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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F16C |
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管理番号 | 1058213 |
異議申立番号 | 異議2000-72920 |
総通号数 | 30 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-12-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-07-31 |
確定日 | 2002-04-05 |
異議申立件数 | 3 |
事件の表示 | 特許第3004562号「セラミックボールベアリング」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3004562号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 |
理由 |
I.手続の経緯 特許第3004562号(特許出願:昭和63年10月25日の分割出願,特許権設定登録:平成11年11月19日)の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、京セラ株式会社、宮井 英次、日本特殊陶業株式会社より、それぞれ、特許異議の申立てがなされ、平成13年7月13日(発送日:平成13年7月27日)に取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年9月21日に訂正請求がなされ、平成13年11月13日(発送日:平成13年11月26日)に訂正の拒絶の理由が通知され、その指定期間内である平成14年1月24日に手続補正がなされたものである。 II.訂正の適否についての判断 1.平成14年1月24日の手続補正について 当該手続補正は、平成13年9月21日付けの訂正請求書及び訂正明細書(以下、「原訂正請求書」及び「原訂正明細書」という。)の記載を補正するものであって、その内容は、以下のとおりである。 (1)補正の内容 イ.補正事項イ 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載について、原訂正明細書では、 「【請求項1】焼結助剤を含み窒化珪素を主成分とするセラミック材料中の金属成分として鉄の含有量が2000ppm以下であると共に表面に存在するFeを含む凝集体は30μm以上のものがなく、かつ300時間以上の転がり疲労寿命を有することを特徴とするセラミックボールベアリング。」とあるのを、 「【請求項1】焼結助剤を含み窒化珪素を主成分とするセラミック材料中の金属成分として鉄の含有量が2000ppm以下であると共に表面に存在するFeを含む凝集体は30〜100μmのものがなく、かつ300時間以上の転がり疲労寿命を有することを特徴とするセラミックボールベアリング。」と補正する。 なお、アンダーラインは、対比の便のため当審で付した。 ロ.補正事項ロ 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2記載について、原訂正明細書では、 「【請求項2】焼結助剤を含み窒化珪素を主成分とするセラミック材料中の金属成分として鉄の含有量を磁石を用いて2000ppm以下にしたものであり、かつ300時間以上の転がり疲労寿命を有することを特徴とするセラミックボールベアリング。」とあるのを、 「【請求項2】前記鉄の含有量が200ppm以下であることを特徴とするセラミックボールベアリング。」と補正する。 なお、アンダーラインは、対比の便のため当審で付した。 ハ.補正事項ハ 原訂正請求書の「(3)訂正事項及び(4)請求の原因」の欄における訂正事項aに係る記載を、補正事項イと整合するように補正する。 ニ.補正事項ニ 原訂正請求書の「(3)訂正事項及び(4)請求の原因」の欄における訂正事項bに係る記載を、補正事項ロと整合するとして削除する。 (2)補正の内容についての検討 イ.補正事項イ及びハについて 補正事項イは、請求項1に係る発明の構成要件である「セラミック材料中の金属成分としての鉄」について、原訂正明細書において、「表面に存在するFeを含む凝集体は30μm以上のものがなく」と訂正するとしていたものを、これに換えて、「表面に存在するFeを含む凝集体は30〜100μmのものがなく」と訂正すると、内容を実質的に変更しようとするものである。 これは、下記の訂正事項aの内容を、他のものと交換的に変更するものであることが明らかである。 また、補正事項ハは、補正事項イに伴って、原訂正請求書の記載を同様に変更するものであって、補正事項イと同様に、下記の訂正事項aの内容を、他のものと交換的に変更するものであることが明らかである。 ロ.補正事項ロ及びニについて 補正事項ロは、請求項2に係る発明の構成要件である「セラミックボールベアリングの主成分及び機能の特定」について、原訂正明細書において、「焼結助剤を含み窒化珪素を主成分とするセラミック材料中の金属成分として鉄の含有量を磁石を用いて2000ppm以下にしたものであり、かつ300時間以上の転がり疲労寿命を有する」と訂正するとしていたものを、これに換えて、「前記鉄の含有量が200ppm以下である」と訂正すると、内容を実質的に変更しようとするものである。 これは、下記の訂正事項bの内容を、他のものと交換的に変更するものであることが明らかである。 なお、補正事項ニを参酌すると、下記の訂正事項bを全て削除する補正とも解することができるが、訂正請求の趣旨「特許第3004562号の明細書を請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求める。」に照らせば、補正事項ニの事実のみから、補正事項ロを下記の訂正事項bを全て削除する補正と直ちに認めることができない。 してみると、平成14年1月24日の手続補正は、原訂正請求書及び原訂正明細書で示していた訂正事項を他のものと交換的に変更するものであるから、結局、原訂正請求書の要旨を変更するものというべきであって、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合しないので採用できない。 2.訂正の適否について (1)訂正の内容 イ.訂正事項a 願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の特許請求範囲の請求項1の記載について、 「【請求項1】焼結助剤を含み窒化珪素を主成分とするセラミック材料中の金属成分として鉄の含有量が2000ppm以下であり、かつ300時間以上の転がり疲労寿命を有することを特徴とするセラミックボールベアリング。」とあるのを、 「【請求項1】焼結助剤を含み窒化珪素を主成分とするセラミック材料中の金属成分として鉄の含有量が2000ppm以下であると共に表面に存在するFeを含む凝集体は30μm以上のものがなく、かつ300時間以上の転がり疲労寿命を有することを特徴とするセラミックボールベアリング。」と訂正する。 ロ.訂正事項b 特許明細書の特許請求範囲の請求項2の記載について、 「【請求項2】前記鉄の含有量が200ppm以下であることを特徴とする請求項1記載のセラミックボールベアリング。」とあるのを、 「【請求項2】焼結助剤を含み窒化珪素を主成分とするセラミック材料中の金属成分として鉄の含有量を磁石を用いて2000ppm以下にしたものであり、かつ300時間以上の転がり疲労寿命を有することを特徴とするセラミックボールベアリング。」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 イ.訂正事項aについて この訂正事項aは、訂正前の請求項1に係る発明(以下、「訂正前発明1」という。)において、金属成分について「鉄の含有量が2000ppm以下であること」のみが特定されていたのに対し、さらに、「表面に存在するFeを含む凝集体は30μm以上のものがないこと」を特定することからみて、一種の特許請求の範囲の減縮と解することができる。 しかしながら、「セラミックボールベアリング」の発明の構成要件として、「表面に存在するFeを含む凝集体は30μm以上のものがないこと」を含むことは、訂正前の願書に添付した明細書及び図面(以下、「特許明細書」及び「特許図面」という。)に記載されていないばかりでなく、これらの記載から当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項でもない。 これに対し、特許権者は、この訂正事項aの根拠として、特許明細書の段落番号【0008】の記載「本発明者らの研究によれば、ボールベアリングの使用中に剥離が生じたものの表面をX線マイクロアナライザによって分析した結果、当該剥離部分から多量の鉄(Fe)が検出された。この事実に着目して更に研究したところ、原料セラミック材料中に不可避的に存在する鉄に起因して、焼結時にこの鉄粒子を核とする何らかの凝集現象が生じ、これが部品表面に析出して表面層に30〜100μm程度の凝集体が形成されることが分かった。この凝集体は剥離され易く、機械的応力に伴ってウロコ状に剥離していき、これがボールベアリングの品質低下の原因となっていたのである。」を挙げているが、これは、ボールベアリングの使用中に剥離が生じることの原因を分析したものであって、「セラミックボールベアリング」の発明の構成要件を特定するものでないことが明らかであり、加えて、Feを含む凝集体に関しても「30〜100μm」と限られた幅がある上に、このような凝集体の分布と剥離防止の効果の関係も示されていない。 してみると、このような訂正事項aを含む訂正は、訂正前の願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないというべきである。 ロ.訂正事項bについて この訂正事項bは、訂正前の請求項2に係る発明(以下、「訂正前発明2」という。)において、金属成分について「鉄の含有量が200ppm以下であること」が特定されていたのに対し、「鉄の含有量が2000ppm以下であること」と特定することからみて、少なくともこの点において特許請求の範囲を拡張するものである。 また、鉄の含有量を2000ppm以下とする手段として「磁石を用いること」を特定しているが、この限りにおいては、一種の特許請求の範囲の減縮と解することができる。 しかしながら、「磁石を用いること」は、特許明細書において、発明の実施を可能にするための一手段として記載されているに止まり、「セラミックボールベアリング」の発明の構成要件を特定するものとしてまで記載されていないものであり、また、特許明細書及び特許図面の記載から当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項でもない。 してみると、このような訂正事項bを含む訂正は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明又は誤記の訂正を目的とした明細書の訂正のいずれにも該当するものではないばかりか、訂正前の願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないというべきである。 (3)訂正の適否のむすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しないので、当該訂正は認めることができないものである。 III.特許異議の申立について 1.通知した取消しの理由の概要 通知した取消しの理由の概要は、次のようなものである。 「本件発明1ないし3は、いずれも、本件の出願前に頒布された刊行物である引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるべきものであるから、本件発明1ないし3に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認められ、取り消すべきと認める。 <引用例> 引用例1:「NTN TECHNICAL REVIEW No.54」第31〜39頁[昭和63年6月20日エヌ・テー・エヌ東洋ベアリング株式会社発行] 引用例2:「ADVANCED CERAMIC MATERIALS,VOL.3,NO.3,1988」第225〜230頁[発行時期:昭和63年]」 2.本件発明 特許第3004562号の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】焼結助剤を含み窒化珪素を主成分とするセラミック材料中の金属成分として鉄の含有量が2000ppm以下であり、かつ300時間以上の転がり疲労寿命を有することを特徴とするセラミックボールベアリング。 【請求項2】前記鉄の含有量が200ppm以下であることを特徴とする請求項1記載のセラミックボールベアリング。 【請求項3】前記焼結助剤としてY2O3、Al2O3、AlN、TiO2の少なくとも1種を用いたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のセラミックボールベアリング。」 3.引用例に記載された発明 (1)引用例1 引用例1には、「セラミックスの転がり疲労寿命及び転がり疲労寿命に及ぼす各種因子の影響」と題する論文が掲載されていて、次のような技術的事項が記載されている。 イ.「本稿では,…特に軸受にとって基本的な問題である転動疲労強度と,それに影響を及ぼす種々因子について調査結果1)を述べる。」(第31頁右欄第1〜4行) ロ.「供試体は各種寸法のセラミックボールであり,素材は主として窒化珪素(Si3N4)である。」(第31頁右欄第6〜7行) ハ.「素材として窒化珪素が最適であり,以下の項目においては窒化珪素製セラミックボールについて述べる。」(第32頁右欄第20〜22行) ニ.「短寿命ロットのセラミックボールの表面を微小部走査X線分析装置(EPMA)で分析すると,写真1,2に示す如く,金属系介在物が認められることがあり,これは繰返し負荷を受けると応力集中の原因になると考えられる。写真3は,Fe系介在物が剥離の起点となった例を示す。これら介在物は,粉末製造時又は,焼結助剤の調合時等に混入するものと考えられ,スクリーニングの強化が必要である。鋼中の非金属介在物と同様,皆無にすることは出来ないと考えられるが,コストとの兼合いでどの程度まで許容しうるかについては今後の課題であろう。」(第33頁右欄第2〜12行) ホ.「窒化珪素粉末は,難焼結材料であるので焼結助剤としてY2O3(イットリア),Al2O3(アルミナ)の添加剤を加える。」(第34頁左欄第2〜4行) ヘ.「試験結果を図4に示す。セラミックボールを組込んだ軸受の寿命は,内・外輪(軸受鋼)の寿命で決定される。…最近の軸受鋼製の軸受寿命(図4斜線部)と比較すると,セラミックボールを組込んだ軸受の寿命は,その範囲内であった。」(第38頁左欄第2〜9行) ト.第4図の記載及び上記記載事項ヘによると、第4図から、「セラミックボールを組込んだ軸受の転がり疲労寿命が、多くの場合、300時間以上であること」が看取できる。 これらの記載事項によれば、引用例1には、次のような発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認めることができる。 「Y2O3(イットリア),Al2O3(アルミナ)を用いた焼結助剤を含み窒化珪素を主成分とするセラミック材料中の金属系介在物としてFe系介在物がスクリーニングされたセラミックボールを組込んだ軸受。」 (2)引用例2 引用例2には、次のような技術的事項が記載されている。 イ.「以下の解析には、熱エンジンセラミック材料の代表として、AY6窒化珪素を射出成形して焼成したものを選択した。AY6は、92%のSi3N4と6%のY2O3と2%のAl2O3を含み、焼結性、強度、耐酸化性が求められるタービンエンジンの用途に開発されたものである。」(第226頁左欄第29〜34行訳) ロ.「AY6の金属含有物による強度への影響を定量化するために、Fe粒子を意図的に加えた。これらの粒子は直径100μm以下となるように分級した。Feを加えたAY6原料は、Feレベル100,1000,10000ppmについてホットプレスした。元の原料はFe含有量10ppmであった。焼結体を棒状に切り出して4点曲げ強度を測定した結果を図5に示すように、Fe量の対数の増加に伴って平均強度が低下することがわかる。」(第226頁右欄第55行〜第227頁第1行訳) これらの記載事項からみて、引用例2には、次のような技術的事項が記載されていると認めることができる。 「Y2O3、Al2O3を用いた焼結助剤を含み窒化珪素を主成分としたセラミック材料中の金属成分として鉄の含有量が10ppm、100ppm又は1000ppmである、タービンエンジンの用途に開発されたセラミック部材は、鉄の含有量が少ないほどその平均強度が増加する。」 (3)周知例 本件の出願より相当前に頒布された刊行物である「内燃機関21巻3号」第41〜46頁[昭和57年3月株式会社山海堂発行](異議申立人日本特殊陶業株式会社が甲第2号証として提示したもの。以下、「周知刊行物1」という。)には、「セラミックス軸受の現状と動向」と題する論文が掲載されていて、次のような技術的事項が記載されている。 イ.「1970年代に入ってホットプレス材の窒化硅素(Si3N4)の疲れ寿命が軸受鋼のそれと同等か,またはそれ以上であることがわかり,以後の研究はホットプレス材の窒化硅素によって進められている。」(第42頁右欄第5〜8行) ロ.「Parkerらは,図-5に示す5球式転がり疲れ試験法を用いて,2種類のホットプレス材の窒化硅素,A材およびB材の転がり疲れ試験を行ない.図-6および図-7に示す結果を得た12).この結果は,上側の試料球に窒化硅素球(直径12.7mm)を下側の支持鋼球にM-50工具鋼球(直径12.7mm)を用い,回転数9400rpmで,それぞれの材料について二つの最大ヘルツ応力で得られたデータをワイプル確率紙へプロットしたものである.同じ応力では,B材のほうの寿命が長いことがわかる.表-3は,この試験に用いたA材およびB材の分析結果を示すもので,B材のほうの不純物が少ない.この不純物の含有量の差が寿命に影響したものである.」(第43頁右欄第1行〜第44頁左欄第2行) また、同じく、本件の出願より相当前に頒布された刊行物である「Ceramics For High Performance Applications-II」第423〜426頁[昭和55年2月18日国立国会図書館受入](異議申立人日本特殊陶業株式会社が甲第3号証として提示したもの。以下、「周知刊行物2」という。)には、「タービンに応用されるセラミック・ベアリング」(訳)と題する論文が掲載されていて、次のような技術的事項が記載されている。 ハ.「窒化珪素の疲労スポーリング(破砕)のメカニズム … 素材の多孔性や含有不純物質がスポーリングのきっかけとなることが、研究中に分かってきた(3,8)。」(第425頁第12行〜第426頁第2行訳) これらの周知刊行物1、2の記載によると、本件の出願時には、以下の点が周知の技術的事項であったと認めることができる。 「窒化珪素を主成分とするセラミック材料からなるセラミック・ベアリングにおいて、セラミック材料中の含有不純物質が少ないほど転がり疲労寿命が長くなる。」 4.本件発明と引用発明1の対比及び判断 (1)本件発明1と引用発明1 本件発明1と引用発明1を対比すると、引用発明1の「Y2O3(イットリア),Al2O3(アルミナ)を用いた焼結助剤」は、その技術的意義において、本件発明1の「焼結助剤」に相当し、同様に、「金属系介在物としてのFe系介在物」は「金属成分としての鉄」に、「セラミックボールを組込んだ軸受」は「セラミックボールベアリング」に、それぞれ相当すると認められる。 また、引用発明1においてFe系介在物をスクリーニングすることは、Fe系介在物を少なくすることに他ならないから、本件発明1の「鉄の含有量が2000ppm以下である」と引用発明1の「Fe系介在物がスクリーニングされた」は、「鉄の含有量が少ない」の限度において一致していると認められる。 してみると、本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 焼結助剤を含み窒化珪素を主成分とするセラミック材料中の金属成分として鉄の含有量が少ないセラミックボールベアリング。 <相違点> イ.鉄の含有量について、本件発明1では、「鉄の含有量が2000ppm以下であり」となっているのに対し、引用発明1では、「Fe系介在物がスクリーニングされた」となっていて、鉄の含有量の数値が特定されていない点(以下、「相違点イ」という。)。 ロ.転がり疲労寿命について、本件発明1では、「300時間以上の転がり疲労寿命を有する」となっているのに対し、引用発明1では、そのような数値が特定されていない点(以下、「相違点ロ」という。)。 次いで、この相違点について検討する。 <相違点の検討> イ.相違点イについて 引用例1の上記記載事項ニによれば、引用例1には、セラミックボールの表面にFe系介在物等の金属系介在物があると、それが応力集中の原因となって、剥離の起点となることにより、セラミックボールの寿命が短くなること、これら介在物は、粉末製造時又は焼結助剤の調合時等に混入するものと考えられ、スクリーニングの強化により減少させることができるが、どの程度まで減少させるかはコストとの兼合いであること、が記載されている認めることができる。 そうすると、引用例1には、結局、「セラミックボールの寿命を長くするには、コストが高くなるが、Fe系介在物等の金属系介在物を粉末製造時又は焼結助剤の調合時等においてスクリーニングにより減少させる必要があること」が実質的に開示されていると解することができる。 また、先に説示したように、本件の出願時には、「窒化珪素を主成分とするセラミック材料からなるセラミック・ベアリングにおいて、セラミック材料中の含有不純物質が少ないほど転がり疲労寿命が長くなること」が周知の技術的事項であったと認めることができる。 してみると、引用例1に接した当業者にとって、窒化珪素を主成分とするセラミック材料からなるセラミック・ベアリングの転がり疲労寿命を長くするために、引用発明1におけるFe系介在物のスクリーニングを強化して、鉄の含有量を2000ppm以下又は200ppm以下とすることに、何らの困難性もないというべきである。 そして、引用例2に記載された技術的事項「Y2O3、Al2O3を用いた焼結助剤を含み窒化珪素を主成分としたセラミック材料中の金属成分として鉄の含有量が10ppm、100ppm又は1000ppmである、タービンエンジンの用途に開発されたセラミック部材は、鉄の含有量が少ないほどその平均強度が増加する。」に照らせば、本件の出願時において、引用発明1の鉄の含有量を2000ppm以下又は200ppm以下とすることを妨げる特段の事情があったとも解することができない。 したがって、相違点イに係る本件発明1の構成要件は、引用発明1を採用するに際し、当業者が必要に応じ容易に想到できたものというべきである。 ロ.相違点ロについて 引用例1の上記記載事項トによれば、引用発明1に係る「セラミックボールを組込んだ軸受」の転がり疲労寿命が、多くの場合、300時間以上であると解することができる。 これに対し、本件発明1において、転がり疲労寿命の「300時間」自体、あるいは、該転がり疲労寿命の数値限定と鉄の含有量の数値限定との組合せに格別の臨界的意義があると解することができなく、また、このような臨界的意義があることを証するに足りる証拠もない。 してみると、先に説示したように、引用例1に接した当業者にとって、窒化珪素を主成分とするセラミック材料からなるセラミックボールを組込んだ軸受の転がり疲労寿命を長くするために、引用発明1におけるFe系介在物のスクリーニングを強化して、鉄の含有量を2000ppm以下又は200ppm以下とすることは、容易に想到できるものというべきものであって、また、引用発明1に係る「セラミックボールを組込んだ軸受」において、多くの場合、転がり疲労寿命が300時間以上であることに照らせば、転がり疲労寿命が300時間以上であること自体が格別なものでないので、引用発明1に係る「セラミックボールを組込んだ軸受」において、鉄の含有量を適宜減少させて、転がり疲労寿命を「300時間以上」にするようなことは、当業者にとって、実施に際して行なう通常の実験等により容易に想到できる程度のことにすぎない。 したがって、相違点ロに係る本件発明1の構成要件は、引用発明1を採用するに際し、当業者が必要に応じ容易に想到できたものというべきである。 そして、本件発明1が奏する効果は、引用発明1及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が予測できる効果を超えるものではない。 以上を総合すると、本件発明1は、引用発明1及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (2)本件発明2と引用発明1 本件発明2は、本件発明1の鉄の含有量の上限をさらに少ない値の「200ppm」に限定するものであるから、本件発明2と引用発明1を対比すると、本件発明1と引用発明1の対比とほぼ同様であって、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 焼結助剤を含み窒化珪素を主成分とするセラミック材料中の金属成分として鉄の含有量が少ないセラミックボールベアリング。 <相違点> イ.鉄の含有量について、本件発明2では、「鉄の含有量が200ppm以下であり」となっているのに対し、引用発明1では、「Fe系介在物がスクリーニングされた」となっていて、鉄の含有量の数値が特定されていない点(以下、「相違点イ’」という。)。 ロ.転がり疲労寿命について、本件発明2では、「300時間以上の転がり疲労寿命を有する」となっているのに対し、引用発明1では、そのような数値が特定されていない点(以下、「相違点ロ」という。)。 次いで、この相違点について検討する。 <相違点の検討> イ.相違点イ’について 相違点イ’は、本件発明1と引用発明1の対比における相違点イと鉄の含有量の上限値が若干異なるだけであって、上記「(1)<相違点の検討>イ.相違点イについて」において、「鉄の含有量が200ppm以下」についても検討しているので、該相違点イの検討におけると同様な理由により、相違点イ’に係る本件発明2の構成要件は、引用発明1を採用するに際し、当業者が必要に応じ容易に想到できたものというべきである。 ロ.相違点ロについて 相違点ロは、本件発明1と引用発明1の対比における相違点ロと実質的に同じであるから、上記「(1)<相違点の検討>ロ.相違点ロについて」におけると同様な理由により、相違点ロに係る本件発明1の構成要件は、引用発明1を採用するに際し、当業者が必要に応じ容易に想到できたものというべきである。 そして、本件発明2が奏する効果は、引用発明1及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が予測できる効果を超えるものではない。 以上を総合すると、本件発明2は、引用発明1及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (3)本件発明3と引用発明1 本件発明3は、本件発明1又は2の焼結助剤を「焼結助剤としてY2O3、Al2O3、AlN、TiO2の少なくとも1種を用いた」と限定するものであるから、本件発明3と引用発明1を対比すると、本件発明1と引用発明1の対比又は本件発明2と引用発明1の対比とほぼ同様であって、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 なお、引用発明1の「Y2O3(イットリア),Al2O3(アルミナ)を用いた焼結助剤」は、本件発明3の「Y2O3、Al2O3、AlN、TiO2の少なくとも1種を用いた焼結助剤」に含まれることが明らかである。 <一致点> 焼結助剤を含み窒化珪素を主成分とするセラミック材料中の金属成分として鉄の含有量が少ないセラミックボールベアリングであって、前記焼結助剤としてY2O3、Al2O3の少なくとも1種を用いたもの。 <相違点> イ.鉄の含有量について、本件発明3では、「鉄の含有量が2000又は200ppm以下であり」となっているのに対し、引用発明1では、「Fe系介在物がスクリーニングされた」となっていて、鉄の含有量の数値が特定されていない点(以下、「相違点イ”」という。)。 ロ.転がり疲労寿命について、本件発明3では、「300時間以上の転がり疲労寿命を有する」となっているのに対し、引用発明1では、そのような数値が特定されていない点(以下、「相違点ロ」という。)。 次いで、この相違点について検討する。 <相違点の検討> イ.相違点イ”について 相違点イ”は、本件発明1と引用発明1の対比における相違点イ又は本件発明2と引用発明1の対比における相違点イ’と実質的に同じであるから、上記「(1)<相違点の検討>イ.相違点イについて」又は「(2)<相違点の検討>イ.相違点イ’について」におけると同様な理由により、相違点イ”に係る本件発明3の構成要件は、引用発明1を採用するに際し、当業者が必要に応じ容易に想到できたものというべきである。 ロ.相違点ロについて 相違点ロは、本件発明1と引用発明1の対比における相違点ロと実質的に同じであるから、上記「(1)<相違点の検討>ロ.相違点ロについて」におけると同様な理由により、相違点ロに係る本件発明3の構成要件は、引用発明1を採用するに際し、当業者が必要に応じ容易に想到できたものというべきである。 そして、本件発明3が奏する効果は、引用発明1及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が予測できる効果を超えるものではない。 以上を総合すると、本件発明3は、引用発明1及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 5.むすび 以上のとおりであるから、本件発明1ないし3は、いずれも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件発明1ないし3の特許は、いずれも、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。 したがって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-02-18 |
出願番号 | 特願平7-91893 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZB
(F16C)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 秋月 均、城所 宏、米田 健志 |
特許庁審判長 |
舟木 進 |
特許庁審判官 |
山口 直 氏原 康宏 |
登録日 | 1999-11-19 |
登録番号 | 特許第3004562号(P3004562) |
権利者 | 株式会社東芝 |
発明の名称 | セラミックボールベアリング |
代理人 | 外川 英明 |
代理人 | 田中 敏博 |
代理人 | 足立 勉 |