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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D21H
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  D21H
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  D21H
管理番号 1058274
異議申立番号 異議2000-71425  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-11-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-04-06 
確定日 2002-04-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第2960333号「剥離シートの製造方法」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2960333号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.経緯
特許出願 平成7年4月26日
特許設定登録 平成11年7月30日
特許異議の申立て
申立人ダウ コーニング アジア株式会社
平成12年4月6日
申立人東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社
平成12年4月6日
取消理由通知 平成12年8月2日
訂正請求及び特許異議意見書 平成12年10月12日
訂正拒絶理由通知 平成13年10月4日
意見書 平成13年12月14日

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正請求には、次の訂正事項bが含まれている。
訂正事項b
特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項2を次の如く訂正する。
【請求項2】循環用ポンプを用いて塗工液を循環使用すると共に、該循環用ポンプの前部及び/又は後部に、前記塗工液と非反応性の脱水剤を用いた脱水処理部を配することによって前記塗工液中の水分を制御する、請求項1に記載された剥離シートの製造方法。

(2)新規事項の有無について
訂正事項bには、塗工液と非反応性の脱水剤を用いた脱水処理部を、循環用ポンプの前部及び/又は後部に配するという技術的事項を加入する訂正が含まれるものと認められるが、この技術的事項は、願書に添付された明細書又は図面に記載された事項であるとは認められない。
すなわち、「循環用ポンプの前部及び/又は後部に配する」とは、循環用ポンプの前部、循環用ポンプの後部、循環用ポンプの前部及び後部の3種の配置態様が存在することを意味すると認められる。
これに対し、特許明細書には、上記技術的事項に関しては、段落【0007】に、「本発明において、塗工液中の水分を200ppm以下に維持管理するに際しては、効率を高める観点から、塗工液のパン部と循環用ポンプの間、或いは循環用ポンプと塗工液供給部の間のいずれかの部分に脱水処理部を設けることが好ましい」と記載され、図1中に、循環用ポンプと塗工液供給部の間に脱水処理部を設けた例が記載されているだけで、これらの記載からは、脱水処理部を循環用ポンプの前部に配設すること、循環用ポンプの後部に配設することが記載されているだけで、循環用ポンプの前部及び後部の両方に脱水処理部を配設することは記載されていないものと認められる。
この点に関し、特許権者は、平成13年12月14日付の意見書において、「塗工液のパン部と循環用ポンプの間」のみならず、「循環用ポンプと塗工液供給部の間」にも脱水処理部を配することが技術的に許容される以上、この両方に脱水処理部を配することも技術的に許容されると解することは、本件発明1のように、特段の事情が無い限り技術的常識であり、文言上は明記されていないとしても、発明という技術的思想の創作の内容を記載する明細書であればこそ、事実上両方に配する態様も記載されていると解することが妥当である旨を主張していると認められる。
しかし、ある技術的構成を有することが技術的に許容されると解されることと、その技術的構成が記載されていると同等に明示されているということとは異なるものであり、循環用ポンプの前後部両方に脱水処理部を配するという技術的構成は、前者の範疇には属すると認められるものの、上記段落【0007】の記載から必然的に導き出される技術的事項であるとは認められないので、記載されていると同等に明示されているとはいえず、段落【0007】に記載されたものとは認められない。
したがって、訂正事項bを含む訂正は、特許明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされた訂正であるとは認められない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しないので、当該訂正を認めない。

3.特許異議申立について
(1)請求項1ないし2に係る発明
上記のとおり訂正請求は認められないので、本件請求項1ないし2に係る発明(以下、本件発明1ないし2という)は、願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された下記のとおりのものと認められる。
【請求項1】少なくとも、シート状基材表面に、塗工液パンから供給された、溶剤で希釈された、硬化性シリコーン組成物からなる塗工液を塗布した後、加熱・乾燥する工程を含む剥離シートの製造方法において、前記塗工液パンから供給される塗工液中の水分を200ppm以下に維持させることを特徴とする剥離シートの製造方法。
【請求項2】塗工液中の水分制御が、塗工液と非反応の脱水剤を用いてなされる請求項1に記載された剥離シートの製造方法。

(2)特許異議申立の概要
(2)-1
特許異議申立人ダウ コーニング アジア株式会社(以下、申立人Aという)は、甲第1号証(特開平7-82698号公報)、甲第2号証(米国特許第5,162,407号明細書)、甲第3号証(関東化学株式会社カタログ「KANRO CHEMICALS NO.17」第1056頁、平成4年9月21日発行)を提出して、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、また、請求項1ないし2に係る発明は、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、本件特許明細書は、発明の構成と効果の関係が不明確であるから、特許法第36条の規定を満たしていないので、本件請求項1ないし2に係る特許は、特許法第113条第1項第2号及び第4号の規定により取り消されるべき旨、主張している。
(2)-2
特許異議申立人東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社(以下、申立人Bという)は、
甲第1号証(「シリコーンハンドブック 伊藤邦雄編」第517-544頁、日刊工業新聞社、1990年8月31日発行)、甲第2号証(特公平3-52498号公報)、甲第3号証(第9回環境シンポジウム(昭和57年2月23日、紙パルプ会館で開催)の講演資料、第10-19頁)、甲第4号証(特開平7-82698号公報)、甲第5号証(「KANTO CHEMICALS NO.17」第1056頁、関東化学株式会社、1992年)、甲第6号証(「別冊化学工業 Vol28,No15」第187-196頁、1984年)を提出して、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また、甲第1及び第3号証記載の発明又は甲第2及び第3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定又は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、請求項2に係る発明は、甲第1、第3及び第6号証記載の発明、甲第1、第3、第4もしくは第5及び第6号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項第1ないし2に係る特許は、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべき旨、主張している。

(3)甲各号証の記載
(3)-1 申立人Aの提出した甲第1ないし3号証の記載
甲第1号証には、再生紙化可能な離型紙及びその製造方法の発明が記載されるとともに、
「【0047】実施例2
1(実際は1は○で囲まれている)下塗り層形成用の塗工剤
実施例1で得られた粘度5000センチポイズの縮合処理されたシラン変性アタクチックポリプロピレンを165℃で溶融させ、これにタルクを40重量%添加して撹拌し、下塗り層形成用の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の180℃での粘度は28000センチポイズである。
【0048】2(実際は2は○で囲まれている)離型紙の製造
1(実際は1は○で囲まれている)で得られた樹脂組成物を180℃でファンテンコーター(リップ幅:250m/m)にて米坪70g/m2のクラフト紙からなる離型紙用の紙基材の表面に塗布量20g/m2で塗工することにより、目止め層としての下塗り層を形成した。
【0049】続いて、前記下塗り層面にコロナ放電処理を行ない、該面の濡れ張力を40dyn/cmにした後、12重量%のシリコン樹脂「信越化学(株):KS719」の脱水トルエン溶液を、1.8g(dry)/m2に塗布、乾燥し、シリコン樹脂層からなる離型層を形成することにより、本発明の実施例品である離型紙を得た。」(第5頁第8欄)が記載されていると認められる。

甲第2号証の第7欄9-16行には、シリコーン樹脂を含むシーラント組成物の溶剤溶液が、水を吸収すると早期架橋をおこすので、溶剤を混合する前には、溶剤中に水を含まれないように注意する必要があり、溶剤中に水が含まれないようにするため、シリカゲルや硫酸ナトリウムなどの当業者に周知の脱水剤を用いることが記載されていると認められる。
『吸水傾向も溶剤を選択する上での一要因である。成分中の水の存在は組成物の早期架橋をおこし製品の品質を低下させる。溶剤を混合する前には、溶剤中に水を含まれないように注意する必要があり、そのため、シリカゲルや硫酸ナトリウムなどの当業者に周知の脱水剤を用いること』が記載されていると認められる。

甲第3号証の第1056頁には、「脱水トルエン」(Toluene Dehydrated)が開示されており、特に商品番号40500-05のものは水の最大含有率が0.003%すなわち300ppmである旨が記載されていると認められる。

(3)-2 申立人Bの提出した甲第1ないし6号証の記載
甲第1号証には、
「14.1.1剥離紙用シリコーンとその用途
紙やプラスチックフィルム表面に,離型性にすぐれるシリコーン硬化皮膜を形成した離型シートは,剥離紙あるいはセパレーターと呼ばれ,粘着加工製品に広く応用されている。」(第518頁第9-12行)、
「剥離紙用シリコーンの硬化は,加熱により硬化反応させるものが主であるが」(第518頁末行)、
「(1)縮合反応型シリコーン
……溶剤型は,通常固形分濃度30%のものが市販されているが,これをトルエン,n-ヘキサン,ミネラルスピリット等で固形分2〜10%程度に希釈し,触媒を添加して使用する。
縮合反応型は付加反応型に比較し,反応速度が遅く,高温長時間の硬化を必要とすること,基材の両面に塗工したものではブロッキングをおこしやすいなどの理由で,近年その使用割合が減少してきている。」(第520頁表14.2の下第4行-第521頁第12行)、
「(2)付加反応型シリコーン
……溶剤型は,通常固形分濃度30%のものが市販されている。これを固形分2〜10%程度にトルエン,n-ヘキサンなどで希釈し触媒を加えて使用する。近年,溶剤の使用量減少を目的として,固形分濃度10〜30%で塗工する高濃度塗工タイプも市販されている。
……わが国では溶剤希釈タイプの付加反応型が,剥離紙用シリコーンの約70%を占めている。」(第522頁表14.3の下第1行-第524頁表14.5の下第1行)、
「無溶剤型シリコーンの塗工は,溶剤型シリコーンの塗工方式(ダイレクトグラビアコーター,バーコーター,エアナイフコーター等)では,1.0g/m2以下の塗工はむずかしく,多段ロール方式,グラビアオフセット方式が世界の主流となっている(図14.1参照)。」(第524頁表14.5の下第7-11行)が記載されるとともに、第525頁の図14.1シリコーンの塗工方法には、オフセットグラビアコーター及び多段ロールコーターが記載されていると認められる。

甲第2号証には、
剥離性被膜形成用組成物に係る発明が記載されるとともに、
「本発明において主成分として使用可能な付加反応型ポリジオルガノシロキサン組成物は……通常の次の3成分から構成されている。
成分(a):1分子中に少なくとも2個のケイ素結合ビニル基を有するポリジオルガノシロキサン
成分(b):1分子中に少なくとも2個のケイ素結合水素を有するポリオルガノハイドロジエンシロキサン
成分(c):白金系触媒
……以上の3成分からなる当該ポリジオルガノシロキサン組成物は、一般には使用に際して共通の有機溶剤に溶解されて液状組成物の形態とされる。ここに用いられる有機溶剤としてはトルエン、キシレン、トリクロロエチレン、n-ヘキサン等がある。」(第4蘭第9行-第5蘭第26行)、
「得られた剥離性被膜形成用組成物は、一般の紙、加工紙、プラスチックフイルムなどの基材に公知の塗布方法、例えば浸漬法、ローラ法、スプレー法、ドクターナイフ塗りなどによって塗布する。塗布後一般には温度80〜200℃で5〜60秒間加熱することによって、塗膜を硬化させ、……経時安定性の優れた剥離性被膜を基材に形成することができる。」(第7欄第14-23行)、
「実施例1
〔成分(a)〕分子鎖末端がビニルジメチルシリル基で封鎖されビニルメチルシロキサン単位を2モル%を有するポリジメチルシロキサンガムの30重量%トルエン溶液(……)15部に、……ポリメチルフエニルシロキサンの30重量%トルエン溶液の1部と、
〔成分(b)〕……ポリメチルハイドロジエンシロキサンの5重量%トルエン溶液1.6部と、……
〔成分(c)〕塩化白金酸-ビニルシロキサン錯体(白金含有率0.6重量%)の10重量%トルエン溶液0.8部と、を混合し、さらにトルエンを加えて全体を100部として処理液を調整した。これを「処理液1」とする。」(第8蘭第8-29行)、
「処理液1……を、ポリエチレンラミネートクラフト紙より成る基材の一面にシロキサン分が0.8g/m2の割合となるように塗布し、温度140℃で30秒間加熱処理し、これにより硬化された剥離性被膜を形成し、以って剥離性シートを作成した。」(第8蘭第42行-第9蘭第3行)が記載されていると認められる。

甲第3号証には、
「製造販売品目は次の通りです。
1)剥離紙(離型紙)、ハクリフイルム」(第10頁第6-7行)、
「シリコン樹脂塗工液の調合用溶剤としてトルエンを多量に使っている。」(第10頁第22-23行)、
「題名は……厳密には”シリコン樹脂塗工紙加工における使用トルエンの回収、再使用”ということになります。」(第10頁第14-16行)、
「(3)回収トルエンの含有水分;
……2(2は実際には○で囲まれている)脱水装置をとりつけた場合;100ppm以下(常温)」(第13頁第15-17行)、
「5.回収トルエンの物性と実用テストの結果
1)回収トルエンの物性;パイロットプラントに依る予備実験の結果を表1に……示す。
2)実用テストの結果.……加工紙用シリコンには付加反応型と縮合反応型があるがキュアー阻害要因のひとつに水分(湿気)があげられている。」(第17頁下から第2行-第18頁第10行)が記載されるとともに、
第18頁の表1には、購入トルエンの含有水分(ppm)が脱水前190、脱水後150であり、回収トルエンの含有水分(ppm)が脱水前150ないし50、脱水後10〜150であることが記載されていると認められる。

甲第4号証には、
再生紙化可能な離型紙及びその製造方法の発明が記載されるとともに、
「【0047】実施例2
1(実際は1は○で囲まれている)下塗り層形成用の塗工剤
実施例1で得られた粘度5000センチポイズの縮合処理されたシラン変性アタクチックポリプロピレンを165℃で溶融させ、こ再生紙化可能な離型紙及びその製造方法の発明が記載されるとともにれにタルクを40重量%添加して撹拌し、下塗り層形成用の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の180℃での粘度は28000センチポイズである。
【0048】2(実際は2は○で囲まれている)離型紙の製造
1(実際は1は○で囲まれている)で得られた樹脂組成物を180℃でファンテンコーター(リップ幅:250m/m)にて米坪70g/m2のクラフト紙からなる離型紙用の紙基材の表面に塗布量20g/m2で塗工することにより、目止め層としての下塗り層を形成した。
【0049】続いて、前記下塗り層面にコロナ放電処理を行ない、該面の濡れ張力を40dyn/cmにした後、12重量%のシリコン樹脂「信越化学(株):KS719」の脱水トルエン溶液を、1.8g(dry)/m2に塗布、乾燥し、シリコン樹脂層からなる離型層を形成することにより、本発明の実施例品である離型紙を得た。」が記載されていると認められる。

甲第5号証には、
「Toluene,Dehydrated CH3C6H5…92.14 トルエン(脱水)……water:0.003%maxΔ」(第1056頁第25-26行)が記載されていると認められる。

甲第6号証には、
「活性アルミナ,合成ゼオライトなどの固体吸着剤は液体の脱水操作に多量に使用されている。」(第187頁第4行)、
「表-1に吸着操作による液体脱水装置の用途を数例示す。表-2に主原料と入口および出口の水分量を示す。」(第187頁下から第2-1行)、
「ベンゼンなどの芳香族炭化水素の脱水に使用される吸着剤としては,活性アルミナ,活性ボーキサイト,合成ゼオライト,活性アルミナシリカ系吸着剤など種々な吸着剤が使用されている。」(第191頁第12-13行)が記載されるとともに、
第188頁の表-2「出入口水分含量の実例」中には、n-ヘキサンの脱水目的では出口の不純物含有量がH2O 1ppm、トルエン,ヘキサン混液の脱水目的では出口の不純物含有量がH2O 5ppmであることが記載されていると認められる。

(4)申立人の主張する理由についての判断
(4)-1 申立人Aの主張について
(4)-1-1 特許法第36条の規定を満たしていないという点について
申立人Aの主張の具体的理由は、1)本件明細書には、シリコーン溶液の粘度をどの程度以下に抑えないと塗工量のバラツキ、硬化性の低下、接着性の低下が起こるのか、について全く記載されておらず、2)実施例ではどのような具体的手段により特定の含水量に維持しているのか記載されていないので、本件発明における塗工液の含水量を200ppm以下に維持するという点に特に意味があるものと解することができない。したがって、本件明細書は、その構成および効果の関係が不明瞭であるというものと認められる。
しかし、シリコーン溶液の粘度は本件発明1及び2の構成に欠くことのできない事項ではなく、また、この粘度と塗工量のバラツキ、硬化性の低下、接着性の低下との関係が明示されていないと本件発明1及び2の実施が困難であるとも認められないので、1)の点に基づいた、本件明細書の記載が不備である旨の主張は採用できない。
そして、明細書の実施例1ないし5及び比較例1ないし3の記載を比較してみれば、本件発明1及び2は、塗工液中の水分を制御することにより所期の目的を達成していることが認められ、また、塗工液中の含水量の調整は、含水量の計測や、脱水剤の量の調節を行うことにより当業者が適宜実施できる程度のことと認められるから、塗工液の含水量を200ppm以下に維持することは技術的に意味があると認められる。
したがって、本件明細書は構成及び効果が不明瞭であるいう、申立人Aの主張は認められない。

(4)-1-2 特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項違反について
[本件発明1について]
甲第1号証には、クラフト紙からなる離型紙用の紙基材の表面に下塗り層を形成し、その表面に、シリコン樹脂の脱水トルエン溶液を、塗布、乾燥し、シリコン樹脂層からなる離型層を形成することにより、離型紙を得る方法の発明が記載されていると認められる。
本件発明1(前者)と甲第1号証に記載された発明(後者)とを対比すると、クラフト紙からなる離型紙用の紙基材はシート状基材であるから、
両者は、少なくとも、シート状基材表面に、溶剤で希釈された、硬化性シリコーン組成物からなる塗工液を塗布した後、加熱・乾燥する工程を含む剥離シートの製造方法である点で共通しており、
a前者が塗工液パンから供給された塗工液を塗布するのに対し、後者ではこの点が明示されていない点、
b前者が塗工液パンから供給される塗工液中の水分を200ppm以下に維持させるのに対し、後者ではこの点が明示されていない点の2点で相違していると認められる。
aの点について検討する。
紙基材の表面に塗工液を塗布する場合に、塗工液パンを有する塗工装置を用いることは従来周知のことであるから(例えば、申立人Bの提出した、甲第1号証を参照)、このような周知の塗工装置を用いて塗工液を塗布することは、当業者が容易に実施できることと認められる。
bの点について検討する。
甲第2ないし3号証には、塗工液パンから供給される塗工液中の水分を200ppm以下に維持させることについては記載されておらず、その示唆もされていない。
すなわち、甲第2号証には、シリコーン樹脂を含むシーラント組成物の溶剤溶液が、水を吸収すると早期架橋をおこすので、溶剤を混合する前には、溶剤中に水を含まれないように注意する必要があり、溶剤中に水が含まれないようにするため、シリカゲルや硫酸ナトリウムなどの当業者に周知の脱水剤を用いることが記載されていると認められるが、この記載は、塗布工程に先立つ塗布液の調整時における溶剤中の水分含量について述べているのみで、塗工作業中における塗工液の水分吸収とその防止については、何も記載されておらず、その示唆もない。
また、甲第3号証にも、「脱水トルエン」の水の最大含有率が記載されているだけで、塗工作業中における塗工液の水分吸収とその防止については、何も記載されておらず、その示唆もない。
そして、本件発明1は、相違点bの技術的事項を有することにより、明細書に記載された、「現に行われている実施工程中に脱水処理部を付加するだけで実施することができ、他の装置を必要としない上、硬化性や、基材への接着性を安定化させるので、容易に、均質な剥離材を効率よく製造することができる」という効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

[本件発明2について]
本件発明2は、本件発明1をさらに技術的に限定したものであるから、本件発明1についての判断と同一の理由により、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(4)-2 申立人Bの主張について
[本件発明1について]
甲第1号証には、少なくとも、紙やプラスチックフィルム表面に、多段ロールコーター等の塗工液パンを有する塗工装置を用いて、塗工液パンから供給された、トルエン等の溶剤で希釈された、硬化性シリコーン組成物からなる塗工液を塗布した後、加熱・乾燥する工程を含む剥離シートの製造方法が記載されていると認められる。
本件発明1(前者)と甲第1号証に記載された発明(後者)とを対比すると、後者の紙やプラスチックフィルムは前者のシート状基材に相当するから、
両者は、少なくとも、シート状基材表面に、塗工液パンから供給された、溶剤で希釈された、硬化性シリコーン組成物からなる塗工液を塗布した後、加熱・乾燥する工程を含む剥離シートの製造方法である点で共通しており、
前者が塗工液パンから供給される塗工液中の水分を200ppm以下に維持させるのに対し、後者ではこの技術的事項が明示されていない点で相違していると認められる。
なお、申立人Bは、甲第2、3号証を参照すれば、購入トルエンで希釈された、硬化性シリコーン組成物からなる塗工液の含水量は200ppmより少なくなるから、甲第1号証には塗工液パンから供給される塗工液中の水分を200ppm以下に維持させることが記載されている旨を述べているが(特許異議申立書第9頁)、本件発明1における、塗工液中の水分を200ppm以下に維持させるとは、塗工作業中全体に亘って水分含量を調節するものであると認められるのに対し、甲第1号証に記載された発明においては、塗工開始時の塗工液中の水分が200ppm以下であると推定することができるというだけで、塗工作業中全体に亘って塗工液中の水分を200ppm以下に維持するものとは認められない。
相違点について検討する。
甲第2号証には、甲第1号証と同様な発明が記載されていると認められるが、塗工液パンから供給される塗工液中の水分を200ppm以下に維持させることは、記載も示唆も認められない。
甲第3号証には、「加工紙用シリコンには付加反応型と縮合反応型があるがキュアー阻害要因のひとつに水分(湿気)があげられている」が記載されていると認められるが、これは溶剤である回収トルエンについての記載であって、塗工作業中での塗工液の吸水とその防止についての記載ではなく、それを示唆するものでもない。
さらに、甲第3号証には、購入トルエンの含有水分が脱水前で190ppm、脱水後で150ppmであることが記載されているが、この購入トルエンを甲第1号証に記載された発明の塗工液溶剤として用いたとしても、上記したように、塗工開始時の塗工液中の水分が200ppm以下となるだけで、塗工作業中全体に亘って塗工液中の水分を200ppm以下に維持するものとは認められない。
そして、本件発明1は、相違点に係る技術的事項を有することにより、明細書に記載された、「現に行われている実施工程中に脱水処理部を付加するだけで実施することができ、他の装置を必要としない上、硬化性や、基材への接着性を安定化させるので、容易に、均質な剥離材を効率よく製造することができる」という効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1及び3号証に記載された発明、又は、甲第2及び3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

[本件発明2について]
本件発明2は、本件発明1をさらに技術的に限定したものであり、甲第1ないし3号証に加え、甲第4ないし6号証にも、塗工液パンから供給される塗工液中の水分を200ppm以下に維持させることについては記載も示唆もされていないと認められるので、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1、第3及び第6号証記載の発明、甲第1、第3、第4もしくは第5及び第6号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
 
異議決定日 2002-03-29 
出願番号 特願平7-127256
審決分類 P 1 651・ 121- YB (D21H)
P 1 651・ 534- YB (D21H)
P 1 651・ 531- YB (D21H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 真々田 忠博  
特許庁審判長 小林 正巳
特許庁審判官 石井 克彦
喜納 稔
登録日 1999-07-30 
登録番号 特許第2960333号(P2960333)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 剥離シートの製造方法  
代理人 川島 利和  
代理人 滝田 清暉  
代理人 久保田 芳譽  
代理人 友松 英爾  

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