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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D06P 審判 全部申し立て 2項進歩性 D06P |
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管理番号 | 1059479 |
異議申立番号 | 異議1999-74352 |
総通号数 | 31 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-07-05 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-11-24 |
確定日 | 2002-03-18 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2895696号「インクジェット捺染用布帛、それを用いたインクジェット捺染方法及び捺染物」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2895696号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第2895696号に係る発明についての出願は、平成4年12月17日に出願され、平成11年3月5日にその発明について特許の設定登録がされ、その後、異議申立人名越千栄子により特許異議の申立てがされ、平成12年4月20日に取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成12年7月6日に訂正請求がされたものである。 II.訂正の適否 1.訂正の内容 ア.訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の記載について、「主としてポリエステル繊維から構成されているインクジェット捺染用布帛において、該布帛の水分含有量が1〜101%であり、」とあるのを「主としてポリエステル繊維から構成され、該繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいるインクジェット捺染用布帛であって、該布帛の乾燥重量に対する水分含有率が1〜101%であり、」と訂正する。 イ.訂正事項b 明細書の発明の詳細な説明の段落番号【0006】の記載について、「主としてポリエステル繊維から構成されているインクジェット捺染用布帛において、該布帛の水分含有量が1〜101%であり、」とあるのを「主としてポリエステル繊維から構成され、該繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいるインクジェット捺染用布帛であって、該布帛の乾燥重量に対する水分含有率が1〜101%であり、」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項aは、段落番号【0007】に記載された「特定量の水分を布帛に含有させることにより、繊維あるいは繊維間の膨潤状態が最適となり、」を根拠として、「該繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいる」と水分の存在形態を明確にしたものであり、また、「布帛の水分含有量」を「布帛の乾燥重量に対する水分含有率」とする訂正は、段落番号【0012】の「繊維部のみの乾燥重量を測定し、次式によって布帛中の水分率を求めた。水分率(%)=((W-W’)/W”)×100」の記載に準じたものであるから、特許請求の範囲の減縮ないし明りょうでない記載の釈明に該当する。また、訂正事項bは、訂正事項aの特許請求の範囲の記載の訂正に整合させて、明細書を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。 そして、これらの訂正は、いずれも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3.独立特許要件の判断 (1)本件発明 訂正後の請求項1ないし12に係る発明(以下、「本件発明1ないし12」という。)は、平成12年7月6日付けの訂正請求書に添付された訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】主としてポリエステル繊維から構成され、該繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいるインクジェット捺染用布帛であって、該布帛の乾燥重量に対する水分含有率が1〜101%であり、且つ上記繊維の平均太さが1〜10dのポリエステル繊維から構成された平均太さ20〜100dのポリエステル糸で構成されていることを特徴とするインクジェット捺染用布帛。 【請求項2】布帛の水分含有量が1〜81%の範囲にある請求項1に記載のインクジェット捺染用布帛。 【請求項3】布帛の水分含有量が1〜71%の範囲にある請求項2に記載のインクジェット捺染用布帛。 【請求項4】ポリエステル繊維の平均太さが1.5〜8dの範囲にある請求項1に記載のインクジェット捺染用布帛。 【請求項5】ポリエステル繊維の平均太さが2〜7dの範囲にある請求項4に記載のインクジェット捺染用布帛。 【請求項6】ポリエステル糸の平均太さが25〜80dの範囲にある請求項1に記載のインクジェット捺染用布帛。 【請求項7】ポリエステル糸の平均太さが30〜75dの範囲にある請求項6に記載のインクジェット捺染用布帛。 【請求項8】尿素、水溶性金属塩、水溶性高分子の群から選ばれる少なくとも1種の物質が0.01〜20重量%含有されている請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェット捺染用布帛。 【請求項9】布帛に対しインクをインクジェット方式により付与した後、 染着処理を行い、次いで洗浄処理をするインクジェット捺染方法において、前記布帛が請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェット捺染用布帛であることを特徴とするインクジェット捺染方法。 【請求項10】インクジェット方式が、熱エネルギーを利用したインクジェット方式である請求項9に記載のインクジェット捺染方法。 【請求項11】インク打込み量が4〜40nl/mm2の範囲にある請求項9又は10に記載のインクジェット捺染方法。 【請求項12】請求項9〜11のいずれかに記載の方法により捺染した捺染物。」 (2)特許異議申立ての理由の概要 訂正前の本件の請求項1ないし12に係る発明は、下記の甲第1〜4号証に記載された発明であるか、あるいは下記の甲第1〜6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、訂正前の請求項1ないし12の発明に係る特許は、特許法第29条第1項あるいは第2項の規定に違反してされたものである、というにある。 記 甲第1号証:特開昭62-53493号公報 甲第2号証:特開昭49-55974号公報 甲第3号証:特開昭51-130389号公報 甲第4号証:特開平3-113073号公報 甲第5号証:特開平2-219679号公報 甲第6号証:特開平3-140284号公報 参考資料1:「繊維工学II織物」、実教出版(株)発行、347-349頁、発行年不詳 (3)当審が通知した取消しの理由の概要 訂正前の本件の請求項1ないし12に係る発明は、下記の刊行物1-4に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、訂正前の請求項1ないし12の発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、というにある。 記 刊行物1:特開昭62-53493号公報(甲第1号証) 刊行物2:特開平3-113073号公報(甲第4号証) 刊行物3:特開平2-219679号公報(甲第5号証) 刊行物4:特開平3-140284号公報(甲第6号証) 参考資料1:「繊維工学II織物」、実教出版(株)発行、347-349頁、発行年不詳(参考資料1) (4)取消しの理由及び異議申立てで引用された刊行物等の記載事項 刊行物1(特開昭62-53493号公報、甲第1号証)には、 ア.「(1)インクジェット方式によって分散染料を含む記録液を合成繊維からなる布帛類に付与し、次いで染着処理する捺染方法において、上記布帛類に、25℃における粘度が1,000cp以上の記録液受容層が形成されていることを特徴とする捺染方法。」(特許請求の範囲)、 イ.「本発明において使用し、主として本発明を特徴づける布帛類とは、ポリエステル、・・・等の合成繊維の如く、分散染料によって染色され得る繊維からなる布帛類、またはこれらの異なる繊維同士またはこれらの繊維と他の繊維、例えば木綿、羊毛、絹、麻等の天然繊維の繊維との混紡布帛類であって、これらの布帛類表面に使用するインクジェット方式用インクを迅速且つ容易に吸収受容し得る親水性樹脂液からなるインク受容層を設け、そのインク受容層の25℃における粘度が1,000cp以上に調整されたものである。」(第2頁右上欄12行〜同左下欄4行)、 ウ.「受容層を形成する材料として、好ましいものは、水溶性または親水性の天然または合成ポリマーであり、好ましい具体例としては、アルブミン、ゼラチン、カゼイン、でんぷん、カチオンでんぷん、アラビアゴム、アルギン酸ソーダ等の天然樹脂、水溶性ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、四級化ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、・・・等の合成樹脂があげられ、これらの材料の1種以上が所望により使用される。」(第2頁左下欄11行〜同右下欄4行)、 エ.「インク受容層を形成する方法としては、上記の如きポリマーの単独あるいは混合物を、適当な溶剤に溶解または分散させて処理液を調整し、該処理液を、例えばディッピング法、スプレー法、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法等の公知の方法により布帛を処理することにより行われる。このような処理は、捺染を行う前に予め処理しておいてもよいし、捺染を行う直前に処理してもよい。・・・インク受容層の厚さは、インクを受容できる範囲であればよく、捺染するインクの量にもよるが、0.1μm以上あれば、特に限定されるものではない。実用的には、0.5〜30μmの範囲が好適である。」(第2頁右下欄12行〜第3頁左上欄6行)、 オ.「このように形成されたインク受容層は、・・・、捺染に際して完全に乾燥している状態にするよりも、捺染時にある程度の水分を含有しており、(「、、」は誤記)従ってある程度の流動性を有している場合において、インクの吸収性が非常に速やかとなり、特に連続的な捺染方法が可能となる。例えば、インクジェット捺染装置に入る前に、被捺染材である布帛に連続的に前記樹脂液を付与し、これを不完全乾燥状態で捺染装置に入って捺染され、次いで巻取りロール等に巻取ることができる。・・・優れたインク吸収速度を有し、且つインクが滲まず、しかもロール状に巻取ったり、重ね合せてもインクが他に付着しない状態のインク受容層は、その水分が約80重量%以下であり、またその25℃における粘度が1,000cp以上、好ましくは約3,000〜15,000であることを見い出した。また水分が80重量%を越えたり、25℃における粘度が1,000cp未満となると、付与されたインクが滲んだり、他に付着して連続操作が困難になることも見い出した。このようなインク受容層の水分あるいは流動性の調製は、付与された親水性樹脂液の乾燥を制御することによって容易に行うことができる。」(第3頁左上欄6行〜同右上欄11行)、 カ.「本発明方法によって布帛上にインク組成物を画像信号通りには付着させることができ、この状態のインク組成物中の染料は、単に織布等の表面のインク受容層に吸収しているに過ぎないので、引続き加熱処理等の染着処理を行うのが好ましい。」(第6頁右上欄14〜19行)、と記載されている。 刊行物2(特開平3-113073号公報、甲第4号証)には、 キ.「(1)布帛に水溶性高分子と水溶性有機溶剤を含む水系処理液を付与し、乾燥することを特徴とするインクジェット染色用布帛の製法。 (2)布帛に水溶性高分子、水溶性有機溶剤および発泡剤を含有する水系処理液を付与し、乾燥することを特徴とするインクジェット染色用布帛の製法。 (3)水溶性有機溶剤の沸点が、60〜250℃である請求項(1)に記載のインクジェット染色用布帛の製法。 (4)前記請求項(1)〜(3)に記載の製法で得たインクジェット染色用布帛を用いてインクジェット染色し、次いで固着、ソーピング処理することを特徴とする染色法。」(特許請求の範囲)、 ク.「従来法の水溶性高分子単独処理と本発明の水溶性高分子/水溶性有機溶剤との併用を比較した場合、乾燥後は両者と同量の水溶性高分子が付与されているにもかかわらず、滲み防止性は本発明が著しく良好となる。このことより、本発明で得られたインクジェット染色用布帛は、従来の水溶性高分子/水系に比べ、下記の特徴を有する。(1)繊維同志が束状にかたまらず、繊維間の空隙が多く存在するためインク滴を吸収保持しやすく均染性も向上する。(2)水溶性高分子が繊維間の空隙および編織物組織の空隙に、薄片状ないし微粒子状として存在するため表面積が大きくなり、インクを早く吸収して増粘することにより滲み防止性が高くなると推定される。」(第3頁左上欄12行〜同右上欄7行)、 ケ.「適応素材も限定されず、合成繊維(ポリエステル・・・)・・・などに利用でき、・・・布帛としては特に限定されず織物、編物、不織布などがあげられる。」(第3頁右上欄15〜20行)、 コ.「本発明でいう水溶性高分子とは、天然糊量、合成水溶性高分子に分類できる。天然糊量としては、澱粉系、メチルセルロース、・・・がある。合成水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチールエーテル等のビニル系、・・・が挙げられ、単独もしくは2種以上配合して用いてもよい。」(第3頁右下欄1〜17行)、 サ.「本発明でいう水溶性有機溶剤とは、水に10%以上溶解し、沸点が60〜250℃の範囲のものである。・・・沸点が250℃を越えると通常の乾燥工程で(100〜150℃)蒸発しにくく、布帛に水溶性溶剤が残存し、滲み防止性を損なう。」(第4頁左上欄9行〜同右上欄5行)、 シ.「実施例9〜10、比較例9〜11 ポリエステル繊維から織物(ポンジー:目付120g/m2)を用い、発泡剤として炭酸水素アンモニウムを用いた以外は、実施例3〜4、比較例4〜6と同様な方法で前処理した。次いで下記に示す条件で処理した。・・・第4表に示したように、ポリエステル織物においても、木綿、絹と同様に・・・滲み防止および発色性ともに優れている。第4表ポリエステルのインクジェット・・・」(第7頁右上欄下から5行〜同右下欄第4表)、と記載されている。 刊行物3(特開平2-219679号公報、甲第5号証)には、 ス.「(1)支持対に吸油性の顔料層を形成したインクジェット記録体に於いて、支持体として径が1μ〜200μの糸で織った布を使用したことを特徴とするインクジェット記録体。(2)支持体の布が、1μ〜50μの一次糸を2本以上組み合わせた2次糸で織り合わせたものであることを特徴とする請求項(1)記載のインクジェット記録体。」(特許請求の範囲(1)〜(2))と記載されている。 刊行物4(特開平3-140284号公報、甲第6号証)には、 セ.「支持体の少なくとも片面に記録層を設けてなるインクジェット記録体において、該支持体として織糸の太さが200μm以下であり、かつ織間隙が200μm以下である布帛が用いられていることを特徴とするインクジェット記録体。」(特許請求の範囲)と記載されている。 甲第2号証(特開昭49-55974号公報)には、 ソ.「捺染に先立って被捺染物にポリオキシアルキレン基を親水成分として含有する吸水剤を付着せしめることを特徴とする被染物の前処理方法。」(特許請求の範囲)、 タ.「本発明の対象とする布帛は、・・・ポリエステル・・・などの化学繊維、・・・などの天然繊維あるいはこれらの混用よりなる織物、加工糸織物またはパイル織物であり、使用する吸水剤は、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール・・・などである。吸水剤の布帛への付着は水溶液としてパッド法、スプレー法などで行うことができ、その付着量は布帛重量に対して0.1〜5%が適当である。吸水剤の水溶液を付着せしめた布帛は捺染に先だって乾燥することが望ましいが、乾燥条件にはなんら制約はなく風乾でも良く、また必要に応じて該布帛のヒートセットをかねて熱処理と同時に乾燥しても良い。」(第2頁左上欄1〜18行)と記載されている。 甲第3号証(特開昭51-130389号公報)には、 チ.「整経された経糸に所要の延伸処理を行った後糊付けし、引き続き、所望の含有水分率に調節して捺染を行ない、続いて乾燥後発色させてからビーミング、製織するか、あるいは乾燥後ビーミング、製織してから発色させることにより、織物におけるボカシ、尖鋭、柄ずれ、霜降り度合等の柄出しを任意に変化させることを特徴とする経糸捺染織物の製造方法。」(特許請求の範囲)、 ツ.「実施例5 先晒しのエステル/綿(65%/35%)45S(英式綿番手)を用い、経糸密度が130本/吋に用意された経糸を・・・含有水分率を110%に調節し、・・・。実施例6 実施例5と同条件の経糸を・・・含有水分率を50%に調節し、・・・。実施例7 実施例5と同条件の経糸を・・・含有水分率を10%に調節し、・・・。」(第3頁左上欄15行〜同左下欄17行)と記載されている。 参考資料1(「繊維工学II織物」、実教出版(株)発行、347-349頁、発行年不詳(参考資料1))には、 テ.「1.糸の直径 糸の直径の求め方は、実験によるものと、計算によるものとがある。・・・計算による方法は次のとおりである。・・・」(347〜348頁、式、表を参照)と記載されている。 (5)対比・判断 ア.特許法第29条第1項違反について [本件発明1について] 本件発明1と刊行物1(甲第1号証)に記載された発明とを対比する。 本件明細書の段落【0007】には、本件発明1による作用として、 「【作用】従来の様な捺染糊と比べて、格段に低粘度のインクを用い、このインクのドット表現により画像を形成するインクジェット捺染は、他の捺染方法に比べて布帛の物理的条件に対する制約が極めて多く、主としてポリエステル繊維から構成される布帛の場合、特にその影響が大きい。 本発明者らは主としてポリエステル繊維から構成されているインクジェット捺染用布帛において、前述の如き種々の要求性能を同時に満足させるべく布帛の改良を行った結果、従来行われていた布幕を前処理する等の改良方法以外に、基材の基本的特性である布帛中の水分含有量を一定範囲に制御し、且つポリエステル繊維及びポリエステル糸の平均太さを調整することによって、発色性、染着率、定着性、鯵み性及び搬送性等の諸特性が格段に改善できることを知見した。 この現象は、通常状態では到達し得ない特定量の水分を布帛に含有させることにより、繊維あるいは繊維間の膨潤状態が最適となり、従来報告されている様な捺染湖に比して格段に低粘度の各種インクジェット用インクを用いてプリントしても、そのプリント特性を最大限に発揮させることが出来る為と思われる。 更に、布帛中の水分率を制御すると共に、基材の基本的特性である布帛を構成するポリエステル糸の平均太さ及び該ポリエステル糸を構成するポリエステル繊維の平均太さを一定範囲に制御することによって、繊維の絡み合いの状態が絶妙なものとなり、従来報告されている様な捺染糊に比して格段に低粘度の各種インクジェット用インクを用いてプリントしても、そのプリント特性を最大限に発揮させることが出来る為と思われる。」と記載されている。 また、段落【0014】〜【0017】には、必要に応じて従来の前処理方法を併用することができるとして、 「【0014】又、上記の様な本発明のインクジェット捺染用布帛には、必要に応じて従来の前処理方法を併用することが出来る。特に、尿素、水溶性金属塩又は水溶性高分子から選ばれる少なくとも1種の物質を、0.01〜20重量%含有させたものがより好ましい。 【0015】水溶性高分子の例としては、トウモロコシ、小麦等のデンプン物質、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系物質、アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカスイトビーンガム、トラガントガム、グァーガム、タマリンド種子等の多糖類、ゼラチン、カゼイン等の蛋白質物質、タンニン系物質、リグニン系物質等の天然水溶性高分子が挙げられる。 【0016】又、合成高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール系化合物、ポリエチレンオキサイド系化合物、アクリル酸系水溶性高分子、無水マレイン酸系水溶性高分子等が挙げられる。これらの中でも多糖類系高分子やセルロース系高分子が好ましい。 水溶性金属塩類としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ士類金属のハロゲン化物の様に、典型的なイオン結晶を作るものであって、pH4〜10である化合物が挙げられる。 かかる化合物の代表的な例としては、例えば、アルカリ金属では、NaC1、Na2SO4、KCI及びCH3COONa等が挙げられ、又、アルカリ土類金属としては、CaCl2及びMgCl2等が挙げられる。中でもNa、K及びCaの塩類が好ましい。」と記載されている。 これら記載によれば、基材の基本的特性である布帛中の水分含有量を一定範囲に制御し、且つポリエステル繊維及びポリエステル糸の平均太さを調整することによって、繊維あるいは繊維間の膨潤状態が最適となり、繊維の絡み合いの状態が絶妙なものとなり、発色性、染着率、定着性、鯵み性及び搬送性等の諸特性が格段に改善できる効果を奏するものであり、また、水分中に併用される水溶性化合物は、水溶液状で繊維間に保持されるものであると認められるから、本件発明1の「繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいる」との構成は、「繊維あるいは繊維間の膨潤状態が最適となり、繊維の絡み合いの状態が絶妙なものとなる」作用を有し「発色性、染着率、定着性、鯵み性及び搬送性等の諸特性が格段に改善できる」効果を奏するものであり、繊維あるいは繊維間が膨潤するように含まれる水分は、繊維に固着あるいは繊維を固着するものではなく、液体状の遊離水と解するのが相当と認められる。 一方、刊行物1に記載の「布帛に25℃における粘度が1,000cp以上の記録液受容層が形成されている」との構成は、「インクジェット方式用インクを迅速且つ容易に吸収受容し得る」作用を有し「優れたインク吸収速度を有し、且つインクが滲まず、しかもロール状に巻取ったり、重ね合せてもインクが他に付着しない」効果を奏するものと認められる(摘示オ参照。)。 そして、記録層の形成について、「受容層を形成する材料として、好ましいものは、水溶性または親水性の天然または合成ポリマーであり、」(摘示ウ参照。)、「インク受容層を形成する方法としては、上記の如きポリマーの単独あるいは混合物を、適当な溶剤に溶解または分散させて処理液を調整し、該処理液を、例えばディッピング法、スプレー法、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法等の公知の方法により布帛を処理することにより行われる。インク受容層の厚さは、インクを受容できる範囲であればよく、捺染するインクの量にもよるが、0.1μm以上あれば、特に限定されるものではない。実用的には、0.5〜30μmの範囲が好適である。」(摘示エ参照。)、「このように形成されたインク受容層は、捺染に際して完全に乾燥している状態にするよりも、捺染時にある程度の水分を含有しており、従ってある程度の流動性を有している場合において、インクの吸収性が非常に速やかとなり、特に連続的な捺染方法が可能となる。例えば、インクジェット捺染装置に入る前に、被捺染材である布帛に連続的に前記樹脂液を付与し、これを不完全乾燥状態で捺染装置に入って捺染され、次いで巻取りロール等に巻取ることができる。その水分が約80重量%以下であり、水分が80重量%を越えたり、25℃における粘度が1,000cp未満となると、付与されたインクが滲んだり、他に付着して連続操作が困難になることも見い出した。このようなインク受容層の水分あるいは流動性の調製は、付与された親水性樹脂液の乾燥を制御することによって容易に行うことができる。」(摘示オ参照。)と記載されており、インク受容層は、完全に乾燥しているのではなく、ある程度の水分の含有を推奨するものである。 ところで、その水分の存在形態をみると、「水分が80重量%を越えたり、25℃における粘度が1,000cp未満となると、付与されたインクが滲んだり、他に付着して連続操作が困難になることも見い出した。このようなインク受容層の水分あるいは流動性の調製は、付与された親水性樹脂液の乾燥を制御することによって容易に行うことができる。」(摘示オ参照)、「布帛上にインク組成物を・・・付着させることができ、この状態のインク組成物中の染料は、単に織布等の表面のインク受容層に吸収しているに過ぎないので、引続き加熱処理等の染着処理を行うのが好ましい。」(摘示カ参照。)との記載からみて、インク受容層の水分は、事実上その樹脂中に固定されており、液体状に遊離するものではないと推認できる。 それ故、本件発明1は、「繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいる」ことにより、水分は液状であるに対し、刊行物1記載のものは、「布帛に25℃における粘度が1,000cp以上の記録液受容層が形成されている」態様において水分を含有するにしてもインク受容層の樹脂中に固定されている点で両者の布帛中の水分の存在形態が相違するものと認められる。 したがって、上記の構成の相違は、発明の本質的な相違であるから、本件発明1は刊行物1に記載された発明とは認められない。 本件発明1と刊行物2(甲第4号証)に記載された発明とを対比する。 刊行物2に記載された発明では、「水溶性高分子が繊維間の空隙および編織物組織の空隙に、薄片状ないし微粒子状として存在するため表面積が大きくなり、インクを早く吸収して増粘することにより滲み防止性が高くなる」(摘示ク参照。)ものであり、繊維間の空隙に液体状の水分を含有するものではない。 それ故、本件発明1は、「ポリエステル繊維から構成され、該繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいる」のに対し、刊行物2記載のものは、「水溶性高分子が繊維間の空隙および編織物組織の空隙に、薄片状ないし微粒子状として存在する」点で相違する。 したがって、上記の相違する点があるから、本件発明1は刊行物2に記載された発明とは認められない。 本件発明1と甲第2号証に記載された発明とを対比する。 甲第2号証には、「捺染に先立って被捺染物(布帛)にポリオキシアルキレン基を親水成分として含有する吸水剤を水溶液として付着せしめ、乾燥する」こと(摘示ソ、タ参照。)が記載されているが、最終的に捺染する布帛に水分を含有させることを意図するものではない。 それ故、本件発明1は、「ポリエステル繊維から構成され、(1)該繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいる(2)インクジェット捺染用布帛」であるに対し、甲第2号証記載のものは、「ポリエステル繊維から構成され、(1)該繊維あるいは繊維間にポリオキシアルキレン基を含有する(2)捺染用布帛」である2つの点で相違する。 したがって、上記の2つ点で相違するから、本件発明1は甲第2号証に記載された発明とは認められない。 本件発明1と甲第3号証に記載された発明とを対比する。 甲第3号証には、「整経された経糸に所要の延伸処理を行った後糊付けし、引き続き、所望の含有水分率に調節して捺染をする」こと(摘示チ、ツ参照。)が記載されているが、糸に捺染するものであって、布帛に捺染をするものではない。 それ故、本件発明1は、「捺染用する対象が布帛」であるに対し、甲第3号証記載のものは、「捺染する対象が経糸(糸)」である点で相違する。 したがって、上記の相違点があるから、本件発明1は甲第3号証に記載された発明とは認められない。 [本件発明2ないし8について] 本件発明2ないし8は、本件発明1に関し、布帛の水分含有量、ポリエステル繊維あるいは糸の平均太さ、水分に添加する任意成分を更に限定するものであるから、本件発明1についての判断と同じ理由が成り立つ。 したがって、本件発明2ないし8は、刊行物1、2及び甲第2、3号証に記載された発明とは認められない。 [本件発明9ないし11について] 本件発明9ないし11は、本件発明1ないし8のインクジェット捺染用布帛にインクジェット捺染する方法の発明であるが、捺染用布帛については、本件発明1ないし8についての判断と同じ理由が成り立つので、本件発明9ないし11についても同様である。 したがって、本件発明9ないし11は、刊行物1、2及び甲第2、3号証に記載された発明とは認められない。 [本件発明12について] 本件発明9ないし11記載の方法により捺染した捺染物であるから、本件発明9ないし11についての判断と同じ理由が成立する。 したがって、本件発明12は、刊行物1、2及び甲第2、3号証に記載された発明とは認められない。 [まとめ] 本件発明1ないし12は、刊行物1、2及び甲第2、3号証に記載された発明とは認められない。 イ.特許法第29条第2項違反について [本件発明1について] 本件発明1と刊行物1(甲第1号証)に記載された発明とを対比する。 II.3.(5)対比・判断アで述べたとおり、本件発明1は、「繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいる」インクジェット捺染用布帛であるのに対し、刊行物1記載のものは、「布帛に25℃における粘度が1,000cp以上の記録液受容層が形成されている」インクジェット捺染用布帛である点で布帛中の水分の存在形態が相違する。 その相違する点を検討する。 本件発明1の 「繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいる」との構成は、「繊維あるいは繊維間の膨潤状態が最適となり、繊維の絡み合いの状態が絶妙なものとなる」作用を有し「発色性、染着率、定着性、鯵み性及び搬送性等の諸特性が格段に改善できる」等の捺染特性についての効果を奏するものであるに対し、刊行物1に記載の「布帛に25℃における粘度が1,000cp以上の記録液受容層が形成されている」との構成を採用することにより、「インクジェット方式用インクを迅速且つ容易に吸収受容し得る」作用を有し「優れたインク吸収速度を有し、且つインクが滲まず、しかもロール状に巻取ったり、重ね合せてもインクが他に付着しない」等、ロールに巻き取る際の重ね合わせ等の取り扱いに効果を奏するものと認められる(摘示オ参照。)が両者は異なる効果であるから、本件発明1は、上記の構成を採用することにより、刊行物1記載の発明にはない格別の効果を奏するに至ったものと認められる。 そして、その「繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいる」点について、刊行物2ないし4、甲第2ないし3号証、参考資料1には、記載も示唆もない。 したがって、本件発明1は、刊行物1〜4及び甲第2〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 [本件発明2ないし8について] 本件発明2ないし8は、本件発明1に関し、布帛の水分含有量、ポリエステル繊維あるいは糸の平均太さ、水分に添加する任意成分を更に限定するものであるから、本件発明1についての判断と同じ理由が成り立つ。 したがって、本件発明2ないし8は、刊行物1〜4及び甲第2〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 [本件発明9ないし11について] 本件発明9ないし11は、本件発明1ないし8のインクジェット捺染用布帛にインクジェット捺染する方法の発明であるが、捺染用布帛については、本件発明1ないし8についての判断と同じ理由が成り立つので、本件発明9ないし11についても同様である。 したがって、本件発明9ないし11は、刊行物1〜4及び甲第2〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 [本件発明12について] 本件発明9ないし11記載の方法により捺染した捺染物であるから、本件発明9ないし11についての判断と同じ理由が成立する。 したがって、本件発明12は、刊行物1〜4及び甲第2〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 [まとめ] 本件発明1ないし12は、刊行物1、2及び甲第2、3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (6)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.特許異議申立てについての判断 (1)本件発明 上記II.3.(1)に記載のとおりである。 (2)特許異議申立ての理由の概要 上記II.3.(2)に記載のとおりである。 (3)判断 特許異議申立ての理由が採用できないことは、上記II.3.(5)の記載から明らかである。 IV.むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし12に係る特許を取り消すことができない。 また、他に本件発明1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 インクジェット捺染用布帛、それを用いたインクジェット捺染方法及び捺染物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 主としてポリエステル繊維から構成され、該繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいるインクジェット捺染用布帛であって、該布帛の乾燥重量に対する水分含有率が1〜101%であり、且つ上記繊維の平均太さが1〜10dのポリエステル繊維から構成された平均太さ20〜100dのポリエステル糸で構成されていることを特徴とするインクジェット捺染用布帛。 【請求項2】 布帛の水分含有量が1〜81%の範囲にある請求項1に記載のインクジェット捺染用布帛。 【請求項3】 布帛の水分含有量が1〜71%の範囲にある請求項2に記載のインクジェット捺染用布帛。 【請求項4】 ポリエステル繊維の平均太さが1.5〜8dの範囲にある請求項1に記載のインクジェット捺染用布帛。 【請求項5】 ポリエステル繊維の平均太さが2〜7dの範囲にある請求項4に記載のインクジェット捺染用布帛。 【請求項6】 ポリエステル糸の平均太さが25〜80dの範囲にある請求項1に記載のインクジェット捺染用布帛。 【請求項7】 ポリエステル糸の平均太さが30〜75dの範囲にある請求項6に記載のインクジェット捺染用布帛。 【請求項8】 尿素、水溶性金属塩、水溶性高分子の群から選ばれる少なくとも1種の物質が0.01〜20重量%含有されている請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェット捺染用布帛。 【請求項9】 布帛に対しインクをインクジェット方式により付与した後、染着処理を行い、次いで洗浄処理をするインクジェット捺染方法において、前記布帛が請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェット捺染用布帛であることを特徴とするインクジェット捺染方法。 【請求項10】 インクジェット方式が、熱エネルギーを利用したインクジェット方式である請求項9に記載のインクジェット捺染方法。 【請求項11】 インク打込み量が4〜40nl/mm2の範囲にある請求項9又は10に記載のインクジェット捺染方法。 【請求項12】 請求項9〜11のいずれかに記載の方法により捺染した捺染物。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、インクジェット捺染用布帛、それを用いたインクジェット捺染方法及び捺染物に関し、特に、インクジェット方式によりプリント画像を形成するに際し、布搬送性に優れ、高発色で鮮明且つ繊細な図柄を得ることが可能なポリエステル繊維を主体とするインクジェット捺染用布帛、該布帛を用いたインクジェット捺染方法及び該方法により得られる捺染物に関する。 【0002】 【従来の技術】 現在の捺染の主流は、スクリーン捺染、ローラー捺染である。これらの方式はは、いずれも版をおこす必要があり、多品種少量生産には不向きであり、流行への迅速な対応も困難であることから、最近では無製版の電子捺染システムが要望されている。この要望に対してインクジェット記録による捺染方法が数多く提案されており、各方面からの期待も大きくなっている。 ここで用いるインクジェット捺染用布帛としては、 (1)インクを十分な濃度に発色させ得ること、 (2)インクの染着率が高いこと、 (3)インクが布帛上で速やかに乾燥すること、 (4)布帛上での不規則なインクの滲みの発生が少ないこと、 (5)装置内での布帛の搬送性に優れていること、 等の性能が要求される。 【0003】 従来、これらの要求性能を満足させる為には、主として布帛に対し、予め前処理を施しておくことにより対応してきた。 例えば、特開昭62-53492号公報においてはインク受容層を有する布帛類の提案がなされている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、この様な前処理は、上記要求に対して一部的には効果は認められるものの、最終工程後のプリント画像の優劣は、やはり使用する布帛基材の有する基本特性に負うところが多く、満足なものが得られないという問題がある。 又、布帛の搬送性については、前処理によってかえって悪くなる場合もある。とりわけ、主としてポリエステル繊維から構成されているインクジェット捺染用布帛においては、基材の影響が大きい。 以上の様に、従来技術では個々の性能をある程度満足させることが出来る手段は見い出せても、上記に挙げた全ての性能を同時に満足させ、かかる一連の問題を解決した最高級の画像を得ることが出来るインクジェット捺染用布帛及びインクジェット捺染方法は今迄のところ知られていないのが現状である。 【0005】 従って、本発明の目的は、上記の如き従来の一般的なインクジェット捺染用布帛の問題、即ち、インクの滲みがなく鮮明で、且つ、高濃度の染色物を得るという染色技術上の問題、インクの染着率が良好であるというコスト上の問題、インク定着性及び装置内での布搬送性といった操作性の問題等を同時に満足するインクジェット捺染用布帛、それを用いたインクジェット捺染方法及び該方法により得られる捺染物を提供することである。 【0006】 【課題を解決するための手段】 上記の本発明の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、主としてポリエステル繊維から構成され、該繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいるインクジェット捺染用布帛であって、該布帛の乾燥重量に対する水分含有率が1〜101%であり、且つ上記繊維の平均太さが1〜10dのポリエステル繊維から構成された平均太さ20〜100dのポリエステル糸で構成されていることを特徴とするインクジェット捺染用布帛、それを用いたインクジェット捺染方法及び該方法により得られる捺染物である。 【0007】 【作用】 従来の様な捺染糊と比べて、格段に低粘度のインクを用い、このインクのドット表現により画像を形成するインクジェット捺染は、他の捺染方法に比べて布帛の物理的条件に対する制約が極めて多く、主としてポリエステル繊維から構成される布帛の場合、特にその影響が大きい。 本発明者らは主としてポリエステル繊維から構成されているインクジェット捺染用布帛において、前述の如き種々の要求性能を同時に満足させるべく布帛の改良を行った結果、従来行われていた布帛を前処理する等の改良方法以外に、基材の基本的特性である布帛中の水分含有量を一定範囲に制御し、且つポリエステル繊維及びポリエステル糸の平均太さを調整することによって、発色性、染着率、定着性、滲み性及び搬送性等の諸特性が格段に改善できることを知見した。 この現象は、通常状態では到達し得ない特定量の水分を布帛に含有させることにより、繊維あるいは繊維間の膨潤状態が最適となり、従来報告されている様な捺染糊に比して格段に低粘度の各種インクジェット用インクを用いてプリントしても、そのプリント特性を最大限に発揮させることが出来る為と思われる。 更に、布帛中の水分率を制御すると共に、基材の基本的特性である布帛を構成するポリエステル糸の平均太さ及び該ポリエステル糸を構成するポリエステル繊維の平均太さを一定範囲に制御することによって、繊維の絡み合いの状態が絶妙なものとなり、従来報告されている様な捺染糊に比して格段に低粘度の各種インクジェット用インクを用いてプリントしても、そのプリント特性を最大限に発揮させることが出来る為と思われる。 【0008】 【好ましい実施態様】 次に、好ましい実施態様を挙げて本発明を更に詳しく説明する。 本発明のインクジェット捺染用布帛は、主としてポリエステル繊維から構成されている布帛からなり、該布帛の水分率が1〜101%であり、且つ該布帛が平均太さが1〜10d(デニール)のポリエステル繊維から構成された平均太さが20〜100dのポリエステル系繊維で構成されていることを特徴としている。 【0009】 先ず第一に、本発明の布帛は、ポリエステル糸を主として構成されているが、ポリエステルはエステル結合を有する合成繊維であり、ポリエステル糸は、引張強度、摩耗強度及び耐熱性が大きく、天然繊維や再生繊維等と高率混紡しても、着心地がよく混紡性にも優れている。 又、本発明に特に有効であるものは、これらの繊維に限定されるものではないが、エチレングリコールとテレフタル酸、あるいはジメチルテレフタレートの縮重合によって得られるものである。重合物は、溶融紡糸され、加熱延伸後、熱固定される。これらの単繊維は、用途に応じて、何本かを合糸して必要な太さのポリエステル糸が形成されている。 【0010】 本発明の捺染用布帛とは、ポリエステル糸から構成される織布、不織布、編物及び立毛品等を指す。布帛は、勿論ポリエステル繊維100%のものが好適であるが、混紡率30%以上、好ましくは50%以上であれば、ポリエステル繊維と他の素材、例えば、レーヨン、羊毛、綿及びアクリルとの混紡織布或は混紡不織布等も本発明のインクジェット捺染用布帛として使用することが出来る。 【0011】 次に、本発明のインクジェット捺染用布帛を特徴づける布帛中の水分含有量は1〜101%であり、好ましくは1〜81%、より好ましくは、1〜71%の範囲である。水分率が1%未満の場合では、発色性および染着率の点で不都合が生じる。又、水分率が101%を超えて含有されていると、搬送性及び特に滲みの点で問題となり、好ましくない。 【0012】 尚、布帛中の水分含有量の測定方法としては、JIS L 1019に従って測定した。即ち、試料100gを正確に測り取り、105±2℃の乾燥器中に入れ恒量になるまで乾燥し、次式によって求めた。 水分含有量(%)={(W-W’)/W’}×100 (ここでW:乾燥前重量、W’:乾燥後重量である) 又、水溶性高分子等の不揮発性あるいは難揮発性の化合物で前処理した布帛については、水分蒸発による重量低下が終了し、恒量になるまで乾燥した後、水洗処理を行い、再び恒量になるまで乾燥し、繊維部のみの乾燥後重量を測定し、次式によって布帛中の水分率を求めた。 水分率(%)={(W-W’)/W”}×100 (ここでW”:水洗して乾燥後の繊維部重量である。) 【0013】 更に、本発明の捺染用布帛は、繊維自体の特性として、ポリエステル繊維の平均太さが1〜10d、好ましくは、1.5〜8d、更に好ましくは、2〜7dに制御され、該ポリエステル繊維から構成されるポリエステル糸の平均太さが20〜100d、好ましくは、25〜80d、更に好ましくは、30〜75dに制御され、従来の方法により布帛としたものが好ましく用いられる。 ポリエステル繊維及びポリエステル糸の平均太さがこの値よりも細いか或は太いと、ポリエステル繊維の絡み合いが適当でなくなり、インクの染色性、染着率、滲み及び定着性、更に、布帛の装置内での搬送性に劣るものとなる。 【0014】 又、上記の様な本発明のインクジェット捺染用布帛には、必要に応じて従来の前処理方法を併用することが出来る。特に、尿素、水溶性金属塩又は水溶性高分子から選ばれる少なくとも1種の物質を、0.01〜20重量%含有させたものがより好ましい。 【0015】 水溶性高分子の例としては、トウモロコシ、小麦等のデンプン物質、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系物質、アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカスイトビーンガム、トラガントガム、グァーガム、タマリンド種子等の多糖類、ゼラチン、カゼイン等の蛋白質物質、タンニン系物質、リグニン系物質等の天然水溶性高分子が挙げられる。 【0016】 又、合成高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール系化合物、ポリエチレンオキサイド系化合物、アクリル酸系水溶性高分子、無水マレイン酸系水溶性高分子等が挙げられる。これらの中でも多糖類系高分子やセルロース系高分子が好ましい。 水溶性金属塩類としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属のハロゲン化物の様に、典型的なイオン結晶を作るものであって、pH4〜10である化合物が挙げられる。かかる化合物の代表的な例としては、例えば、アルカリ金属では、NaCl・Na2SO4、KCl及びCH3COONa等が挙げられ、又、アルカリ土類金属としては、CaCl2及びMgCl2等が挙げられる。中でもNa、K及びCaの塩類が好ましい。 【0017】 本発明のインクジェット捺染用布帛に対して用いる捺染インクとしては、ポリエステル繊維を染色可能なものであれば、特に制限されるものではないが、染料及び水性液媒体から構成されるインクジェット捺染用インクが好ましく用いられる。 本発明において好ましく使用される染料としては、少なくとも5〜30重量%分散染料が挙げられる。染料は単独でも混合物としても使用することが出来る。 【0018】 これらの染料の使用量としては、一般的にはインク全量に対して合計で2〜25重量%、好ましくは3〜20重量%、より好ましくは3〜15重量%の範囲である。2重量%未満では発色濃度が不十分であり、一方、25重量%を超えるとインクの吐出適性が十分ではなくなる。 【0019】 染料の分散剤としては水溶性樹脂が好適であり、アミンを溶解させた水溶液に可溶で、且つ重量平均分子量が3,000から30,000の範囲のものが好ましい。更に、好ましくは、5,000から15,000の範囲であるものならどの様なものでも使用可能であり、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体、あるいは、これらの塩等が挙げられる。 尚、上記の水溶性樹脂は、記録液全量に対して0.1重量%〜5重量%、好ましくは0.3重量%〜2重量%の範囲で含有されることが好ましい。 【0020】 更に、本発明のインクは、好ましくはインク全体が中性又はアルカリ性に調整されていることが、水溶性樹脂の溶解性を向上させ、一層の長期保存性に優れた記録液とすることができるので望ましい。但し、この場合には、インクジェット記録装置に使われている種々の部材の腐食の原因となる場合があるので、好ましくは7〜10のpH範囲とされるのが望ましい。 またpH調整剤としては、例えば、ジェタノールアミン、トリエタノールアミン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸物等の無機アルカリ剤、有機酸や、鉱酸があげられる。 【0021】 本発明のインクジェット捺染方法に使用されるインクを構成する液媒体の必須成分である水は、インク全量に対して30〜90重量%、好ましくは40〜90重量%、より好ましくは、50〜85重量%の範囲で用いられる。 その他にインクの液媒体として、一般的な有機溶剤も併用することが出来る。例えば、アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類; テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン付加重合体; エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類; 1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類; チオジグリコール; グリセリン; エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類; トリエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル、テトラエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級ジアルキルエーテル類; スルホラン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。 【0022】 上記の様な水溶性有機溶剤の含有量は、一般にはインクの全重量に対して重量%で3〜60%、好ましくは5〜50%の範囲である。 上記の如き液媒体を併用する場合は単独でも混合物としても使用出来るが、最も好ましい液媒体組成は、該溶剤が少なくとも1種の多価アルコールを含有するものである。中でも、チオジグリコール、ジエチレングリコール単独、若しくはジエチレングリコールとチオジグリコールとの混合系が特に良好なものである。 【0023】 又、本発明方法に使用するインク中に、塩素イオン及び/又は硫酸イオンを、インク中に含有される染料に対して、10ppm〜20,000ppm程度添加させること、及び、珪素、鉄、ニッケル及び亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の物質を、インク中に合計で0.1ppm〜30ppm程度添加させることも好ましい態様である。 この結果、この様なインクを使用して本発明のインクジェット用布帛にインクジェット記録を行うと、染着率が高く、滲みがなく鮮明で、且つ高濃度の染色物を得ることが出来る。又、かかるインクを使用すれば、長期間にわたってヘッドノズルにおける目詰り等を発生しない吐出性能の高い印捺を行うことが出来る。 更に、カルシウム及び/又はマグネシウムを0.1〜30ppm、好ましくは0.2〜20ppm、より好ましくは0.3〜10ppmの割合でインク中に含有させることが好ましく、上記の効果が一層安定的に発揮される。 【0024】 本発明のインクジェット捺染方法は、本発明のインクジェット捺染用布帛に対し、上記の如き捺染インクを使用してこれに印捺する方法である。使用するインクジェット記録方式としては、従来公知のいずれのインクジェット記録方式でもよいが、例えば、特開昭54-59936号公報に記載されている方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させる方式が、液滴体積の均一性、吐出速度の2点において、緻密なプリント画像を得る際には、最も有効な方法である。この様な方式において、本発明のインクジェット捺染用布帛に、長時間連続的に記録を行っても、その発熱ヘッドでの異物の沈着や断線が発生せず、安定した印捺が可能である。 又、特に効果の高いプリントが得られる条件としては、吐出液滴が20〜200pl、インク打込量が4〜40nl/mm2の範囲であることが好ましい。 【0025】 本発明のインクジェット捺染用布帛を用いて捺染を行うのに好適な装置の一例として、記録ヘッドの室内のインクに記録信号に対応した熱エネルギーを与え、該熱エネルギーにより液滴を発生させる装置が挙げられる。 その装置の主要部であるヘッド構成例を図1、図2及び図3に示す。 ヘッド13はインクを通す溝14を有するガラス、セラミックス又はプラスチック板等と、感熱記録に用いられる発熱ヘッド15(図ではヘッドが示されているが、これに限定されるものではない)とを接着して得られる。発熱ヘッド15は酸化シリコン等で形成される保護膜16、アルミニウム電極17-1、17-2、ニクロム等で形成される発熱抵抗体層18、蓄熱層19、アルミナ等の放熱性のよい基板20よりなっている。インク21は吐出オリフィス(微細孔)22まで来ており、圧力Pによりメニスカス23を形成している。 【0026】 今、電極17-1、17-2に電気信号が加わると、発熱ヘッド15のnで示される領域が急激に発熱し、ここに接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21が吐出し、オリフィス22より記録小滴24となり、本発明のポリエステル繊維を主体とする布帛25に向かって飛翔する。 図3には図1に示すヘッドを多数並べたマルチヘッドの外観図を示す。該マルチヘッドはマルチ溝26を有するガラス板27と、図1に説明したものと同様な発熱ヘッド28を密着して製作されている。 尚、図1は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図2は図1のA-B線での切断面である。 【0027】 図4に、かかるヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。 図4において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持されて固定端となり、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッドによる記録領域に隣接した位置に配設され、又、本例の場合、記録ヘッドの移動経路中に突出した形態で保持される。62はキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配設され、記録ヘッドの移動方向と垂直な方向に移動して吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に63は、ブレード61に隣接して設けられる吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッドの移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62、吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及び吸収体63によってインク吐出口面に水分、塵挨等の除去が行われる。 【0028】 65は吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向するポリエステル繊維を主体とする布帛にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行う為のキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と慴動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモータ68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。 51は本発明のポリエステル繊維を主体とする布帛を挿入する為の給布部、52は不図示のモータにより駆動される布送りローラである。これらの構成によって記録ヘッドの吐出口面と対向する位置へ本発明の布帛が給布され、記録が進行するにつれて排布ローラ53を配した排布部へ排布される。 【0029】 上記構成において記録ヘッド65が記録終了等でホームポジションに戻る際、ヘッド回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。この結果、記録ヘッド65の吐出口面がワイピングされる。尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出する様に移動する。 記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上述したワイピング時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。 上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録の為に記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。 【0030】 以上の如くして本発明方法により本発明のインクジェット捺染用布帛に付与される捺染インクは、この状態では単に布帛上に付着しているに過ぎないので、引続き繊維への染料の反応定着及び未定着の染料の除去工程を施すのが好ましい。この様な反応定着及び未反応の染料の除去方法は、従来公知の方法でよく、例えば、スチーミング法、HTスチーミング法及びサーモフィックス法等による処理の後に洗浄する、従来公知の方法に準じて行うことが出来る。更に、洗浄の際には、フィックス処理を併用することが好ましい。 【0031】 【実施例】 次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、文中部及び%とあるのは特に断りのない限り重量基準である。 分散染料液(I)の作成 ・スチレン-アクリル酸-アクリル酸ブチル共重合体(酸価116、重量 平均分子量3,700) 2部 ・モノエタノールアミン 1部 ・イオン交換水 73部 ・ジエチレングリコール 5部 上記成分を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を完全に溶解させる。この溶液に新たに分散染料(C.I.ディスパーズプルー187)14部、イソプロピルアルコール5部を加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行った。 ・分散機 サンドグラインダー(五十嵐機械製) ・粉砕メディア ジルコニウムビーズ1mm径 ・粉砕メディアの充填率 50%(体積) ・粉砕時間 3時間 更に、遠心分離処理(12,000RPM、20分間)を行い、粗大粒子を除去して分散染料液(I)を得た。 【0032】 分散染料液(II)の作成 分散染料をC.I.ディスパーズレッド111に変え、分散染料液(I)と同様の処方で分散染料液(II)を得た。 【0033】 分散染料液(III)の作成 ・スチレン-アクリル酸-アクリル酸ブチル共重合体(酸価120、重量 平均分子量6,100) 5部 ・トリエタノールアミン 2部 ・イオン交換水 66部 ・ジエチレングリコール 5部 上記の成分を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を完全に溶解させる。この溶液に新たに、分散染料(C.I.ディスパーズオレンジ55)15部、エタノール7部を加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行った。 ・分散機 パールミル(五十嵐機械製) ・粉砕メディア ガラスビーズ1mm径 ・粉砕メディアの充填率 50%(体積) ・吐出速度 100ml/min 更に、遠心分離処理(12,000RPM、20分間)を行い、粗大粒子を除去して分散染料液(III)を得た。 【0034】 分散染料液(IV)の作成 分散染料をC.I.ディスパーズブルー214に代え、分散染料液(III)と同様の処方で分散染料液(IV)を得た。 【0035】 インク(A)の製造 ・上記分散染料液(I) 40部 ・チオジグリコール 24部 ・ジエチレングリコール 11部 ・塩化カリウム 0.004部 ・硫酸ナトリウム 0.002部 ・メタケイ酸ナトリウム 0.001部 ・塩化鉄 0.0005部 ・イオン交換水 25部 上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8〜10に調整し、インクジェット捺染インク(A)を得た。 【0036】 インク(B)の製造 ・上記分散染料液(I) 45部 ・チオジグリコール 15部 ・ジエチレングリコール 10部 ・テトラエチレングリコールジメチルエーテル 5部 ・塩化カリウム 0.04部 ・硫酸ナトリウム 0.01部 ・メタケイ酸ナトリウム 0.001部 ・塩化鉄 0.0005部 ・塩化ニッケル 0.0002部 ・イオン交換水 25部 上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8〜10に調整し、インクジェット捺染インク(B)を得た。 【0037】 インク(C)の製造 ・上記分散染料液(II) 40部 ・チオジグリコール 23部 ・トリエチレングリコールモノメチルエーテル 6部 ・塩化カリウム 0.05部 ・メタケイ酸ナトリウム 0.001部 ・塩化鉄 0.0005部 ・塩化亜鉛 0.0003部 ・イオン交換水 31部 上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8〜10に調整し、インクジェット捺染インク(C)を得た。 【0038】 インク(D)の製造 ・上記分散染料液(I) 30部 ・上記分散染料液(II) 15部 ・チオジグリコール 23部 ・ジエチレングリコール 5部 ・イソプロピルアルコール 3部 ・硫酸カリウム 0.01部 ・メタケイ酸ナトリウム 0.001部 ・硫酸鉄 0.0005部 ・硫酸ニッケル 0.0003部 ・硫酸亜鉛 0.0003部 ・イオン交換水 24部 上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8〜10に調整し、インクジェット捺染インク(D)を得た。 【0039】 インク(E)の製造 ・上記分散染料液(III) 40部 ・チオジグリコール 16部 ・ジエチレングリコール 17部 ・塩化ナトリウム 0.08部 ・硫酸カリウム 0.01部 ・メタケイ酸ナトリウム 0.0005部 ・硫酸鉄 0.001部 ・塩化ニッケル 0.0003部 ・塩化亜鉛 0.0003部 ・イオン交換水 26.9部 上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8〜10に調整し、インクジェット捺染インク(E)を得た。 【0040】 インク(F)の製造 ・上記分散染料液(III) 40部 ・チオジグリコール 16部 ・ジエチレングリコール 17部 ・塩化ナトリウム 0.08部 ・硫酸カリウム 0.01部 ・メタケイ酸ナトリウム 0.0005部 ・硫酸鉄 0.001部 ・塩化ニッケル 0.0003部 ・塩化亜鉛 0.0003部 ・塩化カルシウム 0.006部 ・イオン交換水 26.9部 上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8〜10に調整し、インクジェット捺染インク(F)を得た。 【0041】 インク(G)の製造 ・上記分散染料液(III) 40部 ・チオジグリコール 16部 ・ジエチレングリコール 17部 ・塩化ナトリウム 0.08部 ・硫酸カリウム 0.01部 ・メタケイ酸ナトリウム 0.0005部 ・硫酸鉄 0.001部 ・塩化ニッケル 0.0003部 ・塩化亜鉛 0.0003部 ・塩化マグネシウム 0.01部 ・イオン交換水 26.9部 上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8〜10に調整し、インクジェット捺染インク(G)を得た。 【0042】 インク(H)の製造 ・上記分散染料液(IV) 45部 ・チオジグリコール 23部 ・ジエチレングリコール 12部 ・塩化カリウム 0.004部 ・硫酸ナトリウム 0.002部 ・メタケイ酸ナトリウム 0.001部 ・塩化鉄 0.0005部 ・イオン交換水 20部 上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8〜10に調整し、インクジェット捺染インク(H)を得た。 【0043】 実施例1 平均太さ2dのポリエステル繊維からなる平均太さ50dのポリエステルフィラメント糸からなるポリエステル100%の織布を、予め濃度15%の尿素の水溶液に浸し、絞り率35%で脱水後乾燥して、水分率が5%になる様にした。 この織布に上記の様にして得られたインクジェット捺染インク(A〜H)をカラーバブルジェットコピアPIXEL PRO(商品名 キヤノン製)に搭載し、2×10cmのベタサンプルをインク打込量16nl/mm2の条件でプリントを行い、120〜130℃で30分間の蒸熱処理による定着を行った。その後、これを中性洗剤で洗浄して、捺染物の鮮明性及び滲み性について評価した。その結果を表1に示す。 【0044】 実施例2 平均太さ3dのポリエステル繊維からなる平均太さ40dのポリエステルフィラメント糸からなるポリエステル50%、アクリル25%及びレーヨン25%とからなる織布を、予め濃度30%の尿素の水溶液に浸し、絞り率30%で脱水後乾燥して、水分率が10%になる様にした。 この織布を用い、実施例1と同様にして処理及びプリントを行い、得られた捺染物の鮮明性及び滲み性について評価した。その結果を表1に示す。 【0045】 実施例3 平均太さ4dのポリエステル繊維からなる平均太さ70dのポリエステルフィラメント糸からなるポリエステル100%の織布を、予め、ポリビニルアルコール3%及び塩化カルシウム5%の水溶液に浸し、絞り率を調整して、水分率が71%になる様にした。 この織布を用い、実施例1と同様にして処理及びプリントを行い、得られた捺染物の鮮明性及び滲み性について評価した。その結果を表1に示す。 【0046】 実施例4 平均太さ5dのポリエステル繊維からなる平均太さ60dのポリエステルフィラメント糸からなるポリエステル100%の織布を、予め濃度10%のアルギン酸ナトリウムの水溶液に浸し、絞り率30%で脱水後乾燥して、水分率が11%になる様にした。 この織布を用い、実施例1と同様にして処理及びプリントを行い、得られた捺染物の鮮明性及び滲み性について評価した。その結果を表1に示す。 【0047】 実施例5 平均太さ2dのポリエステル繊維からなる平均太さ30dのポリエステルフィラメント糸からなる、ポリエステル100%の織布を用い、実施例1と同様にして処理及びプリントを行い、得られた捺染物の鮮明性及び滲み性について評価した。その結果を表1に示す。 【0048】 実施例6 平均太さ2dのポリエステル繊維からなる平均太さ70dのポリエステルフィラメント糸からなる、ポリエステル65%及び綿35%とからなる織布を用い、実施例2と同様にして処理及びプリントを行い、得られた捺染物の鮮明性及び滲み性について評価した。その結果を表1に示す。 【0049】 実施例7 平均太さ5dのポリエステル繊維からなる平均太さ50dのポリエステルフィラメント糸からなる、ポリエステル100%の織布を用い、実施例3と同様にして処理及びプリントを行い、得られた捺染物の鮮明性及び滲み性について評価した。その結果を表1に示す。 【0050】 実施例8 平均太さ3dのポリエステル繊維からなる平均太さ100dのポリエステルフィラメント糸からなる、ポリエステル100%の織布を用い、実施例4と同様にして処理及びプリントを行い、得られた捺染物の鮮明性及び滲み性について評価した。その結果を表1に示す。 【0051】 実施例9 実施例5と同様のポリエステル100%の織布を、予め濃度5%のアルギン酸ナトリウムの水溶液に浸した後、絞り率30%で脱水後乾燥して水分率が20%になる様にした。 この織布を用い、実施例1と同様に処理及びプリントを行い、得られた捺染物の鮮明性及び滲み性について評価した。その結果を表1に示す。 【0052】 比較例1 実施例1で使用したと同様の繊維及び糸の構成であるポリエステル100%の織布を、予め濃度15%の尿素の水溶液に浸し、絞り率30%で脱水後乾燥し、水分率が0.4%の通常の状態になる様に乾燥させた。この織布に、実施例で使用したと同様のインクジェット捺染インク(A〜H)を用い、同様の方法でプリントし、得られた捺染物の鮮明性及び滲み性について評価した。その結果を表1に示す。又、実施例1に比べて各捺染物の濃度が低く、染着率が劣る結果となった。 【0053】 比較例2 実施例1で使用したと同様の繊維及び糸の構成であるポリエステル100%の織布を、予め濃度10%の尿素の水溶液に浸し、絞り率を調整して水分率が102%になる様にし、この織布に実施例で使用したと同様のインクジェット捺染インク(A〜H)を用い、同様の方法でプリントし、得られた捺染物の鮮明性及び滲み性について評価した。その結果を表1に示す。又、搬送性の面では送り精度の点で問題が見られた。 【0054】 比較例3 平均太さ0.5dのポリエステル繊維からなる平均太さ10dのポリエステルフィラメント糸からなるポリエステル100%の織布を、予め濃度15%の尿素の水溶液に浸し、絞り率30%で脱水後乾燥して水分率が5%になる様にした。この織布に実施例で使用したと同様のインクジェット捺染インク(A〜H)を用い、同様の方法でプリントし、得られた捺染物の鮮明性及び滲み性について評価した。 その結果を表1に示す。又、実施例1に比べて各捺染物の濃度が低く、発色性が劣る結果となった。 【0055】 比較例4 平均太さ15dのポリエステル繊維からなる平均太さ150dのポリエステルフィラメント糸からなるポリエステル100%の織布を、予め濃度15%の尿素の水溶液に浸し、絞り率30%で脱水後乾燥して水分率が5%になる様にした。この織布に実施例と同様のインクジェット捺染インク(A〜H)を用い、同様の方法でプリントし、得られた捺染物の鮮明性及び滲み性について評価した。 その結果を表1に示す。又、実施例に比べて各捺染物の濃度が低く、発色性が劣る結果となった。更に、搬送性の面でも送り精度の点で問題が見られた。 【0056】 【表1】 【0057】 【発明の効果】 以上説明した様に、本発明のインクジェット捺染用布帛によれば、滲みがなく鮮明で、且つ、高濃度の染色物を得ることが可能となる。 又、本発明のインクジェット捺染方法は、インクの定着性及び装置内における布帛の搬送性に優れ、効率よく優れた染色物を提供することが出来る。 【図面の簡単な説明】 【図1】 インクジェット記録装置のヘッド部の縦断面図である。 【図2】 インクジェット記録装置のヘッド部の横断面図である。 【図3】 図1に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。 【図4】 インクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。 【符号の説明】 61:ワイピング部材 62:キャップ 63:インク吸収体 64:吐出回復部 65:記録ヘッド 66:キャリッジ |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 ア.訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の記載について、「主としてポリエステル繊維から構成されているインクジェット捺染用布帛において、該布帛の水分含有量が1〜101%であり、」とあるのを「主としてポリエステル繊維から構成され、該繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいるインクジェット捺染用布帛であって、該布帛の乾燥重量に対する水分含有率が1〜101%であり、」と訂正する。 イ.訂正事項b 明細書の発明の詳細な説明の段落番号【0006】の記載について、「主としてポリエステル繊維から構成されているインクジェット捺染用布帛において、該布帛の水分含有量が1〜101%であり、」とあるのを「主としてポリエステル繊維から構成され、該繊維あるいは繊維間が膨潤するように水分を含んでいるインクジェット捺染用布帛であって、該布帛の乾燥重量に対する水分含有率が1〜101%であり、」と訂正する。 |
異議決定日 | 2002-02-18 |
出願番号 | 特願平4-354758 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(D06P)
P 1 651・ 113- YA (D06P) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 藤原 浩子、松本 直子 |
特許庁審判長 |
板橋 一隆 |
特許庁審判官 |
佐藤 修 鈴木 紀子 |
登録日 | 1999-03-05 |
登録番号 | 特許第2895696号(P2895696) |
権利者 | キヤノン株式会社 |
発明の名称 | インクジェット捺染用布帛、それを用いたインクジェット捺染方法及び捺染物 |
代理人 | 吉田 勝廣 |
代理人 | 吉田 勝廣 |