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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1059490
異議申立番号 異議2001-72188  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-03-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-08-10 
確定日 2002-03-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3134052号「食品包装用ポリエステル組成物及びその成形品」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3134052号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 〔1〕手続の経緯
本件特許第3134052号の発明は、平成8年(1996)8月28日に出願され、平成12年11月24日に特許権の設定登録がなされた。
その後、三菱レイヨン株式会社より特許異議の申立がなされ、当審より平成13年11月13日付け取消理由が通知され、その指定期間内に平成14年1月24日付けの訂正請求書および特許異議意見書が提出されている。
〔2〕訂正の適否についての判断
1.訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項a
『【請求項1】テレフタル酸と少なくとも一種の・・・・食品包装用ポリエステル組成物。』を、
『【請求項1】 テレフタル酸と少なくとも一種のアルキレングリコール成分から直接重合法によって製造されるポリエステル組成物において、
アンチモン化合物と、ゲルマニウム化合物と、マグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物と、リン化合物とを含み、
前記各化合物が、下式
0<Sb≦2.0
0<Ge≦1.0
0.1<M≦3.0
0.2≦M/P≦1.0
(上記式中、Sbは、ポリマー106g中に含まれるアンチモン化合物のアンチモン金属元素のモル数、Geは、ポリマー106g中に含まれるゲルマニウム化合物のゲルマニウム金属元素のモル数、Mは、ポリマー106g中に含まれるマグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物の金属元素のモル数、Pは、ポリマー106g中に含まれるリン化合物のリン元素のモル数を示す。)
を満足することを特徴とする食品包装用ポリエステル組成物。』
と訂正する。
(2)訂正事項b
特許明細書の段落「0011」に係る記載、
『 【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、・・・食品包装用ポリエステル組成物を提供するものである。』を、
『 【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、この発明は、テレフタル酸と少なくとも一種のアルキレングリコール成分から直接重合法によって製造されるポリエステル組成物において、アンチモン化合物と、ゲルマニウム化合物と、マグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物と、リン化合物とを含み、前記各化合物が、下式を満足することを特徴とする食品包装用ポリエステル組成物を提供するものである。』
と訂正する。
(3)訂正事項c
特許明細書の段落「0012」に係る記載、
『 【0012】
0<Sb≦2.0
・・・・・・
0.2≦M/P≦1.0
(上記式中、Sbは、・・・・リン元素のモル数を示す。)』
を、
『 【0012】
0<Sb≦2.0
0<Ge≦1.0
0.1<M≦3.0
0.2≦M/P≦1.0
(上記式中、Sbは、ポリマー106g中に含まれるアンチモン化合物のアンチモン金属元素のモル数、Geは、ポリマー106g中に含まれるゲルマニウム化合物のゲルマニウム金属元素のモル数、Mは、ポリマー106g中に含まれるマグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物の金属元素のモル数、Pは、ポリマー106g中に含まれるリン化合物のリン元素のモル数を示す。)』
と訂正する。
(4)訂正事項d
特許明細書の段落「0026」に係る記載、
『 【0026】
(実施例6〜8)
実施例1〜5・・・ポリエステル組成物を製造した。』を、
『 【0026】
(実施例6、7)
実施例1〜5で使用した酢酸マグネシウムを、それぞれ酢酸マンガン、テトラブチルチタネートに変えて表1に示すごとく添加し、実施例1〜5と同様の方法でポリエステル組成物を製造した。』
と訂正する。
(5)訂正事項e
特許明細書の段落「0032」に係る記載、
『 【0032】
そして、実施例1〜8・・・についても併せて表1に示した。』を、
『 【0032】
そして、実施例1〜7及び比較例1〜8のそれぞれについて、発熱結晶化温度(DSC)及びアセトアルデヒド量を、以下に示す測定方法によって測定し、その結果を表1に示すと共に、樹脂コストについても併せて表1に示した。』
と訂正する。
(6)訂正事項f
特許明細書の段落「0036」に係る記載、
『 【0036】
【表1】
・・・・』を、





と訂正する。
(7)訂正事項g
特許明細書の段落「0039」に係る記載、
『 【0039】
表1からわかるように、・・・優れた結果であった。』を、
『 【0039】
表1からわかるように、実施例1〜7は、Tc1、Tc2共に本目的に適応した数値を示し良好な結果であると共に、成形品の低アセトアルデヒド性にも優れた結果であった。』
と訂正する。
2.訂正の適否の判断
訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
そして、(1)訂正事項aは、コバルト化合物を削除する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、
(2)訂正事項b〜(7)訂正事項gは、特許請求の範囲の減縮に伴う特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項〜第4項までの規定に適合するので、当該訂正を適法なものとして認める。
〔4〕特許異議の申立てについての判断
1.本件発明
異議申立の対象となった本件特許第3134052号の請求項1〜3に係る発明は、その後上記訂正請求がなされ、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりである。
「【請求項1】 テレフタル酸と少なくとも一種のアルキレングリコール成分から直接重合法によって製造されるポリエステル組成物において、
アンチモン化合物と、ゲルマニウム化合物と、マグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物と、リン化合物とを含み、
前記各化合物が、下式
0<Sb≦2.0
0<Ge≦1.0
0.1<M≦3.0
0.2≦M/P≦1.0
(上記式中、Sbは、ポリマー106g中に含まれるアンチモン化合物のアンチモン金属元素のモル数、Geは、ポリマー106g中に含まれるゲルマニウム化合物のゲルマニウム金属元素のモル数、Mは、ポリマー106g中に含まれるマグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物の金属元素のモル数、Pは、ポリマー106g中に含まれるリン化合物のリン元素のモル数を示す。)
を満足することを特徴とする食品包装用ポリエステル組成物。
【請求項2】 窒素ガス雰囲気下或いは真空中にて固相重合した、固有粘度が0.5〜1.2である請求項1記載の食品包装用ポリエステル組成物。
【請求項3】 請求項1又は2記載の食品包装用ポリエステル組成物からなる食品包装用成形品。」
2.特許異議申立理由の概要
特許異議申立人三菱レイヨン株式会社は、証拠として平成13年8月10日付け特許異議申立書に添付することにより、下記刊行物1に対応する甲第1号証を提出し、
(i)訂正前の本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定の違反して特許されたものであるから、
本件特許を取り消すべき旨主張する。
3.引用刊行物および証明書の記載事項
当審が取消理由に引用した刊行物1には次の事項が記載されている。
(a)刊行物1(特開平8-198960号公報;甲第1号証)には、
「【請求項1】 生成ポリエステルにた石江、アンチモンとして30〜250ppmのアンチモン化合物およびアンチモン化合物に対して0.05〜1.5倍モルのゲルマニウム化合物を触媒として重縮合する・・とするポリエステル。」(特許請求の範囲)、
「【0016】また、本発明のポリエステル中には、その重合工程においてリン系熱安定剤を添加してもよく、このリン化合物としては、トリメチルホスフェート・・・リン酸エステル類が好ましい。リン化合物の添加量は、生成ポリエステルに対してリン原子として通常5〜150ppm、好ましくは10〜100ppm用いられる。」(段落【0016】)、
「【】また、得られるポリエステルの色調調整のためコバルト化合物を併用することもできる。コバルト化合物としては、酢酸コバルトが好ましく、生成ポリエステルに対して金属として5〜100ppm好ましくは5〜600ppm用いられる。」(段落【0017】)
と記載されている。
4.対比・判断
〔理由1〕〈新規性違反について〉
本件請求項1〜3に係る発明(以下「本件発明1〜3」という。)と、刊行物1記載の発明とを対比するに、
本件発明1は、「テレフタル酸と少なくとも一種のアルキレングリコール成分から直接重合法によって製造されるポリエステル組成物」であるのに対して、刊行物1に記載のものは、特に段落【0008】、段落【0011】の実施例1〜4、比較例1〜4に示されている樹脂を参酌すると、ポリエステルであるから、両者はこの点では一致する。
また、本件発明1は、「アンチモン化合物と、ゲルマニウム化合物と、マグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物と、リン化合物とを含む」というものであるのに対して、刊行物1に記載のものは、「生成ポリエステルに対して、アンチモンとして30〜250PPMのアンチモン化合物およびアンチモン化合物に対して、0.05〜1.5倍モルのゲルマニウム化合物を触媒として重縮合する」(請求項1)というものであり、またその際に、「その重合工程にリン系安定剤を添加することもできる」(段落【0016】)というものであり、「リン原子として5〜150ppm」程度を用いるものである。
そして、刊行物1には、「色調調整にためコバルト化合物を5〜100ppm併用する」(段落【0017】)ことが記載されている。
しかしながら、本件発明1で限定するMにはコバルト化合物が含まれていないから、刊行物1には、本件発明1で定義する、
0.2≦M/P≦1.0
(但し、Mは、マグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物の金属元素のモル数)の条件を満たすものが記載されていないということになる。
そうすると、本件発明1は、刊行物1に記載された発明ではない。
本件発明2は、「窒素ガス雰囲気下或いは真空中にて固相重合した、固有粘度が0.5〜1.2」である食品包装用ポリエステル組成物を、本件発明3は、「食品包装用成形品」にかかる発明であるが、これらのいずれも請求項1、又は請求項1、2を引用していることからすると、本件発明1の検討において指摘した、それと同じ理由により刊行物1に記載された発明ではない。
したがって、本件発明1〜3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではない。
5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の理由及び証拠によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリエステル組成物及びその成形品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 テレフタル酸と少なくとも一種のアルキレングリコール成分から直接重合法によって製造されるポリエステル組成物において、
アンチモン化合物と、
ゲルマニウム化合物と、
マグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物と、
リン化合物とを含み、
前記各化合物が、下式
0<Sb≦2.0
0<Ge≦1.0
0.1<M≦3.0
0.2≦M/P≦1.0
(上記式中、Sbは、ポリマー106g中に含まれるアンチモン化合物のアンチモン金属元素のモル数、Geは、ポリマー106g中に含まれるゲルマニウム化合物のゲルマニウム金属元素のモル数、Mは、ポリマー106g中に含まれるマグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物の金属元素のモル数、Pは、ポリマー106g中に含まれるリン化合物のリン元素のモル数を示す。)
を満足することを特徴とする食品包装用ポリエステル組成物。
【請求項2】 窒素ガス雰囲気下或いは真空中にて固相重合した、固有粘度が0.5〜1.2である請求項1記載の食品包装用ポリエステル組成物。
【請求項3】 請求項1又は2記載の食品包装用ポリエステル組成物からなる食品包装用成形品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば、ボトル、フィルム、シートといった食品包装材料の製造に適したポリエステル組成物、特に、優れた透明感が得られると共に加熱結晶化、ヒートセットといった耐熱処理に要する時間を短くすることのできる、耐熱性食品包装材の製造に適したポリエステル組成物に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは、ジュース、ミネラルウォーター、ウーロン茶等の清涼飲料用或いは清酒、ワイン、食用油用のボトルとして幅広く使用されているが、こうした食品用ボトルでは、ガラス状の透明感が品質上必要不可欠であり、この透明感を得るためには、プリフォームとして非晶状態のものを得ることが決め手となる。
【0003】
また、ミネラルウォーターやウーロン茶等のボトルのように、80℃以上に高温殺菌された状態で内容物が充填される食品用ボトルでは、上述した透明感に加えて耐熱性が要求されており、口部の加熱結晶化や胴部のヒートセットによってボトルの耐熱性を向上させている。
【0004】
以上のように、耐熱ボトルの製造に使用されるポリエステルには、外観の透明性を得るには低結晶特性が必要となりかつ、耐熱特性には高結晶特性が生産上有利となりそれぞれ相反する特性が要求される。
【0005】
ところで、ポリエステルの製造には、現在ゲルマニウム化合物或いはアンチモン化合物が重合触媒として用いられている。
【0006】
重合触媒としてゲルマニウム化合物を用いて得られたポリエステルは結晶性が低く、ボトルの透明感を得るのに有利になるが、逆に結晶化速度が遅いことから口部の加熱結晶化或いは胴部ヒートセット等の耐熱処理工程が非常に律速となり、耐熱ボトルの生産性が悪いといった問題点がある。
【0007】
このため、再生品を数%以上混合することによって結晶化速度を大きくすることも考えられるが、このようにして得られた成形品は、粘度が低くなるため成形品の強度不足を生じると共に、成形品中のアセトアルデヒド含有量が大きくなって内容物の風味に支障をきたす等の欠点がある。さらに、ゲルマニウム化合物は高価であることから、得られたポリエステルの価格が高くなるといった問題もある。
【0008】
一方、アンチモン化合物は廉価であるため、アンチモン化合物を重合触媒として用いたポリエステルはコストメリットが大きいものの、ポリマー中に金属残渣が残るため、得られたポリエステルの結晶化が進み透明感が得られず、成形品の外観に支障をきたすといった問題がある。
【0009】
このようなポリエステルの重合触媒によりおこる様々な問題に対し、特開昭58-47023号公報においてゲルマニウム触媒とアンチモン触媒を混合添加することによりポリエステルの結晶化を抑制するということが示されているが、この方法の場合もアンチモン金属残渣の発生は抑えられず、十分な透明感を得るに至っていない。
【0010】
そこで、この発明の課題は、低コストで、優れた透明感が得られると共に加熱結晶化速度を大きくすることで生産効率を高めることのできる、耐熱性食品包装材の製造に適したポリエステル組成物及びその成形品を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、この発明は、テレフタル酸と少なくとも一種のアルキレングリコール成分から直接重合法によって製造されるポリエステル組成物において、アンチモン化合物と、ゲルマニウム化合物と、マグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物と、リン化合物とを含み、前記各化合物が、下式を満足することを特徴とする食品包装用ポリエステル組成物を提供するものである。
【0012】
0<Sb≦2.0
0<Ge≦1.0
0.1<M≦3.0
0.2≦M/P≦1.0
(上記式中、Sbは、ポリマー106g中に含まれるアンチモン化合物のアンチモン金属元素のモル数、Geは、ポリマー106g中に含まれるゲルマニウム化合物のゲルマニウム金属元素のモル数、Mは、ポリマー106g中に含まれるマグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物の金属元素のモル数、Pは、ポリマー106g中に含まれるリン化合物のリン元素のモル数を示す。)
【0013】
このポリエステル組成物は、上述したように、テレフタル酸と少なくとも一種のアルキレングリコール成分から直接重合法によって製造されるが、エステル化反応、重縮合反応等の条件は公知の条件を採用することができる。
【0014】
また、このポリエステル組成物を製造するに際して、前記アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、マグネシウム化合物等の金属化合物、リン化合物を添加する時期は、特に限定されないが、重縮合反応前の任意の時点にこれらの化合物を添加することが好ましい。
【0015】
本発明において用いられる酸成分として、テレフタル酸を単独で使用してもよいが、ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、アントラセンジカルボン酸等の2種類以上をテレフタル酸と併用することもできる。
【0016】
また、本発明において用いられるグリコール成分としては、エチレングリコールの他にジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2種類以上を併用してもよい。
【0017】
また、本発明で用いられるゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウム、塩化ゲルマニウム、亜リン酸ゲルマニウム等が挙げられ、ゲルマニウム化合物のポリマー中の含有量は、ポリマー106g中に含まれるゲルマニウム化合物のゲルマニウム元素分が1.0モル以下であることが望ましく、好ましくは0.8モル〜0.05モル、更に好ましくは0.6モル〜0.05モルである。なお、ポリマー106g中に含まれるゲルマニウム化合物が、ゲルマニウム元素分で1.0モルを超えると、成形品再加熱時の結晶化速度が遅く、また得られる樹脂のコストも高くなる。
【0018】
また、本発明で用いられるアンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、五酸化アンチモン等が挙げられ、アンチモン化合物のポリマー中の含有量は、ポリマー106g中に含まれるアンチモン化合物のアンチモン元素分が2.0モル以下であることが望ましく、好ましくは1.5モル〜0.05モル、更に好ましくは1.0モル〜0.05モルである。なお、ポリマー106g中に含まれるアンチモン化合物が、アンチモン元素分で2.0モルを超えると、得られたポリマー中に金属残渣が残り、樹脂の結晶性を促進するため、透明なボトルや成形品が得られなくなる。
【0019】
また、本発明で用いられるマグネシウム化合物・マンガン化合物・コバルト化合物・チタン化合物等の金属化合物は、その酸化物、塩化物、炭酸塩、カルボン酸塩、酢酸塩等であり、特に限定されない。そして、これらの金属化合物のポリマー中の含有量は、得られたポリマー106g中に含まれる金属化合物の金属元素分で0.1〜3.0モルの範囲が望ましく、好ましくは0.2〜2.0モル、更に好ましくは0.3〜1.5モルの範囲である。なお、ポリマー106g中に含まれる金属化合物が0.1モル以下であると、得られたポリマー中に金属残渣が残り結晶性が大きくなる。また3.0モルを超えるとポリマーの黄変や耐熱性不良をおこすおそれがある。
【0020】
また、本発明で用いられるリン化合物としては、トリメチルリン酸、トリエチルリン酸、トリフェニルリン酸、リン酸等が挙げられ、このリン化合物のポリマー中の含有量は、得られたポリマー106g中に含まれる前記金属化合物とリン化合物との金属モル比M/Pが0.2〜1.0であることが望ましく、好ましくは0.3〜0.8、更に好ましくは0.35〜0.7の範囲である。なお、この金属モル比M/Pが0.2より小さい場合は、得られたポリマー中に微粒子が生成し、樹脂の白濁をおこすおそれがある。また、この金属モル比M/Pが1.0を超えた場合は、成形品のアセトアルデヒド含有量が高くなり、内容物の風味を損ねるおそれがある。
【0021】
なお、このポリエステル組成物を製造するに際し、通常用いられる各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、滑剤等を添加することは、何ら差し支えない。
【0022】
また、このポリエステル組成物を窒素ガス雰囲気下または真空中にて固相重合し、フェノール:テトラクロロエタン=6:4の粘度溶剤で20℃で測定して求めた固有粘度が0.5〜1.2のものが、食品用ボトル等の耐熱性食品包装材料として望ましい。
【0023】
このポリエステル組成物は、例えば、延伸ブロー成形法等によって作られる食品用ボトルのような食品包装用の成形品の材料として使用することができ、特に、口部の加熱結晶化や胴部のヒートセット等の耐熱処理が施される耐熱ボトルの材料として適している。
【0024】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1〜5)
テレフタル酸100部とエチレングリコール49.7部を常法によりエステル化反応させた後、二酸化ゲルマニウム、三酸化アンチモン、酢酸マグネシウム、及びトリメチルリン酸を、表1のごとく添加し、常法により重縮合反応させて固有粘度0.55のポリエステル組成物を得た。その後、常法により固相重合し、固有粘度0.75のポリエステル組成物を得た。
【0026】
(実施例6,7)
実施例1〜5で使用した酢酸マグネシウムを、それぞれ酢酸マンガン、テトラブチルチタネートに変えて表1に示すごとく添加し、実施例1〜5と同様の方法でポリエステル組成物を製造した。
【0027】
(比較例1〜4)
二酸化ゲルマニウム、三酸化アンチモン、酢酸マグネシウム及びトリメチルリン酸を、表1のごとく添加し、実施例1〜5と同様の方法でポリエステル組成物を製造した。
【0028】
(比較例5)
二酸化ゲルマニウム及びトリメチルリン酸のみを表1のごとく添加し、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を製造した。
【0029】
(比較例6)
酢酸マグネシウムを添加せずに、二酸化ゲルマニウム、三酸化アンチモン及びトリメチルリン酸を、表1のごとく添加し、実施例1〜5と同様の方法でポリエステル組成物を製造した。
【0030】
(比較例7)
三酸化アンチモン及びトリメチルリン酸のみを、表1のごとく添加し、実施例1〜5と同様の方法でポリエステル組成物を製造した。
【0031】
(比較例8)
比較例7に更に酢酸マグネシウムを表1のごとく添加し、実施例1〜5と同様の方法でポリエステル組成物を製造した。
【0032】
そして、実施例1〜7及び比較例1〜8のそれぞれについて、発熱結晶化温度(DSC)及びアセトアルデヒド量を、以下に示す測定方法によって測定し、その結果を表1に示すと共に、樹脂コストについても併せて表1に示した。
【0033】
(DSC測定法)
プリフォーム成形品(非晶成形品)を測定サンプルとし、示差熱分析測定(PERKIN-ELMER社DSC7RS)にて50℃から300℃まで10℃/minにて昇温した際の発熱結晶化温度をTc1、溶融状態にあるポリエステルを300℃から再度50℃まで10℃/minにて降温した際の発熱結晶化温度をTc2とした。
【0034】
(アセトアルデヒド測定方法)
(1)試料作成
試料2gを液体窒素を満たしたフリーザーミルにセットして粉砕し、その粉砕試料を試料ビンに入れ密栓後冷凍庫に保存する。
【0035】
(2)ガスクロマトグラフィー分析
ガラスウールを詰めたガラスインサートに試料20mgを入れ精秤する。そして、ガスクロマトグラフィーインジェクションポートにガラスインサートを挿入して5分間保持した後、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製)にてアセトアルデヒド量を測定した。
【0036】
【表1】

【0037】
Tc1は、非晶成形品を昇温したときに結晶化する温度であり、例えば、耐熱ボトルのような成形品の口部の加熱結晶化や胴部のヒートセットに関連し、この値が小さい程その結晶化速度が大きくなって耐熱処理に要する時間が短くなる。一方、Tc2は、溶融状態から冷却し固化する際の結晶化温度であり、例えば、ボトルを形成する際のプリフォームの透明性に関連し、この値が小さい程プリフォーム形成時の結晶化速度が小さくなって成形品の透明感が得られる。
【0038】
従って、本目的である耐熱性食品包装材料に適応する特性としては、Tc1が137℃〜146℃、Tc2が176℃以下であることが望ましく、また、プリフォーム中のアセトアルデヒド量が10ppm以下でありかつ、樹脂コストが安価であることが望ましい。
【0039】
表1からわかるように、実施例1〜7は、Tc1、Tc2共に本目的に適応した数値を示し良好な結果であると共に、成形品の低アセトアルデヒド性にも優れた結果であった。
【0040】
一方、比較例1ではTc1値が高く耐熱ボトル等の生産律速のおそれがあるのみでなく、樹脂のコストも高くメリットは小さい。また、比較例2、3では成型品のアセトアルデヒド量が高く、飲料用ボトル等には不適切である。また、比較例4に関しては、樹脂が白濁し、不良であった。
【0041】
また、比較例5では、Tc1が高く、耐熱処理工程に支障をきたすと共に樹脂コストも高くなった。比較例6では、Tc1は低いが、Tc2は高くなって透明性の点で問題があり、ボトル用途には不適切であった。比較例7では、Tc1は極めて低いが、Tc2は極めて高くなり、比較例6のものと同様に、ボトル用途には適さなかった。比較例8では、比較例7と同様に、Tc1が極めて低くボトル白化を引き起こすレベルであり、本目的に適さなかった。
【0042】
通常のポリエステル組成物では、Tc1が低ければTc2が高く、逆にTc1が高ければTc2が低いといった具合に、それぞれの昇温・降温時の結晶化速度は関連性を持っているが、本発明品は、この関連性を崩すことによって、プリフォーム形成時の透明性に優れ、しかも口部や胴部のヒートセット時の結晶化速度を大きくするという、ボトル形成での優位性を持たせることができる。
【0043】
さらに、添加する各種化合物の比率を変えることによって、Tc1、Tc2値をコントロールすることができ、例えば、食品用ボトルについていえば、プリフォームの透明性を十分なレベルに保ちながら、口部の結晶化速度をその目的に応じて大きくしたり、小さくしたりすることもできる。
【0044】
【発明の効果】
以上のように、この発明のポリエステル組成物は、高価なゲルマニウム化合物の使用量を最小限に抑えており、しかも透明性に優れていると共に耐熱処理として行われる再加熱時の結晶化速度が速いため、コスト、品質及び生産性の面において、耐熱性食品包装材料として極めて有利な特性を有している。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項a
『【請求項1】テレフタル酸と少なくとも一種の・・・・食品包装用ポリエステル組成物。』を、
『【請求項1】 テレフタル酸と少なくとも一種のアルキレングリコール成分から直接重合法によって製造されるポリエステル組成物において、
アンチモン化合物と、ゲルマニウム化合物と、マグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物と、リン化合物とを含み、
前記各化合物が、下式
0<Sb≦2.0
0<Ge≦1.0
0.1<M≦3.0
0.2≦M/P≦1.0
(上記式中、Sbは、ポリマー106g中に含まれるアンチモン化合物のアンチモン金属元素のモル数、Geは、ポリマー106g中に含まれるゲルマニウム化合物のゲルマニウム金属元素のモル数、Mは、ポリマー106g中に含まれるマグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物の金属元素のモル数、Pは、ポリマー106g中に含まれるリン化合物のリン元素のモル数を示す。)
を満足することを特徴とする食品包装用ポリエステル組成物。』
と訂正する。
(2)訂正事項b
特許明細書の段落「0011」に係る記載、
『 【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、・・・食品包装用ポリエステル組成物を提供するものである。』を、
『 【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、この発明は、テレフタル酸と少なくとも一種のアルキレングリコール成分から直接重合法によって製造されるポリエステル組成物において、アンチモン化合物と、ゲルマニウム化合物と、マグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物と、リン化合物とを含み、前記各化合物が、下式を満足することを特徴とする食品包装用ポリエステル組成物を提供するものである。』
と訂正する。
(3)訂正事項c
特許明細書の段落「0012」に係る記載、
『 【0012】
0<Sb≦2.0
・・・・・・
0.2≦M/P≦1.0
(上記式中、Sbは、・・・・リン元素のモル数を示す。)』
を、
『 【0012】
0<Sb≦2.0
0<Ge≦1.0
0.1<M≦3.0
0.2≦M/P≦1.0
(上記式中、Sbは、ポリマー106g中に含まれるアンチモン化合物のアンチモン金属元素のモル数、Geは、ポリマー106g中に含まれるゲルマニウム化合物のゲルマニウム金属元素のモル数、Mは、ポリマー106g中に含まれるマグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物のうち少なくとも1種類以上の金属化合物の金属元素のモル数、Pは、ポリマー106g中に含まれるリン化合物のリン元素のモル数を示す。)』
と訂正する。
(4)訂正事項d
特許明細書の段落「0026」に係る記載、
『 【0026】
(実施例6〜8)
実施例1〜5・・・ポリエステル組成物を製造した。』を、
『 【0026】
(実施例6、7)
実施例1〜5で使用した酢酸マグネシウムを、それぞれ酢酸マンガン、テトラブチルチタネートに変えて表1に示すごとく添加し、実施例1〜5と同様の方法でポリエステル組成物を製造した。』
と訂正する。
(5)訂正事項e
特許明細書の段落「0032」に係る記載、
『 【0032】
そして、実施例1〜8・・・についても併せて表1に示した。』を、
『 【0032】
そして、実施例1〜7及び比較例1〜8のそれぞれについて、発熱結晶化温度(DSC)及びアセトアルデヒド量を、以下に示す測定方法によって測定し、その結果を表1に示すと共に、樹脂コストについても併せて表1に示した。』
と訂正する。
(6)訂正事項f
特許明細書の段落「0036」に係る記載、
『 【0036】
【表1】
・・・・』を、
『 【0036】
【表1】


と訂正する。
(7)訂正事項g
特許明細書の段落「0039」に係る記載、
『 【0039】
表1からわかるように、・・・優れた結果であった。』を、
『 【0039】
表1からわかるように、実施例1〜7は、Tc1、Tc2共に本目的に適応した数値を示し良好な結果であると共に、成形品の低アセトアルデヒド性にも優れた結果であった。』
と訂正する。
異議決定日 2002-02-25 
出願番号 特願平8-268039
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 谷口 浩行
特許庁審判官 柿沢 紀世雄
佐野 整博
登録日 2000-11-24 
登録番号 特許第3134052号(P3134052)
権利者 カネボウ株式会社
発明の名称 食品包装用ポリエステル組成物及びその成形品  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村上 智司  
代理人 村上 智司  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  

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