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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01M
管理番号 1059411
異議申立番号 異議2000-74395  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-09-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-12-07 
確定日 2002-03-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3051332号「鉄道車両の模型試験方法および装置」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3051332号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3051332号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成8年3月6日に出願され、平成12年3月31日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について特許異議申立人財団法人鉄道総合技術研究所より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年8月7日に訂正請求がなされ、その後、訂正拒絶理由通知がなされ、平成14年1月7日付けで意見書及び手続補正書(訂正請求書)が提出されたものである。

2.訂正請求の補正の適否について
訂正請求書の補正の内容は、以下の通りである。
(1)全文訂正明細書中の段落【0034】の「対象物の密度ρ’を相似条件よりも小さくするように」を「対象物の密度を相似条件を成立させる密度ρ’よりも小さく」と補正する。
(2)訂正請求書第3頁第15行〜第18行の記載を
「【0034】
また本発明によれば、対象物の密度を相似条件を成立させる密度ρ’よりも小さく設定することによって、実際には非常にまれにしか発生しない現象を促進試験的にシミュレートすることができる。」
と補正する。
上記訂正請求書の補正は、軽微な瑕疵の補正に該当し、訂正請求の要旨を変更するものではないから、上記訂正請求書の補正を認める。

3.訂正の適否についての判断
ア)訂正の内容
特許権者が求めている補正された訂正の内容は、以下の通りである。
訂正(1):特許明細書の請求項3を次のとおりに訂正する。
「【請求項3】 前記実物の鉄道車両が走行する軌道上またはその近傍に存在する対象物について、前記無次元化した量F’によって示される相似条件を成立させる密度ρ’よりも密度を小さく設定した物体をトレーサとして、前記軌道模型上またはその近傍に配置し、対象物に対する流体力学的特性を促進試験的にシミュレートすることを特徴とする請求項2記載の鉄道車両の模型試験方法。」

訂正(2):特許明細書の段落【0012】を次のとおりに訂正する。
「【0012】
また本発明は、前記実物の鉄道車両が走行する軌道上またはその近傍に存在する対象物について、前記無次元化した量F’によって示される相似条件を成立させる密度ρ’よりも密度を小さく設定した物体をトレーサとして、前記軌道模型上またはその近傍に配置し、対象物に対する流体力学的特性を促進試験的にシミュレートすることを特徴とする。
本発明に従えば、無次元化した量F’によって示される相似条件での対象物の密度ρ’よりも密度を小さく設定したトレーサを軌道模型上またはその近傍に配置することによって、実際に起こり得る現象よりも起こりやすくし、トレーサに対して促進試験的に流体力学的な現象をシミュレートすることができる。」

訂正(3):特許明細書の段落【0018】を次のとおりに訂正する。
「【0018】
図5および図6は、図1に示す調整部材26に関連する構成を示す。図5は部分的な正面断面図、図6は部分的な平面図をそれぞれ示す。橋脚40の天板50上には、L形ガイド51が固定される。L形ガイド51の直交する側面に、左右調整用偏心カム52および前後調整用偏心カム53がそれぞれ当接する。左右調整用偏心カム52の軸は、橋桁41に装着される。橋桁41と天板50との間には、フリーベアリング54、ジャッキボルト55およびアンカーボルト56も配置される。」

訂正(4):特許明細書の段落【0034】を次のとおりに訂正する。
「【0034】
また本発明によれば、対象物の密度を相似条件を成立させる密度ρ’よりも小さく設定することによって、実際には非常にまれにしか発生しない現象を促進試験的にシミュレートすることができる。」

イ)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正(1)は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、この訂正は、特許明細書の段落【0031】に「代表長さLは現象を最も支配していると考えられる寸法であり、軌道の近傍に配置される石などを対象物とする場合は、その直径などを用いる。軌道上のバラストなどの物体を考えると、空気中での模型試験では、模型の走行速度をよほど速くするか、物体の比重を小さくしないとF’数が小さくなりすぎて物体が動かず、水中試験では、逆に実物以上に物体が飛び易くなってしまう。実物では列車風による物体の飛散は非常にまれな現象であるので、同じF’数ではほとんど物体は動かない。水中での模型走行試験では、速度が遅くても適当な比重の材料を選択することによって、物体の動きを確認することが可能である。すなわち比重を実際よりも小さくするトレーサを用いることによって、高速鉄道車両の通過に伴う極めてまれな流体力学的現象について促進試験的な確認を行うことができる。」と記載されているから、願書に添付した明細書または図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

訂正(2)は、訂正(1)において訂正された記載との整合をとるために発明の詳細な説明の記載を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正(3)は、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、段落【0022】、【符号の説明】、【図6】の記載からみて、この訂正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正(4)は、訂正(1)において訂正された記載との整合をとるために発明の詳細な説明の記載を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

4.取消理由についての判断
ア)取消理由は以下のとおりである。
「請求項3の「前記無次元化した量F’によって示される相似条件よりも、対象物の密度ρ’を小さく設定した物体」、「促進試験的にシミュレートする」という記載の意味が不明であるから、請求項3に係る発明は明確でない。また、請求項4に「複数の位置調整装置」と記載されているが、当該記載が複数の橋脚のそれぞれに位置調整装置が設けられていることを意味しているのか、前後方向、左右方向、上下方向の位置調整装置が設けられていることを意味しているのか、そのいずれであるのかが不明であるから、請求項4に係る発明は明確でない。よって、本件の請求項3及び請求項4に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」

イ)当審の判断
(1)特許権者が、請求項3を「【請求項3】 前記実物の鉄道車両が走行する軌道上またはその近傍に存在する対象物について、前記無次元化した量F’によって示される相似条件を成立させる密度ρ’よりも密度を小さく設定した物体をトレーサとして、前記軌道模型上またはその近傍に配置し、対象物に対する流体力学的特性を促進試験的にシミュレートすることを特徴とする請求項2記載の鉄道車両の模型試験方法。」と訂正し、平成13年8月7日付け意見書において「促進試験」という記載の意味について「めったに起らないことを起りやすくするような試験」と説明した結果、請求項3に係る発明は明確になり、請求項3に対する取消理由は解消された。

(2)「位置調整装置」は、「各橋脚と橋桁との位置関係」を調整するためのものであり、「橋脚」は複数あるので、「複数の位置調整装置」と記載してあることによって、「複数の橋脚のそれぞれに位置調整装置が設けられていることを意味していることは明瞭である(平成13年8月7日付け意見書第3頁)から、請求項4に係る発明は明確であり、請求項4に対する取消理由は解消された。

5.特許異議の申立てについての判断
ア)申立ての理由の概要
特許異議申立人財団法人鉄道総合技術研究所は、
「本件特許の請求項1〜4に記載された発明は、その出願前に刊行された刊行物(甲第1号証〜甲第4号証)に記載された発明から容易に発明することができたものであるから特許法第29条第2項に違反するので、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
また、請求項3に記載された発明には意味不明な部分があるから、特許法第36条第6項第2号に違反するので、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものである。」、
と主張している。

イ)本件の請求項1ないし4に係る発明
本件の請求項1ないし4に係る発明は、訂正明細書及び図面の記載からみて、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 水槽内に軌道模型を設置し、軌道模型に沿って車両模型を走行させ、車両模型の走行に伴って発生する現象を計測することによって、実物の鉄道車両が走行する際の流体力学的な現象を試験する鉄道車両の模型試験方法において、
車両模型は水面の上方から水中に吊下げて支持し、軌道模型は水槽の幅方向の中央で底面に立設される支持構造物の頂部で、水面上から位置調整が可能なように設置されることを特徴とする鉄道車両の模型試験方法。
【請求項2】 前記流体力学的な現象は、軌道模型上またはその近傍の物体にかかる力を無次元化した量F’、
【数1】


によって示される相似条件に従ってシミュレートすることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両の模型試験方法。
【請求項3】 前記実物の鉄道車両が走行する軌道上またはその近傍に存在する対象物について、前記無次元化した量F’によって示される相似条件を成立させる密度ρ’よりも密度を小さく設定した物体をトレーサとして、前記軌道模型上またはその近傍に配置し、対象物に対する流体力学的特性を促進試験的にシミュレートすることを特徴とする請求項2記載の鉄道車両の模型試験方法。
【請求項4】 水槽内に軌道模型を設置し、軌道模型に沿って車両模型を走行させ、車両模型の走行に伴って発生する現象を計測することによって、実物の鉄道車両が走行する際の流体力学的な現象を試験する鉄道車両の模型試験装置において、水槽の底面に、軌道模型の延長方向に間隔をあけて立設される複数の橋脚と、上面に軌道模型が敷設され、前記橋脚の頂部によって支持される橋桁と、各橋脚と橋桁との位置関係を、水面上から調整可能な複数の位置調整装置とを含むことを特徴とする鉄道車両の模型試験装置。」

ウ)刊行物等
特許異議申立人が証拠として提示した甲第1ないし4号証には、それぞれ、以下の事項が記載されている。
(1)甲第1号証(「列車のずい道通過時に起る圧力変動に関する水槽模型実験」、P1〜P11、牧野勤検ほか1名著、鉄道技術研究所速報、No.63-83、鉄道技術研究所:以下、「刊行物1」という。)には、
「4.研究方法
4.1 実験設備
装置は次の実験水槽模型曳行装置及び実験模型の3部分より成る。
4.1.1 実験水槽
内法巾1.0m,深さ0.8m,長さ20m,木製で前面ガラス 窓つき,水面は自由表面で列車模型の最大走行距離は17mであ る。第1図はその要領図を示す。
4.1.2 模型曳行装置
走行速度は約0.3〜3.0m/sの範囲を無断変速として17 mの区間で(起動加速)→(等速)→(減速停止)が上記の速度範 囲で自動的に行われる。
曳行用動力は2HP;制御用動力は1/4HPのモーターを用い ,入坑,出坑各点に設けた水中光電スイッチとリレーによつて設定 速度の制御を行わしめた。(第2図)
(中略)
b 列車模型
先頭圧及び両側面圧を測定するための受圧器は測定車の金属製部 に内ぞうし,測定車以外の車体部分は木製として1列車を構成し, すれちがい対行車はすべて木製とした。いづれも列車長は2mで断 面型縮尺1/40である。
(第4図)
(中略)
c 測定装置
受圧器は凡て同型とし,ダイヤフラム型の抵抗線歪み計を応用し たものを用い,列車模型が停止している場合に,水位による静水圧 を零位とし走行によって生ずる正負圧力の変化値を検知することゝ した。模型全体が水中にあるため受圧器も水浸しているので,ダイ ヤフラム裏のゲ-ジ部分のみを空気
(図3)
(中略)
管内に納めた水密構造にしてある。
(中略)
その都度調整しなるべく一致するようにした。」
(第3頁第27行〜第11頁第23行)、
と記載されている。

してみると、刊行物1には、「水槽内に軌道模型を設置し、軌道模型に沿って車両模型を走行させ、車両模型の走行に伴って発生する現象を計測することによって、実物の鉄道車両が走行する際の流体力学的な現象を試験する鉄道車両の模型試験方法又は装置」が記載されている。

(2)甲第2号証(「流れの可視化の現状と将来展望」、P14、中山泰喜著、流れの可視化、1988 Vol.8 No.28、流れの可視化学会、1988年1月5日発行:以下、「刊行物2」という。)には、
「昭和33年私は当時鉄道技術研究所に勤務しておりました。ちょうど新幹線の研究が始まり,車両の走行中の空力特性を研究することになりました。この研究では風洞による実験と空中と水中で走らせる実験と3種類の実験が行われました。私は水中の実験を担当することになり,津田沼に大きなプールを造り,複線を敷き,図2のようにモデルの列車を走らせたわけです。なぜ水中で実験したかと申しますと,レイノルズの相似則により,1/15の速度で同じ現象がつかめるからであります。しかも,力は800倍に出るので複線の幅をきめたり,トンネル突入時の圧力上昇現象を考えるのにきわめて有効でありますし,可視化にも大変便利でありました。私が可視化に特に興味を持ち出したのはこの頃からだと思います。」(第14頁右欄第3行〜第17行)、
と記載されている。

(3)甲第3号証(「理論船舶工学(下巻)」、第10版、P123〜P127、大串雅信著、海文堂出版株式会社、平成2年4月10日発行:以下、「刊行物3」という。)の第14・28図には、模型船の抵抗測定装置が記載されている。

(4)甲第4号証(「第二版 模型実験の理論と応用」、P197〜P200、江守一郎著、技報堂出版株式会社、1985年7月10日発行:以下、「刊行物4」という。)の図15.5には、実験用水路におけるたい積物の移動を再現するための模型が記載されている。
また、第197頁〜第198頁には「相似則‥‥‥相似則を緩和しないかぎり模型実験はできない.」と記載されている。

エ)当審の判断
(1)本件の請求項1に係る発明について
本件の請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は「水槽内に軌道模型を設置し、軌道模型に沿って車両模型を走行させ、車両模型の走行に伴って発生する現象を計測することによって、実物の鉄道車両が走行する際の流体力学的な現象を試験する鉄道車両の模型試験方法」という点において一致し、
(a)本件の請求項1に係る発明においては、車両模型が水面の上方から水中に吊下げて支持されているのに対し、刊行物1に記載された発明においては、車両模型が水面の上方から水中に吊下げて支持されていない点、
(b)本件の請求項1に係る発明においては、軌道模型が水槽の幅方向の中央で底面に立設される支持構造物の頂部で、水面上から位置調整が可能なように設置されるのに対し、刊行物1に記載された発明においては、軌道模型が水槽の幅方向の中央で底面に立設される支持構造物の頂部で、水面上から位置調整が可能なように設置されていない点、
において相違している。

上記相違点(a)、(b)について検討する。
・相違点(a)について:刊行物3には、模型船を水面の上方から水中に吊下げて支持することが記載されているが、刊行物3に記載された発明において吊下げて支持されているものは船であるし、また、刊行物1に記載された発明において模型の列車(模型車両)はずい道内に存在しており、アクリル製のずい道が邪魔となって模型の列車を水面の上方から水中に吊下げて支持することはできないから、刊行物3に記載された発明を刊行物1に記載された発明に適用することが当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。また、刊行物2、4にも車両模型を水面の上方から水中に吊下げて支持することを示唆する記載はない。

・相違点(b)について:特許異議申立人は特許異議申立書第6頁において「ト)「軌道模型は水槽の幅方向の中央で底面に立設される支持構造物の頂部で、水面上から位置調節が可能なように設置されることを特徴とする、」は、アルミサッシ引戸の戸車の高さ調節機構と同一な技術思想であり、公然実施されているものである。」と主張しているが、「アルミサッシ引戸の戸車の高さ調節機構」と「鉄道車両の模型試験方法」とは技術分野が全く異なるし、また、アルミサッシ引戸の戸車の高さ調節機構自体が公然実施されていることは、鉄道車両の模型試験方法において当該調節機構を採用することを示唆するわけではないから、アルミサッシ引戸の戸車の高さ調節機構を刊行物1に記載された発明に適用することが当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。また、刊行物2ないし4にも軌道模型を水面上から位置調整が可能なように配置することを示唆する記載はない。

従って、本件の請求項1に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件の請求項2に係る発明について
本件の請求項2に係る発明は、本件の請求項1に係る発明をさらに限定したものであるから、本件の請求項1に係る発明について述べた理由と同様の理由により、刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件の請求項3に係る発明について
本件の請求項3に係る発明は、本件の請求項2に係る発明をさらに限定したものであるから、本件の請求項1、2に係る発明について述べた理由と同様の理由により、刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、上記「4.取消理由についての判断 イ)当審の判断 (1)」で述べたように本件の請求項3に係る発明は明確であるから、特許が特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとはいえない。

(4)本件の請求項4に係る発明について
本件の請求項4に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は「水槽内に軌道模型を設置し、軌道模型に沿って車両模型を走行させ、車両模型の走行に伴って発生する現象を計測することによって、実物の鉄道車両が走行する際の流体力学的な現象を試験する鉄道車両の模型試験装置」という点において一致し、
(c)本件の請求項1に係る発明においては、水槽の底面に、軌道模型の延長方向に間隔をあけて立設される複数の橋脚と、上面に軌道模型が敷設され、前記橋脚の頂部によって支持される橋桁と、各橋脚と橋桁との位置関係を、水面上から調整可能な複数の位置調整装置とが含まれるのに対し、刊行物1に記載された発明においては、複数の橋脚、橋桁、位置調整装置が含まれていない点、
において相違している。

上記相違点(c)について検討する。
水槽内に複数の橋脚や橋桁を設けることが当業者が容易に想到し得ることであったとしても、上記「5.特許異議の申立てについての判断 エ)当審の判断 (1)本件の請求項1に係る発明について ・相違点(b)について」で述べたように、アルミサッシ引戸の戸車の高さ調節機構を刊行物1に記載された発明に適用することが当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。また、刊行物2〜4にも各橋脚と橋桁との位置関係を、水面上から調整可能な複数の位置調整装置を設けることを示唆する記載はない。
従って、本件の請求項4に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
鉄道車両の模型試験方法および装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 水槽内に軌道模型を設置し、軌道模型に沿って車両模型を走行させ、車両模型の走行に伴って発生する現象を計測することによって、実物の鉄道車両が走行する際の流体力学的な現象を試験する鉄道車両の模型試験方法において、車両模型は水面の上方から水中に吊下げて支持し、軌道模型は水槽の幅方向の中央で底面に立設される支持構造物の頂部で、水面上から位置調整が可能なように設置されることを特徴とする鉄道車両の模型試験方法。
【請求項2】 前記流体力学的な現象は、軌道模型上またはその近傍の物体にかかる力を無次元化した量F’、
【数1】

によって示される相似条件に従ってシミュレートすることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両の模型試験方法。
【請求項3】 前記実物の鉄道車両が走行する軌道上またはその近傍に存在する対象物について、前記無次元化した量F’によって示される相似条件を成立させる密度ρ’よりも密度を小さく設定した物体をトレーサとして、前記軌道模型上またはその近傍に配置し、対象物に対する流体力学的特性を促進試験的にシミュレートすることを特徴とする請求項2記載の鉄道車両の模型試験方法。
【請求項4】 水槽内に軌道模型を設置し、軌道模型に沿って車両模型を走行させ、車両模型の走行に伴って発生する現象を計測することによって、実物の鉄道車両が走行する際の流体力学的な現象を試験する鉄道車両の模型試験装置において、水槽の底面に、軌道模型の延長方向に間隔をあけて立設される複数の橋脚と、上面に軌道模型が敷設され、前記橋脚の頂部によって支持される橋桁と、各橋脚と橋桁との位置関係を、水面上から調整可能な複数の位置調整装置とを含むことを特徴とする鉄道車両の模型試験装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄道車両が軌道上を走行する際に発生する流体力学的な現象を、模型を使って試験するための鉄道車両の模型試験方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、列車の高速化に伴い、流体力学的な検討が不可欠になり、スケールモデルを利用した風洞試験、コンピュータによる数値解析等が一般的に行われている。しかしながら、鉄道車両の床下まわりの空気の流れについては、鉄道車両と軌道との双方間の複雑な形状を模擬し、かつ両者が相対的に移動するという状況を、模型もしくは解析モデルで再現することが非常に困難である。また空気中で模型車両を実際に走行させる試験を行う場合、レイノルズ(Reynolds)数を等しくするという条件では、模型として実物よりも縮尺した分だけ速度は増大させて、非常に高速で走行させないと、実物と相似の現象を再現することができない。
【0003】
図15は、特開平6-241949で、空気中を走行する鉄道車両の模型試験を水中で行うことによって、比較的低速度で実物と相似の流れの場を再現する試験方法として開示されている構成を示す。この先行技術では、乗物モデル1を、軌道モデル2が設置されている静水槽3中の静水4内で走行させ、空気中で高速に走行させる場合と相似の条件を比較的低速で実現することができる。
【0004】
軌道モデル2は、軌道支持部材5に調整部材6を介して取付けられる。軌道支持部材5は、取付片7および保持部材8あるいは調整ねじ9を介して静水槽3の側壁によって支持される。乗物モデル1は、吊下部材10、ロードセル11、ピン継手12および取付部材13を介して、静水槽3の上方を移動可能な移動体14によって吊下げられる。移動体14は、車輪15によって、静水槽3の側壁上に設けられるレール16上を走行可能である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
高速で走行する鉄道車両について、スケールモデルを利用した風洞試験やコンピュータによる数値解析等によっては、車両の床下まわりの流れなどに対し、充分な検討や検証を行って形状や構造を開発することができない。すなわち、従来の方法で列車の床下流れを解析しようとすると、次のような問題が生じる。
【0006】
▲1▼風洞試験
一般の風洞試験では、風の吹出口前の固定地面板の上に車両の模型を置き、風を流すので、たとえ軌道を忠実に模型化することができたとしても、車両と軌道との間に相対運動をもたせることができない。したがって、正確な車両の床下流れを再現することはできない。
▲2▼移動地面板付風洞試験
▲1▼の風洞試験において、固定地面板の代わりに地面板を回転ベルト状として風洞と等速で動かすことによって、床下部分の風の流れを再現しようとする方法であるけれども、回転ベルトの性格上、レールやバラストといった要素を含む軌道の形状を忠実に再現することはできず、軌道面側での流速、圧力等の測定も困難である。また構造上、長さに対する制約もあり、長編成列車の解析には向かない。
▲3▼空気中での模型走行試験
実物に忠実に列車の模型を作り、実際に模型列車を模型軌道上に走らせて実物の状況を再現しよとする方法であるけれども、実物と相似の流れを再現するには、その縮尺度に反比例した高速で模型を走らせる必要がある。たとえば1/20模型ならば、20倍の速度にしなければならない。したがって実物と相似の状況を再現することは、事実上不可能に近い。
▲4▼数値解析による方法
現在のスーパコンピュータを使っても、列車や軌道の形状を忠実に再現した解析モデルでの計算は不可能であり、かなり単純化した形状での計算しかできない。
▲5▼特開平6-241949の試験方法
図15に示すように、軌道モデル2は、静水槽3の側壁から延びる軌道支持部材5によって支持される構造であり、側壁から充分な距離をとり、側壁に反射する波の影響や、軌道支持部材5などの流れへの影響等を少なくする必要がある。
【0007】
本発明の目的は、高速で走行する鉄道車両と軌道とに関連して、鉄道車両走行に伴う流体力学的な現象を容易にかつ正確に判断することができる鉄道車両の模型試験方法と、模型試験走行用の軌道模型を水中に高精度で設置することができる鉄道車両の模型試験装置を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、水槽内に軌道模型を設置し、軌道模型に沿って車両模型を走行させ、車両模型の走行に伴って発生する現象を計測することによって、実物の鉄道車両が走行する際の流体力学的な現象を試験する鉄道車両の模型試験方法において、車両模型は水面の上方から水中に吊下げて支持し、軌道模型は水槽の幅方向の中央で底面に立設される支持構造物の頂部で、水面上から位置調整が可能なように設置されることを特徴とする鉄道車両の模型試験方法である。本発明に従えば、車両模型を水面上から水中に吊下げて支持しながら、水槽の幅方向の中央で底面から立設される支持構造物の頂部で支持される軌道模型に沿って走行させる際に、水槽の壁面、底面および水面から充分に離れた状態で、車両模型の走行時に発生する波や軌道模型の支持構造物の影響を受けずに、走行に伴う現象の計測が可能である。支持構造物の頂部の軌道模型の位置は、水面上から調整することができる。これによって、軌道上の物体に係る力が車両の形状によってどのように影響を受けるかや、車両の構造や形状の違いが車両の床下の流れに及ぼす影響などを、容易に判断することができる。
【0009】
また本発明で前記流体力学的な現象は、軌道模型上またはその近傍の物体にかかる力を無次元化した量F’、
【0010】
【数2】

【0011】
によって示される相似条件に従ってシミュレートすることを特徴とする。本発明に従えば、軌道模型上、またはその近傍の物体に係る力を無次元化した量F’として、物体の完成力である重力や浮力と流体力との比をとったフルード(Froude)数を、物体の密度ρ’および流体密度ρを用いて修正した無次元化量を等しくすることによって、空気中と水中とで相似的な状態を再現することができる。これによって、実物ではほとんどまれにしか発生しない現象である列車風によって軌道の敷石などが移動する現象も、水中では比較的低速度で確認することができる。
【0012】
また本発明は、前記実物の鉄道車両が走行する軌道上またはその近傍に存在する対象物について、前記無次元化した量F’によって示される相似条件を成立させる密度ρ’よりも密度を小さく設定した物体をトレーサとして、前記軌道模型上またはその近傍に配置し、対象物に対する流体力学的特性を促進試験的にシミュレートすることを特徴とする。
本発明に従えば、無次元化した量F’によって示される相似条件での対象物の密度ρ’よりも密度を小さく設定したトレーサを軌道模型上またはその近傍に配置することによって、実際に起こり得る現象よりも起こりやすくし、トレーサに対して促進試験的に流体力学的な現象をシミュレートすることができる。
【0013】
さらに本発明は、水槽内に軌道模型を設置し、軌道模型に沿って車両模型を走行させ、車両模型の走行に伴って発生する現象を計測することによって、実物の鉄道車両が走行する際の流体力学的な現象を試験する鉄道車両の模型試験装置において、水槽の底面に、軌道模型の延長方向に間隔をあけて立設される複数の橋脚と、上面に軌道模型が敷設され、前記橋脚の頂部によって支持される橋桁と、各橋脚と橋桁との位置関係を、水面上から調整可能な複数の位置調整装置とを含むことを特徴とする鉄道車両の模型試験装置である。
本発明に従えば、複数の橋脚と橋桁とは、軌道の下側に配置され、水面上から相互の位置関係が調整可能であるので、充分に広い水槽を用いて、水槽の水面の高さを変えずに、正確に軌道模型を敷設し、鉄道車両模型を走行させることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の一形態による鉄道車両の模型試験装置の概略的な構成を示す。試験すべき鉄道車両の実物を忠実に再現した車両模型21は、実物を忠実に再現した軌道模型22に沿って曳航水槽23内の静水24中を走行する。軌道模型22は、支持構造物25上に敷設され、調整部材26を水面上から調整することによって位置調整が可能である。車両模型21は、昇降装置27から保持部材28、取付部材29および吊下げ部材30を介して吊下げられる。車両模型21が吊下げられる位置は、静水24の水面31、曳航水槽23の壁面32および底面33から充分に離れた位置とする。曳航水槽23の周辺には、曳引台車34の車輪35が走行可能なレール36が敷設されている。
【0015】
曳航水槽23としては、船型試験に用いられる曳航水槽を流用することができる。曳航水槽23では、曳引台車34が走行するレール36の上下、左右の直線精度を最善に保つことが必須の条件である。レール36の直線精度は、曳航水槽23の水位を所定の水位とした上で調整されている。水位を大きく変化させた場合は、曳航水槽23の周囲の土圧と水槽内の水圧とのバランスが崩れ、水槽本体に変形を生じ、したがってレール36の直線精度も損なわれてしまって、曳航水槽23にとっては重大な問題を生じてしまう。このため、船型試験用の曳航水槽23を流用して、軌道模型22を静水24中に敷設する場合は、水位を下げて作業を容易にする方法をとることができない。
【0016】
図2および図3は、図1の試験装置を用いて試験を行う状態を示す。図2は概略的な正面断面図、図3は右側面図をそれぞれ示す。軌道模型22を曳航水槽23の底面33上で支える支持構造物25は、橋脚40と橋桁41とから構成される。曳航水槽23の幅W1は、たとえば13mであり、橋脚40が設置される位置は、その中央と壁面32との間隔W2が6.5mの位置である。静水24の水面31の底面33からの高さH1は6.5mであり、軌道模型22の底面33からの高さH2は5.5mである。軌道模型22の延長方向に沿って配置される橋脚40相互間の間隔L1は、たとえば4mである。吊下部材30が水面31に接する部分には波押え板42が装着される。曳引台車34からは、軌道模型21の走行状態を撮影するための水中撮影装置43が吊下げ可能である。また曳航水槽23の側壁からも水中撮影装置44によって、走行状態を撮影可能である。水中撮影装置44は、壁面32に固定される観測台45によって軌道模型22が敷設されている曳航水槽23の中央寄りの位置まで接近させることができる。水中撮影装置43,44にはビデオカメラや照明ランプなどが収納されており、その形状は、水中の流れに影響を与えないような流線形に形成される。観測台45は、水面31の上方に配置し、水面31に形成される波がかからないようにして、車両模型21の走行状態に影響を与えないようにしておく。
【0017】
図4は、図1〜図3の試験装置によって計測した測定データの一例を示す。測定データは、軌道中心圧力、軌道中心流速、軌道側寄圧力、軌道側寄流速をそれぞれ示す。横軸は時間変化を示す。軌道中心圧力では、車両模型21が通過する際の先頭部と最後部とで圧力が上昇することが判る。軌道中心流速では、先頭部通過後徐々に流速が増大することが判る。軌道側寄り圧力では、先頭部通過の際の圧力変動が大きいことが判る。軌道側寄り流速では、先頭部通過時と中間から後半にかけて増大することが判る。
【0018】
図5および図6は、図1に示す調整部材26に関連する構成を示す。図5は部分的な正面断面図、図6は部分的な平面図をそれぞれ示す。橋脚40の天板50上には、L形ガイド51が固定される。L形ガイド51の直交する側面に、左右調整用偏心カム52および前後調整用偏心カム53がそれぞれ当接する。左右調整用偏心カム52の軸は、橋桁41に装着される。橋桁41と天板50との間には、フリーベアリング54、ジャッキボルト55およびアンカーボルト56も配置される。
【0019】
図7は、フリーベアリング54の構成を示す。図7(a)に斜視図で示すように、フリーベアリング54はホルダ60によってベアリング球61を保持し、天板50上で橋桁41が平面移動可能な状態で支持する。
【0020】
図8は、波押え板42の作用を示す。図8(a)は簡略化した正面断面図を示し、図8(b)は簡略化した平面図を示し、図8(c)は簡略化した斜視図を示す。波押え板42は、底面65が水面31よりも下になるように吊下部材30に装着され、側方の傾斜面66によって水面31を掬って脇に排除し、枠内では水面が乱れることがないので下方の水中を目視することができる効果がある。
【0021】
図9および図10は、図5および図6に示すジャッキボルト55およびアンカーボルト56の作用をそれぞれ示す。図9に示すジャッキボルト55は、橋桁41に螺合しており、先端で橋脚40の天板50を押圧する。長いロッドの付いた工具70で、水面31上からジャッキボルト55の頭部を回すことによって、橋桁41と天板50との間隔を調整することができる。図10に示すアンカーボルトは、天板50に基端部が溶接されており、たとえば24mm程度の径を有する。アンカーボルト56の先端は、橋桁41に設けられる比較的大きめの開口を抜けて突出し、先端の穴に10mm程度の直径のガイド棒71を挿入することができる。図10(a)に示すように、水面51上からガイド棒71をアンカーボルト56の先端に挿入した状態で、押え板72およびナット73を案内し、図9(b)に示すように、水面51上からナット73を工具70によって締付けることができる。このようにして、ジャッキボルト55によって橋桁41と天板50との間隔を調整した後、アンカーボルト56のナット73で、調整した間隔を固定することができる。天板50と橋桁41との間の水平方向の位置調整を行う際には、ナット73を緩めジャッキボルト55も緩めておくことによって、水平方向に対する調整を行うことができる。
【0022】
図11は、図5および図6に示す左右調整用偏心カム52および前後調整用偏心カム53の調整方法を示す。図11(a)に示すように、工具75によって左右調整用偏心カム52または前後調整用偏心カム53を角変位させると、L形ガイド51への当接面の軸に対する距離が変わり、L形ガイド51に対して橋桁41の水平位置を変化させることができる。図5および図6に示すように、左右調整用偏心カム52および前後調整用偏心カム53は、軌道模型22の両側に設けられているので、両側を交互に調整して左右方向の位置合わせと前後方向の位置合わせとを行うことができる。工具75の先端には、ピン76が立設され、凹所77が形成されている。凹所77には、左右調整用偏心カム52または前後調整用偏心カム53の軸が収容可能である。ピン76は、図11(b)に示すように、左右調整用偏心カム52または前後調整用偏心カム53に設けられている穴78に挿入して、回転駆動力を伝達するために使用する。工具75の先端は、長いロッド79に装着されているので、水面31上から容易に左右調整用偏心カム52や前後調整用偏心カム53の調整を行うことができる。
【0023】
図12は、軌道模型22の敷設用の曳引台車34の概略的な構成を示す。図12(a)は側面図、図12(b)は正面断面図をそれぞれ示す。曳引台車34内には、計測レール80が設けられ、図13および図14に示すように、測深/位置測定器81を高精度で走行させることができる。測深/位置測定器81からは、鉛直下方にガイドピン82が吊下げられ、その先端で軌道模型22の表面に接触する。曳引台車34は、レール36上を一定距離だけ走行する毎に停止し、計測レール80の調整を精密に行った後で、測深/位置測定器81による軌道模型22の調整を行う。上下調整と固定とは、ジャッキボルト55およびアンカーボルト56を用いて行う。左右調整および前後調整は、左右調整用偏心カム52および前後調整用偏心カム53を用いて行う。
【0024】
次に、図5および図6に示すような軌道模型22を曳航水槽23中に敷設する方法を説明する。
【0025】
(1)曳引台車34に橋脚40を搭載し、所定位置まで運び、曳航水槽23の底面33に立てる。これを繰返し、所定の距離L1をおいて、全ての橋脚40を設置する。このとき、曳引台車34内の計測レール80上に搭載している測深/位置測定器81によって、橋脚40間の距離を所定値に大略的に合わせ、同時に水槽中心線に対する方位も大略的に合わせておく。橋脚40は3本脚としておき、曳航水槽23の底面33に全ての脚が接地し、がたつきが生じないようにする。橋脚40の天板50上には、橋桁41の固定用のアンカーボルト56と位置調整用のL形ガイド51とが取付けてある。
【0026】
(2)設置した橋脚40の天板50上に橋桁41を運んで乗せる。橋桁41の上面には、予め車両走行用の模型レールと枕木とから成る軌道模型22が取付けられている。また橋桁41の水平位置の調整のため、左右調整用偏心カム52および前後調整用偏心カム53が取付けてある。また矩形の天板50上の位置の微調整を容易にするため、フリーベアリング54が一組となって、各四角に取付けてある。さらに各四角には、上下位置および姿勢調整用のジャッキボルト55が2本ずつ取付けられ、またアンカーボルト56用の2つの開口が設けられている。橋桁41は、橋脚40の天板50上のアンカーボルト56が橋桁41のアンカーボルト用開口の略中央部に突出す位置に搭載する。このときジャッキボルト55を充分に上方まで引上げておくことによって、橋桁41は四角のフリーベアリング54によって、天板50上に乗る状態となる。
【0027】
(3)曳引台車34の計測レール80上に搭載した測深/位置測定器81のガイドピン82を計測レール80の中央にセットしておき、次のような操作を行う。
【0028】
▲1▼偏心カム用の工具75を使用し、左右調整用偏心カム52を微少回転させ、上面のレール間中央位置マークがガイドピン82の位置となるように位置調整を行う。また前後調整用偏心カム53によって、アンカーボルト56用開口とアンカーボルト56との位置関係を調整する。偏心カム軸は橋桁41に取付けられており、その回転によって、橋脚40に固定されたL形ガイド51を押し、その反力で橋桁41が左右または前後に移動する。
▲2▼水平面内の位置調整後、上下位置/傾斜の調整を行う。これにはジャッキボルト55を用いる。測深/位置調整測定器81の2本のガイドピン82を用いて、左右のレール深度を測定し、専用スパナである工具70を用いて四角のジャッキボルト55を所定の一様深度となるように調整する。このときフリーベアリング54が天板50から若干浮上がった状態となるように調整する。高さ位置の調整が終わると、アンカーボルト55の先端の穴にガイド棒71を差込み、このガイド棒71に、押え板72とナット73とを通して、水上からこれらをアンカーボルト56に落とし込み、ナット73を専用のスパナである工具70で締付ける。このようにして橋桁41を天板50に固定することができる。各四角に、2本ずつのアンカーボルト56とジャッキボルト55とを交差する位置に設けるのは、各ボルトの締込みによって軌道面に捩れが生ずるのを避けるためである。
▲3▼最初の橋桁41の設置が終わると、順次第2、第3の橋桁41を前段の橋桁41との接続部に留意しながら設置する。
▲4▼全橋桁41の設置後、曳引台車34を移動させながら、測深/位置測定器81によって、深度と直進度とを計測し、再度微調整を行って軌道模型22の敷設を完了する。
【0029】
以上説明したような試験装置を用いれば、空気中で軌道面上の物体が列車風によって動くかどうかの目安を、次の第1式に示すような修正フルード数を用いて試験することができる。
【0030】
【数3】

【0031】
代表長さLは現象を最も支配していると考えられる寸法であり、軌道の近傍に配置される石などを対象物とする場合は、その直径などを用いる。軌道上のバラストなどの物体を考えると、空気中での模型試験では、模型の走行速度をよほど速くするか、物体の比重を小さくしないとF’数が小さくなりすぎて物体が動かず、水中試験では、逆に実物以上に物体が飛び易くなってしまう。実物では列車風による物体の飛散は非常にまれな現象であるので、同じF’数ではほとんど物体は動かない。水中での模型走行試験では、速度が遅くても適当な比重の材料を選択することによって、物体の動きを確認することが可能である。すなわち比重を実際よりも小さくするトレーサを用いることによって、高速鉄道車両の通過に伴う極めてまれな流体力学的現象について促進試験的な確認を行うことができる。
【0032】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、鉄道車両の模型の走行時に発生する波や軌道模型の支持構造物の影響を受けずに、軌道模型に沿って車両模型を走行させることができるので、水中で精度のよい測定を容易に行うことができる。
【0033】
また本発明によれば、無次元化量F’を使用して、物体の完成力と流体力との比を等しくした条件で、空気中の模型試験では非常に高速にしないと観測できないような現象を、容易に観測し試験することができる。
【0034】
また本発明によれば、対象物の密度を相似条件を成立させる密度ρ’よりも小さく設定することによって、実際には非常にまれにしか発生しない現象を促進試験的にシミュレートすることができる。
【0035】
さらに本発明によれば、充分に大きな水槽中で、軌道模型を底面に立設される橋脚と橋脚上に設置される橋桁によって下方から支持し、橋脚と橋桁との間の位置関係は水面上から調整可能であるので、車両模型の走行試験を行う際の水面の条件と同一条件で水を抜かずに軌道模型を容易に敷設することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の実施の一形態の概略的な構成を示す正面断面図である。
【図2】
図1の実施形態を用いて試験を行う際の状態を示す正面断面図である。
【図3】
図2の側面図である。
【図4】
図1の実施形態による試験結果の一例を示すグラフである。
【図5】
図1の調整部材26に関連する構成を示す部分的な正面断面図である。
【図6】
図1の調整部材26に関連する構成を示す部分的な平面図である。
【図7】
図5および図6に示されるフリーベアリング54の形状を示す斜視図および断面図である。
【図8】
図5および図6に示す波押え板42の形状および作用を示す簡略化した正面断面図、平面図および斜視図である。
【図9】
図5および図6のジャッキボルト55の作用を示す正面断面図である。
【図10】
図5および図6のアンカーボルト56の作用を示す正面断面図である。
【図11】
図5および図6の左右調整用偏心カム52の作用を示す正面断面図および平面図である。
【図12】
図1に示す曳引台車34の簡略化した側面図および正面断面図である。
【図13】
図12の曳引台車34を用いる軌道模型22の敷設後の試験状態を示す側面図である。
【図14】
軌道模型22の敷設後の試験状態を示す正面断面図である。
【図15】
先行技術の構成を示す正面断面図である。
【符号の説明】
21 車両模型
22 軌道模型
23 曳航水槽
24 静水
25 支持構造物
26 調整部材
30 吊下部材
31 水面
32 壁面
33 底面
34 曳引台車
36 レール
40 橋脚
41 橋桁
42 波押え板
43,44 水中撮影装置
50 天板
51 L形ガイド
52 左右調整用偏心カム
53 前後調整用偏心カム
54 フリーベアリング
55 ジャッキボルト
56 アンカーボルト
70,75 工具
71 ガイド棒
72 押え板
73 ナット
80 計測レール
81 測深/位置測定器
82 ガイドピン
 
訂正の要旨 特許第3051332号発明の明細書を、本件特許異議申立てに関連してなされた訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正する。
訂正事項(1):特許請求の範囲の請求項3を、明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおりに訂正する。
「【請求項3】 前記実物の鉄道車両が走行する軌道上またはその近傍に存在する対象物について、前記無次元化した量F’によって示される相似条件を成立させる密度ρ’よりも密度を小さく設定した物体をトレーサとして、前記軌道模型上またはその近傍に配置し、対象物に対する流体力学的特性を促進試験的にシミュレートすることを特徴とする請求項2記載の鉄道車両の模型試験方法。」
訂正事項(2):明細書の段落【0012】を、明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおりに訂正する。
「【0012】
また本発明は、前記実物の鉄道車両が走行する軌道上またはその近傍に存在する対象物について、前記無次元化した量F’によって示される相似条件を成立させる密度ρ’よりも密度を小さく設定した物体をトレーサとして、前記軌道模型上またはその近傍に配置し、対象物に対する流体力学的特性を促進試験的にシミュレートすることを特徴とする。
本発明に従えば、無次元化した量F’によって示される相似条件での対象物の密度ρ’よりも密度を小さく設定したトレーサを軌道模型上またはその近傍に配置することによって、実際に起こり得る現象よりも起こりやすくし、トレーサに対して促進試験的に流体力学的な現象をシミュレートすることができる。」
訂正事項(3):明細書の段落【0018】を、誤記の訂正を目的として、次のとおりに訂正する。
「【0018】
図5および図6は、図1に示す調整部材26に関連する構成を示す。図5は部分的な正面断面図、図6は部分的な平面図をそれぞれ示す。橋脚40の天板50上には、L形ガイド51が固定される。L形ガイド51の直交する側面に、左右調整用偏心カム52および前後調整用偏心カム53がそれぞれ当接する。左右調整用偏心カム52の軸は、橋桁41に装着される。橋桁41と天板50との間には、フリーベアリング54、ジャッキボルト55およびアンカーボルト56も配置される。」
訂正事項(4):明細書の段落【0034】を、明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおりに訂正する。
「【0034】
また本発明によれば、対象物の密度を相似条件を成立させる密度ρ’よりも小さく設定することによって、実際には非常にまれにしか発生しない現象を促進試験的にシミュレートすることができる。」
異議決定日 2002-02-25 
出願番号 特願平8-49309
審決分類 P 1 651・ 121- YA (G01M)
P 1 651・ 537- YA (G01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山口 剛  
特許庁審判長 渡部 利行
特許庁審判官 志村 博
関根 洋之
登録日 2000-03-31 
登録番号 特許第3051332号(P3051332)
権利者 川崎重工業株式会社 東海旅客鉄道株式会社
発明の名称 鉄道車両の模型試験方法および装置  
代理人 杉山 毅至  
代理人 廣瀬 峰太郎  
代理人 竹内 三喜夫  
代理人 西教 圭一郎  
代理人 杉山 毅至  
代理人 杉山 毅至  
代理人 廣瀬 峰太郎  
代理人 竹内 三喜夫  
代理人 西教 圭一郎  
代理人 廣瀬 峰太郎  
代理人 西教 圭一郎  
代理人 竹内 三喜夫  

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