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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) E05C
管理番号 1060410
審判番号 無効2000-35524  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-01-14 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-09-27 
確定日 2002-06-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第3005596号発明「開き戸の地震時ロック方法及び地震検出方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3005596号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 経緯

本件特許第3,005,596号は、平成7年5月2日に出願(特願平7-143812号、優先日、平成6年5月12日、平成6年6月15日、平成6年8月8日、平成7年2月25日、平成7年4月26日)され、平成11年11月26日に登録され、平成12年9月27日に松下電工株式会社より無効審判の請求がされ、平成12年12月11日付で被請求人より審判事件答弁書が提出され、平成13年4月2日付で請求人より審判事件弁駁書が提出され、請求人に平成13年5月1日付けで、被請求人に平成13年9月3日付け(再送)で無効理由通知がなされたが、指定期間内に両当事者からは何ら応答がなかった。

第2 当事者の主張

1.請求人は、「特許第3,005,596号を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めることを請求の趣旨とし、無効理由として、
(1)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証の1に記載されたものであって、特許法第29条第1項第3号の規定に違反し、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである、
(2)本件特許の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証の1ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであって、それぞれ特許法第29条第2項の規定に違反し、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである、
(3)本件特許の請求項1、2に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、又明確でもなく、特許法第36条第4項、第6項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである
旨主張し、証拠方法として次の書証を提出する。
甲第1号証の1:米国特許第5152562号明細書、
甲第1号証の2:甲第1号証の1の翻訳、
甲第2号証:特開昭61-223654号公報、
甲第3号証:実願平1-28083号(実開平2-118873号)のマイクロフィルム、
甲第4号証:特開平5-302848号公報
2.一方、被請求人は、「審判請求は理由なし、審判費用は請求人の負担とする」ことを答弁の趣旨とし、請求人の無効理由は理由がない旨主張する。

第3 無効理由通知の内容

請求人に平成13年5月1日付けで、被請求人に平成13年9月3日付けでした無効理由通知の内容は下記のとおりである。

1.経緯
(省略)
2.本件発明

本件発明は、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のものと認められる。
「【請求項1】その安定位置から両方向にゆれ動き可能な本体側に設けられた振動体であって該振動体自体が開き戸の係止具に地震時に係止してロックする開き戸の地震時ロック方法
【請求項2】開き戸ロック装置の本体内の軌道に地震等の振動時に振幅を伴う動きが可能に球を収納し該球の一定以上の振幅を伴う動きに達するまでは前記ロック装置本体から開き戸へのロック作動をしない開き戸ロック装置の地震検出方法」
(以下、請求項1及び2に記載された発明を本件発明1及び2という。)

3.本件発明1について

3-1 本件特許出願前に頒布された刊行物
(1)刊行物1:米国特許第5,152,562号明細書(特許1992年10月6日)(無効審判請求人の提出した甲第1号証の1(訳文は甲第1号証の2))
(2)刊行物2:特開昭52-76722号公報

3-2 刊行物に記載された技術的事項について
(1)刊行物1には次の記載が認められる。
(ア)発明の名称「再セット可能なボールを有する衝撃起動錠」に関する発明が記載されており、
(イ)「発明の要点」として、1欄36行ないし66行において、「本発明の主たる目的は、常時は、キャビネットのドアの自由開口を許容するが、地震やその他の苛酷な衝撃の際には施錠して、キャビネットのドアが開口するのを阻止する、衝撃起動ロック装置を提供することにある。本発明の他の目的は、地震やその他の苛酷な衝撃の後に解錠状態に再セットする簡単で便利な方法を提供することにある。簡単に言うと、本発明の好適実施例は、キャビネットの内面に取り付けられるロックハウジングと、キャビネットのドアの内側に取り付けられ、スロットを有する係止部材とで構成されている。ロックハウジングには透孔が穿設され、キャビネットのドアが閉じると上記係止部材がロックハウジングの透孔に侵入するようになっている。ロックハウジングの内部において、ボールは常時ロックハウジングの透孔と係止部材のスロットの上方にある浅い凹部内に留まっている。囲繞体に苛酷な衝撃(例えば、地震)が発生すると、ボールは凹部から出て、係止部材のスロットに入る。ボールとロックハウジングの透孔の形状や大きさは、ボールが係止部材のスロット中に存在していることにより、係止部材が囲繞体から引き出されるのを阻止すると共に、キャビネットのドアを施錠して、ドアが開口するのを阻止できるように設定されている。本発明は、地震やその他の苛酷な衝撃の際に、キャビネットのドアが開口するのを阻止して、費用のかかる損傷や危険で複雑な破壊を排除する、便利で安価な装置を提供する。」と記載され、
(ウ)2欄26行ないし49行において、図1及び図2に関して、「さて、図1及び図2において、略長方形の箱形のロックハウジング10が、キャビネット14の内面に、取付タブ12を介して、ネジ30で取り付けられている。スロットを有する係止部材16は、キャビネットのドア18の内側に、ブラケット26で脱着可能に取り付けられている。ロックハウジングの内部において、ボール20は、ハウジング10の中空路25と係止部材16のスロット27の上方にある棚23に形成された浅い凹部22内に、常時は、留まっている。装置に苛酷な衝撃(例えば地震)がかかると、ボール20は棚23の凹部22から出て、通路25を落下して、係止部材16のスロット27に至ることとなる。ボール20は、係止部材16のスロット27内に存在することにより、ハウジング10から引き出せない充分な大きさを有しており、キャビネットのドア18の開口を阻止している。
本発明の好適実施例は、装置の衝撃に対する感度を調節する手段をも含む。
図1及び図2は、ボール20が常時留まっている凹部22の深さを変更するのに用いられる感度調節ネジ24を示している。この特徴により、使用者は、錠を作動するのこ必要な衝撃の痛烈さを調節することができる。」
と記載されている。
(2)刊行物2には次の記載が認められる。
(ア)発明の名称「対震ガス遮断弁」に関する発明が記載されており、
(イ)特許請求の範囲には、「バネの力にて弁体が回動、又は前後進して開閉する機構において、その弁体軸部に固設したストッパーと、上端に感震体である球、又は、円筒コロを上架する受皿を有し、受皿上面に感震体を転動自在の状態に上架し・・・たガス遮断弁。」と記載され、
(ウ)2頁左下欄9行ないし右下欄6行には、「地震発生時の振動、及び、プロパンガスボンベの転倒にて、作動軸(6)上端部に装架した受皿(7)凹面上に上架した感震体(3)が、受皿(7)より転落すると、・・・ガス通路を閉塞してガスを遮断する。」と記載されている。

3-3 対比、判断
(1)刊行物1には、上記3-2に記載した事項が記載されており、刊行物1に記載されたものにおいて、キャビネットに例えば地震のような衝撃がかかると、ボール20は棚23の凹部22から出て落下し、キャビネットのドア18の内側に取り付けられ係止部材16のスロット27に至り、ボール20が、係止部材16のスロット27内に位置することにより、キャビネットのドア18が開くのを阻止するのであり、また、地震は当然に振動を伴うから、当該ボールは地震の振動によって動いて凹部から落下することは明らかであるが、このボールは、感度調節ネジ24によって図1において右方向に押された状態となっていることから、地震発生時に、その安定位置である図1に破線で示された位置から左右にゆれ動き、振動するとは考えられない。
(2)したがって、本件発明1と刊行物1に記載されたものとは、
「その安定位置から動き可能な本体側に設けられた物体であって該物体自体が開き戸の係止具に地震時に係止してロックする開き戸の地震時ロック方法」
の点で一致し、本件発明1では、物体が、安定位置から両方向にゆれ動き可能な振動体であるのに対し、刊行物1に記載された物体は、そのようなものではない点で相違する。
(3)相違点に対する検討
刊行物2には、地震を感知するとガスを遮断する弁に関するものであるが、地震を感知する手段として、凹面となった受皿の上に感震体である球又は円筒コロを転動自在の状態に載せた構成が記載されており、地震発生時にこの感震体が受皿より転落して、ガス通路を閉塞しガスを遮断するものであることから、感震体である球又は円筒コロは、地震がない使用状態においては、受皿の凹面上において図に示されたように安定位置にあり、地震発生時には、凹面上において両方向にゆれ動き(つまり振動し)、そのゆれが大きくなると、受皿から落下するものと考えられる。
そうすると、刊行物2には、感震体として、本件発明1の相違点に係る構成が記載されていることになり、刊行物1、2に記載されたものは地震を感知すると作動する点において共通するから、刊行物1に記載されたもののボールに換えて、刊行物2に記載された球を適用して本件発明1の相違点に係る構成とすることは、当業者にとって容易に想到できた事項にすぎない。
したがって、本件発明1は、刊行物1、刊行物2に記載されたものから当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項に該当するものである。

4.本件発明2について

4-1 本件特許出願前に頒布された刊行物
(1)刊行物1:米国特許第5,152,562号明細書(特許1992年10月6日)(無効審判請求人の提出した甲第1号証の1(訳文は甲第1号証の2))
(2)刊行物2:特開昭52-76722号公報

4-2 刊行物に記載された技術的事項について
(1)上記刊行物1、2には、上記3-2に記載した事項が記載されていると認められる。
4-3 対比、判断
(1)刊行物1には、上記3-2に記載した事項が記載されており、刊行物1に記載されたものにおいて、キャビネットに例えば地震のような衝撃がかかると、ボール20は棚23の凹部22から出て落下し、キャビネットのドア18の内側に取り付けられ係止部材16のスロット27に至り、ボール20が、係止部材16のスロット27内に位置することにより、キャビネットのドア18が開くのを阻止するのであり、また、地震は当然に振動を伴うから、当該ボールは地震の振動によって動いて凹部から落下することは明らかであるが、このボールは、感度調節ネジ24によって図1において右方向に押された状態となっていることから、地震発生時に、その安定位置である図1に破線で示された位置から左右にゆれ動き、振幅を伴う動き、即ち、振動をするとは考えられない。
また、当該ボールが、棚23の凹部22から出て落下し、キャビネットのドア18の内側に取り付けられ係止部材16のスロット27に至る通路は、図2の平面図によれば、ロックハウジング10によって規制されており、この落下通路はボールの通路を規制する一種の軌道と見ることができる。
なお、地震を検知する装置において、地震発生時に感震球を円弧状の軌道に沿って振幅を伴う動きで転動させることは、無効審判請求人の提出した甲第4号証にも記載されているように、本件特許の出願前に公知の技術である。
(2)したがって、本件発明2と刊行物1に記載されたものとは、「開き戸ロック装置の本体内の軌道に地震等の振動時に動きが可能に球を収納し該球の一定以上の動きに達するまでは前記ロック装置本体から開き戸へのロック作動をしない開き戸ロック装置の地震検出方法」の点で一致し、本件発明2では、地震等の振動時に振幅を伴う動きが可能に球が収納され、該球の一定以上の振幅を伴う動きに達するまでは前記ロック装置本体から開き戸へのロック作動をしないようになっているのに対し、刊行物1に記載された球は、そのように作動しない点で相違する。
(3)相違点に対する検討
刊行物2には、地震を感知するとガスを遮断する弁に関するものであるが、地震を感知する手段として、凹面となった受皿の上に感震体である球又は円筒コロを転動自在の状態に載せた構成が記載されており、地震発生時にこの感震体が受皿より転落して、ガス通路を閉塞しガスを遮断するものであることから、感震体である球又は円筒コロは、地震がない使用状態においては、受皿の凹面上において図に示されたように安定位置にあり、地震発生時には、凹面上において両方向にゆれ動き、そのゆれが大きくなると、受皿から落下するものと考えられる。
そうすると、刊行物2には、感震体としての球は、地震等の振動時に振幅を伴う動きが可能となっており、該球の一定以上の振幅を伴う動きに達するまでは、球は、受皿の凹面上から落下することはなく、したがって、ガス通路を閉塞するように作動することはないのであって、また、刊行物1、2に記載されたものは地震を感知すると作動する点において共通するから、刊行物1に記載されたもののボールに換えて、刊行物2に記載された球を適用して本件発明2の相違点に係る構成とすることは、当業者にとって容易に想到できた事項にすぎない。
したがって、本件発明2は、刊行物1、刊行物2に記載されたものから当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項に該当するものである。

5.まとめ

以上のように、本件発明1及び2は、いずれも特許法第29条2項の規定に該当し特許を受けることができないものであって、特許法第123条第1項第2号の規定に該当する。

第4 無効理由通知について

上記無効理由通知は妥当である。

第5 まとめ

以上のとおりであって、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-01-21 
結審通知日 2002-01-24 
審決日 2002-02-05 
出願番号 特願平7-143812
審決分類 P 1 112・ 121- Z (E05C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 南澤 弘明  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 中田 誠
鈴木 公子
登録日 1999-11-26 
登録番号 特許第3005596号(P3005596)
発明の名称 開き戸の地震時ロック方法及び地震検出方法  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 橋爪 英彌  
代理人 平野 和宏  

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