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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C09C
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C09C
管理番号 1058288
異議申立番号 異議2001-72112  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-01-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-07-30 
確定日 2002-04-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第3131076号「塗料艶消し剤及びその製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3131076号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3131076号に係る出願は、平成5年6月17日に出願され、平成12年11月17日にその発明についての特許権の設定登録がされ、その後、異議申立人金田 三郎により特許異議の申立てがされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成13年12月11日に異議意見書が提出されたものである。
II.本件発明
本件特許公報の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された発明(以下「本件発明1ないし2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】細孔直径20〜3000Åの全細孔容積が1.5cc/g以上、細孔直径100〜300Åの細孔容積が全細孔容積の50%以上であり、且つ細孔直径300Å以上の細孔容積が全細孔容積の20%以上である沈澱法シリカからなることを特徴とする塗料艶消し剤。
【請求項2】アルカリ金属ケイ酸塩と硫酸との同時滴下中和反応によって、BET比表面積が500m2/g以上であるシリカのスラリーを調製し、引き続き水熱処理を実施し、得られた沈澱法シリカを加熱空気または過熱蒸気を用いたジェット粉砕機の中で乾燥粉砕を同時に行うことを特徴とする請求項1の物性を有する塗料艶消し剤の製造方法。」
III.特許異議の申立ての概要
異議申立人は、証拠として参考資料1ないし4を提出し、本件出願は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項及び第5項(平成5年法律第26号による改正前のもの)に規定する要件を満たしていない、というにある。
参考資料1:「旺文社 国語辞典 第八版」第552頁、株式会社旺文社、1994年発行
参考資料2:「塗料・インキ用添加剤」第175〜182頁、株式会社シーエムシー、1989年発行
参考資料3:特開平5-51207号公報
参考資料4:特許第3131076号公報(本件特許公報)
IV.当審の判断
異議申立人の主張する本件明細書の記載不備とする要旨は、次のア〜エにあるものであり、それについて判断する。
ア.本件発明1は、「漆黒性」と「艶消し」との技術課題を解決しようとするものであるが、それらの技術的意味及び関連が明確でなく、技術常識上矛盾があるから、記載不備がある、との主張について
「漆黒性」について、本件明細書には、「【産業上の利用分野】本発明は、塗料用充填剤として有用なシリカに関するものであり、詳細には透明性、漆黒性に優れた沈殿法シリカからなる塗料艶消し剤に関するものである。」(段落【0001】)、「一般に透明塗料や黒色塗料において、これらの沈澱法シリカやゲル法シリカを艶消し剤として使用すると、塗膜が白っぽくなるという欠点を有していた。この塗膜が白っぽくなる現象はBTE比表面積の比較的小さい沈澱法シリカにおいてしばしば見られるが、・・・この点について物性面の改善が期待されている。」(段落【0006】)と記載されている。
上記記載を参酌すれば、本件発明1に関して「漆黒性に優れている」とは、「真っ黒で艶の優れたもの」の意ではなく、「透明塗料や黒色塗料において顕著であるが、他の色相の塗料においても、塗膜が白っぽく見えないように改善されている」ことと解することができ、艶に関する記述ではないから、「艶消し」と相反しない記載である。
「艶消し」について、異議申立人は、本件の実施例1、2には、60°鏡面光沢度(%)が70を越え、高光沢と評価されるものが含まれており、本件発明1の目的とする「艶消し」効果がないし、また、比較例には実施例よりも「艶消し」効果が優れているものがある点で、本件明細書は、目的・効果の記載が明りょうでないと主張している。
ところで、鏡面光沢度に関し本件明細書には、「塗膜形成としてアミノアルキッド樹脂(日本ペイント製)を用い、樹脂100重量部に対して、キシレン10重量部、沈澱法シリカ4重量部を配合し、・・・30分分散した。・・・この分散液を・・・塗布した後、120℃で20分乾燥し塗膜を形成した。この塗膜の光沢度、漆黒性を測定した結果を分散度と共に表1に示した。この評価において、分散度は30μm以下、光沢度は75%以下及び漆黒性は1.9以下の塗料物性を有することが望ましい。」(段落【0031】、表1参照)と記載されている。
一方、参考資料2(「塗料・インキ用添加剤」第175〜182頁、株式会社シーエムシー、1989年発行)には、60°鏡面光沢度(%)が70を越えるものは、高光沢と評価される(表3.2.9参照)旨の記載があるが、一般的な評価にすぎず、本件明細書の記載では、上記のように「光沢度は75%以下」と設定しているのであるから、本件明細書記載の実施例1、2に、60°鏡面光沢度(%)が70を越えるものが含まれていることにより、本件発明1の目的とする「艶消し」効果がないとはいえないし、また、発明の効果は、各評価を総合的に判断してみるものであるから、漆黒性、塗膜外観の評価を無視して、比較例には実施例よりも「艶消し」効果が優れているものがあることをもって、本件発明1には目的とする効果がないとはいえない。
イ.比較例3及び5は、本件発明2の構成要件を具備するにも拘わらず本件発明1の特性を有するものが得られていないとの主張について
実施例1において、2時間水熱処理するところを、比較例3では20時間、比較例5では1時間とするものである。
水熱処理時間は、当然適切な範囲があるものであり、本件明細書の段落【0019】には、「次いで得られたシリカスラリー液を水熱処理する条件としては、pH8〜10、温度70〜100℃で必要に応じ1〜10時間程度実施すれば良い。」と記載されるところ、処理時間は、当業者が試験の上適宜設定し得る事項といえる。本件発明1の実施例1として、2時間を開示しているから、本件明細書には、当業者が容易にその発明を実施できる程度に記載されているものと認められる。
ウ.本件発明2の「アルカリ金属ケイ酸塩と硫酸との同時滴下中和反応によって、BET比表面積が500m2/g以上であるシリカのスラリーを調製」する構成、反応温度、pH、実施例の原料となる珪酸ナトリウムの組成、硫酸の濃度、滴下条件等の記載不備との主張について
「アルカリ金属ケイ酸塩と硫酸との同時滴下中和反応」とは、アルカリ金属ケイ酸塩と硫酸を反応系中に一定流量同時に滴下する中和反応であり、これによってBET比表面積が500m2/g以上であるシリカのスラリーを調製し得ることは、本件明細書段落【0019】「アルカリ金属ケイ酸塩水溶液と硫酸との中和反応を実施し、500m2/g以上、例えば600〜1000m2/gのBET比表面積を有するシリカスラリーを調製する方法としては、弱酸性域で中和反応を実施する方法、又は反応温度を5〜40℃付近に維持し弱アルカリ域で中和反応を実施する方法等が適切に用いられる。」との記載を参酌すると、当業者が実施できる程度に記載されているものと認められる。
エ.塗装外観の評価基準が不明確であるとの主張について
本件明細書には、「塗装外観」の評価を「目視による。」(段落【0029】)とし、表1(段落【0042】)では、良、やや悪及び悪の三段階を採用している。
評価基準としては、更に詳細な記載がないが、官能検査の目視であるから、見えたとおりを評価基準とすることで明確であると認められる。
[まとめ]
したがって、本件明細書は、異議申立人が主張する不備がなく特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしているものと認められる。
V.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては本件発明に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-04-05 
出願番号 特願平5-146282
審決分類 P 1 651・ 531- Y (C09C)
P 1 651・ 534- Y (C09C)
最終処分 維持  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 鈴木 紀子
佐藤 修
登録日 2000-11-17 
登録番号 特許第3131076号(P3131076)
権利者 日本シリカ工業株式会社
発明の名称 塗料艶消し剤及びその製造方法  
代理人 岸田 正行  
代理人 高野 弘晋  
代理人 小花 弘路  

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