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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04C
管理番号 1061334
異議申立番号 異議2002-70863  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-01-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-04-08 
確定日 2002-07-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第3216631号「防錆被覆PC鋼より線及びその製造方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3216631号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
特許第3216631号(平成11年6月24日出願、平成13年8月3日設定登録)の請求項1ないし3に係る発明(以下、本件発明1ないし3という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】 より線の、心線と側線との間の隙間、及びより線の外周面がエチレンーアクリル酸共重合樹脂、またはエチレンーメタクリル酸共重合樹脂、またはこれらの混合物から成る樹脂で充填・被覆され、より線には実質的に接触せず、被覆の外表面に部分的に露出するように、被覆に部分的に埋設された砂状粒子を有することを特徴とする防錆被覆PC鋼より線。
【請求項2】 より線外周面の山部でのエチレンーアクリル酸共重合樹脂、またはエチレンーメタクリル酸共重合樹脂、またはこれらの混合物の厚さが300〜700μmであることを特徴とする請求項1に記載の防錆被覆PC鋼より線。
【請求項3】 PC鋼より線を加熱した後、よりを部分的に順次緩解しつつ、その緩解位置に押出し成形によりエチレンーアクリル酸共重合樹脂、またはエチレンーメタクリル酸共重合樹脂、またはこれらの混合物からなる樹脂を付着させ、より合わせ状態を元に戻すことにより、心線と側線との間の隙間の充填、及びより線の外周面の被覆を同時に行った後、砂状粒子を、より線には実質的に接触せず、被覆の外表面に部分的に露出するように、被覆に部分的に埋設することを特徴とする防錆被覆PC鋼より線の製造方法。

2.申立ての理由の概要
申立人黒沢建設株式会社は、本件発明1が甲第1号証ないし甲第7号証に基き、本件発明2が甲第3号証ないし甲第8号証に基づき、本件発明3が甲第1号証ないし甲第7号証に基づき、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、本件発明1ないし3の特許を取り消すべき旨主張している。

3.甲第1号証ないし甲第8号証の記載事項
本件の出願前に頒布され申立人の提出した甲第1号証ないし甲第8号証には、次のことが記載されている。
甲第1号証(特公平3-1436号公報)の1欄2〜10行には、PCストランドを加熱した後、よりを拡げた状態にし、熱可塑性樹脂をより線の、心線と側線との間の隙間及びより線の外周面に付着させ、よりを戻すことでPCストランドの内外に合成樹脂被覆層を形成することが記載されている。4欄8〜10行には、ポリオレフイン系の接着性を有する熱可塑性樹脂を使用することが記載されている。
甲第2号証(特公平3-1438号公報)の1欄2〜12行には、PCストランドを加熱した後、よりを拡げた状態にし、押出成形によって熱可塑性合成樹脂材料をより線の、心線と側線との間の隙間、及びより線の外周面に注入・被覆させ、よりを元の撚り合わせ状態に戻すことでPCストランドの内外に合成樹脂被覆層を形成することが記載されている。4欄15〜17行には、ポリオレフイン系の接着性を有する熱可塑性樹脂材料を使用することが記載されている。
甲第3号証(特公平7-103643号公報)の1欄2〜8行には、PC鋼より線に合成樹脂被覆を形成する際、ブルーイング処理後に、よりを部分的に順次緩解しつつ、その緩解位置に合成樹脂塗料を供給して側線及び心線に合成樹脂被膜を形成し、その後より合わせ状態を元に戻すことが記載されている。7欄33行及び35行には、エポキシ樹脂の厚さが700ミクロンと300ミクロンであることが記載されている。
甲第4号証(特開平8-53902号公報)の3欄5〜9行には、PC鋼より線に樹脂を内部まで充填せしめ、その外周に適宜厚さ被覆せしめて樹脂被覆部を形成してエポキシ系の合成樹脂被覆PC鋼より線を製造することが記載されている。1欄8〜11行には、樹脂被覆PC鋼より線の樹脂被覆の表面部にシヨットプラスト処理又は砂等を接着して微細凹凸を形成することが記載されている。
甲第5号証(特開平8-49354号公報)の1欄47行〜2欄7行には、コンクリートとの付着力を改善するため、防錆被覆PC鋼材の表面に砂等の固形物を付着させることは、従来から行われている技術であることが記載されている。3欄5〜7行には、PC鋼材における心線と側線との間の隙間、及び外周面に防錆被覆層が充墳・被覆されていることが記載されている。3欄14〜18行には、防錆被覆層の材料として、ポリエチレン樹脂の他、ポリプロピレン樹脂又はポリエチレン・ポリプロピレンの共重合体及びその変性体やナイロン樹脂、塩化ビニール等の熱可塑性樹脂が記載されている。
甲第6号証(FLO-TECHsystemsのパンフレット)の表紙と内側のFLO-BONDには、より線の、心線と側線との間の隙間、及びより線の外周面にエポキシ樹脂からなる塗膜が記載されている。
甲第7号証(’97最新建設技術ガイドブック)の468頁3〜7行には、工ポキシ樹脂を塗布して耐食性を付与したPC鋼より線の表面に、グラウトとの付着性向上のために表面にけい砂を埋め込むことが記載されている。
甲第8号証(特開平8ー170405号公報)の1欄2〜7行には、PC鋼撚線又は鋼棒のPC鋼線の防錆被覆が熱可塑性樹脂からなり、その表面に骨材入りポリオレフィン樹脂エマルジョンからなる粗面層が記載されている。3欄40〜47行には、熱可塑性樹脂の被覆層が400μm、300μmであることが記載されている。。

4.対比・判断
(4-1)本件発明1について
本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者は、より線の、心線と側線との間の隙間、及びより線の外周面が熱可塑性樹脂で充填・被覆された防錆被覆PC鋼より線である点で一致しているが、本件発明1が、熱可塑性樹脂として、エチレンーアクリル酸共重合樹脂、またはエチレンーメタクリル酸共重合樹脂、またはこれらの混合物を選択したのに対し、甲第1号証には、熱可塑性樹脂がポリオレフイン系とのみ記載されている点で、少なくとも相違する。
上記相違点を検討すると、甲第2号証にはポリオレフイン系の接着性を有する熱可塑性樹脂が、甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第7号証にはエポキシ系の合成樹脂が、甲第5号証にはポリエチレン樹脂の他、ポリプロピレン樹脂又はポリエチレン・ポリプロピレンの共重合体及びその変性体やナイロン樹脂、塩化ビニール等の熱可塑性樹脂が、甲第8号証には熱可塑性樹脂が、それぞれ記載されているものの、本件発明1のように、エチレンーアクリル酸共重合樹脂、またはエチレンーメタクリル酸共重合樹脂、またはこれらの混合物を採用したものは見当たらない。
上記相違点の本件発明1の構成により、本件発明1は、特許明細書に記載のとおりの「【0010】上記樹脂は適度に柔軟で変形しやすく、かつPC鋼線との接着に優れる。このため、上記樹脂を用いたより線は、鋭角的に曲げても、心線及び側線と樹脂が剥離することなく、樹脂が伸びることにより変形を吸収することができ、巻き癖を抑える。【0011】上記特性を発現するには、樹脂を低弾性率かつ伸びの良いものとする必要がある。ポリオレフィン樹脂は比較的弾性率が低くて伸びが良く、さらに低コストであるが、一般的なポリエチレンではPC鋼線とほとんど接着せず使用できない。そこで種々の接着性ポリオレフィン樹脂を検討した結果、エチレンーアクリル酸共重合樹脂、またはエチレンーメタクリル酸共重合樹脂が低コスト、低弾性率で伸びが良く、かつPC鋼線との接着性に優れることを見いだした。また、これらの樹脂は塩水噴霧後も接着力の低下が小さかった。」という格別の効果を奏する。
したがって、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第8号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(4-2)本件発明2について
本件発明2は本件発明1をより限定したものであり、本件発明1が上記(4-1)に記載したとおりである以上、本件発明2は甲第1号証ないし甲第8号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
(4-3)本件発明3について
本件発明3と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者は、PC鋼より線を加熱した後、よりを部分的に順次緩解しつつ、その緩解位置に熱可塑性樹脂を付着させ、より合わせ状態を元に戻すことにより、心線と側線との間の隙間の充填、及びより線の外周面の被覆を同時に行う防錆被覆PC鋼より線の製造方法である点で一致するが、上記(4-1)と同様に、本件発明3が、熱可塑性樹脂として、エチレンーアクリル酸共重合樹脂、またはエチレンーメタクリル酸共重合樹脂、またはこれらの混合物を選択したのに対し、甲第1号証には、熱可塑性樹脂がポリオレフイン系とのみ記載されている点で、少なくとも相違する。
そして、上記相違点の本件発明3の構成については、上記(4-1)において検討したと同様であるから、本件発明3は、甲第1号証ないし甲第8号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する
 
異議決定日 2002-07-09 
出願番号 特願平11-177606
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E04C)
最終処分 維持  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 蔵野 いづみ
長島 和子
登録日 2001-08-03 
登録番号 特許第3216631号(P3216631)
権利者 住友電気工業株式会社
発明の名称 防錆被覆PC鋼より線及びその製造方法  
代理人 川村 恭子  
代理人 佐々木 功  
代理人 中野 稔  
代理人 佐野 健一郎  
代理人 上代 哲司  

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