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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1062324
審判番号 不服2000-1117  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-01-31 
確定日 2002-07-05 
事件の表示 平成 7年特許願第515348号「ディーゼル機関の有害物質放出減少方法」拒絶査定に対する審判事件[平成 7年 6月 8日国際公開、WO95/15431、平成 9年 3月31日国内公表、特表平 9-503266]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、1994年10月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1993年11月30日、独国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし請求項9に係る発明は、平成13年10月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項9に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】 酸化触媒(4)を有するディーゼル機関(1)の低温始動、部分負荷及び/又は無負荷運転における有害物質の放出を減少させるための方法において、酸化触媒(4)が排気ガスの自由に貫流する通路と酸化触媒(4)の排気ガスに関し上流側に少なくとも一つの電気加熱可能な部分(3)とを有し、電気加熱可能な部分(3)が、酸化触媒(4)に付着したすすが発火する温度にまでディーゼル機関(1)の始動前及び/又は始動直後に加熱され、一方同時に全排気ガスが酸化触媒を貫流せしめられることを特徴とするディーゼル機関の有害物質放出減少方法。」


2.引用例に記載された発明
(1)引用例1
当審において平成13年6月6日付けで通知した拒絶の理由に引用された、実願昭59-133912号(実開昭61-49014号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「エンジンからの排気ガスを排出する排気管の途中に設けられた排気ガス浄化装置において、排気ガス中の有害成分を浄化する触媒を有したケース本体内に電気ヒータを設けるとともに、ケース本体の入口側および出口側の圧力差を検知する圧力差検知手段および排気ガス温度を検知する温度検知手段を設け、少なくとも排気ガス温度が設定値以下のとき前記電気ヒータに通電して排気ガスを加熱するようにしたことを特徴とする排気ガス浄化装置。」(第1頁、「2.実用新案登録請求の範囲」)
(イ)「この考案は、ガソリンエンジンから排出される排気ガス中の有害成分を浄化する触媒付きの排気ガス浄化装置に関する。」(第1頁第17〜19行)
(ウ)「車両の低速走行時には排気ガスの温度が低く、排気ガスの煤を含むパティキュレートが完全に燃焼できないという不都合がある。したがって、セラミックフィルタがパティキュレートによって目詰りを起すとともに、排気ガスを有害成分を吸収して浄化することができないという不都合がある。」(第2頁第12〜18行)
(エ)「このケース本体2内には触媒付きセラミックフィルタからなる浄化部材3が内蔵されている。さらに、この浄化部材3の上流側には電気ヒータ4が設けられている。そして、この電気ヒータ4は前記浄化部材3が目詰りしたり、排気ガスの温度が設定値より低いときに通電され、排気ガスを加熱するようになっている。すなわち、5は圧力センサで、前記ケース本体2の上流側a点と下流側b点との圧力を検知し、その圧力差が設定値以上のとき浄化部材3が目詰りをしたと判断して制御装置6へ信号を入力するようになっている。また、7は前記ケース本体2の上流側a点の温度、つまり排気ガスの温度を検知する温度センサである。この温度センサ7は排気ガスの温度が設定値以下のとき制御装置6に信号を入力するようになっている。そして、制御装置6は前記圧力センサ5、温度センサ7からの入力信号によって前記電気ヒータ4をオン、オフするようになっている。」(第4頁第3行〜第5頁第1行)
(オ)「ケース本体内に1つの電気ヒータを設けたが、複数の電気ヒータを設けてもよい。また、浄化部材は触媒付きセラミックフィルタによって構成したが、これに限定されることはない。」(第5頁第20行〜第6頁第4行)
(カ)「この考案によれば、排気ガスの温度を温度センサによって検知し、温度が設定値以下になったとき電気ヒータに通電して排気ガスを電気ヒータによってパティキュレートが触媒と反応して燃焼可能な温度まで加熱するようにしたから、低速走行時に排気ガスの温度が低下してもパティキュレートを燃焼して排気ガス中の有害成分を吸収して浄化することができるという効果がある。」(第6頁第6〜14行)
また、第1図から、ガソリンエンジンの全排気ガスが触媒付きセラミックフィルターからなる浄化部材を貫流せしめられることが看取できる。

上記摘記事項(ア)ないし(カ)及び引用例1の第1図の記載からみて、引用例1には、

(a)「触媒付きセラミックフィルターからなる浄化部材を有するガソリンエンジンの有害物質の放出を減少させるための方法において、触媒付きセラミックフィルターからなる浄化部材が排気ガスの貫流するセラミックフィルターを有し、浄化部材の排気ガスに関し上流側に電気ヒータを設け、電気ヒータが、浄化部材に付着したパティキュレートが燃焼可能な温度にまで排気ガスの温度が設定値以下の時加熱され、一方同時に全排気ガスが浄化部材を貫流せしめられるガソリンエンジンの有害物質放出減少方法。」の発明が記載されているものと認められる。

(2)引用例2
当審において平成13年6月6日付けで通知した拒絶の理由に引用された、特表平3-500911号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(キ)「1.排ガス触媒がセラミック系の触媒活性材料で被覆されている金属触媒担体(50;60;80;100;110;120)からなり、また金属触媒担体(50;60;80;100;110;120)を少なくとも部分領域において直接加熱するために電流で負荷する形式の、内燃機関の後方での排ガス触媒の応答を促進する方法において、電流を予め設定可能の時限に対し内燃機関の運転開始前及び/又はその直後に連結し、また金属担体(50;60;80;100;110;120)を少なくとも部分領域において、排ガス流によると少なくともほぼ同期的に、有利にはこれよりも早期に応答温度に加熱するように構成することを特徴とする排ガス触媒の応答促進方法。・・・
3.まず排ガス流動方向で見て触媒担体の前方部分領域のみを、有利には約3.5〜6cmの軸方向範囲で加熱し、その応答後に初めて場合によっては残りの触媒担体をも電流で負荷することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
4.触媒担体(50;60;80;100;110;120)の加熱を定時継電器によって、この加熱が内燃機関の始動後に始まり、設定された時限、例えば20〜60秒後に終了することを特徴とする請求項1、2又は3の1つに記載の方法。」(第1頁左下欄第2行〜右下欄第3行)
(ク)「触媒を加熱するための電力は任意の大きさのものが得られないことから、第3図の回路に基づいてまず触媒の一部領域のみを、すなわち例えば軸方向の高さ約3.5〜6cmの最前の触媒円板のみを加熱し、ここで発熱反応をできるだけ急速に起こすことが必要となる。TK2で示した曲線はこの円板での可能な温度経過を示す。この場合その温度は小さな部分領域に限定された高い短絡電流で極めて急速に著しく、例えば600℃に高められ、次いで他の触媒部分領域の加熱に切り換えられる。これにより第1円板は再び僅かに冷やされるが、これは好ましい予熱ではもはや点火温度を下回ることはなく、これにより排ガスとの発熱反応は維持され、これは更に後続する部分領域をその応答状態にする。」(第5頁左下欄第4〜15行)
(ケ)「触媒をエンジン始動前に予熱しなければならない場合、その電力消費量は総合的にほぼディーゼル予熱装置のそれに匹敵させる必要があり、これによりバッテリが過度に負荷されることはなく、またそれにもかかわらず触媒の応答挙動は明らかに影響される。」(第5頁左下欄第18行〜右下欄第2行)
(コ)「触媒をエンジンの始動後に初めて加熱する場合、これはより高い電力を供給されるが、点灯発電機の許容負荷及び必要なケーブル布線の枠内で最大の電流強度を考慮すべきである。」(第5頁右下欄第3〜5行)
(サ)「本発明による電気的に加熱可能の触媒担体は、自動車の冷始動時における放出物に対する特に厳格な要求に合わせて、有害物質の排出量を減少させるのに適している。」(第7頁右下欄第14〜16行)
上記摘記事項(キ)ないし(サ)及び引用例2の第1〜11図の記載からみて、引用例2には、
(b)「内燃機関の有害物質の放出を減少させるための方法において、触媒が、内燃機関の始動前及び/又は始動直後に加熱される」技術、及び
(c)「触媒に電気加熱可能部分を設ける」技術が記載されているものと認められる。


3.対比・判断
本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
後者の「触媒付きセラミックフィルターからなる浄化部材」における「触媒」とは、上記摘記事項(カ)の「パティキュレートが触媒と反応して燃焼可能」という記載からみて、有害物質を酸化する「酸化触媒」と認められる。したがって、後者の「触媒付きセラミックフィルターからなる浄化部材」は、その技術的意義からみて、前者の「酸化触媒」に相当する。
以下、同様に、後者の「パティキュレート」は、前者の「すす」に相当し、後者の「燃焼可能な温度」は、前者の「発火する温度」に相当する。
また、後者の「ガソリンエンジン」と、前者の「ディーゼル機関」とは、その技術的意義からみて、「内燃機関」の限度において一致していると認められる。
以下、同様に、後者の「有害物質」と、前者の「低温始動、部分負荷及び/又は無負荷運転における有害物質」とは、その技術的意義からみて、「有害物質」の限度において一致していると認められ、後者の「排気ガスの貫流するセラミックフィルター」と、前者の「排気ガスの自由に貫流する通路」とは、その技術的意義からみて、「排気ガスの貫流する通路」の限度において一致していると認められ、後者の「電気ヒータ」と、前者の「電気加熱可能な部分」とは、その技術的意義からみて、「電気加熱可能部材」の限度において一致していると認められる。
したがって、両者は、
<一致点>
「酸化触媒を有する内燃機関の有害物質の放出を減少させるための方法において、酸化触媒が排気ガスの貫流する通路を有し、酸化触媒の排気ガスに関し上流側に少なくとも一つの電気加熱可能部材を有し、電気加熱可能部材が、酸化触媒に付着したすすが発火する温度にまで加熱され、一方同時に全排気ガスが酸化触媒を貫流せしめられることを特徴とする内燃機関の有害物質放出減少方法。」である点で一致し、次の各点で相違するものと認められる。

<「相違点1」>
内燃機関の有害物質放出減少方法において、前者が「ディーゼル機関の有害物質放出減少方法」であるのに対し、後者は「ガソリンエンジンの有害物質放出減少方法」である点。
<「相違点2」>
放出減少させる有害物質が、前者は「低温始動、部分負荷及び/又は無負荷運転における有害物質」であるのに対し、後者はそのような限定がされていない点。
<「相違点3」>
酸化触媒が有する排気ガスが貫流する通路において、前者は「排気ガスの自由に貫流する通路」であるのに対し、後者は「セラミックフィルター」である点。
<「相違点4」>
酸化触媒の排気ガスに関し上流側の少なくとも一つの電気加熱可能部材が、前者は「酸化触媒の排気ガスに関し上流側の少なくとも一つの電気加熱可能な部分」であるのに対し、後者は「浄化部材の排気ガスに関し上流側に設けられた電気ヒータ」である点
<「相違点5」>
電気加熱可能部材(前者の「電気加熱可能な部分」、及び後者の「電気ヒータ」)を加熱する時期が、前者は「ディーゼル機関の始動前及び/又は始動直後」であるのに対し、後者は「排気ガスの温度が設定値以下の時」である点。

以下、上記各相違点について検討する。

・「相違点1」について
酸化触媒を有するディーゼル機関の有害物質除去方法において、触媒を加熱しすすを燃焼させる技術は、従来周知の技術であり(例えば、特開平4-246223号公報や特開平5-59929号公報等参照。)、また、引用例1に記載された発明を、ディーゼル機関に適用することを妨げる特段の事情があるとも認められない。
してみると、本願発明の上記「相違点1」に係る構成のようにすることは、引用例1に記載された発明を、従来周知の「酸化触媒を有するディーゼル機関の有害物質除去方法」に適用し当業者が容易に想到し得る事項と認められる。

・「相違点2」について
ディーゼル機関において、ディーゼル機関の低温始動、部分負荷及び/又は無負荷運転にすす等の有害物質が放出されることは本願の出願時においては技術常識であり(例えば、特開平4-237862号公報の第1欄段落【0003】参照)、その有害物質を除去することは自明の課題であるから、引用例1に記載された発明の放出を減少させる有害物質として、機関の低温始動、部分負荷及び/又は無負荷運転における有害物質と限定し、当業者が、本願発明の上記「相違点2」に係る構成を想起することに格別の困難性はないものと認められる。

・「相違点3」について
内燃機関の有害物質除去のための触媒において、排気ガスを自由に貫流する通路を有する触媒は、従来周知であり(例えば、実公昭40-16802号公報、特開平4-276113号公報等参照)、また、引用例1に記載された発明に、従来周知の排気ガスを自由に貫流する通路を有する触媒を適用することを妨げる特段の事情があるとも認められない。
してみると、本願発明の上記「相違点3」に係る構成のようにすることは、引用例1に記載された発明に、従来周知の「排気ガスを自由に貫流する通路を有する触媒」を適用し当業者が容易に想到し得る事項と認められる。

・「相違点4」について
内燃機関の有害物質除去のための触媒において、触媒を加熱するため、「触媒に電気加熱可能な部分を設ける」技術は、従来周知であり(例えば、引用例2記載の上記事項(c)、及び、特開平5-245391号公報等参照)、また、引用例1に記載された発明の「浄化部材(酸化触媒)の排気ガスに関し上流側に設けられた電気ヒータ」に替えて、従来周知の「触媒に加熱可能な部分を設ける」ことを妨げる特段の事情があるとも認められない。
してみると、本願発明の上記「相違点4」に係る構成のようにすることは、引用例1に記載された発明の「浄化部材(酸化触媒)の排気ガスに関し上流側に設けられた電気ヒータ」に替えて、従来周知の「触媒に加熱可能な部分を設ける」技術を適用し当業者が容易に想到し得る事項と認められる。

・「相違点5」について
内燃機関の有害物質除去のための触媒において、「触媒が、内燃機関の始動前及び/又は始動直後に加熱される」点は、引用例2に記載されており(上記(b)参照)、引用例1に記載された発明の触媒の加熱時期に引用例2に記載された技術を適用して、本願発明の上記「相違点5」に係る構成のようにすることは当業者が容易に想到し得る事項と認められる、また、その適用を妨げる特段の事情があるとも認められない。

そして、本願発明が奏する効果も、引用例1及び2にそれぞれ記載された発明並びに周知技術から、当業者が予測可能なものであって、格別なものとはいえない。


4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、上記引用例1及び2にそれぞれ記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-01-31 
結審通知日 2002-02-07 
審決日 2002-02-21 
出願番号 特願平7-515348
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 穂積鈴木 貴雄小松 竜一  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 氏原 康宏
山口 直
発明の名称 ディーゼル機関の有害物質の放出減少方法  
復代理人 山口 巖  

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