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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23H
管理番号 1059201
審判番号 不服2000-13649  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-05-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-08-29 
確定日 2002-05-30 
事件の表示 平成 4年特許願第 94765号「ワイヤ放電加工における初期加工方法」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年 5月 7日出願公開、特開平 5-111822]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】 本件出願は、平成4年3月21日(パリ条約による優先権主張1991年3月20日、ドイツ国)に出願されたものであり、その発明は、平成12年8月29日付けの手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 ワイヤ電極を使用する放電加工による被加工物の初期加工方法であって、被加工物の導入路に沿った特定の加工パラメータの値が、実際の形状加工のための加工パラメータの値に比較して、少なくともその一部において低減され、低減された加工パラメータ値のうちの少なくとも幾つかが実際の形状加工のための加工パラメータ値に到達するまで常時変化され、導入路の終点における実際の形状加工の開始時において、実際の形状加工のための加工パラメータの値は連続的な変化の終点として決められ、かつこの変化の経路が決められる、ワイヤ放電加工における初期加工方法。
【請求項2】 実際の形状加工開始時に終点として決められた加工パラメータの値は導入路に沿ってワイヤ電極が移動する間に所望の値に変更が可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 加工パラメータは電源、加工液噴流、ワイヤ電極のこれらの諸値の少なくとも一つによって決められる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】 ワイヤ電極が被加工物の実際の形状加工以前に決められた始動路上を通過するようにした、上記請求項の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】 ワイヤ電極はそれが被加工物に達した場所を認識し、その場所から低減された加工パラメータ値が実際の形状加工のための所期の加工パラメータ値に向かって連続的な変化を開始する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】 ワイヤ電極が被加工物を最初に加工する場所の認識は、電圧、電流、噴流の諸条件を介して行なわれるか、または光学的に実施される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】 もし実際の形状加工のための所期の加工パラメータ値に到達しなかった場合には、低減された加工パラメータ値の連続変化は形状加工路に達した時点においても続行される、上記請求項の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】 導入路においてワイヤ電極が断線した場合には、先ずワイヤ電極は被加工物から移動され、次いで残りの導入路上をワイヤ電極断線時の加工パラメータ値に比較して低減されたパラメータ値で移動するために、再びワイヤ
電極の断線地点まで戻される、上記請求項の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】 実際の形状加工のための所期の加工パラメータ並びに導入路の決定のための加工パラメータ値は記憶される、上記請求項の何れか1項に記載の方法。」
【2】 1 原審の拒絶理由において引用した本件出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平1-264718号公報(以下、第1引用例という)には次の発明が記載されている。
ワイヤ電極を使用する放電加工による被加工物の加工開始直後の加工方法であって、被加工物の助走加工区間に沿った特定の加工パラメータの値が、本加工のための加工パラメータの値に比較して、少なくともその一部において低減され、低減された加工パラメータ値のうちの少なくとも幾つかが本加工のための加工パラメータ値に到達するまで常時変化され、助走加工区間の終点における本加工の開始時において、本加工のための加工パラメータの値は連続的な変化の終点として決められるワイヤ放電加工における加工開始直後の加工方法。
そして、第1引用例に記載された発明における加工開始直後の加工方法は、本件出願の請求項1に係る発明における初期加工方法に相当するものと認める。
また、前記において「助走加工区間の終点における本加工の開始時において、本加工のための加工パラメータの値は連続的な変化の終点として決められる」と認定した根拠は、実施例として記載されている第1引用例の第2頁右下欄第12行ないし第16の「加工送り速度Vは加工開始直後には本加工時の加工送り速度Vnの70%に低減され、加工距離Lの遂行に従って徐々に増加され、助走区間を終了する距離Lnで本加工の送り速度Vnに戻される。」という記載によるものである。
すなわち、第1引用例に記載された発明において、加工パラメータ値の連続的な変化は、助走加工区間の終了と共に、それに連続してそのまま本加工のための加工パラメータの値となっている。
2 原審の拒絶査定において、本件出願の出願前において周知である発明の例として引用した文献(斉藤長男著(拒絶査定に記載した「小林一彦」は誤りである)、「ワイヤカット放電加工技術」、第69頁ないし第71頁)、昭和58年5月31日、日刊工業新聞社発行、以下、第2引用例という)には、次の記載がある。
(1) 第70頁下から第3行ないし第71頁第1行の記載。
「ワイヤカット放電加工をスタートしてから安定した加工になるまでに0.2〜0.3mmの助走寸法が必要である。すなわち,安定した状態で加工を行う精度の良い製品を得るためには,図第4.3のように助走寸法を2mm以上位設けられれば十分である。」
(2) 図第4.3の記載
直方体をした「素材」に「スタートポイント」が記載され、それに接して「2〜3mm(助走用)」が記載され、さらにそれに接し、かつ、「ワイヤ」に接した点を起点及び終点としてさらにまた「製品」が完全に周回する形状で記載されている。
そこで、前記(1)及び(2)の記載について検討する。
(2)の記載からすると、「製品」は、「ワイヤ」に接した点を起点及び終点とする完全に周回する形状であることからして、ワイヤカット放電加工が終了した時点においては、「2〜3mm(助走用)」の部分とは完全に別体のものとして「素材」から切り離されるものである。
したがって、「2〜3mm(助走用)」は、「製品」、すなわち、実際の形状加工の一部ではないことが明白である。
そして、前記(1)及び(2)の記載を総合すると、第2引用例には、ワイヤ電極を使用する放電加工による被加工物の初期加工方法において、助走寸法、すなわち、被加工物の導入路の加工が実際の形状加工の開始前に行われ、かつ、導入路の終点が実際の形状加工の開始点となっているワイヤ放電加工における初期加工方法が記載されている。
【3】 本件出願の請求項1に係る発明と第1引用例に記載された発明とを比較すると、ワイヤ電極を使用する放電加工による被加工物の初期加工方法であって、被加工物の助走加工区間に沿った特定の加工パラメータの値が、本加工のための加工パラメータの値に比較して、少なくともその一部において低減され、低減された加工パラメータ値のうちの少なくとも幾つかが本加工のための加工パラメータ値に到達するまで常時変化され、助走加工区間の終点における本加工の開始時において、本加工のための加工パラメータの値は連続的な変化の終点として決められるワイヤ放電加工における初期加工方法である点で一致し、次の点においてのみ相違する。
相違点:本件出願の請求項1に係る発明が、助走加工区間を実際の形状加工に到達する以前の部分とし、本加工をする区間を実際の形状加工をする区間としているのに対して、第1引用例に記載された発明が、助走加工区間を実際の形状加工に到達する以前の部分とするか否か及び本加工をする区間を実際の形状加工をする区間とするか否かについての記載がない点。
そこで、前記相違点について検討する。
ワイヤ電極を使用する放電加工による被加工物の初期加工方法において、助走寸法、すなわち、被加工物の導入路の加工が実際の形状加工の開始前に行われ、かつ、導入路の終点が実際の形状加工の開始点となっているワイヤ放電加工における初期加工方法については、前記したとおり第2引用例に記載されているばかりでなく、本件出願の出願前において周知慣用の技術(一例として、斉藤長男著、「放電加工のしくみと100%活用法」、第220頁ないし第222頁)、昭和54年10月20日、株式会社技術評論社発行)である。
前記した周知慣用の技術が記載された刊行物には、「助走線部」削除することにより、製品となる実際の形状加工を形成する部分としないことが記載されている。
そればかりでなく、ワイヤ電極を使用する放電加工においては、実際の形状加工をする区間では、その加工を安定させるために不必要な加工条件の変更を避けること及びワイヤ放電加工の初期においては加工が不安定であるため、加工初期の部分については製品となる実際の形状加工を形成する部分としないことが技術常識である。
そして、第1引用例と第2引用例に記載されている本件出願の出願前において周知慣用の技術とは、ワイヤ電極を使用する放電加工による被加工物の初期加工方法として共通するものであるから第1引用例に記載された発明に、第2引用例に記載された発明における被加工物の導入路の加工が実際の形状加工の開始前に行われ、かつ、導入路の終点が実際の形状加工の開始点となっている点を適用して、この相違点において掲げた本件出願の請求項1に係る発明の構成のごとくすることは、当業者が容易に想到できたものである。
【4】 以上のとおりであるから、本件出願の請求項1に係る発明は、第1引用例及び第2引用例に記載された発明並びに本件出願の出願前における周知慣用の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、本件出願は、本件出願の請求項1に係る発明が特許を受けることができない以上、本件出願の請求項2ないし請求項9に係る発明について改めて論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-12-10 
結審通知日 2001-12-18 
審決日 2002-01-07 
出願番号 特願平4-94765
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八木 誠  
特許庁審判長 小林 武
特許庁審判官 桐本 勲
鈴木 孝幸
発明の名称 ワイヤ放電加工における初期加工方法  
代理人 松永 宣行  

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