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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1058296
異議申立番号 異議2001-71098  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-12-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-04-10 
確定日 2002-04-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第3097311号「透明ガスバリア性フィルム」の請求項1〜2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3097311号の請求項1〜2に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第3097311号は、平成4年6月5日に出願された特願平4-145949号の特許出願に係り、平成12年8月11日にその特許権の設定登録がなされたものであって、その請求項1〜2に係る発明(以下、請求項mに係る発明を「発明m」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 高分子樹脂フィルム基材の少なくとも片面にアルミニウム酸化膜が形成されてなるフィルムであって、該アルミニウム酸化膜の全膜厚が6nm以上であり、かつアルミニウムの金属成分が含有されてなる不完全酸化層が該アルミニウム酸化膜の内部にのみ少なくとも1層存在し、該アルミニウム酸化膜全体中のアルミニウム金属成分含有量が0.5%・nm〜10%・nmの範囲であることを特徴とする透明ガスバリア性フィルム。
【請求項2】 550nmの波長における比光線透過率が90%以上であり、かつ酸素透過率が2cc/m2・day以下で、かつ水蒸気透過率が2g/m2・day以下であることを特徴とする請求項1記載の透明ガスバリア性フィルム。」

2.申立ての理由の概要
これに対して、特許異議申立人・凸版印刷株式会社(以下、「申立人」という。)は、甲第1号証(特表昭58-500031号公報)、甲第2号証(特開昭62-220330号公報)、甲第3号証(特公平4-20383号公報)及び甲第4号証(「真空ハンドブック」日本真空技術K・K発行、1978年8月発行、117頁)(以下、甲第n号証を「甲n」、該甲号証記載の発明を「甲n発明」という。)を提出し、
発明1〜2は、甲1〜4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、
と主張する。

3.甲各号証の記載内容
a.甲1
ア.「(4)基体の少なくとも一つの表面に酸素……を導入してある金属蒸気の気流から、層の成分を適用し、且つコーティングしようとする表面を移動させるにつれて、少なくとも二種類の成分の一定していない組成になっている層で基体をコーティングするように、該金属蒸気の異なった領域中に導入する酸素……の量を制御することから成る、組成が金属及び金属酸化物……の少なくとも二種類の成分から成る層を、移動している基体上に連続的に析出させる方法。
(5)層は少なくとも15Åの厚さ全体で、少なくとも二成分の割合を全成分の合計に対して一成分の少なくとも10%だけ変化させた組成になっている階調のある層であり、金属蒸気の気流中で酸素……の量を局部的に変化させて、該層の厚さ全体を通して比率を変化させた該二成分で基体をコーティングする、上記(4)項記載の方法。」(特許請求の範囲の請求項4〜5)、
イ.「本発明は基体……に金属(金属酸化物)……層を真空析出させる方法に関するもので……迅速な方法で種々の基体に対して物質の連続適用をする。コーティング過程で、種々の金属を酸化させることができる。」(2頁左下欄5〜9行)、
ウ.「金属/(金属の酸化物……)を含有する層の組成は、蒸気コーティング室内の蒸気気流中の成分を調節することによって制御することができ、且つ層の厚さのいたるところで変えることすらできることを見い出した。」(3頁左上欄4〜8行)、
エ.「本発明の実施には酸化物を作ることのできるどの金属でも実質的に使用することができる。詳細にはアルミニウム……を使用することができる。」(3頁右上欄20〜24行)、
オ.「実際に一つの表面(コーティング層の頂部あるいは底部)では100%の金属から成り、反対の表面では100%の金属酸化物……から成る層を析出させることができる。」(3頁右下欄14〜17行)、
カ.「基体は……フィルム……を包含することができる。特に熱可塑性樹脂……の重合体基体が好ましい。最も有用な樹脂の中にはポリエステル……がある。」(4頁右下欄8〜15行)、
キ.「コンベヤー・ベルト(織物)の下……の位置に2個の抵抗加熱器のある通常の真空蒸気コーティング装置の一部を変更して、酸素流出管及び邪魔板を中に取り付けた。……上記の……装置を排気して……水平邪魔板を閉じたままで、抵抗加熱器をアルミニウム針金を蒸発させるのに十分な温度にした。次にアルミニウム針金……を抵抗加熱器に供給した。……抵抗加熱器の加熱及び針金の供給に付随して、……装置内の圧力は増加し……た。同時に酸素を酸素流出管を通じて、……装置内の圧力をほぼ一定……に維持する化学量論的当量よりも少ない割合で……供給した。織物を……移動させると共に、基体として……ポリエチレンテトラフタレートのフィルムを使用して蒸気コーティングを行ったが、これは裏面から、すなわちポリエステルフィルムを通して見れば、外観は光沢のある銀色で(本質的にポリエステルに接続した純粋のアルミニウムを示し)、且つ前面から見れば外観は暗青黒色で、金属と金属酸化物との混合物が存在することを示していた。……フィルムと直接接触しているコーティングは本質的に純粋のアルミニウムであり、且つ組成物は徐々にコーティングした物品の表面に向かってますますアルミナが多くなった。」(5頁右下欄9行〜6頁右上欄1行。なお、基体がポリエステルである旨のその前後の記載からみて、上記下線付与部の「テトラ」は「テレ」の誤記と解される。)、
b.甲2
ク.「透明プラスチックフィルム基体上に、主として酸化アルミニウムより成り、かつアルミニウムを1〜15重量%含むガスバリア層を設けたことを特徴とする帯電防止性ガスバリアフィルム。」(特許請求の範囲)、
ケ.「本発明の目的は、……ガスバリア性と帯電防止性に優れ、かつ透明性を有する帯電防止性ガスバリアフィルムを提供することにある。」(1頁右下欄20行〜2頁左上欄3行)、
コ.「さらに帯電防止性とするために、この酸化アルミニウム薄膜中に、アルミニウムが1〜15重量%含まれることが必要である。アルミニウムの含有量は、X線光電子分光分析法(ESCA)で測定される。ガスバリア層をESCAにより分析して、金属アルミニウムに由来するアルミニウムと酸化アルミニウムに由来するアルミニウムのピークの積分強度よりアルミニウムと酸化アルミニウムの組成比(重量比)を算出し、(アルミニウムの重量)/(酸化アルミニウムの重量+アルミニウムの重量)をアルミニウムの含有量とした。」(2頁左下欄10〜20行)、
サ.「本発明のガスバリア層の厚みは、……好ましくは100Å〜1000Åが望ましい。」(3頁左上欄4〜8行)、
シ.「(ハ)酸化アルミニウム層中のアルミニウム含有量
X線光電子分光分析法(ESCA)……を用いて、蒸着表面のAl2pスペクトルを測定し、結合エネルギーに対応するピークの積分強度より、金属アルミニウムと酸化アルミニウムの組成比を算出した。」(4頁左上欄8〜15行)。
c.甲3
ス.「二軸延伸した透明プラスチックフィルム基体上に、非結晶性の酸化アルミニウム薄層を設けたことを特徴とする包装用フィルム。」(特許請求の範囲第1項)、
セ.「本発明は……ガス遮断性と透明性に優れた包装用フィルムに関する。」(1頁左欄10〜12行)、
ソ.「また、酸化アルミニウム薄層中に、透明性とガスバリア性を損わない範囲で10重量%以下程度のアルミニウム……などの金属……が微量含まれることは許容される。」(3欄44行〜4欄7行)、
タ.「酸化アルミニウム薄層の厚みは、……好ましくは100Å〜1000Åが望ましい。」(4欄29〜33行)、
d.甲4
チ.真空蒸着用蒸発物質の蒸発源としてのAl及びAl2O3の密度は、順次、2.70×103kg/m3、3.97×103kg/m3であること(117頁「34.真空蒸着諸データ」表参照)。

4.対比・判断
4の1.発明1について
前記サ、タでいう「Å」単位の膜厚を「nm」単位に換算(1nm=10Å)しつつ、発明1(前者)と甲1〜3発明(後者)とを対比すると、甲1のア〜キ、甲2のク〜シ及び甲3のス〜タからみて、
両者は、
「高分子樹脂フィルム基材の少なくとも片面にアルミニウム酸化膜が形成されてなるフィルムであって、該アルミニウム酸化膜の全膜厚が6nm以上であるフィルム」
に係る点で一致するものの、
甲1〜3には、前者の必須の構成である、請求項1の記載中の
「かつアルミニウムの金属成分が含有されてなる不完全酸化層が該アルミニウム酸化膜の内部にのみ少なくとも1層存在し、該アルミニウム酸化膜全体中のアルミニウム金属成分含有量が0.5%・nm〜10%・nmの範囲である」
旨の構成について、記載されていない。
もっとも、申立人は、前者に係る上記「0.5%・nm〜10%・nm」とのアルミニウム酸化膜の内部のアルミニウムの金属成分の含有量(以下、該含有量を(あ)という。)について、甲2発明の「1〜15重量%」とのアルミニウムの含有量(前記ク参照。以下、該含有量を(い)という。)を引用し、甲4記載のアルミニウム及びアルミニウム酸化物の密度値(前記チ参照)を用い、該「1〜15重量%」を「%・nm」単位に換算すると、その値は1.46〜20.6%・nmとなるから、(い)は、(あ)の範囲を含んでいる(申立書6頁下から3行〜7頁6行)、と主張する。
そこで検討すると、まず、(あ)は、「表面感度の非常に高い分析手法であるX線光電子分光法(以下XPSと言うことがある)分析によるAl2pスペクトルによって判別することができ」(本件特許明細書段落【0015】)、より具体的には「以下の定義により特定される。すなわち、XPS分析によるAl2pスペクトルのデプスプロファイルをとった場合、アルミニウム酸化膜表面と高分子樹脂フィルム基材との界面は……Al(III)のみで完全酸化膜であることを示すが、内部にAl(III)のスペクトル以外にAl(0)の金属成分の存在を示すスペクトルが得られる。……表面からの深さd(nm単位)におけるスペクトルのピーク分割を行ない、Al(III)とAl(0)のピーク面積をそれぞれに帰属するアルミニウム原子の相対数に換算した値を各々N3(d)、N0(d)とし、その深さにおけるアルミニウムの金属成分の存在割合M(d)(単位%)を100×N0(d)/(N3(d)+N0(d))で定義する。横軸に表面からの深さd(nm単位)、縦軸にその深さでのアルミニウムの金属成分の存在割合M(d)(%単位)を取ったグラフを描く。このようにして得られたM(d)のデプスプロファイルの1例を図2に示す。4がM(d)であり、3は(100-M(d))、すなわちAl(III)に帰属されるアルミニウムのプロファイルである。……ここでM(d)の深さd方向の積分(d=0からd=アルミニウム酸化膜の全厚み)を取ると%・nmの単位を持つ値が得られる。この値はアルミニウム酸化膜中に存在するアルミニウム金属量に対応し、アルミニウム金属成分含有量と定義する。」(本件特許明細書段落【0016】)。
一方、(い)は、(あ)同様、X線光電子分光分析法(ESCA)(=XPS)により測定されるものの、「蒸着表面のAl2pスペクトルを測定し」(前記シ参照)、「金属アルミニウムに由来するアルミニウムと酸化アルミニウムに由来するアルミニウムのピークの積分強度よりアルミニウムと酸化アルミニウムの組成比(重量比)を算出し、(アルミニウムの重量)/(酸化アルミニウムの重量+アルミニウムの重量)をアルミニウムの含有量とした」(同コ参照)だけのものにすぎない。
このように、(い)は、その測定に(あ)測定には必須のデプスプロファイルが何ら関与しない点に加え、上記のとおり、表面測定で金属アルミニウムに由来するアルミニウムを捉えていることから、甲2発明における蒸着膜は、「アルミニウム酸化膜の内部にのみアルミニウムの金属成分が含有されている」本件発明のアルミニウム酸化膜とは相違する点で、結局、(あ)と(い)とは、本質的乃至原理的に異なった測定値というほかはない。
そうすると、(い)にアルミニウム及びアルミニウム酸化物の密度値を作用させるような計算手段(その詳細自体、申立人は明らかにしていないのであるが)をもってしては、(い)を(あ)に換算することができるとはいえないから、これに反する申立人の前記主張は採用できない。
そして、他に甲1〜4中には前者の前記必須の構成について教示するところは存在しない。
なお、特に甲3発明でいう「10重量%以下のアルミニウム金属含有が許容される」(前記ソ参照)旨の開示は、酸化アルミニウム薄層中に、透明性とガスバリア性を損なわない範囲で微量金属が含有されてもよいという消極的な意味合いの技術事項を示すにとどまり、特定範囲内のアルミニウム金属成分含有量を有すべき旨の、前者の前記必須の構成を示唆するものとは到底いえない。
一方、前者、すなわち、発明1は、該必須の構成を具備することにより、「特に透明性が高く、ガスバリア性に優れ、かつ従来の透明ガスバリア性フィルムがもっていた着色や電子レンジ加熱性といった欠点を解消したフィルムを提供する」(同段落【0006】)という、特許明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、発明1は、甲1〜4発明に基づき当業者に想到容易であったということはできない。
4の2.発明2について
発明2(前者)は、請求項1を引用し、発明1(後者)をさらに技術的に限定する関係にあるところ、上記のとおり、前提となる後者の進歩性が甲1〜4発明によっては否定できない以上、それと同じ理由により、甲1〜4発明によっては前者の進歩性を否定することはできない。

5.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-03-27 
出願番号 特願平4-145949
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 小林 正巳
特許庁審判官 喜納 稔
石井 克彦
登録日 2000-08-11 
登録番号 特許第3097311号(P3097311)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 透明ガスバリア性フィルム  
代理人 谷川 英次郎  

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