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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01F
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H01F
管理番号 1059498
異議申立番号 異議2001-71060  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-04-06 
確定日 2002-04-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3097701号「プラスチック磁石素材およびその製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3097701号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3097701号の請求項1ないし4に係る発明の手続きの経緯は、以下のとおりである。
出願 平成3年5月14日
設定登録 平成12年8月11日
特許異議の申立て 平成13年4月6日
(押谷泰紀)
取消理由通知 平成13年8月9日
意見書、訂正請求書 平成13年10月17日

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている、平成13年10月17日付け訂正請求書に添付された訂正明細書における訂正の内容は以下のとおりである。
訂正事項a.特許請求の範囲の請求項1を次のとおり訂正する。
「【請求項1】希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とのプレス成形-加熱硬化体であって、そのプレス成形時に生じた前記磁性粉末の破断面に、加熱硬化時に酸化膜を形成したことを特徴とするプラスチック磁石素材。」
訂正事項b.特許請求の範囲の請求項2を削除する。
訂正事項c.特許請求の範囲の請求項3を次のとおり訂正し、項番号を繰り上げて請求項2とする。
「【請求項2】希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とを溶剤を加えて混合した後、これを8〜10トン/cm2の圧力で所定形状にプレス成形してなるプレス成形体を、酸素5〜90%の雰囲気の下で150℃〜200℃に加熱して10分間以上保持することにより、プレス成形時に磁性粉末に生じた破断面を酸化させて酸化膜を形成することを特徴とするプラスチック磁石素材の製造方法。」
訂正事項d.特許請求の範囲の請求項4を削除する。
訂正事項e.明細書中の【0008】段落を次の通り訂正する。
「【0008】
【課題を解決するための手段】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係るプラスチック磁石素材は、希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とのプレス成形-加熱硬化体であって、そのプレス成形時に生じた前記磁性粉末の破断面に、加熱硬化時に酸化膜を形成したことを特徴とする。
訂正事項f.明細書中の【0009】段落を次の通り訂正する。
「【0009】
また同じく前記課題を克服し、所期の目的を達成するため本願の別の発明に係るプラスチック磁石素材の製造方法は、希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とを溶剤を加えて混合した後、これを8〜10トン/cm2の圧力で所定形状にプレス成形してなるプレス成形体を、酸素5〜90%の雰囲気の下で150℃〜200℃に加熱して10分間以上保持することにより、プレス成形時に磁性粉末に生じた破断面を酸化させて酸化膜を形成させることを特徴とする。」
訂正事項g.明細書中の【0014】段落を次の通り訂正する。
「【0014】
このように、実施例に係るプラスチック磁石素材を磁化することによりプラスチック磁石とすれば、高温の条件下で使用しても膨れに伴なう変形を来すことがなくて好適である。」
訂正事項h.【図面の簡単な説明】において、「【図2】本発明の好適な実施例に係るプラスチック磁石素材と、従来のプラスチック磁石素材とにつき耐熱膨れ試験を行なった場合に、各試験片の希土類元素を含む磁性粉末に形成される酸化膜を含む酸素含有量との関係をプロットした曲線図である。
【図3】本発明の好適な実施例に係るプラスチック磁石素材と、従来のプラスチック磁石素材とにつき耐熱膨れ試験を行なった場合に、各試験片における全体の酸素含有量との関係をプロットした曲線図である。」を削除する。
訂正事項i.【図2】及び【図3】を削除する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
ア.訂正事項aについて
訂正後の請求項1は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明において、対象である「プラスチック磁石素材」が、単なる「プレス成形体」ではなく、加熱により樹脂が硬化したものであることを明示すべく「プレス成形-加熱硬化体」と表現したこと、どの時点に先立つものであるか不明りょうな表現であった「予め」が、「加熱硬化時」を意味することを明らかにしたこと、および、同じ操作を異なる語で表現していた「プレス成形」「圧縮成形」を、前者に統一したことからなる。
上記「プレス成形-加熱硬化体」と表現したことは、特許明細書の請求項3に規定するプラスチック磁石素材の製造方法において、熱硬化性樹脂を加熱することを記載しており、また実施例において、例えば【0011】段落に「プレス成形により破断面を生じた希土類元素を含む磁性粉末を含む混合物を加熱して、前記熱硬化性樹脂による硬化処理を施すに際し、」とあることに根拠を持つ。また、「予め」が、「加熱硬化時」を意味することは、【0011】段落の「これを酸素雰囲気の下で行ない、これにより前記破断面に予め酸化膜を形成するようになっている。」との記載から明らかである。また、「圧縮成形」を「プレス成形」とすることは、一般的な技術用語の常識に基づいて、当業者に自明の事項である。
したがって、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明に該当するものである。
イ.訂正事項bについて
訂正事項bについては、特許請求の範囲の請求項2を削除するものである。
したがって、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
ウ.訂正事項cについて
訂正後の請求項2は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載された発明において、プレス成形を、「8〜10トン/cm2の圧力で」行うことと、酸化膜の形成が「プレス成形時に磁性粉末に生じた破断面を酸化させて」行われることを明記したものである。
プレス成形を、「8〜10トン/cm2の圧力で」行うことは、【0003】段落、及び【0005】段落に、プレス成形圧力として数値が挙げてあり、実施例について述べた【0010】段落の「・・・プレス成形を行なうまでは、先に述べたところと同一である。」という記載が、その根拠である。また、酸化膜の形成が「プレス成形時に磁性粉末に生じた破断面を酸化させて」行われることは、例えば【0011】段落に「プレス成形により破断面を生じた希土類元素を含む磁性粉末を含む混合物を加熱して、前記熱硬化性樹脂による硬化処理を施すに際し、これを酸素雰囲気の下で行ない、これにより前記破断面に予め酸化膜を形成する」とあることに根拠を持つ。
また、請求項3を請求項2に繰り上げることは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
したがって、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明に該当するものである。
エ.訂正事項dについて
訂正事項dについては、特許請求の範囲の請求項4を削除するものである。
したがって、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
オ.訂正事項e、fについて
訂正事項e、fについては、発明の詳細な説明において、特許請求の範囲の訂正と整合性を持たせて明りょうにするためのものであり、特許請求の範囲における訂正と同様の訂正を行っている。
カ.訂正事項gについて
訂正事項gについては、【図2】及び【図3】の削除に伴う、発明の詳細な説明中の、これらの図を参照する説明を削除して、発明の詳細な説明と図面との整合性をはかるため訂正である。
キ.訂正事項hについて
訂正事項hについては、【図2】及び【図3】の削除に伴う、図面の簡単な説明の該当する部分を削除して、図面と、図面の簡単な説明との整合をはかるための訂正である。
ク.訂正事項iについて
訂正事項iについては、【図2】及び【図3】に示した酸素含有量の測定方法が、発明の詳細な説明に明記されていないので、削除により対応し、発明の詳細な説明と図面との整合性をはかるための訂正である。
以上のア.〜ク.をまとめると、上記訂正事項a、cは、特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、上記訂正事項b、dは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、上記訂正事項e〜iは、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書又は図面の訂正に該当するものである。
そして、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)申立の理由及び取消理由通知の概要
ア.申立の理由の概要
特許異議申立人は、証拠として本件出願前国内において頒布された甲第1号証(特開平2-254701号公報)、甲第2号証(特開昭63-24607号公報)を提出し、本件請求項1,2に係る各発明は、本件出願前国内において頒布された甲第1号証に実質的に記載されているので、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、又は少なくとも同法第29条第2項の規定に該当するものである。また、本件請求項3,4に係る各発明は、甲第1,2号証に基づいて当業者であれば容易に想到することができた程度のものであるので、特許法第29条第2項の規定に該当する。
したがって、本件請求項1〜4に係る各発明は、特許を受けることができないものである。さらに、本件特許は、特許法第36条第4項,5項の規定により取り消すべきものと確信する。
よって、本件特許は、特許法第113条第2号及び同条第4号の規定により取り消すべきものと確信する旨主張している。
イ.取消理由通知の概要
当審で通知した取消理由の概要は、以下の通りである。
1)特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項違反について
刊行物1.特開平2-254701号公報(申立人の提出した甲第1号証)
刊行物2.特開昭63-24607号公報(申立人の提出した甲第2号証)
本件の請求項1ないし4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりである。
そして、本件請求項3に係る発明は、上記刊行物1の実施例2に実質的に記載されていることにより、本件請求項3に係る発明は、その出願前に国内において頒布された上記刊行物1に記載された発明と同一であり、また、本件請求項1及び2に係る発明は、上記刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項3及び4に係る発明は、その出願前に国内において頒布された上記刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件請求項3に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、また、本件請求項1ないし4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項に違反してなされたものである。
2)明細書記載不備について
本件は、請求項1に、「予め酸化膜が形成されている」と記載されているが、「予め」は、どの時点に対して「予め」か、明りょうでない点、請求項2に、「熱硬化性樹脂の酸素含有量は、1.0重量%以下」であることが記載されているが、発明の詳細な説明の欄を参照しても、熱硬化性樹脂についての説明がなく、酸素含有量が1.0重量%以下の熱硬化性樹脂の外延が不明りょうである点で、本件請求項1、2の記載、及び、本件請求項1、2に関する発明の詳細な説明及び図面の記載が、不備である。
よって、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
(2)本件請求項1ないし2に係る発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件請求項1ないし2に係る発明は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とのプレス成形-加熱硬化体であって、そのプレス成形時に生じた前記磁性粉末の破断面に、加熱硬化時に酸化膜を形成したことを特徴とするプラスチック磁石素材。」
「【請求項2】希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とを溶剤を加えて混合した後、これを8〜10トン/cm2の圧力で所定形状にプレス成形してなるプレス成形体を、酸素5〜90%の雰囲気の下で150℃〜200℃に加熱して10分間以上保持することにより、プレス成形時に磁性粉末に生じた破断面を酸化させて酸化膜を形成することを特徴とするプラスチック磁石素材の製造方法。」
(3)引用刊行物に記載された発明
当審で通知した取消理由で引用した刊行物1(特開平2-254701号公報(申立人の提出した甲第1号証))には、「(1)磁石粉末と樹脂からなる樹脂結合型磁石において、結合材の樹脂として、フェノール系、不飽和ポリエステル系、メラミン系、エポキシ系等の熱硬化性樹脂を用いることを特徴とする希土類磁石。
(2)上記の磁性粉末の基本組成が希土類元素(Yを含む)とFeを主体とする遷移金属(IIb属を含む)、及びB元素であることを特徴とする請求項1記載の希土類磁石。」(第1頁特許請求の範囲)であり、「従来、希土類樹脂結合磁石の製造方法としては以下の方法が挙げられる。
(1)圧縮成形
(2)射出成形
(3)押出成形
このうち、熱硬化性樹脂を一般的に使用しようとしているのは圧縮成形のみである。
」(第1頁右下欄第5〜11行)こと、「しかし、前述の従来技術では下記のような問題点を有する
磁性粉末、特にR-Fe-B系は非常に酸化されやすく、この酸化による磁気性能の劣化が成形中におこりうる。
圧縮成形の場合、樹脂を硬化させる際に磁性粉末の酸化がおこりうる。」(第2頁左上欄第2〜8行)こと、「(実施例2)
第一表に組成式を示された磁性粉末と第二表に示された樹脂Dを磁性粉末98wt%、樹脂2wt%となるように秤量し、両者を混ぜ、混練機で混練する。混練後、成形圧力7ton/cm2でブロック状磁石を加圧成形したのちに樹脂を加熱硬化させた。このときの硬化温度を変えたときの磁石の磁気性能に与える影響を第五表に示す。なお、この時の硬化時間はすべて1時間であった。
(第五表省略)
硬化温度が200℃以下の時は磁気性能には大きな影響は見られない。しかし、硬化温度が200℃を越えると磁気性能が劣化する。これは温度が200℃を越えたところでは、硬化中に磁性粉末が酸化されたためである。したがって、圧縮成形においても200℃以下で成形することが望ましい。」(第3頁左下欄下から6行目〜同頁右下欄下から2行目)ことが、第一表、第二表、第五表と共に記載されている。
同刊行物2(特開昭63-24607号公報(申立人の提出した甲第2号証))には、「希土類ボンド磁石」(発明の名称)に関し、「この発明の磁石において、有機バインダの配合割合を1〜5%と限定したのは、その割合が1%未満では、十分な機械的強度を確保することができないばかりでなく、磁石成形時の抱き込み空気によつて磁性粉末の酸化が著しく促進されるようにな」る(第2頁左下欄第15〜20行)こと、「この発明の磁石は、ボールミルやアトライタミルなどで所定の粒度に調製した希土類合金微粉末を、熱硬化型ポリイミド系樹脂、またはこれを含有する混合樹脂と所定の割合で均一に混合し、この場合、例えばアセトンのような低沸点溶媒に前記樹脂を溶解し、これを前記希土類合金微粉末と混合してスラリーとし、このスラリーから前記溶媒を蒸発除去する混合手段を用いると、前記樹脂の粘度に関係なく比較的容易に均一混合を行なうことができ、ついで磁場中圧縮成形した後、前記樹脂を加熱硬化する方法」(第2頁右下欄第4〜14行)が、記載されている。
(4)対比・判断
ア.特許法第36条についての判断
本件請求項1については、特許明細書では、「その圧縮成形時に生じた前記磁性粉末の破断面に予め酸化膜が形成されている」とされていた部分を、上記訂正により、「そのプレス成形時に生じた前記磁性粉末の破断面に、加熱硬化時に酸化膜を形成した」と訂正したので、どの時点に先立つものであるか不明りょうな表現であった「予め」が、「加熱硬化時」を意味することが明らかになった。したがって、本件請求項1の記載、及び本件請求項1に関する発明の詳細な説明の記載の不備は、解消した。
本件請求項2については、上記訂正により削除された。また、上記訂正により、明細書中の【0014】段落の不明りょうな部分を削除すると共に、図面【図2】及び【図3】を削除した。したがって、本件請求項2の記載、及び本件請求項2に関する発明の詳細な説明及び図面の記載の不備は、解消した。
以上のように、不備が解消しているので、本件請求項1ないし2に係る発明の特許は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
イ.特許法第29条第1項第3号第29条第2項についての判断
a.本件請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明と上記刊行物1及び2に記載の発明とを対比すると、上記刊行物1及び2には、本件請求項1に係る発明の構成要件である「そのプレス成形時に生じた前記磁性粉末の破断面に、加熱硬化時に酸化膜を形成した」点について、記載も示唆もない。
すなわち、上記刊行物1には、「磁性粉末、特にR-Fe-B系は非常に酸化されやすく、この酸化による磁気性能の劣化が成形中におこりうる。圧縮成形の場合、樹脂を硬化させる際に磁性粉末の酸化がおこりうる。」、「硬化温度が200℃を越えると磁気性能が劣化する。これは温度が200℃を越えたところでは、硬化中に磁性粉末が酸化されたためである。」という記載があり、また、上記刊行物2には、「磁石成形時の抱き込み空気によつて磁性粉末の酸化が著しく促進されるようにな」るという記載があって、加熱硬化時に磁性粉末に酸化がおこることは記載されているが、上記刊行物1及び2には、酸化膜が磁性粉末の破断面に形成されることについては、記載も示唆もない。
そして、本件請求項1に係る発明は、上記構成要件により、その後の酸化進行を有効に防止することができ、プラスチック磁石として製品化された後に、高温下で長期に亘り使用がなされても、経時的に変形することがなく優れた耐熱性を発揮し得るという明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件請求項1に係る発明は、上記刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
b.本件請求項2に係る発明について
本件請求項2に係る発明と上記刊行物1及び2に記載の発明とを対比すると、上記刊行物1及び2には、本件請求項2に係る発明の構成要件である「8〜10トン/cm2の圧力で所定形状にプレス成形してなる」点、及び「プレス成形時に磁性粉末に生じた破断面を酸化させて酸化膜を形成する」点について、記載も示唆もない。
すなわち、上記刊行物のうち、刊行物1には、「磁性粉末、特にR-Fe-B系は非常に酸化されやすく、この酸化による磁気性能の劣化が成形中におこりうる。圧縮成形の場合、樹脂を硬化させる際に磁性粉末の酸化がおこりうる。」、「成形圧力7ton/cm2でブロック状磁石を加圧成形した」、「硬化温度が200℃を越えると磁気性能が劣化する。これは温度が200℃を越えたところでは、硬化中に磁性粉末が酸化されたためである。」という記載があり、また、上記刊行物2には、「磁石成形時の抱き込み空気によつて磁性粉末の酸化が著しく促進されるようにな」るという記載があって、圧力をかけて所定形状にプレス成形することと磁性粉末に酸化がおこることは記載されているが、上記刊行物1及び2には、プレス成形の圧力を8〜10トン/cm2とすること、及び、プレス成形時に磁性粉末に生じた破断面を酸化させて酸化膜を形成することについては、記載も示唆もない。
そして、本件請求項2に係る発明は、上記構成要件により、その後の酸化進行を有効に防止することができ、プラスチック磁石として製品化された後に、高温下で長期に亘り使用がなされても、経時的に変形することがなく優れた耐熱性を発揮し得るという明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件請求項2に係る発明は、上記刊行物1に記載された発明であるとはいえず、また、上記刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし2に係る発明の特許を取り消すことができない。
そして、他に本件請求項1ないし2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
プラスチック磁石素材およびその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とのプレス成形-加熱硬化体であって、そのプレス成形時に生じた前記磁性粉末の破断面に、加熱硬化時に酸化膜を形成したことを特徴とするプラスチック磁石素材。
【請求項2】 希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とを溶剤を加えて混合した後、これを8〜10トン/cm2の圧力で所定形状にプレス成形してなるプレス成形体を、酸素5〜90%の雰囲気の下で150℃〜200℃に加熱して10分間以上保持することにより、プレス成形時に磁性粉末に生じた破断面を酸化させて酸化膜を形成することを特徴とするプラスチック磁石素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、高温下で長期に亘り使用されても、膨れによる変形を生ずることのない耐熱性に優れたプラスチック磁石素材およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】
希土類元素の金属粉末を熱硬化性樹脂で結合してプラスチック磁石素材とし、これを磁化させることにより得たプラスチック磁石が、各種産業界で広く使用されている。例えば該プラスチック磁石は、FDD(フロッピーディスクドライブ)用のスピンドルモータやファクシミリ用のステッピングモータの如く、殊にOA関連製品における小型モータの磁極として好適である。
【0003】
従来のプラスチック磁石は、一般に以下の工程を経て製造される。例えば、ネオジウムの如き希土類元素および鉄やボロンからなる磁性粉末に、メチルエチル系溶剤の添加により溶解させた熱硬化性樹脂(一例としてエポキシ樹脂)を加えて均一になるまで混合し、これをモータの固定磁極の形状を有する金型に充填した後に、8〜10トンの圧力で圧縮プレス成形を行なう。この成形された後の混合物は、バインダーである熱硬化性樹脂が未だ硬化していないので、該混合物を炉中に装入しアルゴンガスの不活性雰囲気下で、150℃の温度で約1時間加熱保持する。これにより硬化処理が行なわれて、いわゆるプラスチック磁石素材が得られる。このプラスチック磁石素材は、バリ取り等の後処理を施した後に、これを磁化させることによって、モータ固定磁極等の形状をしたプラスチック磁石が製造される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このプラスチック磁石は、一般に常温の下で使用されるが、用途によっては過酷な高温条件の下で使用される場合もある。その一例として、プラスチック磁石でモータの磁極を構成し、これを外気温の高い時期に長時間に亘り使用する場合が想定される。このような高温下での使用時に、前記プラスチック磁石が経時的に膨れを生じ、最初の形状に対して僅かではあるが変形を来すことがある。例えば、前記プラスチック磁石でモータの固定磁極を構成し、該モータを高温条件下で長期に亘り使用すると、その固定磁極が熱影響により変形して回転子と接触するに至り、モータの回転が不能となる重大な不都合を招く。なおモータを使用環境の最大温度120℃で、100〜200時間使用する耐熱膨れ試験を行なったが、その結果によっても該プラスチック磁石からなる固定磁極に膨れを生ずることが確認された。
【0005】
このように高温条件下で使用した場合に、プラスチック磁石が経時的に膨れを生ずる理由として、以下の原因が考えられる。すなわちプラスチック磁石は、その製造工程において、熱硬化性樹脂と混合された希土類元素を含む磁性粉末が金型中でプレス成形されるが、このとき該磁性粉末には平方センチ当り8〜10トンに及ぶ極めて大きな圧力が加えられる。金型中に充填された磁性粉末は、その夫々が溶解した熱硬化性樹脂により全体をくるまれた状態となっているが、プレス成形時に印加される前記圧力によって、個々の磁性粉末は破砕されて割れや破断を生ずるに至る。従って高圧を加えた後の磁性粉末は、ミクロ的に観察すると多数の破断面を有している。
【0006】
このような状態でプレス成形された混合物は、前述の如くアルゴンガスの雰囲気下で熱硬化処理が施されプラスチック磁石素材とされる。この場合に、プラスチック磁石素材を構成している磁性粉末は多くの破断面を有しているが、炉中での熱硬化処理は無酸素状態でなされるので、該破断面が酸化することはない。しかしプラスチック磁石素材を磁化してモータの磁極を製造し、該モータを高温の条件下で使用すると、そのプラスチック磁石を構成している個々の磁性粉末における前記破断面が徐々に酸化し、これにより先に述べた膨れを次第に生ずるものと考えられる。
【0007】
【発明の目的】
この発明は、プラスチック磁石素材を磁化させて、例えばモータの磁極を構成した場合に、これに内在している前記課題を好適に解決するべく提案されたものであって、高温下で長期に亘り使用されても、経時的に膨れを生じて変形することのない耐熱性に優れたプラスチック磁石素材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係るプラスチック磁石素材は、希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とのプレス成形-加熱硬化体であって、そのプレス成形時に生じた前記磁性粉末の破断面に、加熱硬化時に酸化膜を形成したことを特徴とする。
【0009】
また同じく前記課題を克服し、所期の目的を達成するため本願の別の発明に係るプラスチック磁石素材の製造方法は、希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とを溶剤を加えて混合した後、これを8〜10トン/cm2の圧力で所定形状にプレス成形してなるプレス成形体を、酸素5〜90%の雰囲気の下で150℃〜200℃に加熱して10分間以上保持することにより、プレス成形時に磁性粉末に生じた破断面を酸化させて酸化膜を形成させることを特徴とする。
【0010】
【実施例】
次に、本発明に係るプラスチック磁石素材およびその製造方法につき、好適な実施例を挙げて以下説明する。発明者は、プラスチック磁石素材を磁化してなるプラスチック磁石を高温下で使用した場合に、前述の如き膨れを生ずる原因が、先に解析したところにあると考えられることに鑑み、磁性粉末の破断面に予め酸化膜を形成しておけば、高温の下でも酸化がそれ以上は進行せず、従って前記膨れを生ずることもないであろう旨を知見するに至った。この知見に従い以下の実施例は、プレス成形した後の希土類元素を含む磁性粉末の破断面に、如何にして予め酸化膜を形成させるようにするか、を主たる内容としている。なお、希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とを、溶剤添加後に混合してから、金型に充填してプレス成形を行なうまでは、先に述べたところと同一である。
【0011】
実施例では、プレス成形により破断面を生じた希土類元素を含む粉末を含む混合物を加熱して、前記熱硬化性樹脂による硬化処理を施すに際し、これを酸素雰囲気の下で行ない、これにより前記破断面に予め酸化膜を形成するようになっている。すなわち、希土類元素を含む粉末と熱硬化性樹脂とを溶剤を加えて混合した後、これを所定形状にプレス成形することにより、プラスチック磁石素材が得られる。このプラスチック磁石素材炉中に装入し、酸素雰囲気の下で前記溶剤を揮散させるに充分な温度に加熱して、そのまま数時間保持する。これによりプラスチック磁石素材に含まれている溶剤を緩徐に揮散させることができ、従って多数の微細な気孔を生ずる不都合が未然に防止される。
【0012】
このように溶剤の揮散を行なってから、同じ炉中の酸素雰囲気(5〜90%)の下で、プラスチック磁石素材を150℃〜200℃に加熱すると共に、これを少なくとも10分以上、好ましくは1時間程度保持する。これにより希土類元素を含む磁性粉末における前記破断面には、予め酸化膜が形成されるに至る。従って、このようにして得たプラスチック磁石素材は、少なくとも破断部の表面に酸化膜が形成された希土類元素を含む磁性粉末を、熱硬化性樹脂で結合させたものとなっており、この酸化膜が一旦形成されると防護皮膜として機能し、その後の酸化の進行が有効に防止される。
【0013】
この実施例に係るプラスチック磁石素材につき、耐熱膨れ試験を以下の如く行なった。すなわちプラスチック磁石素材における熱硬化性樹脂の硬化処理を、炉中での酸素濃度5〜80%の各雰囲気下で、170℃の加熱を1時間継続することにより行なった。また従来の製法、例えばアルゴンガスの雰囲気下で150℃の加熱を1時間継続して得たプラスチック磁石素材を別途複数用意した。これらの試験片を120℃の温度で200時間大気中に放置し、夫々の試験片における耐熱膨れ率を図1に示す如くプロットしてみた。この耐熱膨れ率は、(D-D0)/D0×100(%)で表わされる。ここにD0:耐熱膨れ試験前の試験片の径であり、D:耐熱膨れ試験後の試験片の径である。図1から明らかな如く、実施例に係るプラスチック磁石素材は、従来の方法で製造したプラスチック磁石素材に比べて高温条件下での膨れが顕著に抑制され、耐熱性において優れていることが判る。
【0014】
このように、実施例に係るプラスチック磁石素材を磁化することによりプラスチック磁石とすれば、高温の条件下で使用しても膨れに伴なう変形を来すことがなくて好適である。
【0015】
【発明の効果】
以上説明した如く、本発明に係るプラスチック磁石素材によれば、該複合体を構成する希土類元素を含む磁性粉末の破断面に予め酸化膜を形成しておくことによって、その後の酸化進行を有効に防止することができる。従って、モータの固定磁極の如く具体的にプラスチック磁石として製品化された後に、これが高温下で長期に亘り使用がなされても、経時的に変形することがなく優れた耐熱性を発揮し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の好適な実施例に係るプラスチック磁石素材と、従来の製法により得たプラスチック磁石素材とにつき耐熱膨れ試験を行なった場合における夫々の試験片の耐熱膨れ率をプロットした曲線図である。
【図面】

 
訂正の要旨 特許第3097701号発明の明細書及び図面を、本件の平成13年10月17日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正図面のとおりに、すなわち特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的として下記(1)、(3)のとおりに、特許請求の範囲の減縮を目的として下記(2)、(4)のとおりに、明瞭でない記載の釈明を目的として下記(5)〜(9)のとおりに訂正する。
(1)特許請求の範囲の請求項1を次のとおり訂正する。
「【請求項1】希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とのプレス成形-加熱硬化体であって、そのプレス成形時に生じた前記磁性粉末の破断面に、加熱硬化時に酸化膜を形成したことを特徴とするプラスチック磁石素材。」
(2)特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)特許請求の範囲の請求項3を次のとおり訂正し、項番号を繰り上げて請求項2とする。
「【請求項2】希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とを溶剤を加えて混合した後、これを8〜10トン/cm2の圧力で所定形状にプレス成形してなるプレス成形体を、酸素5〜90%の雰囲気の下で150℃〜200℃に加熱して10分間以上保持することにより、プレス成形時に磁性粉末に生じた破断面を酸化させて酸化膜を形成することを特徴とするプラスチック磁石素材の製造方法。」
(4)特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)明細書中の【0008】段落を次の通り訂正する。
「【0008】
【課題を解決するための手段】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係るプラスチック磁石素材は、希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とのプレス成形-加熱硬化体であって、そのプレス成形時に生じた前記磁性粉末の破断面に、加熱硬化時に酸化膜を形成したことを特徴とする。
(6)明細書中の【0009】段落を次の通り訂正する。
「【0009】
また同じく前記課題を克服し、所期の目的を達成するため本願の別の発明に係るプラスチック磁石素材の製造方法は、希土類元素を含む磁性粉末と熱硬化性樹脂とを溶剤を加えて混合した後、これを8〜10トン/cm2の圧力で所定形状にプレス成形してなるプレス成形体を、酸素5〜90%の雰囲気の下で150℃〜200℃に加熱して10分間以上保持することにより、プレス成形時に磁性粉末に生じた破断面を酸化させて酸化膜を形成させることを特徴とする。」
(7)明細書中の【0014】段落を次の通り訂正する。
「【0014】
このように、実施例に係るプラスチック磁石素材を磁化することによりプラスチック磁石とすれば、高温の条件下で使用しても膨れに伴なう変形を来すことがなくて好適である。」
(8)【図面の簡単な説明】において、「【図2】本発明の好適な実施例に係るプラスチック磁石素材と、従来のプラスチック磁石素材とにつき耐熱膨れ試験を行なった場合に、各試験片の希土類元素を含む磁性粉末に形成される酸化膜を含む酸素含有量との関係をプロットした曲線図である。
【図3】本発明の好適な実施例に係るプラスチック磁石素材と、従来のプラスチック磁石素材とにつき耐熱膨れ試験を行なった場合に、各試験片における全体の酸素含有量との関係をプロットした曲線図である。」を削除する。
(9)【図2】及び【図3】を削除する。
異議決定日 2002-03-14 
出願番号 特願平3-139647
審決分類 P 1 651・ 531- YA (H01F)
P 1 651・ 113- YA (H01F)
P 1 651・ 121- YA (H01F)
P 1 651・ 534- YA (H01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平塚 義三  
特許庁審判長 松本 邦夫
特許庁審判官 岡 和久
池渕 立
登録日 2000-08-11 
登録番号 特許第3097701号(P3097701)
権利者 大同特殊鋼株式会社
発明の名称 プラスチック磁石素材およびその製造方法  
代理人 須賀 総夫  
代理人 須賀 総夫  

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