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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02P
管理番号 1059197
審判番号 不服2000-11929  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-12-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-06-28 
確定日 2002-05-31 
事件の表示 平成3年特許願第118785号「カーボン汚損防止装置」の拒絶の査定に対する審判事件[平成4年12月2日出願公開、特開平4-347372号]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成3年5月23日の特許出願であって、その発明(以下、「本願発明」という。)は、平成9年11月17日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「エンジンの燃焼室に臨む筒状の主体金具、該主体金具に嵌着される軸孔付きの絶縁碍子、前記軸孔に挿設される中心電極、前記絶縁碍子の脚長部に組み付けられる電気ヒータを備えるヒータ付きスパークプラグと組み合わせて使用するカーボン汚損防止装置であって、
前記ヒータ付きスパークプラグに高電圧を供給する点火装置、該点火装置への作動用電力を供給するイグニッションスイッチが開いた際に、中心電極- 主体金具間の漏洩抵抗を計測する漏洩抵抗測定手段と、
該漏洩抵抗測定手段で計測された漏洩抵抗が100メグオーム以下の場合、所定時間電気ヒータに通電するヒータ通電手段と
を具備してなるカーボン汚損防止装置。」

2.引用例に記載された発明
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された実願昭47-48058号(実開昭49-7315号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、次のような記載がある。
イ.「添付図面において1は通電スイツチで,バツテリー7に接続された正端子2a,通電端子8aに接続された正端子2b,通電端子8bに接続された負端子3a,およびアース9に接続された負端子3bの各端子を有している。4は前記正端子2aおよび2bをオン,オフする接点,5は前記負端子3aおよび3bをオン,オフする接点である。そして,前記両接点4,5は互いに絶縁されておりレバー6により操作してある。10は前記通電端子8aに接続された中軸,11は中心電極12a内に配設してある電熱コイルで,該電熱コイル11の一端が前記中軸10に,他端が前記中心電極12aの先端に接続されており,前記中心電極12aは耐熱パイプ12の一部を構成している。12cは接地電極,13は前記耐熱パイプ12の外周に設置してある絶縁碍子,16は前記耐熱パイプ12と前記中軸10および前記電熱コイル11とを絶縁してあるマグネシア等の絶縁粉末である。そして,前記耐熱パイプ12の上端12bに通電端子8bおよび点火器15と中心電極12aを接続する高電圧端子14が密着してある。17は絶縁ワツシヤー,18は絶縁リング,19は前記レバー6を操作し加熱回路が形成される時に点火回路をオフにするリレーで、常閉接点19aとコイル19bより形成してある。そして,点火器15は配電器15a,点火コイル15b,ブレーカ15c,およびコンデンサー15dよりなつている。20はキースイツチである。」(明細書第3頁第14行〜第5頁第11行)
ロ.「上記の構成になる本考案装置の作動を説明すると,キースイツチ20を閉成し通電スイツチ1を開放しているエンジン運転時には,リレー19内の常閉接点19aは閉成しており,ブレーカ15cを開閉すると点火コイル15bに高電圧が発生し,配電器15aを介して高電圧端子14に接続された中心電極12aと接地電極12cとの間に火花を飛ばす。また,キースイツチ20を開放しエンジン停止時には通電スイツチ1のレバー6を操作し,接点4を正端子2a,2bに押しつけてオンすると同時に,接点5を負端子3a,3bに押しつけてオンとし,加熱回路を形成することにより電流がバツテリー7→接点4→通電端子8a→中軸10→電熱コイル11→耐熱パイプ12→通電端子8b→接点5→アース9へと流れ,絶縁碍子13の脚部を加熱し,付着した付着物を焼き切り,適当な時間通電加熱したのちレバー6を操作し,接点4,5をオフにする。なお,通電スイツチ1のレバー6の操作は手動でも,タイマー,バイメタル等を使用した自動でも可能である。
以上述べたように本考案に於いてはエンジン停止時にバツテリーよりの電流を点火栓の中心電極内の電熱コイルに流す通電スイツチを有しているから,エンジン運転している間は通電スイツチをオフにして通電せず点火栓の中心電極と接地電極との間で火花を飛ばすことができ,エンジンが停止している時に通電スイツチをオンにして前記電熱コイルにより絶縁碍子の脚部を加熱でき,絶縁碍子の脚部に付着したカーボン等の付着物を焼き切つて付着物による絶縁低下から生ずる失火を防止できるという優れた効果がある。」(明細書第5頁第12行〜第7頁第12行)
ハ.添付図面の表示、上記記載事項イ及び発熱体付点火栓の構成に関する技術常識(例えば、実願昭53-93185号(実開昭55-10239号)のマイクロフィルム、特開平3-55785号公報参照)を参酌すると、添付図面から、「エンジンの燃焼室に臨む筒状主体金具、該筒状主体金具に嵌着される軸孔付きの絶縁碍子13、前記軸孔に挿設される中心電極12a、前記中心電極12aに組み付けられる電熱コイル11を備える内燃機関用点火栓。」が看取できる。
これらの記載事項等によると、引用例1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認めることができる。
「エンジンの燃焼室に臨む筒状主体金具、該筒状主体金具に嵌着される軸孔付きの絶縁碍子13、前記軸孔に挿設される中心電極12a、前記中心電極12aに組み付けられる電熱コイル11を備える内燃機関用点火栓に接続されてカーボン等の付着物を焼き切って付着物による絶縁低下から生じる失火を防止するようにした内燃機関用点火栓の加熱装置であって、
前記電熱コイル11を備える内燃機関用点火栓に高電圧を供給する点火器15と、該点火器15への作動用電力を供給するキースイッチ20が開放しているエンジン停止時に、加熱回路を形成することにより前記電熱コイル11に電流を流して適当な時間通電加熱する通電スイッチ1とを具備してなるカーボン等の付着物を焼き切って付着物による絶縁低下から生じる失火を防止するようにした内燃機関用点火栓の加熱装置。」
(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された実願昭62-15343号(実開昭63-123771号)のマイロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、次のような事項が記載されている。
イ.「始動時はもともと燃焼状態が悪いので、点火プラグ9にくすぶり汚損が生じやすく、くすぶりを生じると、その後は従来例によれば点火できない場合が生じる。この原因を本考案者が確かめたところによれば、くすぶり汚損により点火プラグ9の絶縁抵抗値が低下し、ギャップ以外の部分から高電圧が漏洩(リーク)しやすくなる」(明細書第5頁第7〜13行)
ロ.「この考案は、第1図に示すように、…内燃機関の点火制御装置において、点火プラグ9の絶縁抵抗値を検出する手段14と、測定した絶縁抵抗値に応じ、絶縁抵抗値が低下するほど前記通電時間を短縮補正する手段15を設けた。」(明細書第6頁第9〜18行)
ハ.「点火プラグ9にくすぶり汚損が生じている場合には、これが絶縁抵抗値として測定され、くすぶりの程度が重いほど絶縁抵抗値の大きな減少として反映される。そして、この抵抗値減少の程度が大きいほど通電時間は逆に短くされる。ここに、絶縁抵抗値が減少した状態では、プラグギャップ以外の部分より高電圧がリークしやすいのであるが、このような状態では通電時間の短縮により少ないエネルギしか点火プラグ9に供給されない。このため、リークを大きくすることもないので、やがては自己清浄作用にて点火プラグ9が元の状態に回復する。」(明細書第7頁第2〜13行)
これらの記載事項等によると、引用例2には、次のとおりの発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認めることができる。
「点火プラグのくすぶり汚損により失火へと至る以前にくすぶり汚損からの速やかな回復を図るために、点火プラグ9の絶縁抵抗値を検出することにより、点火プラグ9にくすぶり汚損が生じている程度を測定し、この測定した値によって次の制御工程を行なう内燃機関の点火制御装置。」

3.本願発明と引用発明1との対比
そこで、本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「筒状主体金具」は、その技術的意義において、本願発明の「筒状の主体金具」に相当し、以下同様に、「絶縁碍子13」は「絶縁碍子」に、「中心電極12a」は「中心電極」に、「電熱コイル11」は「電気ヒータ」に、「電熱コイル11を備える内燃機関用点火栓」は「ヒータ付きスパークプラグ」に、「内燃機関用点火栓に接続されてカーボン等の付着物を焼き切って付着物による絶縁低下から生じる失火を防止するようにした内燃機関用点火栓の加熱装置」は「ヒータ付きスパークプラグと組み合わせて使用するカーボン汚損防止装置」に、「点火器15」は「点火装置」に、「キースイツチ20」は「イグニッションスイッチ」に、「点火栓」は「スパークプラグ」に各々相当するものと認められる。
そして、本願発明の「中心電極12aに組み付けられる電熱コイル11」と引用発明1の「絶縁碍子の脚長部に組み付けられる電気ヒータ」とは、「絶縁碍子に熱を伝えることができる部位に組み付けられる電気ヒータ」の限度で一致し、本願発明の「イグニッションスイッチが開いた際に」と引用発明1の「キースイッチ20が開放しているエンジン停止時に」とは、「イグニッションスイッチが開いているときに」の限度で一致し、本願発明の「所定時間電気ヒータに通電するヒータ通電手段」と引用発明1の「加熱回路を形成することにより前記電熱コイル11に電流を流して適当な時間通電加熱する通電スイッチ1」とは、「所定時間電気ヒータに通電する手段」の限度で一致すると認められる。
してみると、両者間の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
エンジンの燃焼室に臨む筒状の主体金具、該主体金具に嵌着される軸孔付きの絶縁碍子、前記軸孔に挿設される中心電極、前記絶縁碍子に熱を伝えることができる部位に組み付けられる電気ヒータを備えるヒータ付きスパークプラグと組み合わせて使用するカーボン汚損防止装置であって、
前記ヒータ付きスパークプラグに高電圧を供給する点火装置と、該点火装置への作動用電力を供給するイグニッションスイッチが開いているときに、所定時間電気ヒータに通電する手段とを具備してなるカーボン汚損防止装置。
<相違点>
イ.電気ヒータの組み付けの態様について、本願発明では、「前記絶縁碍子の脚長部に組み付けられる電気ヒータ」となっているのに対して、引用発明1では、「前記中心電極12a(中心電極)に組み付けられる電熱コイル11(電気ヒータ)」となっている点(以下、「相違点イ」という。)。
ロ.電気ヒータに通電する態様について、本願発明では、「該点火装置への作動用電力を供給するイグニッションスイッチが開いた際に、中心電極-主体金具間の漏洩抵抗を計測する漏洩抵抗測定手段と、該漏洩抵抗測定手段で計測された漏洩抵抗が100メグオーム以下の場合、所定時間電気ヒータに通電するヒータ通電手段」となっているのに対して、引用発明1では、「該点火器15(点火装置)への作動用電力を供給するキースイッチ20(イグニッションスイッチ)が開放しているエンジン停止時に、加熱回路を形成することにより前記電熱コイル11(電気ヒータ)に電流を流して適当な時間通電加熱する通電スイッチ1」となっている点(以下、「相違点ロ」という。)。

4.相違点の検討及び判断
以下、上記相違点について検討する。
(1)相違点イについて
「絶縁碍子の脚長部に組み付けられる電気ヒータ」は、従来周知の技術的事項であると認められ(例えば、実願昭53-93185号(実開昭55-10239号)のマイクロフィルム、特開平3-55785号公報、実願昭58-42715号(実開昭59-157579号)のマイクロフィルム参照)、また、引用発明1にこのような従来周知の技術的事項を適用することを妨げる特段の事情も見当たらない。
してみると、相違点イに係る本願発明の構成要件は、引用発明1の採用に際し、当業者が適宜実施できた設計的事項というべきである。
(2)相違点ロについて
引用発明1において、「該点火器15(点火装置)への作動用電力を供給するキースイッチ20(イグニッションスイッチ)が開放しているエンジン停止時に、加熱回路を形成することにより前記電熱コイル11(電気ヒータ)に電流を流して適当な時間通電加熱する」のは、絶縁碍子の脚部に付着したカーボン等の付着物を焼き切つて付着物による絶縁低下から生ずる失火を防止するためであると解される(引用例1の上記記載事項ロ参照)ので、付着物の付着量が該付着物による絶縁低下から生ずる失火を招く恐れのない程度の状態においては、キースイッチ20(イグニッションスイッチ)が開放しているエンジン停止時であっても、電熱コイル11(電気ヒータ)に電流を流して適当な時間通電加熱する必要がないことは明らかである。
そうすると、付着物の付着量が該付着物による絶縁低下から生ずる失火を招く恐れがあるときのみ、電熱コイル11(電気ヒータ)に電流を流して適当な時間通電加熱する必要があることは、当業者にとってたやすく予想できることにすぎない。
そして、引用発明2は、「カーボン汚損に起因するスパークプラグのミススパークを防止する」限度において本願発明及び引用発明1とその発明の課題が共通し、点火プラグの絶縁抵抗値、すなわち、技術常識からみて、中心電極-主体金具間の絶縁抵抗値を計測する手段と、該手段で計測された絶縁抵抗値により点火プラグのカーボン汚損の度合を測定する技術思想を含むものと解することができる。
また、本願発明の「漏洩抵抗が100メグオーム以下」との数値限定は、これ自体に格別の臨界的意義があるとも認められず、単に一つの「カーボン汚損に起因するスパークプラグのミススパークを未然に防止する基準」を示すものであって、この程度のことは、当業者が発明の実施に際して行なう通常の試験を通してたやすく得ることができる程度のものということができる。
してみると、相違点ロに係る本願発明の構成要件は、引用発明1に引用発明2の技術思想を適用することにより、当業者が容易に想到できたものというべきである。
そして、相違点イ及びロに係る構成要件を採用することにより本願発明が奏する効果は、引用発明1、2及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が予測することができる範囲を超えるものではない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明1、2及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-03-19 
結審通知日 2002-03-26 
審決日 2002-04-09 
出願番号 特願平3-118785
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 穂積田澤 英昭亀田 貴志  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 氏原 康宏
栗田 雅弘
発明の名称 カーボン汚損防止装置  

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