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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
管理番号 1059461
異議申立番号 異議2001-72028  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-03-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-07-26 
確定日 2002-03-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3128517号「ゼオライト分離膜及びその製造方法」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3128517号の訂正後の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3128517号の請求項1〜6に係る発明についての出願は、平成8年8月16日に特許出願されたものであって、平成12年11月10日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、関口和江(以下、申立人Aという)から請求項1〜6に係る発明の特許について、安藤初美(以下、申立人Bという)から請求項1〜4に係る発明の特許について、それぞれ特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成14年1月15日付けで訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次のとおり訂正するものである。
(1)訂正事項a
請求項1の「1.0」(本件特許掲載公報第1頁第1欄第4行)を、「2」と訂正する。
(2)訂正事項b
明細書第3頁第23〜24行(段落【0008】)の「ゼオライトイ」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第13、14行)を、「ゼオライト」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書第4頁第18行(段落【0011】)の「1.0」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第42行)を、「2」と訂正する。
(4)訂正事項d
明細書第4頁第20行(段落【0012】)の「1.0」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第44行)を、「2」と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書第7頁第25行(段落【0024】)の「1.0」(本件特許掲載公報第4頁第7欄第10行)を、「2」と訂正する。
(6)訂正事項f
明細書第7頁第26行(段落【0024】)の「1.0」(本件特許掲載公報第4頁第7欄第12行)を、「2」と訂正する。
(7)訂正事項g
明細書第7頁第28行(段落【0024】)の「1.5MPa以上、さらには」(本件特許掲載公報第4頁第7欄第15、16行)を削除する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
上記訂正事項aは、使用耐圧の「1.0MPa以上」を「2.0MPa以上」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
また明細書の「ゼオライト分離膜のゼオライト膜が形成されている側から流体圧力を加える使用耐圧は、1.0MPa以上の圧力で分離膜として使用できる。使用耐圧が1.0MP以上あれば、従来使用耐圧が低かったため使用できないと考えられていたRO膜にも本発明のゼオライト分離膜を使用できる。RO膜としては使用耐圧の高い方が好ましいので、1.5MPa以上、さらには2MPa以上の使用耐圧のある分離膜を使用するのが好ましい。」(本件特許掲載公報第4頁第7欄第9〜17行)の記載からみて、訂正事項aは願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
次に訂正事項c〜gは、特許請求の範囲の減縮を目的とする上記訂正事項aの訂正に伴うものであり、減縮された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるために明りょうでない記載の釈明を行うことを目的とする訂正に該当するものであり、しかも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
次に訂正事項bは誤記の訂正を目的とする訂正に該当するものであり、しかも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
2-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、上記訂正を認める。
3.本件訂正発明
特許権者が請求した上記訂正は、上述したとおり、認容することができるから、訂正後の本件請求項1〜6に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものである(以下、「本件訂正発明1〜6」という)。
「【請求項1】多孔質基材上に厚さ0.5〜30μmの緻密なゼオライト結晶の膜が密着して形成されており、その分離膜としての使用耐圧が2MPa以上あることを特徴とするゼオライト分離膜。
【請求項2】多孔質基材の気孔率が10〜50%で、その平均気孔径が0.05〜10μmである請求項1に記載のゼオライト分離膜。
【請求項3】多孔質基材がアルミナ質である請求項1又は2に記載のゼオライト分離膜。
【請求項4】ゼオライト分離膜が逆浸透膜用又はナノ濾過膜用である請求項1〜3のいずれかに記載のゼオライト分離膜。
【請求項5】多孔質基材の表面に、多孔質基材の平均気孔径の0.4〜8倍の平均結晶粒径を有するゼオライト種結晶を一面に付着させた後、該多孔質基材をSiとAlを合わせた濃度が1000〜10000ppmであり、アルカリイオン濃度が10000〜60000ppmである原料溶液中に浸漬して水熱合成することを特徴とするゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項6】基材の表面に0.2〜3mg/cm2のゼオライト種結晶を付着させる請求項5に記載のゼオライト分離膜の製造方法。」
4.特許異議申立てについて
4-1.特許異議申立ての理由の概要
(1)申立人Aは、証拠方法として甲第1〜3号証を提出して、(i)請求項1〜6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1〜6に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反したものであり取り消されるべきものである旨、(ii)請求項1〜6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜6に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反したものであり取り消されるべきものである旨主張している。
(2)申立人Bは、証拠方法として甲第1〜3号証を提出して、(i)請求項1、3、4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1、3、4に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反したものであり取り消されるべきものである旨、(ii)請求項2に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反したものであり取り消されるべきものである旨、(iii)本件明細書は記載不備であるから、本件特許発明は特許法第36条第4、5項の規定に違反したものであり取り消されるべきものである旨主張している。
4-2.申立人Aの主張について
4-2-1.甲号各証の記載内容
(1)甲第1号証:特開平5-43218号公報
(a)「【請求項1】多孔質保持体によって保持されたゼオ型物質の結晶からなる膜において、ゼオ型物質の結晶成長が多孔質保持体の細孔上で事実上連続していて、かつゼオ型物質が保持体から直接に結晶化し直接に結合してからなることを特徴とする膜。
【請求項2】ゼオ型物質の成長が保持体の全表面上で事実上連続している請求項1記載の膜。
【請求項3】ゼオ型物質が1〜7ミクロン厚の層で存在する請求項2記載の膜。
【請求項6】保持体が0.1〜2000ミクロンの平均細孔直径を有する請求項1〜5の何れか1項に記載の膜。
【請求項8】多孔質保持体の細孔上のゼオ型物質のフィルムからなる膜の製造方法において、保持体の少なくとも1つの表面を結晶化して結晶性ゼオ型物質を作製しうる合成ゲル中に浸漬し、ゼオ型物質が保持体上に結晶化するように前記ゲルの結晶化を誘導し、保持体を混合液から取出し、およびゼオ型物質が保持体から直接に結晶化し直接に結合している膜を得るためにこれら工程を1回またはそれ以上繰返すことからなる膜の製造方法。」(請求項1〜3、6、8)
(b)「結晶成長には、ピンホールが全くないことが好適である。勿論実際には、完全な膜を製造することは困難であり、「事実上連続している」ことは、結晶成長中に少数のピンホールを持っている膜を含ませている。本発明によって製造される膜の場合、この種のピンホールは、成長している結晶の面が正確に釣り合わないときに生じる割れ目である。この種のピンホールは膜の製造の直後に存在していることもあるが・・・」(第3頁第4欄第45行〜第4頁第2行)
(c)「本発明による製造方法の重要な要因は、保持体を合成ゲルに浸漬し、結晶化させた後、保持体を取出し、さらに第2のゲルに浸漬して結晶化を繰返すことである。最初の結晶化の後、保持体には多数のゼオ型物質の結晶が成長しているのを、我々は見出している。しかしながら、これらの結晶は、保持体の全表面の上で連続している結晶成長を実現するには充分でない。保持体が第2回結晶化を受けてはじめて、保持体の表面または第1回結晶化のとき保持体の表面に直接に成長した結晶の表面、いずれからも直接により多量の結晶が成長していた浸漬と結晶化の工程を、保持体の表面に完全かつ連続している被覆が得られるまで、その後必要なだけ繰返して実施することが好適である。勿論、必要な浸漬の回数は、保持体の細孔サイズ、ゼオ型物質の性質、および合成条件による。すなわち、少なくとも2回の浸漬は必須であり、例えば3回以上、3〜10回の浸漬が望ましい。」(第5頁第7欄第36行〜第8欄第2行)
(d)「分析値に基づくモル組成は、1.68Na2 O:3.96TEA:Al2 O3 :1.44SiO2 :243.34H2Oであった。網および溶液AとBの混合液を入れたQVF管を、結晶成長のために72時間オーブンに入れた。」(第10頁第18欄第30〜35行)
(e)第16頁第11表には、導入口にかけられた圧力が75Psigであることが記載されている。
(2)甲第2号証:特開平7-185275号公報
(a)「多孔質支持体上に析出させたA型ゼオライト膜よりなる液体混合物分離膜。」(請求項1)
(b)「本発明の液体混合物分離膜において、A型ゼオライトを析出させる多孔質支持体としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チッ化ケイ素、炭化ケイ素等のセラミックス、アルミニウム、銀、ステンレス等の金属、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリイミド等の有機高分子よりなる多孔質材料であって、その平均気孔径が0.05〜10μmで、気孔率が10〜60%程度のものを用いることができる。多孔質支持体の平均気孔径が0.05μm未満であると、透過速度が小さく実用的でない。この平均気孔径が10μmを超えると選択性が低下する。また、気孔率が10%未満では透過速度が小さく、60%を超えると選択性が低下する上に、支持体としての強度が得られない。多孔質支持体としては、特に、平均気孔径0.1〜2μm,気孔率30〜50%のアルミナ質多孔質支持体が好ましい。」(第2頁第2欄第2〜19行)
(c)「なお、特に水熱合成法によりA型ゼオライトの成膜を行う場合、その好ましい合成温度条件は60〜150℃であり、このような温度にて1〜24時間の反応を1〜5回程度行うのが好ましい。この場合、反応系には、A型ゼオライトの種結晶を、例えば多孔質支持体内に埋め込むなどの方法により添加するのが好ましい。また、原料の仕込み組成比(モル比。以下組成比はモル比で示す。)は、H2 O/Na2 O=20〜300,Na2 O/SiO2 =0.3〜2,SiO2 /Al2 O3 =2〜6,特に、H2 O/Na2 O=60,Na2 O/SiO2 =1,SiO2 /Al2 O3 =2となるように調整するのが好ましい。このようにして、A型ゼオライト膜を多孔質支持体の両面に、A型ゼオライト膜の膜厚が10〜50μmであり、支持体を含む分離膜の全膜厚が0.5〜2mm程度となるように析出させることにより、本発明の液体混合物分離膜を得ることができる。」(第2頁第2欄第34行〜第3頁第3欄第1行)
(3)甲第3号証:特開平5-63410号公報
(a)「アルミニウム原子又はガリウム原子、ケイ素原子又はゲルマニウム原子及び酸素原子を構成員とする6員、8員、10員又は12員酸素環からなるかご型ゼオライトの1μm未満の厚みの薄膜を金属、無機物又は高分子物質の多孔質支持体の一表面に接着剤を用いず合体してなる分子ふるい作用及び又は触媒作用を有する複合膜。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「このNaA型かご型ゼオライト薄膜表層の分子ふるい効果を確認するために次の実験を行った。ULVAC製平膜逆浸透圧実験装置を用いた。常温で供給側15気圧、分離側常圧の条件で、フリップス・ペトロリアム社製標準炭化水素、メタン、エタン及びプロパンをそれぞれ33.3モル%になるよう混合して供給側に入れた。分離側にはメタン73.5モル%、エタン26.0モル%、プロパン0.5モル%の存在が、ガスクロマトグラフ分析によって確かめられた。これは従来未知の炭化水素分離膜であり実用に供しうるものである。」(第10頁第20欄第3〜13行)
4-2-2.当審の判断
4-2-2-1.上記4-1.(1)(i)の主張について
(1)本件訂正発明1について
甲第1号証の上記(1)(a)から「多孔質保持体によって保持されたゼオ型物質の結晶からなる膜において、ゼオ型物質の結晶成長が多孔質保持体の細孔上で事実上連続していて、かつゼオ型物質が保持体から直接に結晶化し直接に結合してからなることを特徴とする膜。」や、「ゼオ型物質が1〜7ミクロン厚の層」であることが記載されているから、甲第1号証には「多孔質保持体上に厚さ1〜7ミクロンのゼオ型物質の結晶からなる膜であって、保持体から直接に結晶化し直接に結合している膜。」という発明(以下、「甲1A発明」という)が記載されていると云える。
次に本件訂正発明1と甲1A発明とを対比すると、甲1A発明の「多孔質保持体」、「ゼオ型物質の結晶からなる膜が保持体から直接に結晶化し直接に結合している膜」は、本件訂正発明1の「多孔質基材」、「ゼオライト分離膜」にそれぞれ相当し、甲1A発明では、ゼオ型物質が保持体から直接に結晶化し直接に結合しているから、ゼオライト結晶の膜は多孔質保持材上に密着して形成されているものと云える。したがって、両者は「多孔質基材上にゼオライト結晶の膜が密着して形成されてゼオライト分離膜。」で一致し、かつ膜の厚さの数値範囲も重複しているから、次の点で相違している。
(イ)本件訂正発明1のゼオライト結晶の膜は緻密であるのに対して、甲1A発明ではその点が不明である点
(ロ)本件訂正発明1では、分離膜としての使用耐圧が2MPa以上あるのに対して、甲1A発明では、その点が不明である点
そこで相違点(イ)を検討する。
本件訂正発明1で「緻密なゼオライト膜とは、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で500倍に拡大して調べるとき、識別しうる空隙が膜内に認められないものをいう。」(本件特許掲載公報第3頁第5欄第28〜30行)とされている。
これに対して、甲第1号証には、上記(1)(b)に「結晶成長中に少数のピンホールを持っている膜を含ませている」と記載されているとおりピンホールの存在が認められている。
したがって、甲第1号証には、緻密なゼオライト膜は記載されていないものと認められる。
次に相違点(ロ)を検討する。
上記(1)(e)に記載された実施例の75Psigは、換算すると0.51MPaであるから、甲第1号証には、使用耐圧2.0MPa以上は記載されていないものと認められる。
そして、本件訂正発明1は、「本発明により、緻密で薄く、使用圧力の高いゼオライトの分離膜の提供が可能となった。本発明によるゼオライト分離膜は使用圧力が高いので、従来のゼオライト分離膜では適さなかったRO膜やナノ濾過膜の用途にも好適である。」(本件特許掲載公報第6頁第12欄第24〜28行)という効果を奏する。
したがって、本件訂正発明1は甲第1号証に記載された発明とすることはできない。
(2)本件訂正発明2〜4について
本件訂正発明2〜4は、少なくとも本件訂正発明1を引用し、さらに限定したものであるから、上記(1)と同じ理由で甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
(3)本件訂正発明5について
甲第1号証の上記(1)(a)から「多孔質保持体の細孔上のゼオ型物質のフィルムからなる膜の製造方法において、保持体の少なくとも1つの表面を結晶化して結晶性ゼオ型物質を作製しうる合成ゲル中に浸漬し、ゼオ型物質が保持体上に結晶化するように前記ゲルの結晶化を誘導し、保持体を混合液から取出し、およびゼオ型物質が保持体から直接に結晶化し直接に結合している膜を得るためにこれら工程を1回またはそれ以上繰返すことからなる膜の製造方法。」が記載されている。また、上記(1)(d)からオーブンで加熱しているから、水熱合成はされていると云える。したがって、甲第1号証には「多孔質保持体を合成ゲル中に浸漬し、水熱合成するゼオ型物質が保持体から直接に結晶化し直接に結合している膜の製造方法。」という発明(以下、甲1’A発明という)が記載されていると云える。
次に本件訂正発明5と甲1’A発明とを対比すると、甲1’A発明の「多孔質保持体」、「合成ゲル」、「ゼオ型物質が保持体から直接に結晶化し直接に結合している膜」は、本件訂正発明1の「多孔質基材」、「原料溶液」、「ゼオライト分離膜」にそれぞれ相当するから、両者は「多孔質基材を原料溶液中に浸漬して水熱合成することを特徴とするゼオライト分離膜の製造方法。」で一致し、以下の点で相違している。
(イ)本件訂正発明5では、多孔質基材の表面に、多孔質基材の平均気孔径の0.4〜8倍の平均結晶粒径を有するゼオライト種結晶を一面に付着させた後、該多孔質基材をSiとAlを合わせた濃度が1000〜10000ppmであり、アルカリイオン濃度が10000〜60000ppmである原料溶液中に浸漬しているのに対して、甲1’A発明では、保持体の少なくとも1つの表面を結晶化して結晶性ゼオ型物質を作製しうる合成ゲル中に浸漬し、ゼオ型物質が保持体上に結晶化するようにゲルの結晶化を誘導し、保持体を混合液から取出し、これら工程を1回以上繰り返している点
そこでこの相違点を検討する。
本件特許明細書には、「種結晶を一面に付着」させる工程について「種結晶の基材への付着方法には、乾いたゼオライト結晶の粉末を多孔質基材にこすり付けたり、種結晶を水中に分散させた分散液を塗布したり、分散液中に基材を浸漬するなどの方法がある。」(本件特許掲載公報第3頁第5欄第46〜49行)と記載されており、甲第1号証に記載された一回目の保持体上へのゼオ型物質の結晶化は、あくまで結晶化であるから、これを種結晶の付着と云うことはできない。
また本件特許明細書には原料溶液の濃度について「このような使用耐圧の高いゼオライト膜は、多孔質基材の表面一面に種結晶を付着せしめておき、少なくとも水熱合成の初期において、主に種結晶がゼオライト膜の形成に使用されるような薄い原料溶液を使用することによって形成できる。」(本件特許掲載公報第6頁第12欄第28〜32行)と希薄な原料溶液とすることが記載されているが、甲第1号証の合成ゲルは、上記(1)(d)に記載されたモル比から重量比を算出すると、SiとAlを合わせた濃度は17800ppmであり、本件訂正発明5で規定している数値範囲から高濃度の方へはずれている。
そして、本件訂正発明5は上記(1)で述べた効果を奏する。
したがって、本件訂正発明5は甲第1号証に記載された発明とすることはできない。
(4)本件訂正発明6について
本件訂正発明6は、本件訂正発明5を引用し、さらに限定したものであるから、上記(3)と同じ理由で甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
4-2-2-2.上記4-1.(1)(ii)の主張について
(1)本件訂正発明1について
本件訂正発明1と甲1A発明とを対比すると、上記4-2-2-1(1)で述べた(イ)、(ロ)の点で相違している。
そこで特に相違点(ロ)について検討すると、甲第2号証には、使用耐圧について何も示唆されておらず、また甲第3号証の上記(3)(b)には、供給側15気圧の記載があり、これは1.52MPaに相当するが、使用耐圧が2MPa以上であることについては何も示唆されていない
したがって、本件訂正発明1は甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(2)本件訂正発明2〜4について
本件訂正発明2〜4は、少なくとも本件訂正発明1を引用し、さらに限定したものであるから、上記(1)と同じ理由で甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(3)本件訂正発明5について
本件訂正発明1と甲1’A発明とを対比すると、上記4-2-2-1(3)で述べた点で相違している。
そこで検討すると、甲第2号証の上記(2)(c)には、「種結晶を、例えば多孔質支持体内に埋め込む」という記載のとおり種結晶を使用することが記載されている。
しかしながら、甲第2号証には、種結晶が「多孔質基材の平均気孔径の0.4〜8倍の平均結晶粒径を有する」点については何も示唆されていない。
また、原料溶液の濃度についても上記(2)(c)の「H2 O/Na2 O=60,Na2 O/SiO2 =1,SiO2 /Al2 O3 =2のモル比を重量比に換算すると、SiととAlを合わせた濃度は65000ppmであり、本件訂正発明5で規定している数値範囲から高濃度の方へはずれており、希薄な原料溶液とすることは何も示唆されていない。
また、甲第3号証には種結晶については何も示唆されていない。
したがって、本件訂正発明5は甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(4)本件訂正発明6について
本件訂正発明6は、少なくとも本件訂正発明5を引用し、さらに限定したものであるから、上記(3)と同じ理由で甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
4-3.申立人Bの主張について
4-3-1.甲号各証の記載内容
(1)甲第1号証:「Journal of Membrane Science」90(1994)第1〜10頁
(a)「セラミック-ゼオライト複合膜と蒸気/ガス混合物の分離への適用」(表題)(訳文、以下同じ。)
(b)「セラミック-ゼオライト複合膜は、アルミナ膜チューブの内側に、シリカライト-1の薄板結晶層(〜10μm)を合成することにより準備された。チューブ内表面は、γ-アルミナでコーティングされており、5nmの細孔径を有する。X線回析により、層内に純粋なシリカライト層が存在することが確認され、SEMにより、個々のシリカライト結晶が成長し、連続的なシリカナイト-1層が形成していることが示された。アルミナ膜にシリカライトを加えることで、窒素の透過率は1/5に低下する一方、n-ブタンの透過率は1/190に低下した。また、n-ブタンは膜に吸着することが明らかになった。室温では、アルミナ膜を透過するn-ブタン/i-ブタンの比は1であったが、ゼオライト膜では3であつた。373kにおいて、メタノールは水素やメタンに比べてゼオライト膜中を優先的に透過するため、110kPa〜1100kPaの圧力を加えることで、メタノールを水素やメタンから分離した。ある条件では、メタノール/水素の分離係数は1000以上であり、メタノール/メタンの分離係数は190であった。以上の結果から明らかなように、メタノールが細孔内に吸着し、水素やメタンの透過をブロックする。」(第1頁Abstract)
(c)「膜合成 シリカライト-1の合成のためのゲルはGroseとFlanigenの手順に従って準備される。ゲルはシリカ(・・・)、水酸化ナトリウム(・・・)、テトラプロピルアンモニウムブロマイド(・・・)、脱イオン水から作られる。市販のアルミナチューブ膜(US Filter製)を膜支持体に用いた。アルミナ膜の内表面は5nmの細孔径を持つγ-アルミナ層で被覆されている。・・・アルミナ膜内壁だけにシリカライトを成長させるために、ゲルは管の中へ入れられ、管の両端はテフロン栓で閉じられる。管はテフロンコーテイングのオートクレーブ中に置かれ、合成は12時間温度453Kと、それに伴う圧力で成される。」(第2頁左欄下から第3行〜右欄第21行)
(d)「高倍率でも(図1c:10000倍)、シリカライト層は連続的に見え、透過選択層に堅固に付着している。連続的シリカライト層の断面の膜厚は、〜10μmと見積もられる。」(第5頁左欄最下行〜右欄第4行)
(f)第7頁表3には、「シリカライト複合膜を用いる373kでのメタン/水素混合物の分離結果」が記載されており、同表3の最下行には、 全供給圧力を「1100kPa」とした例が示されている。
(2)甲第2号証:特開平7-185275号公報
申立人Aの甲第2号証と同じ。
(3)甲第3号証:特開昭61-107902号公報
(a)「金属、無機物及び高分子物質から選んだ多孔質支持体の細孔内にゼオライト、層間利用化合物及び結晶格子間利用化合物から選んだ物質の微粒子が装填されてなるホスト・ゲスト・インターカレート、分子ふるい及び/又は触媒作用を有する複合体。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「多孔質支持体の各細孔内にゼオライト、層間利用化合物、結晶格子間利用化合物又はそれら前駆物質を挿入するには、圧入、吸引、超音波処理あるいはこれらの方法を組合わせて使用することができるが、多孔質支持体の一表面側に極在させるためには圧入又は吸引あるいはこれらの組合せが好ましい。」(第4頁左上欄最終行〜右上欄第6行)
(c)「多摩精器工業(株)製バッチ式逆浸透装置を50℃にシリコーン油加熱し、5重量%のイソブタンを含むノルマル・ブタンを50Kg/cm2で通送した。」(第8頁左下欄最終行〜右下欄第2行)
4-3-2.当審の判断
4-3-2-1.上記4-1.(2)(i)の主張について
(1)本件訂正発明1について
甲第1号証の上記(1)(a)(b)(d)から「アルミナ膜チューブの内表面にγ-アルミナ層が被覆されており、該γ-アルミナ層に連続的に堅固に付着している厚さ〜10μmのシリカライト-1の薄板結晶層を合成したセラミック-ゼオライト複合膜。」という発明(以下、甲1B発明という)が記載されていると云える。
次に本件訂正発明1と甲1B発明とを対比すると、甲1B発明の「アルミナ膜チューブγ-アルミナ層」、「シリカライト-1」、「セラミック-ゼオライト複合膜」は、本件訂正発明1の「多孔質基材」、「ゼオライト結晶」、「ゼオライト分離膜」にそれぞれ相当し、甲1B発明では、シリカライト-1が連続的に堅固に付着しているから、ゼオライト結晶の膜は多孔質基材上に密着しているものと云える。したがって、両者は「多孔質基材上にゼオライト結晶の膜が密着して形成されてゼオライト分離膜。」で一致し、かつ膜の厚さの数値範囲も重複しているから、次の点で相違している。
(イ)本件訂正発明1のゼオライト結晶の膜は緻密であるのに対して、甲1B発明ではその点が不明である点
(ロ)本件訂正発明1では、分離膜としての使用耐圧が2MPa以上あるのに対して、甲1B発明では、その点が不明である点
そこで、特に相違点(ロ)を検討すると、上記(1)(c)には具体的な使用圧力について「110kPa〜1100kPa」の記載はあるものの、「2MPa以上」であることについては何も示唆されていない。
そして本件訂正発明1は、上記4-2-2-1.(1)で述べた効果を奏する。
したがって、本件訂正発明1は甲第1号証に記載された発明とすることはできない。
(2)本件訂正発明3、4について
本件訂正発明3、4は、少なくとも本件訂正発明1を引用し、さらに限定したものであるから、上記(1)と同じ理由で甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
4-3-2-2.上記4-1.(2)(ii)の主張について
本件訂正発明2は、少なくとも本件訂正発明1を引用し、さらに限定したものである。
したがって、本件訂正発明2と甲1B発明とを対比すると、少なくとも上記4-3-2-1.(1)で述べた(イ)(ロ)が相違している。
特に相違点(ロ)について検討すると、甲第2号証には、使用耐圧について何も示唆されていない。また甲第3号証の上記(3)(c)には「50Kg/cm2」が記載されており、これは5MPaに相当するが、甲第3号証の複合体は、上記(3)(a)、(c)のとおり、多孔質支持体の各細孔内にゼオライトの微粒子を装填してなるものであって、多孔質基材上にゼオライト結晶膜が形成された分離膜とは云えないから、甲第3号証をもって多孔質基材上にゼオライト結晶膜が形成された分離膜において使用耐圧を「2MPa以上」とすることが普通に行われていたとは云えない。
したがって、本件訂正発明2は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
4-3-2-3.上記4-1.(2)(iii)の主張について
申立人Bは具体的には「ナノ濾過膜用」の記載が意味不明であることを主張しているが、「ナノ濾過膜」とは2nmより小さい程度の粒子や高分子が阻止される圧力駆動の膜分離プロセス用膜」と云えるから(平成14年1月15日付け特許異議意見書第5頁第22〜27行、参考資料1)、申立人Bの主張は採用することができない。
5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1〜6に係る発明の特許を取り消すことはことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜6に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ゼオライト分離膜及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材上に厚さ0.5〜30μmの緻密なゼオライト結晶の膜が密着して形成されており、その分離膜としての使用耐圧が2MPa以上あることを特徴とするゼオライト分離膜。
【請求項2】
多孔質基材の気孔率が10〜50%で、その平均気孔径が0.05〜10μmである請求項1に記載のゼオライト分離膜。
【請求項3】
多孔質基材がアルミナ質である請求項1又は2に記載のゼオライト分離膜。
【請求項4】
ゼオライト分離膜が逆浸透膜用又はナノ濾過膜用である請求項1〜3のいずれかに記載のゼオライト分離膜。
【請求項5】
多孔質基材の表面に、多孔質基材の平均気孔径の0.4〜8倍の平均結晶粒径を有するゼオライト種結晶を一面に付着させた後、該多孔質基材をSiとAlを合わせた濃度が1000〜10000ppmであり、アルカリイオン濃度が10000〜60000ppmである原料溶液中に浸漬して水熱合成することを特徴とするゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項6】
基材の表面に0.2〜3mg/cm2のゼオライト種結晶を付着させる請求項5に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、分離膜として使用できる使用耐圧が高く、逆浸透膜用にも好適なゼオライト分離膜とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ゼオライト結晶は結晶中に数オングストロームの細孔を有しており、この細孔の分子ふるい特性や特異な吸着特性を利用したガス分離膜、浸透気化分離膜(以下、PV膜という)、逆浸透分離膜(以下RO膜という)、メンブレンリアクター、ガスセンサー等への応用が期待されている。特にRO膜では有機溶剤に対する安定性が高く、細孔径が揃っていて、耐熱性と耐薬品性があり、使用耐圧を高められると期待できることから、ゼオライト分離膜は水と有機溶剤との混合液から有機溶剤を分離する分離膜として有機物のRO膜等と比べて優れた分離性能と耐久性を期待される。また、ゼオライト膜はゼオライトの種類による吸着性の違いを利用して水や有機溶剤を選択的に透過させることができるため、ゼオライトの種類を選択して有機溶剤の混合液から特定の有機溶剤を分離するなど、目的に応じた分離が可能である。
【0003】
RO膜やPV膜を使用する分離方法によれば、従来行なわれている蒸留法と比べて分離に要するエネルギーが少なくてすみ、分離のランニングコストが安い等のメリットがあるので、研究が盛んに行なわれている。
【0004】
ゼオライト分離膜の製造方法としては、特公平4-80726号に開示されているようにゾル又はゲルの懸濁液中に基材を浸漬して水熱合成する方法、特開平7-89714号に開示されているように基材表面にコーティングしたゾル又はゲルを蒸気中で水熱処理してゼオライト膜を合成する方法、特開平6-99044号に開示されているように希薄な合成原料のゾルに基材を浸漬し、水熱合成によって基材上にゼオライト膜を形成する方法が知られている。
【0005】
従来のゼオライト膜は、高アルカリアルミノシリカゲルあるいはゾルを原料とする水熱処理によって合成され、ゼオライト膜の形成過程は基材に付着せしめたゲルがアモルファス状態から結晶化してゼオライト膜になるモデルや、反応液中に生成したゼオライト結晶が基材上に沈積して膜になるモデルがある。これらの水熱合成法によるゼオライト膜は、通常膜厚が数十〜数百μmと厚く、図2に示すように膜内に大きな空隙のあるブリッジ構造を有している。
【0006】
ブリッジ構造を有するゼオライト膜が形成される理由は、反応液中に多くの結晶核が発生して基材上に沈積したり、ゲルが結晶化するに際して大きい体積減少を伴うことによると考えられる。膜内にブリッジ構造(空隙)を有するゼオライト膜はブリッジ構造の部分の強度が弱いため使用耐圧が劣るという欠点がある。また、膜厚が数十〜数百μmと厚いと透過流束が小さいという問題がある。このようなゼオライト膜はRO膜には適さず、今のところゼオライト膜をRO膜に使用したという報告はない。
【0007】
特開平7-109116号にはこれらの欠点が改善されたゼオライト膜の製造方法が開示されている。すなわち、希薄なシリカゾルの溶液にゼオライト種結晶を懸濁させてスラリーとし、このスラリーをアルミナ基板に含浸してゼオライト結晶を付着せしめた後、必要に応じて基板を洗浄、乾燥する。この基板をゼオライト前駆体を含む反応液に浸漬して水熱合成し、付着したゼオライト結晶を核として基板上にゼオライト膜を形成する。
【0008】
このゼオライトの水熱合成法では、ゼオライト前駆体を含む反応液中に結晶核が生成してゼオライト結晶が成長する副生ゼオライト結晶の生成を大幅に少なくでき、基材上に結晶粒界の少ない緻密なゼオライト膜を形成できるという。結晶核は反応液の過飽和度が高いほど生成しやすく、反応液の過飽和度が高いとゼオライトの結晶成長が抑制される。反応液の過飽和度を低くすると、結晶核の生成速度を一桁少なくでき、ゼオライトが結晶成長しやすいので、予め基材に付着させてある種結晶を成長させることによって緻密で結晶粒界の少ないゼオライト結晶層からなるゼオライト膜を水熱合成できるとしている。
【0009】
しかし、特開平7-109116号で得られたゼオライト膜がどのような構造と特性を有しているかについて実施例等による具体的なデータが示されていない。実施例による具体的な成膜条件は不明であるが、過飽和度の小さい反応液中で成膜するとしている。この場合、過飽和度が小さいといっても反応溶液は過飽和であり、反応溶液中にも結晶核が生成してゼオライト結晶が成長している。このことは、水熱合成時に反応液中で生成したゼオライト結晶を分離して種結晶に利用するフローシートが図示されていることから明白である。したがって、特開平7-109116号に記載の方法によってもゼオライト膜中にブリッジ構造ができるのを充分に防げない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本願発明は基材上に形成されたゼオライト膜の使用耐圧が大きく、分離性能に優れ、かつRO膜としても使用できるゼオライト分離膜とその製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本願発明のゼオライト分離膜は、多孔質基材上に厚さ0.5〜30μmの緻密なゼオライト結晶の膜が密着して形成されており、その分離膜としての使用耐圧が2MPa以上あることを特徴とする。
【0012】
使用耐圧が2MPa以上という密着性に優れたゼオライト膜は従来知られていない。このように密着性、すなわち使用耐圧に優れたゼオライト膜は、水熱合成の初期において種結晶の一部が消失して他の種結晶が成長するような薄い原料溶液を水熱合成に用いることによって始めて形成できる。この条件下で合成されたゼオライト膜は、ゼオライト種結晶が多孔質基材上で結晶成長してゼオライト結晶同志、及びゼオライト結晶と多孔質基材とが密着した状態になる。使用される多孔質基材の平均気孔径にもよるが、水熱合成時に多孔質基材の平均気孔径の8倍以下のゼオライトの種結晶を使用すれば、多孔質基材と密着した緻密なゼオライト結晶膜となる。
【0013】
ゼオライト膜の厚さは、あまり大きいと合成するのに長時間を要し、長時間かけて、あるいは繰り返し水熱合成を行なうとゼオライト分離膜がコスト高になり、透過性能が低下することになるため、ゼオライト膜の厚さは30μm以下としてある。ゼオライト膜の厚さは、好ましくは1〜10μmである。
【0014】
本発明では、ゼオライト分離膜の使用耐圧は、ゼオライト膜が形成されている側から多孔質基材の方向に圧力を加えたときの使用耐圧をいう。ゼオライト膜のゼオライト結晶が隙間なく多孔質基材の表面を覆うようにするには、ゼオライト種結晶は多孔質基材の表面の一面に付着させなければならない。
【0015】
ゼオライト膜が0.5μmより薄いと使用耐圧が劣ることになるが、ゼオライト結晶が30μmより厚く形成されているゼオライト膜では、ゼオライト膜中にブリッジ(空隙)が形成されやすく、ゼオライト膜の耐圧強度が損なわれることがある。ゼオライト分離膜の膜厚を0.5〜30μmの範囲とすることによって比較的低コストで分離性能に優れたゼオライト分離膜を提供できる。ゼオライト膜の膜厚は、安定して良好な耐圧強度が得られるように、好ましくは1〜10μmとする。緻密なゼオライト膜とは、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で500倍に拡大して調べるとき、識別しうる空隙が膜内に認められないものをいう。
【0016】
本発明のゼオライト分離膜の製造方法は、多孔質基材の表面に、多孔質基材の平均気孔径の0.4〜8倍の平均結晶粒径を有するゼオライト種結晶を一面に付着させ、該多孔質基材をSiとAlを合わせた濃度が1000〜10000ppmであり、アルカリイオン濃度が10000〜60000ppmである原料溶液中に浸漬して水熱合成することを特徴とする。
【0017】
水熱合成に先立ってゼオライト種結晶を、均等に一面に多孔質基材に付着させやすいことから、ゼオライト種結晶の平均結晶粒径は、多孔質基材の平均気孔径の0.4〜8倍とする。ゼオライト種結晶の平均結晶粒径は、好ましくは多孔質基材の平均気孔径の0.5〜3倍とする。細か過ぎる種結晶を使用すると、基材中に種結晶が侵入して種結晶の付着が不均一になる。種結晶が大き過ぎると多孔質基材上に種結晶を付着させるのが難しい。種結晶の基材への付着方法には、乾いたゼオライト結晶の粉末を多孔質基材にこすり付けたり、種結晶を水中に分散させた分散液を塗布したり、分散液中に基材を浸漬するなどの方法がある。
【0018】
多孔質基材表面に種結晶を一面に付着させた後、この多孔質基材を原料溶液中に浸漬して水熱合成を行なう。水熱合成にはSiとAlを合せた濃度が1000〜10000ppmであり、アルカリイオン濃度が10000〜60000ppmである希薄な原料溶液を使用する。SiとAlを併せた濃度が1000ppm未満であるとゼオライト結晶の成長速度が非常に遅く、好ましい膜厚のゼオライト膜を形成しにくい。
【0019】
また、SiとAlを合せた濃度が10000ppm超であると、原料溶液が過飽和になって原料溶液中にゼオライトの結晶核が生成し、原料溶液中で結晶成長したゼオライト結晶が基材上に沈積して形成されるゼオライト膜が不均質になり、膜中にブリッジ(空隙)ができやすく、使用耐圧の高い分離膜を得るのが難しい。アルカリイオン濃度は、大きい方がSiとAlを合わせた濃度を高くでき、実用的なゼオライト結晶の成長速度を確保できるので、アルカリイオン濃度は10000ppm以上とする。しかし、アルカリイオン濃度が大き過ぎるとゼオライト結晶が原料溶液中に溶ける速度が速くなり、結晶成長が進まないので60000ppm以下とする。
【0020】
原料溶液中のシリカ、アルミナ及びアルカリの濃度は、種結晶の成長を最優先する組成になっていなければならず、原料溶液は基材が配置されている水熱合成の系内でゼオライト結晶について概ね飽和状態になっていなければならない。上記原料溶液の組成はこの条件を充たすものであり、この構成の原料溶液を使用することによって形成されるゼオライト膜中にブリッジ(空隙)が生じない。
【0021】
【発明の実施の形態】
多孔質基材の気孔率は、少ないと分離膜の透過性が小さくなり、ゼオライト膜の有効膜面積も小さくなるので、多孔質基材の気孔率は10%以上であるのが好ましい。また、多孔質基材の気孔率が大き過ぎると基材自体の強度が低下し、ゼオライト膜の使用耐圧が小さくなるので、多孔質基材の気孔率は50%以下であるのが好ましい。基材のより好ましい気孔率は30〜40%である。
【0022】
多孔質基材の形状は、その表面にゼオライト膜を形成し得るものであればよく、薄板状、筒状、ペレット状、中空糸状、ハニカム状などの形状のものを使用できる。これらの基材の製造方法には、目的とする形状に合わせてプレス成形法、押し出し成形法、泥漿鋳込み法などを採用する。複層構造の基材の使用ももちろん可能であり、この場合、たとえば第1の基材層の上にディップコート、スピンコートなどで第2の基材層を積層したものを使用すればよい。
【0023】
多孔質基材には、アルミナ質、ムライト質、ジルコニア質、コージライト質等の各種のセラミックス基材やステンレス鋼の粉末を焼結した多孔質金属等を使用できるが、ゼオライト結晶との密着性が特に優れていることから、多孔質基材としてはアルミナ質セラミックスが好ましい。また、多孔質基材の平均気孔径は、小さ過ぎると種結晶を付着させにくいので0.05μm以上であるのが好ましい。逆に大き過ぎると種結晶が多孔質基材中に侵入して種結晶の付着が不均一になるので、多孔質基材の平均気孔径は10μm以下とするのが好ましい。より好ましい平均気孔径は0.1〜5μmである。
【0024】
ゼオライト分離膜のゼオライト膜が形成されている側から流体圧力を加える使用耐圧は、2MPa以上の圧力で分離膜として使用することができる。使用耐圧が2MPa以上あれば、従来使用耐圧が低かったために使用できないと考えられていたRO膜にも本発明のゼオライト分離膜を使用できる。RO膜としては使用耐圧の高い方が好ましいので、2MPa以上の使用耐圧のある分離膜を使用するのが好ましい。ゼオライト分離膜の他の用途に、ナノ濾過膜、ガス分離膜、PV膜などの分離膜があり、ガスセンサーにも使用できる。ナノ濾過膜としては使用耐圧の大きいものが適している。
【0025】
ゼオライト結晶にはA型、Y型等のアルミナ/シリカのモル比が大きい親水性のものから、ZSM-5、シリカライト等のようにアルミナ/シリカのモル比が低い疎水性のものがある。また、ゼオライト結晶中のAlの個所にFe、Cr、Y等の元素を導入したゼオライト結晶もある。ゼオライト膜にはこれらの中から使用目的に合わせた種類のゼオライト結晶を選択するのが好ましい。この場合、種結晶として目的とする種類のゼオライト種結晶を使用して水熱合成条件を調整すれば、単一種のゼオライト結晶からなるゼオライト分離膜を製造できる。
【0026】
本発明の好ましいゼオライト分離膜では、ゼオライト膜の密着強度が大きくなるように多孔質基材にアルミナ質基材が使用される。アルミナ質基材を用いるときにゼオライト膜の密着強度が大きくなる理由は、アルミナ結晶中の原子間距離がゼオライト結晶中の原子間距離と近いためと推定される。
【0027】
基材表面への種結晶の付着量が少ないと緻密なゼオライト膜の形成が困難であり、逆に多過ぎると膜中に空隙が形成されやすいので、ゼオライト種結晶の基材表面への付着量は0.2〜3mg/cm2とするのが好ましい。ゼオライト種結晶の基材表面へのより好ましい付着量は0.3〜1mg/cm2である。
【0028】
原料溶液の出発原料には、シリカ源としてシリカゾル、水ガラス、珪酸ナトリウムを使用でき、アルミナ源としてアルミン酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウムを使用でき、アルカリ源として水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを使用できる。また、原料溶液に臭化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム等の結晶化剤を混合してもよい。
【0029】
ゼオライト膜の水熱合成は、耐圧容器中に密閉した状態、又は図3に示す冷却器を取り付けた常圧下の容器中において、通常80〜250℃に加熱して3〜180時間保持して行なう。水熱合成後、ゼオライトを形成した基材は水で洗浄し、次いで乾燥する。結晶化促進剤等の熱分解性成分を添加したときには、次いで熱処理してこれらを除去する。ゼオライト膜の水熱合成は、一回のみで好ましい性能が得られないとき、複数回水熱合成を繰り返してゼオライト結晶を成長させて結晶粒界を埋めることによって分離性能が向上することがある。
【0030】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0031】
[実施例1]約20℃の室内で、逆浸透法で精製した水(以下、逆浸透水という)に珪酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化ナトリウムを溶かし、Na2O、Al2O3、SiO2及びH2Oのモル比が90:1:9:5760の原料溶液(Alを608ppm、Siを2710ppm、Naを40300ppm含む)とした。気孔率が38%、平均細孔径が1μm(水銀ポロシメータによる積算気孔容積が50%の細孔径)、厚さ3mm、直径47mmのアルミナ質基材(Al2O399.9重量%)の表面に平均結晶粒径が1μmのA型ゼオライトの種結晶を直接基材表面に擦り込んで付着させた。
【0032】
この基材の表面には一面に、約0.6mg/cm2の種結晶が付着していた。次いでこの基材を前記原料溶液を充たした図3に示す構成の水熱合成容器に挿入し、原料溶液に浸して100rpmで撹拌しつつ常圧下で80℃に加熱して5時間保持し、このアルミナ質基材上にゼオライト膜を形成した。次いで容器から基材を取り出し、洗浄後乾燥してゼオライト分離膜を得た。また、水熱合成を開始5時間経過後に原料溶液の一部を取り出して分析した結果、Al553ppm、Si2870ppm、Na42200ppmであった。また、水熱合成後の原料溶液をろ過したが、ろ紙上にはろ過物がほとんど残留しなかった。
【0033】
得られたゼオライト分離膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察したところ、立方体形状の結晶が基材の表面に一様に形成されていた。X線回折で調べた結果、ゼオライト膜はA型ゼオライトのみからなることが分かった。ゼオライト膜の断面をSEMで5000倍に拡大して観察して調べた結果、ゼオライト膜中にはブリッジ構造(空隙)が認められず、緻密であった。また、ゼオライト膜の厚さは約6.3μmであった。図1は、実施例1で製造された緻密で使用耐圧の大きいゼオライト分離膜の断面の模式図である。このゼオライト膜の使用耐圧は、後述するように6MPa以上であった。
【0034】
[実施例2]実施例1と同じ原料を使用してNa2O、Al2O3、SiO2及びH2Oのモル比が3.2:1:2.5:156の懸濁液を作り、これをろ過した液(Alを610ppm、Siを2720ppm、Naを38400ppm含む)を原料溶液に使用し、他は実施例1と同じ条件で水熱合成を行なった。SEMとX線回折で調べた結果、合成されたゼオライト膜はA型ゼオライト結晶のみからなり、緻密で厚さが約6.5μm、使用耐圧が5MPaであった。また、水熱合成を開始5時間経過後に原料溶液の一部を取り出して分析したところ、Alを557ppm、Siを2820ppm、Naを35700ppm含んでいた。また、水熱合成後の原料溶液をろ過したが、ろ紙上にはろ過物がほとんど残留せず、X線回折では調べられなかった。
【0035】
[実施例3、4]実施例1において水熱合成条件を90℃で5時間とし、他は実施例1と同じ条件で水熱合成してゼオライト分離膜(実施例3)を得た。また、実施例3で得られたゼオライト分離膜の上に、同様に種結晶を塗布して同じ条件で水熱合成を行なう操作を2回追加(合計3回)してゼオライト分離膜(実施例4)を得た。これらをSEMとX線回折で調べた結果、A型ゼオライト結晶のみからなる緻密なゼオライト膜が基材上に形成されていた。基材上に形成されたゼオライト膜の厚さは、それぞれ約7.7μmと約8.9μmであり、使用耐圧はいずれも6MPa以上であった。
【0036】
[実施例5]実施例1において、多孔質基材にSUS304の粉末を焼結した気孔率が30%で平均気孔径が15μmの多孔質金属を使用し、他は実施例1と同じ条件で水熱合成を行ない、ゼオライト膜の厚さが5.3μmのゼオライト分離膜を得た。このゼオライト分離膜の使用耐圧は、後述するように6MPa以上であった。
【0037】
[比較例1]実施例1と同じ原料を使用してNa2O、Al2O3、SiO2及びH2Oのモル比が3.2:1:2.5:78の懸濁液を作り、これをろ過した液(Alを752ppm、Siを10200ppm、Naを42800ppm含む)を原料溶液に使用し、他は実施例1と同じ条件で水熱合成を行なった。SEMとX線回折で調べた結果、基材の表面に塗布したA型ゼオライト種結晶はほとんど成長しておらず、形成された厚さ約15μmの膜は緻密でなく、使用耐圧は0.8MPa以下であった。この膜中には少量のフォージャサイトの混在が確認された。また、水熱合成後の原料溶液をろ過したところ、ろ紙上に残留するろ過物中にフォージャサイトが検出された。
【0038】
[比較例2、3]比較例1において、水熱合成の条件を、温度80℃で10時間(比較例2)、温度100℃で5時間(比較例3)とし、他は比較例1と同じ条件で水熱合成を行ない、基材上にゼオライト膜を形成した。SEMとX線回折で調べた結果、いずれについても基材の表面に塗布したA型ゼオライト結晶はほとんど成長しておらず、形成された厚さ約15μmのゼオライト膜は緻密でなく、使用耐圧は0.8MPa以下であった。この膜中には少量のフォージャサイト結晶の混在が確認された。また、水熱合成後の原料溶液をろ過したところ、ろ紙上に残留したろ過物中にはフォージャサイト結晶が検出された。
【0039】
[比較例4、5]実施例1と同じ原料を使用してNa2O、Al2O3、SiO2及びH2Oのモル比が2:1:2:120の過飽和の原料溶液(Alを25000ppm、Siを25900ppm、Naを42600ppm含む)を作り、水熱合成の条件を温度100℃で3.5時間(比較例4)、温度100℃で5時間(比較例5)とし、他は実施例1と同じ条件で水熱合成を行なった。得られた分離膜をSEMとX線回折で調べた結果、いずれについても基材の表面に塗布したA型ゼオライト結晶はほとんど成長しておらず、形成された膜の厚さは約70μmであり、ゼオライト膜は緻密といえず、種結晶の隙間にはゲル状物質が存在しているのを認めた。このゼオライト膜の使用耐圧は0.8MPa以下であった。また、水熱合成後の原料溶液をろ過し、洗浄後乾燥したろ過物をX線回折で調べた結果、A型ゼオライトとフォージャサイトの存在を認めた。
【0040】
[比較例6]比較例5において、水熱合成条件を80℃とし、他は比較例5と同じ条件で水熱合成を行なった。得られた分離膜をSEMとX線回折で調べた結果、いずれについても基材の表面に塗布したA型ゼオライト結晶はほとんど成長しておらず、形成されたゼオライト膜は厚さ約50μmであって緻密でなく、種結晶の隙間にゲル状物質が存在しているのを認めた。このゼオライト膜の使用耐圧は0.8MPa以下であった。また、水熱合成後の原料溶液をろ過し、洗浄後乾燥したろ過物をX線回折で調べた結果、A型ゼオライトとフォージャサイトの存在を認めた。
【0041】
[比較例7]実施例1と同じ原料を使用してNa2O、Al2O3、SiO2及びH2Oのモル比が1:0.5:1:60の過飽和の原料溶液(Alを25000ppm、Siを25900ppm、Naを42600ppm含む)を使用し、水熱合成の条件を温度100℃で3時間とした以外は実施例1と同じ条件で水熱合成を行ない、ゼオライト膜の膜厚が30μmのA型ゼオライトの分離膜を得た。この分離膜は後述するように、使用耐圧が0.8MPaであった。
【0042】
[比較例8]実施例1と同じ原料を使用してNa2O、Al2O3、SiO2及びH2Oのモル比が1:0.5:1:120の原料溶液(Alを12500ppm、Siを13000ppm、Naを21000ppm含む)を使用し、水熱合成の条件を温度100℃で3時間とした以外は実施例1と同じ条件で水熱合成を行ない、ゼオライト膜の膜厚が30μmのA型ゼオライトの分離膜を得た。この分離膜は後述するように、使用耐圧が0.9MPaであった。
【0043】
以上の水熱合成試験の結果から、SiとAlを合わせた濃度が1000〜10000ppmであり、アルカリイオン濃度が10000〜60000ppmである原料溶液中に種結晶を一面に塗布された多孔質基材を浸漬して水熱合成を行なうと、多孔質基材の表面に緻密なゼオライト膜が密着したゼオライト分離膜を製造できることが分かる。また、本発明によるゼオライト膜の実施例では、水熱合成の少なくとも初期において原料溶液中のAlとSiの濃度がほとんど変わっておらず、ゼオライト膜の形成に原料溶液中のAlとSiが消費されていないことから、主として基材に塗布された種結晶がゼオライト膜の形成に使用されたと考える。
【0044】
[試験例1]実施例1で製造したゼオライト分離膜を逆浸透水中に保管しておいたものを使用してRO分離試験を行なった。すなわち、図4に示す構成の装置を使用し、30℃の恒温槽中において、10重量%のエタノール水溶液を供給液とし、100rpmで撹拌しつつ膜面における濃度分極の影響を抑えた。また、操作圧力を最大8MPaまで上げ、透過液側に氷のコールドトラップを用いてエタノールの蒸発を防ぎ、供給液と透過液の濃度をガスクロマトグラフで測定した。
【0045】
供給側のエタノール濃度をCf(重量%)とし、透過側のエタノール濃度をCp(重量%)とするとき、見かけの阻止率RobsをRobs=(Cf-Cp)/Cfによって求めた。操作圧1.5MPaにおけるRO試験の結果を図5に示す。図5-aから、試験開始直後には基材中に含まれる水が混じるため阻止率が高いが、徐々に減少して60時間経過後に定常状態になった。このゼオライト分離膜では1.5MPaの操作圧で10重量%のエタノール水溶液から40%以上の阻止率でRO分離が可能であることが分かった。図5-bは透過流束の経時変化を示すが、経時変化は認められなかった。
【0046】
また、操作圧を4、6、8MPaと上げたときの透過流束(Flux)と阻止率の経時変化を図6に示す。図6-aから分かるように、操作圧を4、6MPaと上げても膜構造は安定しており、透過流束と阻止率は50時間後も経時変化を示さず、10重量%のエタノール水溶液で20%程度の阻止率が得られた。このRO分離膜は8MPaの操作圧においても、10時間まで安定した性能を示したが、20時間経過後に透過流束が急激に増加し、阻止性能が損なわれた。試験後のこのRO分離膜の表面には、幅0.2μm程度の亀裂が縦横に生じているのが認められ、膜の断面についても亀裂が観察された。
【0047】
また、実施例5で製造したゼオライト分離膜及び比較例7と比較例8で製造したゼオライト分離膜をそれぞれRO分離試験に供した。実施例5で製造したゼオライト分離膜は6MPaの圧力を50時間かけても実施例1のゼオライト分離膜と同様に安定した分離性能を示した。他方、比較例7と比較例8で製造したゼオライト分離膜はそれぞれ0.8MPaと0.9MPaに圧力を上げたときに、透過率が急激に上昇して分離膜が破損した。破損したゼオライト分離膜には、SEMによる観察でいずれもクラックが認められた。
【0048】
[試験例2]実施例3、4で製造したゼオライト分離膜を使用してPV分離試験を行なった。すなわち、図7に示す構成の装置を用い、30℃の恒温槽中において、供給液を0〜90重量%のエタノール水溶液とし、供給液及び透過液の濃度をガスクロマトグラフで測定した。供給側のエタノールと水のモル濃度をそれぞれX1モル%とX2モル%とし、透過側のエタノールと水のモル濃度をそれぞれY1モル%とY2モル%とするとき、分離係数αをα=(X1・Y2)/(X2・Y1)によって計算し、求めた。得られた結果を図8に示す。図8-aから分かるように、実施例4のゼオライト分離膜を使用したPV分離試験では、90重量%のエタノール水溶液を供給液とするとき、約400という高い分離性能が得られた。図8-bは透過流束を示す。
【0049】
【発明の効果】
本発明により、緻密で薄く、使用圧力の高いゼオライト分離膜の提供が可能になった。本発明によるゼオライト分離膜は使用圧力が高いので、従来のゼオライト分離膜では適さなかったRO膜やナノ濾過膜の用途にも好適である。このような使用耐圧の高いゼオライト膜は、多孔質基材の表面一面に種結晶を付着せしめておき、少なくとも水熱合成の初期において、主に種結晶がゼオライト膜の形成に使用されるような薄い原料溶液を使用することによって形成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明によるゼオライト分離膜の断面を示す模式図
【図2】
従来のゼオライト分離膜の断面を示す模式図
【図3】
本発明の実施例において使用された水熱合成装置の概要を示す断面図
【図4】
本発明の試験例で使用した逆浸透分離装置の概要図
【図5】
本発明のゼオライト分離膜を逆浸透分離に使用したときの透過流束と見掛け阻止率Robsの経時変化を示すグラフ
【図6】
本発明のゼオライト分離膜を逆浸透分離に使用し、圧力を変えたときの透過流束と見掛け阻止率Robsの経時変化を示すグラフ
【図7】
本発明の試験例で使用した浸透気化分離装置の概要図
【図8】
本発明のゼオライト分離膜を浸透気化分離に使用したときの透過流束と分離係数αを示すグラフ
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第3128517号発明の明細書を、本件訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、
(1)訂正事項a
請求項1の「1.0」(本件特許掲載公報第1頁第1欄第4行)を、「2」と訂正する。
(2)訂正事項b
明細書(段落【0008】)中の「ゼオライトイ」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第13、14行)を、「ゼオライト」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書(段落【0011】)中の「1.0」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第42行)を、「2」と訂正する。
(4)訂正事項d
明細書(段落【0012】)中の「1.0」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第44行)を、「2」と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書(段落【0024】)中の「1.0」(本件特許掲載公報第4頁第7欄第10行)を、「2」と訂正する。
(6)訂正事項f
明細書(段落【0024】)中の「1.0」(本件特許掲載公報第4頁第7欄第12行)を、「2」と訂正する。
(7)訂正事項g
明細書(段落【0024】)中の「1.5MPa以上、さらには」(本件特許掲載公報第4頁第7欄第15、16行)を削除する。
異議決定日 2002-03-05 
出願番号 特願平8-234696
審決分類 P 1 651・ 537- YA (B01D)
P 1 651・ 113- YA (B01D)
P 1 651・ 121- YA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 西村 和美
野田 直人
登録日 2000-11-10 
登録番号 特許第3128517号(P3128517)
権利者 株式会社ノリタケカンパニーリミテド 中尾 真一
発明の名称 ゼオライト分離膜及びその製造方法  
代理人 加藤 朝道  
代理人 加藤 朝道  
代理人 加藤 朝道  

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