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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16D
管理番号 1062351
審判番号 審判1999-6689  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-09-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-04-22 
確定日 2002-07-05 
事件の表示 平成7年特許願第43192号「ディスクブレーキ用シム」拒絶査定に対する審判事件[平成8年9月10日出願公開、特開平8-232998]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1、手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年3月2日に特許出願されたものであって、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年1月10日付手続補正書で補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載される事項により特定される次のとおりのものと認める。
『ディスクロータを押圧して制動摩擦力を発生させる制動部材と、前記制動部材を押圧する押圧部材と、の間に介装されるディスクブレーキ用シムであって、
前記制動部材側に配置され且つ前記制動部材に対して低摩擦係数を有すると共に粘性と流動性とを有するグリスと、
前記押圧部材側に配置され且つ前記押圧部材に対して高摩擦係数を有すると共に弾性を有するゴムと、
互いに対向配置された一対の鋼板と前記一対の鋼板の対向間隙に一体的に設けられた粘性部材とから成り、前記グリスと前記ゴムとの間に介装され前記粘性部材の内部摩擦によって振動を減衰させる制振鋼板と、
を備え、前記グリスは前記制振鋼板の鋼板に直接に接し、前記ゴムは前記押圧部材に直接に接する、
ことを特徴とするディスクブレーキ用シム。』

2、引用例
これに対し、当審が平成13年11月7日付で通知した拒絶理由に引用され、この出願前に頒布された実願昭63-167923号(実開平2-117439号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、特に第8、9図の基本構成を参照して第5図示の実施例のものを見ると、
「ディスクロータ32を押圧して制動摩擦力を発生させるブレーキパッド33、34と、前記制動部材を押圧するピストン37、アーム38と、の間に介装されるブレーキパッド用シム35であって、制動部材側に配置されるグリース20と、押圧部材側に配置されるゴム17と、前記グリース20とゴム17の間に介装された鋼板16と発泡ゴム18と、を備え、前記グリース20は発泡ゴム18に直接に接し、前記ゴム17はピストン37、アーム38に直接に接する、ことを特徴とするブレーキパッド用シム。」なる発明が図面と共に記載されていると共に、第3図示の実施例のものを参照するに、「グリース6が鋼板4に直接接する」なる技術的事項が記載されている。
また、同じく引用され、この出願前に頒布された実願昭57-98681号(実開昭59-3025号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、特に実用新案登録請求の範囲及び第2頁第3〜6行目の記載内容を参照すれば、「互いに対向配置された一対の鋼板と前記一対の鋼板の対向間隙に一体的に設けられた粘弾性樹脂とからなり、粘弾性樹脂によって高い制振性を持たせたブレーキ用シム。」なる発明が開示されている。

3、対比
ここで、本願発明と引用例1に記載される発明とを比較する。
引用例1に記載される発明の「ディスクロータ32」は本願発明の「ディスクロータ」に相当しており、以下同様に「ブレーキパッド33、34」は「制動部材」に、「ピストン37、アーム38」は「押圧部材」に、「ブレーキパッド用シム35」は「ディスクブレーキ用シム」に、「グリース20」は「グリス」に、「ゴム17」は「ゴム」に、「ブレーキパッド用シム」は「ディスクブレーキ用シム」に、夫々実質的に相当しているから、本願発明と引用例1に記載される発明との一致点、相違点は以下の如くである。
一致点;「ディスクロータを押圧して制動摩擦力を発生させる制動部材と、前記制動部材を押圧する押圧部材と、の間に介装されるディスクブレーキ用シムであって、前記制動部材側に配置されるグリスと、前記押圧部材側に配置されるゴムと、を備え、前記ゴムは前記押圧部材に直接に接する、ことを特徴とするディスクブレーキ用シム。」
相違点1;本願発明が、グリスに関して「前記制動部材に対して低摩擦係数を有すると共に粘性と流動性とを有する」なる構成を有しているのに対して、引用例1に記載される発明は、グリスに関してかかる特定をしていない点。
相違点2;本願発明が、ゴムに関して、「前記押圧部材に対して高摩擦係数を有すると共に弾性を有する」なる構成を有しているのに対して、引用例1に記載される発明は、ゴムに関してかかる特定をしていない点。
相違点3;本願発明が、「互いに対向配置された一対の鋼板と前記一対の鋼板の対向間隙に一体的に設けられた粘性部材とから成り、前記グリスと前記ゴムとの間に介装され前記粘性部材の内部摩擦によって振動を減衰させる制振鋼板」を有しているのに対して、引用例1に記載される発明は「前記グリスとゴムの間に介装された鋼板16と発泡ゴム18」を有している点。
相違点4;本願発明が、「前記グリスは前記制振鋼板の鋼板に直接に接し、」なる構成を採っているのに対して、引用例1に記載される発明は、「前記グリース20は発泡ゴム18に直接に接し、」なる構成を採っている点。

4、当審の判断
そこで、上記各相違点につき順次検討する。
相違点1に関して:
グリスは油脂であるから、制動部材に対して低摩擦係数を有することは自明であって、グリスが粘性と流動性を有することはその固有の性質を述べたに過ぎないから、かかる構成の特定がたとえ引用例1に記載されるグリスにおいてなされていないとしても、引用例1に記載されるグリスが実質的に内包している特性に過ぎないと認められる。したがって、この点は形式的に見た場合の相違点ではあっても、実質的な相違点たり得ないとすべきである。
相違点2に関して:
ゴムは弾性を有するものであって、押圧部材に対して高摩擦係数を有することも自明であるから、かかる構成の特定がたとえ引用例1に記載されるゴムにおいてなされていないとしても、引用例1に記載されるゴムが内包している特性に過ぎないものと認められる。したがって、この点も形式的に見た際の相違点ではあっても、実質的な相違点たり得ないとすべきである。
相違点3に関して:
本願発明における「互いに対向配置された一対の鋼板と前記一対の鋼板の対向間隙に一体的に設けられた粘性部材とから成り、前記グリスと前記ゴムとの間に介装され前記粘性部材の内部摩擦によって振動を減衰させる制振鋼板」なる構成は、本願発明における「粘性部材」が引用例2に記載される発明に云う「粘弾性樹脂」を包含する概念であることが、それらの詳細な説明の内容に照らしてみて明らかであると共に、引用例2に記載される発明における「高い制振性」なるものが、取りも直さず本願発明における「内部摩擦によって振動を減衰させる」ことにより達成されるであろう蓋然性がはなはだ高くもあるから、そして、本願発明の「制振鋼板」は引用例2に記載される発明の「高い制振性を持たせたブレーキ用シム」に相当するとすることが自然あるから、結局、引用例2に記載される「互いに対向配置された一対の鋼板と前記一対の鋼板の対向間隙に一体的に設けられた粘弾性樹脂とからなり、粘弾性樹脂によって高い制振性を持たせたブレーキ用シム。」をグリスとゴムとの間に介装したものに相当し、即ち、引用例1に記載される発明の鋼板16と発泡ゴム18とを引用例2に記載される発明のもので置換したものに相当するから、かかる置換程度のことは当業者が容易になし得る程度のことということが出来るし、一方、引用例2に記載されるブレーキ用シムが単独でも成立しうることを勘案すれば、引用例2に記載されるブレーキ用シムの更なる制振効果に期待して、その表面にグリスとゴムを適用する程度のことは当業者が容易になし得たとする事も出来る。
相違点4に関して:
本願発明は、「前記グリスは前記制振鋼板の鋼板に直接に接し、」なる構成を採っているが、引用例1には、「グリース20,即ちグリスが、発泡ゴム18に直接接触するもの」のみならず、「グリース6,即ちグリスが、鋼板4,即ち鋼板に直接接触するもの」も開示されていること既述の如くであるから、その採用程度のことは単なる設計的事項であるとするのが相当である。
以上、要するに本願発明は引用例1及び引用例2に記載される発明又は技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることが出来たものである。

5、むすび
したがって、本願発明、即ち本願請求項1に係る発明は、引用例1及び2に記載される発明又は技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-04-23 
結審通知日 2002-05-07 
審決日 2002-05-20 
出願番号 特願平7-43192
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 新也  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 町田 隆志
秋月 均
発明の名称 ディスクブレーキ用シム  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  

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