• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01J
管理番号 1058276
異議申立番号 異議2001-70429  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-02-07 
確定日 2002-05-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第3074375号「集束イオンビーム加工装置および集束イオンビーム加工方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3074375号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 同請求項5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3074375号の請求項1ないし5に係る発明についての出願は、平成8年8月8日に特許出願され、平成12年6月9日にその発明について特許の設定登録がなされた後、平成13年2月7日付けで特許異議申立人株式会社日立製作所より請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てがなされ、平成13年5月16日付けで請求項1ないし5に係る特許に対する取消理由通知がなされ、平成13年7月30日付けで訂正請求がなされたが、平成13年9月28日付けで訂正拒絶理由通知がなされ、平成13年12月14日付けで訂正請求は取り下げられた。また、平成13年12月14日付けで上申書が提出された。

2.特許異議申立てについての判断
2-1 本件発明
特許第3074375号の請求項1ないし5に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】 集束イオンビームを用いた試料加工において、ある所定の深さを加工するためのイオンビーム照射回数を決定するにあたり、あらかじめある特定材質の加工試料に対して、ある特定電圧での、イオンビーム電流、イオンビーム走査速さ、加工体積、イオンビーム照射回数の関係式を求めておき、次に前記特定材質の実際に加工する試料に対し、この時のイオンビーム電流、イオンビーム走査速さ、加工体積から前記計算式に基づいてイオンビーム照射回数を求め、該照射回数にて試料を加工することにより所定の深さをエッチング除去することを特徴とする集束イオンビーム加工方法。
【請求項2】 前記試料が半導体素子である請求項1記載の集束イオンビーム加工方法。
【請求項3】 前記試料が薄膜磁気ヘッド素子である請求項1記載の集束イオンビーム加工方法。
【請求項4】 集束イオンビームを試料上に照射、走査し、発生する二次粒子を画像データとして取り込む手段と、前記画像データ上で加工領域を指定する手段と、ある特定材質の試料に対して前記加工領域内で所定の深さ加工する時の、加工条件と加工フレーム数の関係式を求める手段と、前記関係式に基づき、前記特定材質の実際の試料に対して所望の加工深さに対する加工フレーム数を設定する手段とよりなり、前記加工フレーム数だけ集束イオンビームを照射しエッチング加工することを特徴とする集束イオンビーム加工装置。
【請求項5】 集束イオンビームを用いた試料加工方法において、
集束イオンビームを試料に照射した時に試料表面から放出される二次荷電粒子にの(「の」の誤記と認められるので、以下「の」と訂正する。)検出により加工終点がわかり、かつ、膜厚が既知のある特定材質の加工試料を用いて、ある特定の電圧で、あるイオンビーム電流、画素間隔、イオンビーム走査速さで、前記膜厚に相当する加工深さに集束イオンビームにてエッチング加工する工程と、
前記加工した時の加工フレーム数を計測し、前記イオンビーム電流、画素間隔、イオンビーム走査速さ、加工フレーム数、加工深さとの関係を加工定数として求める工程と、
前記特定材質の実際の試料を加工する際の、イオンビーム電流、画素間隔、イオンビーム走査速さ、所望の加工深さと前記求めた加工定数により、加工フレーム数を求める工程と、
前記加工フレーム数だけ集束イオンビームを照射してエッチング加工する工程と、
よりなる所望の深さをエッチング除去する集束イオンビーム試料加工方法。

2-2 引用刊行物に記載された発明
(ア)当審が平成13年5月16日付けで通知した取消しの理由で引用した引用刊行物
刊行物1:特開平07-111142号公報
刊行物2:「電子材料 1991年別冊」[集束イオンビーム装置]p87-91
刊行物3:「NIKKEI ELECTRONICS」(1991-9-30) p96-106
刊行物4:特開昭63-241953号公報
刊行物5:特開平05-198282号公報
刊行物6:特開平05-289310号公報

(イ)引用刊行物に記載の事項
上記刊行物1には、
(1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、細く絞ったイオンビームを被加工材料上で走査し、被加工材料の加工を行うようにした集束イオンビームによる加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】集束イオンビームを用いた加工では、イオン源からのイオンビームを集束レンズによって被加工材料上に細く集束すると共に、加工部分でイオンビームをステップ状に2次元走査させている。この時、イオンビームをステップ動作により偏向走査して、イオンビーム照射を行うに当たり、所望ドーズ量を与えるステップ送り周波数(加工周波数)と走査の繰り返し数(フレーム数)を定め、この周波数でのステップ動作による偏向走査(フレーム走査)を繰り返し行うことで、イオンビームによる加工を行っている。通常は、この加工周波数は固定であり、希にオフラインで非連続的に設定されることがある。」(第2頁左欄第21行〜同第37行)
(2)「【0006】
【作用】最初に、イオンビームによる矩形エッチング加工を例として加工周波数の説明を行う。集束イオンビーム装置における加工周波数fとは、被加工材料上の一点にイオンビームを照射する時間(1/f)の逆数であり、加工時のイオンビームの走査スピードを定義している。今、加工幅x、奥行きyの加工をこの加工領域(x×y)全体に集束スポットイオンビームの照射をs間隔ごとに実行することによって行う場合を想定する。この場合、加工領域全域に1回イオンビームの照射を行う時間tf(1フレームの加工時間)は、次のように表される。
【0007】tf=x・y/(s2・f)
この1フレームのイオンビーム照射で深さdまで加工されたとする。フレーム照射の繰り返し数をnとするとき、トータルの加工時間tTと加工深度Dは次のようになる。
【0008】D=n・d
tT=n・tf
上式から実験的にエッチングレートεが求められる。
【0009】ε=x・y・D/(tT・Ip)
上式でIpはイオンビームのプローブ電流である。良く知られているように、実験的にはエッチングレートεは加工される物質Mの関数であり、プローブ電流による依存性は、ある電流密度の範囲では少ない。従って、ある物質の加工を行う場合、今までの集束イオンビーム装置の場合、常に一定のεを考慮して、加工周波数fをある値に固定し、他の加工パラメータであるプローブ電流Ip、繰り返し走査回数n、1フレームの加工時間tfなどを適宜選択していた。」
(第2頁右欄第12行〜同第41行)
(3)「【0011】すなわち、コンピュータの中に加工したい材料のエッチングレートのデータを入力しておく。次に、加工したい立体面の式または数値入力を端末を用いて行う。コンピュータなどで加工領域についての各点ごとに相当するドーズ量を与えるための加工周波数f(x,y)とフレーム数nを、入力されているエッチングレートやプローブ電流などの値を用いて計算させて、これを出力させて各点ごとにそれぞれ相当するビーム照射時間(加工周波数)を適用させることで、加工速度を各点ごとにそれぞれ定義させる。これをフレーム数nだけ繰り返すことによって、自由な形の立体成形加工が可能となる。次に、どのようにf(x,y)を計算するかについて、簡単な例を用いてより詳細に説明する。
【0012】ここで、図1に示すように、材料Mに関数z=Z(x,y)<0で表すことができる自由曲線を、電流Ip、フレーム数nで、加工する場合のf(x,y)の値を近似計算で示す。なお、この座標系のzの原点は、加工前の材料の表面とする。また、ここでは、計算の簡略化のため、スポットビームの照射間隔sとして、ビーム電流はs2の正方形の中だけに均等に分布しているとする。更に、エッチングレートεは、周波数によらないでε0と仮定すると、前記した式により、加工深さDは、次のように表すことができる。
【0013】
D=ε0・Ip・n/[s2・f(x,y)]
この結果、次の式が成り立つ。
Z(x,y)=-ε0・Ip・n/[s2・f(x,y)]
したがって、f(x,y)は次のようになる。
【0014】
f(x,y)=-ε0・Ip・n/[s2・Z(x,y)] …(1)
上記の計算は、エッチングレートが加工周波数によらないとした場合である。理論的には、エッチングレートは、イオンの質量数、加速エネルギー、電流密度、材料の材質(化学組成、化学結合エネルギーなど)や温度などによって左右されると考えられる。ここでは、イオンビームの条件と材料を固定して、エッチングレートと材料温度との関係を考える。材料温度を上げれば、エッチングレートは、結合エネルギーの減少により、上がると考えられるため、全体の加工時間tTを一定にして、エッチングレートεの加工周波数依存性の実験を、非常に広い周波数範囲で実行した。加工周波数が低ければ、加工点での局所的な到達温度は、加工周波数が高いときに比べて、高くすることかできると考えられるからである。この結果を図2に示す。
【0015】この図2から明らかなように、エッチングレートは、加工周波数がある値以下になると、大きな周波数依存性を示す。これは、今まで物質によってほぼ一定値として扱ってきたエッチングレートεがかなりの広い範囲で変えることができることを示すものである。
今、エッチングレートεの加工周波数依存性をε(f)で表すと、式(1)は、次のように書き表すことができる。
【0016】
f(x,y)=-ε(f)・Ip・n/[s2・Z(x,y)]…(2)
(第2頁右欄第47行〜第3頁第27行)
(4)「【0018】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。図3は本発明を実施するためのイオンビーム加工装置の一例を示しており、1はイオン銃である。イオン銃1から発生し加速されたイオンビームIBは、集束レンズ2、対物レンズ3によって被加工材料4上に細く集束される。更に、イオンビームは、偏向器5により偏向される。イオン銃1はイオン銃制御回路6によって制御され、また、集束レンズ2,対物レンズ3は、レンズ制御回路7によってレンズ強度などが制御される。イオン銃制御回路6とレンズ制御回路7とはプロー電流設定回路8に接続されいる。
【0019】偏向器5には、偏向制御回路9から走査信号が供給されるが、偏向制御回路9内にはフレーム数設定回路10、加工領域設定回路11、加工周波数設定回路12等が含まれている。このフレーム数設定回路10、加工領域設定回路11、加工周波数設定回路12、プローブ電流設定回路8は、コンピュータシステム13内の制御用コンピュータ14によって制御されるように構成されている。コンピュータシステム13内には演算回路15が設けられているが、この演算回路15は、入力端末16からのデータに基づいて演算を行い、その値をメモリ17に記憶させる。このような構成の動作を次に説明する。
【0020】被加工材料4の加工は、イオン源1からのイオンビームを集束レンズ2,対物レンズ3によって材料4上に細く集束すると共に、イオンビームを偏向器5によって偏向し、材料4上でイオンビームを走査することによって行う。ここで、材料4上に照射されるイオンビームIBのプローブ電流値は、プローブ電流設定回路8に設定される。プローブ電流設定回路8は、設定されたプローブ電流値に応じて、イオン制御回路6を制御して、イオン銃1におけるイオンの引出電圧を調整したり、レンズ制御回路7を制御して各レンズの強度を調整し、材料4に所望の電流値Ipのイオンビームが照射されるようにする。また、フレーム数nは、フレーム数設定回路10に設定され、加工領域(x,y)は、加工領域設定回路11に設定される。
【0021】ここで、コンピュータ14中には、加工したい材料4のエッチングレートのデータが予め入力される。次に、被加工材料4に対して、加工したい立体面の式または数値の入力が入力端末16から行われる。コンピュータシステム13内の演算回路15は、各入力された数値に基づいて、前記した式(2)の演算や式(3)の演算を加工領域内の各点ごとに行う。そして、演算の結果をメモリー17に記憶させる。
【0022】さて、実際の加工時には、コンピュータ14は加工領域(x,y)内の各加工点ごとにメモリー17に記憶されている各加工周波数f(x,y)のデータを読みだし、偏向制御回路9内の加工周波数設定回路12内に転送する。偏向制御回路9は偏向器5に、設定されたフレーム数、加工領域、加工周波数に応じた偏向信号を供給する。その結果、より深く加工すべき材料部分では、加工周波数が低くされ、イオンビームが比較的長い時間内一か所に止まることから、被加工材料4の表面は、所望の曲面に加工される。
【0023】図4は本発明の他の実施例を示している。この実施例では、図3の実施例に加えて、検出器20が設けられている。この検出器20は、材料4へのイオンビームの照射に基づいて発生した2次電子,X線,2次イオンなどを検出するもので、この検出器20の出力信号は、画像データ処理回路21に供給される。この画像データ処理回路21ではイオンビームが照射された材料部分の組成を判別し、判別した組成情報は、コンピュータシステム13内のメモリー22に供給されて記憶される。
【0024】さて、このような構成で被加工材料4の加工領域内に局所的に2つの組成A,B部分が存在している場合の2種の加工、すなわち、非選択エッチングと選択エッチングについて説明する。なお、このA,Bの物質のエッチングレートの周波数依存性は、図5に示されている。」(第3頁左欄第38行-第4頁左欄第42行)
が第1,2,3、4及び5図とともに記載されている。

この記載事項によれば、上記刊行物1には、
(1)「 集束イオンビームを用いた材料M(試料に相当。)加工において、自由曲線Z(x,y)(ある所定の深さに相当。)を加工するための加工周波数f(x,y)とフレーム数n(イオンビーム照射回数に相当。)を決定するにあたり、あらかじめある特定材質の材料M(加工試料に相当。)に対して、ある特定加速エネルギー(電圧に相当。)での、プローブ電流Ip(イオンビーム電流に相当。)、イオンビームを照射する時間(1/f)(イオンビーム走査速さに相当。)、スポットビームの照射間隔sの自乗と自由曲線Z(x,y)との積(加工体積に相当。)、フレーム数nの関係式
f(x,y)=-ε(f)・Ip・n/[s2・Z(x,y)]…(2)
を求めておき、次に前記特定材質の被加工材料4(実際に加工する試料に相当。)に対し、この時のイオンビームIBのプローブ電流値Ip(イオンビーム電流に相当。)、フレーム数n(イオンビーム照射回数に相当。)、加工したい立体面の式または数値(実際の加工においては、スポットビームの照射間隔sの自乗を考慮する必要があるから、加工体積に相当。)から前記計算式(2)に基づいて加工周波数f(x,y)(イオンビーム走査速さの逆数であるから、実質、イオンビーム走査速さに相当。)を求め、該フレーム数nにて被加工材料4を加工することにより所定の深さをエッチング除去することを特徴とする集束イオンビーム加工方法。」(以下、「引用発明1」という。)、

(2)「集束イオンビ-ムを材料4(試料に相当。)上に照射、走査し、発生する2次電子,X線,2次イオン(二次粒子に相当。)を画像データとして取り込む検出器20(手段に相当。)と、ある特定材質の加工したい材料4(試料に相当。)に対して所定の深さ加工する時の、イオンビームIBのプローブ電流値Ip、加工周波数f(x,y)及び加工したい立体面の式または数値(加工条件に相当。)とフレーム数n(加工フレーム数に相当。)の関係式(2)(関係式に相当。)を求める演算回路15(手段に相当。)と、前記関係式(2)に基づき、前記特定材質の被加工材料4(実際の試料に相当。)に対して所望の曲面(加工深さに相当。)に対するフレーム数nを設定するフレーム数設定回路10(手段に相当。)とよりなり、前記フレーム数nだけ集束イオンビームを照射しエッチング加工することを特徴とする集束イオンビーム加工装置。」(以下、「引用発明2」という。)、

(3)「集束イオンビームを用いた材料(試料に相当。)加工方法において、
集束イオンビームを材料4(試料に相当。)に照射した時に材料4表面から発生する(放出されるに相当。)2次電子、X線、2次イオン(二次荷電粒子に相当。)の検出により材料4の組成がわかり、かつ、ある特定材質の材料(加工試料に相当。)を用いて、ある特定の加速エネルギー(電圧に相当。)で、ある電流密度(イオンビーム電流に相当。)、スポットビーム照射間隔s(画素間隔に相当。)、イオンビームを照射する時間(1/f)(イオンビーム走査速さに相当。)で、自由曲線Z(x,y)(加工深さに相当。)に集束イオンビームにてエッチング加工する工程と、
前記加工した時の加工時間tTを一定にして、前記電流密度(イオンビーム電流に相当。)、スポットビームの照射間隔s(画素間隔に相当。)、イオンビームを照射する時間(1/f)(イオンビーム走査速さに相当。)、フレーム数n(加工フレーム数に相当。)、加工深度D(加工深さに相当。)との関係をエッチングレートε(f)(加工定数の逆数であるから、実質、加工定数に相当。)として求める工程と、
前記特定材質の被加工材料4(実際の試料に相当。)を加工する際の、イオンビームIBのプローブ電流値Ip(イオンビーム電流に相当。)、スポットビームの照射間隔s(画素間隔に相当。)、加工したい立体面の式または数値(所望の加工深さに相当。)と前記求めたエッチングレートε(f)(加工定数に相当。)より、加工周波数f(x,y)(イオンビーム走査速さの逆数であるから、実質、イオンビーム走査速さに相当。)を求める工程と、
前記フレーム数n(加工フレーム数に相当。)だけ集束イオンビームを照射してエッチング加工する工程と、
よりなる所望の深さをエッチング除去する集束イオンビーム試料加工方法。」(以下、「引用発明3」という。)
が記載されている。

上記刊行物2には、
「FIBのもうひとつの大きな特徴として、微細加工機能があげられる。FIBによる微細加工は、スパッタリングによる物質の除去とデポジションによる物質の付加の両方が可能であるため、たとえばLSIの配線変更では、切断と接続の両方がひとつの装置内で可能となる。」(第88頁左欄第8行-同第12行)

この記載事項によれば、上記刊行物2には、
「試料がLSI(半導体素子に相当。)であるFIB加工方法(集束イオンビーム加工方法に相当。)」
が記載されている。

上記刊行物3には、
(1)「記録用の薄膜ヘッド磁性膜には、飽和磁束密度が2Tと高い鉄系多層膜を用いた。」(第102頁中央欄第5行-同第7行)
(2)「今回は、集束イオン・ビームで記録ヘッドを加工することで、この問題を解決した。」(第102頁中央欄第12行-同第14行)
が記載されている。

この記載事項によれば、上記刊行物3には、
「試料が薄膜ヘッド磁性膜よりなる記録ヘッド(薄膜磁気ヘッド素子に相当。)である集束イオン・ビーム加工方法(集束イオンビーム加工方法に相当)。」
が記載されている。

上記刊行物4には、
(1)「イオン源から発するイオンビームを集束レンズ系で集光し…特徴とするイオンビーム加工装置。」(第1頁左欄第5行-同第13行)
(2)「本発明はイオンビームを走査して照射しながら、試料表面の微細加工を行うイオンビーム加工装置に関する。」(第1頁左欄第16行-同第18行)
(3)「イオンビームスポットを試料上でラスタスキャンし例えば半導体デバイスの補修加工を行う。」(第2頁左下欄第14行-同第15行)
(4)「前記試料9表面から放出される二次荷電粒子は二次荷電粒子検出器10によって検出され、信号増幅処理部11により増幅および処理され輝度信号となり、走査制御部13からの走査信号と共にディスプレイ12に入力されて二次荷電粒子像が表示される。この二次荷電粒子像によって試料9上の金属パターン膜を形成すべき位置を探し出し、走査方向回転信号発生部15で前記二次荷電粒子像を回転移動させ、走査範囲設定部14で前記金属パターン膜を形成すべき領域を設定し膜付加工を行なう。」(第2頁左下欄第20行-同右下欄第10行)
が第1図とともに記載されている。

この記載事項によれば、上記刊行物4には、
「 集束イオンビームを試料9上に照射、走査し、放出される二次荷電粒子を二次荷電粒子像として取り込む二次荷電粒子検出器10(発生する二次粒子を画像データとして取り込む手段に相当。)と、前記二次荷電粒子像上で金属パターン膜を形成すべき領域を設定する走査範囲設定部14(画像データ上で加工領域を指定する手段に相当。)とよりなり、集束イオンビームを照射し微細加工することを特徴とする集束イオンビーム加工装置。」
が記載されている。

上記刊行物5には、
(1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、半導体素子などの微細素子を集束ビームを用いてマスクレスでエッチングや堆積などを行う加工プロセスにおける加工領域の高精度位置決め方法に関するものである。特に、集束イオンビームによるエッチングを利用したものにデバイスの断面加工があり、デバイスの製造プロセス管理や不良解析に利用されている。
【0002】
【従来の技術】集束イオンビーム(FocusedIon Beam, 略してFIB)を用いたデバイスのマスクレスプロセスである断面加工の従来技術は、例えば公知例(1)のプロシーディング、1989年のIEEE/IRPS、第43頁から52頁にK.Nikawaらによって述べられている。そこには、断面加工のためのFIBの走査領域の位置決めが、FIB照射による試料からの放出二次電子を利用した走査イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope, 略してSIM)像を用いて行われることが示されている。」(第2頁左欄第26行-同第44行)
(2)「【0007】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。断面加工試料は図4と同じデバイスで、連続したコンタクト穴4個の断面加工を目的としたものである。加工すべき領域は図4のSIM像上に表示した破線枠7内と同じである。加工領域の位置決め手順を下記(1)〜(3)に示す。
【0008】まず、(1)長方形の加工領域を含む大きめの領域全体80μm角(図4の一点鎖線枠内10)をFIBでデジタル走査し、その高分解能SIM像を画像メモリー(2048×2048 pixels)に取り込む。次に、(2)この画像メモリーデータを用いて、マルチ・ウインドウ化したディスプレイ装置画面1(図1参照)に倍率の大小異なる3枚のSIM像2,3,4を同時表示する。」(第2頁右欄第336行-同第47行)
(3)【0009】(3)加工領域7は大きさは約10×75μm2 の長方形である。観察したい加工断面は縦に並んだコンタクト穴4個であり、該長方形の左辺が全てのコンタクト穴の中心を通る様に位置精度良く設定することが必要である。ここでは、加工領域(長方形)7の左辺を最上部と最下部のコンタクト穴部の高倍率SIM像3,4を用いて両者の穴中心に合わせば、全ての穴に合わせられると考えた。加工領域(長方形)の枠はSIM像2,3,4のいずれの像からも、その上に書き込み、移動,拡大,修正ができ、その枠表示は、全てのSIM像上で連動している。これらの加工領域位置設定作業は、ディスプレイ装置画面は計算機(図示せず)により制御されており、マウス入力により行った。仕上加工用としてビーム径0.1μm のFIBを用いた場合、低倍率SIM像2および高倍率SIM像3,4での加工位置設定精度は、それぞれ約0.4μmおよび0.1μmであり、本実施例の穴断面加工では高倍率像3,4が必要であった。」(第3頁左欄第9行-同第26行)
(4)「また、上記実施例では加工領域設定の画像に走査FIB照射試料から放出される二次粒子の内の二次電子を用いたSIM像を用いたが、二次粒子として二次イオンを用いることもできる。」(第3頁左欄第40行-同第43行)
が第1図及び第4図とともに記載されている。

この記載事項によれば、上記刊行物5には、
「集束イオンビームを試料上に照射、走査し、放出される二次粒子を画像メモリデータとして取り込む走査イオン顕微鏡(発生する二次粒子を画像データとして取り込む手段に相当。)と、前記画像メモリデータ上で加工領域7を設定するマウス及び図示されていない計算機(画像データ上で加工領域を指定する手段に相当。)とよりなり、集束イオンビームを照射しエッチング加工することを特徴とする集束イオンビーム加工装置。」
が記載されている。

上記刊行物6には、
(1)「【0019】図1において、FIBを用いたパターン修正装置はチャンバ11内にフォトマスク12を上面に載置するステージ13が設けられており、ステージ13の上方には、上部内面にイオン源14を有し、下部内面にイオン源14から放出されたFIB15を偏向する偏向系16を有する鏡筒17が設けられている。またパターン修正装置には、FIB15が投射されることによって、フォトマスク12の面から放出された2次イオンを検出する2次イオン検出器18が設けられている。
【0020】そして、2次イオン検出器18からの信号が画像認識部19に入力され、フォトマスク12の上面のパターンの画像が認識され、認識結果を修正領域入力・判定部20へ出力するようになっている。修正領域入力・判定部20では、入力された認識画像をモニタ21で監視すると共にパターンの欠落欠陥部の周囲にこれを含む修正領域が指定され決定される。
【0021】次いで、修正領域入力・判定部20で決定された修正領域が外周加工領域判定部22に入力され、ここで修正領域のうち、加工を施す必要ある領域が予め設定され記憶された加工定数に基づき決定され、その加工領域に対して平面上の各位置に対する深さ方向のエッチングによる加工量が決定される。
【0022】この外周加工領域判定部22で決定された加工領域と加工量が、次のビーム走査制御部23に入力され、ここで加工領域に対応してFIB15を走査する制御信号を形成し、さらにこの制御信号をブランキング部24に入力し、これを制御する。」
が図1とともに記載されている。

この記載事項によれば、上記刊行物6には、
「FIB15(集束イオンビームに相当。)をフォトマスク12(試料に相当。)上に投射(照射に相当。)、走査し、放出される2次イオンを画像認識部19の入力として取り込む2次イオン検出器18(発生する二次粒子を画像データとして取り込む手段に相当。)と、認識画像上で加工領域を決定(設定に相当。)する外周加工領域判定部22(画像データ上で加工領域を指定する手段に相当。)とよりなり、ある特定材質のフォトマスク12に対して前記加工領域内で所定の深さ加工する時、集束イオンビームを照射しエッチング加工することを特徴とする集束イオンビーム加工装置。」
が記載されている。

2-3 対比・判断
(請求項1に係る発明について)
請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載された引用発明1とを対比すると、両者は、
【一致点】
「 集束イオンビームを用いた試料加工において、ある所定の深さを加工するためのイオンビーム照射回数を決定するにあたり、あらかじめある特定材質の加工試料に対して、ある特定電圧での、イオンビーム電流、イオンビーム走査速さ、加工体積、イオンビーム照射回数の関係式を求めておき、次に前記特定材質の実際に加工する試料に対し、この時のイオンビーム電流、 加工体積から前記計算式に基づいて加工に必要な量を求め、該照射回数にて試料を加工することにより所定の深さをエッチング除去することを特徴とする集束イオンビーム加工方法。」
で一致し、
【相違点1】
請求項1に係る発明では、実際の加工においては、イオンビーム電流、加工体積に加えて、イオンビーム走査速さを与えて、加工に必要な量であるイオンビーム照射回数を求めているのに対して、上記刊行物1に記載された引用発明1では、フレーム数n(イオンビーム照射回数に相当。)を与えて、加工に必要な量である加工周波数f(x,y)(イオンビーム走査速さに相当。)を求めている点
で相違する。
【相違点1】について検討すると、上記刊行物1に記載の関係式(2)によれば、フレーム数nと加工周波数f(x,y)とは、フレーム数nを与えれば加工周波数f(x,y)が求まり、逆に、加工周波数f(x,y)を与えればフレーム数nが求まるという関係にあるし、加工周波数f(x,y)を優先的に与えたからといって、フレーム数nを求めることが困難になるという特段の事情も存在しない。
したがって、実際の加工において、フレーム数nと加工周波数f(x,y)のどちらを与えどちらを加工に必要な量として求めるかは、当業者が適宜選択しうることである。
そして、請求項1には、「イオンビーム走査速さ」なる記載はあるものの上申書において主張されている「加工に最適化されたイオンビーム走査速さ」なる記載はなく、「イオンビーム走査速さ」を優先させることによる効果は、格別なものとは認められない。

(請求項2に係る発明について)
請求項2に係る発明と上記刊行物1に記載された引用発明1とを対比すると、両者は、上記
【相違点1】及び
【相違点2】
請求項2に係る発明では、試料が半導体素子であるのに対して、上記刊行物1に記載された引用発明1では、試料が半導体素子であるとの記載がない点
で相違する。
【相違点1】については、(請求項1に係る発明について)で検討したとおりである。
【相違点2】について検討すると、上記刊行物2には、試料がLSIであることが記載されており、上記刊行物1に記載された引用発明1である集束イオンビーム加工方法において、試料を半導体素子とすることは、当業者が必要に応じて決定しうることである。
なお、試料が半導体素子であることは、上記刊行物4(半導体デバイス)、上記刊行物5(半導体素子)にも記載されている。

(請求項3に係る発明について)
請求項3に係る発明と上記刊行物1に記載された引用発明1とを対比すると、両者は、上記
【相違点1】及び
【相違点3】
請求項2に係る発明では、試料が薄膜磁気ヘッド素子であるのに対して、上記刊行物1に記載された引用発明1では、試料が薄膜磁気ヘッド素子であるとの記載がない点
で相違する。
【相違点1】については、(請求項1に係る発明について)で検討したとおりである。
【相違点3】について検討すると、上記刊行物3には、試料が薄膜ヘッド磁性膜よりなる記録ヘッドであることが記載されており、上記刊行物1に記載された引用発明1である集束イオンビーム加工方法において、試料を薄膜磁気ヘッド素子とすることは、当業者が必要に応じて決定しうることである。

(請求項4に係る発明について)
請求項4に係る発明と上記刊行物1に記載された引用発明2とを対比すると、両者は、
【一致点】
「集束イオンビームを試料上に照射、走査し、発生する二次粒子を画像データとして取り込む手段と、 ある特定材質の試料に対して 所定の深さ加工する時の、加工条件と加工フレーム数の関係式を求める手段と、前記関係式に基づき、前記特定材質の実際の試料に対して所望の加工深さに対する加工フレーム数を設定する手段とよりなり、前記加工フレーム数だけ集束イオンビームを照射しエッチング加工することを特徴とする集束イオンビーム加工装置。」
で一致し、
【相違点4】
請求項4に係る発明では、集束イオンビーム加工装置が、画像データ上で加工領域を指定する手段を有し、かかる加工領域内で所定の深さ加工するのに対して、上記刊行物1に記載された引用発明2では、かかる記載がない点
で相違する。
【相違点4】について検討すると、上記刊行物4、5及び6には、集束イオンビーム加工装置が、それぞれ、二次荷電粒子像上で金属パターン膜を形成すべき領域を設定する走査範囲設定部14、画像メモリデータ上で加工領域7を設定するマウス及び図示されていない計算機、及び、認識画像上で加工領域を決定する外周加工領域判定部22を有し、かかる加工領域内で所定の深さ加工することが記載されており、上記刊行物1に記載された引用発明2である集束イオンビーム加工装置に、上記刊行物4、5、あるいは、6に記載された、走査範囲設定部14、加工領域7を設定するマウス及び図示されていない計算機、あるいは、外周加工領域判定部22を設け、加工領域内で所定の深さ加工するように構成することは、当業者が容易になしうることである。

(請求項5に係る発明について)
請求項5に係る発明と上記刊行物1に記載された引用発明3とを対比すると、両者は、
【一致点】
「集束イオンビームを用いた試料加工方法において、
集束イオンビームを試料に照射した時に試料表面から放出される二次荷電粒子の検出される、ある特定材質の加工試料を用いて、ある特定の電圧で、あるイオンビーム電流、画素間隔、イオンビーム走査速さで、 加工深さに集束イオンビームにてエッチング加工する工程と、
前記加工した時の 、前記イオンビーム電流、画素間隔、イオンビーム走査速さ、加工フレーム数、加工深さとの関係を加工定数として求める工程と、
前記特定材質の実際の試料を加工する際の、イオンビーム電流、画素間隔、イオンビーム走査速さ、所望の加工深さと前記求めた加工定数により、加工に必要な量を求める工程と、
前記加工フレーム数だけ集束イオンビームを照射してエッチング加工する工程と、
よりなる所望の深さをエッチング除去する集束イオンビーム試料加工方法。」
で一致し、
【相違点5】
請求項5に係る発明では、ある特定材質の加工試料が、集束イオンビームを試料に照射した時に試料表面から放出される二次荷電粒子の検出により加工終点がわかり、かつ、膜厚が既知のものを用い、膜圧に相当する加工深さに加工した時の加工フレーム数を計測して、加工定数を求め、実際の加工においては、加工に必要な量として、加工フレーム数を求めているに対して、
上記刊行物1に記載された引用発明3では、ある特定材質の加工試料が、集束イオンビームを試料に照射した時に試料表面から放出される二次荷電粒子の検出により加工終点がわかるかどうか、かつ、膜厚が既知のものかどうかについての記載のないものを用い、加工時間tTが一定という条件で、エッチングレート(加工定数に相当。)を求め、実際の加工においては、加工に必要な量として、加工周波数f(x,y)(イオンビーム走査速さに相当。)を求めている点
で相違する。
【相違点5】について検討すると、ある特定材質の加工試料が、集束イオンビームを試料に照射した時に試料表面から放出される二次荷電粒子の検出により加工終点がわかり、かつ、膜厚が既知のものを用い、膜圧に相当する加工深さに加工した時の加工フレーム数を計測して、加工定数を求め、実際の加工においては、加工に必要な量として、加工フレーム数を求めることについては、引用刊行物2〜6のいずれにも、記載も示唆もされておらず、当業者が容易になし得ることとは認められない。
そして、請求項5に係る発明は、その技術的事項により明細書記載の効果を奏するものと認められる。

2-4 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、本件請求項2に係る発明は、刊行物1,2に記載された発明に基づいて、本件請求項3に係る発明は、刊行物1,3に記載された発明に基づいて、本件請求項4に係る発明は、刊行物1と刊行物4,5あるいは6に記載された発明に基づいて、それぞれ、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1から4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
そして、請求項5に係る発明の特許については、刊行物1〜6から容易に発明をすることができとものであるとはいえない。また、他に取り消しの理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-03-12 
出願番号 特願平8-210259
審決分類 P 1 651・ 121- ZC (H01J)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 杉浦 淳  
特許庁審判長 西川 一
特許庁審判官 山川 雅也
高橋 泰史
登録日 2000-06-09 
登録番号 特許第3074375号(P3074375)
権利者 セイコーインスツルメンツ株式会社
発明の名称 集束イオンビーム加工装置および集束イオンビーム加工方法  
代理人 坂上 正明  
復代理人 山田 益男  
代理人 竹ノ内 勝  
代理人 高田 幸彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ