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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1059532
異議申立番号 異議2001-71307  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-08-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-05-01 
確定日 2002-03-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3104896号「塗料組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3104896号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
特許第3104896号の請求項1に係る発明についての出願は、平成6年2月18日に出願され、平成12年9月1日に特許権の設定登録がされ、その後、日本ペイント株式会社より特許異議の申立てがされ、取消理由の通知がされ、その指定期間内である平成13年10月29日に訂正請求がされたものである。

II.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の「主鎖にフッ素原子が結合した溶剤可溶性含フッ素共重合体(A) 」を、「主鎖にフッ素原子が結合し、かつフルオロオレフィン成分としてクロロトリフルオロエチレンを使用した溶剤可溶性含フッ素共重合体(A) 」と訂正する。

訂正事項b
【0006】の「主鎖にフッ素原子が結合した溶剤可溶性含フッ素共重合体(A) 」を、「主鎖にフッ素原子が結合し、かつフルオロオレフィン成分としてクロロトリフルオロエチレンを使用した溶剤可溶性含フッ素共重合体(A) 」と訂正する。

訂正事項c
【0008】の「フルオロオレフィン」を「クロロトリフルオロエチレン」と訂正する。

訂正事項d
【0008】の「前記フルオロオレフィンとしては、例えばフッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等が代表的なものとして挙げられる。」を削除する。

訂正事項e
【0010】の「フルオロオレフィン」を「クロロトリフルオロエチレン」と訂正する。

訂正事項f
【0011】の「前記方法(ロ)は、フルオロオレフィン」を「前記方法(ロ)は、クロロトリフルオロエチレン」と訂正する。

訂正事項g
【0011】の「カルボキシル基含有の含フッ素共重合体は、フルオロオレフィン」を「カルボキシル基含有の含フッ素共重合体は、クロロトリフルオロエチレン」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、主鎖にフッ素原子が結合した溶剤可溶性含フッ素共重合体(A)」を「 主鎖にフッ素原子が結合し、かつフルオロオレフィン成分としてクロロトリフルオロエチレンを使用した溶剤可溶性含フッ素共重合体(A)」のみに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、また、訂正事項b〜gは、特許請求の範囲の訂正に伴って、それとの整合を図るために発明の詳細な説明の記載を訂正したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議の申立てについての判断
1.本件発明
上記IIで示したように上記訂正が認められるから、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「数平均分子量が3,000〜30,000、水酸基価が60〜150、酸価が1〜10である、主鎖にフッ素原子が結合し、かつフルオロオレフィン成分としてクロロトリフルオロエチレンを使用した溶剤可溶性含フッ素共重合体(A)とポリイソシアネート化合物(B)とからなり、かつ前記(B)中のイソシアネート基と前記(A)中の水酸基の当量比(NCO/OH)が(0.2/1〜1.3/1)である混合物を結合剤とする溶剤型塗料組成物において、塗料粘度(フォードカップNo.4/20℃)95秒の条件下で、チキソトロピー係数が1.3〜3.0となるように粘性付与剤を含有せしめたことを特徴とする、塗料組成物。 」

2.引用刊行物および証拠に記載された事項
刊行物1:特開平5-051551号公報(特許異議申立人の提出した甲第 1号証)
刊行物2:「塗料原料便覧第6版」 平成5年8月30日 社団法人日本塗 料工業会発行 第188頁〜190頁(同甲第3号証の1)
証拠1 :平成13年4月25日付 日本ペイント株式会社汎用塗料事業
本部開発部 鶴下知也作成の実験成績証明書(同甲第2号証)
刊行物1,2は、当審が通知した取消理由において引用した刊行物であり、いずれも本件出願前に頒布された刊行物である。

刊行物1には、以下の記載がある。
1-イ
「【請求項1】 ヘキサフルオロプロピレン単位とカルボキシル基含有ビニル単量体単位と硬化反応性部位を有するビニル単量体単位を必須の構造単位とする有機溶剤可溶性のヘキサフルオロプロピレン共重合体および硬化剤を含有する自動車用塗料組成物。
【請求項2】 ヘキサフルオロプロピレン共重合体が硬化反応性部位として水酸基を有し、硬化剤がイソシアネート系硬化剤またはメラミン系硬化剤である請求項1記載の組成物。」(【特許請求の範囲】)

1-ロ
「【0002】
【従来の技術】
*****
【0003】
***特開昭58-136625 号公報(特開昭58-136605号公報の誤記と認められる。)で塗装作業性の向上も考慮した含フッ素共重合体が提案されている。この共重合体は、耐候性試験後の光沢保持率は高いものの、フッ素樹脂の利点である撥水性が著しく低下しており、また耐汚染性も優れているとはいえず、***
【0004】
さらに、特開昭61-275311 号および特開昭62-292848 号各公報に、ヘキサフルオロプロピレンを使用した共重合体を含有する組成物が記載されているが、実際に使用するばあいの硬化剤の選択の幅が狭く、透明な塗膜がえられないばあいもあり、必ずしも満足のいくものではない。」(段落【0002】〜【0004】)

1-ハ
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
*****
【0006】
本発明は、硬化剤相溶性に優れ、かつ塗膜外観、耐汚染性、耐候性、撥水保持率、耐酸性、耐スリ傷性などの塗膜性能に優れた塗膜を与え、しかもこれらの性質がバランスよく保たれている自動車用塗料組成物を提供するものである。」(段落【0005】〜【0006】)

1-ニ
「【0008】
*** 本発明において、含フッ素共重合体のフルオロオレフィン単位としてフッ素含有率の大きいヘキサフルオロプロピレンが使用されているので、長期の使用に対して撥水性の低下を低く抑えることができる。
【0009】
また、自動車用のトップコートとして特に問題となる塗膜への汚染物質の付着防止や耐スリ傷性が、塗膜のガラス転移点(Tg)に主として依存し、Tgが高いほどそれらの性質の優れることが知られている(特開平2-283747号公報)。本発明においては、この問題に対し、汎用のフルオロオレフィンのうちで最も構造的にTgが高くなるヘキサフルオロプロピレンを使用するとともに、カルボキシル基含有ビニル単量体を共重合することにより、えられる含フッ素共重合体のTgおよび硬化性を高め、より一層硬い塗膜を与えることができる。」(段落【0008】〜【0009】)

1-ホ
「【0036】
製造例
1000mlのステンレス製オートクレーブに酢酸ブチル 340g、ピバリン酸ビニル(VPi )84g、ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)40g、エチルビニルエーテル(EVE )24g、クロトン酸(CA)2gおよびジイソプロピルパーオキシジカーボネート7gを仕込み、0℃に氷冷したのち減圧下に脱気した。このものにヘキサフルオロプロピレン(6F) 116gを仕込み、撹拌下に40℃に加熱し、24時間反応させ、反応器内圧が5kg/cm2Gから2.1 kg/ cm2Gへ下がった時点で反応を停止した(重合収率92重量%)。えられた硬化性含フッ素共重合体(共重合体Aという)を19F-NMR 、 1H-NMR および元素分析法で分析したところ、6F 38.6 モル%、EVE 16.5モル%、VPi 29.8モル%、HBVE 14.1 モル%およびCA 1.0モル%とからなる共重合体であり、GPCで測定した数平均分子量(Mn)は8500であった。また、フッ素含有量は38重量%、水酸基価は63、酸価は4であった。
【0037】
比較製造例1〜3
表1に示す単量体を用いたほかは製造例1(「製造例」の誤記と認められる。)と同様にして含フッ素共重合体をえた。えられた共重合体の組成、フッ素含有量、水酸基価、酸価、数平均分子量を表1に示す。」(段落【0036】〜【0037】)










1-ヘ
「【0038】
【表1】


」(段落【0038】)





1-ト
「【0057】
実施例2
製造例でえられたヘキサフルオロプロピレン共重合体Aを酢酸ブチルに溶解して濃度50重量%の樹脂ワニスとした。このワニス100 部に対して硬化剤としてイソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(タケネートD140N 、タケダ薬品工業(株)製)またはヘキサメチレンジイソシアネート-イソシアヌレート(コロネートEH、日本ポリウレタン(株)製)をOH/NCO が1/1になるように混合し、ついでソルベッソ150 を10部、酢酸ブチルを10部、レベリング剤を0.2 部および紫外線吸収剤を2部充分混合して塗料組成物を調製した。なお、タケネートD140N を配合したものを組成物A-3、コロネートEHを配合したものを組成物A-4とする。
【0058】
***
【0059】
組成物A-3およびA-4を酢酸ブチル/ソルベッソ150 (2/1、重量比)の混合溶剤で No.4フォードカップで20秒になるように粘度調整し、これらをメタリックベース塗膜上に乾燥膜厚が35μmとなるようにエアスプレーで塗装し、140 ℃で30分間乾燥してメタリック塗装の試験片を作製した。
【0060】
各試験片に対し、実施例と同様に塗膜性能を調べた。結果を表3に示す。
【0061】
比較例4〜6
比較製造例1〜3でそれぞれえられた含フッ素共重合体(B、C、D)を用いたほかは実施例2と同様にしてワニス、比較用の塗料組成物(B-3、B-4、C-3、C-4、D-3、D-4。いずれも表3に示す)を調製し、実施例2と同様にしてメタリック塗装をし、えられた各塗膜の性能を調べた。
【0062】
結果を表3に示す。」(段落【0057】〜【0062】)







1-チ
「【0063】
【表3】


」(段落【0063】)

1-リ
「【0043】
(塗膜外観)
目視により観察した。
A:透明
B:やや白濁
C:白濁
(PGD値)
Potable Gloss Distinctnessの略であり、塗膜外観を客観的に測定できる。数値が大きい方が塗膜外観が優れている。(株)日本色彩研究所製の携帯用鮮明度光沢度計(PGDIV型)で測定した。
【0044】
(初期光沢)
スガ試験機(株)製のカラーコンピューターSM-4を用い光沢(60°)で測定した。
【0045】
(初期撥水性)
対水接触角を協和科学(株)製のCA-A型接触角計で調べた。
【0046】
(耐久性)
スガ試験機(株)製のサイシャインウェザーメーターにて促進耐候性試験を500 時間行なったのち、光沢および対水接触角を測定し、光沢保持率(%)および撥水性保持率(接触角保持率、%)をみる。
【0047】
(耐汚染性:フェルトペン)
赤色のフェルトペン(サクラペンタッチ(商品名))により10mm×10mmの面積を塗りつぶし、24時間後にこれをエタノールで拭きとり、インクの残存状態を目視で観察する。評価はつぎの段階で行なった。
【0048】
A:完全に除去された。
B:わずかに残った。
C:やや残った。
D:殆ど残った。
【0049】
(耐汚染性:カーボン汚染性)
カーボンブラック(FW200 、デグサ社製)をキムタオルに付け、これで試験片の塗面を拭く。1時間放置後、中性洗剤で付着しているカーボンブラックを洗い、汚染度を色差計(カラーコンピューターSM-4、スガ試験機(株)製)で測定し、ΔEの値で評価する。」(段落【0043】〜【0049】)

1-ヌ
「【0032】
本発明の組成物には、さらに各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、硬化促進剤、着色顔料、顔料分散剤、レベリング剤、沈降防止剤、色分かれ防止剤、消泡剤、ハジキ防止剤、紫外線防止剤、酸化防止剤などの公知の添加剤があげられる。」(段落【0032】)

刊行物2の「3.2.1.9 増粘・沈降防止剤、たれ(だれ)防止剤」の項には「チクソロトピック剤(チクソトロピック剤の誤記と認められる。)とは、塗料・・・・・に使用することにより、その懸濁液内部(顔料混合系)にチクソトロピック粘性を形成し、増粘・沈降防止・だれ防止効果などを付与するものである」と記載され、さらに、190頁の6〜8行目には「適正チキソトロピック剤が***選択を誤ると***塗膜物性に悪影響が出る」旨のことも記載されている。

証拠1には、刊行物1に記載される比較例6のD-3の塗料組成物とほぼ同じ組成である、数平均分子量9200、水酸基価78、酸価5のクロロトリフルオロエチレン共重合体とタケネートD140NをOH/NCOの比が1/1となるように配合したチキソトロピー係数が1.1の塗料組成物A、および、該塗料組成物Aにホワイトカーボンとポリエチレンペースト(ディスパロン4200-20、楠本化成社製)を同量ずつ配合してチキソトロピー係数を1.7とした塗料組成物Bを、白色ソリッド塗料を下塗塗膜として施したアルミ板の上に、乾燥塗膜が35μmとなるようにスプレー塗装し、160℃×20分間乾燥させて塗膜試験サンプルを作成し、非接触型表面粗度計(LMS-3D、キーエンス社製)によって表面粗度を測定し、また、本件発明における促進汚染性試験方法と同様の試験方法で耐カーボン汚染性を測定した評価試験結果が【表2】として記載されている。




3.対比、判断
まず、刊行物1に記載される発明を認定する。
刊行物1では、【従来の技術】を「特開昭58-136625 号公報(特開昭58-136605号公報の誤記と認められる。)で塗装作業性の向上も考慮した含フッ素共重合体が提案されている。この共重合体は、耐候性試験後の光沢保持率は高いものの、フッ素樹脂の利点である撥水性が著しく低下しており、また耐汚染性も優れているとはいえず、***さらに、特開昭61-275311 号および特開昭62-292848 号各公報に、ヘキサフルオロプロピレンを使用した共重合体を含有する組成物が記載されているが、実際に使用するばあいの硬化剤の選択の幅が狭く、透明な塗膜がえられないばあいもあり、必ずしも満足のいくものではない。」(1-ロ)とし、
【発明が解決しようとする課題】を「硬化剤相溶性に優れ、かつ塗膜外観、耐汚染性、耐候性、撥水保持率、耐酸性、耐スリ傷性などの塗膜性能に優れた塗膜を与え、しかもこれらの性質がバランスよく保たれている自動車用塗料組成物を提供するものである。」(1-ハ)として、
課題を解決するために、「含フッ素共重合体のフルオロオレフィン単位としてフッ素含有率の大きいヘキサフルオロプロピレンが使用されているので、長期の使用に対して撥水性の低下を低く抑えることができる。また、自動車用のトップコートとして特に問題となる塗膜への汚染物質の付着防止や耐スリ傷性が、塗膜のガラス転移点(Tg)に主として依存し、Tgが高いほどそれらの性質の優れることが知られている(特開平2-283747号公報)。本発明においては、この問題に対し、汎用のフルオロオレフィンのうちで最も構造的にTgが高くなるヘキサフルオロプロピレンを使用するとともに、カルボキシル基含有ビニル単量体を共重合することにより、えられる含フッ素共重合体のTgおよび硬化性を高め、より一層硬い塗膜を与えることができる。」(1-ニ)という技術思想に立脚し、刊行物1の請求項1,2に記載される技術事項を解決手段としている。
刊行物1の請求項1,2には、「【請求項1】 ヘキサフルオロプロピレン単位とカルボキシル基含有ビニル単量体単位と硬化反応性部位を有するビニル単量体単位を必須の構造単位とする有機溶剤可溶性のヘキサフルオロプロピレン共重合体および硬化剤を含有する自動車用塗料組成物。【請求項2】 ヘキサフルオロプロピレン共重合体が硬化反応性部位として水酸基を有し、硬化剤がイソシアネート系硬化剤またはメラミン系硬化剤である請求項1記載の組成物。」(1-イ)と記載されている。
上記記載にみられるように、刊行物1に記載される発明では、塗膜外観、耐汚染性、耐候性に加えて、撥水性保持率の優れたものを得ることを解決課題としており、そのために「含フッ素共重合体のフルオロオレフィン単位としてフッ素含有率の大きいヘキサフルオロプロピレン」を使用して、「長期の使用に対して撥水性の低下を低く抑えることができる」(1-ニ)ようにし、また、「塗膜への汚染物質の付着防止」に対しては、「汎用のフルオロオレフィンのうちで最も構造的にTgが高くなるヘキサフルオロプロピレンを使用するとともに、カルボキシル基含有ビニル単量体を共重合することにより、えられる含フッ素共重合体のTgおよび硬化性を高め、より一層硬い塗膜を与えることができる。」(1-ニ)ようにすることで解決している。
こうしてみると、刊行物1には、撥水性保持率の向上や耐汚染性の向上に、含フッ素共重合体のフルオロオレフィン単位としてフッ素含有率が大きく、Tgの高いヘキサフルオロプロピレンを使用することが有用であることと、耐汚染性の解決に、「カルボキシル基含有ビニル単量体を共重合することにより、えられる含フッ素共重合体の***硬化性を高め、より一層硬い塗膜を与える」ことが有用であることとが教示されている。
耐汚染性の解決に、上記した「カルボキシル基含有ビニル単量体を共重合することにより、えられる含フッ素共重合体の***硬化性を高め、より一層硬い塗膜を与える」ことが有用であることは、刊行物1の比較例5,6(1-チ)からも明らかである。
すなわち、刊行物1の比較例5のC-3、C-4は表1(1-ヘ)の共重合体Cとイソシアネート硬化剤[C-3はイソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物であるタケネートD140N(1-ト)を使用、C-4はヘキサメチレンジイソシアネート-イソシアヌレートであるコロネートEH(1-ト)を使用]とからなる溶剤型塗料であり、比較例6のD-3、D-4は表1の共重合体Dとイソシアネート硬化剤[D-3はタケネートD140Nを使用、D-4はコロネートEHを使用]とからなる溶剤型塗料であり、C-3,C-4,D-3,D-4とも水酸基とイソシアネート基の当量比(OH/NCO)が1/1(1-ト)になるように配合され、粘度をNo.4フォードカップで20秒になるように調整したものである(1-ト)。
そうしてみると、C-3とD-3とは相互に共重合体のみが異なる塗料であり、また、C-4とD-4も相互に共重合体のみが異なる塗料であるといえる。
ところで、表1からみて共重合体CおよびDはいずれもクロロトリフルオロエチレンをフッ素含有共単量体とするクロロトリフルオロエチレン共重合体で、共重合体Cは水酸基価73、酸価0、数平均分子量8700であり、共重合体Dは水酸基価75、酸価4、数平均分子量8900である(1-ヘ)。
因みに、共重合体Dは本件発明の含フッ素共重合体(A)に包含されるものであり、共重合体Cは酸価が0である点を除いて水酸基価、数平均分子量は本件発明で規定されている数値に包含される数値であるクロロトリフルオロエチレン共重合体である。
さて、酸価0、水酸基価73、数平均分子量8700のクロロトリフルオロエチレンの共重合体(C-3、C-4)を酸価4、水酸基価75、数平均分子量8900であるクロロトリフルオロエチレンの共重合体(D-3、D-4)とすることにより撥水性保持率、および、耐汚染性(カーボン汚染性)(以下、「耐カーボン汚染性」という。)が向上し、一方、光沢保持率は減少することが表3(1-チ)から解析される。すなわち、光沢保持率および撥水性保持率を総合してみた耐久性(1-リ)は測定方法からみて耐候性と言い得る性能であり、これはカルボキシル基の導入前後で光沢保持率と撥水性保持率が相殺されるため変わりないものと認められるが、耐カーボン汚染性の点では酸価4の共重合体とすることが有効であることは、C-3よりもD-3の耐カーボン汚染性が優れていること、また、C-4よりもD-4の耐カーボン汚染性が優れていることから明らかである(1-チ)。
なお、ヘキサフルオロプロピレン共重合体を使用すると、カルボキシル基が含有される共重合体A(1-ヘ)から調整した塗料でも、カルボキシル基が含有されない共重合体B(1-ヘ)から調整した塗料でも、クロロトリフルオロエチレンの溶剤可溶性共重合体よりは初期光沢、初期撥水性、光沢保持率、撥水性保持率、耐汚染性(フェルトペン)等で優れているものと表3から解析されるが、耐カーボン汚染性の観点からみると、ヘキサフルオロプロピレン共重合体を使用しなくても、酸価が4のクロロトリフルオロエチレンの溶剤可溶性共重合体を使用すれば、同程度に耐カーボン汚染性に優れた塗料を得ることができることが表3(1-チ)の比較例4のB-3の耐カーボン汚染性とD-3、D-4の耐カーボン汚染性とを比較することにより明らかである。
なお、比較例4で使用している共重合体Bは、表1(1-ヘ)に記載されるようにヘキサフルオロプロピレン共重合体で、水酸基価64、酸価0、数平均分子量9100のものである。
以上から、刊行物1には、「水酸基価75、酸価4、数平均分子量8900である、主鎖にフッ素原子が結合し、かつフルオロオレフィン成分としてクロロトリフルオロエチレンを使用した溶剤可溶性含フッ素共重合体とポリイソシアネート硬化剤とを、イソシアネート基と水酸基の当量比(NCO/OH)が1/1になるように配合し、塗装直前にNo.4フォードカップで20秒になるように粘度調整をした溶剤型塗料は、カルボキシル基を含有することで耐カーボン汚染性が向上し、塗膜外観やPGD値に関しても優れ、耐候性も担保された塗料」(以下、「刊行物1の発明」という。)が記載されていると認められる。

ここで、本件発明と刊行物1の発明とを対比する。
両者は、「数平均分子量が8900、水酸基価が75、酸価が4である、主鎖にフッ素原子が結合し、かつフルオロオレフィン成分としてクロロトリフルオロエチレンを使用した溶剤可溶性含フッ素共重合体(A)とポリイソシアネート化合物(B)とからなり、かつ前記(B)中のイソシアネート基と前記(A)中の水酸基の当量比(NCO/OH)が(1/1)である混合物を結合剤とする溶剤型塗料組成物で粘度の調整がされている塗料組成物」である点で一致し、塗料の粘度調整が、本件発明では「塗料粘度(フォードカップNo.4/20℃)95秒の条件下で、チキソトロピー係数が1.3〜3.0となるように粘性付与剤を含有せしめ」て行われているのに対し、刊行物1の発明では、「塗装直前にNo.4フォードカップで20秒になるように粘度調整」されると記載されているが、上記した点について記載されていない点で相違する。

上記相違点について検討する。
本件訂正明細書の実施例1〜5では、「塗料粘度(フォードカップNo.4/20℃)95秒で、チキソトロピー係数が2.0のソリッド塗料を調整し***塗装直前に***塗料粘度を20秒に調整し***スプレー塗装」(段落【0026】)に供し、また、実施例6〜9には、「塗料粘度95秒で、チキソトロピー係数1.6のメタリック塗料を調整し***塗装直前に***塗料粘度を20秒に調整し***スプレー塗装」(段落【0028】)に供している。
すなわち、本件発明でも塗装直前の粘度は、刊行物1の発明における塗装直前の粘度と同様に20秒に調整している。
ところで、本件訂正明細書には、「塗膜は、目視上平滑な塗面であるように見えても、特に顔料を配合した場合、ミクロ的に見ると塗面は微小の凹凸を形成しており、その凹部に汚染物質が入り込み、汚れが生じるようになり、かつ付着した汚染物質が除去しにくくなるものと考えられる。」(段落【0004】)、「粘性付与剤は、塗料組成物をチキソトロピック性にし、得られる塗膜表面の微少の凹凸発生を解消し、それにより耐汚染性をよくするために配合するものである。」(段落【0016】)、および、「粘性付与剤は、塗料粘度(フォードカップNo.4/20℃)95秒の条件下で、チキソトロピー係数が1.3〜3.0、好ましくは1.4〜2.5となるような量が適当である。この範囲のチキソトロピー係数の塗料は、微小の凹凸表面を有する塗膜が形成されず、平滑な塗面となり、仮に凹凸が生じてもそれはなだらかなもので、微小の凹凸とならず、そのため汚染物質が凹部に入り込まず、汚染物質が付着しても簡単に除去出来る塗膜となり、耐汚染性の優れた塗膜となる。なお、本発明で言うチキソトロピー係数は、SB型粘度計のローターNo.4をセットし、塗料中に挿入後、回転を与え、回転数6r.p.m.と60r.p.m.の2点の見掛け粘度を測定した両者の比、すなわち[(6r.p.m.の時の見掛け粘度)/(60r.p.m.の時の見掛け粘度)]の値である。」(段落【0018】)と記載されている。
これらの記載によれば、本件発明は、特定範囲のトキソトロピー係数となるように粘性付与剤を含有させることにより、得られる塗膜表面の微少の凹凸発生を解消し、それにより耐汚染性を改善するものと認められる。
一方、刊行物1の発明でも、本件発明の実施例1〜9と同じく、塗装直前にNo.4フォードカップで20秒になるように粘度調整されてエアスプレー塗装に供されており(1-ト)、しかも、刊行物1の発明に相当する表3のD-3,D-4の塗料の塗膜外観A、PGD値0.8(1-チ)という結果と、この塗膜性能の測定方法(1-リ)からみて、D-3,D-4の塗膜表面は白濁が無く透明で、光沢もあるもので、乱反射を起こすような微少な凹凸が少ないものであると解され、また、刊行物1の耐カーボン汚染性の試験方法(1-リ)は、本件発明の試験方法と若干相違するが、本件発明のカーボンブラックによる汚染に対する耐汚染性を推し測れるものであるから、刊行物1の発明でも、塗膜表面の微少な凹凸の少ない耐汚染性の塗料を得ていると認められる。
そうしてみると、本件発明は、特定範囲のトキソトロピー係数となるように粘性付与剤を含有させることにより、得られる塗膜表面の微少の凹凸発生を解消し、それにより耐汚染性を改善するところ、刊行物1の発明でも、塗膜表面の微少な凹凸の少ない耐汚染性の塗料が得られており、かつ、本件発明でも塗装直前の粘度は刊行物1の発明における塗装直前の粘度と同様に20秒に調整していることから、刊行物1の発明は、本件発明と同程度のトキソトロピック係数を有することは十分な蓋然性をもって推認されること、刊行物2には粘性付与剤の配合により、塗料組成物がチキソトロピック性を呈し、塗膜物性に影響を及ぼすことが記載されていることを総合的に考慮すれば、本件発明において、塗膜表面の微少な凹凸の少ない耐汚染性の塗料を得るために、チキソトロピック係数を指標として、得られる塗膜表面の微少の凹凸発生を解消し、それにより耐汚染性を改善するために粘性付与剤を含有させることは当業者が容易に着想し得たものと認められる。

本件発明の効果について検討する。
本件訂正明細書(段落【0020】)には、「本発明の塗料組成物は、特定の含フッ素共重合体とポリイソシアネート化合物からなる結合剤を使用し、かつ特定のチキソトロピー係数を付与する粘性付与剤を配合しており、その結果得られる塗膜は、架橋密度の高い緻密で、平滑な塗膜となり、耐候性とともに耐汚染性の優れたものが出来る。」と記載されているが、本件訂正明細書の表3からは耐汚染性は改善されていると認められるが、耐候性に関しては改善されているものとは認められない。また、表3に対する同様の解析結論が本件訂正明細書(段落【0031】)にも記載されている。
しかも、本件発明の耐カーボン汚染性について、ホワイトカーボンとポリエチレンペーストとをチキソトロピー係数が2.0あるいは1.6となる添加量で添加した塗料組成物はチキソトロピー係数1.0のものよりもカーボンブラックによる促進汚染性試験により耐汚染性があることは実施例2、7、比較例2から確認でき、チキソトロピー係数を1.3〜3.0とすることが有効であることは確認できるものの、本件訂正明細書からは、チキソトロピー係数を1.3〜3.0とすることにより予測し得ない効果が奏されたとはいえず、該数値規定に臨界的な意義があるものと認められない。
なお、証拠1の実験成績証明書には、水酸基価、酸価、数平均分子量、イソシアネート基と水酸基の当量比(NCO/OH)が本件発明で規定されている数値範囲であるクロロトリフルオロエチレン共重合体とポリイソシアネート硬化剤とからなるチキソトロピー係数1.1の溶剤型塗料に粘性付与剤として本件発明の実施例で使用している粘性付与剤であるホワイトカーボンと酸化ポリエチレンとを添加しチキソトロピー係数を1.7とした塗料組成物、すなわち、本件発明の塗料組成物に相当する塗料においてさえ、チキソトロピー係数が1.1の上記塗料よりも耐カーボン汚染性が改善されずに低下していると解析される結果が示されており、これからも1.3〜3.0という数値に臨界的意義があるとは認められない。

したがって、本件発明は、上記刊行物1および2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものと認められる。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
塗料組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 数平均分子量が3,000〜30,000、水酸基価が60〜150、酸価が1〜10である、主鎖にフッ素原子が結合し、かつフルオロオレフィン成分としてクロロトリフルオロエチレンを使用した溶剤可溶性含フッ素共重合体(A)とポリイソシアネート化合物(B)とからなり、かつ前記(B)中のイソシアネート基と前記(A)中の水酸基の当量比(NCO/OH)が(0.2/1〜1.3/1)である混合物を結合剤とする溶剤型塗料組成物において、塗料粘度(フォードカップNo.4/20℃)95秒の条件下で、チキソトロピー係数が1.3〜3.0となるように粘性付与剤を含有せしめたことを特徴とする、塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、耐候性、耐汚染性等に優れた塗膜を形成する塗料組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から鋼板、アルミニウム板、ステンレス板等の金属をはじめ、各種被塗物に、防食性等の各種性能を付与させるとともに美観を付与させるためには通常塗料が塗装されている。
ところで一般に広く使用されているアクリル樹脂系、ポリエステル樹脂系等の塗料を塗装すると、特に屋外においては数年すると塗膜自体にチョーキング等が生じ、防食性等の塗膜性能が低下するばかりでなく、美観も悪くなるといった問題点があった。
【0003】
そこで近年、チョーキング等の生じにくい長期耐候性に優れた主鎖にフッ素原子が結合した溶剤可溶性含フッ素共重合体を結合剤とするフッ素樹脂系塗料が注目されるようになってきた。
しかしながら該フッ素樹脂系塗料も、各種塗膜性能を長期間維持し、健全なる塗膜を有しているにもかかわらず、次第に汚れが生じ美観が低下し、またいったん汚れが生じると汚れが取れにくいといった問題点があった。このように汚れが生じる原因は、定かではないが、恐らく塗膜の劣化とは違った次のことが原因と考えられる。
【0004】
すなわち塗膜は、目視上平滑な塗面であるように見えても、特に顔料を配合した場合、ミクロ的に見ると塗面は微小の凹凸を形成しており、その凹部に汚染物質が入り込み、汚れが生じるようになり、かつ付着した汚染物質が除去しにくくなるものと考えられる。
このようにフッ素樹脂系塗料は、各種塗膜性能を長期間維持出来る特徴を有するものの、美観の点で問題があり、商品価値を十分発揮出来ず、そのため耐汚染性の改良が強く望まれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、各種塗膜性能を長期間維持出来る前記フッ素樹脂系塗料の特徴を生かしつつ、かつ耐汚染性に優れたフッ素樹脂系塗料組成物を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は数平均分子量が3,000〜30,000、水酸基価が60〜150、酸価が1〜10である、主鎖にフッ素原子が結合し、かつフルオロオレフィン成分としてクロロトリフルオロエチレンを使用した溶剤可溶性含フッ素共重合体(A)とポリイソシアネート化合物(B)とからなり、かつ前記(B)中のイソシアネート基と前記(A)中の水酸基の当量比(NCO/OH)が(0.2/1〜1.3/1)である混合物を結合剤とする溶剤型塗料組成物において、塗料粘度(フォードカップNo.4/20℃)95秒の条件下でチキソトロピー係数(Thixotropy Index)が1.3〜3.0となるように粘性付与剤を含有せしめたことを特徴とする塗料組成物に関するものである。 以下本発明を詳細に説明する。
【0007】
本発明の塗料組成物は、溶剤可溶性含フッ素共重合体(A)とその架橋剤であるポリイソシアネート化合物(B)とからなる結合剤、有機溶剤及び粘性付与剤とを必須成分とし、必要に応じ通常の塗料用に使用されている各種着色顔料(フレーク状金属顔料、パール顔料等も含む)、体質顔料、アクリル樹脂等の改質樹脂、さらに帯電防止剤、硬化促進剤、紫外線吸収剤、カップリング剤等の各種添加剤などを配合せしめたものから構成される。
【0008】
本発明において使用される前記含フッ素共重合体(A)は、例えば水酸基含有の含フッ素共重合体に、カルボキシル基を導入する方法(イ)、カルボキシル基含有の含フッ素共重合体に、水酸基を導入する方法(ロ)等により製造されたものが代表的なものとして使用出来る。
前記方法(イ)は、クロロトリフルオロエチレン、水酸基含有ビニルモノマー及びその他ビニルモノマーを常法に従って共重合し、水酸基含有の含フッ素共重合体を製造し、それにカルボキシル基を導入する方法である。
【0009】
前記水酸基含有ビニルモノマーとしては、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類、ヒドロキシブチルアリルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル等のアリルエーテル類、ヒドロキシエチル(メタ)アタリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アタリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類等が代表的なものとして挙げられる。前記その他ビニルモノマーとしては、例えばシクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、酢酸ビニル、乳酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステル類、メチル(メタ)アタリレート、エチル(メタ)アタリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類等が代表的なものとして挙げられる。
【0010】
水酸基含有の含フッ素共重合体は、クロロトリフルオロエチレンが20〜70モル%、水酸基含有ビニルモノマーが10〜50モル%、その他ビニルモノマーが5〜70モル%の割合で共重合せしめたものが適当である。このような水酸基含有の含フッ素共重合体の製造方法としては、例えば特開昭57-34107号、特開昭61-176620号、特開昭62-7767号、特開平4-85369号等の公報に記載されている方法が挙げられる。このような水酸基含有の含フッ素共重合体へのカルボキシル基の導入方法としては、例えば特開昭58-136605号、特開昭62-50306号等の公報に記載されている如く、無水コハク酸、無水フタル酸、無水イタコン酸等の多塩基性酸無水物を反応させる方法や特開平1-113451号等の公報に記載されている如く、イソシアネート基含有ビニルモノマーを介してカルボキシル基含有ビニルモノマーを含むビニルモノマーをグラフト化反応させる方法等がある。
【0011】
前記方法(ロ)は、クロロトリフルオロエチレン、カルボキシル基含有ビニルモノマー及びその他ビニルモノマーを常法に従って共重合し、カルボキシル基含有の含フッ素共重合体を製造し、それに水酸基を導入する方法である。
その他ビニルモノマーの具体例としては、前述のものと同様のものが挙げられる。カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、モノブチルフマレート、モノブチルマレート等の不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル類、モノビニルアジペート、モノビニルフタレート等のモノビニルエステル類、クロトン酸等が代表的なものとして挙げられる。
カルボキシル基含有の含フッ素共重合体は、クロロトリフルオロエチレンが20〜70モル%、カルボキシル基含有ビニルモノマーが5〜30モル%、その他ビニルモノマーが25〜70モル%の割合で共重合せしめたものが適当である。このようなカルボキシル基含有の含フッ素共重合体製造方法としては、例えば特開平3-292347号等の公報に記載されている方法が挙げられる。
【0012】
このようなカルボキシル基含有の含フッ素共重合体への水酸基の導入方法としては、カルボキシル基との反応性を有するグリシジル基やアミノ基等の官能基含有ビニルモノマーを介して水酸基含有ビニルモノマーを含むビニルモノマーをグラフト化反応させる方法等がある。
本発明で使用するこのような含フッ素共重合体(A)は、主鎖にフッ素原子が結合した、通常の塗料用有機溶剤に可溶性の共重合体であり、かつ数平均分子量が3,000〜30,000、好ましくは5,000〜15,000、水酸基価が60〜150、好ましくは80〜120、酸価が1〜10、好ましくは2〜8のものである。
なお、数平均分子量が前記範囲より小さいと得られる塗膜の各種物理的、化学的性能が不十分となり、一方前記範囲より大きいと塗装作業性、塗膜仕上り外観が悪くなるのでいずれも好ましくない。
【0013】
また水酸基価が前記範囲より小さいと得られる塗膜の架橋密度が不十分となり、耐汚染性等が悪くなり、一方前記範囲より大きいと、ヌレ性が悪く、リコート密着性が悪くなるのでいずれも好ましくない。
また酸価が前記範囲より小さいと硬化性が悪くなり、一方前記範囲より大きいと塗料の安定性が低下し、得られる塗膜の耐水性等も悪くなるのでいずれも好ましくない。
【0014】
本発明において使用される前記ポリイソシアネート化合物(B)としては、通常の塗料用ポリイソシアネート化合物が使用可能であるが、特に本発明においては非黄変性ポリイソシアネート化合物が好適である。該非黄変性ポリイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート等の脂肪族もしくは脂環族ジイソシアネート、あるいはこれらのビューレット体、二量体、三量体、あるいはこれらポリイソシアネート化合物の過剰量とエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の低分子量ポリオールとの反応生成物など遊離イソシアネート基を有する化合物;これら遊離イソシアネート基を有する化合物をフェノール類、アルコール類、オキシム類、ラクタム類、アミン類等のマスク剤でマスクしたブロックポリイソシアネート化合物等が代表的なものとして挙げられる。
【0015】
なお、遊離イソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物の場合は、含フッ素共重合体(A)を含む主剤成分に、塗装直前に混合する二液型塗料の形態で使用され、常温でも硬化させることが可能である。一方ブロックポリイソシアネートの場合は、一液型塗料の形態で使用され、焼付により硬化させるものである。
前記有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶剤、エチルセロソルブ等のエーテル系溶剤等が代表的なものとして挙げられる。
【0016】
本発明において使用される前記粘性付与剤は、塗料組成物をチキソトロピック性にし、得られる塗膜表面の微小の凹凸発生を解消し、それにより耐汚染性をよくするために配合するものである。
粘性付与剤としては、具体的にはセルロースアセテートブチレート、エチルセルロースアセテートブチレート、エチルセルロース、アセチルセルロース等の繊維素誘導体、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、オクチル酸アルミニウム、有機ベントナイト、ホワイトカーボン、脂肪族アマイド、ロジン系樹脂、ポリエチレン、ミクロゲル樹脂粒子、ポリイソシアネート-アミン反応物等が代表的なものとして挙げられる。
【0017】
本発明の塗料組成物は、以上説明した含フッ素共重合体(A)とポリイソシアネート化合物(B)とからなる結合剤、有機溶剤及び粘性付与剤を必須構成成分とするものであるが、これら配合割合は、以下の割合が適当である。
含フッ素共重合体(A)とポリイソシアネート(B)との割合は、前記(B)中のイソシァネート基と前記(A)中の水酸基の当量比(NCO/OH)が(0.2/1〜1.3/1)、特に好ましくは(0.5/1〜1.1/1)である。
なお、当量比が前記範囲より大きいと得られる塗膜の耐水性等が低下し、一方前記範囲よりも小さいと架橋密度が小さくなり、得られる塗膜の耐汚染性等が悪くなるのでいずれも好ましくない。
これら両者からなる結合剤は、塗料中10〜70重量%、好ましくは20〜60重量%が適当である。
【0018】
有機溶剤は、塗装時の粘度を調整するための希釈溶剤を含め、塗料固形分が20〜70重量%、好ましくは30〜60重量%になるような量が適当である。
また粘性付与剤は、塗料粘度(フォードカップNo.4/20℃)95秒の条件下で、チキソトロピー係数が1.3〜3.0、好ましくは1.4〜2.5となるような量が適当である。この範囲のチキソトロピー係数の塗料は、微小の凹凸表面を有する塗膜が形成されず、平滑な塗面となり、仮に凹凸が生じてもそれはなだらかなもので、微小の凹凸とならず、そのため汚染物質が凹部に入り込まず、汚染物質が付着しても簡単に除去出来る塗膜となり、耐汚染性の優れた塗膜となる。
なお、本発明で言うチキソトロピー係数は、SB型粘度計のローターNo.4をセットし、塗料中に挿入後、回転を与え、回転数6r.p.m.と60r.p.m.の2点の見掛け粘度を測定した両者の比、すなわち[(6r.p.m.の時の見掛け粘度)/(60r.p.m.の時の見掛け粘度)]の値である。
必要に応じ配合する顔料は、塗料中0〜60重量%、好ましくは0〜40重量%が適当である。
【0019】
次に本発明の塗料組成物を使用した塗膜形成方法につき説明する。各種被塗物を必要に応じ付着力を向上せしめるために、化成皮膜処理、アルマイト処理、エッチング処理等の表面処理、プライマー塗布あるいはキレート剤、カップリング剤塗布等の処理をした後、本発明の塗料組成物をエアースプレー、エアレススプレー、静電スプレー、シャワーコート、ディップ塗装、ロール塗装等の手段により乾燥膜厚が約10〜200μmになるように塗装し、前記架橋剤であるポリイソシアネート化合物の選択により、常温乾燥から120〜170℃、10〜30分間の低中温焼付、あるいは200〜230℃、30〜200秒間の高温短時間焼付を行ない、前記優れた塗膜を形成することが出来る。
【0020】
【発明の効果】
本発明の塗料組成物は、特定の含フッ素共重合体とポリイソシアネート化合物からなる結合剤を使用し、かつ特定のチキソトロピー係数を付与する粘性付与剤を配合しており、その結果得られる塗膜は、架橋密度の高い繊密で、平滑な塗膜となり、耐候性とともに耐汚染性の優れたものが出来る。
【0021】
【実施例】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、実施例中「部」、「%」は重量基準で示す。
【0022】
<含フッ素共重合体ワニス(A-1)〜(A-4)の調製>
表1に示す配合割合(単位:%)のクロロトリフルオロエチレン、4-ヒドロキシ-n-ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル及びエチルビニルエーテルからなるモノマーを特開昭製した。
次いで該57-34107号公報に記載の方法に従って、重合させ含フッ素共重合体のキシレン溶液を調溶液の固形分100重量部に対して無水コハク酸をそれぞれ0.36部、0.9部、0.9部添加した混合物を、温度計、撹搾機及び還流冷却器を備えたフラスコ中にて、160℃で、1時間反応させ、固形分50%の含フッ素共重合体ワニス(A-1)〜(A-3)を調製した。
なお、表1中の含フッ素共重合体ワニス(A-4)は無水コハク酸で反応を行っていない、固形分50%の含フッ素共重合体のキシレン溶液である。
【0023】
【表1】

<アクリル樹脂ワニスの調製>
メチルメタクリレート30部、ブチルメタクリレート20部、2-エチルヘキシルアクリレート37部、メタクリル酸1部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート12部からなるモノマーを、キシレンと酢酸ブチルからなる混合溶剤中で、常法に従って溶液重合し、固形分60%のアクリル樹脂(数平均分子量15,000、水酸基価50)ワニスを調製した。
【0024】
<架橋剤B-1>
ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体であるシアヌレート環を有するポリイソシアネート55.5部をメチルエチルケトン20部に溶解し、これにメチルエチルケトンオキシム24.5部を加え、反応させたブロックイソシアネート溶液(NCO当量360、固形分80%)を調製した。
【0025】
<架橋剤B-2>
ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体であるシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物(NCO当量199、固形分100%)を調製した。
【0026】
(実施例1〜5及び比較例1)
表2に示す結合剤成分100部に、酸化チタン50部、ホワイトカーボン1部とポリエチレンペースト[商品名「ディスパロン4200-20」(楠本化成社製)]1部からなる粘性付与剤、紫外線吸収剤2部、キシレン9部及び酢酸ブチル9部を混合分散し、塗料粘度(フォードカップNo.4/20℃)95秒で、チキソトロピー係数2.0のソリッド塗料を調製した。塗装直前に、キシレンと酢酸ブチル(2:1)からなる希釈溶剤で希釈し、塗料粘度を20秒に調整した。
なお、実施例4は、架橋剤を希釈前で、かつ塗装直前に混合したものである。(前記チキソトロピー係数は架橋剤を加えた時の値である。)
前記粘度調整したソリッド塗料を下塗塗膜を施したアルミ板に乾燥膜厚35μmになるようスプレー塗装し、乾燥させた。なお、乾燥条件は実施例1〜3,5及び比較例1は160℃×20分間焼付、実施例4は120℃×20分間焼付で行なった。
得られた試験板につき、付着性、促進耐候性及び促進汚染性の各試験をし、その結果を表3に示した。
【0027】
(比較例2)
表2に示す結合剤成分100部に、酸化チタン50部、紫外線吸収剤2部、キシレン9部及び酢酸ブチル9部を混合分散し、塗料粘度(フォードカップNo.4/20℃)95秒でチキソトロピー係数1.0のソリッド塗料を調製した。塗装直前に、キシレンと酢酸ブチルの(2:1)からなる希釈溶剤で希釈し、塗料粘度を20秒に調整した。
粘度調整したソリッド塗料を実施例1と同様にして塗装し、各試験をし、その結果を表3に示した。
【0028】
(実施例6〜9及び比較例3)
表2に示す結合剤成分100部に、アルミニウムペースト[商品名「アルミペースト1109MA」(東洋アルミ社製)]10部、ホワイトカーボン1部とポリエチレンペースト「ディスパロン4200-20」1部からなる粘性付与剤、紫外線吸収剤2部、キシレン9部及び酢酸ブチル9部を混合分散し、塗料粘度95秒で、チキソトロピー係数1.6のメタリック塗料を調製した。塗装直前にキシレンと酢酸ブチル(2:1)からなる希釈溶剤で希釈し、塗料粘度を20秒に調整した。
なお、実施例9は、架橋剤を塗装直前に混合した。
前記粘度調整したメタリック塗料を下塗塗膜を施したアルミ板に乾燥膜厚30μmになるようスプレー塗装し、乾燥させた。次いでアルミニウムペーストを除く以外は同様の組成で、かつ同様のチキソトロピー係数を有するクリヤー塗料を乾燥膜厚15μmになるようスプレーにて塗り重ね、乾燥させた。
【0029】
なお、乾燥条件は、実施例6〜8及び比較例3は、160℃×30分間焼付、実施例9は、120℃×20分間焼付で行なった。
得られた試験板につき、実施例1と同様にして各試験をし、その結果を表3に示した。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

表3からも明らかの通り本発明の塗料組成物を使用した実施例1〜9は優れた耐候性とともに耐汚染性も良好であった。
一方水酸基価60未満の含フッ素共重合体を使用した比較例1,3及びチキソトロピー係数1.3未満の塗料組成物を使用した比較例2は、優れた耐候性を有するものの耐汚染性が不良であった。
 
訂正の要旨 訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の「主鎖にフッ素原子が結合した溶剤可溶性含フッ素共重合体(A)」を、「主鎖にフッ素原子が結合し、かつフルオロオレフィン成分としてクロロトリフルオロエチレンを使用した溶剤可溶性含フッ素共重合体(A)」と訂正する。
訂正事項b
【0006】の「主鎖にフッ素原子が結合した溶剤可溶性含フッ素共重合体(A)」を、「主鎖にフッ素原子が結合し、かつフルオロオレフィン成分としてクロロトリフルオロエチレンを使用した溶剤可溶性含フッ素共重合体(A)」と訂正する。
訂正事項c
【0008】の「フルオロオレフィン」を「クロロトリフルオロエチレン」と訂正する。
訂正事項d
【0008】の「前記フルオロレフィンとしては、例えばフッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等が代表的なものとして挙げられる。」を削除する。
訂正事項e
【0010】の「フルオロオレフィン」を「クロロトリフルオロエチレン」と訂正する。
訂正事項f
【0011】の「前記方法(ロ)は、フルオロオレフィン」を「前記方法(ロ)は、クロロトリフルオロエチレン」と訂正する。
訂正事項g
【0011】の「カルボキシル基含有の含フッ素共重合体は、フルオロオレフィン」を「カルボキシル基含有の含フッ素共重合体は、クロロトリフルオロエチレン」と訂正する。
異議決定日 2002-01-23 
出願番号 特願平6-21208
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C09D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 花田 吉秋
特許庁審判官 山田 泰之
鈴木 紀子
登録日 2000-09-01 
登録番号 特許第3104896号(P3104896)
権利者 大日本塗料株式会社
発明の名称 塗料組成物  
代理人 山下 穣平  
代理人 目次 誠  
代理人 山下 穣平  

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