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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A01K
管理番号 1062421
審判番号 審判1998-18129  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-01-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-11-12 
確定日 2002-07-24 
事件の表示 平成 8年特許願第171459号「真珠およびその製造方法」拒絶査定に対する審判事件[平成10年 1月20日出願公開、特開平10- 14438]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年7月1日の出願であって、その請求項1〜4に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める(以下、本願発明1〜4という。)。
【請求項1】 カルシウムイオン、マグネシウムイオン、その他の真珠層を形成する金属イオンと、炭酸イオンなどの陰イオンとを豊富に含む海水または淡水を入れた槽中で、粘性分泌液を生成する単細胞生物または超微細生物の遺伝子に、真珠層を形成する貝類の外套膜遺伝子を組込んだ生物によって、任意の形に形成した合成樹脂、貝殻、セラミック、木、金属の小片から成る核の外周面に、真珠層を積出させることを特徴とする真珠の製造方法。
【請求項2】 カルシウムイオン、マグネシウムイオン、その他の真珠層を形成する金属イオンと、炭酸イオンなどの陰イオンとを豊富に含む海水または淡水を入れた第1槽中で、粘性分泌液を生成する単細胞生物または超微細生物の遺伝子に、真珠層を形成する貝類の外套膜遺伝子を組込んだ生物を繁殖させ、前記生物によって生成された粘性分泌液と真珠成分とを濃縮して第2槽に移し、粘性分泌液と真珠成分との濃度を管理して、任意の形に形成した合成樹脂、貝殻、セラミック、木、金属の小片から成る核の外周面に、真珠層を積出させることを特徴とする真珠の製造方法。
【請求項3】 第2槽中で、前記核の外周面に真珠層を積出させる際に、第2槽中に通電することを特徴とする請求項2記載の真珠の製造方法。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれか1項に記載する方法で製造されることを特徴とする真珠。

2.原査定の理由
一方、原査定の拒絶の理由は、次のとおりである。
「この出願は、下記の点で、発明の詳細な説明が、当業者が請求項1から4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

本願発明の実施の形態である実施例1には、「アコヤガイの外套膜を採取し、その細胞核の遺伝子を摘出し、大腸菌の遺伝子に組込む。この大腸菌を雑菌の侵入を防いで培養し、大腸菌コロニーを得た。培養液は、一般の細菌培養に用いる培養液と同じく、寒天にブイヨンを加えたものである。」としか記載されておらず、どのように遺伝子を摘出し大腸菌に組み込むのかについての具体的手段が記載されていない。
出願人は、意見書の中において、「アコヤガイの外套膜のような真核生物の遺伝子を大腸菌に組込む方法は、公知の方法であり、たとえば講談社1988年8月10日(第8刷)発行「遺伝子操作実験法」高木康敬編著に記載の方法です。具体的にはアコヤガイの外套膜を切取り擂潰し、mRNAを摘出し、これを鋳型にして逆転写酵素を用いてcDNAを合成します。一方、大腸菌からプラスミドを取出します。cDNAとプラスミドを混合させ、さらに制限酵素を使って、cDNAとプラスミドとを切断し、その後、制限酵素を失活させると、大腸菌中に含まれるDNAリガーゼによってプラスミドにcDNAの一部が組込まれた組換えプラスミドができます。これを大腸菌中に戻すことによって、アコヤガイの外套膜の遺伝子を組込んだ大腸菌ができます。以上のように真核生物の遺伝子を大腸菌に組込むことは公知であり、本発明はこれをアコヤガイの外套膜の遺伝子に適用し、従来はアコヤガイの生体内でしか生産されなかった真珠を、水槽中で生産するという全く新しい真珠の生産方法です。」と主張している。
しかし、この議論に従えば、例えば、当業者でなくとも希望的な思い付きとして誰でもが一度は考え付くような、蚕の糸を作る遺伝子や人に有用な薬剤の原料となる物質を製造する特殊な細菌の遺伝子等を大腸菌に導入して大量に製造するという方法は、その具定的な条件等をなんら特定・開示する事無く、ただそれだけで特許されることとなる。
しかし、現実にはそれを実現するために、各企業が莫大な研究費を投資して、試行錯誤の上に確立した条件・行程を設定してたどりつくものである。当然、その際の基本的な遺伝子操作方法については、大学の実験書レベルの教科書にも記載されているようによく知られている。
このように、一番肝心な遺伝子の切り出しから大腸菌に導入するという条件・行程等を一切開示していない本願について、当業者が容易に実施可能な程度まで記載されているとすることはできない。」

3.当審の判断
本願発明1〜4はいずれも「粘性分泌液を生成する単細胞生物または超微細生物の遺伝子に、真珠層を形成する貝類の外套膜遺伝子を組込んだ生物」を用いることを要件とし、当該「遺伝子を組み込んだ生物」が生成する真珠成分を真珠層に形成するものである。
当該「遺伝子を組み込んだ生物」について、本願明細書には、「良質の真珠層を形成するアコヤガイやイケチョウガイなどの外套膜の細胞核から遺伝子を抽出し、これを粘性分泌物を生成する大腸菌などの単細胞生物またはウイルスなどの超微細生物の遺伝子に組み込み、これらの生物に充分な栄養を与え、最適な環境下で繁殖させる。」(【0006】)、「アコヤガイの外套膜を採取し、その細胞核の遺伝子を摘出し、大腸菌の遺伝子に組み込む。この大腸菌を雑菌の侵入を防いで培養し、大腸菌コロニーを得た。培養液は、一般の細菌培養に用いる培養液と同じく、寒天にブイヨンを加えたものである。」(【0010】)、「実施例1と同様の方法で、アコヤガイの外套膜の遺伝子を組み込んだ大腸菌コロニーを得、…」(【0014】)と記載されている。
しかしながら、「真珠層を形成する貝類の外套膜遺伝子」自体については、本願明細書には、具体的にどのようなものであるか記載されておらず、また、本願出願時に上記「真珠層を形成する貝類の外套膜遺伝子」が当業者によく知られていたものとも認められない。
これについて、出願人は、審査手続きにおいて提出した平成10年6月26日付の意見書中で、「アコヤガイの外套膜を切取り擂潰し、mRNAを摘出し、これを鋳型にして逆転写酵素を用いてcDNAを得る」旨、述べているが、たとえアコヤガイの外套膜が真珠成分を分泌するものであり、外套膜の細胞中には真珠成分の形成に関与するペプチドをコードする遺伝子のmRNAが含まれているとしても、当該細胞中には、外套膜の細胞が生成する、それ以外のペプチドをコードするmRNAや、これらのmRNAの断片が含まれており、これらを逆転写して得たcDNAの中から、真珠成分の形成に関与し、大腸菌等に組み込んだときに実際に真珠成分を分泌させることができる遺伝子を得ることは、単なるルーチンの作業ということはできない。
してみると、本願発明の詳細な説明は、本願発明1〜4に用いる「粘性分泌液を生成する単細胞生物または超微細生物の遺伝子に、真珠層を形成する貝類の外套膜遺伝子を組込んだ生物」を当業者が得ることができる程度に記載されていないから、当業者が本願発明1〜4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められない。

4.むすび
したがって、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-05-14 
結審通知日 2002-05-24 
審決日 2002-06-07 
出願番号 特願平8-171459
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星野 浩一  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 斎藤 真由美
佐伯 裕子
発明の名称 真珠およびその製造方法  
代理人 西教 圭一郎  

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