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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
管理番号 1061173
異議申立番号 異議2000-72813  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-12-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-07-24 
確定日 2002-04-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3001106号「アルコール燃料蒸気用吸着剤」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3001106号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.本件の経緯
本件特許第3001106号は、平成2年4月4日の出願であって、平成11年11月12日(公報発行平成12年1月24日)に設定登録され、平成12年7月24日に小林陽信から特許異議の申立を受けたものであって、その後平成12年11月27日(発送日平成12年12月8日)付で取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年2月6日に訂正請求がなされ、平成14年3月12日(発送日平成14年3月20日)付けで訂正拒絶理由通知を兼ねる取消理由通知がなされ、その指定期間内に新たな訂正請求がなされ、先の訂正請求が取り下げられたものである。
2.訂正の要旨
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の「結晶骨格におけるSi/Alモル比10〜500であり、結晶構造がチャバサイト、オフレタイト、モルデナイト、フォージャサイト、L、Ω、ZSM-5及びZSM-11型のいずれかの結晶構造のゼオライトからなるアルコール燃料蒸気用吸着剤。」とあるのを、「結晶骨格におけるSi/Alモル比10〜500であり、結晶構造がチャバサイト、オフレタイト、モルデナイト、フォージャサイト、L、Ω、ZSM-5及びZSM-11型のいずれかの結晶構造のゼオライトからなるアルコール燃料蒸気キャニスター用吸着剤。」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項c
発明の詳細な説明中「モル比10%未満」(明細書第7頁3行、特許公報第2頁4欄25〜26行)とあるのを、「モル比10未満」と訂正する。
(4)訂正事項d
発明の詳細な説明の「モンノリロナイト」(第12頁3行、公報第3頁6欄10行)とあるのを、「モンモリロナイト」と訂正する。
3.訂正の適否についての検討
(1)上記訂正事項aは、請求項1に元の請求項3の構成を組み合わせる訂正であって、「アルコール燃料蒸気用」という用途を、更に「キャニスター用」という用途で二重に規定して「アルコール燃料蒸気キャニスター用」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、「キャニスター用」という用途は、元の請求項3及び明細書第1頁15〜17行(特許公報第1頁1欄14行〜2欄1行)などに記載された事項であるから、新規事項の追加に該当しない。
(2)上記訂正事項bは、請求項の削除の訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当する。
(3)訂正事項cは、「モル比10%未満」を「モル比10未満」と訂正するものであるが、モル比は普通、単位の付されない正の実数で表されるのであるから、「モル比10%未満」が「モル比10未満」の誤記であることは明らかであり、誤記の訂正に該当する。
(4)訂正事項dは、「モンノリロナイト」を「モンモリロナイト」と訂正するものであるが、「モンノリロナイト」という用語はなく、本件明細書の記載からみて、それが「モンモリロナイト」の誤記であることは明らかであるから、誤記の訂正に該当する。
そして、上記訂正事項aないし訂正事項dは、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を変更し、又は拡張するものでもない。
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項および第3項の規定にそれぞれ適合するものであるから、上記訂正は認める。
4.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、下記甲第1〜3号証及び参考資料1を提出し、本件請求項1ないし3に係る発明は、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開昭59-226263号公報
甲第2号証:Y.H.Ma et al.,“Adsorption of Hydrocarbons in (Na,K)-ZSM5,-ZSM11 and “Al-Free”NaZSM5 and NaZSM11”(New Developments in Zeolite Science and Technology:Proceedings of the 7th Intl Zeolite Conference,Tokyo,August 17-22,1986,Edited by Y.Murakami et al,Elsevier,pp.531-537)
甲第3号証:Nakamoto et el.,“Hydrophobic Natures of Zeolite ZSM-5”Zeolites,1982,vol.2,pp.67-68
参考資料1:原伸宜他編「ゼオライト(基礎と応用)」1〜7,24〜33頁,講談社サイエンテイフィック(昭和57年(1975年))
5.特許異議申立人の主張についての検討
(1)本件発明の認定
本件発明は、平成14年3月20日付け訂正請求により訂正された明細書の請求項1ないし2に記載された事項により特定された次のとおりのものである(以下「本件発明1」ないし「本件発明2」という)。
「【請求項1】結晶骨格におけるSi/Alモル比10〜500であり、結晶構造がチャバサイト、オフレタイト、モルデナイト、フォージャサイト、L、Ω、ZSM-5及びZSM-11型のいずれかの結晶構造のゼオライトからなるアルコール燃料蒸気キャニスター用吸着剤。
【請求項2】請求項1記載のゼオライトをバインダーを用い、または用いずして成形、焼成してなるアルコール燃料蒸気用吸着剤。」
(2)刊行物記載の発明
刊行物ア(甲第1号証)
(ア-1)「1.一方の端面に吸着燃料入口および離脱燃料出口をもちまた他方の端面に大気開放口をもつ筒状容器内に、少なくとも2つの層をなして少なくとも2種類の粒状吸着剤が収容され、吸着燃料入口に近い方にある第1の吸着剤層が蒸発燃料のうち主として高沸点成分を吸着する材料からなり、大気開放口に近い方にある第2の吸着剤層は主として低沸点成分を吸着する材料からなることを特徴とする、蒸発燃料吸着装置。・・・4.第1の吸着剤層が活性炭からなり、第2の吸着剤層が極性物質を吸着しやすい材料からなることを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載の装置。5.第2の吸着剤層が、第1の吸着剤層の活性炭より小さい細孔径をもつ活性炭、シリカゲル、ゼオライトあるいはアルミナからなることを特徴とする、特許請求の範囲第4項に記載の装置。」(特許請求の範囲)
(ア-2)「本発明は、自動車等の蒸発燃料吸着装置、特に機関停止時に燃料タンクや気化器から発生する炭化水素(HC)を効率よく捕集するキャニスタの構造に関する。」(第1頁右欄11〜14行)
(ア-3)「アルコールは蒸気圧が高くしかも極性基を含むため、キャニスタに吸着剤として充填されている活性炭では、その特性上アルコール分を捕集することが困難である。」(第2頁左上欄1〜5行)
(ア-4)「燃料に混入されるアルコールのように極性基をもつ成分は、下部層9の吸着剤粒子に吸着されて捕集される」(第2頁右下欄19行〜第3頁左欄1行)
刊行物イ(甲第2号証)
(イ-1)「様々なZSM試料に対するメタノール、n-へキサン、1,2,4‐トリメチルベンゼン及びキシレンの平衡吸着及び拡散について、303K、P/P°=0.0001〜0.8の圧力範囲て検討した。「Alを含まない」NaZSM5及びNaZSM11についての収着(sorption)データをNaZSM5及びNaZSM11の収着データと比較することにより、ZSM試料中に少量のAlが存在する場合の効果を調べた。また、吸着及び拡散に対するカチオンの効果も調べた。さらに、直接合成したKZSM5及びKZSM11について得られた吸着データを、KZSM5(ex)及びKZSM11(ex)(これらは、それぞれのNa型のイオン交換により得たものである。)についての結果と比較して、交換可能なカチオンの導入方法が吸着及び拡散に及ぼす効果について検討した。」(第531頁「要旨」欄)
(イ-2)「通常、ゼオライトの構造特性及びゼオライトの細孔径に対する分子の相対的な大きさが、その収着・拡散特性を決定付ける要因と考えられている。また、ゼオライト骨格中のカチオンの存在もその収着・拡散特性に影響を与え得る。この研究では、「Alを含まない」NaZSM5、「Alを含まない」NaZSM11、NaZSM5、NaZSM11、KZSM5、ZSM5(ex)、KZSM11及びKZSM11(ex)に対するメタノール、n-へキサン、1,2,4一トリメチルベンゼン及びキシレンの303Kでの吸着及び拡散の調査を取り扱う。この研究の主要な目的は、構造特性、カチオンの存在及び交換可能なカチオンの導入方法がZSM5及びZSM11の吸着・拡散特性に及ぼす効果を検討することてある。」(第532頁5〜14行)
(イ-3)第532頁のTable1には、使用したゼオライトの組成が、また、第533頁のTable2には、使用したゼオライトの炭化水素吸着容量が、それぞれ記載されている。
刊行物ウ(甲第3号証)
(ウ-1)「SiO2/Al2O3比を約50〜900まで変化させた一連のHZSM-5に対する、水、メタノール、ベンゼン及びn-へキサンの吸着を100℃で測定し、その疎水性を検討した。HZSM-5は、水やメタノール等の極性化合物よりもn-へキサンのような、より極性の小さい化合物を吸着しやすく、SiO2/Al2O3>400の範囲での吸着量の順番はn-へキサン>ベンゼン≫メタノール>水の順であった。その疎水性は、SiO2/Al2O3比が増すに連れて増加した。」(第67頁「要約」欄)
(ウ-2)「図1は、SiO2/Al2O3比を変化させたHZSM-5に対する、水、メタノール、ベンゼン及びn-へキサンの吸着量を示す。SiO2/Al2O3≧400の範囲では、水の吸着量は有機化合物の吸着量よりもずっと少なく、吸着量はn-へキサン>ベンゼン≫メタノール>水の順に変化した。水とメタノールは、HZSM-5に対する吸着量について同様の-つまり、SiO2/Al2O3比が増すに連れて吸着量が減る-傾向を示す。」(第68頁左欄1〜10行)
(ウ-3)第68頁のFigure1には、SiO2/Al2O3比とメタノール吸着量の関係のグラフが示されている。
(ウ-4)「これはHZSM-5に対するメタノールの吸着についても該当するであろう。メタノールの極性端部がゼオライト構造のアルミナ四面体に結合したプロトンと相互作用し、従ってメタノールの吸着量はゼオライト中のアルミニウム含有量と比例関係を持つ。」(第68頁右欄13〜19行)
刊行物エ(参考資料1)
(エ-1)第5頁の「表1.1」には、合成ゼオライトの構造特性について開示され、オフレタイト、L及びΩが、いずれも構造的にはチャバサイト群に属することが示されている。
(3)本件発明1と各刊行物記載の発明との対比
(3-1)刊行物ア記載の発明との対比
記載(ア-3)及び(ア-4)によれば、刊行物アの装置もアルコールを混合した燃料用キャニスターに関するものであり、記載(ア-1)によれば、極性物質であるアルコールを捕集するのは第2の吸着剤層であるから、この吸着剤層に使用される吸着剤が、本件発明の「アルコール燃料蒸気キャニスター用吸着剤」の相当する。そして、記載(ア-1)には、当該吸着剤として「ゼオライト」が例示されている。
したがって、本件発明1と刊行物アに記載された発明と対比すると、両者は、「ゼオライトからなるアルコール燃料蒸気キャニスター用吸着剤」である点で、一致するが、本件発明では、使用するゼオライトとして、結晶骨格におけるSi/Alモル比10〜500であり、結晶構造がチャバサイト、オフレタイト、モルデナイト、フォージャサイト、L、Ω、ZSM-5及びZSM-11型のいずれかの結晶構造のものに限定しているのに対し、刊行物アでは、ゼオライトの結晶骨格や結晶構造について何ら特定されていない点で相違する。
(3-2)上記相違点の検討
記載(イ-1),(イ-2)によれば、刊行物イは、ゼオライト骨格中のカチオンの存在の収着・拡散特性に与える影響についての報文であり、記載(イ-3)の各表の記載から、本件発明のAl/Siモル比と結晶構造を有するZSM-5及びZSM-11型のゼオライトがメタノールの吸着能を有することが、また記載(ウ-1),(ウ-2)によれば、刊行物ウは、SiO2/Al2O3比を約50〜900まで変化させたHZSM-5の疎水性を検討した報文であり、記載(ウ-3)よれば、SiO2/Al2O3比とZSM-5のメタノールの吸着量の関係が、それぞれ記載されている。
しかしながら、これら刊行物には、本件発明でいう吸脱着特性をも考慮した「有効吸着量」についての記載はなく、示唆もされていない。そして、これら刊行物に記載されるゼオライトのメタノールに対する吸着量(本件発明における「有効吸着量」とは異なる)は、ヘキサンなどの炭化水素に対する吸着量と差がないことから、これら刊行物イ及びウの記載をもって、当該刊行物に記載されるゼオライトを、アルコールに対する大きな吸着能が要求される、甲第1号証記載のキャニスターにおける吸着剤に適用することが、当業者にとって容易に想到することができたものとはいえない。さらに、刊行物エには、オフレタイト、L及びΩが、いずれも構造的にはチャバサイト群に属することが示されているにとどまる。
本件発明は、記載(ウ-4)のような従来の技術常識では、メタノール(アルコール)の吸着量が小さく使用が不適であると考えられていたゼオライトでも、特定のSi/Alモル比と特定の結晶構造を有するゼオライトは、吸脱着を繰り返すキャニスター用吸着剤として使用した場合に、大きな有効吸着量、すなわち優れた吸脱着性能を示すアルコール燃料蒸気キャニスター用吸着剤を提供するという明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、刊行物アないしエ記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用する発明であるから、本件発明1で検討したのと同じ理由で、刊行物アないしエに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
6.結び
以上のとおりであるから、訂正後の本件請求項1ないし2に係る特許は、特許異議申立の理由および証拠によっては取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アルコール燃料蒸気用吸着剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】結晶骨格におけるSi/Alモル比10〜500であり、結晶構造がチャバサイト、オフレタイト、モルデナイト、フォージャサイト、L、Ω、ZSM-5及びZSM-11型のいずれかの結晶構造のゼオライトからなるアルコール燃料蒸気キャニスター用吸着剤。
【請求項2】請求項1記載のゼオライトをバインダーを用い、または用いずして成形、焼成してなるアルコール燃料蒸気用吸着剤。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、アルコールを燃料とする車両のキャニスターなどに使用するアルコール燃料蒸気用吸着剤に関する。
〔従来の技術〕
近年、黒煙や窒素酸化物の排出が少ないメタノール,エタノールなどのアルコールをガソリンに混合した燃料で走る車が注目されている。
ガソリン燃料用キャニスター吸着剤としては破砕または造粒した活性炭が広範に使用されている。しかし、活性炭はアルコールの捕集効率が低く、アルコール燃料蒸気用吸着剤としては適当ではない。
二つの吸着剤層を設けた蒸発燃料吸着装置が特開昭59-226,263号に提案されている。ここでは、極性成分を吸着する材料からなる第二の吸着剤層を設けることが記載されている。第二の吸着剤層に適した材料としてゼオライトも有効であるとしている。しかしながら、この目的に対して最適なゼオライトの種類や特性については何等説明がなされていない。一般的に、汎用ゼオライトは極性分子である水やアルコールに対して低濃度域まで強い吸着力を示す。そのため水分またはアルコール等の極性分子を含んだ燃料蒸気と接触させると、極性分子はゼオライトに強力に捕捉される。キャニスターの場合、吸着剤に吸着された蒸発燃料の脱着は外気を吸着剤床に導入することによって、即ち燃料蒸気の分圧差によって吸脱着が行われる。しかし、一旦汎用ゼオライトに強力に吸着された極性分子は吸着剤床に外気を導入した程度の分圧差では脱着されない。このためアルコール蒸気用吸着剤として使用した場合の有効な吸着量は小さい。
〔発明が解決しようとする課題〕
このように、従来から知られている吸着剤を単に組み合わせただけではアルコール燃料蒸気の吸脱着に対して満足できる性能は得られず、これまでアルコール燃料を対象とした好適な吸着剤がなかった。
本発明は、アルコールを含む燃料蒸気の捕集に対して優れた吸着性能を示すゼオライト系吸着剤を提供するものである。
〔課題を解決するための手段および作用〕
ゼオライト結晶の基本構造はSiO4とその置換体のAlO4のそれぞれの四面体で、それらがお互いに頂点の酸素原子を共有し、3次元方向に発達した結晶構造を形成している。その結果、ゼオライト結晶は他の鉱物に見られないような非常に大きな空洞や孔路を有している。これらの細孔の入口径はゼオライトによってことなるが、通常3〜9オングストロームであり種々の分子を細孔内部に捕捉することができる。また、結晶内部にはAlO4の負電荷を補うために陽イオンが存在している。この陽イオンによって形成された静電場の影響により極性分子や分極性分子を選択的に吸着する。汎用の吸着剤として一般的に使用されているA型ゼオライト,X型ゼオライト,Y型ゼオライト等のSi/Alモル比は1〜2.5と低く、これらのゼオライトに吸着されたアルコールは静電場の影響によって強力にゼオライト細孔内に捕捉され、分圧を下げただけではアルコールが脱離せず十分な有効吸着量がとれない。この様な理由から、Si/Al比が1〜2.5である汎用ゼオライトはアルコール蒸気用の吸着剤として適当ではない。
しかしながら、3〜9オングストロームの細孔を有するゼオライト結晶の特異な細孔構造は低沸点成分の吸着、特にアルコールや低級炭化水素成分の吸着に対して、ゼオライトの細孔径と吸着させる分子の大きさがほぼ同じであるために大変魅力的である。
本発明者らは、各種ゼオライトを直接合成法または合成ゼオライトに修飾処理を施す方法によって調製し、アルコール燃料蒸気の捕集に対して有利な吸脱着特性をゼオライトに発現させるべく鋭意検討を重ねた。その結果、結晶骨格におけるSi/Alモル比10以上のゼオライトがアルコール燃料蒸気に対して優れた吸脱着特性を示し、キャニスター用吸着剤などとして有用であることを見いだした。
ゼオライトのSi/Alのモル比が10未満の場合は、アルコールに対する吸着力が強すぎ吸着はするものの脱離が困難となる。また、Si/Alのモル比が500をこえるとアルコールの吸着量が減少する傾向にあり、好ましくはSi/Alのモル比10〜500のゼオライトがアルコール蒸気用の吸着剤として適当である。
アルコールの吸脱着特性はSi/Al比率以外にもゼオライトの種類によっても変化する。アルコールや低級炭化水素(自動車用のアルコール燃料は、通常ガソリンとアルコールとの混合物である)の吸着が可能なゼオライトの細孔はその入口が酸素8,10,12,員環によって形成されたものに限られ、チャバサイト,オフレタイト,モルデナイト、フォージャサイト,L,Ω,ZSM-5,ZSM-11型などの結晶構造をもつものがアルコールの吸着に適している。
また、ゼオライトの静的な飽和吸着量は結晶の空孔体積(ゼオライト結晶1ml中の空孔の体積)によってきまる。ゼオライトの空孔体積は0.15〜0.5ml/mlであり、特に空孔体積が0.25以上のフォージャサイト,チャバサイト,オフレタイト,T,L,Ω,フィリプサイト,メソライト,モルデナイト型等の結晶構造をもつゼオライトはアルコール飽和吸着量も高い。
これらのSi/Alモル比10以上のゼオライトはSi/Alモル比10未満のものとは異なり水よりもアルコールや低級炭化水素を選択的に吸着する。即ち、Si/Alモル比10以上のゼオライトにあらかじめ水分を吸着させ、アルコール蒸気の吸脱着試験を繰り返すと、最初の数回は非常に高い有効吸着量が観測される。さらにアルコールの吸脱着試験を繰り返すと、水分を含まない状態のゼオライトと同じ有効吸着量を示す。初期の高い有効吸着量は、あらかじめ吸着させておいた水とアルコールが置換し、吸着層の温度上昇が抑制された為に起こる特異な現象と考えられる。しかし、この特異な現象も長続きはせずゼオライト細孔中の水分子がアルコールと置換した後は、正常な有効吸着量を示すようになる。この様に、Si/Alモル比10以上のゼオライトは多量の水分に吸着剤がさらされた場合ですら、その吸着性能の低下は認められない。
Si/Alモル比10以上のゼオライトの調製方法としては天然ゼオライト或は合成ゼオライトを出発原料とし脱アルミニウム処理によって調製する方法、或はシリカ源,アルミナ源,アルカリ源を混合し結晶化する直接合成法またはさらに有機鉱化剤を添加して合成する方法等がある。
脱アルミニウム処理によって調製されたSi/Alモル比10以上のゼオライトとしては、脱アルミニウムモルデナイト(N.Y.Chen,J.Phy.Chem.,80,(1),60〜64(1976))、超安定化Y型ゼオライト(特開昭64-122,700号;Studies in Surface Sience and Catalysis,Volume 5,203〜210(1980))、超安定化L型ゼオライト(特開昭60-050,312号)等が知られている。
直接合成によって調製されたSi/Alモル比10以上のゼオライトとしてはモルデナイト(R,M.Barrer,j.Chem.Soc.,1948,2158)、ZSM-5(特開昭46-10,064号)、ZSM-11(特開昭53-23,280号)等が知られている。
アルコール燃料蒸気用吸着剤として、これらゼオライトのいずれも好適に使用できる。また、ゼオライトのSi/Al比率は修飾処理条件または直接合成条件によって自由に制御することが可能であり、アルコール燃料蒸気の吸脱着に最適な吸着剤を提供することが可能である。
アルコール燃料の吸脱着に最適な結晶骨格のSi/Al比率はゼオライトの結晶構造によって異なる。フォージャサイト型ゼオライトの場合メタノールやエタノールの吸脱着に最適なSi/Alモル比は20〜100の範囲内に見いだされるのに対して、モルデナイト型ゼオライトの場合、その最適なSi/Alモル比は50〜200の範囲内に見いだされ、さらにZSM-5の場合は100〜500の範囲内に見いだされる。フォージャサイト型のゼオライトでは細孔の入口径は8オングストロームであるが、結晶内の空孔の大きさは約13オングストロームである。一方、モルデナイトやZSM-5の場合は細孔の入口径と結晶内の空孔の大きさは等しく、それぞれ7オングストローム、6オングストロームである。この様に、アルコールの吸脱着特性はゼオライト結晶の空孔径とゼオライト骨格の極性のバランスによってきまる。即ち、ゼオライトの空孔径がアルコール分子の大きさとほぼ等しい場合には結晶骨格がほとんど極性をもたなくてもアルコールを十分捕捉でき、しかも吸着されたアルコールは分圧差のみでも容易に脱離することができる。しかし、フォージャサイトのように空孔径がメタノール分子やエタノール分子の大きさの2倍以上もあるような場合には、ゼオライト結晶自体にある程度極性ももたせないとアルコールに対する吸着力が小さくなる。しかし,Si/Al比率を低く設定しすぎると、吸着したアルコールの脱離が困難となり、有効吸着量が小さくなる。
また、空孔径が13オングストロームのゼオライトと7オングストローム以下のものを比較した場合、静的な飽和吸着量に対する有効吸着量の比率は、7オングストローム以下のものが13オングストロームのものより大きな値を示す。このことは、メタノールの吸着特性が空孔径7オングストローム前後で急激に変化したことによると推定される。即ち、空孔径が8オングストローム以上のゼオライトではメタノールやエタノールに対する吸着力が弱まり、吸着剤床における吸着帯が長くなるため、空孔径7オングストローム以下のゼオライトと比べた場合、有効吸着量が相対的に小さくなる。
ゼオライトには変換性のカチオンが含まれている。アルコール燃料蒸気を捕捉する場合、ゼオライト中のアルカリ金属またはアルカリ土類金属カチオンは細孔径や細孔内の静電場に影響するため好ましくない。従って、水素イオン型がその吸着性能が安定しており好適である。
本発明の吸着剤をキャニスターに使用する場合、キャニスターは自動車部品として、使用されるためその設置に対して必要なスペースは小さければ小さいほどよい。したがって、ゼオライト吸着剤の充填密度は大きい方がよい。実用的には、0.5g/ml以上のものが好ましい。
ゼオライト粉末をペレット、ビーズ状とするため、一般的にはカオリナイト或はモンモリロナイト等の粘土鉱物やアルミナ系またはシリカ系の無機バインダーが好適に使用される。また成形体の強度アップや粉化防止の目的でガラス繊維等のセラミックス繊維を少量混入することは特に効果的である。
しかし、ゼオライト粉末にバインダーを添加したゼオライト成形体の場合、アルコール燃料の吸脱着に有効なゼオライトは、粘土やアルミナまたはシリカ等のバインダーによって希釈される。キャニスター用吸着剤の場合、有効吸着量が大きいほどよい。ところで、バインダーを使用しないで製造されたゼオライト成形体が特開昭62-70,225や特開昭62-138,320等に示されている。この様な、バインダー成分を含まないゼオライト成形体を出発原料として調製した吸着剤は有効吸着量が大きく、アルコール燃料のキャニスター用吸着剤としてとくに優れた吸脱着性能を示す。
〔発明の効果〕
この発明は、以上述べたように、Si/Alモル比10以上であるゼオライトをアルコール燃料から発生する蒸気捕集用吸着剤として提供するものである。これにより、従来活性炭で困難であったアルコール燃料蒸気の捕集がキャニスターなどの構造に特別な工夫をすることなく可能となった。
〔実施例〕
以下に、この発明の実施例を説明する。
(実施例1〜6)
表1に本発明のゼオライト系吸着剤を示す。実施例1〜5のゼオライト系吸着剤は各ゼオライト100重量部に対して粘土系無機バインダー25重量部を添加し、押出し造粒機により成形した後、600℃で2時間焼成することにより、直径1.5mmの円柱状吸着剤を得た。また、実施例6のゼオライト系吸着剤はバインダーレスタイプの粒状ゼオライトを出発原料として調製したものである。これら吸着剤のアルコール蒸気に対する吸脱着試験は、以下の方法で行った。
<吸脱着試験方法>
吸脱着試験は図1に示す試験装置を用いて行った。250mlの内容積をもつ円筒状キャニスターに実施例1〜6までの吸着剤を充填し、30℃の恒温槽にセットする。丸底フラスコにメタノールを入れ、60℃に加熱する。1000ml/分の空気をアルコール中に通し、発生したメタノール蒸気をキャニスターに通気し、キャニスターより排出されたメタノール量が1gとなった時点で通気を止めキャニスターの重量を測定する。次に、キャニスターに120lの空気を通し脱離を行い再びキャニスターの重量を測定する。
メタノール吸着後のキャニスター重量から脱離後のキャニスター重量を引き、吸着剤100g当りのメタノールに対する有効吸着量を求めた。この操作を4回行い、2〜4回目の平均値を表1に示した。
(比較例1〜2)
比較例1,2ではそれぞれ汎用のA,X型ゼオライトの1.5mmφ粒状品を吸着剤として使用し、実施例を行ったと同じメタノールの吸脱着試験を行った。結果を表2に示した。
表1および表2には、ゼオライトの構造名、Si/Al比率および見かけ比重(g/ml)を併記した。


【図面の簡単な説明】
図1は、実施例における吸脱着試験の工程図を示す。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.特許第3001106号の明細書中特許請求の範囲の請求項1の「結晶骨格におけるSi/Alモル比10〜500であり、結晶構造がチャバサイト、オフレタイト、モルデナイト、フォージャサイト、L、Ω、ZSM-5及びZSM-11型のいずれかの結晶構造のゼオライトからなるアルコール燃料蒸気用吸着剤。」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「結晶骨格におけるSi/Alモル比10〜500であり、結晶構造がチャバサイト、オフレタイト、モルデナイト、フォージャサイト、L、Ω、ZSM-5及びZSM-11型のいずれかの結晶構造のゼオライトからなるアルコール燃料蒸気キャニスター用吸着剤。」と訂正する。
2.特許第3001106号の明細書中特許請求の範囲の請求項3を、特許請求の範囲の減縮を目的として削除する。
3.特許第3001106号の明細書中発明の詳細な説明の「モル比10%未満」(第7頁3行、公報第2頁4欄25〜26行)とあるのを、誤記の訂正を目的として「モル比10未満」と訂正する。
4.特許第3001106号の明細書中発明の詳細な説明の「モンノリライト」(第12頁3行、公報第3頁6欄10行)とあるのを、誤記の訂正を目的として「モンモリライト」と訂正する。
異議決定日 2002-03-28 
出願番号 特願平2-89558
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大黒 浩之  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 唐戸 光雄
野田 直人
登録日 1999-11-12 
登録番号 特許第3001106号(P3001106)
権利者 フタバ産業株式会社 東ソー株式会社
発明の名称 アルコール燃料蒸気用吸着剤  
代理人 箕浦 清  
代理人 箕浦 清  
代理人 箕浦 清  

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