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審決分類 |
審判 全部申し立て 発明同一 C04B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B |
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管理番号 | 1061174 |
異議申立番号 | 異議2000-72909 |
総通号数 | 32 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-03-02 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-07-31 |
確定日 | 2002-04-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3004030号「炭化珪素ヒーター及びその製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3004030号の訂正後の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第3004030号は、平成2年4月23日に特許出願され、平成11年11月19日にその特許の設定登録がなされ、その後、大谷保から特許異議の申立てがあり、取消理由が通知され、その指定期間内である平成13年1月23日に訂正請求(後日取下げ)がなされ、訂正拒絶理由が通知された後、再度取消理由が通知されたところ、その指定期間内である平成14年1月8日に新たな訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否について (1)訂正の内容 本件訂正請求書における訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。すなわち、 訂正事項a:特許請求の範囲の請求項1において、「電気比抵抗値が1Ω・cm以下の炭化珪素焼結体」とあるのを、「電気比抵抗値が1Ω・cm以下、かつポアの大きさが1μm以下の炭化珪素焼結体」と訂正する。 訂正事項b:特許請求の範囲の請求項3において、「焼結することによって炭化珪素焼結体を得」とあるのを、「焼結することによって焼結体密度が2.8g/cm3以上で、室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、かつポアの大きさがlμm以下の炭化珪素焼結体を得」と訂正する。 訂正事項c:特許請求の範囲の請求項4を削除する。 訂正事項d:明細書の第8頁第5〜6行(特許公報第5欄第3行)に「焼結することによって炭化珪素焼結体を得」とあるのを、「焼結することによって焼結体密度が2.8g/cm3以上で、室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、かつポアの大きさが1μm以下の炭化珪素焼結体を得」と訂正する。 訂正事項e:明細書の第8頁第6〜14行(特許公報第5欄第5〜13行)に「ヒーターとするか、または単に非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満から0.1torrの範囲で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.1μm以下である炭化珪素超微粉末を加熱し、焼結することによって炭化珪素焼結体を得、この焼結体を半導体製造装置用ヒーターまたは超伝導材製造装置用ヒーターとすることにより」とあるのを、「ヒーターとすることにより」と訂正する。 訂正事項f:明細書の第8頁第16〜17行(特許公報第5欄第15行)に「電気比抵抗値1Ω・cm以下の」とあるのを、「電気比抵抗値1Ω・cm以下、かつポアの大きさが1μm以下の」と訂正する。 訂正事項g:明細書の第11頁第1〜10行(特許公報第6欄第6〜14行)に「なお、上述した半導体や超伝導材の製造に用いられる加熱炉や蒸着装置などに使用されるヒーターを製造する場合には、高純度が要求されるため、第2の炭化珪素粉末のみを用いて焼結体を製造するのが望ましい。すなわち、第2の炭化珪素粉末は高純度ガスを原料として合成するため、その含有不純物量が数ppm以下と極めて少なく、純度が高いからである。その後、上記混合物または第2の炭化珪素粉末を」とあるのを、「その後、上記混合物を」と訂正する。 訂正事項h:明細書の第14頁第3〜6行(特許公報第7欄第12〜14行)に「特に請求項4記載の製造方法に基づいて作製すれば遊離炭素および遊離シリカ以外の不純物含有量を100ppm以下にすることができる。したがって、」とあるのを、「したがって、」と訂正する。 訂正事項i:明細書の第21頁第1表(特許公報第5頁第1表)のうちの「実施例5」の欄を、削除する。 訂正事項j:明細書の第22頁第1行〜第23頁第5行(特許公報第9欄下から3行〜第11欄第17行)に「(実施例5)モノシランとメタンとを原料ガスとしてプラズマCVD法により気相合成した平均粒子径0.03μm、BET比表面積値58m2/gのβ型炭化珪素超微粉末をメタノール中にて分散せしめ、さらにボールミルで12時間混合した。次に、この混合物を乾燥し造粒して粉末を得、これを実施例1と同一の条件で焼結して炭化珪素焼結体を製造した。得られた炭化珪素焼結体の密度を調べたところ3.1g/cm3であった。また、この炭化珪素焼結体の室温時の3点曲げ強度、1500℃での3点曲げ強度、室温時の電気比抵抗値、室温時の熱伝導率を実施例1と同一の方法で測定し、得られた結果を第1表に併記する。さらに、この炭化珪素焼結体の不純物分析を実施例1と同一の分析法で調べたところ、ナトリウムが5ppm、鉄が8ppm、アルミニウムが10ppm、クロムが2ppm含まれており、カリウム、カルシウム、ニッケル、銅は1ppm未満であった。以上の結果から、炭化珪素超微粉末だけを原料とした炭化珪素焼結体はより高強度かつ高純度であることが確認され、苛酷な条件下でも使用可能なヒーターとなり得ることが判明した。「発明の効果」」とあるのを、「「発明の効果」」と訂正する。 訂正事項k:明細書の第23頁第7〜8行および第9行(特許公報第11欄第19〜20行および第21行)にそれぞれ「請求項3および4」とあるのを、それぞれ「請求項3」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 (イ)訂正事項aは、特許公報第8欄第22〜23行の記載に基いて、請求項1に「ポアの大きさがlμm以下」という新たな限定を付すものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。 (ロ)訂正事項bは、特許公報第6欄第38〜39、48〜49行、第8欄第22〜23行の記載に基いて、請求項3に「焼結体密度が2.8g/cm3以上で、室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、かつポアの大きさがlμm以下」という新たな限定を付すものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。 (ハ)訂正事項cは請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。 (ニ)訂正事項dおよびfは、上記訂正事項aおよびbの訂正に伴うものであり、訂正された請求項1および3の記載と明細書の記載とを整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。 (ホ)訂正事項e、g〜kは、上記訂正事項cの訂正に伴うものであり、請求項4が削除された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。 (ヘ)また、上記訂正事項a〜kは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.訂正後の本件発明 本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】半導体製造装置用または超伝導材製造装置用として使用されるヒーターであって、焼結助剤無添加で焼結されてなり、焼結体密度が2.8g/cm3以上で、室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、かつポアの大きさが1μm以下の炭化珪素焼結体からなる炭化珪素ヒーター。 【請求項2】請求項1記載の炭化珪素ヒーターにおいて、室温での熱伝導率が150W/m・K以上である炭化珪素ヒーター。 【請求項3】平均粒子径が0.1〜10μmの第1の炭化珪素粉末と、非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満から0.1torrの範囲で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.1μm以下の第2の炭化珪素粉末とを混合し、これを加熱し焼結することによって焼結体密度が2.8 g/cm3以上で、室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、かつポアの大きさが1μm以下の炭化珪素焼結体を得、この焼結体を半導体製造装置用ヒーターまたは超伝導材製造装置用ヒーターとすることを特徴とする炭化珪素ヒーターの製造方法。」 4.申立ての理由の概要 特許異議申立人は、証拠方法として甲第1ないし6号証を提出し、以下(1)〜(2)の理由により、本件請求項1ないし4に係る発明の特許は取り消されるべきものである旨主張している。 (1)本件請求項1ないし4に係る発明は、甲第1ないし5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (2)本件請求項1ないし4に係る発明は、甲第6号証の願書に最初に添付された明細書または図面に記載された発明であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 5.甲第1ないし6号証の記載内容 甲第1号証(特開昭62-260772号公報)には以下の事項が記載されている。 (a)「通常の炭化珪素粉末に気相反応法で合成された焼結活性度0.5〜1.0の活性の高い炭化珪素粉末を混合し、これを成型、加熱焼結することによって得られる高純度炭化珪素焼結体。」(特許請求の範囲第1項) (b)「通常の炭化珪素粉末に気相反応法で合成された焼結活性度0.5〜1.0の活性の高い炭化珪素微粉末を混合し.た混合粉末を作り、これを圧密化した成型体を不活性ガス、還元性ガスもしくは真空雰囲気中で加熱、焼結することを特徴とする高純度炭化珪素焼結体の製造方法。」(特許請求の範囲第4項) (c)「本発明は高純度炭化珪素焼結体及びその製造方法、更に詳しくは焼結助剤を用いることのない高密度の炭化珪素焼結体及びその製造方法に関する。」(第1頁右欄第11〜13行) (d)「半導体分野においても炭化珪素の持つ熱伝導の良さを利用してその焼結体を放熱部品としてまたIII .V属元素をドーピングして半導体素子としての応用研究がなされている。」(第1頁右欄下2行〜第2頁左上欄第2行) (e)「実施例1 市販の平均粒径0.3μmのβ-SiC粉末(不純物Fe<400PPM,AI<300PPM,B<10PPM)70部と、気相反応法(原料ガスとしてSiH4とC2H4を、高周波により励起されたAr熱プラズマ中に導入して合成した。)により製造した平均粒径7nmの活性度の高い炭化珪素微粉末(焼結活性度=0.8,不純物Fe<10PPM,AI<10PPM,B<10PPM)30部と、成型バインダとしてPVP(ポリビニルピロリドン)2部と、溶媒としてメチルアルコールをポリエチレン製の容器に入れて遊星型ボールミルで12時間混合した後、乾燥・解砕し、通常の一軸プレス機で円板状に成型した。その重量と寸法を測定し成型体密度を求めたところ相対密度=50.6%(理論密度=3.21g/cm3を100%として計算した。以下同様。)であった。さらに、その成型体を解砕し目開き125μmの篩を通した後、黒鉛製のホットプレス容器に詰め、40MPaの加圧下、Ar1atmの雰囲気中で、50℃/minの昇温速度で昇温し、2200℃で30分間保持して焼結し、その後、放冷した。冷却後、取り出した試料の密度をアルキメデス法で測定したところ相対密度=93.8%であった。焼結体のエッチング面をSEM写真にとり平均粒径を求めたところ平均粒径=3μmの微細な微構造をした高密度な高純度炭化珪素焼結体であった。」(第3頁右下欄下7行〜第4頁左上欄最終行) 甲第2号証(特開昭60-200519号公報)には以下の事項が記載されている。 (f)「反応装置内に配設し、通電または高周波電力の印加によって発熱する発熱体であって、BeOまたはBNを添加したSiCの焼結体を主体とし、この表面にSiやSiCをコーティングしたことを特徴とする発熱体。」(特許請求の範囲第1項) (g)「本発明は半導体製造用の発熱体に関し、特にエピタキシャル成長装置および化学的成膜装置のサセプタとして用いて好適な発熱体に関するものである。 」(第1頁左欄第17〜20行) 甲第3号証{「ファインケミカル事典」株式会社シーエムシー(昭和60年6月30日発行)第643〜646頁}には以下の事項が記載されている。 (h)第646頁の表3には、シリコンカーバイト発熱体の用途として、電子工業のI・C基板の焼成が記載されている。 甲第4号証{「第9回高温材料基礎討論会 講演要旨集」社団法人 日本セラミックス協会 高温・構造材料部会(平成1年11月9〜10日発行)第18〜22頁}には以下の事項が記載されている。 (i)「粒径がナノメータークラスの炭化ケイ素超微粉末を高周波誘導結合型アルゴン熱プラズマを用いたCVD法により合成した。炭化ケイ素超微粉末の合成についての詳細は文献5を参照されたい。プラズマ作動ガスにはアルゴン、原料ガスにはモノシランあるいは四塩化ケイ素をシリコン源とし、メタンあるいはエチレンを炭素源として使用した。」(第18頁下8〜4行) (j)「得られた粉末は超微粒子であるため、取扱には注意を払った。特に酸化の防止、green densityの向上には注意を払い、市販粉と混合した後、スプレードライヤーで造粒し、CIPにより二次成形を行った。焼結はアルゴン雰囲気中でホットプレスした。」(第19頁第9〜12行) (k)「この観点から炭化ケイ素の緻密焼結を得るために考えられる方策は(1)超微粒子粉末の利用(2)焼結助剤の利用(3)新焼結技術の利用 であろう。ここでは、超微粉末の利用による実験結果である。」(第21頁第10〜15行) (l)第21頁のTable2 Properties of SiCには、Density が3.2g/cm3、Thermal Conductivity が210W/mK、Electrical Resistivityが0.01Ωcmであることが記載されている。 甲第5号証{「窯業協会誌93[9]」(1985年発行)第511〜516頁}には以下の事項が記載されている。 (m)「炉内圧力2.13×104Paの減圧下において、Arプラズマ中心部にSiH4ーCH4-Ar原料ガスを導入,反応させるような高周波誘導加熱プラズマCVD法によって,SiC超微粉末の合成を行い,得られた超微粉末の特性を調べた。…(中略)…(3)β-SiC超微粉末の平均粒子径は粉末X線回折から求めた値では8〜4nm,TEMから測定した値では10〜5nmであった。」(第515頁右欄下8行〜第516頁左欄第8行) 甲第6号証{特願平1-20574号(特開平2-204363号)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下「先願明細書等」という)}には以下の事項が記載されている。 (n)「平均粒子径が0.1〜10μmの第1の炭化珪素粉末と、非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満から0.1torrの範囲で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.1μm以下の第2の炭化珪素粉末とを混合し、これを加熱し焼結することによって得られた電気比抵抗値が1Ω・cm以下である導電性炭化珪素焼結体。」(請求項1) (o)「平均粒子径が0.1〜10μmの第1の炭化珪素粉末と、非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満から0.1torrの範囲で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.1μm以下の第2の炭化珪素粉末とを混合し、これを加熱し焼結して電気比抵抗値が1Ω・cm以下の焼結体を得る導電性炭化珪素焼結体の製造方法。」(請求項2) (p)「請求項1に記載した導電性炭化珪素焼結体において、焼結体密度が2.90 g/cm3以上である導電性炭化珪素焼結体。」(請求項11) (q)「本発明は、各種構造材料や精密金型部材、さらには電極、抵抗体、発熱体などにも好適に用いられる炭化珪素焼結体とその製造方法に関し、」(公開公報第2頁左上欄最終行〜右上欄第2行) (r)「その電気比抵抗値としては以下に述べるような種々の報告がなされている。例えば、Buschによるとα型のものは常温で10-4〜10-2Ω・cmを示し、Nelsonによるとβ型は常温で10-2〜103Ω・cmを示すと報告されている。」(公開公報第2頁左下欄下3行〜右下欄第3行) (s)「本発明は、このような技術背景に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、焼結助剤を添加することなく、したがって焼結体の粒界に不純物が入り込むことなく高純度で構造欠陥の少ない高密度炭化珪素焼結体を得、これにより炭化珪素本来の特性が損なわれることなく、電気比抵抗値が1Ω・cm以下と優れた導電性を示す導電性炭化珪素焼結体を提供することにある。」(公開公報第3頁左下欄下6行〜右下欄第2行) (t)「本発明によって得られた導電性炭化珪素焼結体は、グレインサイズが2〜3μmと小さく均一な微細組織を有し、熱伝導率も150W/m・K以上と高いことから、従来にない良好な放電加工性が得られた。」(公開公報第4頁右下欄第6〜10行) 6.当審の判断 (1)特許法第29条第2項の申立て理由について (1)-a請求項1に係る発明について 甲第4号証の摘示事項(k)には超微粒子粉末の利用と焼結助剤の利用とが並列に記載されているから、摘示事項(k)に記載の「超微粒子粉末の利用」とは超微粒子粉末を用い焼結助剤無添加で焼結しているものと解される。そうすると、甲第4号証には、上記摘示事項(i)〜(l)より「焼結助剤無添加で焼結され、Density が3.2g/cm3で、Electrical Resistivityが0.01Ωcmの炭化ケイ素焼結体」が記載されていると云える。 そこで、本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「訂正1発明」という)と甲第4号証に記載された発明(以下「甲4発明」という)とを対比すると、甲4発明の「Density」は本件訂正1発明の「焼結体密度」に、同じく「Electrical Resistivity」は「室温での電気比抵抗値」に、それぞれ相当するため、両者は「焼結助剤無添加で焼結されてなり、焼結体密度が3.2g/cm3で、室温での電気比抵抗値が0.01Ωcmの炭化珪素焼結体」である点で一致し、以下の点で相違している。 (イ)本件訂正1発明は炭化珪素焼結体のポアの大きさが1μm以下であるのに対し、甲第4号証にはポアの大きさについては記載されていない点。 (ロ)発明の対象が、本件訂正1発明は半導体製造装置用または超伝導材製造装置用として使用される炭化珪素ヒーターであるのに対し、甲4発明は炭化珪素焼結体であり、甲第4号証には炭化珪素焼結体の具体的用途は記載されていない点。 まず、相違点(イ)について検討する。 甲第1号証には、上記摘示事項(a)〜(e)より、半導体分野における放熱部品等用の、焼結助剤無添加で焼結された、相対密度が93.8%(換算すると密度3.01g/cm3)の炭化珪素焼結体が記載されていると云えるが、ポアの大きさについては記載ないし示唆されていない。 甲第2号証には、上記摘示事項(f)〜(g)より、BeOまたはBNを添加したSiC焼結体にSiやSiCをコーティングした半導体製造用発熱体が記載されていると云えるが、ポアの大きさについては記載ないし示唆されていない。 甲第3号証には、上記摘示事項(h)より、シリコンカーバイト発熱体の用途として、電子工業のI・C基板の焼成が記載されていると云えるが、ポアの大きさについては記載ないし示唆されていない。 甲第5号証には、上記摘示事項(m)より、高周波誘導加熱プラズマCVD法によりSiC超微粉末の合成を行うことが記載されていると云えるが、炭化珪素焼結体のポアの大きさについては記載ないし示唆されていない。 上記のとおり、炭化珪素焼結体のポアの大きさを1μm以下とする点は甲第1ないし5号証に記載されていない。そして、本件訂正1発明はこの点により、平成14年1月8日付け意見書に添付された実験成績証明書から、排気時間、脱ガス量、ヒーターの消耗及びウエハの汚染量において、甲第1ないし5号証の記載から予期し得ない効果を奏するものと認められる。したがって、少なくとも相違点(イ)が甲第1ないし5号証の記載から容易に導けるものではないから、相違点(ロ)について検討するまでもなく、訂正1発明が甲第1ないし5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。 (1)-b請求項2に係る発明について 請求項2に係る発明は、訂正1発明を引用し更に限定を付加したものであるから、前項で述べたように、訂正1発明が甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない以上、請求項2に係る発明も、同じ理由により、甲第1ないし5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。 (1)-c請求項3に係る発明について 甲第1号証には、上記摘示事項(a)〜(e)より「平均粒径0.3μmのβ-SiC粉末と、Ar熱プラズマ中にSiH4とC2H4とからなる原料ガスを導入し、気相反応させることにより合成された平均粒径7nmの活性度の高い炭化珪素粉末とを混合し、加熱焼結することによって、半導体分野の放熱部品として使用できる、相対密度93.8%の高密度・高純度炭化珪素焼結体の製造方法」が記載されていると云える。 そこで、本件訂正後の請求項3に係る発明(以下「訂正3発明」という)と甲第1号証に記載された発明(以下「甲1発明」という)とを対比すると、甲1発明の「平均粒径」は本件訂正3発明の「平均粒子径」に、同じく「β-SiC粉末」は「第1の炭化珪素粉末」、「活性度の高い炭化珪素粉末」は「第2の炭化珪素粉末」、「SiH4」は「シラン化合物」、「C2H4」は「炭化水素」に、それぞれ相当し、また、甲1発明の、Ar熱プラズマは非酸化性雰囲気のプラズマであること、相対密度93.8%は理論密度=3.21g/cm3を100%として計算しているので焼結体密度に換算すると3.01g/cm3であることは明らかであるから、両者は「平均粒子径が0.3μmの第1の炭化珪素粉末と、非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.007μmの第2の炭化珪素粉末とを混合し、これを加熱し焼結することによって焼結体密度が3.01 g/cm3の炭化珪素焼結体の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違している。 (イ)本件訂正3発明は第2の炭化珪素粉末を気相合成する反応系の圧力を1気圧未満から0.1torrの範囲で制御しつつ気相反応させているのに対し、甲第1号証には反応系の圧力およびそれを制御することは記載されていない点。 (ロ)本件訂正3発明は焼結体の室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下であるのに対し、甲第1号証には焼結体の室温での電気比抵抗値は記載されていない点。 (ハ)本件訂正3発明は焼結体のポアの大きさが1μm以下であるのに対し、甲第1号証には焼結体のポアの大きさは記載されていない点。 (ニ)本件訂正3発明は得られた炭化珪素焼結体を半導体製造装置用ヒーターまたは超伝導材製造装置用ヒーターとするのに対し、甲第1号証には得られた炭化珪素焼結体の用途は半導体分野における放熱部品等であり、ヒーターは記載されていない点。 まず、相違点(ハ)について検討すると、炭化珪素焼結体のポアの大きさを1μm以下とする点は、上記6.(1)-aに記載したとおり、甲第2ないし5号証に記載されていない。したがって、少なくとも相違点(ハ)が甲第1ないし5号証の記載から容易に導けるものではないから、その余の相違点について検討するまでもなく、訂正3発明が甲第1ないし5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。 (2)特許法第29条の2の申立て理由について (2)-a請求項1に係る発明について 先願明細書等には、上記摘示事項(n)、(p)〜(s)より「焼結助剤無添加で焼結され、焼結体密度が2.90g/cm3以上で、常温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下の炭化珪素焼結体からなる炭化珪素発熱体」が記載されていると云える。 そこで、本件訂正1発明と先願明細書等に記載された発明(以下「先願発明」という)とを対比すると、先願発明の「発熱体」は本件訂正1発明の「ヒーター」に、同じく「常温での電気比抵抗値」は「室温での電気比抵抗値」に、それぞれ相当するため、両者は「焼結助剤無添加で焼結されてなり、焼結体密度が2.90g/cm3以上で、室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下の炭化珪素焼結体からなる炭化珪素ヒーター」である点で一致し、以下の点で相違している。 (イ)本件訂正1発明は炭化珪素焼結体のポアの大きさが1μm以下であるのに対し、先願明細書等にはポアの大きさについては記載されていない点。 (ロ)炭化珪素ヒーターの用途が、本件訂正1発明は半導体製造装置用または超伝導材製造装置用として使用されるのに対し、先願明細書等にはヒーターの具体的用途は記載されていない点。 まず、相違点(イ)について検討すると、炭化珪素焼結体のポアの大きさを1μm以下とする点は、先願明細書等の記載およびその出願時の技術水準からみて自明の事項とは認められない。したがって、少なくとも相違点(イ)が先願明細書等に記載されていないから、相違点(ロ)について検討するまでもなく、訂正1発明が先願明細書等に記載された発明であるとすることができない。 (2)-b請求項2に係る発明について 請求項2に係る発明は、訂正1発明を引用し更に限定を付加したものであるから、前項で述べたように、訂正1発明が先願明細書等に記載された発明であるとすることができない以上、請求項2に係る発明も、同じ理由により、先願明細書等に記載された発明であるとすることができない。 (2)-c請求項3に係る発明について 先願明細書等には、上記摘示事項(o)〜(q)より「平均粒子径が0.1〜10μmの第1の炭化珪素粉末と、非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満から0.1torrの範囲で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.1μm以下の第2の炭化珪素粉末とを混合し、これを加熱し焼結し、焼結体密度が2.90 g/cm3以上で、常温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下の焼結体を得る炭化珪素発熱体の製造方法」が記載されていると云える。 そこで、本件訂正3発明と先願発明とを対比すると、先願発明の「発熱体」は本件訂正3発明の「ヒーター」に、同じく「常温での電気比抵抗値」は「室温での電気比抵抗値」に、それぞれ相当するため、両者は「平均粒子径が0.1〜10μmの第1の炭化珪素粉末と、非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満から0.1torrの範囲で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.1μm以下の第2の炭化珪素粉末とを混合し、これを加熱し焼結し、焼結体密度が2.90 g/cm3以上で、室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下の炭化珪素焼結体を得る炭化珪素ヒーターの製造方法」である点で一致し、以下の点で相違している。 (イ)本件訂正3発明は炭化珪素焼結体のポアの大きさが1μm以下であるのに対し、先願明細書等にはポアの大きさについては記載されていない点。 (ロ)炭化珪素ヒーターの用途が、本件訂正3発明は半導体製造装置用または超伝導材製造装置用とするのに対し、先願明細書等にはヒーターの具体的用途は記載されていない点。 まず、相違点(イ)について検討すると、炭化珪素焼結体のポアの大きさを1μm以下とする点は、先願明細書等の記載およびその出願時の技術水準からみて自明の事項とは認められない。したがって、少なくとも相違点(イ)が先願明細書等に記載されていないから、相違点(ロ)について検討するまでもなく、本件訂正3発明が先願明細書等に記載された発明であるとすることができない。 7.むすび 以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に訂正後の本件請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 炭化珪素ヒーター及びその製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】半導体製造装置用または超伝導材製造装置用として使用されるヒーターであって、 焼結助剤無添加で焼結されてなり、焼結体密度が2.8g/cm3以上で、室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、かつポアの大きさが1μm以下の炭化珪素焼結体からなる炭化珪素ヒーター。 【請求項2】請求項1記載の炭化珪素ヒーターにおいて、室温での熱伝導率が150W/m・K以上である炭化珪素ヒーター。 【請求項3】平均粒子径が0.1〜10μmの第1の炭化珪素粉末と、非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満から0.1torrの範囲で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.1μm以下の第2の炭化珪素粉末とを混合し、これを加熱し焼結することによって焼結体密度が2.8g/cm3以上で、室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、かつポアの大きさが1μm以下の炭化珪素焼結体を得、この焼結体を半導体製造装置用ヒーターまたは超伝導材製造装置用ヒーターとすることを特徴とする炭化珪素ヒーターの製造方法。 【発明の詳細な説明】 「産業上の利用分野」 本発明は、耐酸化性、耐食性、耐熱性に優れ、かつ酸化雰囲気中および真空雰囲気中でも好適に使用される高純度で緻密質の炭化珪素焼結体からなる半導体製造装置用ヒーターまたは超伝導材製造装置用ヒーターと、その製造方法に関するものである。 「従来の技術」 一般に酸化雰囲気中で使用可能なヒーターとしては、金属では鉄-クロム-アルミニウム合金や、ニッケル-クロム合金等がある。しかし、これらの金属からなるヒーターは、酸化による腐食、あるいは溶融などが生じることから、1100℃程度でまでしか使用できないといった不満があった。 また、セラミックスでは多孔質炭化珪素、珪化モリブデンなどが実用化されており、これらヒーターの使用可能温度の上限値としては、多孔質炭化珪素が1600℃程度、珪化モリブデンが1800℃程度と上記金属製のものに比べ高い数値を示す。 しかし、多孔質炭化珪素からなるヒーターでは、内部に約20体積%の気孔を含むことから高温空気中での酸化が早く、よって電気絶縁性の二酸化珪素が表面だけでなく内部にまで生成するので、局部的な異常発熱や機械的強度の低下などが起こるなど、ヒーターとしての性能が著しく低下するといった問題がある。一方珪化モリブデンでは、1300℃から軟化が始まるので、高温、すなわち1300℃以上で使用した場合に機械的強度や熱衝撃性が低下し、ヒーターとしての寿命が短くなるといった問題がある。 また、不活性雰囲気中や真空雰囲気中で使用可能なヒーターとしては、従来からカーボンが一般的に使用されている。しかし、カーボンは高温での耐酸化性に著しく劣るため、被加熱試料等から蒸発する水分や酸素と容易に反応して一酸化炭素や二酸化炭素を生成し、これを放出するので、特に外部からの汚染を嫌う半導体や超伝導材料などの加熱装置には使用し得ないといった問題がある。 このように、酸化雰囲気中や真空雰囲気中で使用される従来のヒーターには、耐酸化性、耐食性、耐熱性等についてさまざまの問題があった。 そこで、ヒーター材として、本来、耐酸化性、耐食性、耐熱性に優れた緻密質炭化珪素を利用する技術が従来より提供されている。このような技術としては大別すると以下に示すものがある。 (イ)炭化珪素に炭素チタン、炭化ジルコニウム、ホウ化モリブデン、ホウ化ジルコニウム、珪化モリブデン、珪化タンタル、窒化チタン、窒化ジルコニウム、カーボン等の1種類以上を添加し、焼結体中にて導電性物質を連続的に接触させて電気比抵抗値を調節した炭化珪素焼結体をヒーターとして使用する技術。 (ロ)炭化珪素に酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、酸化チタン等の化合物の1種類以上を添加し、これら化合物どうしを反応させるか、あるいは該化合物と炭化珪素とを反応させることにより、導電性の化合物あるいは複合相を炭化珪素粒界に形成して電気比抵抗値を調節した炭化珪素焼結体をヒーターとして使用する技術。 (ハ)多孔質炭化珪素、カーボンなどの従来のヒーターの上に、CVD法やPVD法などによって緻密質炭化珪素膜を被覆し、これをヒーターとして使用する技術。 「発明が解決しようとする課題」 しかしながら、上記の技術によって製造されたヒーターには以下に述べる不都合がある。 上記(イ),(ロ)の技術で共通しているのは、導電性物質あるいは化合物を1種類以上添加することにあるが、これらの物質は炭化珪素と異種物質であるため、該物質を焼結体中に均一に分散させることが非常に困難であり、さらに焼結体中の導電パスが切断され易く、ヒーターとして使用した場合に発熱特性などにバラツキが生じる。また、これらの物質を添加すると、炭化珪素が本来有している特性、例えば高耐酸化性、高耐食性、高熱伝導性、高温高強度などのいずれかが劣化してしまうという大きな問題がある。さらに、これらの炭化珪素焼結体からなるヒーターでは、添加物質が炭化珪素よりも耐食性、耐熱性などに劣る場合が多いので、高温に発熱した際、添加物質が蒸発しあるいは分解することなどによりガス化して放出され易くなり、外部からの汚染を嫌う半導体や超伝導材などを製造する工程での使用に適さなくなる。 一方、(ハ)の技術から製造されるヒーターでは、抵抗発熱体である多孔質炭化珪素やカーボンと、酸化、腐食に対して保護膜の働きをする緻密質炭化珪素膜との熱膨張率が異なる場合が多いので、加熱、冷却を繰り返しているうちに膜が剥離してしまい、ヒーターとしての寿命が短くなる。また、この緻密質炭化珪素は電気比抵抗値が高いため、ヒーターの電極取り付け部に被覆が施せず、よってこの露出部から酸化や腐食が起こり易くなる。 本発明はこのような技術背景に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、焼結助剤を添加することなく、高純度で緻密質の炭化珪素焼結体を得、これにより炭化珪素本来の優れた耐酸化性、耐食性、耐熱性等を有し、室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下と優れた導電性を示す半導体製造装置用または超伝導材製造装置用として使用される炭化珪素ヒーター及びその製造方法を提供することにある。 「課題を解決するための手段」 本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、平均粒子径が0.1〜10μmの第1の炭化珪素粉末と、非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満から0.1torrの範囲で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.1μm以下の第2炭化珪素粉末とを混合し、これを加熱し焼結することによって焼結体密度が2.8g/cm3以上で、室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、かつポアの大きさが1μm以下の炭化珪素焼結体を得、この焼結体を半導体製造装置用ヒーターまたは超伝導材製造装置用ヒーターとすることにより、高耐酸化性、高耐食性、高温高強度、高熱伝導性を損なうことなく、焼結体密度が2.8g/cm3以上で、室温での電気比抵抗値1Ω・cm以下、かつポアの大きさが1μm以下の炭化珪素焼結体からなる半導体製造装置用または超伝導材製造装置用として使用される炭化珪素ヒーター(以下、単に炭化珪素ヒーターまたはヒーターということもある)が得られること究明し、上記課題を解決した。 以下、本発明の炭化珪素ヒーターをその製造方法に基づいて詳細に説明する。 まず、平均粒子径が0.1〜10μmの第1の炭化珪素粉末と平均粒子径が0.1μm以下の第2の炭化珪素粉末とを用意する。ここで、第1の炭化珪素粉末としては、一般に使用されるものでよく、例えばシリカ還元法、アチソン法等の方法によって製造されたものが用いられる。ただし、半導体や超伝導材の製造工程において使用される加熱装置用のヒーターを製造する場合には、高純度が要求されるので、酸処理等を施した高純度粉末を使用する必要がある。第1の炭化珪素の結晶相としては、非晶質、α型、β型、あるいはこれらの混合相のいずれでもよい。また、この炭化珪素粉末の平均粒子径としては、0.1〜1μmにするのが、焼結性がよくなることから望ましい。 また、第2の炭化珪素粉末としては、非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素の原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満から0.1torrの範囲で制御しつつ気相反応させることによって得られたものを使用する。例えば、モノシランとメタンとからなる原料ガスを高周波により励起されたアルゴンプラズマ中に導入して合成を行うと、平均粒子径が0.02μmで、アスペクト比の小さいβ型超微粉末が、また合成条件によってはα型とβ型との混合相が得られる。このようにして得られた超微粉末は焼結性が非常に優れているため、上記第1の炭化珪素粉末と混合するのみで、焼結助剤を添加することなく高純度かつ緻密質の炭化珪素焼結体を得ることができるようになる。 次に、上記第1の炭化珪素粉末と第2の炭化珪素粉末とを混合して混合物とする。ここで、第1の炭化珪素粉末と、第2の炭化珪素粉末とを混合するにあたっては、第2の炭化珪素粉末の配合量を全体の0.5〜50重量%の範囲とするのが好適とされる。すなわち、第2の炭化珪素粉末の配合量を0.5重量%未満とすると、この炭化珪素粉末を配合した緻密化に及ぼす効果が十分に発揮されず、また50重量%を越えて配合しても、焼結体密度がほぼ横ばいになってその効果が得られないからである。 その後、上記混合物をヒーターとして、所望する形状に成形し、得られた成形体を1800℃〜2400℃の温度範囲で加熱し、さらに焼結助剤無添加で焼結して炭化珪素ヒーターを得る。炭化珪素粉末の成形にあたっては、プレス成形法、押し出し成形法、射出成形法などの従来から公知の方法を採用することができる。この場合、成形バインダーとしてはポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンなどを使用することができ、必要に応じてステアリン酸塩などの分散剤を添加してもよい。 また、焼結にあたっては、常圧焼結、雰囲気加圧焼結、ホットプレス焼結、あるいは熱問静水圧焼結(HIP)などの従来の方法が採用可能であるが、より高密度で導電性に優れた炭化珪素ヒーターを得るためにはホットプレス等の加圧焼結法を採用することが望ましい。焼結温度についても特に限定されるものではないが、1900℃より低い加熱温度では焼結不足が生じ、また2300℃より高い加熱温度では炭化珪素の蒸発が起こり易くなり、粒子の成長によって焼結体の強度や靭性が低下する恐れがあることから、1900℃〜2300℃の温度範囲で焼結するのが好適とされる。 また、焼結時の雰囲気としては、真空雰囲気、不活性雰囲気もしくは還元ガス雰囲気のいずれも採用可能である。 このようにして得られた炭化珪素ヒーターは、その焼結体密度が2.8g/cm3以上(理論密度が3.21g/cm3であることから、理論密度の約87%以上)となる。そして、焼結体密度が2.8g/cm3以上であることから炭化珪素粒子間の結合力が充分であり、また気孔も小さく数も少ないので耐酸化性、耐食性に優れたものとなり、よってヒーター性能が安定して持続するものとなる。さらに、高温での機械的強度も高いことから、薄肉化することによって軽量化することが可能になり、また耐久性についても従来のものに比べ一層向上したものとなる。 また、この炭化珪素ヒーターはその室温時の電気比抵抗値が1Ω・cm以下になるので、抵抗加熱ヒーターとして使用した場合に小型化が可能になり、さらに温度による電気比抵抗値の変化が少ないので、ヒーター表面温度を一定に保持するための電流制御がし易いといった利点を有する。 また、上述したようにこの炭化珪素ヒーターは、その焼結体密度が2.8g/cm3以上と緻密質であり、しかも焼結助剤を添加していないので、粒界に存在する不純物が少なく微細で均一な組織が得られ、よって150W/m・K以上の高い熱伝導率が得られる。したがって、この炭化珪素ヒーターは均熱性に優れるだけでなく、熱応答性も速いものとなる。 このように、本発明の炭化珪素ヒーターは高純度のものとなり、したがって、このような高純度のヒーターにあっては、高温かつ減圧下の条件で使用した場合においても、ヒーターからの不純物の蒸発や分解によるガス発生がほとんど無いので、半導体や超伝導材の製造工程のように高純度雰囲気が要求される分野にも充分使用可能となる。 このような炭化珪素ヒーターにあっては、第1に高純度で緻密質であることから炭化珪素本来の高耐酸化性、高耐食性、高熱伝導性、高温高強度を有するものとなり、これによって酸化雰囲気および真空雰囲気で使用しても酸化、腐食、分解などによる消耗が極めて少なくなることから寿命が伸びるとともに、ヒーター本体の薄肉化による軽量化が可能になる。また、均熱性、熱応答性などのヒーター特性も向上し、高温雰囲気中でも耐熱性に優れるためヒーターの変形がなくなり、熱衝撃に対しても十分耐え得るものとなる。さらに、半導体や超伝導材の製造分野などの汚染を嫌う工程においても十分使用可能になる。 第2に室温時の電気比抵抗値が低く、かつ温度による変動が少ないため、ヒーターの小型化が可能になり、また電流値によるヒーター温度の制御が容易となる。さらに、焼結体組織も均一であるので、従来にない良好な放電加工が可能になり、よって微細加工や三次元加工を自由に行うことができる。 「実施例」 以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。 (実施例1) 第1の炭化珪素粉末として平均粒子径が0.7μm、BET比表面積が13m2/gのβ型炭化珪素粉末を使用した。この粉末中の含有金属不純物量を調べたところ、10ppmのナトリウム、5ppmのカリウム、55ppmの鉄、171ppmのアルミニウム、22ppmのカルシウムが含まれており、ニッケル、クロム、銅の含有量は1ppm未満であった。 次に、この第1の炭化珪素粉末に、四塩化珪素とエチレンとを原料ガスとしてプラズマCVD法により気相合成して得た平均粒子径0.01μm、比表面積96m2/gの非晶質炭化珪素超微粉末(第2の炭化珪素粉末)を5重量%添加し、これをメタノール中にて分散せしめ、さらにボールミルで12時間混合した。 次いで、この混合物を乾燥して内径160mmの黒鉛製モールドに充填し、ホットプレス装置にて、アルゴン雰囲気下、プレス圧400kg/cm2、焼結温度2200℃の条件で90分間焼結した。 得られた炭化珪素焼結体の密度を調べたところ、3.1g/cm3であった。また、この焼結体の室温時における3点曲げ強度は、JIS R-1601に準拠して測定したところ64.3kg/mm2という結果が得られ、さらに1500℃における3点曲げ強度は68.5kg/mm2であった。また、室温時における電気比抵抗値を四端子法で測定したところ0.05Ω・cmという結果が得られ、さらに室温時の熱伝導率をレーザーフラッシュ法で測定したところ197W/m・Kであった。また、焼結体中の含有不純物量をアーク発光分析で調べたところ、鉄が32ppm、アルミニウムが88ppm、カルシウムが5ppm、銅が3ppmであり、ナトリウム、カリウム、クロム、ニッケルはいずれも1ppm未満であった。さらに、焼結体の表面を濃度10%のフェロシアン化カリウムでエッチングし、走査型電子顕微鏡(SEM)により焼結体の微細構造を調べたところ、ポアの大きさが1μm以下であり、その数も少なく、非常に均質かつ緻密な組織であることが判明した。 次いで、この直径160mm、厚さ10mmの円板状炭化珪素焼結体を、ワイヤー放電加工によりその外周部および内部の一部を除去して第1図および第2図に示すような、六方向に突出した円板形状の炭化珪素ヒーター1とし、さらにモリブデン製電極2を取り付けた。なお、ワイヤー放電加工はトランジスタパルス回路方式の放電加工機を用いて行った。また、放電用ワイヤーには外径が2mmの黄銅のワイヤーを用い、加工条件としては加工電圧を50V、パルス幅を1.2μsec、休止時間を20μsecとした。 このようにして放電加工を行い、放電加工面の表面粗さを測定したところRmaxが2.5μmであり、上記炭化珪素焼結体は放電加工性が良好であることが確認された。 そして、この炭化珪素ヒーターを酸化加熱炉に取り付け、印加電圧を一定にして15Aの電流を流したところ、ヒーターの表面は約22℃/minの速度で昇温し、45分後には設定温度である1000℃になった。次いで、加熱を5時間統けたところ、ヒーターの消耗がほとんど認められず、さらにこの加熱試験を10回繰り返した後でも異常は認められなかった。 また、この炭化珪素ヒーターを真空加熱炉に取り付け、1×10-4torrの真空下において同様の加熱試験を行ったところ、ヒーターの消耗はほとんど認められず、ガスなどの発生もなかった。 以上の結果より、本発明の炭化珪素ヒーターは酸化雰囲気および真空雰囲気下で使用しても加熱特性は良好であり、耐久性にも優れていることが確認された。 (実施例2〜4) 実施例1と同一の炭化珪素粉末(第1の炭化珪素粉末)に、モノシランとメタンとを原料ガスとしてプラズマCVD法により気相合成した平均粒子径0.02μm、BET比表面積値70m2/gのβ型炭化珪素超微粉末(第2の炭化珪素粉末)を5〜50重量%添加し、実施例1と同一の条件で焼結して炭化珪素焼結体を製造した。 得られた炭化珪素焼結体の焼結体密度、室温時の3点曲げ強度、1500℃での3点曲げ強度、室温時の電気比抵抗値、室温時の熱伝導率を実施例1と同一の方法でそれぞれ調べ、その結果を実施例1の測定結果とともに第1表に示す。 第1表に示した結果より、異種原料ガスから合成された炭化珪素超微粉末を使用しても、また炭化珪素超微粉末の添加量を変えても、本発明の効果が十分得られることが確認された。 また、これらの焼結体中に含まれる不純物量を実施例1と同一の方法で調べた結果、いずれの焼結体も合計不純物量が200ppm以下であった。 「発明の効果」 以上説明したように、本発明における請求項1および2に記載の発明の炭化珪素ヒーターは、請求項3に記載の発明の製造方法によって得られるものである。そして、請求項3に記載の製造方法によれば、焼結助剤無添加で緻密焼結を行うことができることから、極めて高純度でありかつ高密度な焼結体を得ることができ、よって炭化珪素本来の性質である高耐酸化性、高耐食性、高熱伝導性、高温高強度を併せ持ち、しかも電気比抵抗値の低い炭化珪素ヒーターを製造することができる。 そして、これにより請求項1および2の炭化珪素ヒーターは、酸化雰囲気下で使用される場合にも消耗がほとんどなく、耐久性に優れたものとなる。また、緻密質で高純度であることから減圧、真空下で使用される場合にも、ヒーターからの不純物蒸発による汚染ガスの発生がほとんどないため、半導体や超伝導材などの製造のように汚染を最も嫌う工程において使用しても製品特性を低下させることがない。また、熱の放散性も良好なため、均熱性、熱応答性などのヒーター特性に優れたものとなる。 さらに、本発明の炭化珪素ヒーターは、従来のヒーターに比較して高温での機械的強度が格段に高いため、熱衝撃によるヒーターの変形や破損が少なくなり、また薄肉化による軽量化が可能になるため、ハンドリングが容易となる。加えて、電気比抵抗値が低く、温度による変動が少ないことからヒーターの小型化が可能になるため、これを用いた加熱装置をコンパクトにすることができ、また電流値によるヒーター温度の制御が容易となるため加熱装置の制御系を単純化することができる。 また、良好な放電加工性をも有するので、三次元複雑形状のものにも十分精度よく製造され、よってその使用範囲が広範なものとなる。そして、これにより該炭化珪素ヒーターは、半導体製造工程または超伝導材製造工程において用いられる酸化加熱炉、雰囲気加熱炉、真空加熱炉、蒸着装置、CVD装置等のヒーターに使用でき、産業上多大な効果を奏するものとなる。 【図面の簡単な説明】 第1図および第2図は本発明の一実施例を示す図であって、第1図は炭化珪素ヒーターの平面図、第2図は第1図のII-II線矢視図である。 1……炭化珪素ヒーター、 2……モリブデン電極部。 |
訂正の要旨 |
特許第3004030号の明細書を、 特許請求の範囲の減縮を目的として、 訂正事項a:特許請求の範囲の請求項1において、「電気比抵抗値が1Ω・cm以下の炭化珪素焼結体」とあるのを、「電気比抵抗値が1Ω・cm以下、かつポアの大きさが1μm以下の炭化珪素焼結体」と訂正する。 訂正事項b:特許請求の範囲の請求項3において、「焼結することによって炭化珪素焼結体を得」とあるのを、「焼結することによって焼結体密度が2.8g/cm3以上で、室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、かつポアの大きさが1μm以下の炭化珪素焼結体を得」と訂正する。 訂正事項c:特許請求の範囲の請求項4を削除する。 明りょうでない記載の釈明を目的として、 訂正事項d:明細書の第8頁第5〜6行(特許公報第5欄第3行)に「焼結することによって炭化珪素焼結体を得」とあるのを、「焼結することによって焼結体密度が2.8g/cm3以上で、室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、かつポアの大きさが1μm以下の炭化珪素焼結体を得」と訂正する。 訂正事項e:明細書の第8頁第6〜14行(特許公報第5欄第5〜13行)に「ヒーターとするか、または単に非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満から0.1torrの範囲で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.1μm以下である炭化珪素超微粉末を加熱し、焼結することによって炭化珪素焼結体を得、この焼結体を半導体製造装置用ヒーターまたは超伝導材製造装置用ヒーターとすることにより」とあるのを、「ヒーターとすることにより」と訂正する。 訂正事項f:明細書の第8頁第16〜17行(特許公報第5欄第15行)に「電気比抵抗値1Ω・cm以下の」とあるのを、「電気比抵抗値1Ω・cm以下、かつポアの大きさが1μm以下の」と訂正する。 訂正事項g:明細書の第11頁第1〜10行(特許公報第6欄第6〜14行)に「なお、上述した半導体や超伝導材の製造に用いられる加熱炉や蒸着装置などに使用されるヒーターを製造する場合には、高純度が要求されるため、第2の炭化珪素粉末のみを用いて焼結体を製造するのが望ましい。すなわち、第2の炭化珪素粉末は高純度ガスを原料として合成するため、その含有不純物量が数ppm以下と極めて少なく、純度が高いからである。その後、上記混合物または第2の炭化珪素粉末を」とあるのを、「その後、上記混合物を」と訂正する。 訂正事項h:明細書の第14頁第3〜6行(特許公報第7欄第12〜14行)に「特に請求項4記載の製造方法に基づいて作製すれば遊離炭素および遊離シリカ以外の不純物含有量を100ppm以下にすることができる。したがって、」とあるのを、「したがって、」と訂正する。 訂正事項i:明細書の第21頁第1表(特許公報第5頁第1表)のうちの「実施例5」の欄を、削除する。 訂正事項j:明細書の第22頁第1行〜第23頁第5行(特許公報第9欄下から3行〜第11欄第17行)に「(実施例5)モノシランとメタンとを原料ガスとしてプラズマCVD法により気相合成した平均粒子径0.03μm、BET比表面積値58m2/gのβ型炭化珪素超微粉末をメタノール中にて分散せしめ、さらにボールミルで12時間混合した。次に、この混合物を乾燥し造粒して粉末を得、これを実施例1と同一の条件で焼結して炭化珪素焼結体を製造した。得られた炭化珪素焼結体の密度を調べたところ3.1g/cm3であった。また、この炭化珪素焼結体の室温時の3点曲げ強度、1500℃での3点曲げ強度、室温時の電気比抵抗値、室温時の熱伝導率を実施例1と同一の方法で測定し、得られた結果を第1表に併記する。さらに、この炭化珪素焼結体の不純物分析を実施例1と同一の分析法で調べたところ、ナトリウムが5ppm、鉄が8ppm、アルミニウムが10ppm、クロムが2ppm含まれており、カリウム、カルシウム、ニッケル、銅は1ppm未満であった。以上の結果から、炭化珪素超微粉末だけを原料とした炭化珪素焼結体はより高強度かつ高純度であることが確認され、苛酷な条件下でも使用可能なヒーターとなり得ることが判明した。「発明の効果」」とあるのを、「発明の効果」」と訂正する。 訂正事項k:明細書の第23頁第7〜8行および第9行(特許公報第11欄第19〜20行および第21行)にそれぞれ「請求項3および4」とあるのを、それぞれ「請求項3」と訂正する。 |
異議決定日 | 2002-04-05 |
出願番号 | 特願平2-107141 |
審決分類 |
P
1
651・
161-
YA
(C04B)
P 1 651・ 121- YA (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 深草 祐一 |
特許庁審判長 |
石井 良夫 |
特許庁審判官 |
唐戸 光雄 西村 和美 |
登録日 | 1999-11-19 |
登録番号 | 特許第3004030号(P3004030) |
権利者 | 住友大阪セメント株式会社 |
発明の名称 | 炭化珪素ヒーター及びその製造方法 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 渡邊 隆 |