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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60R
管理番号 1059217
審判番号 不服2000-8293  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-06-07 
確定日 2002-06-15 
事件の表示 平成11年特許願第197886号「車体上部の衝撃エネルギ吸収構造及び衝撃エネルギ吸収材」〔平成12年3月28日出願公開(特開2000-85504)、請求項の数(11)〕拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.[事件の経緯と本願発明]
本願は、平成10年7月14日に出願された特願平10-198320号及び同日の出願に係る特願平10-198321号の特許出願を先の出願とする、特許法第41条第1項に規定する優先権の主張を伴って、平成11年7月12日付で出願されたもので、その発明は、平成12年6月28日付の手続補正に係る明細書における、特許請求の範囲の請求項1〜11のそれぞれに記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】 車体の構造部材と、この構造部材の内方に間隔をおいて配置される内装材と、前記間隔内に配置されるエネルギ吸収材とを備える車体上部において衝撃エネルギを吸収する構造であって、
前記エネルギ吸収材は、金属箔の芯材と、この芯材の表裏にそれぞれ重ね合わされた金属以外の材料のシートとからなるハイブリッドパイプであり、
このハイブリッドパイプは、前記芯材と前記表裏のシートとを軸線方向へ連続的に凹凸状に変形して形成され、かつ、軸線方向で隣り合わせて位置する2つの凸部間又は凹部間のピッチが軸線方向において部分的に異なるように形成され、荷重の立ち上がりが異なる複数のエネルギ吸収特性を有する、車体上部の衝撃エネルギ吸収構造。
【請求項2】 前記ハイブリッドパイプは、所定ピッチの凹凸部と、この凹凸部のピッチより大きなピッチの複数の大ピッチ凹凸部とを有し、これら大ピッチ凹凸部が前記ハイブリッドパイプの軸線方向に所定の間隔をおいて配置された、請求項1に記載の車体上部の衝撃エネルギ吸収構造。
【請求項3】 金属箔の芯材と、この芯材の表裏にそれぞれ重ね合わされた金属以外の材料のシートとからなるハイブリッドパイプであり、
このハイブリッドパイプは、前記芯材と前記表裏のシートとを軸線方向へ連続的に凹凸状に変形して形成され、かつ、軸線方向で隣り合わせて位置する2つの凸部間又は凹部間のピッチが軸線方向において部分的に異なるように形成され、荷重の立ち上がりが異なる複数のエネルギ吸収特性を有する、衝撃エネルギ吸収材。
【請求項4】 車体の構造部材と、この構造部材の内方に間隔をおいて配置される内装材と、前記間隔内に配置されるエネルギ吸収材とを備える車体上部において衝撃エネルギを吸収する構造であって、
前記エネルギ吸収材は、金属箔の芯材と、この芯材の表裏にそれぞれ重ね合わされた金属以外の材料のシートとからなるハイブリッドパイプであり、
このハイブリッドパイプは、前記芯材と前記表裏のシートとを軸線方向へ連続的に凹凸状に変形して形成され、かつ、見掛けの板厚が軸線方向において部分的に異なるように形成され、荷重の立ち上がりが異なる複数のエネルギ吸収特性を有する、車体上部の衝撃エネルギ吸収構造。
【請求項5】 前記ハイブリッドパイプは、所定見掛けの板厚の凹凸部と、この凹凸部の見掛けの板厚より小さな見掛けの板厚の板厚減少部であって一定断面に形成したハイブリッドパイプを外周側から圧縮して断面を縮小した板厚減少部とを有する、請求項4に記載の車体上部の衝撃エネルギ吸収構造。
【請求項6】 前記ハイブリッドパイプは、所定見掛けの板厚の凹凸部と、この凹凸部の見掛けの板厚より小さな見掛けの板厚の板厚減少部であって一定断面に形成したハイブリッドパイプを内周側から拡張して断面を拡大した板厚減少部とを有する、請求項4に記載の車体上部の衝撃エネルギ吸収構造。
【請求項7】 前記ハイブリッドパイプは、軸線方向に交差する径方向の寸法が所定である所定見掛けの板厚の凹凸部と、この凹凸部の見掛けの板厚より小さな見掛けの板厚の板厚減少部であって前記凹凸部の径方向の寸法より小さな径方向の寸法を有する板厚減少部とを有する、請求項4に記載の車体上部の衝撃エネルギ吸収構造。
【請求項8】 車体の構造部材と、この構造部材の内方に間隔をおいて配置される内装材と、前記間隔内に配置されるエネルギ吸収材とを備える車体上部において衝撃エネルギを吸収する構造であって、
前記エネルギ吸収材は、金属箔の芯材と、この芯材の表裏にそれぞれ重ね合わされた金属以外の材料のシートとからなるハイブリッドパイプであり、
このハイブリッドパイプは、前記芯材と前記表裏のシートとを軸線方向へ連続的に凹凸状に変形して形成された所定見掛けの板厚の凹凸部と、凹凸状の変形がなく板厚が前記凹凸部の見掛けの板厚より小さな平坦状の板厚減少部とを有し、荷重の立ち上がりが異なる複数のエネルギ吸収特性を有する、車体上部の衝撃エネルギ吸収構造。
【請求項9】 前記板厚減少部は、前記内装材を経て衝撃荷重が加わったとき、大きな反力荷重を発生させる車体の構造部材の部位又はその近傍に配置される、請求項5ないし8のいずれかに記載の車体上部の衝撃エネルギ吸収構造。
【請求項10】 前記板厚減少部は複数設けられ、前記ハイブリッドパイプの軸線方向に所定の間隔をおいて配置された、請求項5ないし8のいずれかに記載の車体上部の衝撃エネルギ吸収構造。
【請求項11】金属箔の芯材と、この芯材の表裏にそれぞれ重ね合わされた金属以外の材料のシートとからなるハイブリッドパイプであり、
このハイブリッドパイプは、前記芯材と前記表裏のシートとを軸線方向へ連続的に凹凸状に変形して形成され、かつ、見掛けの板厚が軸線方向において部分的に異なるように形成され、荷重の立ち上がりが異なる複数のエネルギ吸収特性を有する、衝撃エネルギ吸収材。」

2.[原査定の理由]
本願を拒絶すべきとした原査定の理由の概要は、下記の引用刊行物には、本願各発明に係る衝撃エネルギー吸収用のハイブリッドパイプの基本的な構成が示され、また、単一の衝撃吸収部材において、各部分の衝撃吸収特性を変化させることは、下記の先行技術文献(a〜e)等に記載されるように一般に周知の技術であるから、本願の各発明は、いずれも、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないというものである。
<引用刊行物>
特開平10-29482号公報(以下、「引用例」という。)
「慣用手段」を開示する先行技術文献(a〜e)
a 特開平2-175452号公報
b 特開平8-188174号公報
c 特開平9-277953号公報
d 特開平9-277954号公報
e 特開平7-228267号公報

3.[引用刊行物の記載事項]
(1)引用例(特開平10-29482号公報)の記載事項
(イ)「本発明は、自動車のボディに加わる外力のエネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収材に関する。」(【0001】)
(ロ)「図1〜図3は、本発明に係る衝撃エネルギー吸収材1を示す。このエネルギー吸収材1は、断面が四角形のフレキシブル性を有するパイプである。四角形状については、正方形及び長方形のいずれの形状のものも使用でき、本実施の形態では、図2に示すように正方形のものを使用している」(【0005】)
(ハ)「図4は、図3におけるエネルギー吸収材1の矢視X部の拡大図である。図に示すように、エネルギー吸収材1の表面形状は、外側から順に外層材2、中間層材3及び内層材4の3層からなる重合体である。このうち、外層材2,4はクラフト紙を用い、中間層材3は金属薄板例えば鉄箔、硬質アルミ箔を使用している。そして、これらの層材2〜4が軸方向に連続して波状に凹部5及び凸部6を形成し、この凹凸部5,6は、図1及び図3に示すように、螺旋状に形成されている。」(【0006】)
(ニ)「衝撃エネルギー吸収材1の強度については、角部に丸みを設けることで、荷重に対する変形量を変えることができ、丸みの半径が大きくなるほど、荷重に対する変形量が大きくなる。さらに、材料の厚さ、幅、凸部のピッチを変えることで、チューニングが可能である。」(【0012】)
(ホ)「エネルギー吸収材1の配置場所としては、図7に示すように、自動車11のフロントピラー12、センタピラー13、フロント及びリアドアのショルダー部14,15、腰部16,17、フロントルーフレール18、サイドルーフレール19、リヤヘッダーレール20等に、またスライデングルーフが取付けられているような場合はそのスライデングルーフ回り21に配置できる。」(【0013】)
(2)先行技術文献の記載事項(a〜d)
(a)「衝撃緩衝部材3の各ビード5,6,7,8の高さを車両のフロント側で低くし、リア側へ順次高くするように形成する例を示し、」「衝撃吸収体に負荷される衝撃荷重の大きさに応じて各ビードは、その断面を大とする方向に変形が進む」(特開平2-175452号公報の第2頁右下欄第19行〜第3頁左上欄第2行、第3頁左上欄第15〜17行)
(b)「衝撃吸収体特有の衝撃圧壊による圧壊ピッチに合わせて、圧壊部間のピッチを衝撃吸収体の前部から後方へ順次長くした」(特開平8-188174号公報、第2頁第1欄第5〜7行)
(c)「長手方向(軸方向)に衝撃荷重を受けて、蛇腹状に座屈することで衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収部材において、座屈開始端の断面形状が4角形以上の多角形閉断面であり、他端の断面形状が座屈開始端の断面形状より多い辺を有する多角形閉断面であり、両端の間は両者の断面形状がなめらかに結ばれるように連続的に変化する断面形状を有し、」「本発明は、自動車用の構造部材に関し、詳しくは、衝突時にエネルギーを吸収する必要のある自動車フレーム部材に好適な衝撃吸収部材に関する。」(特開平9-277953号公報、第2頁1欄第2〜8行、同第18〜21行)
(d)「長手方向(軸方向)に衝撃荷重を受けて、蛇腹状に座屈することで衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収部材において、その断面が閉断面形状であり、座屈開始端から他端にむけて、その断面積が連続的かつ一様に変化する部材形状を有する」「本発明は、自動車用の構造部材に関し、詳しくは、衝突時にエネルギーを吸収する必要のある自動車フレーム部材に好適な衝撃吸収部材に関する。」(特開平9-277954号公報、第2頁1欄第2〜6行、同第12〜15行)
(e)「圧潰荷重を受ける強度部材の先端部側に初期座屈を誘起する凹部を設けると共に該凹部から前記強度部材の後端部側に複数の隔壁を設け、前記凹部と隣接する前記隔壁との間隔、並びに前記隔壁同士の間隔を前記強度部材固有の座屈ピッチの2倍より小さいものとしたことを特徴とする車体の強度部材構造。」(特開平7-228267号公報、第2頁1欄第2〜7行)
4.[当審の判断]
(1)発明の対比
本件補正に係る請求項1の発明(以下、「本願発明」という)と、引用例の記載事項とを対比する。
引用例記載の「衝撃エネルギー吸収材」は、記載(ホ)で指摘された「配置場所」及び図7の記載事項等からみて、本願発明の「エネルギ吸収材」と同様に、構造部材や内装材と共に、「車体上部において衝撃エネルギを吸収する構造」を実現するものである。
そして、上記(ロ)における「エネルギー吸収材1は、断面が四角形のフレキシブル性を有するパイプ」、及び(ハ)における「エネルギー吸収材1の表面形状は、外側から順に外層材2、中間層材3及び内層材4の3層からなる」「このうち、外層材2,4はクラフト紙を用い、中間層材3は金属薄板例えば鉄箔、硬質アルミ箔を使用している」「これらの層材2〜4が軸方向に連続して波状に凹部5及び凸部6を形成」との記載から、「金属箔の芯材と、この芯材の表裏にそれぞれ重ね合わされた金属以外の材料のシートとからなるハイブリッドパイプ」であって、「このハイブリッドパイプは、前記芯材と前記表裏のシートとを軸線方向へ連続的に凹凸状に変形して形成され」たものといえる。
したがって、本願発明(請求項1の発明)と引用例記載の発明との一致点と相違点は次のとおりである。
【一致点】「車体の構造部材と、この構造部材の内方に間隔をおいて配置される内装材と、前記間隔内に配置されるエネルギ吸収材とを備える車体上部において衝撃エネルギを吸収する構造であって、前記エネルギ吸収材は、金属箔の芯材と、この芯材の表裏にそれぞれ重ね合わされた金属以外の材料のシートとからなるハイブリッドパイプであり、このハイブリッドパイプは、前記芯材と前記表裏のシートとを軸線方向へ連続的に凹凸状に変形して形成される、車体上部の衝撃エネルギ吸収構造」である点。
【相違点】ハイブリッドパイプにおける「凹凸状」の変形に関して、本件発明では「軸線方向で隣り合わせて位置する2つの凸部間又は凹部間のピッチが軸線方向において部分的に異なるように形成され、荷重の立ち上がりが異なる複数のエネルギ吸収特性を有する」構成を備えるのに対し、引用例には、当該構成の言及を欠く点。
(2)相違点の判断
引用例の図6と、本願明細書に添付された図9及びその関連記載(【0062】)とを対比すると、引用例の上記(ニ)の記載でいう「荷重に対する変形量」や、「厚さ、幅、凸部のピッチ」を変更する、「強度」の「チューニング」とは、「荷重の立ち上がりが異なる複数のエネルギ吸収特性」への対応を含む、強度特性の調整を意味するものと解されるが、上記引用例の記載は、「軸線方向で隣り合わせて位置する2つの凸部間又は凹部間のピッチが軸線方向において部分的に異なるように形成」するようなチューニングを行うことまでも示唆するものとはいえない。
一方、上記「先行技術文献」における記載(a)〜(e)は、いずれも、単一の衝撃吸収部材において、各部分の衝撃吸収特性を変化させることを示唆したものといえる。
しかし、上記先行技術文献に係る記載のうちの、特に、(c)及び(d)に明記があるように、上記先行技術文献で示されているものは、いずれも、「長手方向(軸方向)に衝撃荷重を受けて、蛇腹状に座屈する」する衝撃吸収部材、あるいは、同様に変形する、「自動車用の構造部材」自体に関するものと解され、これらを本件発明や引用例記載の発明に係るエネルギー吸収部材と対比すると、いずれも衝突時等の衝撃エネルギーの吸収という点で共通するとはいえても、使用される車体の部位が異なるというのみでなく、衝撃吸収の態様及び機能においても相当な隔たりがあって、両者が同一の技術分野に属するものとはいえない。
そうすると、先行技術文献の記載(a)〜(e)において示唆されている上記の技術事項を、「車体上部において衝撃エネルギを吸収する構造」についても同様のものとして類推することはできないし、また、あえて類推したとしても、本願各発明の基本的な技術課題に係る、構造部材への取付部又はその近傍で「荷重の立ち上がりが異なる」ように「エネルギ吸収特性」を変化させるという点(【0004】参照)の開示や示唆に至るものではない。
なお、上記の開示や示唆がないことは、前置報告書で指摘されている特開平10-35378号公報、特開平7-291067号公報についても同様である。
したがって、上記相違点における本願発明の構成は、当該技術分野における周知・慣用の技術事項、あるいは、上記先行技術文献に示唆されたものとはいえず、本願発明を、上記の引用例をはじめとする各刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(3)本願請求項2以下の発明について
本願請求項2以下のいずれの発明も、本願発明と同様に、一つのハイブリッドパイプ中に「荷重の立ち上がりが異なる複数のエネルギ吸収特性を有する」部分を備えるものであるから、上記の各引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

5.[むすび]
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2002-05-23 
出願番号 特願平11-197886
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西本 浩司  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 鈴木 久雄
藤井 昇
発明の名称 車体上部の衝撃エネルギ吸収構造及び衝撃エネルギ吸収材  
代理人 松永 宣行  

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