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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01F 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01F |
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管理番号 | 1061302 |
異議申立番号 | 異議2001-73215 |
総通号数 | 32 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-01-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-11-28 |
確定日 | 2002-07-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3171426号「焼結型永久磁石」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3171426号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1,手続の経緯 本件特許の出願 平成7年7月12日 特許権設定登録 平成13年3月23日 特許異議の申立て(申立人:荒井純子) 平成13年11月28日 審尋 平成14年3月15日 回答 平成14年5月28日 2,特許異議の申立てについての判断 (本件発明) 本件請求項1〜3に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 重量百分率でR(RはYを含む希土類元素のうちの1種又は2種以上)27.0〜31.0%,B0.5〜2.0%,N0.02〜0.15%,O0.25%以下,C0.15%以下,残部Feの組成を有することにより耐蝕性が向上しており、かつ保磁力iHcが13.0kOe以上であることを特徴とする焼結型永久磁石。 【請求項2】 Feの一部をNb0.1〜2.0%,Al0.02〜2.0%,Co0.3〜5.0%,Ga0.01〜0.5%,Cu0.01〜1.0%のうちの1種又は2種以上で置換してなる請求項1に記載の焼結型永久磁石。 【請求項3】 Niメッキが被覆されており、2気圧、120℃、湿度100%の条件に放置したとき1000時間以上の耐蝕性を有する請求項1又は2に記載の焼結型永久磁石。」 (申立の理由の概要) 異議申立人は甲第1号証(特開平5-17853号公報)、甲第2号証(特開昭63-301505号公報)、甲第3号証(特公平6-39662号公報)、甲第4号証(特開平4-242902号公報)及び甲第5号証(特開昭60-54406号公報)を提出し、本件特許の請求項1〜2に係る発明は、実質的に甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に違反し、また、本件特許の請求項1〜3に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから同法同条第2項の規定に違反しており、本件特許は取り消されるべき旨主張している。 (引用刊行物記載の発明) 異議申立人が提出した甲第1号証には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】構成元素および原子比組成が以下の式で示されることを特徴とする希土類―鉄―ボロン系窒素侵入型永久磁石材料。 RaT100-(a+b+c+d)(B1-xCx)bMcNdただし、Rはイットリウム(Y)を含む希土類元素の少なくとも1種以上、TはFe単独あるいはFeの半量以下をCo、Niのいずれか1種以上で置換した遷移金属元素、MはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Pb、Biの内から選ばれる添加元素の少なくとも1種以上。 7≦a≦17 3≦b≦10 0. 1≦c≦5 1≦d≦15 0. 01≦x≦0.6」 、「【0015】【発明の効果】以上、詳述したように本発明によれば希土類―遷移元素―(B+C)―添加元素系合金に窒素を侵入させることによってこれまでにない高い磁気特性を有した永久磁石材料が得られるばかりでなく、磁石材料そのものの耐食性を向上させることが可能であり、工業的価値は極めて高いと言うことができる。」 上記各記載によれば、同号証には、R(Yを含む希土類元素)を原子比で7〜17%、BとCを加えたものを同じく3〜10%、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Pb、Biの内から選ばれる添加元素の少なくとも1種以上を同じく0.1〜5%、Nを同じく1〜15%、BとCの中のCの比率が同じく0.01〜0.6%、残部をFe単独または一部をCoなど他の元素と置き換えたものとする組成からなる、磁気特性や耐食性などを向上させた永久磁石材料が示されている。 異議申立人は、同号証の原子比で記載された上記組成の重量百分率換算に関して、「甲第1号証の実施例1に記載された「Nd:13原子%、Fe:76原子%、Co:5原子%、B:4原子%、C:1原子%、V:1原子%、N:1.5原子%」からなる磁石の各成分を重量百分率に換算した場合に、Ndが約28.8wt%、Bが約0.66wt%、Cが約0.18wt%、Nが約0.34wt%となる。 この場合、甲第1号証の実施例1のC、Nの含有量が、本件請求項1に係る発明に規定される範囲からはずれてはいる。しかし、C、Nの含有量は、Rの種類、含有量等で大きく変動するものであり、甲第1号証のRの定義および含有量範囲からすれば、C、Nの含有量は本件発明と重複し得ることは明らかである。」と異議申立書第11頁第20行〜28行において述べている。 同じく甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 「特許請求の範囲…R(但しRはYを含む希土類元素の内、少なくとも1種)、BおよびFeを必須成分とするR―B-Fe系磁石において、該磁石中の酸素含有量を0.1〜1.2wt%、水素含有量を0.002〜0.02wt%および窒素含有量を0.004〜0.08wt%としたことを特徴とするR―B-Fe系焼結磁石。」 上記記載と第1表によれば、同号証には、Nd、Pr、Ce、Dy等のRを33%以上含むようなR―B-Fe系磁石において、磁石中の酸素含有量を0.1〜1.2wt%、水素含有量を0.002〜0.02wt%および窒素含有量を0.004〜0.08wt%とすることにより、磁気特性を安定化させるようにしたことが示されている。 同じく甲第3号証には、「【請求項1】R12.0原子%〜20.0原子%(RはNd,Pr,Dy,Ho,Tbのうち少なくとも1種あるいはさらに La,Ce,Sm,Gd,Er,Eu,Tm,Yb,Lu,Yのうち少なくとも1種からなる)、 B4.0原子%〜20.0原子%、O24000ppm以下、 C1500ppm以下、Fe65原子%〜80原子%、表面部に5Å〜500Åの均一厚みの体心立方晶を有する正方晶からなる主相と、主相間のRリッチ金属相、Bリッチ金属相及び酸化物相からなる非磁性相を有することを特徴とする耐食性のすぐれた永久磁石材料。」という記載がなされており、これらの記載や第1〜2図によれば、同号証には、Fe-B-R系永久磁石材料において、不可避的に含まれるCとO2の含有量をそれぞれ原子比で1500ppm以下(0.15%以下)、4000ppm以下(0.4%以下)とすることにより、主相間のRリッチ金属相、Bリッチ金属相及び酸化物相からなる非磁性相によるすぐれた耐食性を有するようにしたことが記載されている。 同じく甲第4号証には、「【請求項1】改良された耐蝕性を有する永久磁石であって、該磁石が、本質的に、0.6重量%に等しいか、それ以上の酸素、0.05重量%から0.15重量%の炭素及び最大0.15重量%の窒素を含有するNd2-Fe14-Bよりなることを特徴とする改良された耐蝕性を有する永久磁石。」、「【0019】図2及び表3に示したように、又報告された合金の腐食速度は、0.2%から0.6%の酸素含有量増加で急激に減じ、1.2%の酸素含量で最小に達する。図1及び2からわかるように、この点について腐食速度における酸素の利益的性向は、0.1%の炭素含量で、窒素含量が0.014%〜0.025%の範囲から0.05%〜0.15%の範囲に変えられるので、約1.0%の比較的高い酸素含量から、約0.6%の比較的低い酸素含量に移行する。それ故、これらの酸素及び炭素含量で、腐食速度は、約0.02%から0.05%〜0.15%の間へ窒素含量が増加すると減じる。このデーターは窒素の重要性と、0.6%から1.2%の好ましい酸素限界を含め、発明の酸素含量限定内で、窒素が耐蝕性改良に利点があることを示している。」、「【0038】…表7及び図4に示されたように、酸素及び炭素含量が発明の限度内にあるとき、窒素含量が0.025%と低くても、腐食速度が最低に達することを示している。これらの結果から、最低の腐食速度のための適当な窒素含量は、最大0.15%、好ましくは0.02%〜0.15%、更に好ましくは0.04%〜0.08%である。」というような記載がなされており、これらの記載と表7、表11、図4,図8等によれば、同号証には、R(Nd)を32.0重量%以上含有するNd-Fe-B系の永久磁石において、0.6重量%以上の酸素含量と0.05重量%〜0.15重量%の炭素含量により耐蝕性を向上させることができ、更にこれに窒素を0.02重量%〜0.15重量%含有させることによってこの耐蝕性をより一層向上させることができることが記載されている。 甲第5号証には、Rを8原子%〜30原子%、Bを2原子%〜28原子%、Feを42原子%〜90原子%含むR-B-Fe系永久磁石の表面を、Ni、Cu又はZn等のめっきによって被覆し、耐酸化性を向上させるようにしたことが記載されている。 (対比・判断) 当審の審尋書において、上記した、2,の(引用刊行物記載の発明)における異議申立人の「この場合、甲第1号証の実施例1のC、Nの含有量が、本件請求項1に係る発明に規定される範囲からはずれてはいる。しかし、C、Nの含有量は、Rの種類、含有量等で大きく変動するものであり、甲第1号証のRの定義および含有量範囲からすれば、C、Nの含有量は本件発明と重複し得ることは明らかである。」という主張に対し、「甲第1号証記載の発明におけるRやその他の元素の種類や含有量の範囲などによって、C、Nの含有量が本件発明と重複し(この場合、Rの含有量も当然重複することが前提となる)、その結果、甲第1号証に記載の発明と本件請求項1〜2に係る各発明のいずれかとが同一となるような、甲第1号証記載の発明の組成範囲の内から重量百分率に換算した組成の実例があれば示していただきたい。」との審尋を異議申立人に対し行った。これに対し、「R、C、Nが甲第1号証記載の発明の組成範囲を満たし、かつ、それらの重量百分率換算値が本件発明と重複する実例は今のところ見いだされていない。」という回答があった。 この回答の内容を踏まえて、本件請求項1に係る発明と上記甲第1〜5号証記載の発明とを比較すると、本件請求項1に係る発明における「重量百分率でR(RはYを含む希土類元素のうちの1種又は2種以上)27.0〜31.0%,N0.02〜0.15%,を有する」という点がいずれの証拠にも示されていない。そして本件請求項1に係る発明は、かかる点により、希土類の量を特定の値以下とし、さらに含有窒素量を特定範囲とすることにより焼結体の耐蝕性が改善される、という明細書記載の格別の作用効果を奏することが認められる。 甲第2号証には、窒素含有量を、本件請求項1に係る発明と一部重なる0.004〜0.08wt%とするR―B-Fe系磁石が記載されているが、Rを、従来用いられているもののように33%以上含んでおり、しかも、水素含有量を0.002〜0.02wt%とする条件が必要であり、耐食性についても触れられてはいない。 甲第3号証には、耐食性の改善を目的としたFe-B-R系永久磁石材料が記載されてはいるが、窒素は含まれおらず、Rの含有量についても、重量百分率で27.0%〜31.0%の範囲を含むかどうかは明らかでない。 甲第4号証には、耐蝕性を向上させることを目的とし、窒素の含量を本件請求項1に係る発明と同じ0.02重量%〜0.15重量%含有させたNd-Fe-B系の永久磁石が記載されているが、R(Nd)を、従来用いられているもののように32.0重量%以上含有しており、しかも、本件請求項1に係る発明の酸素含量「0.25%以下」とはかけ離れた0.6重量%以上の酸素含量を必要条件とするものである。 甲第5号証には、Nを含むことについては記載がない。 以上述べた通り、上記甲第1〜5号証によっては、本件請求項1に係る発明についての特許が特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定に違反してなされたものであるとすることはできない。 また、本件請求項2〜3に係る各発明は、本件請求項1に係る発明を引用した発明であるから、本件請求項2〜3に係る各発明についての特許もまた本件請求項1に係る発明と同様の理由により、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定に違反してなされたものであるとすることはできない。 3,むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜3に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-06-18 |
出願番号 | 特願平7-175952 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(H01F)
P 1 651・ 121- Y (H01F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 平塚 義三 |
特許庁審判長 |
松本 邦夫 |
特許庁審判官 |
小田 裕 左村 義弘 |
登録日 | 2001-03-23 |
登録番号 | 特許第3171426号(P3171426) |
権利者 | 日立金属株式会社 |
発明の名称 | 焼結型永久磁石 |
代理人 | 豊田 武久 |