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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04G
管理番号 1058998
審判番号 不服2001-6648  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-07-09 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-04-26 
確定日 2002-05-20 
事件の表示 平成 3年特許願第339182号「透水性コンクリート」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年 7月 9日出願公開、特開平 5-171804]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 本願発明
本願は、平成3年12月24日の出願であって、その請求項1及び2に係る発明は、平成11年11月19日付け、平成13年5月24日付け及び平成13年12月25日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】セメント、骨材、及び水を混合し、その混合物に溶解する繊維状固形物とアルミニウム粉末とを添加・混練して混合材料とし、その混合材料を打設したのち固化過程において前記固形物を溶解させると共に前記アルミニウム粉末から気泡を生じさせてなる透水性コンクリート。
【請求項2】請求項1のコンクリートにおいて、前記繊維状固形物をガラス繊維又は植物繊維としてなる透水性コンクリート。

2 引用刊行物の記載
これに対して、当審における、平成13年10月30日付けで通知した拒絶の理由に引用した、本願出願前に頒布された特開平2-157322号公報(以下「引用例1」という。)には、「また本発明に係る緑化工法は、コンクリートに透水性繊維体を混入した透水性コンクリートを地山に吹き付け格子状枠体を作り、該格子状枠体内に・・・を特徴とする。」(2頁右上欄9〜14行)、「本発明に用いられる透水性繊維体としては、繊維体が腐食性を有するために透水性を示すもの、・・・用いることができる。前者の例としては例えば稲わら、麦わら・・・を短く切断したもの等が挙げられ、」(2頁右下欄1〜6行)、「上記以外に大根、イモ類・・・用いることもできる。」(2頁右下欄11〜15行)、「本発明において・・・コンクリート成分の配合比は、コンクリート1m3当り、透水性繊維体20kg〜50kg、セメント300kg〜500kg、その他の添加剤・・・が好ましい。」(3頁左上欄14〜17行)、「本発明によれば・・・透水性繊維体が腐蝕してあるいはそれ自体の性質によってコンクリートが有孔質となり、格子状枠体自体が透水する。」(3頁左下欄16〜20行)、「このため枠体内に降水(雨水)が滞水することなく排水されるために・・・法面の崩壊がなくなる。」(3頁左下欄下から1行〜右下欄3行)と記載されている。第1,3,4図は本発明の格子状枠体の構造を示す。
以上の記載によると、引用例1には、セメント、その他の通常のコンクリート添加剤からなるものに稲わら、麦わら等の植物性の透水性繊維体を加え混合物とし、これを地山に吹き付け固めた透水性コンクリートが開示されていると認められる。
同じく本願出願前に頒布された特開昭53-142429号公報(以下「引用例2」という。)には、「本発明は、特に通気性の優れたセメントコンクリート多孔体に関する。」(1頁左上欄下から4〜3行)、「第1図に示すように、巻き込み空気泡1は繊維状物質に隣接して固定される。従ってセメントコンクリートの凝結後にこの繊維状物質を消失させれば、コンクリートの外側2面の間を連通する繊維消失空孔2が得られ、しかもこの連通する空孔は粗大な空気泡1と一体化するので、その容積が特に大きい特徴を有する。」(2頁左上欄10〜16行)、「セメントコンクリートの養生過程において、熱分解またはセメントのアルカリ性水熱反応によって消失させることができる繊維状物質としては、有機質すなわちセルロース質・・・を使用することができる。」(2頁左上欄17行〜右上欄2行)、「本発明の通気性セメントコンクリートは、・・・従来のセメントコンクリートと比較して数十倍の透水率を有する。」(2頁右上欄6〜9行)と記載され、第1図(本発明の通気性物質の断面図)には、空気泡1と一体化した繊維消失空孔2が示されている。

3 対比・判断
(1)請求項1に係る発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願第1発明」という。)では「固化過程において」とあるが、通常コンクリートを打設した後は、固化が始まり完成品となるまでの過程しかなく、又本願明細書においても固化過程が終了する時点の明確な定義がないことから、本願第1発明における「固化過程」は、固化開始から十分に硬化したコンクリートとなるまでの過程と解さざるを得ない。
次に、「本願第1発明」(前者)と引用例1に記載された発明(後者)を対比するが、コンクリートはアルカリ性であり(日本コンクリート工学協会編「コンクリート便覧」昭和51年6月1日、(株)技報堂発行、8頁参照。)、セルロースはアルカリ可溶のセルロースも含む(化学大辞典5、1989年8月15日、共立出版、402頁参照。)。
後者の「稲わら、麦わら等の植物性の透水性繊維体」がセルロース等の成分を含むことは自明であるから、これをコンクリート中に含有させたとき、該繊維体成分は当然その一部は溶解(部分溶解)することになる。部分溶解であっても「溶解」であることに変わりがない。
そして、後者の「稲わら、麦わら等の植物性の透水性繊維体」が、前者のセメント、骨材及び水の「混合物に溶解する繊維状固形物」に相当すること、後者の「吹き付け固めた」が打設と解されること、更に、後者においてはセメントに骨材及び水が混合され、それに稲わら等植物性の繊維体が添加されて混練されることが自明であることから、結局のところ、両者は、セメント、骨材、及び水を混合し、その混合物に溶解する繊維状固形物を添加・混練して混合材料とし、その混合材料を打設し固化させてなる透水性コンクリートである点で一致し、前者では、セメント、骨材、及び水の混合物にアルミニウム粉末を添加・混練し、打設後の固化過程において該アルミニウム粉末から気泡を生じさせるのに対し、後者ではこの点が不明である点(相違点1)、前者では「繊維状固形物」を、固化過程(固化開始から十分に硬化したコンクリートとなるまで過程)において「溶解させる」ものであるのに対し、後者では植物性の透水性繊維体が、固化開始からコンクリートが十分に硬化するまでの間に溶解するのかどうか不明である点(相違点2)で一応相違している。
相違点1について、
引用例2における、コンクリート外側面に連通する空孔(以下、「連通孔」という。)と空気泡が一体化し「連通孔」の体積が特に大きくなるという記載(2頁左上欄13〜16行)及び図面の第1図の記載からみて、「連通孔」は、繊維状物質の消失領域と空気泡がしめる体積部分とからなることは明らかである。そして、空気泡の部分は空洞であればよいから、空気泡をそれ以外の気泡に置き換えたときに「連通孔」が形成されなくなるというものではない。
又、該引用例には、繊維状物質(例、セルロース質)に空気泡を共存させると繊維状物質が消失した後、「連通孔」が形成され、透水率が大きくなるという記載がある(2頁左上欄10〜14行、2頁右上欄6〜9行参照。)。
一方、引用例1において、植物性の透水性繊維体の腐蝕によりコンクリートが有孔質となるが、孔の形成が繊維体の消失によることは自明のことであり、そして引用例1の透水性コンクリートは、雨水に対する排水性向上のためにも用いられるから(3頁左下欄下から1行〜右下欄3行参照。)、引用例1の透水性コンクリートにおいて透水性を高めることは当然意図されることである。
そうすると、引用例2には「連通孔」に関して体積を特に大きくすること、透水率を高めることが記載されているので、引用例1に記載の透水性コンクリート中に、気泡を含有させることは当業者が容易に想到し得ることと認められる。
気泡を有するコンクリートの製造においてアルミニウム粉末のような気泡発生剤を原料の混合段階で用いること、固化段階で気泡を生じさせることは本願出願前周知であるから、その場合に、アルミニウム粉末(気泡発生剤)を原料(セメント、骨材及び水)に加えて混練し、固化過程において気泡を生じさせることは当業者が必要に応じて適宜なし得ることに過ぎない。
そして、透水性コンクリートの形成においてアルミニウム粉末を添加・混練したことによりもたらされる効果も当業者の予測を越えるものではない。
相違点2について、
上記したように引用例1に記載の「植物性の透水性繊維体」は、成分の一部がセメント、骨材及び水の混合物(アルカリ性)に溶解するものである。可溶成分の溶解は、成分が存在しアルカリ条件下であればよいのであるから、常識的にはコンクリート硬化段階において一部の溶解は生じると考えられる。
引用例1記載のものは、透水性コンクリートの形成過程が透水性繊維体の腐蝕段階を含むが(3頁左下欄下から3〜1行参照。)、透水性繊維体の腐蝕による成分の分解、消失は急激に起こるものではないから、たとえ前記した可溶成分の溶解が腐蝕を伴ったとしても部分溶解が生じることには変わりがない。そして、コンクリート硬化の完了までの過程は、本願第1発明の「固化過程」(意味は上記したとおり。)である。
そうすると、引用例1において、「植物性の透水性繊維体」は「固化過程」で溶解すると言わざるを得ず、上記の相違点2に示した差違は実質的な差違であるとは認められない。
したがって、請求項1に係る発明は、引用例1、2に記載の発明及び周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、請求項1において繊維状固形物をガラス繊維又は植物繊維に限定したものである。
請求項2に係る発明(繊維状固形物が植物繊維である場合)は、上記3(1)に記載したのと同じ理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1、2に係る発明は、引用例1、2に記載の発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-03-25 
結審通知日 2002-03-26 
審決日 2002-04-09 
出願番号 特願平3-339182
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E04G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古屋野 浩志  
特許庁審判長 嶋矢 督
特許庁審判官 鈴木 憲子
鈴木 公子
発明の名称 透水性コンクリート  
代理人 市東 篤  
代理人 市東 禮次郎  

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