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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1058258
異議申立番号 異議2000-72722  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-12-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-07-11 
確定日 2002-03-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第2998738号「スパッタリング装置とその成膜方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2998738号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第2998738号は、平成10年5月21日に特許出願され、平成11年11月5日に登録の設定がなされ、その後、その請求項1、2に係る発明の特許に対して特許異議申立人佐々木茂之により特許異議の申立てがなされたものである。

2.特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人は、請求項1、2に係る発明の特許は、(A)その明細書が特許法第36条第4項の規定に適合していない出願に対してなされたものであり、また、(B)請求項1、2に係る発明は甲第1号証(特許第2592311号公報)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである旨主張している。

3.本件発明
本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、特許明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】成膜材料であるn個(nは2以上の整数)のターゲットと膜を成膜するk個(kは2以上の整数)の基板とが対向して設けられ、前記基板がその中心を回転軸として自転しながら前記ターゲット上を公転し、前記ターゲットの中心は、基板の中心軸の公転軌跡が通過するように配置したスパッタリング装置において、
前記基板が、公転1回に対して自転回数がn回(このnは、前記nと同じ)以上の非整数値となるように構成したことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】成膜材料であるn個(nは2以上の整数)のターゲットと膜を成膜するk個(kは2以上の整数)の基板とが対向して設けられ、前記基板がその中心を回転軸として自転しながら前記ターゲット上を公転し、前記ターゲットの中心は、基板の中心軸の公転軌跡が通過するように配置したスパッタリング装置を用いた成膜方法において、
前記基板が、公転1回に対して自転回数がn回(このnは、前記nと同じ)以上の非整数値となるように構成したことを特徴とするスパッタリング装置を用いた成膜方法。」

4.引用刊行物記載の発明
(1)これに対して、当審において平成12年10月31日付けで通知した取消の理由に引用した刊行物1「特許第2592311号公報(平成9年3月19日発行、申立人が提出した甲第1号証)」には、「スパッタ室内に希土類金属ターゲットと遷移金属ターゲットを並設し、前記両ターゲットに対向すると共に公転軸が前記両ターゲット面の各々の幾何学的中心を通る各垂線から等距離に位置するようにした前記基板を自公転させながら前記両ターゲットによるスパッタリングを行う光磁気記録媒体の製造方法」(第1欄3-8行)及び、「スパッタ室内に並設された希土類金属ターゲット及び遷移金属ターゲットと、前記両ターゲットに対向するように前記基板を保持する自転ホルダと、公転軸が前記両ターゲット面の各々の幾何学的中心を通る各垂線から等距離に位置するように前記自転ホルダ」(第1欄14行-第2欄8行)を備えた、光磁気記録媒体の製造装置が記載されている。
また、「前記自転ホルダ3は前記公転ホルダ4に対して複数個(第1図では2個)装着されるように構成されている」(第5欄4-5行)点、その[実施例]には、「前記自転ホルダ3を公転数W1が30rpm、自転数W2が128rpm(自公転比:W2/W1=4.27)となるように回転」(第6欄45-47行)させる点がそれぞれ記載されている。
(2)同じく刊行物2「特開昭10-116789号公報(平成10年5月6日公開)」には、「基板回転装置及び基板回転方法」(発明の名称)が開示されており、図1には「複数の基板42を支持する上部回転体62」(第10欄17-19行)が配置された装置が示されている。

5.対比、判断
(1)本件発明1について
刊行物1に記載の発明について、特許権者は特許異議意見書において、基板の自公転比に整数を含んでおり、ターゲット上を基板が通過する際に毎回異なった状態で通過させることで膜厚のばらつきを補正するという概念が記載されていない旨主張しているが、上述のように、同刊行物には、実施例として自公転比4.27の場合に均一な膜厚が得られることが示されており、さらに、第5欄下2行-第6欄3行、及び【第2図】には、自公転比が整数値のときには膜厚分布が悪化する点について示唆されていることから、かかる自公転比が非整数の場合について記載されていると言える。
そこで、本件発明1と刊行物1に記載の発明とを対比すると、両者は「成膜材料である2個以上のターゲットと膜を成膜する2個以上の基板とが対向して設けられ、前記基板がその中心を回転軸として自転しながら前記ターゲット上を公転するように配置したスパッタリング装置において、前記基板が、公転1回に対して自転回数が2回以上の非整数値となるように構成したスパッタリング装置」である点で一致し、(a)前者においてはターゲットの中心を基板の中心軸の公転軌跡が通過している点でのみ、相違している。
しかしながら、基板の自公転を伴うスパッタリング装置において、ターゲットの中心が上記基板の公転軌跡上に位置するような構造とすることは、その設計上、通常想定される事項である(必要であれば、特開平3-100171号公報(例えば、第4頁左下欄、比較例1)を参照されたい。)点を考慮すれば、刊行物2には、ターゲット中心と基板中心の公転軌跡との位置関係について明確に特定する記載はないものの、例えば、図1の記載から、カソードに設けられたターゲットの中心が上記公転軌跡上に位置するような装置が開示されているものと解することができる。してみると、刊行物1に記載のスパッタリング装置の発明において、ターゲットの中心を基板の中心軸の公転軌跡が通過するよう構成する点に格別の技術的困難性は認められない。
(2)本件発明2について
本件発明2は本件発明1に係るスパッタリング装置を用いた成膜方法に係るものであり、これと刊行物1に記載のスパッタリング装置を用いた膜の製造方法の発明とを対比すると、(1)で検討した相違点(a)においてのみ、両発明は相違している。
しかしながら、(1)で検討したとおり、刊行物1に記載のスパッタリング装置の発明において、ターゲットの中心を基板の中心軸の公転軌跡が通過するよう構成した点に格別の技術的困難性が認められないから、それを用いた成膜方法についても当業者が容易に想到し得るところである。
したがって、本件発明2は、刊行物1及び刊行物2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)明細書の記載不備について
特許異議申立人は、本件発明1及び本件発明2において、ターゲットの中心を基板の中心軸の公転軌跡が通過するように配置した点について、「その内容が明細書によって支持されておらず、ターゲット中心と、基板の中心軸の公転軌跡との間の許容される偏心量が具体的に記載されていない限り、その範囲が不明確であるため、本願特許発明は当業者が実施できない」(特許異議申立書第6頁第5-8行)旨主張している。しかしながら、本件発明1及び本件発明2は、所期の目的を達するために、ターゲット中心と基板中心軸の公転軌跡の相互に偏倚を設けないような位置関係とするものであって、数学的な厳密さをもって上記偏倚を全く許容しないとするものではないと解される。すなわち、出願時の技術常識を考慮すれば、当該技術において装置上許容される範囲の上記偏倚を有する場合であっても厳密に全く偏倚がない場合とほぼ同等の均一性を有する膜が得られると考えられることから、上記範囲の偏倚は許容されているものと解されるべきである。してみると、特許異議申立人の主張するように許容される偏心量が具体的に記載されていないことをもって、本件特許明細書の発明の詳細な説明が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないと認めることはできない。

6.むすび
以上により、本件発明1、2はそれぞれ刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、上記発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-02-05 
出願番号 特願平10-139322
審決分類 P 1 651・ 121- Z (C23C)
P 1 651・ 536- Z (C23C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 板谷 一弘宮澤 尚之  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 西村 和美
服部 智
登録日 1999-11-05 
登録番号 特許第2998738号(P2998738)
権利者 日本電気株式会社
発明の名称 スパッタリング装置とその成膜方法  
代理人 京本 直樹  
代理人 河合 信明  
代理人 福田 修一  

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