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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1061182
異議申立番号 異議2000-73323  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-05-01 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-09-01 
確定日 2002-05-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3016571号「炭化珪素電極及びその製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3016571号の訂正後の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.本件手続の経緯
本件特許第3016571号は、平成2年3月30日に出願され、平成11年12月24日に設定登録されたものである。
これに対し、大谷 保から特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の13年1月23日付けで訂正請求がなされたが、この訂正請求に対して再度取消理由通知がなされたところ、平成14年4月10日付けで再度訂正請求がなされたものである(なお、先の訂正請求は取り下げられた)。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正事項
平成14年4月10日付け訂正請求は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおり訂正するものである。
(1-a)訂正事項a:本件特許明細書の請求項1-3を削除し、請求項4を繰り上げて請求項1とすると共に、「合計金属不純物量が30ppm以下の炭化珪素焼結体を得、この焼結体を電極とする」を、「室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、合計金属不純物量が30ppm以下の炭化珪素焼結体を得、この焼結体をドライエッチング装置用、イオンアシスト装置用、プラズマCVD装置用、オゾン発生装置用、電気泳動装置用のいずれかに用いられる電極とする」と訂正する。
(1-b)訂正事項b:特許明細書(特許公報第1頁右欄第14行目〜第15行目)の「炭化珪素電極と、その製造方法に関する」を、「炭化珪素電極の製造方法に関する」と訂正する。
(1-c)訂正事項c:特許明細書(特許公報第2頁右欄第14行目)の「炭化珪素電極及びその製造方法を提供する」を、「炭化珪素電極の製造方法を提供する」と訂正する。
(1-d)訂正事項d:特許明細書(特許公報第2頁右欄第17行目〜第26行目)の「重ねた結果、平均粒子径が・・・または単に非酸化性雰囲気」を、「重ねた結果、非酸化性雰囲気」と訂正する。
(1-e)訂正事項e:特許明細書(特許公報第2頁右欄第36行目〜第3頁右欄第43行目)の「上記課題を解決した。・・・第1の炭化珪素粉末」を、「上記課題を解決した。「実施例」以下、参考例及び実施例により本発明を具体的に説明する。(参考例1〜3)第1の炭化珪素粉末」と訂正する。
(1-f)訂正事項f:特許明細書(特許公報第4頁左欄第8行目〜右欄第6行目)の「焼結した。・・・次いで、」を、「焼結した。得られた炭化珪素焼結体の密度を調べた。また、この焼結体の室温時における3点曲げ強度を、JIS R-1601に準拠して測定した。さらに、室温時の比抵抗値を四端子法で測定し、室温時の熱伝導率をレーザーフラッシュ法で測定した。その結果を第1表に示す。また、これら焼結体中の含有不純物量をアーク発光分析で調べた結果、いずれの焼結体も合計不純物量が30ppm以下であった。次いで、」と訂正する。
(1-g)訂正事項g:特許明細書(特許公報第5頁)の第1表を、全文訂正明細書の第5頁に示す第1表のとおり、すなわち「実施例1、2及び3」をそれぞれ「参考例1、2及び3」と、「実施例4」を「実施例1」とそれぞれ訂正する。
(1-h)訂正事項h:特許明細書(特許公報第5頁左欄第44行目〜左欄第45行目)の「(実施・・・モノシラン」を、「(実施例1)モノシラン」と訂正する。
(1-i)訂正事項i:特許明細書(特許公報第5頁左欄第50行目、第5頁右欄第47行目、第5頁右欄第50行目)の「実施例1」を、それぞれ「参考例1〜3」と訂正する。
(1-j)訂正事項j:特許明細書(特許公報第6頁左欄第10行目〜第13行目)の「本発明における・・・製造方法によれば、」を、「本発明の炭化珪素電極の製造方法によれば、」と訂正する。
(1-k)訂正事項k:特許明細書(特許公報第6頁左欄第19行目〜第20行目)の「これにより・・・炭化珪素電極は、」を、「これにより得られる炭化珪素電極は、」と訂正する。
(1-l)訂正事項l:特許明細書(特許公報第6頁右欄第4行目〜第5行目)の「工程においても使用しても」を、「工程において使用しても」と訂正する。
(1-m)訂正事項m:特許明細書(特許公報第6頁右欄第9行目)の「本発明の炭化珪素電極は、」を、「この炭化珪素電極は、」と訂正する。
(1-n)訂正事項n:特許明細書(特許公報第6頁右欄第16行目〜第19行目)の「該炭化珪素電極は、・・・産業上多大な効果を奏するものとなる。」を、「該炭化珪素電極は、ドライエッチング装置用、イオンアシスト装置用、プラズマCVD装置用、オゾン発生装置用、電気泳動装置用のいずれかに用いられる電極となり、産業上多大な効果を奏するものとなる。」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、請求項1乃至3を削除し、請求項4を請求項1とすると共に、技術的な事項を限定・付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。また特許明細書の「イオンアミスト装置用」を「イオンアシスト装置用」と訂正して請求項1に追加しているが、「イオンアミスト装置用」を「イオンアシスト装置用」とすることは、誤記の訂正に該当する。また、上記訂正事項b乃至nは、特許請求の範囲の減縮に伴う明りょうでない記載の釈明に該当する。
そして、これら訂正事項は、すべて特許明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるから新規事項の追加に該当せず、また当該訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(3)むすび
したがって、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.本件訂正発明
上記訂正は、これを認容することができるから、訂正後の本件請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明」という)は、平成14年4月10日付け訂正請求書に添付された全文訂正明細書の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満から0.1torrの範囲で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.1μm以下である炭化珪素超微粉末を加熱し、焼結することによって室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、合計金属不純物量が30ppm以下の炭化珪素焼結体を得、この焼結体をドライエッチング装置用、イオンアシスト装置用、プラズマCVD装置用、オゾン発生装置用、電気泳動装置用のいずれかに用いられる電極とすることを特徴とする炭化珪素電極の製造方法。」
4.特許異議申立てについて
(1)特許異議申立人大谷 保は、証拠方法として甲第1号証乃至甲第5号証を提出して、次のとおり主張している。
(イ)本件請求項1乃至4に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証乃至甲第2号証、又は甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(ロ)本件請求項1乃至3に係る発明は、本件特許の出願の日前に出願した先願の出願当初の明細書(甲第5号証)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者は、上記先願の発明者と同一ではないし、また、本件特許の出願の時に本件特許の出願人は上記先願の出願人と同一でもないから、本件請求項1乃至3に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
(2)証拠の記載内容
(2-1)甲第1号証:(社)日本セラミックス協会高温・構造材料部会主催「第9回高温材料基礎討論会講演要旨集」平成元年11月9日〜10日、p.18〜22
(a)「粒径がナノメータークラスの炭化ケイ素超微粉末を高周波誘導結合型アルゴン熱プラズマを用いたCVD法により合成した。炭化ケイ素超微粉末の合成についての詳細は文献5を参照されたい。プラズマ作動ガスにはアルゴン、原料ガスにはモノシランあるいは四塩化ケイ素をシリコン源とし、メタンあるいはエチレンを炭素源として使用した。」(第18頁下から8行〜下から4行)
(b)「発振周波数約4MHzの高周波発信機を用い、6mmの銅パイプを3.5巻したワークコイルからプラズマ作動ガスに誘導結合によりエネルギーを供給した。プラズマ炉は石英製で、ガス導入部、プラズマ発信部、粉末析出部に分けられる。ガス導入部は三重管構造になっており、外側にArシースガス、内側にArプラズマ作動ガス、中心部に原料ガスを流した。プラズマ発生部は二重管構造で、外側に冷却水を流し、熱による損傷を防ぐと共にシースガスの温度上昇を抑え熱ピンチ効果を大きくした。」(第18頁下から3行〜第19頁3行)
(c)「プラズマ炉内を真空排気し高周波電力を印加すると、低温プラズマが発生する。ここで発生する電子を利用して、プラズマ作動ガス圧力を上げて電子と中性ガスの衝突頻度を上げると共に供給電力を増加してゆくと熱プラズマが発生する。このようにして発生させたAr熱プラズマ中に原料ガスを導入した。SiC超微粉末は、熱い煙状の火炎となってプラズマから析出した。」(第19頁4〜8行)
(d)「得られた粉末は超微粒子であるため、取扱には注意を払った。特に酸化の防止、green densityの向上には注意を払い、市販粉と混合した後、スプレードライヤーで造粒し、CIPにより二次成形を行った。焼結はアルゴン雰囲気中でホットプレスした。」(第19頁9〜12行)
(e)「表1にプラズマ合成した炭化ケイ素超微粉末と、焼結体をスパーク発光分析した結果を示す。これから見ても市販の粉末と比べて超高純度であることがわかる。原料ガスの純度や取扱に注意を払えば半導体クラスの純度にすることも可能である。焼結体の純度も通常の炭化ケイ素焼結体の純度より高く、焼結に効く不純物は存在しないといえる。この表にない陽イオン不純物は分析限界以下である。この結果からわかるように炭化ケイ素は高純度であっても超微粒子をうまく使うことにより通常の条件下で焼結し得ることが証明された。」(第19頁15〜23行)
(f)「焼結体の密度は原料粉末、混合状態、ホットプレス条件により変化するが、理論密度の95%(3.24g/cm2)から100%(3.21g/cm2)に達成するものが得られた。」(第19頁24〜27行)
(g)第19頁の表1のパウダー(1)とパウダー(2)の成分分析値は、次のとおり。
「Powder(1);Fe 5-30ppm、Mg 1ppm、Al、B、Ca、Cr、Cu、Ni、Ti、V、Mn、Co、Zn、Na、K いずれもn.d.(non-detectable)
Powder(2);Al 115ppm、B 11ppm、Ca 361ppm、Cr 47ppm、Cu 8ppm、Fe 325ppm、Mg 82ppm、Ni 29ppm、Ti 40ppm、V 14ppm、Mn 5ppm、Co 7ppm、Zn 3ppm、Na 36ppm、K 3ppm」
(h)第21頁の表2に示されているSiCの性質の一部は、次のとおり。
「熱伝導率;210W/mK、電気比抵抗;0.01Ωcm」
(i)「電気的性質は伝導度しか測っていないが、バリスター効果の現れない直線領域では10-2Ω・cmの比抵抗率を示した。」(第22頁7〜8行)
(2-2)甲第2号証:特開昭62-100477号公報
(a)「結晶の平均粒径が0.3〜100μm、密度が1.3〜2.8g/cm3、平均曲げ強度が1.0kgf/mm2以上で、開放気孔率が10〜60容積%である多孔質炭化珪素焼結体からなることを特徴とするドライ・エッチング装置用の炭化珪素質部品。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「前記多孔質炭化珪素焼結体は、遊離炭素および遊離シリカ以外の不純物含有量が30ppm以下である特許請求の範囲第1項あるいは第2項のいずれかに記載のドライ・エッチング装置用の炭化珪素質部品。」(特許請求の範囲第3項)
(c)「このような問題が発生する部品としては種々のものがあるが、例えば電極、電極カバー、あるいはエッチング・テーブル等がその対象として考えられる。」(第2頁右上欄10〜13行)
(d)「本発明の炭化珪素質部品は、遊離炭素および遊離シリカ以外の不純物含有量が30ppm以下であることが好ましい。その理由は、前記炭化珪素質部品の不純物含有量が30ppmより多いとシリウンウエハーのエッチング処理時に炭化珪素質部品も少しは腐蝕性ガスによる侵食を受けるため、シリコンウエハーが汚染され易くなるからであり、なかでも15ppm以下であることがより有利である。」(第3頁右下欄8〜15行)
(e)「・・・前記円板状の多孔質炭化珪素焼結体をプラズマ・エッチング装置の下部電極として装着し、CF4ガスのプラズマによるシリコンウエハーのエッチング処理を実施した・・・」(第6頁右下欄9〜12行)
(2-3)甲第3号証:特開昭62-260772号公報
(a)「通常の炭化珪素粉末に気相反応法で合成された焼結活性度0.5〜1.0の活性の高い炭化珪素微粉末を混合し、これを成型、加熱焼結することによって得られる高純度炭化珪素焼結体。」(第1頁特許請求の範囲第1項)
(b)「平均粒径0.1μm以下の微粉末を従来の炭化珪素粉末に混合して焼結させたところ、焼結助剤を必要とせず高密度な高純度炭化珪素焼結体が得られることを究明し得た。」(第2頁右上欄13〜17行)
(2-4)甲第4号証:「窯業協会誌」93[9]1985年、p.511〜516
この文献には、プラズマCVD法によるSiC超微粉末の低圧合成に関することが記載されている。
(3)当審の判断
(3-1)上記(イ)の主張について
甲第1号証には、プラズマ作動ガスとしてアルゴン、原料ガスとしてモノシラン、四塩化珪素、メタンあるいはエチレンを使用し、高周波誘導結合型アルゴン熱プラズマを用いたCVD法により粒径がナノメーター(10-9m=1mμ=0.001μ)クラスの炭化珪素超微粉末を真空排気したプラズマ炉内で合成すること、このプラズマ合成した炭化珪素超微粉末を市販粉と混合した後、スプレードライヤーで造粒し、CIPにより二次成形を行い、アルゴン雰囲気中でホットプレスして焼結したことがそれぞれ記載され、そしてこの炭化珪素焼結体の電気比抵抗が0.01Ωcm(10-2Ω・cm)であることも記載されているから、これら記載を本件訂正発明の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、
「非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満に制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.001μmクラスである炭化珪素超微粉末を市販粉と混合した後、加熱し、焼結することによって室温での電気比抵抗値が0.01Ω・cmの焼結体を得る炭化珪素の製造方法」の発明(以下、「甲1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明と甲1発明とを対比すると、両者は、「非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.001μmクラスである炭化珪素超微粉末を得、この微粉末を使って室温での電気比抵抗値が0.01Ω・cmの炭化珪素焼結体を得る炭化珪素の製造方法」である点で一致し、次の点で相違していると云える。
(i)本件訂正発明は、原料が炭化珪素超微粉末のみであるのに対し、甲1発明は、原料が炭化珪素超微粉末を市販粉と混合したものである点。
(ii)本件訂正発明は、炭化珪素焼結体の合計金属不純物量が30ppm以下であるのに対し、甲1発明は、市販粉を混合しているため金属不純物を30ppmを超えて大量に含む点。
(iii)本件訂正発明は、炭化珪素焼結体の用途がドライエッチング装置用、イオンアシスト装置用、プラズマCVD装置用、オゾン発生装置用、電気泳動装置用のいずれかに用いられる電極であるのに対し、甲1発明は、その用途が明らかでない点。
次に、これら相違点について検討すると、甲第2号証には、炭化珪素焼結体の原料として、プラズマ合成法により得られた炭化珪素超微粉末を使用することについては記載されていないし、また甲第3号証には、通常の炭化珪素粉末に気相反応法(プラズマ合成法)で合成された炭化珪素微粉末を混合して成形、加熱処理すること(特許請求の範囲第1項等を参照)が記載されているだけであり、さらに甲第4号証にも、プラズマCVD法によるSiC超微粉末の低圧合成について記載されているだけであるから、上記甲第2号証〜甲第4号証には、本件訂正発明の上記相違点(i)〜(iii)について示唆するところがない。
なお、特許異議申立人は、平成13年4月11日付け回答書において参考資料1〜4を提示しているが、これら参考資料も、プラズマ合成法により得られた炭化珪素超微粉末のみから炭化珪素電極を製造することについて何ら示唆するものではないから、上記結論に影響を及ぼすものではない。
したがって、特許異議申立人の上記(イ)の主張は、採用することができない。
(3-2)上記(ロ)の主張について
特許異議申立人の上記(ロ)の主張は、削除された旧請求項1乃至3に係る発明に対するものであるから、本件訂正発明について何ら理由がないことは明らかである。
5.むすび
以上のとおり、訂正後の本件請求項1に係る発明についての特許は、特許異議申立の理由および証拠によっては取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
炭化珪素電極の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満から0.1torrの範囲で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.1μm以下である炭化珪素超微粉末を加熱し、焼結することによって室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、合計金属不純物量が30ppm以下の炭化珪素焼結体を得、この焼結体をドライエッチング装置用、イオンアシスト装置用、プラズマCVD装置用、オゾン発生装置用、電気泳動装置用のいずれかに用いられる電極とすることを特徴とする炭化珪素電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
「産業上の利用分野」
本発明は、耐食性、耐酸化性、耐熱性に優れた電極として、特にプラズマエッチング等のドライエッチング処理装置に好適に使用される高純度で緻密質の炭化珪素電極の製造方法に関するものである。
「従来の技術」
半導体製造工程において、シリコンウエハー等の表面処理には、量産性、信頼性に優れている点からドライエッチング法が広く使用されている。中でも、プラズマエッチング装置については、徹底した無塵化、自動化に対応した量産機が数多く市販されている。
ところで、これらの装置においてプラズマを発生させる放電用電極には、従来、アルミニウムや黒鉛等が使用されている。しかし、これらの材料はエッチングガスである塩素やフッ素ガスに侵され易いことから、これらの材料からなる放電用電極にはパーティクルの欠落や短寿命といった問題があった。
そこで、電極材として、耐食性、耐プラズマ性に優れた炭化珪素焼結体を使用する技術が従来より提供されている。このような技術として、例えば特開昭62-100477号、特開昭63-162588号、特開平1-242411号があり、これらには多孔質炭化珪素を電極材として使用することが提案されている。
「発明が解決しようとする課題」
しかしながら、上記の多孔質炭化珪素焼結体を電極材に使用した場合には、この電極をドライエッチング装置の電極として使用するあたって以下の様な不都合がある。
▲1▼ このような電極にあっては、多孔質であることから機械的強度が低く、よって電極としてエッチング装置に取り付ける際やハンドリング時に細心の注意が必要となる。また、場合によっては、ネジ止め等の機械的取り付けが不可能となり、汎用性に欠ける。
▲2▼ 電極板には、通常エッチングガスが通過するための多数の貫通孔が設けられるが、エッチングむらを排除するためにその位置精度についてはかなりの正確さが要求される。しかし、上記電極板では多孔質炭化珪素焼結体からなっているため開気孔が多く、よって加工精度に劣り、また穿孔による機械的強度の低下によって割れや欠けなどが生じ易くなることから加工時の歩留りが悪くなる。
▲3▼ 多孔質炭化珪素焼結体からなる電極では、緻密質のものからなる電極に比較して粒子間のネック数、結合強度ともに十分でなく、よって炭化珪素パーティクルが脱落し易いことから、デバイスへの汚染、特性低下をもたらす恐れがある。また、腐食性ガスに対しての耐食性についても劣ることから、電極としての寿命が短くなる。
以上の不都合から、従来の炭化珪素電極は多孔質体である限り、実用化されるためにはまだ解決すべき課題が多く残されていた。
一方、緻密質炭化珪素焼結体を得るためには、周知の通り焼結助剤であるホウ素やアルミニウム、ベリリウム等の化合物の添加が不可欠であった。また、炭化珪素焼結体に導電性を賦与して電極材にするためには、該焼結体にさらに導電性物質であるチタン、タンタル、ジルコニウムなどの化合物を数重量%以上添加(配合)する必要があった。ところが、このようにして得られた緻密質炭化珪素焼結体を電極として使用した場合には、エッチング時に添加物成分がシリコンウエハー等を汚染してしまい製品特性を劣化させる恐れがある。また、電極の寿命についても、添加物成分が炭化珪素よりも耐食性に劣る場合が多いので、炭化珪素だけからなるものより消耗し易く、十分に満足できるものではなかった、
本発明はこのような技術背景に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、焼結助剤を添加することなく、高純度で緻密質の炭化珪素焼結体を得、これにより炭化珪素本来の優れた機械的特性、耐食性、耐酸化性等を有し、電気比抵抗値が1Ω・cm以下と優れた導電性を示す炭化珪素電極の製造方法を提供することにある。
「課題を解決するための手段」
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1気圧未満から0.1torrの範囲で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.1μm以下である炭化珪素超微粉末を加熱し、焼結することによって炭化珪素焼結体を得、この焼結体を電極とすることにより、高耐食性、高強度、高熱伝導性を損なうことなく、焼結体密度が2.8g/cm3以上で、室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、合計金属不純物量が30ppm以下の炭化珪素焼結体からなる炭化珪素電極が得られること究明し、上記課題を解決した。
「実施例」
以下、参考例及び実施例により本発明を具体的に説明する。
(参考例1〜3)
第1の炭化珪素粉末として平均粒子径が1.1μm、BET比表面積が1.7m2/gのβ型炭化珪素粉末を使用した。この粉末中の含有金属不純物量を調べたところ、3ppmのナトリウム、1ppmのカリウム、11ppmの鉄、4ppmのアルミニウム、2ppmのカルシウムが含まれており、ニッケル、クロム、銅の含有量は1ppm未満であった。
次に、この第1の炭化珪素粉末に、モノシランとメタンとを原料ガスとしてプラズマCVD法により気相合成して得た平均粒子径0.02μm、BET比表面積値70m2/gのβ型炭化珪素超微粉末(第2の炭化珪素粉末)を5〜50重量%添加し、これをメタノール中にて分散せしめ、さらにボールミルで12時間混合した。
次いで、この混合物を乾燥して内径210mmの黒鉛製モールドに充填し、ホットプレス装置にて、アルゴン雰囲気下、プレス圧400kg/cm2、焼結温度2200℃の条件で90分間焼結した。
得られた炭化珪素焼結体の密度を調べた。また、この焼結体の室温時における3点曲げ強度を、JIS R-1601に準拠して測定した。さらに、室温時の比抵抗値を四端子法で測定し、室温時の熱伝導率をレーザーフラッシュ法で測定した。その結果を第1表に示す。
また、これら焼結体中の含有不純物量をアーク発光分析で調べた結果、いずれの焼結体も合計不純物量が30ppm以下であった。
次いで、この直径210mm、厚さ5mmの円板状炭化珪素焼結体に、直径1mmの貫通穴を所定の位置に約1000個加工して炭化珪素電極とした。これをプラズマエッチング装置の上部電極として取り付け、四フッ化炭素と酸素の混合ガスを使用してシリコンウエハーのプラズマエッチング処理を行った。その結果、ウエハーの汚染はほとんど認められず、良好なエッチング特性が得られた。また、長期間使用しても炭化珪素電極にはその消耗がほとんど認められず、耐久性にも優れていることが確認された。

(実施例1)
モノシランとメタンとを原料ガスとしてプラズマCVD法により気相合成した平均粒子径0.03μm、BET比表面積値58m2/gのβ型炭化珪素超微粉末をメタノール中にて分散せしめ、さらにボールミルで12時間混合した。
次に、この混合物を乾燥し造粒して粉末を得、これを参考例1〜3と同一の条件で焼結して炭化珪素焼結体を製造した。
得られた炭化珪素焼結体の密度を調べたところ3.1g/cm3であった。また、この炭化珪素焼結体の室温時の3点曲げ強度、比抵抗値、室温時の熱伝導率を参考例1〜3と同一の方法で測定したところ、それぞれ80.8kg/mm2、0.03Ω・cm、197W/m・Kであった。(第1表に併記)
さらに、この炭化珪素焼結体の不純物分析を参考例1〜3と同一の分析法で調べたところ、ナトリウムが2ppm、鉄が5ppm、アルミニウムが11ppm、クロムが1ppm含まれており、カリウム、カルシウム、ニッケル、銅は1ppm未満であった。
以上の結果から、炭化珪素超微粉末だけを原料とした炭化珪素焼結体はより高強度かつ高純度であることが確認され、苛酷な条件下でも使用可能な電極と成り得ることが判明した。
「発明の効果」
以上説明したように、本発明の炭化珪素電極の製造方法によれば、焼結助剤無添加で緻密焼結を行うことができることから、極めて高純度でありかつ高密度な焼結体を得ることができ、よって炭化珪素本来の性質である高耐食性、高耐酸化性、高強度、高熱伝導性を併せ持ち、しかも導電性に優れた炭化珪素電極を製造することかできる。
そして、これにより得られる炭化珪素電極は、腐食性雰囲気下で使用される場合にも消耗がほとんどなく、酸による洗浄にも十分耐え得るものとなる。また、緻密質であることから耐プラズマ性に優れたものとなり、さらに炭化珪素粒子の脱落もほとんどないため、半導体製造分野などの汚染を最も嫌う工程において使用しても塵埃発生により製品特性を低下させることがない。また、熱の放散性も良好なため、プラズマ温度の上昇を抑え、製品に対する熱的ダメージを低減することができる。
さらに、この炭化珪素電極は、従来の多孔質炭化珪素電極と比較して機械的強度が格段に高いため、電極の取り付け、取り外し等のハンドリングが容易となり、耐久性についても格段に向上したものとなる。加えて、優れた導電性を有するので安定的な放電が得られ易く、一方、良好な放電加工性をも有するので、三次元複雑形状なものも十分精度良く製造することが可能となる。そして、これにより該炭化珪素電極は、ドライエッチング装置用、イオンアシスト装置用、プラズマCVD装置用、オゾン発生装置用、電気泳動装置用のいずれかに用いられる電極となり、産業上多大な効果を奏するものとなる。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
本件訂正の要旨は、本件特許第3016571号発明の特許明細書を平成14年4月10日付け訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおりに訂正するものである。
(1)訂正事項a:本件特許明細書の請求項1-3を削除し、請求項4を繰り上げて請求項1とすると共に、「合計金属不純物量が30ppm以下の炭化珪素焼結体を得、この焼結体を電極とする」を、「室温での電気比抵抗値が1Ω・cm以下、合計金属不純物量が30ppm以下の炭化珪素焼結体を得、この焼結体をドライエッチング装置用、イオンアシスト装置用、プラズマCVD装置用、オゾン発生装置用、電気泳動装置用のいずれかに用いられる電極とする」と訂正する。
(2)訂正事項b:特許明細書(特許公報第1頁右欄第14行目〜第15行目)の「炭化珪素電極と、その製造方法に関する」を、「炭化珪素電極の製造方法に関する」と訂正する。
(3)訂正事項c:特許明細書(特許公報第2頁右欄第14行目)の「炭化珪素電極及びその製造方法を提供する」を、「炭化珪素電極の製造方法を提供する」と訂正する。
(1-d)訂正事項d:特許明細書(特許公報第2頁右欄第17行目〜第26行目)の「重ねた結果、平均粒子径が・・・または単に非酸化性雰囲気」を、「重ねた結果、非酸化性雰囲気」と訂正する。
(4)訂正事項e:特許明細書(特許公報第2頁右欄第36行目〜第3頁右欄第43行目)の「上記課題を解決した。・・・第1の炭化珪素粉末」を、「上記課題を解決した。「実施例」以下、参考例及び実施例により本発明を具体的に説明する。(参考例1〜3)第1の炭化珪素粉末」と訂正する。
(5)訂正事項f:特許明細書(特許公報第4頁左欄第8行目〜右欄第6行目)の「焼結した。・・・次いで、」を、「焼結した。得られた炭化珪素焼結体の密度を調べた。また、この焼結体の室温時における3点曲げ強度を、JIS R-1601に準拠して測定した。さらに、室温時の比抵抗値を四端子法で測定し、室温時の熱伝導率をレーザーフラッシュ法で測定した。その結果を第1表に示す。また、これら焼結体中の含有不純物量をアーク発光分析で調べた結果、いずれの焼結体も合計不純物量が30ppm以下であった。次いで、」と訂正する。
(6)訂正事項g:特許明細書(特許公報第5頁)の第1表を、全文訂正明細書の第5頁に示す第1表のとおり、すなわち「実施例1、2及び3」をそれぞれ「参考例1、2及び3」と、「実施例4」を「実施例1」とそれぞれ訂正する。
(7)訂正事項h:特許明細書(特許公報第5頁左欄第44行目〜左欄第45行目)の「(実施・・・モノシラン」を、「(実施例1)モノシラン」と訂正する。
(8)訂正事項i:特許明細書(特許公報第5頁左欄第50行目、第5頁右欄第47行目、第5頁右欄第50行目)の「実施例1」を、それぞれ「参考例1〜3」と訂正する。
(9)訂正事項j:特許明細書(特許公報第6頁左欄第10行目〜第13行目)の「本発明における・・・製造方法によれば、」を、「本発明の炭化珪素電極の製造方法によれば、」と訂正する。
(10)訂正事項k:特許明細書(特許公報第6頁左欄第19行目〜第20行目)の「これにより・・・炭化珪素電極は、」を、「これにより得られる炭化珪素電極は、」と訂正する。
(11)訂正事項l:特許明細書(特許公報第6頁右欄第4行目〜第5行目)の「工程においても使用しても」を、「工程において使用しても」と訂正する。
(12)訂正事項m:特許明細書(特許公報第6頁右欄第9行目)の「本発明の炭化珪素電極は、」を、「この炭化珪素電極は、」と訂正する。
(13)訂正事項n:特許明細書(特許公報第6頁右欄第16行目〜第19行目)の「該炭化珪素電極は、・・・産業上多大な効果を奏するものとなる。」を、「該炭化珪素電極は、ドライエッチング装置用、イオンアシスト装置用、プラズマCVD装置用、オゾン発生装置用、電気泳動装置用のいずれかに用いられる電極となり、産業上多大な効果を奏するものとなる。」と訂正する。
異議決定日 2002-04-17 
出願番号 特願平2-83714
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深草 祐一  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 山田 充
唐戸 光雄
登録日 1999-12-24 
登録番号 特許第3016571号(P3016571)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 炭化珪素電極の製造方法  
代理人 高橋 詔男  
代理人 渡邊 隆  
代理人 渡邊 隆  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  
代理人 志賀 正武  

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