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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01C
管理番号 1058264
異議申立番号 異議2001-71714  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-07-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-06-13 
確定日 2002-04-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第3118509号「チップ抵抗器」の特許請求の範囲第1乃至3項に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3118509号の特許請求の範囲第1乃至3項に係る特許を維持する。 
理由
1.手続の経緯
本件特許第3118509号の特許請求の範囲の第1項に記載された発明についての出願は、昭和62年10月22日に出願した特願昭62-267839号の一部を平成6年7月11日に新たな特許出願(特願平6-158706号)とし、さらにその一部を平成10年1月26日に新たな特許出願(特願平10-12536号)とし、平成12年10月6日にその発明について特許権の設定登録がなされた(発明の数1)後、その特許について、特許異議申立人ローム株式会社、及び高橋一幸より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成14年2月12日に特許異議意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許第3118509号の発明の要旨は、その特許請求の範囲の第1項に記載された次のとおりのものである(以下、「本件発明」という。)。

「絶縁性セラミック基板の基板表面に抵抗体が形成され、前記絶縁性セラミック基板の両端に前記抵抗体とつながる一対の多層構造の電極が設けられ、前記抵抗体を覆うように保護コートが設けられているチップ抵抗器において、
前記多層構造の電極は、前記絶縁性セラミック基板の表面の端部に前記抵抗体と直接に接続されるように形成されたメタルグレーズ系の第1電極と、前記基板を挟んで前記第1電極と対向する前記基板の裏面の位置に形成されたメタルグレーズ系の第2電極と、前記第1及び第2電極と一部重畳して両者を接続するように前記基板の端部に設けられたAg-レジン系の第3電極と、前記第1及び第2電極並びに前記第3電極を全体的に覆うメッキ層とを有しており、
前記第1電極及び前記第2電極の前記第3電極が重畳しない部分と前記第3電極との間にそれぞれ段差が形成されており、前記メッキ層はこれらの段差を残すように形成されているチップ抵抗器。」

3.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人ローム株式会社は、証拠として甲第1号証(特開昭62-86801号公報)、甲第2号証(実願昭56-4597号(実開昭57-119501号公報)のマイクロフィルム)、甲第3号証(特開昭61-268001号公報)、甲第4号証(実願昭58-80044号(実開昭59-185801号)のマイクロフィルム)、甲第5号証(特開昭57-184202号公報)、甲第6号証(特開昭58-219702号公報)、及び、甲第7号証(特開昭60-22303号公報)を提出して、本件発明は、上記甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、本件発明についての特許を取り消されるべき旨、主張する。
また、同じく特許異議申立人高橋一幸は、証拠として甲第1号証(実願昭56-4597号(実開昭57-119501号公報)のマイクロフィルム)、甲第2号証(特開昭61-245501号公報)、甲第3号証(実願昭58-80044号(実開昭59-185801号)のマイクロフィルム)、甲第4号証(特開昭61-268001号公報)、甲第5号証(特開昭61-240602号公報)、甲第6号証(特開昭58-87704号公報)、甲第7号証(IMC 1982 Proceedings “THICK FILM PASTES FOR SQUARE TYPE CHIP RESISTOR”)、甲第8号証(「化学大辞典1」 共立出版株式会社、1960年 p.968-969)、甲第9号証(「図解プラスチック用語辞典」 日刊工業新聞社 1981年 p.68)、及び甲第10号証(「プラスチック事典」 朝倉書店 p.317)を提出して、本件発明は、上記甲第1〜10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、本件発明についての特許は取り消されるべき旨、主張する。

4.本件発明と取消しの理由で引用した刊行物に記載された発明との対比・ 判断
〔4-1〕取消しの理由で引用した刊行物に記載された発明
当審で通知した取り消しの理由で引用した刊行物1〜3には、それぞれ、次の発明が記載乃至開示されている。

絶縁性セラミック基板1の基板表面に抵抗体2が形成され、前記抵抗体2の両端に前記抵抗体2とつながる一対の3層構造の電極が設けられ、前記抵抗体2を覆うように保護塗料膜15が設けられているチップ抵抗器において、
前記3層構造の電極は、前記絶縁性セラミック基板1の表面の端部に前記抵抗体2と直接に接続されるように形成された電極5a、5aと、前記基板を挟んで前記電極5a、5aと対向する前記基板の裏面の位置に形成された電極5c、5cと、前記電極5a、5a及び電極5c、5cと一部重畳して両者を接続するように前記基板1の端部に設けられた導電性ペイント膜10、10と、前記電極5a、5a及び前記電極5c、5cの一部並びに前記導電性ペイント膜10、10を覆う金属キャップ11、11が被せられ、
前記基板1裏面の前記電極5c、5cの前記導電性ペイント10、10が重畳しない部分と前記導電性ペイント膜10、10との間には段差が形成されており、前記金属キャップ11、11はこの段差を残すように形成されているチップ抵抗器。(特に、第1図(c)を参照。)

絶縁性セラミック基板1の基板表面に抵抗皮膜3が形成され、前記絶縁性セラミック基板1の両端に前記抵抗被膜3とつながる一対の第1電極2が設けられ、前記抵抗皮膜3を覆うようにエポキシ樹脂系の耐熱性合成樹脂塗料より形成された保護膜4が設けられているチップ抵抗器において、
前記第1電極2、2は、前記絶縁性セラミック基板1の表面の端部に前記抵抗被膜3と直接に接続されるように形成されたメタルグレーズよりなるものであり、前記第1電極2、2と一部重畳して接続するように前記基板1の端部にエポキシ樹脂系導電塗料を塗布して第2電極5、5が設けられ、前記第2電極5、5を全体的に覆う電気メッキを施して第3電極6、6が形成されたチップ抵抗器。

絶縁基板3の基板表面に薄膜抵抗2が形成され、前記薄膜抵抗2の両端に前記薄膜抵抗とつながる一対の薄膜電極1、1が設けられ、前記薄膜抵抗2を覆うようにレジン系のオーバコート5が設けられているチップ抵抗器において、
前記薄膜電極1、1は、前記薄膜抵抗2と直接に接続されるように形成されており、前記薄膜電極1、1と絶縁基板3表面で一部重畳するように前記基板3の端部に設けられた銀レジン系ペーストの側面電極4、4と、前記薄膜電極1、1及び前記側面電極4、4を全体的に覆うメッキ電極層6、6とを有しており、
前記薄膜電極1、1の前記側面電極4、4が重畳しない部分と前記側面電極4、4との間に段差が形成されており、前記メッキ電極層6、6はこの段差を残すように形成されているチップ抵抗器。(特に、第3図)

〔4-2〕対比
本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。刊行物1に記載された発明における「保護塗料膜15」は、本件発明における「保護コート」に相当する。刊行物1に記載された発明における「電極5a、5a」及び「電極5c、5c」は、それぞれ基板表面及び基板裏面に形成されている点で、本件発明における「第1電極」及び「第2電極」に相当する。刊行物1に記載された発明における「導電性ペイント膜10、10」は、電極5c、5c(第2電極)と一部重畳して両者を接続するように前記基板の端部に設けられる点で本件発明における「第3電極」に対応する。さらに、刊行物1に記載された発明における「金属キャップ11」は、電極5a、5a(第1電極)及び電極5c、5c(第2電極)並びに前記導電性ペイント膜10、10(第3電極)を覆う「導電層部」である点で、本件発明における「メッキ層」と共通する。そうすると、本件発明と刊行物1に記載された発明とは、次の点で一致する。
絶縁性セラミック基板の基板表面に抵抗体が形成され、前記絶縁性セラミック基板の両端に前記抵抗体とつながる一対の多層構造の電極が設けられ、前記抵抗体を覆うように保護コートが設けられているチップ抵抗器において、
前記多層構造の電極は、前記絶縁性セラミック基板の表面の端部に前記抵抗体と直接に接続されるように形成された第1電極と、前記基板を挟んで前記第1電極と対向する前記基板の裏面の位置に形成された第2電極と、前記第2電極と一部重畳して両者(第1及び第2電極)を接続するように前記基板の端部に設けられた第3電極と、前記第1及び第2電極並びに前記第3電極を覆う導電層部とを有しており、
前記第2電極の前記第3電極が重畳しない部分と前記第3電極との間に段差が形成されており、前記導電層部はこの段差を残すように形成されているチップ抵抗器。
そして、次の各点で相違する。
(a) 第1電極、第2電極、及び第3電極を覆う基板端部の導電層部に関し、本件発明においてはメッキ層で形成するのに対し、刊行物1に記載された発明においては金属キャップを被せて形成される点(以下、「相違点a」という。)。
(b) 第3電極と他の電極との間に形成する段差に関し、本件発明においては第1電極との間にも段差を形成するものであるのに対し、刊行物1に記載された発明においては、第2電極との間にしか形成されておらず、導電層部が残す段差もこの段差しかない点(以下、「相違点b」という。)。
(c) 第1電極、及び第2電極の材料に関し、本件発明においてはメタルグレーズ系のものより形成するものであるのに対し、刊行物1に記載された発明においては、特に言及されていない点(以下、「相違点c」という。)。
(d) 第3電極の材料に関し、本件発明においては、Ag-レジン系のものであるのに対し、刊行物1に記載された発明においては特に示されていない点(以下、「相違点d」という。)。

〔4-3〕判断
そこで、上記相違点について検討する。
相違点a、bに関し、刊行物1には、導電性ペイント膜10、10の形成後金属キャップ11を被せる代わりに、Ni-Cu電極膜をスパッタや蒸着によって形成してもよいことも記載されている(第2頁左下欄を参照。)が、金属キャップに替えてNi-Cu電極膜を形成しようとする際、該電極膜は刊行物1の第1図(c)における金属キャップと同様の形状で形成されるものとは考え難く、むしろ、刊行物1における第1図(b)の状態の導電性ペイント膜10、10を該電極膜で覆うと考える方が技術的にみて妥当であり、この場合、導電性ペイント膜10、10(第3電極)の形状を参酌すると、「基板1表面側の電極5a、5a(第1電極)及び基板裏面側の電極5c、5c(第2電極)の導電性ペイント膜10、10(第3電極)が重畳しない部分と前記導電性ペイント膜10、10(第3電極)との間に段差が形成されて」いるチップ抵抗器を得ることはできないものである。
一方、刊行物2、3には、チップ抵抗器において絶縁性セラミック基板の基板表面の第1電極とこの第1電極に接続され基板端面に形成される側面電極(刊行物2では第2電極5、刊行物3では側面電極4)を覆うようにメッキ層(刊行物2では第3電極6、刊行物3ではメッキ電極層6)を形成することが記載されているが、上記したように刊行物1に記載された発明において導電層部である金属キャップに替えてそのままの形状で電極膜として形成することができない以上、刊行物1に記載された発明において、基板端部の導電層部である金属キャップと同様の形状で刊行物2、3に記載された発明のようにメッキ層として形成することは当業者にとって容易になし得たものとすることはできないというべきである。
なお、刊行物3に記載された発明は、絶縁基板3の端面を覆い、その両端部がそれぞれ前記薄膜電極1、1(本件発明の「第1電極」に相当。)の表面上に一部重畳するように形成された銀レジン系ペーストの一対の側面電極4、4(本件発明の「第3電極」に相当。)が設けられるものであるが、本件発明のように絶縁基板表面の一対の薄膜電極(第1電極)に対向して絶縁基板裏面に一対の第2電極が設けられるものではないので、本件発明における「第2電極の第3電極が重畳しない部分と第3電極との間に段差が形成されており、メッキ層はこの段差を残すように形成されている」という構成を開示乃至示唆するものではない。
そうすると、相違点cに関し、刊行物2に、チップ抵抗器の基板表面に形成された抵抗体に基板表面で接続される第1電極をメタルグレーズ系の導電材料で形成することが記載されており、相違点dに関し、刊行物3に、側面電極4(本件発明の「第3電極」に相当)に銀レジン系ペーストにより形成することが記載されているとしても、刊行物1に記載された発明を前提としこれに刊行物2、3に記載された発明を適用して当業者が本件発明を容易に想到できたものとすることはできない。

したがって、本件発明は、取消しの理由で引用した上記刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

5.特許異議申立てについて

〔5-1〕特許異議申立人が提出した甲各号証に記載された発明

(5-1-1)異議申立人ローム株式会社が提出した甲各号証に記載された発明
絶縁性セラミック基板1の表面に導体パターン3が形成され、前記絶縁性セラミック基板1の両端に前記導体パターン3とつながる一対の多層構造の電極が設けられ、前記導体パターン3を覆うようにガラス層4が設けられているチップ抵抗器において、

絶縁性セラミック基板1の基板表面に抵抗体3が形成され、前記絶縁性セラミック基板1の両端に前記抵抗体3とつながる一対の多層構造の電極が設けられ、前記抵抗体3を覆うように保護膜4が設けられているチップ抵抗器において、
前記多層構造の電極は、前記絶縁性セラミック基板1の表面の端部に前記抵抗体3と直接に接続されるように形成された銀パラジウム系導電ペーストの内部電極2c、2dと、前記基板1を挟んで前記内部電極2c、2dと対向する前記基板1の裏面の位置に形成された銀パラジウム系導電ペーストの内部電極2a、2bと、前記内部電極2c、2d及び内部電極2a、2bとの両者を接続するように前記基板1の端部に設けられた銀パラジウムの端面電極5a、5bと、前記内部電極2c、2d及び内部電極2a、2b並びに前記端面電極5a、5bを全体的に覆うメッキ層6a、6b、7a、7bとを有するチップ抵抗器(第1、2図)。

取消しの理由で示した刊行物2であり、上記〔4-1〕において示したとおりの発明が記載されている。

取消しの理由で示した刊行物3であり、上記〔4-1〕において示したとおりの発明が記載されている。

絶縁基板5の基板表面に正の温度係数を有する抵抗体10、前記絶縁基板5の裏面に負の温度係数を有する抵抗体11が形成され、前記絶縁基板5の両端に前記抵抗体10、11とつながる一対の電極6、6が設けられ、前記抵抗体10、11を覆うようにオーバコート9が設けられているチップ抵抗器において、
前記一対の電極は、前記絶縁基板5の表面の端部に前記抵抗体10と直接に接続されるように形成されたAg/Pd系導電ペーストの抵抗体用電極と、前記基板5を挟んで前記抵抗体11と直接に接続されるように前記抵抗体用電極と対向する前記基板の裏面の位置に形成された抵抗体用電極と、前記基板表裏面の抵抗体用電極を接続するように前記基板5の端部に設けられた導電性樹脂4、4'とを有し、
前記基板5の表裏両面の抵抗体電極に前記導電性樹脂4、4'が僅かに重なっているチップ抵抗器(第3図)。

セラミック基板1の表面に抵抗体3が形成されたチップ抵抗器を、印刷配線基板4における銅電極5に対して半田付けする場合において、チップ抵抗器における基板1の端面に、端部電極2'を当該端部電極2'が基板1における前記印刷配線基板4側の面に形成した電極2上に僅かに重なり、半田6が前記電極2と銅電極5との隙間に入っていること(第3図)。

チップ抵抗基板の表面の両端に一対の電極が形成され、前記一対の電極に接続されるように前記基板の表面上に抵抗体が印刷形成されているチップ抵抗器において、前記基板の端面に、側面電極を導電ぺーストで形成する際、回転するローラの外周面に、軸線方向に延びる溝を設けて、この溝内に導電ペーストを充填した後、前記基板の端面を押し込むことによって、基板の端面に側面電極用の導電ペーストを塗布すること。

(5-1-2)異議申立人高橋一幸が提出した甲各号証に記載された発明
異議申立人ローム株式会社の提出した甲第2号証であり、上記(5-1-1)において示したとおりの発明が記載されている。

セラミック基板1の基板表面に抵抗膜2が形成され、前記抵抗膜を覆うようにガラス膜3が設けられ、さらにその上に樹脂モールド4により被覆されている高電圧用抵抗器。(特に、第1、2図)

取消しの理由で示した刊行物3(異議申立人ローム株式会社の提出した甲第4号証)であり、上記〔4-1〕において示したとおりの発明が記載されている。

取消しの理由で示した刊行物2(異議申立人ローム株式会社の提出した甲第3号証)であり、上記〔4-1〕において示したとおりの発明が記載されている。

取消しの理由で示した刊行物1であり、上記〔4-1〕において示したとおりの発明が記載されている。

導電粉にAgを用い、これをフェノール樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂と共に溶剤に混練したAgペイントを使用した抵抗器の電極。

アルミナ基板の基板表面に厚膜抵抗体が形成され、前記アルミナ基板の両端に前記抵抗体とつながる一対の多層構造の電極が設けられ、前記抵抗体を覆うようにオーバコートが設けられているチップ抵抗器において、
前記多層構造の電極は、前記アルミナ基板の表面及び裏面の端部に前記抵抗体と直接に接続されるように形成されたAgの1次電極と、前記1次電極と接続するように前記基板の端部に設けられたAgの2次電極と、前記1次電極と2次電極を覆うメッキ層とを有するチップ抵抗器。

エポキシ樹脂の硬化剤としてアミン類、有機酸および酸無水物が一般に用いられ、そのほかフェノール樹脂、尿素樹脂、ポリアミド樹脂なども用いられること。
エポキシ樹脂をワニスとして使用するには、1) エポキシ樹脂溶液に硬化剤としてアミン類やポリアミドを添加して室温または低温焼付ケにより硬化させる、2) 樹脂溶液にフェノール樹脂またはアミノ樹脂を混ぜたものを高温焼付ケで硬化させる 方法があること。


キシレン樹脂は・・・フェノールやカルボン酸、アミン、イソシアナートなどと反応し、変成樹脂となる。キシレン樹脂は極性基が少ないので、電気絶縁性、耐水性、耐薬品性にすぐれ、電子・電気関係、接着・粘着剤、土木・建築関係に用いられていること。

〔5-2〕対比・判断
(5-2-1)本件発明と異議申立人ローム株式会社が提出した甲各号証に記載さ れた発明との対比・判断
絶縁性セラミック基板の基板表面に抵抗体が形成され、前記絶縁性セラミック基板の両端に前記抵抗体とつながる一対の多層構造の電極が設けられ、前記抵抗体を覆うように保護コートが設けられているチップ抵抗器において、
前記多層構造の電極は、前記絶縁性セラミック基板の表面の端部に前記抵抗体と直接に接続されるように形成された第1電極と、前記基板を挟んで前記第1電極と対向する前記基板の裏面の位置に形成された第2電極と、前記第1及び第2電極とを接続するように前記基板の端部に設けられた第3電極と、前記第1及び第2電極並びに前記第3電極を全体的に覆うメッキ層とを有しているチップ抵抗器。
そして、次の各点で相違する。
(a) 電極の材料に関し、本件発明においては、第1電極及び第2電極はメタルグレーズ系のもので、第3電極はAg-レジン系のもので形成するのに対し、甲第1号証に記載された発明においては、第1電極は銀・パラジウム(Ag/Pd)を主成分とした導体ペーストで形成するものであり、第2、第3電極の材料については特に言及されていない点(以下、「相違点a」という。)。
(b) 第3電極に関し、本件発明においては、第1及び第2電極と一部重畳して両者を接続するものであるのに対し、甲第1号証に記載された発明においては、第1及び第2電極を接続するものであるが、一部重畳しているとはいえない点(以下、「相違点b」という。)。
(c) 本件発明においては、第1電極及び前記第2電極の前記第3電極が重畳しない部分と前記第3電極との間にそれぞれ段差が形成されているものであるのに対し、甲第1号証に記載された発明においては、このような段差が形成されているとはいえない点(以下、「相違点c」という。)。
(d) 本件発明においては、メッキ層は上記段差を残すように形成されているのに対し、甲第1号証に記載された発明はメッキ層が上記段差を残すように形成されているとはいえない点(以下、「相違点d」という。)。

そこで、上記相違点について検討する。
相違点cに関して、甲第5号証には、基板端面に形成される導電性の樹脂4、4'(本件発明の「第3電極」に相当。)は、その両端部がそれぞれ基板表面の一対の電極(本件発明の「第1電極」に相当。)、及び基板裏面の一対の電極の表面上に僅かに重なるように形成されており、実装用の回路基板1上に配置された状態で前記回路基板1と基板5裏面の前記一対の電極との間に隙間が形成されるように基板裏面の一対の電極の表面上に僅かに重なるチップ抵抗器が記載されているが、第3図の記載からのみでは基板5裏面の一対の電極と基板端面の導電性の樹脂4、4'(第3電極)との間にそれぞれ半田を回り込ませる段差が形成されているとまではいえない。また、甲第5号証のチップ抵抗器は基板5の裏面にも負の温度係数を有する抵抗体11が形成されるものであり、各電極は基板5の表裏面にそれぞれ形成された正及び負の温度係数を有する抵抗体10、11に接続されるもので、基板5裏面の一対の電極は本件発明の「第2電極」に相当するとはいえないものであり(むしろ、「第1電極」という方が適切である)、甲第1号証に記載された発明とは対象が異なるものである。甲第6号証には、端部電極2'(本件発明の「第3電極」に相当。)は、その端部が基板表面の一対の電極2(本件発明の「第1電極」に相当。)の表面上に僅かに重なるように形成されており、実装用の印刷配線板4上に配置された状態で前記印刷配線板4と前記一対の電極2(第1電極)との間に隙間が形成されるように僅かに重なるチップ抵抗器が記載されているが、第3図の記載からのみでは基板表面の一対の電極2(第1電極)と端部電極2'(第3電極)との間にそれぞれ半田を回り込ませる段差が形成されているとまではいえない。また、甲第6号証のチップ抵抗器は基板裏面の一対の電極(第2電極)を備えるものではない。さらに、甲第3号証には、基体の端面を覆い基体表面の一対の第1電極に接続するように一対の第2電極(本件発明の「第3電極」に相当。)を設け、第2電極が第1電極に一部重畳しているようにも見えるが、基体表面の一対の第1電極に対向するように基体裏面に一対の電極(第2電極)を設けるものではない。甲第4号証に記載された発明は、絶縁基板3の端面を覆い、その両端部がそれぞれ前記薄膜電極1(本件発明の「第1電極」に相当。)の表面上に一部重畳するように形成された銀レジン系ペーストの一対の側面電極4(本件発明の「第3電極」に相当。)が設けられるものであるが、絶縁基板表面の一対の薄膜電極(第1電極)に対向して絶縁基板裏面に一対の第2電極が設けられるものではない。
したがって、甲第1号証に記載された発明に甲第3〜6号証に記載された発明を適用しても、相違点cに係る本件発明における「第1電極及び第2電極の第3電極が重畳しない部分と前記第3電極との間にそれぞれ段差が形成されている」という構成を導出することはできない。
相違点dに関し、甲第5、6号証のいずれにも、「第1電極、第2電極及び第3電極を全体的に覆うメッキ層を段差を残すように形成する」ことは記載されていない。また、各電極に重ねてメッキ層を形成する場合、このメッキ層における膜厚を各所において均一にしたとしても、上記したように甲第1号証に記載された発明に甲第3〜6号証に記載された発明を適用しても、本件発明における「第1電極及び第2電極の第3電極が重畳しない部分と前記第3電極との間にそれぞれ段差が形成されている」という構成を導出することはできない以上、相違点dに係る本件発明における「第1電極、第2電極及び第3電極を全体的に覆うメッキ層を段差を残すように形成する」という構成を導出することはできない。
そうすると、相違点aに関し、甲第2号証に第1〜3電極を銀パラジウム系導電ペーストで形成することが、甲第3号証(取消しの理由で引用した刊行物2)に第1電極をメタルグレーズより形成することが、甲第4号証(取消しの理由で引用した刊行物3)に側面電極4(本件発明における「第3電極」に相当。)を銀レジン系のもので形成することが、それぞれ記載され、相違点bに関し、甲第5号証に基板5の表裏両面の抵抗体電極に前記導電性樹脂4、4'(第3電極)が僅かに重なっていることが、甲第6号証に基板1の端面に、端部電極2'(第3電極)を当該端部電極2'(第3電極)が基板1における前記印刷配線基板4側の面に形成した電極2(第1電極)上に僅かに重なっていることが、甲第7号証に回転するローラの外周面に軸線方向に延びる溝を設けて、この溝内に導電ペーストを充填した後前記基板端面を押し込んで基板端面の側面電極(第3電極)を形成することが、それぞれ記載されているものの、甲第1号証に記載された発明に甲第2〜7号証に記載された発明を適用しても、相違点cに係る本件発明の「第1電極及び前記第2電極の前記第3電極が重畳しない部分と前記第3電極との間にそれぞれ段差が形成されている」という構成、及び、相違点dに係る本件発明の「メッキ層は上記段差を残すように形成されている」という構成を導出することはできない。

したがって、本件発明は、異議申立人ローム株式会社の提出した甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(5-2-2)本件発明と異議申立人高橋一幸が提出した甲各号証に記載された発 明との対比・判断
本件発明と甲第1号証に記載された発明とを対比する。甲第1号証に記載された発明における、「内部電極2c、2d」、「内部電極2a、2b」、及び「内部電極5a、5b」は、それぞれ、本件発明における「第1電極」、「第2電極」、及び「第3電極」に相当する。そうすると、本件発明と甲第1号証に記載された発明とは、次の点で一致する。
絶縁性セラミック基板の基板表面に抵抗体が形成され、前記絶縁性セラミック基板の両端に前記抵抗体とつながる一対の多層構造の電極が設けられ、前記抵抗体を覆うように保護コートが設けられているチップ抵抗器において、
前記多層構造の電極は、前記絶縁性セラミック基板の表面の端部に前記抵抗体と直接に接続されるように形成された第1電極と、前記基板を挟んで前記第1電極と対向する前記基板の裏面の位置に形成された第2電極と、前記第1及び第2電極とを接続するように前記基板の端部に設けられた第3電極と、前記第1及び第2電極並びに前記第3電極を全体的に覆うメッキ層とを有しているチップ抵抗器。
そして、次の各点で相違する。
(a) 電極の材料に関し、本件発明においては、第1、2電極をメタルグレーズ系のもので、第3電極をAg-レジン系のもので形成するのに対し、甲第1号証に記載された発明においては、内部電極2c、2d(第1電極)、内部電極2a、2b(第2電極)、端面電極5a、5b(第3電極)を銀パラジウム系導体ペーストで形成する点(以下、「相違点a」という。)。
(b) 第3電極に関し、本件発明においては、第1及び第2電極と一部重畳して両者を接続するものであるのに対し、甲第1号証に記載された発明においては、第1及び第2電極を接続するものであるが、一部重畳しているとはいえない点(以下、「相違点b」という。)。
(c) 本件発明においては、第1電極及び前記第2電極の前記第3電極が重畳しない部分と前記第3電極との間にそれぞれ段差が形成されているものであるのに対し、甲第1号証に記載された発明においては、このような段差が形成されているとはいえない点(以下、「相違点c」という。)。
(d) 本件発明においては、メッキ層は上記段差を残すように形成されているのに対し、甲第1号証に記載された発明はメッキ層が上記段差を残すように形成されているとはいえない点(以下、「相違点d」という。)。
そこで、上記相違点について検討する。
相違点cに関して、甲第5号証(取消しの理由で示した刊行物1)には、導電性ペイント膜10、10の形成後金属キャップ11を被せる代わりに、Ni-Cu電極膜をスパッタや蒸着によって形成してもよいことも記載されている(第2頁左下欄を参照。)が、金属キャップに替えてNi-Cu電極膜を形成しようとする際、該電極膜は甲第5号証の第1図(c)における金属キャップと同様の形状で形成されるものとは考え難く、むしろ、甲第5号証における第1図(b)の状態の導電性ペイント膜10、10を該電極膜で覆うと考える方が技術的にみて妥当であり、この場合、導電性ペイント膜10、10(第3電極)の形状を参酌すると、「基板1表面側の電極5a、5a(第1電極)及び基板裏面側の電極5c、5c(第2電極)の導電性ペイント膜10、10(第3電極)が重畳しない部分と前記導電性ペイント膜10、10(第3電極)との間に段差が形成されて」いるチップ抵抗器を得ることはできないものである。したがって、甲第1号証に記載された発明に甲第5号証に記載された発明を適用しても、本件発明の「第1電極及び前記第2電極の前記第3電極が重畳しない部分と前記第3電極との間にそれぞれ段差が形成されている」構成を得ることはできない。
相違点dに関して、甲第3号証(取消しの理由で引用した刊行物3)、甲第4号証(取消しの理由で引用した刊行物2)には、チップ抵抗器において絶縁性セラミック基板の基板表面の第1電極とこの第1電極に接続され基板端面に形成される側面電極(甲第3号証では側面電極4、甲第4号証では第2電極5)を覆うようにメッキ層(甲第3号証ではメッキ電極層6、甲第4号証では第3電極6)を形成することが記載されているが、上記したように甲第5号証に記載された発明において導電層部である金属キャップに替えてそのままの形状で電極膜として形成することができない以上、甲第1号証に記載された発明に甲第5号証に記載された発明を適用する場合、基板端部の導電層部である金属キャップと同様の形状で甲第3、4号証に記載された発明のようにメッキ層として形成することは当業者にとって容易になし得たものとすることはできないというべきである。
なお、甲第3号証に記載された発明は、絶縁基板3の端面を覆い、その両端部がそれぞれ前記薄膜電極1、1(本件発明の「第1電極」に相当。)の表面上に一部重畳するように形成された銀レジン系ペーストの一対の側面電極4、4(本件発明の「第3電極」に相当。)が設けられるものであるが、本件発明のように絶縁基板表面の一対の薄膜電極(第1電極)に対向して絶縁基板裏面に一対の第2電極が設けられるものではないので、本件発明における「第2電極の第3電極が重畳しない部分と第3電極との間に段差が形成されており、メッキ層はこの段差を残すように形成されている」という構成を開示乃至示唆するものではない。
そうすると、相違点aに関し、甲第3号証に側面電極4(本件発明の「第3電極」に相当。)を銀レジンペーストで形成することが記載され、甲第4号証に第1電極をメタルグレーズ系の導電材料で形成することが記載され、相違点bに関し、甲第3、4号証に、絶縁性セラミック基板の基板表面の第1電極と一部重畳するように該第1電極に接続され基板端面に形成される側面電極(甲第3号証では側面電極4、甲第4号証では第2電極5)を設けることが記載されているものの、甲第1号証に記載された発明に甲第3〜5号証に記載された発明を適用しても、相違点cに係る本件発明の「第1電極及び前記第2電極の前記第3電極が重畳しない部分と前記第3電極との間にそれぞれ段差が形成されている」という構成、及び、相違点dに係る本件発明の「メッキ層は上記段差を残すように形成されている」という構成を導出することはできない。

したがって、本件発明は、異議申立人高橋一幸の提出した甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

〔5-3〕むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-04-01 
出願番号 特願平10-12536
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 下野 和行今井 義男平塚 義三北村 明弘井上 信一  
特許庁審判長 片岡 栄一
特許庁審判官 吉村 宅衛
治田 義孝
登録日 2000-10-06 
登録番号 特許第3118509号(P3118509)
権利者 北陸電気工業株式会社
発明の名称 チップ抵抗器  
代理人 東野 正  
代理人 飯田 凡雄  
代理人 石井 暁夫  
代理人 西浦 ▲嗣▼晴  
代理人 西 博幸  

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