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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1061102
異議申立番号 異議2000-72842  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-07-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-07-18 
確定日 2002-04-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3003144号「ポリエステル系樹脂積層フィルム」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3003144号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3003144号は、平成1年11月29日に特許出願され、平成11年11月19日にその特許権の設定登録がなされ、その後、三菱化学ポリエステルフィルム株式会社、東レ株式会社、の2名より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年5月7日に訂正請求がなされたのち、平成13年6月20日付で特許権者より上申書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
2の1.訂正の要旨
ア.訂正事項a
特許明細書19頁(特許公報5頁)の「表1」中の「実施例1」の行の、長手方向の「倍率」の欄の「3.2」を、「3.4」と訂正する。
2の2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
訂正事項aは、特許明細書14頁13〜14行(特許公報7欄14〜15行)に「シート進行方向に3.4倍に延伸した。」との記載が存在することを根拠に、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、上記訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものでもない。
2の3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び同条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
上記の適法な訂正の結果、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、全文訂正明細書の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「ポリエステル系樹脂からなる基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも片面に設けられた熱接着層とを有するポリエステル系樹脂積層フィルムであって、
該積層フィルム、または該基材フィルムの10%伸長時の応力に対する50%伸長時の応力の比が1.2以下である、
ポリエステル系樹脂積層フィルム。」

4.引用刊行物記載の発明
これに対して、先の取消理由通知で引用した刊行物1(特開昭49-15783号公報。申立人・三菱化学ポリエステルフィルム株式会社提出の甲第1号証に相当)には、以下の技術的事項が記載されている。
ア.「二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの少なくとも片面に、ブタンヂオール1,4および/又はヘキサンジオール1,6とテレフタル酸および/又はイソフタル酸よりなる結晶融解熱が5cal/g以下のポリエステルを含む層を設けたことを特徴とする積層ポリエステルフィルム。」(特許請求の範囲)、
イ.「本発明は、接着性、特にヒートシール性の改良されたポリエステルフィルムを提供するもので」(1頁左下欄下から8〜7行)、
ウ.「このポリエステルの結晶融解熱(Hu)は5cal/g以下……でなければならない。これより高いHuの値を持つポリエステルでは本発明の特徴である優れたヒートシール性……を採ることができなくなる。」(2頁左下欄13〜18行)、
エ.「実施例1
次のような2種類のポリエステルを用意した。
A)PET IV=0.63 軟化点260℃
Hu=10cal/g
B)テレフタル酸 :55.1wt%
アジピン酸 :12.5 〃
エチレングリコール :18.5 〃
ブタンジオール1,4:13.9 〃
よりなる共重合ポリエステル
IV=0.82 軟化点140℃ Hu=1.6cal/g
これら2種のポリエステルを2台の押出器に供給して、Aの方は280℃で、Bの方は220℃で溶融押出し、1台のT型口金に溶融体を集めた。この口金からシート状に吐出される積層シートを回転する冷却用ロール(表面温度20℃)に巻きつけて冷却固化せしめた。このシートの厚さは約240ミクロンでAからなる層が120ミクロン、Bからなる層が120ミクロンであった。このシートを80℃に加熱して、相異なる回転速度で回転している2組のニップロールの間でシート進行方向に3.2倍延伸した。この一軸延伸フィルムをステンタ式横延伸装置へ送り込み95℃に加熱しつつ、フィルム幅方向に3.3倍延伸した。次いでフィルムをやや弛緩させつつ200℃の熱風で熱処理した後巻き取った。得られたフィルムの厚さは約24ミクロンで次のような特性を有しており、包装用フィルムとして極めて有用であった。
比 重 :1.3
引張強度 :9.6Kg/mm2
引張伸び :160%
ヤング率 :320Kg/mm2 」

5.対比・判断
本件発明(前者)と刊行物1記載の発明(後者)とを対比すると、後者の実施例1で得られる前記A、B2種類のポリエステルからなる樹脂積層フィルム(以下、「フィルムα」という。)に着目した場合、後者では「ポリエステルの結晶融解熱(Hu)が5cal/g以下でなければ、優れたヒートシール性が得られない」(前記ウ参照)のであるから、Hu1.6cal/gの共重合ポリエステルBがヒートシールに関与する層、すなわち、前者でいう「熱接着層」に相当し、また、ポリエステルAが前者の「基材層」に相当することは明らかである。
そうすると、両者は、
「ポリエステル系樹脂から基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも片面に設けられた熱接着層とを有するポリエステル系樹脂積層フィルム」
に係る点で一致し、
前者では、該積層フィルムの10%伸長時の応力に対する50%伸長時の応力の比(F50/F10)が1.2以下と規定されている一方、後者では、該積層フィルムについてのF50/F10値が不明である点で、一応相違する。
以下、上記相違点について検討する。
取消理由通知で指摘した申立人・三菱化学ポリエステルフィルム株式会社提出の同社中央研究所内 岸本 伸太郎作成に係る実験報告書(甲第2号証、以下、単に「報告書」という。)によると、「80℃でシート進行方向(=縦方向)に3.2倍延伸後、95℃でフィルム幅方向(=横方向)に3.3倍延伸」(前記エ参照)という具体的延伸方法を含め、その製造方法の点で前記後者の実施例1を忠実に再現したものと認められる(前記エと、報告書1〜2頁「2.積層ポリエステルフィルムの製造」項とを対比参照)追試実験で得られたポリエステル系樹脂積層フィルム(以下、「フィルムβ」という。)について、後者におけるとおりの物性測定を行った結果、フィルムβは、前記比重、引張強度、引張伸び、ヤング率の4つの物性値の点でフィルムαと完全に一致している(同エと、報告書2頁「3.物性測定」項及び同2頁「4.結果」項とを対比参照)ことから、該追試実験は、全体として刊行物1の実施例1を忠実に再現したものと解され、そうである以上、フィルムβの物性は、フィルムαが本来的に有する物性を表すものというべきである。
そうした事情下、フィルムβについて前者における測定方法と同一の方法で前記F50/F10を測定した(本件特許公報7欄22〜25行と、報告書「3.物性測定」項とを対比参照)ところ、該フィルムは、F50/F10=1.06(≦1.2)という物性を示している(報告書2頁「4.結果」項参照)。
そうすると、上記したところから、フィルムαも又これと同一のF50/F10=1.06という物性値を有するものと解されるから、上記一応の相違点は実質的な相違点とはいえず、両者は、
「ポリエステル系樹脂からなる基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも片面に設けられた熱接着層とを有するポリエステル系樹脂積層フィルムであって、
該積層フィルム、または該基材フィルムの10%伸長時の応力に対する50%伸長時の応力の比が1.2以下である、
ポリエステル系樹脂積層フィルム。」
に係る点で発明の構成が完全に一致する。
そして、発明の構成が一致する以上、後者は必然的に前者と同一の効果を奏するものというほかはない。
上記の点に関し、特許権者は、平成13年5月7日付特許異議意見書において、「刊行物1(の実施例1)の発明では、フィルムの縦方向の延伸倍率が3.0倍以下と低く、この場合には、初期の弾性率が相当に小さくなり、結果的に得られるフィルムの50%伸長時の応力は、10%伸長時の応力の1.2倍を超えるはずであると考えられる」(4頁「5.5.2 刊行物1……について」項要約)旨主張し、該主張を裏付けるものとして、特許権者自身が刊行物1の実施例1を追試した結果、得られたポリエステル系積層フィルムのF50/F10値は1.67であった旨の実験報告書(乙第2号証)を、前記上申書と共に提出している。
しかしながら、先ず意見書中での主張について、前記エに明記のとおり、刊行物1の実施例1では現実には縦方向に3.2倍の延伸が行われているのである(特許権者自身、異議意見書3頁14〜16行では「刊行物1の実施例記載のフィルムは、縦方向に3.2倍、横方向に3.3倍延伸されている」と記載し、その旨を認めている。)から、その縦延伸倍率が3.0倍以下であることを前提とする特許権者の主張は、その前提の点で誤りであり、採用できない。
次に、上記実験報告書について、特許権者は刊行物1の実施例1の追試を「縦方向に5.2倍、横方向に5.5倍」という延伸条件下で実施している(乙第2号証2頁第2段落5〜7行)ところ、該条件は、「縦方向に3.2倍、横方向に3.3倍」という、刊行物1の実施例1の延伸条件とは明らかに相違するから、特許権者の称する「追試実験」は、刊行物1の実施例の忠実な再現実験とはいえず、したがって、その結果如何は、何ら本件発明の新規性判断に影響を与えるものではない。

6.むすび
以上のとおり、本件発明は、上記刊行物1に記載された発明と同一の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、請求項1についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリエステル系樹脂積層フィルム
(57)【特許請求の範囲】
1.ポリエステル系樹脂からなる基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも片面に設けられた熱接着層とを有するポリエステル系樹脂積層フィルムであって、
該積層フィルム、または該基材フィルムの10%伸長時の応力に対する50%伸長時の応力の比が1.2以下である、
ポリエステル系樹脂積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、熱接着性(ヒートシール性)に優れると共に、熱接着部の開封が容易であり、包装用フィルムや各種工業用フィルムとして有用なポリエステル系樹脂積層フィルムに関する。
(従来の技術)
ポリエステル系樹脂フィルム(以下、フィルムはシートをも包含して用いられる)は、機械的強度、耐熱性、耐寒性、耐薬品性、絶縁性、寸法安定性、平面性、透明性などに優れ、包装用フィルム、電気絶縁テープ、磁気テープ、写真フィルム、トレーシングフィルムなど各種用途に利用されている。特に、食品をはじめとする各種製品を包装するために熱接着性を備えたポリエステル系樹脂フィルムが広く用いられるようになった。食品を包装する場合には、樹脂に臭いがなく、食品の香りを損なわず、かつ食品の臭いを吸着しない性質(すなわち、耐フレーバー性)を有するポリエステル系樹脂フィルムが、特に好適である。しかし、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル系樹脂は一般に融点が高く、そのままでは熱接着することが難しい。したがって、これらのポリエステル系樹脂フィルムを基材フィルムとし、その表面に融点のより低い樹脂からなる熱接着層(シーラント層)を形成することが行われている。このような熱接着層に用いられる樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられるが、ポリエステル系樹脂からなる基材フィルムとの接着性が良好であるので、ポリエステル系樹脂が好ましい。
このような積層フィルムは、熱接着後の接着部分(シール部分)がタフな性質を持つことが好ましい。ここで、「タフ(tough)である」とは、強度が充分であり、耐久性を有し、しかもしなやかでもろくない性質をさしていう。シール部分がタフでないと、例えば、袋の入口を熱接着して閉じた場合に、この袋の口を指でつまんで引張って開けようとするとシール部分がきれいに剥離せずに途中で切れたり、シール部分が充分に剥離しないまま袋の本体が好ましくない方向に裂けるという欠点がある。
(発明が解決しようとする課題)
本発明は、上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、熱接着後のシール部分がタフな性質を有し(つまり、高強度を有し、かつシール部分を剥離するときにフィルム自身が破壊しない)、適度の力を加えることにより容易に好ましい方向に破れ得る、熱接着性ポリエステル系樹脂積層フィルムを提供することにある。
(課題を解決するための手段)
本発明のポリエステル系樹脂積層フィルムは、ポリエステル系樹脂からなる基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも片面に設けられた熱接着層とを有し、該積層フィルム、または該基材フィルムの10%伸
長時の応力に対する50%伸長時の応力の比が1.2以下であり、そのことにより上記目的が達成される。
本発明の積層フィルムの基材フィルムを構成するポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-1,2-ジフェノキシエタン-4,4’-ジカルボキシレート、およびポリエチレン-2,6-ナフタレートが用いられる。あるいは、これらの樹脂の構成モノマー成分を主成分とする共重合体が用いられる。共重合体を用いる場合、そのジカルボン酸成分としては、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能カルボン酸などが用いられる。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族グリコール;p-キシレングリコールなどの芳香族グリコール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール;平均分子量が150〜20,000のポリエチレングリコールなどが用いられる。これらのポリエステル系樹脂からなる基材フィルムは、公知の延伸法により、少なくとも1軸方向に、好ましくは2軸方向に配向されている。特に、2軸方向に配向されたポリエステル系樹脂フィルムは、機械的強度および耐熱性に優れているので好ましい。フィルムの2軸配向には、逐次延伸または同時延伸のいずれの延伸法が用いられてもよい。なお、上記のポリエステル系樹脂には、各種の添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、帯電防止剤、滑剤、曇り防止剤、可塑剤、安定剤、耐ブロッキング剤、着色剤などがある。
本発明の積層フィルムの熱接着層は、ヒートシール時の温度において軟化し、熱接着性を示すものであればよく、その成分は特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマーなどのポリオレフィン系樹脂;塩化ビニリデン系共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体などのビニル系樹脂;飽和ポリエステル系共重合体などの低融点ポリエステル樹脂が使用される。特に、ポリエステル系の熱接着性樹脂が、耐フレーバー性および層間接着力の点から好ましい。さらに、これらの樹脂を2種以上混合して用いてもよい。2種以上の樹脂を混合して使用することによって、特に好ましい熱接着特性を示す場合がある。例えば、融点が180℃以下で、熱運動開始温度が20℃以上の熱的特性を有するポリエステル系樹脂は、熱接着性に優れる。また、熱運動開始温度が50℃以上のポリエステル共重合体と、熱運動開始温度が50℃以下のポリエステル共重合体とを混合した樹脂は、特に好ましい熱接着性を示す。このようなポリエステル共重合体に使用される共重合成分としては、以下に示すジカルボン酸およびジオールが使用される。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族カルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ピメル酸、スベリン酸、ウンデカン酸、ドデカンジカルボン酸、ブラシリン酸、テトラデカンジカルボン酸、タプシン酸、ノナデカンジカルボン酸、ドコサンジカルボン酸などの炭素数が2〜30の飽和または不飽和脂肪酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族カルボン酸である。ジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-n-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、 2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、 2-エチル-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、 2-エチル-n-ヘプチル-1,3-プロパンジオール、 2-エチル-n-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、 2,2-ジーn-プロピル-1,3-プロパンジオール、 2-n-プロピル-2-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、 2-n-プロピル-2-n-ヘプチル-1,3-プロパンジオール、 2-n-プロピル-2-n-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、 2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、 2-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、 2,2-ジ-n-ヘプチル-1,3-プロパンジオール、 2-n-ヘプチル-2-n-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、 2,2-ジ-n-ヘキシル-1,3-プロパンジオールなどの脂肪族系ジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族系ジオール;キシリレングリコール、ビスフェノール化合物のエチレンオキシド付加物などの芳香族系ジオールがある。このようなポリエステルは、ポリエステルの製法として一般に採用されている方法により調製され得る。例えば、ジカルボン酸成分とグリコール成分とを直接反応させて重縮合を行なう直接エステル化法;あるいは、上記ジカルボン酸成分のジメチルエステルとグリコール成分とを反応させてエステル交換を行なうエステル交換法などにより調製される。調製は、回分式および連続式のいずれの方法で行われてもよい。
本発明の積層フィルムにおいては、積層フィルム自身、あるいは基材フィルムを構成するフィルムの10%伸長時
の応力(F10)に対する50%伸長時の応力(F50)の比(F50/F10)が1.2以下である。ここで、10%あるいは50%伸長時の応力であるF10あるいはF50は、試料フィルムの両端を固定し、その一端を一定の速度で引っ張って伸長させた場合に、その伸長率を横軸に、伸長時の応力を縦軸にとって描いた応力-ひずみ曲線から求められる。F50/F10は、好ましくは0.5〜1.2、より好ましくは0.8〜1.2の範囲内にある。F50/F10が、1.2を上まわると、積層フィルムを熱接着した後、シール部分を剥離しようとした場合に、フィルムが好ましくない方向に破れる。なお、好ましくは基材フィルムのF50/F10が、1.2以下であり、さらに好ましくは、積層フィルムのF50/F10が1.2以下である。
このようなF50/F10値を有するフィルムを製造する方法としては、例えば、以下のような方法がある。未延伸フィルムを延伸用ロール群に導き長手方向に延伸を行った後、加熱したテンター内て直行する方向に延伸して、2軸延伸する。延伸方法としては、このような逐次延伸のほかに同時延伸を行ってもよい。本発明の方法では、同時延伸がより好ましい。この延伸フィルムをさらに高温に加熱したテンター内で緊張および若干の弛緩処理を行う。F50/F10値は、延伸温度、延伸倍率、および弛緩条件によって、大きく変化する。したがって、使用する樹脂に応じてこれらの条件を適切に設定することによって、所望のF50/F10値を有するフィルムを得ることができる。
本発明のポリエステル系樹脂積層フィルムは、例えば以下のようにして調製される。
(1)基材フィルムの表面に、熱接着層を形成するための樹脂組成物を含む溶液もしくは分散液を塗布し、そして乾燥する。この溶液もしくは分散液に含まれる固形分は5〜20%が適当である。使用される溶媒としては、例えば、クロロホルム、二塩化エチレン、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エステル類、もしくはこれらの混合物が挙げられる。
(2)熱接着層を形成するための樹脂組成物をフィルム状に成形し、熱接着層フィルムを得る。そして、基材フィルムの表面に任意の接着剤をコーティングし、この熱接着層フィルムを加圧しながら貼付する。接着剤を基材フィルムにコーティングする方法としては、基材フィルムに接着剤を塗布する方法や、基材フィルム上に接着剤を構成する樹脂を溶融押出しする方法がある。
(3)ポリエチレンテレフタレート(PET)など、基材フィルムを形成するための樹脂と、接着層を形成するための樹脂組成物とを、それぞれ別の押出しバレルに仕込み、ひとつの口金から共押出しする。
得られた積層フィルムにおいて、基材フィルムの厚みは、通常10〜200μmの範囲内であり、特に包装用のフィルムとして利用される場合には、5〜30μmが好適である。他方、熱接着層の厚みは、積層フィルムの用途により異なるが、通常1〜50μm、好ましくは2〜15μmの範囲内である。
本発明の積層フィルムは、熱接着により包装などの用途に使用される。例えば2枚の積層フィルムを、その熱接着層と基材フィルムとが互いに密着するように、あるいは熱接着層同士が互いに密着するように、 積層し、次いで加熱ダイを用いて圧縮することにより熱接着が行なわれる。得られた熱接着部分はタフな性質を有する。それゆえ、この接着部分を再び剥離するときには、適度の力を加えるだけで剥離が可能であり、応力が特定部分に集中してシール部分がきれいに剥離せずに途中で切れたり、シール部分が充分に剥離しないままフィルムが望まない方向に裂けて破損することがない。本発明の積層フィルムは、特に、熱接着性を利用した包装などの用途に好適に用いられる。熱接着性フィルムとしての用途以外に、例えば、金属などを蒸着させてガスバリヤーフィルムとして利用すること;印刷、印字、染色用などのフィルムとして利用することも可能であり、さらに他のフィルムとラミネートして利用することもできる。
(実施例)
以下に本発明の実施例について述べる。
実施例1
(A)積層フィルムの調製
表1に示す組成を有するポリエステルAおよびBのチップを準備した。(表1および後述の表2において、ポリエステルの組成はモル%で、ポリエステルAおよびBの配合比率は重量比で示されている。TPAはテレフタル酸、IPAはイソフタル酸、AAはアジピン酸、SAはセバシン酸、EGはエチレングリコール、BDはブタンジオール、PEGはポリエチレングリコール、HDはヘキサンジオール、そしてNPGはネオペンチルグリコールを示す)。2機の押出しバレルを1個のT型ダイに接続し、そのうちの1機には上記ポリエステルAおよびBを表1に示す割合で仕込み、他方のバレルには充分に真空乾燥したポリエチレンテレフタレート(PET;I.V.=0.62)を仕込んだ。ポリエステルAおよびBを仕込んだバレルを280℃とし、PETを仕込んだバレルを285℃として樹脂を溶融させ、T型ダイから積層シートを押出した。この積層シートを、回転する冷却ロール(20℃)に巻きつけて冷却し固化させた。このシートを85℃に加熱して回転速度の相異なる2組のニップロールの間でシート進行方向に3.4倍に延伸した。得られた1軸延伸フィルムをステンター方式横延伸機へ送り込み、95℃に加熱しながら上記と直交する方向に3.2倍延伸した。次いで、このフィルムを5%弛緩させつつ220℃の熱風で処理し、巻きとった。得られた積層フィルムにおいて、 基材フィルム層(PET層)の厚みは13μm、そして熱接着層(ポリエステルAおよびBを含有する層)の厚みは2μmであった。
(B)F50/F10値の測定:JIS c2318の方法により、引張速度を200mm/分として、フィルムの長手方向に引っ張り、第1図に示すような応力-ひずみ曲線を描き、F50およびF10を求める。
(2)剥離性の評価:2枚の積層フィルムをその熱接着層同士が互いに接触するように重ね、幅方向に20mmおよび長手方向に10mmの長さにわたり 100℃の温度でヒートシールを行なった。このフィルムを、幅方向が15mmの短冊状に切断して試験片とし、これを手で剥離した。この剥離試験を10回行った。
◎:すべての試験においてフィルムの破断なく剥離。
○:1〜2回フィルムが破断。
×:3回以上フィルムが破断。
得られた積層フィルムの評価結果を、後述の実施例2〜7および比較例1〜2の結果と共に表1に示す。
実施例2〜6
ポリエステルAおよびBの組成および/または延伸条件を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリエステル系樹脂積層フィルムを調製した。
実施例7
ポリエチレンテレフタレートに代えて、イソフタル酸をジカルボン酸成分として5モル%含有するポリエチレンテレフタレート共重合体を、基材フィルムに用い、かつ延伸条件を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリエステル系樹脂積層フィルムを調製した。
実施例8
押し出しバレルを1機とし、充分に乾燥したPETを仕込み、表2に示す延伸条件で実施例1と同様の操作を行って2軸延伸フィルムを得、基材フィルムとした。この基材フィルムの片面に接着剤を塗布し、熱接着層として厚さ15μmの未延伸ポリエチレンフィルムをラミネートして、積層フィルムとした。得られた積層フィルムの評価結果を後述の実施例9〜10および比較例3の結果と共に表2に示す。
実施例9
未延伸ポリエチレンフィルムに代えて、未延伸ポリプロピレンフィルムを熱接着層フィルムに用いたこと以外は実施例8と同様にして、ポリエステル系樹脂積層フィルムを調製した。
実施例10
厚さ15μmの未延伸ポリエチレンフィルムに代えて、80重量部のポリプロピレンと20重量部のブテン-1とを含有するポリプロピレンフィルムを表2に示す延伸条件で2軸延伸した後160℃の熱風で熱処理して得られた厚さ10μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルムを熱接着層に用いたこと以外は実施例8と同様にして、ポリエステル系樹脂積層フィルムを調製した。
比較例1〜2
ポリエステルAおよびBの組成および/または延伸条件を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリエステル系樹脂積層フィルムを調製した。
比較例3
厚さ15μmの未延伸ポリエチレンフィルムに代えて、厚さ30μmの未延伸ポリプロピレンフィルムを熱接着層に用い、かつ基材フィルムの延伸条件を表2に示すように変更したこと以外は、実施例8と同様にして、ポリエステル系樹脂積層フィルムを調製した。


表1および2から、本発明の積層フィルムは、ヒートシールを行なった後、このシール部分を剥離する場合に、フィルムが破断することなく剥離し得ることがわかる。これに対して、積層フィルム自身のF50/F10値が1.2を上まわる比較例1および2の積層フィルム、および基材フィルムのF50/F10値が1.2を上まわる比較例3の積層フィルムは、ヒートシール部分の剥離が困難であり、剥離中にほとんどのフィルムが破断した。
(発明の効果)
本発明によれば、熱接着後のシール部分がタフな性質を有するポリエステル系樹脂積層フィルムが得られる。このような積層フィルムは、包装用フィルム、ガスバリヤーフィルムなどの各種用途に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
第1図は試料フィルムの応力-ひずみ曲線の一例を示す図である。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
ア.訂正事項a
誤記の訂正を目的として、明細書19頁(特許公報5頁)の「表1」中の「実施例1」の行の、長手方向の「倍率」の欄の「3.2」を、「3.4」と訂正する。
異議決定日 2002-03-05 
出願番号 特願平1-310212
審決分類 P 1 651・ 113- ZA (B32B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 中村 浩  
特許庁審判長 小林 正巳
特許庁審判官 喜納 稔
石井 克彦
登録日 1999-11-19 
登録番号 特許第3003144号(P3003144)
権利者 東洋紡績株式会社
発明の名称 ポリエステル系樹脂積層フィルム  
代理人 岡田 数彦  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 秀策  

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