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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1059568
異議申立番号 異議2001-73417  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-07-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-20 
確定日 2002-06-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第3179907号「プレコート金属板用塗料およびプレコート金属板」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3179907号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
特許第3179907号(平成4年12月18日出願、平成13年4月13日設定登録)の請求項1〜3に係る発明は(以下、「本件発明1〜3」という。)、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された以下のとおりである。
「【請求項1】 ポリフッ化ビニリデン (A) とアクリル樹脂 (B) との混合物からなる樹脂組成物を主成分として含有する塗料において、当該アクリル樹脂 (B) が熱可塑性アクリル樹脂 (p)と未硬化の熱硬化性アクリル樹脂 (s)との配合物であり、その配合の割合が重量比で(p):(s)=15:85〜90:10の範囲であって、前記ポリフッ化ビニリデンと相溶性を有することを特徴とするプレコート金属板用塗料。
【請求項2】 ポリフッ化ビニリデン(A)とアクリル樹脂(B)との混合物からなる上記樹脂組成物は、その混合の割合が重量比で(A):(B)=50:50〜90:10の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のプレコート金属板用塗料。
【請求項3】 請求項1に記載の塗料を塗布してなるプレコート金属板であって、金属板の少なくとも一方の面に前記塗料による上塗り塗膜を有することを特徴とするプレコート金属板。

2.特許異議の申立ての理由の概要
異議申立人 浅野みどりは、甲第1号証(米国特許第4659768号明細書)及び甲第2号証(米国特許第4314004号明細書)を提出し、請求項1〜3に係る発明は甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本件特許は取り消されるべきものであると主張している。

3.甲各号証の記載事項
甲第1号証には、(a-1)「1.樹脂固形分の全重量に基づく重量割合で、少なくとも45%のフルオロカーボンポリマーを、3〜8%の2-ヒドロキシエチルアクリレート及び非反応性モノエチレン系不飽和モノマーから本質的になる残余量を含む少なくとも約10%のヒドロキシ官能基含有有機溶剤可溶性コポリマー、及び該ヒドロキシ官能基含有コポリマーを硬化させる量のアミノプラスト硬化剤と共に溶解して含有する揮発性有機溶剤からなることを特徴とする熱硬化性溶剤溶液コーティング組成物。」(特許請求の範囲第1項)
(a-2)非反応性モノマ-について、「7.該非反応性モノマ-が炭素数1〜12のアルコールとアクリル酸及びメタクリル酸とのエステルからなるクレ-ム6記載のコーティング組成物。・・・9.該メチルメタクリレートが55%〜65%の量で存在し、残余のコポリマー成分はエチルアクリレートであるクレーム7記載のコーティング組成物。」(特許請求の範囲第7〜9項)
(a-3)技術分野について、「本発明は、熱硬化性アクリル系と組合わされたフルオロカーボンポリマーを含有する溶剤溶液コーティング組成物に関する。」(第1欄7〜9行)
(a-4)背景技術として、「2.背景技術 アクリル系コポリマーと組み合わせた、フルオロカーボンポリマー、特にポリビニリデンフルオライドホモポリマーを含有する溶剤溶液コーティング組成物は公知である。これらのコーティング組成物においてそのいくつかは、熱可塑性アクリルコポリマーが、硬化剤の不存在下で使用されたが、・・・焼付けたコーティングを外部に曝したとき、垂直でない表面上に特に水斑点(ウオーター・スポット)を生ずる傾向がある。また、コーティングか有機溶剤によって侵食された。この種の溶液コーティングは、・・・米国特許第4,314,004号に示されている。
これらの不十分さは熱硬化性アクリルコポリマーおよびアクリルコポリマーを含む熱硬化システムを使用することによって最小にすることができることが見出されている。しかし、・・・これらは外部に長く暴露すると変色し、光沢を失う傾向があり、・・・以前の特に満足な熱硬化性アクリルコポリマーは、アミノプラスト硬化剤と組合せた2-ヒドロキシエチルアクリレートを含有するコポリマーを基材とするものであったが・・・2-ヒドロキシエチルアクリレートの通常の割合は約15%であった。・・・」(第1欄10行〜43行)
(a-5)フルオロカーボンポリマーについて、「フルオロカーボンポリマーは、好ましくはビニリデンフルオライドのホモポリマー、すなわち、ポリビニリデンフルオライドであるが、・・・フルオロカーボンポリマーの好ましい割合は、約70〜約80%である。」(第1欄64行〜第2欄9行)
(a-6)ヒドロキシ官能基を有する溶液コポリマーについて、「ヒドロキシ官能基を有する溶液コポリマーは、必要量の2-ヒドロキシエチルアクリレートを含有するモノエチレン系不飽和モノマーのフリーラジカル重合開始剤の存在下で溶液共重合によって製造されるコポリマーである。他のモノマーは、炭素原子1〜12個、好ましくは1又は2個を有するアルコールとのアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルである。・・・最も好ましくは55〜65%のメチルメタクリレート及び残余量のエチルアクリレートからなるものである。約1%までの少量のアクリル酸又はメタクリル酸のようなカルボン酸は許容できる。水酸基含有コポリマーは、好ましくは15〜30%、最も好ましくは21〜25%まで使用される。」(第2欄10行〜27行)
(a-7)ヒドロキシ官能基含有コポリマーからなるアクリル系熱硬化性樹脂の具体的な合成例として、「・・・対照樹脂・・・2-エトキシエチルアセテート595g、キシレン169g、メチルメタアクリレート1316g、エチルアクリレート431g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート308g、ジーtーブチルパーオキサイド7.6gおよびベンゾイルパーオキサイド8.6gを添加することにより、モノマー溶液を調製・・・溶剤混合物が135℃に達したとき、モノマー溶液の添加を開始・・・撹拌しながら、連続的に、3時間かけて、添加・・・する。添加を完了した後、得られるポリマー溶液を135℃でさらに2時間撹拌して、大部分のモノマーをコポリマーに転化させる。・・・樹脂1g当りのヒドロキシル価 60±3mgKOH。
実験樹脂・・・メチルメタクリレート1323g、エチルアクリレート473gおよび2-ヒドロキシエチルアクリレート94gの混合物を調製・・・t-ブチルパーベンゾエート38gをキシレン200gに添加して、開始剤溶液を調製・・・モノマーおよび開始剤溶液の添加を、・・・開始する。この添加は、・・・撹拌しながら3時間かけて、連続的に行い、温度は、125±2℃に維持・・・する。添加が完了した後、得られるコポリマー溶液を125℃でさらに1時間撹拌する。この後、t-ブチルベンゾエート4gを添加し、溶液をさらに1時間混合する。最後に、この溶液を冷却し、適当な容器に注ぐ。
・・・樹脂1g当りのヒドロキシル価23±3mgKOH」(第2欄61行〜第3欄57行)
(a-8)熱硬化性溶剤溶液コーティング組成物の調製及び塗布された塗膜の性能について、「さらに特別に、ポリビニリデンフルオライドポリマー70%、コポリマー24%およびアミノプラスト硬化剤6%を含有するように、透明ポリビニリデンフルオライド溶液コーティング組成物を調製した。2種類のアミノプラスト硬化剤、すなわち、モンサント社製「レジメン740」およびアメリカンシアナミド社製「サイメル503」を使用した。この透明コーティングを黒ずんだ青銅色のポリビニリデンフルオライド下塗上にコーティングし、上塗した生成物を最高金属温度華氏480度(約249℃)で30秒間焼き付けた。
レジメン740と組み合わせた対照コポリマーを使用すると、色度の変化は6.7単位であり、56%の光沢しか保持されなかった。レジメン740とともに実験コポリマーを使用した場合には、色度の変化ははるかに小さく(0.8単位)、かつ、71%の光沢が保持された。・・・熱可塑性樹脂系を使用した場合には、光沢および光沢保持率は実験樹脂使用の場合とほぼ同じであった。すなわち、色度変化は小さく(1.1単位)、かつ、70%の光沢が保持された。しかし、熱可塑性樹脂系の水斑点耐性は熱硬化性樹脂系ほど良くなかった。・・・ポリビニリデンフルオライドポリマー70%、アクリルコポリマー22%および「レジメン740」5%使用した場合、・・・前記と同じように、黒ずんだ青銅色の下塗を焼き付け、デューサイクルウェザーオメーターに400時間暴露した後に、対照コポリマーは、4.6単位、色度が変化し、光沢は、9%しか保持されなかったのに対し、実験コポリマーでは色度変化は僅か1.4単位であり、かつ、その光沢の63%が保持された。上記の試験を、ポリビニリデンフルオライドポリマー50%、アクリルコポリマー40%および「レジメン740」10%の割合に変えて行った場合、・・・対照コポリマーは、6.6単位、色度が変化し、光沢は、17%しか保持されなかったのに対し、実験コポリマーでは色度変化は僅か1.8単位であり、かつ、その光沢の34%が保持された。」(第4欄3行〜52行)
と記載されている。

甲第2号証には、(b-1)フルオロカーボンポリマーを含有する溶剤コーティング組成物が塗布される基材に関して、「最も重要な基材は、下塗りされたアルミニウム、鉄のような下塗りされた金属基材である。これらの塗布された基材は、特に建設パネル産業において、有用である。塗布されるべき基材は通常塗装工程前に所望の物品に工作される。この発明の方法において使用される塗装組成物の優れたフレキシビリティのために、基材のコイルに平坦に塗布することができ、所望の塗布された物品に仕上げることができる。」(第2欄第11〜20行)と記載されている。

4.対比・判断
(a)本件発明1について
本件発明1のプレコート金属板用塗料と甲第1号証に記載の発明のコーティング組成物(特に前記摘記(a-1)参照)を対比すると、甲第1号証の「フルオロカーボンポリマー」は、前記摘記(a-5)の記載にみられるように好ましくはポリビニルデンフルオライドであるから、本件発明1の「ポリフッ化ビニリデン」に相当し、甲第1号証の「ヒドロキシ官能基含有有機溶剤可溶性コポリマー」は、前記摘記(a-6)の記載にみられるようにアクリル系コポリマーであるから、本件発明1のアクリル樹脂に相当し、また甲第1号証の「コーティング組成物」は本件発明1の「塗料」に相当する。
してみれば、両者は、いずれもポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂との混合物からなる樹脂組成物を主成分として含有する塗料である点で一致しており、さらに、甲第1号証に記載のコーティング組成物は溶剤溶液であるので、ヒドロキシ官能基含有有機溶剤可溶性コポリマーはポリフッ化ビニリデンに相溶性があるものと認めらるからアクリル樹脂がポリフッ化ビニリデンと相溶性を有する点でも一致しており、下記(1)、(2)の点で相違している。
(1)アクリル樹脂において、本件発明1が熱可塑性アクリル樹脂(p)と熱硬化性アクリル樹脂(s)との配合物であり、その配合の割合が重量比で(p):(s)=15:85〜90:10の範囲であるのに対し、甲第1号証に記載の発明が3〜8%の2-ヒドロキシエチルアクリレート及び非反応性モノエチレン系不飽和モノマーから本質的になる残余量を含むヒドロキシ官能基含有有機可溶性コポリマーのみである点 。
(2)塗料の塗布対象において、本件発明1がプレコート金属板用塗料であるのに対し、甲第1号証に記載の発明にはこの塗布対象についてふれるところがない点。
以下相違点1、2について検討する。
本件発明1は、プレコ-ト金属板用塗料として、従来の、ポリフッ化ビニリデンの融点を下げて結晶化を抑制し、プレコート金属板のプレス曲げや折り曲げ等の加工性を向上させるために、ポリフッ化ビニリデン樹脂にこの樹脂と相溶性のある非結晶性の熱可塑性アクリル樹脂を配合した、プレコート金属板の塗膜における経時変化による該加工性の劣化を改善する目的で、ポリフッ化ビニリデンからなるフッ素樹脂系塗料中のアクリル樹脂を熱可塑性のものと熱硬化性のものとを特定割合で配合した配合物とすることにより、プレコート金属板の製造後における経時変化において、塗膜の結晶化度の増加を有効に抑制し、該加工性の劣化を防ぐものである(本件特許公報の段落番号【0007】〜【0010】の記載参照)。
これに対し、甲第1号証に記載の発明のヒドロキシ官能基含有有機可溶性コポリマーは、前記摘記(a-3)及び(a-7)に記載されているように、必要量(3〜8%)の2-ヒドロキシエチルアクリレートを含有するモノエチレン系不飽和モノマーのフリーラジカル重合開始剤の存在下で溶液共重合によって製造されるコポリマーからなる熱硬化性アクリル樹脂であるから、本件発明1における熱可塑性のものと熱硬化性のものとを特定割合で配合した配合物であるアクリル樹脂とは明らかに異なるものである。
そして、甲第1号証に記載の発明のフッ素樹脂系塗料中のアクリル樹脂として3〜8%の2-ヒドロキシエチルアクリレート及び非反応性モノエチレン系不飽和モノマーから本質的になる残余量を含むヒドロキシ官能基含有有機可溶性コポリマーを用いる目的は、従来のフッ素樹脂系塗料中に熱硬化性アクリルコポリマー[アミノプラスト硬化剤とを組み合わせた2-ヒドロキシエチルメタクリレ-ト(通常の割合は約15%)を含有するコポリマ-]を配合する塗料(前記摘記(a-4)参照)を塗布した後の塗膜が時間経過後に変色し、光沢を失うのを防ぐためであり、熱硬化性アクリルコポリマーを配合する目的においても本件発明1と異なっている。
さらに、甲第1号証の塗膜の性能についての記載についてみても、前記摘記(a-8)に、実験樹脂(2-ヒドロキシエチルアクリレート成分の割合が5%のもの)を含む塗料を塗装した塗膜の方が対照樹脂(2-ヒドロキシエチルアクリレート成分の割合が15%のもの)を含む塗料により塗装した塗膜よりも、色度の変化が少なく、光沢が保持されることが示され、熱硬化性アクリルコポリマーの2-ヒドロキシエチルアクリレート成分の割合を15%から3〜8%に限定することにより、塗装した後の塗膜が時間経過後に変色し、光沢を失うのを防ぐことできることが示されているにすぎず、熱硬化性アクリルコポリマーを配合することにより、塗膜の経時変化による加工性の劣化の改善を示唆するものではない。したがって、本件発明1の塗膜の経時変化による加工性の劣化を改善する目的で、フッ素樹脂系塗料中のアクリル樹脂を熱可塑性のものと熱硬化性のものとを特定割合で配合した配合物とすることについては、甲第1号証には記載も、示唆もされていない。
また、甲第2号証には、フルオロカーボンポリマーを含有する溶剤コーティング組成物が塗布された基材として、本件発明1のプレコ-ト金属板の用途である建築物の内・外装材(本件特許公報の段落番号【0007】の記載参照)と関連がある、建設パネル産業において有用な金属板(前記摘記(b-1)参照)が記載されているにすぎない。したがって、甲第2号証には、プレコート金属板用塗料については記載も、示唆もされていない。
してみると、本件発明1は相違点(1)、(2)にあげられた構成を採用することにより、製造してから長期にわたって優れた加工性を維持することができる安定した品質のプレコート金属板を容易かつ確実に提供することができ、プレコート金属板の生産性を大幅に改善することができる効果を奏するものである(本件特許公報の段落番号【0045】の【発明の効果】の記載参照)から、上記構成は甲第1、2号証の記載から容易に想到しえるものではなく、その効果についても、甲第1、2号証から予測可能なものでもない。
よって、本件発明1は甲第1、2号証に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
なお、異議申立人は「3〜8%の2-ヒドロキシエチルアクリレート及び非反応性モノエチレン系不飽和モノマーから本質的になる残余量を含む少なくとも約10%のヒドロキシ官能基含有有機溶剤可溶性コポリマー」について、「3〜8%の2-ヒドロキシエチルアクリレート」、「及び該ヒドロキシ官能基含有コポリマーを硬化させる量のアミノプラスト硬化剤と共に溶解して含有する」とは、「未硬化の熱硬化性アクリル樹脂を3〜8%」を含むことを意味し、「非反応性モノエチレン系不飽和モノマーから本質的になる残余量」とは「熱可塑性アクリル樹脂を97〜92%」を含むことを意味し、本件発明1と甲第1号証に記載の発明は「ポリフッ化ビニリデンと熱可塑性アクリル樹脂とからなる樹脂成分の塗料に、さらに未硬化の熱硬化性アクリル樹脂を含有させて均一な相溶構造の塗料としたことを特徴とする金属板用塗料」である、すなわち、甲第1号証に記載の発明の塗料は、「ポリフッ化ビニリデンと熱可塑性アクリル樹脂及び熱硬化性アクリル樹脂」との組合せからなる塗料である旨主張している。
しかし、甲第1号証の熱硬化性溶剤溶液コーティング組成物のヒドロキシ官能基含有有機溶剤可溶性コポリマーは、前記摘記(a-6)に記載されているように、必要量(3〜8%)の2-ヒドロキシエチルアクリレートを含有するモノエチレン系不飽和モノマーのフリーラジカル重合開始剤の存在下で溶液共重合によって製造されるコポリマーであり、また、甲第1号証に記載されているヒドロキシ官能基含有コポリマーの具体的な合成例においても、前記摘記(a-7)に記載されているように、メチルメタクリレートとエチルアクリレートおよび2-ヒドロキシエチルアクリレートのモノマーの混合物を重合してコポリマーとしたものしか記載されていない。
してみると、上記「3〜8%の2-ヒドロキシエチルアクリレート及び非反応性モノエチレン系不飽和モノマーから本質的になる残余量を含む少なくとも約10%のヒドロキシ官能基含有有機溶剤可溶性コポリマー」は3〜8%の2-ヒドロキシエチルアクリレートモノマーと非反応性モノエチレン系不飽和モノマーとから重合されたヒドロキシ基を含有する熱硬化性のアクリル系コポリマーを意味するものであって、甲第1号証に記載の発明が、「ポリフッ化ビニリデンと熱可塑性アクリル樹脂及び熱硬化性アクリル樹脂」とを組合せた塗料であるとする異議申立人の主張は採用できない。

また、甲第1号証の背景技術の項において、フルオロカーボンポリマーと熱可塑性アクリルポリマーとを組み合わせた溶剤溶液コーティング組成物を用いた場合、塗装表面に水斑点が生じ、有機溶剤により浸食するか有機溶剤によって侵食される問題を有しているのに対し、「これらの不十分さは熱硬化性アクリルコポリマーおよびアクリルコポリマーを含む熱硬化システムを使用することによって最小にすることができることが見出されている。」(第1欄24〜26行)との記載がある。
この記載は一見、熱硬化性アクリルコポリマーとアクリルコポリマーすなわち熱硬化性アクリルコポリマー以外のアクリルコポリマーとを含む熱硬化システムであり、このアクリルコポリマ-として熱可塑性アクリルコポリマーも含まれるようにもとれる。
しかし、そのような場合であっても、フルオロカーボンポリマーと熱可塑性アクリルポリマーからなる塗料に熱硬化性コポリマーに混合する目的はあくまでも塗装表面に水斑点が生じ、有機溶剤により浸食する点を改善することを示しているにとどまり、甲第1号証のその他の記載を併せて考えてみても、ポリフッ化ビニリデンと熱可塑性アクリル樹脂からなる塗料をプレコート金属板の塗装に用いた場合、塗膜における経時変化による加工性が劣化すること及びフッ素樹脂系塗料中のアクリル樹脂を熱可塑性のものと熱硬化性のものとを特定割合の配合物とすることにより、製造後における経時変化において、塗膜の結晶化度の増加を有効に抑制し、加工性の劣化を防ぐことができることを示唆しているものではないので、この記載により上記判断が覆るものではない。

(b)本件発明2及び3に係る発明について
本件発明2は、本件発明1において、ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂との混合の割合の範囲を限定したものであり、本件発明3は、本件発明1の塗料を塗装したプレコ-ト金属板に関するものである。
本件発明2及び3は、本件発明1の構成を全て含むので該発明が容易になし得たものでない以上、上記したのと同様な理由により、本件発明2、3も甲第1、2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜3についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-05-07 
出願番号 特願平4-338832
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09D)
最終処分 維持  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 鈴木 紀子
井上 彌一
登録日 2001-04-13 
登録番号 特許第3179907号(P3179907)
権利者 川鉄鋼板株式会社
発明の名称 プレコート金属板用塗料およびプレコート金属板  
代理人 中村 盛夫  
代理人 小川 順三  

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