲン化合物除去用活性炭」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「炭素質原料を炭化し、水蒸気含有率15%(容量)以下の雰囲気でBET比表面積500〜1500m2/gとなる迄賦活した後、そのままの雰囲気またはそれより酸素、水蒸気の含有率が低い組成のガス中で300℃以下まで冷却して得られる、水中のハロゲン化炭化水素除去用活性炭」と訂正する。 2.特許第2901212号の明細書中特許請求の範囲請求項2を、特許請求の範囲の減縮を目的として削除する。 3.特許第2901212号の明細書中発明の詳細な説明の段落【0007】、【0017】、【0018】、【0019】の全文を、明りょうでない記載の釈明を目的として削除する。 4.特許第2901212号の明細書中発明の詳細な説明の段落【0001】の第2行及び第3行、段落【0004】の第4行、段落【0013】の第6行における、「有機ハロゲン化合物」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「ハロゲン化炭化水素」と訂正する。 5.特許第2901212号の明細書中発明の詳細な説明の段落【0006】の第2行における、「BET比表面積300〜1500m2/g」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「BET比表面積500〜1500m2/g」と訂正する。 6.特許第2901212号の明細書中発明の詳細な説明の段落【0012】の第1行における、「BET比表面積300m2/g以上」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「BET比表面積500m2/g以上」と訂正する。 |
異議決定日 | 2002-02-08 |
出願番号 | 特願平3-328217 |
審決分類 |
P
1
651・
531-
YA
(C01B)
P 1 651・ 121- YA (C01B) P 1 651・ 534- YA (C01B) P 1 651・ 113- YA (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 八原 由美子 |
特許庁審判長 |
石井 良夫 |
特許庁審判官 |
冨士 良宏 唐戸 光雄 |
登録日 | 1999-03-19 |
登録番号 | 特許第2901212号(P2901212) |
権利者 | クラレケミカル株式会社 |
発明の名称 | 有機ハロゲン化合物除去用活性炭 |
代理人 | 小田中 壽雄 |
代理人 | 小田中 壽雄 |
代理人 | 長谷川 曉司 |