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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23B
管理番号 1061097
異議申立番号 異議2001-72792  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-04-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-10-09 
確定日 2002-05-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3155453号「乳酸及び/又は乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3155453号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3155453号の請求項1に係る発明についての出願は、平成7年9月29日に特許出願され、平成13年2月2日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人 ピューラック・ジャパン株式会社により特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成14年3月8日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
ア.訂正事項a
発明の名称を「乳酸及び/又は乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法」から「乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法」と訂正する。
イ.訂正事項b
「飲食品中に乳酸及び/又は乳酸塩を1.0〜4.0重量%、トレハロースを0.3〜10.0重量%、塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを1.0重量%以上含有させることを特徴とする乳酸及び/又は乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法。」とある特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「飲食品中に乳酸塩を1.0〜4.0重量%、トレハロースを0.3〜10.0重量%、塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを1.0重量%以上含有させることを特徴とする乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法。」と訂正する。
ウ.訂正事項c
段落【0001】に記載の「………できる、乳酸及び/又は乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法に関する。」を、
「………できる、乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法に関する。」と訂正する。
エ.訂正事項d
段落【0010】に記載の「………特定割合の乳酸や乳酸塩とともに、………存在させることにより、乳酸及び/又は乳酸塩の有する微生物増殖抑制効果が一段と増強され、一般細菌類の増殖とともに、………」を、
「………特定割合の乳酸塩とともに、………存在させることにより、乳酸塩の有する微生物増殖抑制効果が一段と増強され、一般細菌類の増殖の抑制とともに、………」と訂正する。
オ.訂正事項e
段落【0011】に記載の「………即ち本発明の乳酸及び/又は乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法は、飲食品中に乳酸及び/又は乳酸塩を………」を、
「………即ち本発明の乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法は、飲食品中に乳酸塩を………」と訂正する。
カ.訂正事項f
段落【0012】に記載の「………本発明において用いる乳酸や乳酸塩には、………」を、
「………本発明において用いる乳酸塩には、………」と訂正する。
キ.訂正事項g
段落 【0013】に記載の「………弾力を改善するためにも有効である。乳酸や乳酸塩は適宜混合して用いることができ、乳酸カルシウム以外の乳酸塩や乳酸を使用する場合であっても、0.1重量%程度の乳酸カルシウムを併用することは、前記した理由から好ましい態様と言える。」を、
「………弾力を改善するためにも有効である。乳酸塩は適宜混合して用いることができ、乳酸カルシウム以外の乳酸塩を使用する場合であっても、0.1重量%程度の乳酸カルシウムを併用することは、前記した理由から好ましい態様と言える。」と訂正する。
ク.訂正事項h
段落 【0014】に記載の「………褐変させることがないため、褐変を嫌う飲食品に対する添加しも可能となる。」を、
「………褐変させることがないため、褐変を嫌う飲食品に対する添加も可能となる。」と訂正する。
ケ.訂正事項i
段落 【0015】に記載の「本発明において乳酸及び/又は乳酸塩の飲食品中における………、特に1.0〜5.0重量%が好ましい。乳酸及び/又は乳酸塩の飲食品中における………」を、
「本発明において乳酸塩の飲食品中における………、特に1.0〜5.0重量%が好ましい。乳酸塩の飲食品中における………」と訂正する。
コ.訂正事項j
段落 【0017】に記載の「………塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを存在せしめたことにより、特定割合の乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを併用した………」を、
「………塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを存在せしめたことにより、特定割合の乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを併用した………」と訂正する。
サ.訂正事項k
段落 【0019】に記載の「乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースの飲食品への添加方法、………練り製品を製造する際に、乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを添加する。………、ピックル液の中に乳酸及び/又は乳酸塩と………」を、
「乳酸塩とトレハロースの飲食品への添加方法、………練り製品を製造する際に、乳酸塩とトレハロースとを添加する。………、ピックル液の中に乳酸塩と………」と訂正する。
シ.訂正事項l
段落 【0020】に記載の「………食塩水中に、乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを添加しておく。………、漬物調味液に乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを添加すれば良い。………、二次調味の段階で調味液に乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースを添加するのが好ましい方法である。………、食塩とともに乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを添加して焼き上げて製品とする方法が採用される。」を、
「………食塩水中に、乳酸塩とトレハロースとを添加しておく。………、漬物調味液に乳酸塩とトレハロースとを添加すれば良い。………、二次調味の段階で調味液に乳酸塩とトレハロースを添加するのが好ましい方法である。………、食塩とともに乳酸塩とトレハロースとを添加して焼き上げて製品とする方法が採用される。」と訂正する。
ス.訂正事項m
段落 【0021】に記載の 「【作用】飲食品中に、1.0〜4.0重量%の乳酸及び/又は乳酸塩、………共存する場合において、乳酸及び/又は乳酸塩の微生物増殖抑制効果が………水の量が増し、自由水中の乳酸や乳酸塩の濃度が局部的に増大し、………しかしながら乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを併用すると、乳酸及び/又は乳酸塩の微生物増殖抑制効果が増強される………発揮される効果もある。」を、
「【作用】飲食品中に、1.0〜4.0重量%の乳酸塩、………共存する場合において、乳酸塩の微生物増殖抑制効果が………水の量が増し、自由水中の乳酸塩の濃度が局部的に増大し、………しかしながら乳酸塩とトレハロースとを併用すると、乳酸塩の微生物増殖抑制効果が増強される………発揮される効果もある。」と訂正する。
セ.訂正事項n
段落 【0026】に記載の「実施例6〜9、比較例2 SA級のスケソウダラの………これを冷水中に浸漬して常温の戻した後、………」を、「実施例7〜9、比較例2 SA級のスケソウダラの………これを冷水中に浸漬して常温に戻した後、…………」と訂正する。
ソ.訂正事項o
段落 【0027】に記載の【表3】中の「第二区 トレハロース1.5%、乳酸0.5% 実施例6」の欄を削除すると共に、「第三区」、「第四区」及び「第五区」をそれぞれ「第二区」、「第三区」及び「第四区」に訂正する。
タ.訂正事項p
段落 【0028】に記載の【表4】中の「第二区(実施例6)」の欄を削除すると共に、「第三区(実施例7)」、「第四区(実施例8)」及び「第五区(実施例9)」をそれぞれ「第二区(実施例7)」、「第三区(実施例8)」及び「第四区(実施例9)」に訂正する。

チ.訂正事項q
段落【0029】を削除する。
ツ.訂正事項r
段落【0030】を削除する。
テ.訂正事項s
段落【0031】を削除する。
ト.訂正事項t
段落【0037】に記載の「第五区(実施例13):………測定結果を表7に示す。」を、
「第五区(実施例13):………測定結果を表5に示す。」と訂正する。
ナ.訂正事項u
段落【0038】に記載の【表7】を【表5】に訂正する。
ニ.訂正事項v
段落【0039】に記載の「実施例14、比較例5 ………観察した結果を表8に示した。………」を、
「実施例14、比較例5 ………観察した結果を表6に示した。………」と訂正する。
ヌ.訂正事項w
段落【0041】に記載の【表8】を【表6】に訂正する。
ネ.訂正事項x
段落【0042】に記載の「………飲食品に乳酸及び/又は乳酸塩、トレハロースが特定の割合で………、一般細菌類のみならず、乳酸や乳酸塩の添加だけでは………しかも本発明方法によれば、乳酸や乳酸塩の添加量が少なくても優れた微生物抑制効果が得られるため、乳酸や乳酸塩の添加量は………また本発明方法は、乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースと共に、………共存させるようにしたことにより、乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを併用した効果が更に高められ、飲食品中における微生物増殖抑制効果が更に高められる。」を、
「………飲食品に乳酸塩、トレハロースが特定の割合で………、一般細菌類のみならず、乳酸塩の添加だけでは………しかも本発明方法によれば、乳酸塩の添加量が少なくても優れた微生物抑制効果が得られるため、乳酸塩の添加量は………また本発明方法は、乳酸塩とトレハロースと共に、………共存させるようにしたことにより、乳酸塩とトレハロースとを併用した効果が更に高められ、飲食品中における微生物増殖抑制効果が更に高められる。更にまた、トレハロース単独で添加した場合には冷凍耐性向上作用等のトレハロースの有する飲食品性状向上作用が期待通り発揮されない場合が多々あるにもかかわらず、トレハロースを乳酸塩と併用したことにより、トレハロースの食品組織内への浸透性が向上され、トレハロースの有する食品性状向上作用が十分に発揮される等の効果を有する。」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項bは、請求項1における「飲食品中に乳酸及び/又は乳酸塩を1.0〜4.0重量%」を、「飲食品中に乳酸塩を1.0〜4.0重量%」と限定し、「乳酸及び/又は乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法」を、「乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
また、上記訂正事項a、c、d、e、f、g、i、j、k、l、m、o、p、q、r、s、t、u、v、w及びxは、上記訂正事項bと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
さらに、上記訂正事項hは、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当し、上記訂正事項nは、上記訂正事項bと整合を図ると共に、誤記を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明及び誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、上記訂正事項a〜xは、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する第126条第2、3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 飲食品中に乳酸塩を1.0〜4.0重量%、トレハロースを0.3〜10.0重量%、塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを1.0重量%以上含有させることを特徴とする乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法。」

(2)申立ての理由の概要
異議申立人 ピューラック・ジャパン株式会社は、下記の甲第1号証〜甲第5号証を提出して、本件発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、特許を取り消すべきと主張している。

甲第1号証:北水試月報 第31巻 第11号(通巻940号)北海道立 水産試験場 23〜33頁
甲第2号証:北水試月報 第33巻 第1号(通巻954号)北海道立水 産試験場 19〜31頁
甲第3号証:特開平6-170221号公報
甲第4号証:FOOD MANUFACTUREーApril 1990
23頁
甲第5号証:並木満夫 他3名編「現代の食品化学」三共出版株式会社
昭和62年4月20日 8〜11頁

(3)甲各号証に記載の発明
甲第1号証には、イカ塩辛に対する乳酸添加の効果に関し「乳酸添加によりイカ塩辛の保蔵効果がはっきりとあらわれた。なお、ソルビットを併用した場合には更に塩辛の保蔵性は高くなり、ソルビット10%と乳酸を0.25%および0.5%添加のものは無添加の対照より50日遅く108日後にようやく塩辛の変敗が見られた。」(27頁)、及び「4.乳酸の添加量が0.25〜0.5%少ない場合でも塩辛の保蔵性は高まり、これにソルビットを併用すると一層保蔵効果が顕著となった。」(33頁)と記載されている。
甲第2号証には、グリセリンおよびキシロースのイカ塩辛に対する保蔵効果に関し「用塩量9%および12%のものを20℃で熟成貯蔵を行った結果は、キシロース5%添加のものでもかなり保蔵効果が見られ、これに酒精3%または乳酸0.25%を併用することにより更に保蔵効果が高まった。」(30頁)と記載されている。
甲第3号証には、「無水トレハロースは、例えば、皮むきバナナ、オレンジ、スライスした蒸し芋、開いた鯵、秋刀魚、生麺、ゆで麺、餅菓子などの表面に微生物汚染を受けやすい高水分含有食品の場合には、その表面に結晶性無水トレハロース粉末をまぶして、トレハロース含有結晶に変換せしめ、その表面の水分を実質的に低減し、これら食品の日持ちを向上し、品質を改良することから食品の防腐剤、安定剤、品質改良剤などとして有利に利用できる。」(6頁段落0051)と記載されている。
甲第4号証には、「トレハロースは限られたマウスクーリング効果(mouth cooling effect)を有するが、著しい甘味を有さないため、ほとんど甘味に影響しない。このことは、食品乾燥の適用分野では特に重要である。なぜならば、例えば、サッカロース(蔗糖)のような他の糖類は、ある種の生体分子(食品)に対してトレハロースと同様の保存作用を奏するが、最終製品は、原材料よりも不可避的に甘さが増してしまうからである。」(23頁中欄3行〜11行)と記載されている。
甲第5号証には、非電解質の溶質であれば1重量モル濃度程度であれば、水分活性はラウールの法則に従い、重量モル濃度の増加に比例して水分活性が低下することが記載されている。

(4)対比、判断
甲第1号証には、乳酸とともにソルビットを併用するとイカ塩辛の保蔵効果が更に高まることが、甲第2号証には、乳酸とともにキシロースを併用するとイカ塩辛の保蔵効果が更に高まることが記載されているが、これら刊行物には、乳酸に代えて乳酸塩をイカ塩辛の保存のために使用することについて何も記載されていない。
また、仮に乳酸塩を飲食品の保存剤として用いることが本件出願時公知であったとしても、甲第1号証及び甲第2号証には、乳酸に代えて乳酸塩を使用した場合でも、ソルビットあるいはキシロースとの併用によりイカ塩辛の保蔵効果が更に高まることを示唆する記載は何もない。
してみると、保存剤(防腐剤)としてトレハロースを飲食品に含有させることが甲第3号証及び甲第4号証に記載されているとしても、トレハロースと乳酸塩を併用すること、及びそれによって乳酸塩の微生物増殖抑制効果が増強されることは、当業者において容易に想到し得ることではない。
そして、本件発明は、平成14年3月8日付け意見書と同時に提出した「麺類の微生物増殖抑制効果実験成績報告書」(乙第2号証)の記載からも明らかなとおり、乳酸塩とトレハロースと塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを特定の割合で用いたことにより、トレハロースの代わりにソルビット、キシリトール、マルチトール等の他の糖類を用いた場合に比べて、顕著な微生物増殖抑制効果を奏するものである。
したがって、甲第5号証の記載を参酌するも、本件発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び提出した証拠方法によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 飲食品中に乳酸塩を1.0〜4.0重量%、トレハロースを0.3〜10.0重量%、塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを1.0重量%以上含有させることを特徴とする乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、飲食品類の食中毒細菌や腐敗を起こす微生物の発育を制御ないし遅延させ、飲食品類の安全な保存、流通、供給および腐敗等に伴う損失を防止することのできる、乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、各種の飲食品は、ますます多様化し、日本固有の飲食品に加えて、中華料理、ヨーロッパ風の各種の調理された飲食品、更には各種のエスニック料理と、それに伴う加工飲食品類等の登場によって、それらの飲食品類に関連する微生物も非常に多様化し、従来の概念では制御しきれないような微生物によって問題が発生する可能性が出てきている。
【0003】
更に近年は、消費者の飲食品に対する健康指向及び自然指向が非常に高まり、薄味や甘塩等と称する製品が多く製造され、その結果飲食品中に使用される食塩濃度は著しく低下し、昭和50年代以前に使用されていた濃度の半分ないし、極端な場合には1/4程度にまで低められるに到っている。この傾向は、漬物、佃煮等の惣菜類、各種の塩蔵の魚介類、食肉、イカやタコの塩辛、魚介類の干物等の和風食品のみならず、ハム、ソーセージ、ベーコン、サラダ等の洋風食品にいたる、広い範囲の食品に対して見られる傾向である。しかしながら、この結果、これらの飲食品類は、食塩によって得られていた浸透圧が低下し、水分活性が高い状態に保たれ、食中毒菌をはじめとする微生物にとっては、発育に都合の良い状況を作り出している。
【0004】
更に最近は女性の社会進出等が進む結果、次第に家庭内における調理が省略される傾向が進み、多くの食品が調理済食品となってスーパーマーケットやコンビニエンスストアーに並べられ、これらの食品もまた低い食塩濃度で調理されているので、微生物にとっては、発育に都合の良い環境がここでも提供されるようになってきている。
【0005】
これらの飲食品類の問題を解決するためには、例えば保存料や殺菌剤のような微生物の発育を抑制するような化学物質を使用することは簡単な解決方法の一つであるが、これらは飲食品に化学合成品という異物を添加することであり、飲食品の安全性からみても、あるいは飲食品に対する自然指向からしても、好ましい方法ではない。従って、最近は、自然に食品中に生成したり、古くから食品に使用されてきた天然物を利用して、飲食品中の微生物を制御しようとしている。
【0006】
更に、これらの問題を抱えた飲食品類の微生物の生育を制御ないし軽減するために、飲食品の包装に当たっては、クリーンルームやクリーンブースの中で行うことにより、飲食品への取扱中の微生物の汚染を著しく低下させたり、真空包装によって、包装内部の酸素を低下させて微生物の発育を制御したり、あるいは包装内部のガスを空気から酸素濃度んを低下させ窒素や炭酸ガスで置換することにより制御しようとしてきている。
【0007】
また、飲食品を低温、例えば10℃以下の温度で保存ないし流通させるとか、冷凍するとかの手段によって、飲食品の微生物を制御したりしているが、飲食品の中には、冷凍困難なものが少なからずあり、例えば、豆腐や蒲鉾のようなゲル状の食品や、調理済の飲食品類等は、冷凍によってその特徴が失われてしまうし、また低温で冷蔵する食品では、次第に低温を好む微生物が生育し、この中には食中毒細菌も幾種類も含まれるため、逆に飲食品を低温で保存したことによって発生する食中毒などが出てきている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
この問題を解決するために、より安全で自然な方法が探索されてきていたが、人工合成によらず醸造法で作った乳酸や乳酸塩類を使用して飲食品の微生物を抑制しようとする試みがなされてきており、特に欧米諸国では、乳製品、食肉、牛、豚、家禽などの屠体の微生物の制御、ローストビーフ、ソーセージ、生ハム、真空調理食品、更にはリバーソーセージ、幾つかの魚の切り身、エビ類、アメリカザリガニ等々における微生物の制御に利用され始めている。しかも乳酸や乳酸塩の抗菌作用は、微生物が発育を始める前の誘導期を延長させ、低温では特にその作用が著しいことも明らかにされてきているのである。
【0009】
しかしながら、乳酸や乳酸塩を使用して、飲食品の微生物を制御しようとする場合、幾つかの問題があり、これが天然の成分として飲食品の保存に最も適当であると認められているにもかかわらず、十分利用される範囲が広がらないという結果を招いていた。これらの問題とは、乳酸や乳酸塩類の抗菌力の強さがあまり強いものではないため、使用量が多くなり、そのため飲食品の味や風味に影響を与える虞れがあった。また、通常乳酸や乳酸塩は、多くの場合非常に水溶性が高く、吸湿性も高いため、水溶液の形でしか扱うことができず、乳酸あるいは乳酸塩を使用するに当たっては、乳酸あるいは乳酸塩とともに水を飲食品に添加してしまうことが起こる。乳酸や乳酸塩は細菌類に対する抗菌作用は有していても、酢酸やプロピオン酸等とは異なり、カビや酵母のような真菌類に対する抗菌作用は弱いと共に、上記したように乳酸や乳酸塩を添加する際に、必然的に遊離水も飲食品中に添加されることとなり、かえってカビ等の増殖を促してしまう虞れもあった。
【0010】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、本発明者等は特定割合の乳酸塩とともに、特定割合のトレハロースを飲食品中に併用して含有させ、更に飲食品中に1.0重量%以上の塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを存在させることにより、乳酸塩の有する微生物増殖抑制効果が一段と増強され、一般細菌類の増殖の抑制とともに、カビ等の真菌類の増殖も効果的に抑制できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0011】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明の乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法は、飲食品中に乳酸塩を1.0〜4.0重量%、トレハロースを0.3〜10.0重量%、塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを1.0重量%以上含有させることを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明において用いる乳酸塩には、L-型とD-型の2種類の異性体がある。通常、人や動物あるいは魚類等の筋肉中には0.7〜1.3重量%程度含まれている乳酸はL-型であり、D-型異性体は人体に摂取吸収され難く、WHOの評価によれば乳幼児には与えないことになっているため、人体に摂取吸収され易いL-型異性体を用いることが好ましい。しかしながら、微生物による醗酵によって生産される乳酸はL-型、D-型及び両者の混合物があり、微生物に対する抗菌作用は、L-型、D-型、両者の混合物で変わりがないことが判っているので、本発明の所期の目的を達成する上からは、L-型異性体、D-型異性体、或いはこれらの混合物のいずれを用いても良い。
【0013】
本発明において乳酸塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられるが、人体に対して無害で、飲食品の味や風味、テクスチャー等に影響を与えないものであれば良い。乳酸塩の種類は、食品の品質や市場、栄養学的な見地等から選択しても良い。例えば、ナトリウム塩を低塩化した魚肉練り製品は食肉製品に添加すると、低塩濃度のために失われている製品の弾力や水和性を回復させる効果を上げることができる。またカリウム塩は、食塩の摂取を抑制するために低い食塩濃度に調整された水産製品や食肉製品に対し、食塩の代わりに利用することができる。更にカルシウム塩は水溶性が高く、トランスグルタミナーゼが働く時の必須因子として要求されるカルシウムイオンの供給源となり、水産練り製品や食肉製品等の弾力を改善するためにも有効である。乳酸塩は適宜混合して用いることができ、乳酸カルシウム以外の乳酸塩を使用する場合であっても、0.1重量%程度の乳酸カルシウムを併用することは、前記した理由から好ましい態様と言える。
【0014】
本発明においてトレハロースとしては、天然に存在するα,α-トレハロースが好ましいが、α,β-トレハロース、β,β-トレハロースも用いることができる。トレハロースは蒲鉾等の水産練り製品、生ハム等の畜肉製品、餅菓子等の和菓子類等に添加しても、これらの製品を褐変させることがないため、褐変を嫌う飲食品に対する添加も可能となる。
【0015】
本発明において乳酸塩の飲食品中における含有量は1.0〜4.0重量%であるが、特に1.2〜1.8重量%が好ましい。またトレハロースの飲食品中における含有量は0.3〜10.0重量%であるが、特に1.0〜5.0重量%が好ましい。乳酸塩の飲食品中における含有量が1.0重量%未満であると、トレハロースと併用したとしても十分な抗菌作用が発現されない虞れがあり、また4.0重量%を超えると飲食品の風味等に影響を及ぼす虞れがある。一方、トレハロースの飲食品中における含有量が0.3重量%未満であると、カビ等の真菌類の増殖抑制が不充分となる虞れがあり、10.0重量%を超えると、カビ等の真菌類の増殖を抑制する上では有効であるが、飲食品の風味等に影響を与えるとともに、経済的に引き合わなくなる。
【0016】
尚、本発明の所期の効果を阻害しない範囲内において、トレハロースの一部を、例えばラフィノース、ラクチトール、ソルビトール、キシリトール、砂糖、マルチトール、或いは単糖類、オリゴ糖そのものないしはその混合物及びそれらの還元糖等の一種又は二種以上の混合と置き換えることができる。これらの糖類、還元糖は、トレハロース程ではないものの、トレハロースと同様の作用を有し、また味覚調整のために飲食品の製造時や、飲食品原料中にこれらの糖類、還元糖等が既に添加されている場合もある。このような場合には添加されている糖類、還元糖の量に応じてトレハロースの添加量を少な目にしても良い。
【0017】
本発明方法において、飲食品中に更に1.0重量%以上の塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを存在せしめたことにより、特定割合の乳酸塩とトレハロースとを併用したことによる微生物増殖抑制効果が更に向上せしめられる。従って、食塩の含有量が1.0重量%未満である飲食品の場合には、含有量が1.0重量%以上となるように塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを添加する。塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムの飲食品中における含有量の上限は、飲食品の種類によっても異なり、一概に定められないが、飲食品中における塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムの含有量が多すぎると飲食品の風味を損なうばかりか、特に塩化ナトリウムの場合には食塩摂取過多の問題を生じる。このため、塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを添加する場合には、飲食品の味、風味等を阻害したり、食塩摂取過多の問題を生じないような範囲で、1.0重量%以上の量を添加することが好ましい。
【0018】
本発明方法を適用し得る飲食品としては、竹輪、蒲鉾、ハンペン、揚げ蒲鉾等の水産練り製品;魚の切り身、魚介類の干物、魚介類の揚げ物;ハム、ソーセージ、ベーコン、ローストビーフ、焼き豚、カツ類、ハンバーグ等の食肉製品;カレー、惣菜、おじや、粥等のレトルト食品;うどんやソバ等の茄で麺や半生麺、エルエル麺、生中華麺、蒸し中華麺等の麺類;各種の漬物類、半生菓子、佃煮や惣菜の類;卵焼き等の卵加工食品;イカやタコの塩辛やサキイカ等の珍味類;餃子、シュウマイ、春巻き、豆腐、米飯類やおにぎり、餅、団子;練りウニ、練り梅、ワサビ、芥子、生姜、ニンニク等の練り調味料;パン、ケーキ、シュークリームや小麦粉フラワーペースト類;サンドイッチ等のスプレッド類やペースト類;セミモイスト型の各種ペットフードの類;オレンジ、グレープ、グレープフルーツ、パイナップル、リンゴ等の生ジュース類;各種乳酸飲料や乳酸菌飲料;ヨーグルトやチーズ等の乳製品;ワインやビール等の蒸留していない醗酵酒等が挙げられる。
【0019】
乳酸塩とトレハロースの飲食品への添加方法、添加時期等は、飲食品の製造形態、包装形態、飲食品原料の取扱方法、製造時の加熱温度や加熱方法、製品の保存や流通形態やその時の温度等に応じて異なる。例えば水産練り製品の場合、原料とする冷凍すり身を解凍して練り製品を製造する際に、乳酸塩とトレハロースとを添加する。食肉製品、例えば生ハムの場合、ピックル液の中に乳酸塩と(生ハムの場合には、通常食塩の半分程度の濃度の乳酸ナトリウムを添加する。)、同程度の量のトレハロースを添加溶解し、これを原料の豚肉に注入する。
【0020】
また麺類の場合には、原料小麦粉に添加する食塩水中に、乳酸塩とトレハロースとを添加しておく。各種漬物では、大部分の場合、漬物調味液に乳酸塩とトレハロースとを添加すれば良い。またイカやタコの珍味類では多くの場合、二次調味の段階で調味液に乳酸塩とトレハロースを添加するのが好ましい方法である。更に卵焼き等の卵加工食品では、調味料、食塩とともに乳酸塩とトレハロースとを添加して焼き上げて製品とする方法が採用される。
【0021】
【作用】
飲食品中に、1.0〜4.0重量%の乳酸塩、0.3〜10.0重量%のトレハロースとともに、更に1重量%以上の塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムが共存する場合において、乳酸塩の微生物増殖抑制効果が増強される理由は明らかではないが、おそらくトレハロースの存在により、単に水分活性の低下効果のみならず、トレハロースに固定される水の量が増し、自由水中の乳酸塩の濃度が局部的に増大し、その結果、自由水を利用することによって増殖できる微生物は著しく殺菌、静菌、発育抑制あるいは誘導期の延長を招くことになるのであろうと推測される。またトレハロースは飲食品の性状向上作用、例えば冷凍耐性向上作用等があることが知られているが、トレハロース単独で添加した場合には、期待通りの効果が得られない場合が多々ある。しかしながら乳酸塩とトレハロースとを併用すると、乳酸塩の微生物増殖抑制効果が増強されるのみならず、トレハロースの食品組織内への浸透性が向上され、トレハロースの食品性状向上作用が十分に発揮される効果もある。
【0022】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。尚、実施例、比較例において、%は重量%を意味する。
【0023】
実施例1〜5、比較例1
SA級のスケソウダラの冷凍すり身を、一夜室温にて解凍し、これを5kgずつ7等分し、表1に示すように添加剤無添加の対照品を除いて同表に示す添加剤を添加した。次いで、各すり身をサイレントカッター中で5分間攪拌し、次いで食塩2.0%、澱粉3.0%及び氷水5.0%を添加して、4分間サイレントカッターで混合した。これらの各すり身を160℃の大豆油で14分間揚げて揚げ蒲鉾とした。得られた揚げ蒲鉾は、硬さを評価するとともに、一般生菌数、乳酸菌数を測定した。この後、各揚げ蒲鉾を無菌的にプラスチック製の包装材で包装して10℃で保存した。保存期間中の所定日数経過後に、揚げ蒲鉾の硬さの評価及び一般生菌数と乳酸菌数を測定した。結果を表2に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
実施例7〜9、比較例2
SA級のスケソウダラの冷凍すり身20kgを解凍した後、サイレントカッターで粗すりし、4kgずつ5等分した各区に表3に示す添加剤を添加し、更にそれぞれ食塩2.5%、味醂2.0%、液状卵白3.0%、氷水6.0%を添加して5分間サイレントカッターで混合した後、塩化ビニリデン製ケーシングの折り径48mmのものに充填し、90℃の温湯中で35分間加熱して包装蒲鉾とした。これを冷水中に浸漬して常温に戻した後、15℃の保温器中で保存した。製造直後及び保存期間中の所定日数経過後に、蒲鉾の状態の評価及び一般生菌数の測定を行った。結果を表4に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0032】
実施例11〜13、比較例4
豚肉100kg、牛肉30kg、豚脂10kgの原料を、28kgづつに5等分し、以下に示す第一区〜第五区の如く調整して試験した。
【0033】
第一区(対照品):豚肉、牛肉及び豚脂をそれぞれミンチし、食塩2.0%、氷水4.0%、重合リン酸0.3%、亜硝酸ナトリウム0.015%、アスコルビン酸ナトリウム0.1%、砂糖3.0%、澱粉3.0%を添加してサイレントカッター中で約4分間混合した。これを羊腸中に充填し、燻煙室で45℃で表面を乾燥させた後、60℃で1時間燻煙し、次いで72℃の温水中で35分間ボイルして、ウインナーソーセージとし、冷却して製品とした。このウインナーソーセージを5本づつプラスチックの包装材で包装し、包装内部のガスを二酸化炭素ガスで置換し、10℃の恒温器中で保存してソーセージ中の生菌数の増加を測定した。
【0034】
第二区(比較例4):第一区の組成に、乳酸ナトリウムを2.0%添加し、食塩を1.2%に減少させた他は、第一区と同様に調整し、同様にして試験した。
【0035】
第三区(実施例11):第一区の組成に、乳酸ナトリウム2.0%、トレハロース2.0%を添加し、食塩を1.2%に減少させた他は、第一区と同様に調整し、同様にして試験した。
【0036】
第四区(実施例12):第一区の組成に、乳酸ナトリウム1.3%、乳酸カルシウム0.5%、トレハロース3.0%を添加し、食塩を1.5%に減少させた他は、第一区と同様に調整し、同様にして試験した。
【0037】
第五区(実施例13):第一区の組成に、乳酸ナトリウム1.0%、乳酸カリウム1.0%、トレハロース3.0%を添加し、食塩を1.0%に減少させた他は、第一区と同様に調整し、同様にして試験した。第一区〜第五区の保存期間中の生菌数の測定結果を表5に示す。
【0038】
【表5】

【0039】
実施例14、比較例5
小麦粉100重量部当たりに対し、水35重量部、食塩2.5重量部を加えてミキサーで10分間混合し、複合機で練り合わせた後、圧延機で麺帯を形成させ、切刃で線状に切って生麺とした。この生麺を熱湯中で5分間茄で上げ、茄で麺とした後、一定の大きさに切りそろえ、プラスチック製の袋に包装した。このものを、8℃の保存庫に静置し、肉眼で腐敗の進行を観察した結果を表6に示した。尚、試料の茄で麺は以下の第一区〜第三区の配合とした。
【0040】
第一区(対照品):上記配合のままで、他の添加剤は無添加。
第二区(比較例5):第一区の配合から、水を33重量部に減じ、乳酸ナトリウムの50%溶液を4重量部配合したもの。
第三区(実施例14):第一区の配合から、水を33重量部に減じ、乳酸ナトリウムの50%溶液を4重量部、トレハロース3重量部を添加したもの。
【0041】
【表6】

【0042】
【発明の効果】
以上説明したように本発明方法は、飲食品に乳酸塩、トレハロースが特定の割合で含有されていることにより、一般細菌類のみならず、乳酸塩の添加だけでは増殖を抑制することが困難であったカビや酵母等の真菌類の増殖も抑制することができる。しかも本発明方法によれば、乳酸塩の添加量が少なくても優れた微生物抑制効果が得られるため、乳酸塩の添加量は飲食品の味覚や風味に影響を及ぼすことのない程度の少量とすることができ、飲食品の味覚や風味を損なうことなく飲食品中の微生物の増殖を効果的に抑制することができる。また本発明方法は、乳酸塩とトレハロースと共に、1.0重量%以上の塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを飲食品中に共存させるようにしたことにより、乳酸塩とトレハロースとを併用した効果が更に高められ、飲食品中における微生物増殖抑制効果が更に高められる。更にまた、トレハロース単独で添加した場合には冷凍耐性向上作用等のトレハロースの有する飲食品性状向上作用が期待通り発揮されない場合が多々あるにもかかわらず、トレハロースを乳酸塩と併用したことにより、トレハロースの食品組織内への浸透性が向上され、トレハロースの有する食品性状向上作用が十分に発揮される等の効果を有する。
 
訂正の要旨 <訂正の要旨>
ア.訂正事項a
発明の名称を「乳酸及び/又は乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法」から「乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法」と訂正する。
イ.訂正事項b
「飲食品中に乳酸及び/又は乳酸塩を1.0〜4.0重量%、トレハロースを0.3〜10.0重量%、塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを1.0重量%以上含有させることを特徴とする乳酸及び/又は乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法。」とある特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「飲食品中に乳酸塩を1.0〜4.0重量%、トレハロースを0.3〜10.0重量%、塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを1.0重量%以上含有させることを特徴とする乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法。」と訂正する。
ウ.訂正事項c
段落【0001】に記載の「………できる、乳酸及び/又は乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法に関する。」を、
「………できる、乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法に関する。」と訂正する。
エ.訂正事項d
段落【0010】に記載の「………特定割合の乳酸や乳酸塩とともに、………存在させることにより、乳酸及び/又は乳酸塩の有する微生物増殖抑制効果が一段と増強され、一般細菌類の増殖とともに、………」を、
「………特定割合の乳酸塩とともに、………存在させることにより、乳酸塩の有する微生物増殖抑制効果が一段と増強され、一般細菌類の増殖の抑制とともに、………」と訂正する。
オ.訂正事項e
段落【0011】に記載の「………即ち本発明の乳酸及び/又は乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法は、飲食品中に乳酸及び/又は乳酸塩を………」を、
「………即ち本発明の乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法は、飲食品中に乳酸塩を………」と訂正する。
カ.訂正事項f
段落【0012】に記載の「………本発明において用いる乳酸や乳酸塩には、………」を、
「………本発明において用いる乳酸塩には、………」と訂正する。
キ.訂正事項g
段落 【0013】に記載の「………弾力を改善するためにも有効である。乳酸や乳酸塩は適宜混合して用いることができ、乳酸カルシウム以外の乳酸塩や乳酸を使用する場合であっても、0.1重量%程度の乳酸カルシウムを併用することは、前記した理由から好ましい態様と言える。」を、
「………弾力を改善するためにも有効である。乳酸塩は適宜混合して用いることができ、乳酸カルシウム以外の乳酸塩を使用する場合であっても、0.1重量%程度の乳酸カルシウムを併用することは、前記した理由から好ましい態様と言える。」と訂正する。
ク.訂正事項h
段落 【0014】に記載の「………褐変させることがないため、褐変を嫌う飲食品に対する添加しも可能となる。」を、
「………褐変させることがないため、褐変を嫌う飲食品に対する添加も可能となる。」と訂正する。
ケ.訂正事項i
段落 【0015】に記載の「本発明において乳酸及び/又は乳酸塩の飲食品中における………、特に1.0〜5.0重量%が好ましい。乳酸及び/又は乳酸塩の飲食品中における………」を、
「本発明において乳酸塩の飲食品中における………、特に1.0〜5.0重量%が好ましい。乳酸塩の飲食品中における………」と訂正する。
コ.訂正事項j
段落 【0017】に記載の「………塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを存在せしめたことにより、特定割合の乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを併用した………」を、
「………塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを存在せしめたことにより、特定割合の乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを併用した………」と訂正する。
サ.訂正事項k
段落 【0019】に記載の「乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースの飲食品への添加方法、………練り製品を製造する際に、乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを添加する。………、ピックル液の中に乳酸及び/又は乳酸塩と………」を、
「乳酸塩とトレハロースの飲食品への添加方法、………練り製品を製造する際に、乳酸塩とトレハロースとを添加する。………、ピックル液の中に乳酸塩と………」と訂正する。
シ.訂正事項l
段落 【0020】に記載の「………食塩水中に、乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを添加しておく。………、漬物調味液に乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを添加すれば良い。………、二次調味の段階で調味液に乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースを添加するのが好ましい方法である。………、食塩とともに乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを添加して焼き上げて製品とする方法が採用される。」を、
「………食塩水中に、乳酸塩とトレハロースとを添加しておく。………、漬物調味液に乳酸塩とトレハロースとを添加すれば良い。………、二次調味の段階で調味液に乳酸塩とトレハロースを添加するのが好ましい方法である。………、食塩とともに乳酸塩とトレハロースとを添加して焼き上げて製品とする方法が採用される。」と訂正する。
ス.訂正事項m
段落 【0021】に記載の「【作用】飲食品中に、1.0〜4.0重量%の乳酸及び/又は乳酸塩、………共存する場合において、乳酸及び/又は乳酸塩の微生物増殖抑制効果が………水の量が増し、自由水中の乳酸や乳酸塩の濃度が局部的に増大し、………しかしながら乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを併用すると、乳酸及び/又は乳酸塩の微生物増殖抑制効果が増強される………発揮される効果もある。」を、
「【作用】飲食品中に、1.0〜4.0重量%の乳酸塩、………共存する場合において、乳酸塩の微生物増殖抑制効果が………水の量が増し、自由水中の乳酸塩の濃度が局部的に増大し、………しかしながら乳酸塩とトレハロースとを併用すると、乳酸塩の微生物増殖抑制効果が増強される………発揮される効果もある。」と訂正する。
セ.訂正事項n
段落 【0026】に記載の「実施例6〜9、比較例2 SA級のスケソウダラの………これを冷水中に浸漬して常温の戻した後、………」を、「実施例7〜9、比較例2 SA級のスケソウダラの………これを冷水中に浸漬して常温に戻した後、…………」と訂正する。
ソ.訂正事項o
段落 【0027】に記載の【表3】中の「第二区 トレハロース1.5%、乳酸0.5% 実施例6」の欄を削除すると共に、「第三区」、「第四区」及び「第五区」をそれぞれ「第二区」、「第三区」及び「第四区」に訂正する。
タ.訂正事項p
段落 【0028】に記載の【表4】中の「第二区(実施例6)」の欄を削除すると共に、「第三区(実施例7)」、「第四区(実施例8)」及び「第五区(実施例9)」をそれぞれ「第二区(実施例7)」、「第三区(実施例8)」及び「第四区(実施例9)」に訂正する。
チ.訂正事項q
段落【0029】を削除する。
ツ.訂正事項r
段落【0030】を削除する。
テ.訂正事項s
段落【0031】を削除する。
ト.訂正事項t
段落【0037】に記載の「第五区(実施例13):………測定結果を表7に示す。」を、
「第五区(実施例13):………測定結果を表5に示す。」と訂正する。
ナ.訂正事項u
段落【0038】に記載の【表7】を【表5】に訂正する。
ニ.訂正事項v
段落【0039】に記載の「実施例14、比較例5 ………観察した結果を表8に示した。………」を、
「実施例14、比較例5 ………観察した結果を表6に示した。………」と訂正する。
ヌ.訂正事項w
段落【0041】に記載の【表8】を【表6】に訂正する。
ネ.訂正事項x
段落【0042】に記載の「………飲食品に乳酸及び/又は乳酸塩、トレハロースが特定の割合で………、一般細菌類のみならず、乳酸や乳酸塩の添加だけでは………しかも本発明方法によれば、乳酸や乳酸塩の添加量が少なくても優れた微生物抑制効果が得られるため、乳酸や乳酸塩の添加量は………また本発明方法は、乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースと共に、………共存させるようにしたことにより、乳酸及び/又は乳酸塩とトレハロースとを併用した効果が更に高められ、飲食品中における微生物増殖抑制効果が更に高められる。」を、
「………飲食品に乳酸塩、トレハロースが特定の割合で………、一般細菌類のみならず、乳酸塩の添加だけでは………しかも本発明方法によれば、乳酸塩の添加量が少なくても優れた微生物抑制効果が得られるため、乳酸塩の添加量は………また本発明方法は、乳酸塩とトレハロースと共に、………共存させるようにしたことにより、乳酸塩とトレハロースとを併用した効果が更に高められ、飲食品中における微生物増殖抑制効果が更に高められる。更にまた、トレハロース単独で添加した場合には冷凍耐性向上作用等のトレハロースの有する飲食品性状向上作用が期待通り発揮されない場合が多々あるにもかかわらず、トレハロースを乳酸塩と併用したことにより、トレハロースの食品組織内への浸透性が向上され、トレハロースの有する食品性状向上作用が十分に発揮される等の効果を有する。」と訂正する。
異議決定日 2002-04-12 
出願番号 特願平7-276903
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A23B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 斎藤 真由美
大久保 元浩
登録日 2001-02-02 
登録番号 特許第3155453号(P3155453)
権利者 株式会社林原生物化学研究所 ベーガン通商株式会社
発明の名称 乳酸塩の微生物増殖抑制効果の増強方法  
代理人 今村 正純  
代理人 細井 勇  
代理人 細井 勇  
代理人 塩澤 寿夫  
代理人 釜田 淳爾  
代理人 細井 勇  

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