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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  C02F
管理番号 1061245
異議申立番号 異議2002-70373  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-05-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-02-13 
確定日 2002-07-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第3204125号「生物処理方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3204125号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯・本件発明
本件特許第3204125号(平成8年10月28日出願、平成13年6月29日設定登録、その後、請求項1に対して特許異議申立て)の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】生物反応槽と、該生物反応槽内の一側部に設置された、生物反応に必要な酸素を供給するための散気管と、該生物反応槽内の他側部に設置された濾過体と、該生物反応槽内の該濾過体の下方に設けられた濾過体洗浄用のガスを供給するための通気管とを備える生物反応装置であって、該濾過体を構成する濾布は、活性汚泥粒子を通過させるものであるが、該濾布の表面に活性汚泥粒子の付着物層を形成させて濾過を行う生物反応装置に原水を供給し、前記濾過体の濾過水を処理水として取り出す生物処理方法において、該生物反応装置に複数の濾過体を設け、各濾過体の下方にそれぞれ前記通気管を配置し、すべての濾過体から濾過水を取り出しながら一部の前記通気管にガスを供給して該通気管の上方の濾過体について前記付着物層の剥離を行うようにした生物処理方法であって、ガスを供給する通気管を順次に切り替えるようにしたことを特徴とする生物処理方法。」
2.特許異議申立ての理由の概要
(申立の理由)
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証及び甲第2号証を提出し、本件発明は、次の(1)及び(2)の理由により特許を受けることができないものであるから、本件発明についての特許は、取り消されるべきものであると主張している。
(1)本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本件特許明細書の特許請求の範囲には、「該生物反応装置に複数の濾過体を設け」と記載されているが、「複数の濾過体」とはどういうものか明確でなく、また「該生物反応装置」と「複数の濾過体」との関係も明確でない、という記載不備があり、本件特許明細書は特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
(証拠の記載内容)
特許異議申立人が提出した甲第1号証及び甲第2号証には、それぞれ次の事項が記載されている。
甲第1号証(「浄化槽研究」Vol.8 No.1、1996、財団法人日本環境整備教育センター発行、国立国会図書館受入日;平成8年5月20日、p27〜35)
(a)「不織布自体は汚泥粒子の透過を阻止する機能はなく、繊維上に付着形成された汚泥ケーキ層によって汚泥粒子が分離される点で、本法は一種のダイナミック膜と見なすことができる。したがって、安定したろ過機能を維持するためにはこのケーキ層を安定して保持し、かつ閉塞を防ぐことが必要である。本研究では、生物学的窒素除去およびリン除去をおこなうために間欠ばっ気で操作し、その条件において安定してろ過分離をおこなうための操作条件について検討をおこなった。」(第28頁13行〜30行)
(b)「実験装置は図ー1に概要を示すように、反応槽内に不織布モジュールを浸積し、水頭差でろ過分離する構造とした。実験装置1では、間欠ばっ気式ろ過分離バイオリアクター(第1槽)の後段に連続ばっ気ろ過分離槽(第2槽)を連結し、第1槽流出水の一部を第2槽から第1槽へ常時返送する構造とした。実験装置2では、不織布モジュールの洗浄中および洗浄後の所定の時間は中間貯留槽(容量0.2l)から全量を第1槽に返送する構造とした。」(第28頁下から3行〜第29頁左欄9行)
(c)「第1槽にはばっ気用の散気管と、膜モジュール洗浄用の散気管とを設置した。」(第29頁右欄7行〜8行)
(d)「第1槽における間欠ばっ気サイクル、ばっ気洗浄の頻度、洗浄直後の流出水の返送方法等の条件を表ー1に示す」(第29頁右欄24行〜26行)
甲第2号証(特開平6-106167号公報)
(a)「有機性汚水を活性汚泥により処理する曝気槽内に複数の膜分離ユニットを配置し、任意の膜分離ユニットの運転を休止する状態において、他の膜分離ユニットにより曝気槽内の活性汚泥と処理水を固液分離し、休止する膜分離ユニットと運転する膜分離ユニットとを適当期間毎に順次変更して各膜分離ユニットの運転と休止を繰り返すことを特徴とする排水の固液分離方法」(第1欄段落【特許請求の範囲】【請求項1】)
(b)「・・・曝気槽1には複数の膜分離ユニット2を配置している。各分離ユニット2は、槽内に浸漬した膜モジュール3と、膜モジュール3の下方に位置する散気管4と、・・・散気量を調整する開閉弁9とを備えており、・・・」(第3欄段落【0012】)
(c)「・・・ブロアー11から供給する空気を散気管4から曝気して酸素を供給するとともに、曝気空気により生じる循環流によって膜モジュール3の膜面を洗浄する。・・・」(第3欄段落【0014】)
(当審の判断)
(1)上記主張(1)について
上記(a)乃至(d)の記載及び図ー1(a)、図ー1(b)並びに表ー1を参酌すると、甲第1号証の「間欠ばっ気式ろ過分離バイオリアクター(第1槽)」及び「連続ばっ気ろ過分離槽(第2槽)」が、いずれも生物反応槽であることは明らかであるので、甲第1号証には、「生物処理方法」に関し、「反応槽内の一側部に、ばっ気用の散気管を配設し、他側部に不織布モジュールを浸漬させ、不織布モジュールの下方にモジュール洗浄用の散気管を備えた構造を有し、不織布自体は汚泥粒子の透過を阻止する機能はなく、繊維上に付着形成された汚泥ケーキ層によって汚泥粒子が分離される第1反応槽と、第1反応槽の後段に不織布モジュール及びばっ気用散気管を有する第2反応槽を設け、中間に中間貯留槽を設けた生物反応装置を用いた生物処理方法であって、第1反応槽流出水の一部を第1反応槽へ常時返送し、第2反応槽から濾過水を処理水として取り出すものであって、第1反応槽の不織布モジュールを所定間隔で一定時間洗浄し、不織布モジュールの洗浄中および洗浄後の所定の時間は第1反応槽流出水の全量を中間貯留槽から第1反応槽に返送するようにした生物処理方法」の発明(以下、「甲第1発明」という。)が記載されていると云える。
そこで、本件発明と甲第1発明とを対比すると、甲第1発明の「第1反応槽」、「不織布モジュール」、「ばっ気用の散気管」及び「洗浄用の散気管」は、それぞれの機能に照らし、本件発明の「生物反応槽」、「濾過体」、「生物反応に必要な酸素を供給するための散気管」及び「濾過体洗浄用のガスを供給するための通気管」に相当するから、両者は、
「生物反応槽と、該生物反応槽内の一側部に設置された、生物反応に必要な酸素を供給するための散気管と、該生物反応槽内の他側部に設置された濾過体と、該生物反応槽内の該濾過体の下方に設けられた濾過体洗浄用のガスを供給するための通気管とを備える生物反応装置であって、該濾過体を構成する濾布は、活性汚泥粒子を通過させるものであるが、該濾布の表面に活性汚泥粒子の付着物層を形成させて濾過を行う生物反応装置に原水を供給し、前記濾過体の濾過水を取り出す生物処理方法」の点で一致するものの、次の点で相違していると云える。
相違点(イ):本件発明は「濾過体の濾過水を処理水として取り出すものであって、該生物反応装置に複数の濾過体を設け、各濾過体の下方にそれぞれ前記通気管を配置し、すべての濾過体から濾過水を取り出す」ものであるのに対し、甲第1発明は「第1反応槽の後段に不織布モジュール及びばっ気用散気管を有する第2反応槽を設け、中間に中間貯留槽を設けた装置を用いた生物処理方法であって、第1反応槽流出水の一部を第1反応槽へ常時返送し、第2反応槽から濾過水を処理水として取り出す」点
相違点(ロ):本件発明は「すべての濾過体から濾過水を取り出しながら一部の前記通気管にガスを供給して該通気管の上方の濾過体について前記付着物層の剥離を行ようにし、ガスを供給する通気管を順次に切り替えるようにした」のに対し、甲第1発明は、「不織布モジュールを所定間隔で一定時間洗浄し、不織布モジュールの洗浄中および洗浄後の所定の時間は第1反応槽流出水の全量を中間貯留槽から第1反応槽に返送するようにして」いる点
次に、これら相違点について検討する。
相違点(イ)について、甲第2号証には、上記(a)、(b)の記載からみて、「複数の膜分離ユニットを配置し、各分離ユニットには槽内に浸漬した膜モジュール」が記載されているものと認められる。しかしながら、特許異議申立人も認めているように、この膜モジュールは、「限外濾過膜等」(段落【0002】参照)であって、本件発明のような「濾過体を構成する濾布が、活性汚泥粒子を通過させるものであるが、該濾布の表面に活性汚泥粒子の付着物層(以下、「ダイナミック濾過層」という。)を形成させて濾過を行う」ものとは明らかに相違していると云える。このことから、甲第2号証には、ダイナミック濾過層を形成させる複数の濾過体を設けることについて記載はないと云える。
なお、特許異議申立人は、甲第1号証の実験装置1を生物反応装置としてみた場合に、第1槽(第1反応槽)と第2槽(第2反応槽)のそれぞれに濾過体が設けられており、このことから生物反応装置に複数の濾過体が設けられていると云えると主張しているが、該実験装置1のものは、上記(b)の記載及び図ー1からみて、第1槽及び第2槽からろ過水を処理水として取り出されるものではないのであるから、本件発明のものと同じであるとすることはできない。さらに、甲第1号証の実験装置1のものは、その第2槽に洗浄用の散気管を有していないことからも、本件発明のものと同じとはいえない。これらのことから、この主張を認めることはできない。
相違点(ロ)について、甲第2号証には、上記(a)〜(c)の記載からみて、「複数のユニットに対し、散気管からの曝気による洗浄を順次行う」ことは開示されていると認められるが、甲第2号証のものは、相違点(イ)において前記したように、そもそも前提となる膜分離ユニットの膜モジュールは本件発明の濾過体とは相違するのであるから、本件発明の相違点(ロ)に係る特定事項が何ら開示されているとは云えない。さらに付言すれば、甲第2号証のものは、洗浄している間洗浄中の膜分離ユニットは休止するものであって、「すべての濾過体から濾過水を取り出しながら一部の前記通気管にガスを供給して該通気管の上方の濾過体について前記付着物層の剥離を行う」ようにした本件発明とは明らかに相違していると云える。
なお、上記相違点(イ)(ロ)に関し、特許異議申立人は、膜モジュールを複数設けることや、洗浄を行う濾過体を順次切り換えることが、甲第2号証に示されるように周知技術であり、濾過体をいくつ設けるかは、供給される原水の量、濾過体の規模などに基づいて定められる設計事項の範囲に過ぎない、また、複数の濾過体を順次切り替えて洗浄するということは、一つの濾過体に着目した場合には甲第1号証の濾過体と同様に間欠的に洗浄を行っているにすぎなく、総処理水量でみれば高水質処理水の希釈化の観点で差はなく、単に設計事項の範囲に過ぎない、と主張している。しかしながら、本件発明は、ダイナミック濾過層を形成させて濾過する濾過体を用いた生物処理方法であって、濾過を継続しながら濾過体の洗浄を行うために、全体的な処理水水質の低下を小さく抑えるため複数の濾過体を設置し、順次洗浄させ、そのことによって処理水質を安定させているものであり、そうした本件発明の技術的思想が、甲第1号証や甲第2号証に開示されているとも、示唆されているとも云えず、しかもかかる技術的思想が、一般的な技術事項であるとも云えないことから、この主張を認めることはできない。
そして、本件発明は、濾過を行う生物処理に当り、濾過を停止することなく、濾過体に付着した濾過層を容易に剥離除去することにより、濾過を停止するためのバルブ等の部材を不必要とし、濾過層の圧密化による濾過速度の低下を防止することができ長期に安定した生物処理を継続することができるという明細書記載の効果を奏するものであり、かかる効果についても甲第1、2号証には何も示唆されていない。
してみると、本件発明の上記相違点は、甲1,2号証の記載からは到底想到することができないと云うべきである。
したがって、本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許異議申立人の上記主張(1)は採用することができない。
(2)上記主張(2)について
本件発明の「該生物反応装置に複数の濾過体を設け」について、「該生物反応装置」は、「槽内の一側部に設置された、生物反応に必要な酸素を供給するための散気管と、該生物反応槽内の他側部に設置された濾過体と、槽内の該濾過体の下方に設けられた濾過体洗浄用のガスを供給するための通気管とを備えた生物反応装置」であることは、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載から明らかであり、また、「複数の濾過体」についても普通の意味で明確である。そして「該生物反応装置」と「複数の濾過体」の関係については、特許請求の範囲において、上記記載の前段に「前記濾過体の濾過水を処理水として取り出す・・・」と、またその後段に「各濾過体の下方にそれぞれ前記通気管を配置し、すべての濾過体から濾過水を取り出しながら・・・」と記載されていることからみて、すべての濾過体から濾過水を処理水として取り出せる状態で生物反応装置に複数の濾過体が設けられていることは明らかであることから、請求項1の当該記載は十分に理解でき、また、本件特許明細書に、複数の濾過体に関し「生物処理装置は、3個の濾過体3を並設し」(段落【0020】)、「濾過体は、必ずしも図1に示す如く、同一の生物反応槽内に設ける必要はなく、濾過体を設けた生物反応槽を複数槽並設するようにしても良い」(段落【0039】、すなわち、槽内に1つの濾過体が設けられている生物反応槽を複数槽併設する態様の記載。)と記載され、「処理水は、洗浄により水質の低下した濾過水と、洗浄を行っていない濾過体から得られる高水質の濾過水との混合水となる」(段落【0017】抜粋)と記載されていることからも十分に理解できるものであり、特許請求の範囲の記載は明確でないとは云えない。
したがって、特許異議申立人の上記主張(2)も採用することはできない。
3.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-05-30 
出願番号 特願平8-285207
審決分類 P 1 651・ 532- Y (C02F)
P 1 651・ 121- Y (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 敬子  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 石井 良夫
唐戸 光雄
登録日 2001-06-29 
登録番号 特許第3204125号(P3204125)
権利者 新日本製鐵株式会社 田島 規行 日立金属株式会社 大同 均 栗田工業株式会社
発明の名称 生物処理方法  

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